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    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.10
    • 医療/ヘルスケア
    うつ病患者の脳内ネットワークにおける「独自性」の低下を発見 ~個人の脳の「指紋」を指標とした新たな客観的診断法の開発に期待~

    千葉大学子どものこころの発達教育研究センターのSiti Nurul Zhahara特任研究員、平野好幸教授、清水栄司教授、および広島大学大学院医系科学研究科の岡田剛教授らの共同研究グループは、うつ病患者を対象とした安静時機能的MRI注1)から、個人の独自性を示す脳の領域間の機能的なつながりのパターンである「機能的コネクトーム(Functional connectome; FC)独自性注2)参考資料1)」を解析しました。その結果、健常者と比較して有意に低下していることを明らかにしました。 「脳の指紋」とも呼ばれるこのFC独自性の低下は、特に前頭頭頂ネットワーク注3)や感覚運動ネットワーク注4)において顕著であり、うつ病の症状が重いほど、脳の独自性が失われているという相関関係も示されました。本研究は、診断の難しいうつ病に対して、客観的かつ再現性の高い神経画像マーカー注5)を提供し、将来的な診断や個別化医療の進展に寄与することが期待されます。 本研究成果は、学術誌Journal of Affective Disordersに2026年1月4日(現地時間)にオンライン公開されました。   研究の背景 うつ病は世界で約2億4,600万人が罹患する深刻な疾患ですが、これまでの脳画像研究では、解析手法の違いにより結果の一貫性が乏しく、信頼できる生物学的指標(バイオマーカー注6))の確立が大きな課題となっていました。 近年、脳の領域間のつながりのパターンが指紋のように個人ごとにユニークで安定しているという「脳の指紋(Brain Fingerprinting)参考資料2)」という概念が注目されています(図1)。この独自性は脳の成熟や精神的健康状態を反映すると考えられており、本研究グループはこの指標を用いて、うつ病患者における臨床的な妥当性を世界で初めて検証しました。   研究の成果 研究グループは、19歳から37歳のうつ病患者35名と健常対照群(HC)42名の多施設で撮像した安静時機能的MRIデータを解析しました。その結果、うつ病患者は、健常群と比較して全脳レベルでの脳活動の独自性(FC独自性)が有意に低いことが示されました(図2)。また特に、高度な認知制御を司る前頭頭頂ネットワークや、身体感覚を処理する感覚運動ネットワークにおいて、FC独自性の精度(脳の指紋を使用したときの本人の判別精度:脳指紋の精度)の低下が顕著でした。症状の重症度との相関に関してはFC独自性が低いほど、PHQ-9注7)やBDI-II注8)によるうつ病の重症度スコアが高くなる(症状が重い)という強い負の相関が確認されました。脳は発達過程において「シナプスの剪定(せんてい)」や調整(チューニング)を経て、効率的で専門化された独自のネットワークを形成します。研究グループは、うつ病患者で見られた独自性の低下について、こうした脳の微細な構造調整プロセスの不具合が、ネットワークの「自分らしさ」の確立を阻害している可能性を指摘しています。本手法は異なる施設で取得されたデータにおいても一貫した結果を示し、客観的な診断や臨床評価に利用可能な再現性の高いマーカーであることが証明されました。   今後の展望 本研究により、脳の指紋の独自性の低下、すなわち脳の機能的な「自分らしさ」の欠如が、うつ病の病理を反映する重要な鍵であることが示唆されました。この成果は、個々の患者に最適な治療を選択するための「層別化」や、将来的な精神的脆弱性の予測(レジリエンスの評価)に役立つ可能性があります。今後は、この指標を用いて治療による改善を予測する研究や、患者一人ひとりに最適化された治療戦略を構築するための強力なツールとしての臨床応用が期待されます。   用語解説 注1)安静時機能的MRI:機能的磁気共鳴画像(functional Magnetic Resonance Imaging)を用いて、安静時の脳血流の変化を測定することにより脳の活動を観測することが可能。何か特定の作業をしているときの脳の動きを調べるfMRIに比べ、安静時fMRIはリラックスした状態での脳の活動を評価する。 注2)機能的コネクトーム(FC)独自性:脳の異なる領域間のつながりのパターンが、どれだけ他の人と異なり、同一個人内で一貫しているかを示す数値。「脳の指紋」の一つ。 注3)前頭頭頂ネットワーク:前頭皮質と頭頂葉をつなぐ安静時脳機能ネットワークで、注意の制御や意思決定など、高度な認知機能を担う脳のネットワーク。 注4)感覚運動ネットワーク:運動野や体性感覚野を含む安静時脳機能ネットワークで、身体感覚の処理や運動の制御を担う脳のネットワーク 注5)神経画像マーカー:疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる脳神経由来の画像データのこと。 注6)生物学的指標(バイオマーカー):疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる生体由来のデータ。神経画像マーカーもこれに含まれる。 注7)PHQ-9:Patient Health Questionnaire-9。うつ病の症状の重症度を評価するために世界的に広く用いられている標準的な自己記入式の質問票。 注8)BDI-II:ベック抑うつ質問票。過去2週間の状態についての21項目の質問によって抑うつ症状の重症度を短時間で評価することができる質問票。 要です。   研究プロジェクトについて 本研究は以下の助成金による支援を受けて行われました。 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」(課題名:縦断的MRIデータに基づく成人期気分障害と関連疾患の神経回路の解明(分担課題名:成人期のうつ病、不安症、強迫症の脳画像等の総合的解析研究))、および、「脳神経科学統合プログラム」(課題名:抑うつ症状と認知機能障害が生じる皮質−皮質下脳ダイナミクスのヒト多次元縦断データを用いた解明と霊長類モデルでの検証) 独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(A)25H01085、挑戦的研究(萌芽)24K21493、基盤研究(B)23K22361、25K00879)基盤研究(C)19K03309、JP21K03084、25K06842   報道発表資料(979.17 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Affective Disorders 研究者ガイドブック(岡田 剛 教授)   〈お問い合わせ〉 広島大学 広報室 電話:082-424-4383メール:koho@hiroshima-u.ac.jp

    • 食料/農林水産業
    2026.02.10
    • 食料/農林水産業
    家畜の暑熱ストレス耐性と腸内環境 -環境保全型畜産管理に貢献する好熱菌の機能性評価-

    概要 理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームディレクター、宮本浩邦客員主管研究員、環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームディレクター、黒谷篤之特別研究員(研究当時)、光量子工学研究センター光量子制御技術開発チームの守屋繁春専任研究員、和田智之チームディレクター、九州大学大学院農学研究院の山野晴樹大学院生、髙橋秀之准教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の稲生雄大助教、北里大学医療衛生学部血液学研究室の佐藤隆司講師らの共同研究グループは、累積60万羽を超える採卵鶏の大規模調査の結果、高温環境下での鶏の死亡率を下げる飼育管理手法として好熱菌[1]群を活用した高温発酵飼料を溶液にして投与することが効果的であり、腸内環境の変化が暑熱ストレス耐性に関与し得ることを確認しました。 本研究の成果は、質の高い高温発酵飼料の活用が、高温条件下における家畜の生命維持につながることを示すとともに、その作用機序として腸内細菌叢(さいきんそう)の制御が重要である可能性を示唆しています。 地球温暖化がますます加速する中で、生命を脅かす暑熱ストレスが看過できなくなっています。「人」と「動物」と「環境」を包括的に捉えて守る「One Health(ワンヘルス)[2]」という概念の重要性が国際的に強調される中で、さまざまな分野で環境配慮型の新たな持続可能技術の開発が求められています。本研究では、高温発酵技術を活用することで、暑熱ストレス環境で飼育した鶏の死亡率が下がることを見いだすとともに、実際に糞便(ふんべん)を対象とした計算科学的なアプローチによって、高温発酵飼料が腸内細菌叢の構成比率と短鎖脂肪酸[3]の組成比率のバランスを改善している可能性を明らかにしました。 本研究は、Springer Natureの科学雑誌『Animal Microbiome』オンライン版(2月3日付)に掲載されました。   本研究の概要 背景 地球温暖化は、人間の健康と経済活動に深刻な損害を与えており、畜産業でも、熱波による家畜の死亡率の増加によって多大な経済的損失が発生しています。特に、鳥類は羽毛の覆いと汗腺の欠如により、暑熱環境における生理的な負荷(暑熱ストレス)の影響を受けやすいことが知られています。 暑熱ストレスは、免疫機能を低下させることによって感染症の流行にもつながる可能性もあるため、抗菌薬の過剰使用を助長する要因の一つにもなっています。抗菌薬の過剰使用は薬剤耐性菌の増加をもたらすことから、世界保健機関(WHO)は、家畜の成長促進のための抗生物質の使用廃止を含む、薬剤耐性(AMR)に対する行動計画を提示しています。このような背景から、暑熱ストレスが動物に及ぼす影響とその対策に関する研究は不可欠であり、行動学的および生理学的影響を含めて多面的に評価する必要があります。   近年、好熱性のバシラス科(Bacillaceae)を含む好熱菌群を用いた閉鎖系のバイオリアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)を活用することで、未利用海産資源から植物の肥料や動物の飼料として有効な発酵物を持続的にリサイクル生産できることが報告されています注1)。これらの好熱菌の機能性は、理研内外のさまざまな共同研究の連携によって徐々に明らかになりつつあります。肥料として使用した場合は、空気中の窒素を固定して生産性に貢献しつつ、温室効果ガスである一酸化二窒素の発生を抑制する傾向があります。この肥料を使用した土壌微生物叢では病原性真菌やセンチュウなどによる被害が出にくい傾向も確認されました注2)。畜水産用の飼料の一部として少量添加することによって、母豚の死産率の減少や養殖魚の生産性の向上のみならず、その養殖場の近海での海草繁茂(ブルーカーボン(海洋炭素)への貢献)をもたらす可能性があることも明らかになりました注3)。さらに、好熱菌の一つであるカルディバシラス・ヒサシイ(Caldibacillus hisashii)(製品評価技術基盤機構国際寄託番号BP-863)は、家畜(ウシ)の腸内におけるメタン産生菌を減らす傾向があることが示されています注4)。腸内細菌叢の制御が、家畜由来の温室効果ガスの排出に貢献することは重要な知見と捉えられています注5)。   本研究では、このような環境改善機能を幅広く有する、好熱菌によって発酵させた高温発酵飼料の希釈溶液を飲水に極少量添加(飲水1cm3当たり100個の菌体数相当)することによって、暑熱環境下で飼育された鶏に対する死亡率の低減効果を評価するとともに、その効果を腸内細菌叢によって評価することを目的としました。   注1)宮本浩邦、宮本久、田代幸寛、酒井謙二、児玉浩明 日本生物工学会・生物工学技術賞受賞論文「好熱性微生物を活用した未利用バイオマス資源からの高機能性発酵製品の製造と学術的解明」生物工学会誌、第96巻、第2号 p.56-63(2018) https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9602/9602_gijutsu.pdf   注2)2023年4月12日プレスリリース「持続可能な農業のための堆肥-土壌-植物相互作用モデル」 https://www.riken.jp/press/2023/20230412_1/   注3)2023年1月12日プレスリリース「ブルーカーボンのための海草底泥の共生環境を予測」 https://www.riken.jp/press/2023/20230112_3/   注4)2022年3月25日プレスリリース「好熱菌を黒毛和種仔牛に投与!」 https://www.riken.jp/press/2022/20220325_4/   注5)2023年4月28日プレスリリース「抗菌薬に依存しない仔牛の飼養管理」 https://www.riken.jp/press/2023/20230428_1/   研究手法と成果 本研究では、120日齢の採卵鶏の四つのグループ(群)が準備されました(計約22万羽)。一つは秋期から飼育された非暑熱ストレス群(非暑熱区)で、夏期直前から飼育された三つの暑熱ストレス群(暑熱区1、暑熱区2、暑熱+好熱菌区)が試験対象となりました。そして、暑熱+好熱菌区には、飼育開始時より継続して、高温発酵飼料の100倍希釈溶液を飲水添加して1カ月間飼育管理しました。その結果、暑熱区1および2では、最高気温30度以上で、死亡率(特に壊死性腸炎が原因)が統計的に有意に増加しましたが、暑熱+好熱菌区では増加しにくい傾向が確認されました(統計学的有意差の指標p(数値が低いほど有意水準が高い)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.01.29
    • 医療/ヘルスケア
    選ばれた接続を強く育てる脳の仕組みを解明 ~小脳神経回路形成におけるmGluR1シグナルの意外な二役~

    ポイント 「勝者」のシナプスを強く育てる司令塔(シグナル)を解明。 「敗者」を除去する分子(mGluR1)が、実は「勝者」の強化にも不可欠であることを発見。 一つのシグナルが「除去」と「強化」を使い分ける、脳の効率的な形成原理を提唱。   概要 北海道大学大学院医学研究院の山崎美和子准教授、帝京大学先端総合研究機構の狩野方伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 名誉教授)らを中心とする、北海道大学、帝京大学、東京大学、広島大学の研究グループは、運動学習や認知機能・社会性を担う小脳*1の神経回路形成過程において、重要な神経接続を強化する仕組みを明らかにしました。 生まれた直後のマウスのプルキンエ細胞*2は、5本以上の登上線維*3とシナプス*4を形成していますが、その後の1週間で1本の線維が選ばれて「勝者」となり、これ以外の線維(敗者)は最終的に除去されます。これまでの研究では、この「勝者」が強化され、樹状突起*5の広い範囲へ支配を拡大する仕組みについてよく分かっていませんでした。 本研究では、マウスを用いた実験により、プルキンエ細胞に豊富に発現する1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)―プロテインキナーゼCγ(PKCγ)に至る伝達経路が、「勝者」のシナプス機能と構造を強化し、樹状突起へと配線を広げるために必須であることを解明しました。これまでに、このシグナル伝達経路は、不要な神経結合(敗者)を除去するために必須であることが分かっていましたが、本研究により、必要な結合を強く育て上げ、勝者と敗者の格差を増強する役割も併せ持つことが初めて明らかになりました。 なお、本研究成果は 2026 年 1月23日(金)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌にオンライン掲載されました。 本研究で解明されたmGluR1シグナルの役割。本研究により、mGluR1-PKCγ経路は、選ばれた「勝者」線維のシナプス構造・機能の強化と、それに続く樹状突起への支配領域の拡大に必須であることが明らかになった。これまでに知られていた「敗者」の除去(シナプス刈り込み)に加え、選ばれた接続を強く育てるという「育成」の役割も併せ持つ。     背景 私たちの脳は、生まれた直後には未完成で、多くの神経細胞が過剰な接続を持っています。その後の発達過程で、必要な神経のつながりだけが選ばれて残され、不要な接続は消えていきます。この仕組みは「神経回路の精緻化」と呼ばれ、記憶や学習、運動の制御など、脳の高度な機能を支える基盤となります。生後間もない時期の小脳では、プルキンエ細胞に複数の登上線維が接続しますが、やがてその中から「勝者」となる1本の登上線維が選ばれ、他の線維(敗者)は次第に排除されます。 本研究グループをはじめとする先行研究により、選ばれた「勝者」の選抜そのものには神経活動は不要であるものの、その後の支配領域の拡大や回路の完成には神経活動(シナプス伝達)が不可欠であり、その過程でシナプス機能と構造も大きく発達することが明らかになっていました。しかし、「具体的にどのような分子シグナルが働いて、この活動依存的な『勝者』の強化スイッチを入れているのか?」という核心的なメカニズムは未解明のままでした。一方で、mGluR1からPKCγに至る細胞内シグナル伝達経路は、これまで「敗者」を除去するためのスイッチとして知られていました。そこで本研究では、この経路が「勝者」の運命にも関与しているのではないかと考え、検証を行いました。   研究手法 本研究では、mGluR1やPKCγを欠損させた全身性の遺伝子改変マウス、及びプルキンエ細胞特異的にmGluR1機能を抑制したマウスを用いて、生後発達期の小脳神経回路を機能と形態の両面から詳細に解析しました。 機能解析としては、電気生理学的手法により、登上線維からプルキンエ細胞へのシナプス伝達の強さや、シナプス可塑性*6(LTP:長期増強*7)を測定しました。   また、形態解析では、以下の三つの点を調べました。 ・支配領域: 神経トレーサーで「勝者」登上線維を可視化し、樹状突起上の広い領域に進展しているかを調べました。 ・微細構造: 連続電子顕微鏡法*8による3次元再構築で、シナプスの立体構造を可視化しました。 ・分子発現: 免疫組織化学法*9により、シナプス伝達を担うAMPA型グルタミン酸受容体*10の発現量を調べました。   研究成果 1. 「勝者」の強化と領域拡大の失敗 mGluR1やPKCγが働かないマウスでは、「勝者」として選ばれた登上線維のシナプス伝達強度が、野生型マウスに比べて著しく弱いことが判明しました(図1)。また、電子顕微鏡観察ではシナプスの構造も小さく、AMPA型グルタミン酸受容体の発現も低いことが分かりました。 そして、本来であればプルキンエ細胞の樹状突起へと進展するはずの「勝者」登上線維が、十分な支配領域を確保できていませんでした(図2)。これらの結果は、mGluR1シグナルが「敗者の除去」だけでなく、「勝者の強化」にも必須であることを示しています。   2. 強化メカニズム(LTP)の解明 さらに、発達期のマウスの小脳スライス標本を用いた実験から、「勝者」の登上線維シナプスでは、mGluR1とPKCγに依存した「長期増強(LTP)」が生じていることを突き止めました。   3. 「一分子二役」による効率的な回路形成 以上の結果から、mGluR1-PKCγシグナルは、単なる「ハサミ(除去役)」ではなく、文脈に応じて「肥料(育成役)」としても機能する二面性を持つことが明らかになりました。脳は限られた種類の分子を巧みに使い分けることで、効率的に神経回路の最適化を行っていると考えられます。   今後への期待 本研究は、脳の発達過程において、不要なシナプスを除去するだけでなく、勝ち残ったシナプスを十分に強化することが、成熟した神経回路の形成に不可欠であることを示しました。mGluR1シグナル伝達経路の機能不全により、よく知られた「不要なシナプスの残存」に加え、「必要なシナプスが神経活動依存的に強化されない」という新たな小脳失調の病態像が示唆されます。本成果は、小脳失調症や発達障害の病態理解を深め、治療標的や介入時期を考える上で重要な知見を提供することが期待されます。   謝辞 本研究はJSPS科研費 JP20H03410、JP22K06784、JP20H05628、JP21H02589、JP18H04012、JP20H05915、JP21H04785の助成を受けたものです。   論文情報 論文名mGluR1 signaling is necessary for strengthening winner climbing fiber inputs in the developing mouse cerebellum(mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である) 著者名山崎美和子1*, 宮﨑太輔2, 橋本浩一3, 武井則雄4, 饗場篤5, 狩野方伸6,7, 8*, 渡辺雅彦1 (1北海道大学大学院医学研究院解剖発生学教室、2北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野、3広島大学大学院医系科学研究科神経生理学教室、4北海道大学大学院医学研究院附属動物実験施設、5東京大学大学院医学系研究科附属 疾患生命工学センター、6東京大学大学院医学系研究科神経生理学分野、7東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)、8帝京大学先端総合研究機構、*共同責任著者) 雑誌名Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)(米国科学アカデミー紀要)(総合科学誌) DOI10.1073/pnas.2425460123 公表日2026年1月23日(金)(オンライン公開)   参考図 図1. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの機能的強化に必須である。 野生型マウスでは、生後発達に伴い「勝者」登上線維のシナプス応答が顕著に増大するが、mGluR1またはPKCγを欠損したマウスでは「勝者」の応答は十分に増大しない。代表的なシナプス応答波形(左)と定量解析(右)は、mGluR1–PKCγシグナルが「勝者」登上線維の機能的強化に必須であることを示している。 図2. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの支配領域の拡大に必須である。 神経標識により可視化した「勝者」登上線維(緑)を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。生後12日の野生型マウスでは、発達に伴い「勝者」登上線維がプルキンエ細胞の樹状突起へと広く進展するのに対し、mGluR1 またはPKCγ 欠損マウスでは、その進展と支配領域の拡大が著しく障害されている。この障害は成体になっても回復しなかった。   用語解説 *1 小脳 … 運動の正確さやタイミングを調整し、動きを滑らかに保つ働きを担う脳の部位。 *2 プルキンエ細胞 … 小脳皮質からの唯一の出力を行う神経細胞。全身の運動の制御やバランスの維持に重要な役割を担う。 *3 登上線維 … プルキンエ細胞に入力し、強力な信号を伝える。生後の発達期に1本が選ばれて残存し、他の線維は除去される。 *4 シナプス … 神経細胞同士が情報を伝えるために接している場所。電気信号や化学物質(神経伝達物質)を使って信号をやりとりする。 *5 樹状突起 … 神経細胞から伸びた枝状の構造で、他の神経細胞からの信号を受け取る働きを持つ。 *6 シナプス可塑性 … 神経細胞どうしのつながり(シナプス)の働きが、活動や経験に応じて変化する性質のこと。 *7 長期増強(LTP) … 神経細胞間のシナプス伝達効率が、刺激に応じて持続的に増強される現象。学習や記憶の細胞レベルでの基盤と考えられている。 *8 連続電子顕微鏡法 … 超高解像度の電子顕微鏡で多数の断面画像を取得し、立体的に細胞の構造を再構築できる技術のこと。 *9 免疫組織化学法 … 特定のたんぱく質を検出・可視化するための手法のこと。抗体と色素を使い、どの細胞や場所に分子が存在しているかを明らかにする。 *10 AMPA型グルタミン酸受容体 … 神経の興奮を伝える主要な受容体の一つで、シナプスの信号伝達の強さに関わる。   報道発表資料(1.33 MB) 掲載ジャーナル:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 研究者ガイドブック(橋本 浩一 教授)   広島大学広報室 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    寒さに耐える冬眠動物の筋幹細胞 ~再生能力を意図的に抑える「省エネ戦略」~

    本研究成果のポイント 冬眠動物は、極端な体温低下と長期間の不活動を経験するにもかかわらず、筋肉の衰えを驚くほど防いでいます。本研究では、冬眠動物の“筋肉が衰えない仕組み”の一端が、「組織幹細胞を生かしたまま、再生を抑える」というエネルギー節約戦略にある可能性を示しました。   概要 ハムスターやクマなどの冬眠動物では、骨格筋の幹細胞(サテライト細胞)が極端な低温下でも死なずに生存できることを発見 その低温耐性機構は、フェロトーシス(鉄依存性細胞死)を抑える細胞内の抗酸化システムにより成立 しかし生存した細胞は、筋形成に必要な「活性化・分化」プログラムを意図的に抑制しており、増殖能力が低温下では大きく低下 実際にハムスターでの筋損傷モデルでも、冬眠中は筋再生が著しく遅延 冬眠動物は「細胞死は防ぐが、エネルギー消費の大きい炎症・再生反応は抑える」という、エネルギー節約型の“冬眠モード”を幹細胞レベルで備えていることが明らかに   広島大学大学院 医系科学研究科 生理機能情報科学の宮﨑充功准教授らの研究グループは、福山大学薬学部・渡邊准教授、北海道大学大学院獣医学研究院・下鶴准教授、北里大学理学部・塚本助教、北海道大学低温科学研究所・山口教授らとの共同研究により、冬眠する哺乳類が、極端な低温環境でも筋肉の幹細胞(サテライト細胞)を死なせず保持する一方、筋形成に関わる遺伝子群の働きを大幅に抑制し、あえて再生を遅らせる仕組みを解明しました。 本研究成果は、米国実験生物学会連合の学術誌The FASEB Journal に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   掲載雑誌: The FASEB Journal, 2025; 39:e71297 URL: https://doi.org/10.1096/fj.202502651R 題目: Cold-induced suppression of myogenesis in skeletal muscle stem cells contributes to delayed muscle regeneration during hibernation 著者: Tatsuya Miyaji, Ryuichi Kasuya, Mayuko Monden, Yutaka Tamura, Michito Shimozuru, Toshio Tsubota, Daisuke Tsukamoto, Guangyuan Li, Shota Kawano, Yuri Watanabe, Yoshifumi Yamaguchi, Masatomo Watanabe, and Mitsunori Miyazaki* *Corresponding author (責任著者) doi: 10.1096/fj.202502651R   背景 一般に、骨格筋は長期間使われないと萎縮し、筋肉を形成するための幹細胞の働きも弱まるため、冬眠によりほとんど動かない期間が続くと、通常なら筋肉が衰えると考えられます。しかし冬眠動物では、数か月におよぶ極度の不活動と低体温にもかかわらず、筋肉量がほとんど失われません。この理由はこれまでも研究されてきましたが、明確な答えは出ていませんでした。 本研究は、冬眠動物の筋肉が衰えない背景に「細胞死を防ぎながら再生は抑制する」という、冬眠期特有のエネルギー節約戦略が存在することを、世界で初めて幹細胞レベルで示しました。   研究内容と成果 1. 冬眠動物の筋幹細胞は、極端な低温ストレス下でも死なない 研究チームはまず、冬眠動物のサテライト細胞※1が低温ストレスに対して著しい抵抗性を示すことを発見しました。冬眠する動物(シリアンハムスター、シマリス、ツキノワグマ等)と冬眠しない動物(マウス、ラット等)の細胞をそれぞれ4℃の低温に24~48時間さらしたところ、冬眠しない動物の細胞は大半が死滅するのに対し、冬眠する哺乳類の筋肉から得た細胞はほぼ死なずに生存しました。解析の結果、冬眠動物の細胞では、鉄依存性細胞死(フェロトーシス)※2を抑える抗酸化システムが成立しており、これが極端な低温下でも細胞死を防ぐ鍵であることが分かりました。 図1|冬眠動物の筋幹細胞は極端な低温下でも死なずに生き残る マウスやラットなど冬眠しない動物では、4℃の低温にさらすと筋幹細胞の多くが死んでしまいます(赤色:死んだ細胞)。一方、シリアンハムスター、シマリス、ツキノワグマといった冬眠動物では、同じ低温条件でも細胞がほとんど死なずに生き残ります。右下のグラフは、低温条件下における48時間後の細胞死の割合を示しており、冬眠動物の細胞が「細胞レベルで寒さに強い」ことが分かります。   2. 低温下で生存した筋幹細胞は「活性化できない = 筋再生スイッチが切られる」 さらに、低温環境を生き延びた細胞のふるまいを詳しく調べたところ、筋肉の形成に必要な MyoD※3 や Myogenin※4 などの遺伝子群が大きく抑制されており、筋肉の組織幹細胞が“生存するが再生は遅らせる”という特殊な待機状態にあることが明らかになりました。これは、冬眠動物のサテライト細胞が、低温ストレス下では再生スイッチを積極的にオフにすることで、状態を維持していることを示しています。 図2|低温にさらされたハムスター筋幹細胞では、筋形成に関わる遺伝子だけがまとまって弱まる   左図は、ハムスターの筋幹細胞を4℃に冷却した際の遺伝子発現を網羅的に解析した結果です。緑色の点は、発現量が統計学的に有意に“減少した”遺伝子を示し、逆に“増加した”遺伝子は1つも見られませんでした。右図は、それら発現が減少した遺伝子の特徴を調べたGene Ontology※5解析の結果で、筋肉の形成や構造維持に関わる遺伝子群が特に大きく抑制されていることが分かります。これらの結果は、低温下で生存した細胞が、筋形成・再生を開始するための遺伝子プログラムを意図的に落としていることを示しています。   3. 冬眠期のハムスターでは、実際に筋再生が遅延 冬眠期間のハムスターは、体温を周期的に大きく下げる「深冬眠」※6と体温が常温に戻る「中途覚醒」※7を繰り返します。この状態で筋肉が傷つくと、通常であれば見られるはずの再生マーカー eMyHC※8 の発現がほとんど確認されず(下図右下)、再生途中の小さな筋線維も形成されません(右上)。さらに、再生の初期に重要なサテライト細胞の活性化や免疫細胞(マクロファージ※9)の浸潤も大幅に抑えられていました。これらの結果は、冬眠中の生体がエネルギーを節約するため、炎症反応や再生反応といった代謝負荷の高いプロセスを意図的に遅らせている、つまり、省エネモードに入っていることを示しています。 図3|冬眠中のハムスターでは筋再生がほとんど進まない   冬眠期のハムスターは体温低下(深冬眠)と復温(中途覚醒)を繰り返します。この状態で筋損傷を起こすと、再生マーカー eMyHC の発現がほとんど見られず、サテライト細胞の活性化や免疫細胞の浸潤も弱く、筋再生が大きく遅れることが分かります。   本研究の意義と今後の展開 本研究は、冬眠動物が「筋肉の幹細胞を死なせずに保持しつつ、再生は適温に戻るまで待機させる」という高度な省エネ戦略を備えていることを明らかにした点で重要です。これらの知見は将来的に、臓器や細胞の低温保存技術の高度化、長期不活動に伴う筋萎縮予防、さらには人工的な冬眠・低代謝医療の開発など、ヒト医療への応用可能性を広げるものと期待されます。   現在、冬眠中に生じる筋再生抑制がどのような分子機構で制御されているのか、特にエピジェネティクスや神経—筋連関などの側面はいまだ明らかになっていません。研究チームは今後、これらの分子機構の解明を進め、冬眠状態を人工的に誘導・制御しうる基盤的知見の確立を目指しています。   用語解説 ※1 サテライト細胞(筋幹細胞) 骨格筋に存在する「筋肉の幹細胞」。普段は休んでいるが、運動やけがが起こると活性化し、筋肉を修復・再生する役割を持つ。   ※2 フェロトーシス(鉄依存性細胞死) 細胞内の鉄が引き起こす「脂質の酸化」により生じる特殊な細胞死の一種。低温ストレスによる細胞死はフェロトーシスを介して起こる。   ※3 MyoD(マイオディー) 筋幹細胞が「筋形成・筋再生を始める」ときにスイッチとなる転写因子。活性化すると筋肉に分化する方向へ進む。低温では発現が抑えられる。   ※4 Myogenin(マイオジェニン) 筋幹細胞が筋細胞として成熟していく過程で重要となる転写因子。筋再生の“後半”を進める役割がある。   ※5 Gene Ontology(遺伝子オントロジー解析) 膨大な遺伝子の機能を「どんな役割をしているか」で分類し、特定の条件下でどの機能の遺伝子が変化したかを調べる手法。   ※6 深冬眠(Deep Torpor) 小型の冬眠動物が体温を大きく下げ、代謝を極端に落とした状態。体温が数℃まで下がることもある。クマなど大型の冬眠動物の場合、代謝低下は認められるものの、小型動物ほどの極端な体温低下は起こらない。   ※7 中途覚醒(Interbout Arousal) 冬眠中に体温が一時的に正常レベルまで戻る短い覚醒期。小型の冬眠動物はこの「深冬眠」と「中途覚醒」を繰り返す。   ※8 eMyHC(embryonic Myosin Heavy Chain) 再生途中の新しい筋線維に発現する「再生マーカー」。筋損傷後に通常であれば増えるが、冬眠期はほぼ発現しない。   ※9 マクロファージ 筋損傷の修復に重要な免疫細胞。壊れた筋細胞を処理し、筋幹細胞の活性化をサポートする。冬眠期は浸潤が強く抑制される。   報道発表資料(636.78 KB) 掲載雑誌:The FASEB Journal 研究者ガイドブック(宮崎 充功准教授) 【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 広島大学大学院医系科学研究科生理機能情報科学 准教授宮﨑充功 Tel:082-257-5435 E-mail:mmiya4@hiroshima-u.ac.jp   (報道に関すること) 広島大学広報室 Tel:082-424-4383 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.17
    • 医療/ヘルスケア
    日本の医療機器・技術の海外移転:低所得国での安全な出産に向けたモバイル胎児心拍モニターの効果検証

    本研究成果のポイント 本研究では、モバイル胎児心拍モニター(iCTG)が、妊娠後期の胎児の心拍異常をより確実に捉え、新生児の状態改善や周産期死亡の減少につながる可能性が示されました。日本企業の開発した医療機器が、資源が限られた地域でも導入しやすい、現実的かつ効果的な技術であることが明らかになりました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の新福洋子教授を中心とする研究チームは、低所得国での胎児モニタリングを可能にするため、モバイル胎児心拍モニター(iCTG)の効果を検証しました。その結果、従来の胎児モニタリングよりも異常心拍の検出率が大幅に向上し、出生直後の新生児の健康状態が改善しました。本研究は、低リソース環境における妊婦ケアの質向上に新たな可能性を示しています。 本研究成果は、学術誌「BMC Public Health」に掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   論文情報 タイトル:Effectiveness of a mobile cardiotocography device (iCTG) in improving antenatal care and detecting abnormal fetal heart rate during late pregnancy: an implementation study in Tanzania 掲載誌:BMC Public Health(Q1) 著者:Dorkasi L Mwakawanga, Sanmei Chen, Crystal L Patil, Md Moshiur Rahman, Beatrice Mwilike, Agnes F Massae, Naoki Hirose, Yuryon Kobayashi, Yoko Shimpuku DOI:10.1186/s12889-025-25383-4   背景 胎児モニタリングとは、おなかの中にいる胎児の状態を継続的に観察・記録することです。胎児の心拍などを観察することで、外から直接見ることのできない胎児の状態を把握することができ、出産時の胎児の異常を判断する重要なデータとなります。安全な出産にとても重要なのですが、多くの低所得国では、十分な胎児モニタリングが行えず、心拍異常が見逃されることで死産や新生児合併症の一因となっています。十分な胎児モニタリングが行えない理由は多々ありますが、その一つに機器とインフラの不足があります。胎児モニタリングを行う際、胎児心拍モニター(CTG)という機器を使用しますが、高価であり導入が難しい点などから、低資源国では導入数が限られています。よって、医療スタッフが使いやすく、持続的に運用できる新しいモニタリング技術の導入が求められていました。   研究成果の内容 今回の研究では、タンザニアの医療施設にモバイル胎児心拍モニター(iCTG)を導入し、その効果を検証しました。iCTGとは、従来のCTGを小型化し、持ち運びを可能にしたものです。また、データをクラウドで管理し、遠隔地からも胎児の状態を確認できます。小型であることから従来より容易に導入することができ、低コストであることや操作が簡潔であることなど、様々なメリットがあります。iCTGを導入した施設では、胎児心拍異常の発見数が従来の約10倍に増え、新生児の胎児仮死も半分以下に減少し、周産期死亡が約8割減少しました。助産師らが現場で無理なく使用できる操作性も確認され、実装研究として有用性が示されました。 今後の展開 今後は、より幅広い地域での導入と長期的な母子の健康への影響を検証するとともに、コスト効果や運用体制を含めた持続可能なモデル作りを進めます。最終的には、どこに住んでいても妊婦が安全な胎児モニタリングを受けられる世界的な体制整備を目指します。   参考資料 メロディ・インターナショナル株式会社(iCTG開発) https://melody.international/ AMED「開発途上国・新興国における医療技術等実用化研究事業」 https://www.amed.go.jp/program/list/12/01/003_jigor6.html   報道発表資料(332.21 KB) 掲載雑誌:BMC Public Health 研究者ガイドブック(新福 洋子 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科教授新福洋子 Tel:082-257-5345FAX:082-257-5345 E-mail:yokoshim@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.17
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    肝移植拒絶リスクを遺伝子で予測、個別化治療への新たな一歩 ーSIRPα遺伝子多型が免疫応答を制御する仕組みを解明ー

    本研究成果のポイント 肝臓移植の際に拒絶反応が起こるかどうかは、免疫の働きを決める「SIRPα遺伝子」の違いが関係していることを世界ではじめて明らかにしました。 この成果により、患者ごとに拒絶反応が起きるリスクを予測し、治療法の個別化・最適化を目指します。   概要 広島大学の研究チーム(広島大学 大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学 大段秀樹 教授、Akhmet Seidakhmetov医師、呉医療センター谷峰直樹医師、ら)は、日本人154組の生体肝移植ドナー(提供する人)・レシピエント(受ける人)ペアを対象に肝移植の拒絶反応に関する研究を行いました。 その結果、肝臓移植の際に拒絶反応がおこるかどうかは、免疫の働きを決める「SIRPα遺伝子」の違いが関係していることを明らかにしました。具体的には、「SIRPα遺伝子」の「V2型」をもつ人では、急性拒絶反応の発生率が高いことを発見しました。 この研究成果は、国際学術誌 『PNAS Nexus(Q1)』(米国科学アカデミー機関誌系列) に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   論文タイトル Impact of SIRPα Genotype Combinations in Recipients and Donors on Alloimmune Response in Liver Transplantation 著者 Akhmet Seidakhmetov, Naoki Tanimine, Yuka Tanaka, Ryosuke Arata, Ryosuke Nakano, Hiroshi Sakai, Masahiro Ohira, Hiroyuki Tahara, Kentaro Ide, Tsuyoshi Kobayashi, Hideki Ohdan* *:責任著者 DOI:[10.1093/pnasnexus/pgaf351]   背景 肝硬変や肝臓がんなどにより、肝臓の機能が回復できないほど悪くなった患者では、肝臓移植が効果的な治療法となります。しかし臓器移植をする際には、患者自身の免疫が、移植された臓器を異物であると判断し攻撃してしまう「拒絶反応」が最大の課題です。 これまでの研究成果において、拒絶反応は主に「HLA遺伝子(免疫システムが「自己」と「非自己」を見分けるための目印のようなもの)」の不一致によって説明されてきました。移植された臓器と移植を受ける身体のHLA遺伝子が違うため、免疫システムが勘違いし、拒絶反応を起こしてしまうという仕組みです。しかし、HLA遺伝子が一致していても拒絶が起こる症例が存在しており、仕組みの解明が求められていました。   研究成果の内容 「CD47」とは、ほとんどすべての細胞の表面にある「この細胞は自己の細胞である」という目印のようなものです。一方「SIRPα」とは、免疫細胞がCD47を感知するためのたんぱく質で、「SIRPα」と「CD47」が結合すると、免疫の誤作動が防がれます。これは「自己細胞を食べない」ための分子シグナルであり、「“don’t eat me”シグナル」とも呼ばれています。本研究グループはこれまで、動物種の異なる生物間で臓器を移植する「異種移植」の研究で、この「SIRPα–CD47経路」がとても重要であることを報告してきました。 今回の成果は、この仕組みが ヒトとヒトのあいだで行われる通常の臓器移植(同種移植)でも働いていることを、臨床データを用いて初めて明らかにしたものです。   解析の結果、SIRPα遺伝子には複数の多型が存在し、日本人では「V1」と「V2」型が主要であることが判明しました。V2型SIRPαはCD47との結合力が強く、T細胞活性化を促進する性質を持つことを、ヒト血液細胞を用いた実験で確認しました。 さらに、85組の肝移植ドナー・レシピエントの遺伝子組み合わせを解析し、V2型を多く含む組み合わせでは、急性拒絶反応の発生率が約1.5倍高いことを明らかにしました。 これらの知見をもとに、研究チームはSIRPα遺伝子型に基づいた「免疫反応強度スコア」を提案。このスコアにより、移植前に拒絶リスクを予測し、免疫抑制薬の投与計画を個別化できる可能性が示されました。 今後の展開 本研究は、移植免疫学における「新たな遺伝子マッチング指標」としてSIRPαを提案するものです。 今後は、腎移植など他臓器でも同様の検証を進め、SIRPα遺伝子検査を用いた拒絶反応リスク予測モデルの臨床応用を目指します。 さらに、免疫チェックポイント分子CD47との関連から、がん免疫療法や自己免疫疾患の治療戦略にも応用が期待されます。   参考資料 SIRPα(Signal Regulatory Protein Alpha):免疫細胞が「自己」を認識するための受容体。CD47と結合し、攻撃を抑制する信号を送る。 CD47:「自分を食べないで」というシグナルを発する細胞膜分子。がん細胞でも高発現が知られる。 本研究では、SIRPα遺伝子のV2型がCD47との結合を強め、免疫細胞の活性化を促すことを発見。 HLA遺伝子とは、「ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)」をつくる遺伝子。免疫システムが“自分”と“他人”を見分けるための最も重要な遺伝子群であり、「免疫の指紋」とも呼ばれる。 (図1)この図は、人の免疫細胞に発現しているSIRPαというたんぱく質が、CD47というたんぱく質とどの程度強く結合するかを調べた実験結果を示しています。 研究では、健康なボランティアから採取した血液中の免疫細胞を使い、SIRPα遺伝子の型が「V1型」か「V2型」かによって結合の強さが違うかを比較しました。 CD47たんぱく質を蛍光で光るようにして細胞に加え、その光の強さ(平均蛍光強度:MFI)を測ることで、どのくらいCD47がSIRPαに結合したかを定量的に評価しました。 結果として、V2型をもつ人の免疫細胞は、V1型をもつ人よりもCD47と強く結合することが明らかになりました(図中の赤い点がV2型、青い点がV1型)。 このことから、SIRPαの遺伝的な違いが免疫の強さや拒絶反応に影響する可能性があることが示唆されます。 (図2)この図は、ドナーとレシピエントそれぞれが持つ SIRPα 遺伝子型が組み合わさった時にどれくらい免疫が強く反応しやすいかモデル化し、拒絶発症率との関連を解析した結果を示しています。ドナーとレシピエントの免疫細胞(抗原提示細胞:APC)とT細胞の活性化の強さを、「+」の数で表しています。「+」が多いほど免疫反応が強く、拒絶反応が起こりやすい可能性があります。この免疫反応の強さを合計して、以下の3つのグループに分類しました: • 4+〜5+:拒絶反応が起こりにくい(低リスク) • 6+:中程度のリスク • 7+〜8+:拒絶反応が起こりやすい(高リスク) つまり、このモデルは「ドナーとレシピエントのSIRPα遺伝子の組み合わせによって、移植後の拒絶反応の起こりやすさを予測できる」ことを示したものです。()内の数値は拒絶反応の発症率です。   報道発表資料(574.97 KB) 掲載雑誌:PNAS Nexus 研究者ガイドブック(大段 秀樹教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 教授大段秀樹 Tel:082-257-5220FAX:082-257-5224 E-mail:hohdan@hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    2025.12.15
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    トドの赤ちゃんが動作とサインのつながりを学習し、見分けられることが世界で初めて明らかに!

    本研究成果のポイント トドは0歳の仔獣期から、成獣と同じように動作とサインのつながりを学習し、弁別できる能⼒をもつことが、世界で初めて明らかになりました。   概要 城崎マリンワールドで生まれたトドのカナタは⽣後半年までに9種類の動作とそれに対応するサインを学習し、トレーナーの性別や親密度(接した時間)によらず⾼い精度でサインを識別することができました。 ハンドサインとボイスサインを同時に与えた場合、およびハンドサインのみを与えた場合の正解率は、9種類の動作全てで基準となる正解率を上回りました。 ボイスサインだけを与えた場合の正解率は、3種類の動作を除き基準となる正解率を下回りました。 本研究は、城崎マリンワールドの佐々木雅大氏、広島大学大学院人間社会科学研究科の神原利宗准教授らが執筆したもので、10月8日に「International Journal of Comparative Psychology」に掲載されました。城崎マリンワールドのトドの研究に関する国際論文では4本目、城崎マリンワールドで生まれたトドの「カナタ」に関する研究では初めてとなります。   研究成果の内容 トドは0歳の仔獣期から、成獣と同じように動作とサインのつながりを学習し、弁別できる能力をもつことが、世界で初めて明らかになりました。 トドの「カナタ」は生後半年までに9種類の動作とそれに対応するサインを学習し、トレーナーの性別や親密度(接した時間)によらず高い精度でサインを識別することができました。 ハンドサインとボイスサインを同時に与えた場合、およびハンドサインのみを与えた場合の正解率は、9種類の動作全てで基準となる正解率を上回りました。 ボイスサインだけを与えた場合の正解率は、3種類の動作を除き基準となる正解率を下回りました。   研究の背景 トドをはじめとするアシカの仲間は、長い授乳期間をもち、赤ちゃんのころにトレーナーが介入してトレーニングを行うことが難しい特徴があります。そのため、赤ちゃんのトドの学習能力については、野生下での観察を除いて知られていませんでした。 城崎マリンワールドで生まれたトドの「カナタ」は、母親が母乳で育てることが困難であったため、飼育員による人工哺育で育てられました。授乳期からトレーニングを行える特殊な環境から、貴重なデータを得られる可能性がありました。 本研究はこれまで前例がなかった、赤ちゃんのトドの学習能力について調べたものです。   研究方法 ハンドサインとボイスサインを同時に与えて9種類の動作でトレーニングを行いました。その後の実験で以下の3つの条件で「カナタ」にサインを与え、正解率を調べました。 ①ハンドサインとボイスサイン同時 ②ハンドサインだけ ③ボイスサインだけ 目で見た情報と、耳で聞いた情報、どちらが学習において重要なのかを調べました。実験は男女3人ずつ、合計6人で行い、親密度や性別による影響を考慮しました。 資料映像: 最初はホースの水を使うなど遊びの中で動作を引き出し、ミルクを使って教えていきました。その後は、目印となる道具や手を使ったトレーニングも行い、生後半年までに9種類の動作ができるようになりました。 各動作ができるようになった後は、決められた手の動き(ハンドサイン)と声(ボイスサイン)を同時に与えながら動作とむすびつけ、サインに合わせて動作を行うことをトレーニングしました。   資料映像:ホースの水で遊ぶカナタ 資料映像:はじめてトレーニングした”バイバイ” 資料映像:”あーん”のトレーニング 参考資料 図1.カナタ(授乳期) 図2.カナタ(現在)   論文情報 掲載雑誌名:International Journal of Comparative Psychology DOI:https://doi.org/10.46867/ijcp.41525 タイトル:“A Case Study of Associations Between Human Visual-Vocal Commands and Behaviors in a Lactating Steller Sea Lion Pup (Eumetopias jubatus)”   著者:佐々木雅大氏1,堤和樹氏1,木下日奈乃氏1,西島昌宏氏1,松村千織氏1,豊田彩加氏1, 神原利宗2 所属:1城崎マリンワールドシーズー,2広島大学   掲載雑誌:International Journal of Comparative Psychology 研究者ガイドブック(神原利宗 准教授)   【お問い合わせ先】 城崎マリンワールドシーズー 飼育員佐々木雅大 氏 TEL:0796-28-2300 FAX:0796-28-3675 Email:seazoo*hiyoriyama.co.jp (*は半角@に置き換えてください)   広島大学大学院人間社会科学研究科 心理学プログラム 准教授神原利宗 TEL:082-424-6280 FAX:082-424-3481 E-mail:tkambara*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    2025.12.12
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    外来遺伝子を残さない安全なゲノム編集を藻類で実現! ―藻類バイオ燃料の実用化に向け、新しい遺伝子編集方法を開発―

    本研究成果のポイント バイオディーゼルなどの燃料生産が期待される微細藻類“ナンノクロロプシス*1”において、遺伝子を安全に改変できるよう「塩基編集*2システム」を搭載した脱落可能なDNAベクターを開発しました。 この塩基編集システムは、DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs)*3を導入しない安全な遺伝子改変システムであるため、外来遺伝子を残さず(外来遺伝子フリー*4)、必要な変異だけを導入できる安全な方法です。この技術を使うことで、遺伝子改変後も外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスを構築することが可能になりました。 脱落可能なベクターにより樹立できる外来遺伝子の残らないゲノム編集生物はカルタヘナ法*5の定める遺伝子組換え生物には該当しないため、屋外培養などの幅広い用途への応用が期待できます。     概要 広島大学ゲノム編集イノベーションセンターの諸井桂之研究員、山本卓教授および栗田朋和特任准教授は、非常に多くの油脂を蓄積する微細藻類、ナンノクロロプシスにおいて脱落可能な塩基編集ベクターを開発しました。この技術により変異導入時にDSBsを介さずに外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスのゲノム編集株を樹立する手法を確立しました。 本研究成果は令和7年11月27日に英国Nature research社の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。 論文情報 掲載雑誌:Scientific Reports 論文題目:“Double-strand break-free and transgene-free genome editing in the microalga Nannochloropsis oceanica using removable vectors containing the CRISPR base editing system” 著者: Keishi Moroi, Yamamoto, Tomokazu Kurita* 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター *:責任著者 DOI: 10.1038/s41598-025-26657-y 背景 微細藻類は細胞内に多量の油脂や有用物質を蓄積させるため、バイオディーゼルなどの生産が期待されていますが、生産コストなどの面で課題があるため、多くの研究者が微細藻類の分子育種を進めています。現在までに非常に効率の良いゲノム編集ツールが微細藻類で使用されて多くのゲノム編集藻類が構築されましたが、それらはDNA二本鎖切断(DSBs)を導入してから藻類細胞のDSB修復機構依存的に変異を導入していました。一方でこのようなDNAの二本鎖切断が稀に大規模なゲノムDNAの削除や染色体間での組換えなど宿主細胞に有毒で不都合な改変も起こっていました。 研究成果の内容 本研究ではナンノクロロプシスにおいてCEN/ARS*6を含む脱落可能ベクターに塩基編集用の発現カセットを搭載して、図のように塩基置換後に脱落可能なベクターを構築しました。この塩基編集ベクターによりナンノクロロプシスの内在性の5種の遺伝子における6つの標的サイトにおいて塩基置換の導入に成功しました。塩基置換効率は29.2%から47.6%で、塩基置換後のベクターの脱落にも成功しました。 今後の展開 本研究により確立したDSBフリー且つ、外来遺伝子が残らないゲノム編集法を用いて屋外培養可能、かつ油脂蓄積効率の高い“高機能藻類”の樹立が期待されます。DSBフリーのゲノム編集システムは複数箇所同時改変でも標的サイト間での大規模な遺伝子の脱落や染色体間での組換えといった不都合な改変が起こり難く、また脱落可能ベクターはマーカーの再利用が可能になるため、本システムは、細胞内の多数の遺伝子を改変する際に非常に有効であると考えられます。本研究で確立した外来遺伝子フリー塩基編集システムは藻類バイオディーゼル*7の実用化に必須の基盤技術と考えられます。 用語解説 *1ナンノクロロプシス 直径 2〜5μmほどの小さな海の植物プランクトンです。培養環境に応じてバイオディーゼルに変換できる油脂を大量に蓄積すること、オメガ3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)を豊富に含有することなど多くの特長を持つことから、さまざまな分野で活用されています。 *2塩基編集 Clustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR)–CRISPR-associated protein 9 (Cas9)には2つのヌクレアーゼドメインがあり、標的部位にDNA二本鎖切断を導入します。このヌクレアーゼの片方を失活したnCas9はDNAの2本鎖の片方のみを切断する酵素でCas9ニッカーゼと言います。このnCas9に塩基の脱アミノ化を行うデアミナーゼを融合して、標的部位の塩基を別の塩基に置換するのが塩基編集です。本研究では、nCas9にヤツメウナギのデアミナーゼであるPmCDA1とウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質を結合した融合タンパク質を使用しています。PmCDA1は標的配列のシトシンのアミノ基を脱離させてウラシルに置換します。ウラシルはチミンと同様にアデニンと塩基対を形成するため、最終的にシトシンをチミンに変換できます。このような塩基編集システムをシトシンベースエディター(cytosine base editors, CBE)と言います。ウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質はPmCDA1により変換されたウラシルが細胞内の塩基除去修復機構により取り除かれ、別の塩基に変換されるのを防ぐ役割があります。 *3DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs) 生命の設計図であるゲノムDNAは二本のDNA鎖が二重螺旋構造を形成していますが、この二本の鎖の両方を切断するのがDSBsです。DSBsが導入されると細胞内のDSB修復系が機能し基本的には元通り修復されます。しかし一定の割合で修復システムのエラーによりゲノムDNAに変異が導入されます。この現象を利用してDSBsを介したゲノム編集ツールは特定部位に結合してDSBsを導入、標的遺伝子に変異を導入しますが、この時に稀に標的以外の遺伝子を含む大規模な遺伝子の削除や、染色体間での置換など、宿主細胞にとって有害で不都合な反応が起こることがあります。このような反応は特に特にゲノムDNAの複数の場所でDSBsを同時に導入した場合に起こることがあるため、複数の遺伝子を同時に改変する場合には特にDSBフリーのシステムが重要になります。 *4外来遺伝子フリーシステム 異種生物由来や合成された配列など、外来のDNA配列を含む生物を遺伝子組換え生物(Gene Modified Organisms, GMOs)と言います。GMOsはカルタヘナ法に基づく生物学的封じ込めの規定があるため、屋外培養などには非常に強い使用制限があります。CEN/ARSを持つベクターは細胞内でゲノムDNAの外で維持されるエピソーマルベクターとして振舞い、抗生物質による選択圧が無い培養条件では自然に脱落します。このように最終的に外来遺伝子が残らないシステムを外来遺伝子フリーシステムと言います。 *5カルタヘナ法 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律。日本国内において、遺伝子組換え生物の使用等について規制をし、生物多様性条約カルタヘナ議定書を適切に運用するための法律で、遺伝子組換え生物が生物多様性へ影響を及ぼさないかどうか事前に審査することや、適切な使用方法について定められています。 *6CEN/ARS 出芽酵母の染色体の安定性に関わる配列であり、CEN/ARSはCentromere and autonomous replication sequenceの略で、出芽酵母の汎用low copyベクターに使用されています。最近このCEN/ARSを持つベクターが珪藻やナンノクロロプシスにおいても細胞内でゲノムDNAの外でエピソーマルベクターとして安定に維持されることが報告されていました。 *7藻類バイオディーゼル 微細藻類は環境ストレスなどに応じて細胞内に多量の油脂を蓄積します。この油脂に含まれる脂肪酸を脂肪酸メチルエステルに変換して使用する燃料です。藻類による油脂の生産は光合成によりCO2を吸収するため、大気中のCO2を増加させない次世代の再生可能エネルギーとして期待されています。   報道発表資料(733.68 KB) 掲載ジャーナル:Scientific Reports 研究者ガイドブック(栗田 朋和 特任准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 特任准教授 栗田 朋和 Tel:082-424-4008 E-mail:kuri616*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.12.12
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    ナウマンゾウの古代DNA解析に成功〜ユーラシア最古のパレオロクソドンの系統であることが判明〜

    概要 山梨大学総合分析実験センターの瀬川高弘講師、秋好歩美技能補佐員、広島大学大学院統合生命科学研究科の米澤隆弘教授、国立遺伝学研究所の森宙史准教授、国立科学博物館生命史研究部の甲能直樹部長らによる国際研究チームは、日本列島に生息していた絶滅ゾウ「ナウマンゾウ」(Palaeoloxodon naumanni)の化石から、世界で初めて古代DNA解析に成功しました。 ナウマンゾウは、約2万2千年前に絶滅したと考えられており、日本全国約300ヶ所から2千点を超える化石が発見されている、日本で最も豊富に見つかる絶滅大型哺乳類の一つです。ナウマンゾウが属するパレオロクソドン属(直牙象)は、更新世にユーラシア全域に広がった絶滅ゾウ類です。しかし、これまでアジアからの古代DNA解析は成功しておらず、ユーラシア全域でのパレオロクソドンゾウの進化史には大きな空白がありました。特にナウマンゾウはどのような系統に属するのか、全く分かっていませんでした。 本研究では、青森県で発見されたナウマンゾウの臼歯化石2点(約4万9千年前と約3万4千年前)からミトコンドリアゲノムの解析に成功しました。これは日本国内最古の化石標本からの古代DNA研究となります。 その結果、ナウマンゾウは約105万年前に分岐したユーラシアで最も古い直牙象の系統であり、原始的な「シュトゥットガルト型」の頭骨の特徴を保ったまま日本列島で長期間生き延びたことが明らかになりました。大陸では派生的な「ナマディクス型」の頭骨を持つゾウに置き換わりましたが、日本列島では地理的隔離により原始的な形態が保持され、日本列島がレフュジア(古い系統が生き残る特別な環境)として機能していたことが改めて実証されました。 図1:ナウマンゾウの生体復元図 今回の研究成果を踏まえて復元された最新のナウマンゾウの生体復元。頭部はオスの頭骨化石、体の骨格は複数個体の化石標本を参考に描かれている。背景には当時日本列島に共存していた巨大なシカ(ヤベオオツノジカ)も描かれている。(復元画制作: 府高航平氏) 研究の背景 パレオロクソドン(直牙象)とは パレオロクソドン属のゾウは、更新世のユーラシアで最も繁栄した大型植物食哺乳類の一つでした。アフリカで生まれた後、(遅くとも)約78万年前にユーラシアに進出し、ヨーロッパから東アジアまで広く分布しました。 近年の古代DNA研究により、パレオロクソドンは複雑な起源を持つことが明らかになってきました。遺伝情報の解析から、パレオロクソドンは主にアフリカゾウ属を祖先とし、そこにマルミミゾウやマンモスとの交雑(異なる種が交配すること)が加わって成立したことが示されています。また、母系で伝わるミトコンドリアDNAは完全にマルミミゾウ由来のものに置き換わっており、パレオロクソドンは、この中でNNグループ(ノイマルク・ノルト・グループ)とWEグループ(ワイマール・エーリングスドルフ・グループ)という2つの主要な母系系統が確認されています。しかし、これまでDNA情報が得られていたのはヨーロッパの標本が中心で、アジアからは中国河北省の(アジアゾウのものと思われていた)歯の化石から得られた配列のみでした。そのためアジアのパレオロクソドン、特に日本のナウマンゾウの進化系統上の位置づけは全く不明でした。   2つの頭骨形態:「シュトゥットガルト型」と「ナマディクス型」 形態学的な研究から、パレオロクソドンには原始的な「シュトゥットガルト型」(頭の骨の隆起が弱い)と、派生的な「ナマディクス型」(頭の骨の隆起が強い)という2つの頭骨形態があり、その関係について長年論争が続いていました(図2)。   「シュトゥットガルト型」(原始的): 頭の後ろの骨の隆起(頭頂後頭稜)の発達が弱く、頭骨が高い形。ナウマンゾウと中央アジアのP. turkmenicusがこのタイプ。   「ナマディクス型」(派生的): 頭頂後頭稜が強く発達し前方に張り出す形。ヨーロッパのP. antiquusとインドのP. namadicusがこのタイプ。 これらの形の違いが別の種を表すのか、成長段階や個体差なのかについては議論が続いていましたが、「シュトゥットガルト型」を示す標本からのDNA情報が全く得られていなかったため、遺伝学的な検証ができませんでした。ナウマンゾウは「シュトゥットガルト型」を示すアジアのパレオロクソドンでしたが、DNA情報がないため進化系統上の位置づけは不明でした。 図2:パレオロクソドンの2つの頭骨形態。右:原始的な「シュトゥットガルト型」(ナウマンゾウ)、左:派生的な「ナマディクス型」(ヨーロッパのP. antiquusに相当)。頭頂後頭稜の発達の違いが明瞭である。   研究の成果 (1)日本の厳しい環境下での古代DNA解析成功 本研究では、青森県立郷土館などが所蔵するナウマンゾウ化石4個体を対象に古代DNA抽出を試みました。日本は高温多湿でDNAの保存に極めて不利な環境であるため、技術的に非常に困難でしたが、そのうち特に保存の良かった2個体の臼歯の象牙質からミトコンドリアDNA配列を検出することに成功しました。解析に成功した2個体の年代は、約4万9千年前と約3万4千年前であり、日本国内最古の化石標本からの古代DNA研究となりました。特に約4万9千年前の標本からのDNA抽出は、日本の高温多湿という保存に極めて不利な環境を考えると、技術的に画期的な成果です。通常の方法だけでは十分な量のDNA情報が得られなかったため、特定のDNA領域を集中的に増やす「myBaitsキャプチャ法」という最新技術を使用しました。その結果、両個体のミトコンドリアゲノムのドラフト配列を再構築することに成功しました。 a   (2)ナウマンゾウは最も古い系統だった 2個体のナウマンゾウのミトコンドリアゲノムのドラフト配列を用いて、他のゾウ類との系統的な関係を解析しました。その結果、2個体のナウマンゾウは一つのまとまった系統を形成し、さらにドイツや中国のパレオロクソドンとともにユーラシア全域に広がるWEグループを形成することが示されました。しかしナウマンゾウのDNAは、非常に厳しい環境下で数万年間埋蔵されていたためDNAの損傷が激しく、このドラフト配列そのものから分岐年代を推定することは困難でした。そこで本研究では、まず2個体のナウマンゾウの共通祖先のDNA配列を再構築し、この共通祖先配列を用いて分岐年代推定を行うという新規の解析手法を提案しました。これにより、損傷の激しいDNA配列からも信頼性の高い分岐年代を推定できるようになりました。   重要な発見: ナウマンゾウはこのWEグループの中で最も早く分かれた系統であることが明らかになりました。詳細な年代推定から、ナウマンゾウ系統がWEグループの他の系統から分岐した時期は約105万年前と推定されました(図3)。この発見は、従来の理解を大きく覆すものです。これまでナウマンゾウは、パレオロクソドンの中で比較的新しい時期に分岐した系統であり、日本列島に隔離された後、島嶼化の影響で小型化したと考えられていました。しかし今回のDNA解析により、ナウマンゾウは実際には最初期に分岐した原始的な系統であり、約105万年前という非常に早い段階で既に東アジアの縁辺にまで到達していたことが判明したのです。 この分岐年代は、パレオロクソドンがアフリカからユーラシアに進出した最古の化石年代(約78万年前、イスラエルのゲシェル・ベノット・ヤアコブ遺跡)に非常に近い時期です。このことは、パレオロクソドンがアフリカからユーラシアに進出後すぐに東アジアを含む広い範囲に拡散したことを示しています。 図3:パレオロクソドンの系統樹と分岐年代。色は頭骨の形態を示す:赤=原始的なシュトゥットガルト型、青=ナマディクス型、黒=形態型不明。ナウマンゾウ(赤)はWEグループに属し、約105万年前に分岐した最古の系統である。   (3)「シュトゥットガルト型」を遺伝学的に初めて確認 本研究は、原始的な「シュトゥットガルト型」の頭骨を持つパレオロクソドンから、世界で初めて遺伝情報を得た研究となります。ナウマンゾウは大人のオスもメスも「シュトゥットガルト型」を示すことが知られており、今回の結果により、この原始的な形がWEグループに属することが遺伝学的に確認されました。 一方、これまでDNA情報が得られていた派生的な「ナマディクス型」の標本(シチリア島やドイツのもの)は、すべてNNグループに属していました。NNグループの共通祖先は約39万年前と推定されています。「ナマディクス型」の最古の確実な化石記録は、ギリシャから見つかった約48万〜42万年前のものです。これらの年代から、派生的な「ナマディクス型」は中期更新世(約77万〜13万年前)のヨーロッパで出現し、その後にアジアにも広がったことが分かります。   (4)時系列で見るナウマンゾウの進化 今回の研究結果から推定されるナウマンゾウの進化史は次のようになります: 約105万年前: パレオロクソドンがアフリカからユーラシアに進出後まもなく、東アジアを含む広い範囲に拡散しました。この初期の拡散集団から、日本列島に入った系統(ナウマンゾウの祖先)と、大陸に残った系統が分かれました。   約105万年前〜2万2千年前: 日本列島に入ったゾウは、島の環境で大陸から地理的に隔離され、独自の進化を遂げました。原始的な「シュトゥットガルト型」の頭骨を保ったまま、古い系統の生き残り(遺存固有種)として後期更新世まで生存しました。   約48万年前以降: ユーラシア大陸では、派生的な「ナマディクス型」がヨーロッパで出現し、その後東アジアにも広がりました。中国の後期更新世の地層から見つかった頭骨も「ナマディクス型」です。 約2万2千年前: ナウマンゾウが絶滅しました。地理的な隔離により、大陸の派生的な「ナマディクス型」集団による置き換えを免れ、絶滅するまで変わらず原始的な形を保ち続けていました。 このように、ナウマンゾウは東アジアへの原始的な「シュトゥットガルト型」の早期拡散を示す証拠であり、その後大陸では派生的な「ナマディクス型」集団に置き換わっていったと考えられます。   本研究の意義 (1)日本列島がレフュジア(古い系統が残る特別な環境)であったことを実証 日本列島は、基本的にユーラシア大陸から隔離された島弧でありながら、氷期の海水準低下期に断続的に陸続きになるという特殊な地理的環境です。この「半隔離状態」が、古い系統の保存や独自の進化を促進してきたことが、ナウマンゾウの例からも実証されました。ナウマンゾウは約105万年前以降に日本列島に到達した後、地理的隔離により大陸集団とは独立した進化を遂げ、大陸では失われた原始的な特徴を保ち続けた「生きた化石」だったのです。 こうした環境であったからこそ、今回の成果は大陸集団では検出できない時間軸を伴った生物地理学的な挙動まで解明できたと言えます。後期更新世まで(約1万2千年前以前)の日本列島には、更新世オオカミ、ヒグマ、バイソン、オオツノジカ、ヘラジカ、トラといった様々な大型哺乳類が生息していました。それらは大陸から断続的に渡来した結果、「重層的」に集団の置き換わりが起こった歴史を持つ可能性があり、今後の古代DNA研究の最も重要なテーマの一つになると考えられます。   (2)ユーラシア全域のゾウ進化史の空白を埋めた これまでアジアのパレオロクソドンのDNA情報はほとんどありませんでした。今回のナウマンゾウのDNA解析により、ユーラシア全域でのゾウの進化の流れが初めて明らかになりました。   (3)形態の違いの意味を遺伝学的に解明 長年議論されてきた「シュトゥットガルト型」と「ナマディクス型」の関係について、遺伝学的な証拠を初めて提供しました。これらは単なる成長段階の違いではなく、進化の異なる段階を表していることが示されました。今回のDNA解析により、ナウマンゾウがWEグループの最古の系統であることが判明したことで、近縁種との比較から最新の生体復元が可能になりました。DNA情報から推定される系統関係に基づき、牙の形状、背中の輪郭といった従来の化石証拠だけではなく、これまで不確実だった耳の大きさや形状についても、より科学的根拠のある復元が実現しました。これにより、ナウマンゾウの生きていた姿をより正確に再現できるようになりました。   研究の展開 本研究により、ナウマンゾウがユーラシアのパレオロクソドン進化史における重要な位置を占めることが明らかになりました。しかし、今回解析したのは母親から受け継がれるミトコンドリアDNAのみです。今後、核ゲノムDNA(両親から受け継がれる全ての遺伝情報)の解析が実現すれば、以下の重要な疑問に答えることができると期待されます:   • ユーラシアのパレオロクソドンは一度の交雑で成立したのか、それとも複数回の独立した交雑があったのか • NNグループとWEグループは核ゲノムレベルでどのような関係にあるのか • ナウマンゾウはなぜ絶滅したのか、その遺伝学的な要因は何か   今後、DNA抽出技術の向上や堆積物に含まれるDNAを分析する新技術の発展により、より多くのナウマンゾウ標本や他の日本の更新世哺乳類からの古代DNA解析が進むことが期待されます。これにより、日本列島における哺乳類相の成立史がさらに詳しく解明されるでしょう。   用語解説 (1)パレオロクソドン(Palaeoloxodon):更新世にアフリカとユーラシアに広く分布した絶滅ゾウ類の仲間。直牙象(ちょくがぞう)とも呼ばれます。まっすぐな牙を持つことが特徴です。ヨーロッパのP. antiquus、インドのP. namadicus、日本のP. naumanni(ナウマンゾウ)などが含まれます。   (2)更新世:地質時代の区分の一つで、約258万年前〜約1万2千年前までの期間。氷期(氷河期)と間氷期(温暖期)が繰り返された時代です。マンモスやナウマンゾウなどの大型哺乳類が栄えました。   (3)古代DNA解析:化石など古い時代の生物に残された微量のDNA配列を解析する手法。近年の技術発展により、様々な絶滅生物の進化を明らかにできるようになりました。   (4)ミトコンドリアDNA:細胞の中のエネルギーを作る小器官(ミトコンドリア)に含まれるDNA。母親からのみ受け継がれ、核DNAより多くのコピーが存在するため、古代DNA研究に適しています。母系の進化の歴史を知ることができます。   (5)WEグループ(WEクレード):ドイツのワイマール・エーリングスドルフで見つかった標本を基準に定義されたパレオロクソドンのミトコンドリアDNA系統群。ヨーロッパから中国、日本まで広く分布します。   (6)NNグループ(NNクレード):ドイツのノイマルク・ノルトで見つかった標本を基準に定義されたパレオロクソドンのもう一つのミトコンドリアDNA系統群。主にヨーロッパで見つかっています。   (7)頭頂後頭稜(とうちょうこうとうりょう、POC):頭骨の後ろの部分にある骨の隆起。パレオロクソドンでは「シュトゥットガルト型」で弱く、「ナマディクス型」で強く発達します。この違いが頭骨の形の大きな特徴となっています。   (8)myBaitsキャプチャ法:目的とするDNA領域だけを選択的に集める技術。保存状態の悪い試料から効率的にDNA配列を回収できます。釣り針(bait)で目的の魚を釣るイメージです。   (9)系統樹解析:DNA配列などの情報から生物の間の系統的な関係(どの生物とどの生物が近い親戚か)を推定し、その進化史を樹形図で表す解析方法。   (10)遺存種(レリック):過去に広く分布していた生物の生き残りで、限られた地域にのみ生存している種。「生きた化石」とも呼ばれます。ナウマンゾウは、大陸では失われた原始的な特徴を保った遺存種でした。   論文情報 雑誌名:iScience 論文名:Ancient DNA from Palaeoloxodon naumanni in Japan reveals early evolution of Eurasian Palaeoloxodon 論文名(日本語):日本のナウマンゾウの古代DNAがユーラシアのパレオロクソドンの初期進化を明らかにする 著者:Takahiro Segawa, Takahiro Yonezawa, Hiroshi Mori, Ayumi Akiyoshi, Asier Larramendi, Naoki Kohno 著者(日本語):瀬川高弘、米澤隆弘、森宙史、秋好歩美、アシエル・ララメンディ、甲能直樹 DOI:10.1016/j.isci.2025.114156 URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004225024174 オンライン公開日: 2025年12月8日   研究サポート 本研究は、日本学術振興会科研費(課題番号: 20K20942, 23KK0062, 25K01110 and JP221S0002)の支援を受けました。   報道発表資料.pdf(1.64 MB) 掲載雑誌:iScience 研究者ガイドブック(米澤 隆弘 教授)   【お問い合わせ先】 山梨大学総合分析実験センター瀬川 高弘 E-mail: tsegawa@yamanashi.ac.jp TEL: 055-273-9439   広島大学大学院統合生命科学研究科米澤 隆弘 E-mail: tyonezaw@hiroshima-u.ac.jp TEL: 082-424-7950   国立科学博物館生命史研究部甲能 直樹 TEL: 029-853-8984   山梨大学 総務企画部総務課広報・渉外室 E-mail: koho@yamanashi.ac.jp TEL: 055-220-8005,8006   広島大学 広報室 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp TEL: 082-424-6762   情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 広報室 E-mail: prkoho@nig.ac.jp TEL: 055-981-5873   国立科学博物館 経営管理部 研究推進・管理課 研究活動広報担当 E-mail: t-shuzai @kahaku.go.jp TEL: 029-853-8984

    • デジタル/AI
    2026.01.19
    • デジタル/AI
    信頼性工学 × 生成AI: Nバージョンプログラミングを再考する

    アピールポイント 高コストなNバージョンプログラミング(N-version programming, NVP)を、生成AIにより現実的な手法として再構築 NVPの本質を保ったまま、開発・運用コストを大幅に削減 高信頼性が求められるソフトウェア分野への応用が期待される   研究者のねらい NVPは、ソフトウェアの信頼性を高める有効な手法として知られており、実際に飛行制御などの安全最優先システムでも採用されてきた。一方で、複数人による独立開発が前提となるため、開発・運用コストが非常に高く、一般的なソフトウェア開発への適用は限定的であった。本研究は、この「有効だが使いにくい」NVPに着目し、生成AIを活用することでNVPの本質的な考え方を保ったまま,低コストで実現可能な形へと再構成することを目的とし、NVPをより広いソフトウェア分野でも現実的に活用できる道を探る。   研究内容 ① 課題:NVPは有効だが、使える場面が限られている ・NVPは、飛行制御などの安全最優先システムで実績のある信頼性向上手法 ・ただし、人手による多重開発は非常に高コスト ・そのため、一部の重要システムにしか使えない → 良い技術だが、誰でも使える技術ではなかった   ② 着眼点:NVPの「本質」を保つ ・NVPの本質は、複数の独立した実装による相互チェック ・この考え方自体は、今も有効   ③ 提案:生成AIを用いた低コスト化 ・生成AIを活用し、同一仕様から複数の実装を生成 ・生成条件やモデル設定を調整し、実装の多様性を確保 ・人手による多重開発を、生成AIによって代替 → NVPの思想を維持したまま、コストを大幅に削減   ④ 効果:NVPの再現実化 ・複数結果を統合(多数決)することで、誤りリスクを低減 ・高コストだったNVPを、より身近なソフトウェアへ N-version programming, NVP   関連情報 【論文】Zheng J, Okamura H, Dohi T: Can Generative AI Enhance the Effectiveness of N-Version Programming? SFPVV 2025, LNCS 16356, pp. 1-16, 2026. 【知財】なし   研究者 鄭俊俊ZHENG JUNJUN 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • デジタル/AI
    2026.01.19
    • デジタル/AI
    プライバシーを守る次世代AIの実践と応用

    アピールポイント 個人情報を外部に出さずに、企業内データを用いたAI活用を可能にする 医療・金融など、データ共有が難しい現場における分析・予測業務への応用を想定 セキュリティやコンプライアンス面の負担を抑え、AI導入の実務的ハードルを低減   研究者のねらい 企業や組織がそれぞれ保有するデータを活用し、複数主体が協力してAIモデルを構築するニーズが高まっている。一方で、個人情報や機密情報の取扱いが課題となり、データ共有が現実的でない場面も少なくない。本研究では、データを外部に出さずにAIを活用できる仕組みに着目し、こうした制約下での実用的なAI利用を検討する。金融分野での不正取引自動検知や医療分野での診断支援といったケースを想定し、企業や組織が既存の業務環境の中で段階的にAIを導入できる社会実装を目指す。   研究内容 1.連合学習により、プライバシーを保護しながら医療データを分析 患者データは共有せず、モデル更新情報のみを用いて協調的に診断支援モデルを構築   データ集中型学習と比較して近い性能が得られることを確認した   複数機関による協調学習は、単一機関による学習と比較して性能向上に寄与することが示された   2.差分プライバシーによるプライバシー保護の強化 統計的ノイズを付加することで、個人情報の推定リスクを低減し、プライバシー保護を実現する。   ↓連合学習との組み合わせ ————————————————————————————- モデル更新情報を通じた個人情報の推定リスクを低減し、プライバシー保護をさらに強化することが可能 ————————————————————————————-   3.秘密計算による安全なデータ利活用 秘密計算を活用することで、元データを一切開示することなく、データの結合・分析が可能となる、とされている。   関連情報 【論文】Z. Lian et al., “Privacy-Enhanced Federated WiFi Sensing for Health Monitoring in Internet of Things,” in IEEE Internet of Things Journal, vol. 12, no. 3, pp. 2994-3002, 1 Feb.1, 2025. 【知財】なし   研究者 連卓涛LIAN ZHUOTAO 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 助教

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    2026.01.19
    • デジタル/AI
    ウェーブレットに基づいた円滑化技術による寿命分析の改善に関する検討

    アピールポイント ウェーブレット変換により,任意の寿命関数を異なる解像度で表現. 既存の寿命分析関数にウェーブレット変換を適⽤することで適合精度が向上. 部品やハードウェアに対して,より精度の⾼い寿命分析が可能.   研究のねらい 部品の故障が製品もしくはシステム全体の故障につながることを防ぐため、寿命分布を統計的に推定し、計画的な保守・点検を⾏う必要がある.本研究ではウェーブレットに基づいた寿命分布関数の円滑化技術を開発し,既存の寿命関数に「ズームレンズ」をかけるイメージで異なる解像度で表⽰できる.この円滑化技術を既存の寿命関数に適⽤することによって,より精度の⾼い寿命分析を⾏い,保守コストの削減や信頼性の向上に繋げる.   研究内容   1,背景 寿命分析とは部品の故障時間データから寿命分布関数を統計的に推定し,⼀定の時間において部品が故障しない確率(信頼度)を予測することである.⾼い精度の寿命分析により予防保全の計画策定か製品品質及び顧客満⾜度の向上に繋げたい.   2,ノンパラメトリックモデル 部品の故障時間が従う分布(例えば,指数分布)が事前にわかっていれば,最尤法などを使ってデータからパラメーター推定を⾏えばよい.しかしながら,多くの場合,部品の寿命分布に関して事前知識がないことが多い.ノンパラメトリックモデルは寿命分布に関する事前知識が必要ない汎⽤的な統計⼿法である.   3,ウェーブレットに基づいた円滑化技術 ここで、 ɤは形状パラメーター、mは解像度パラメーター、kɤ,m(t,s)はドブシーウェーブレットで構成された再生カーネル,λ(・)は任意の既知のノンパラメトリックモデル、λm(・)は解像度レベルmで円滑化されたノンパラメトリックモデル   4,応⽤例 NPMLE ︓ノンパラメトリック最尤推定量 NPMLWE︓円滑化技術を適応したNPMLE LogLogist︓パラメトリックモデル(baseline)   5,ツール開発︓Daubechies-WET ⼩修理回数を表すNHPP(⾮定常ポアソン過程)に対して,いくつかのノンパラメトリックモデルやウェーブレットで円滑化されたモデルを実装したツールを開発. HP: daubewet.wujingchi.com   関連情報 【論⽂】 J. Wu, T. Dohi and H. Okamura (2025), A novel lifetime analysis of repairable systemsvia Daubechies wavelets, Annals of Operations Research, vol. 349, pp. 287–314. 【知財】なし   研究者 呉 敬馳WU JINGCHI 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 特任助教

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