日本人の健康関連QOLが7年間で一貫して低下 ―特に就労世代で顕著―<2017・2020・2024年度の全国大規模調査で判明>

概要

  • 広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 平子哲夫客員教授、秋田智之講師、杉山文講師、田中純子特任教授、福間真悟教授の研究グループは、COVID-19流行中を含む2017年度・2020年度・2024年度に実施された全国ランダムサンプリング調査を用いて、日本人成人の健康関連QOL(Health-related Quality of Life:HRQoL)の時系列変化を分析しました。国レベルでCOVID-19の流行前・流行中・流行後のHRQoLを比較した研究は国内外に類例がなく、世界的にも貴重な知見を提供するものです。
  • その結果、日本人成人の全国平均HRQoLは、過去7年間にわたり一貫して低下していることが明らかとなりました。特に、男性では40〜69歳、女性では30〜59歳の就労世代で低下が顕著であり、都道府県別の推定でも、ほぼ全国的に同様の傾向が確認されました。
  • 本研究成果は、国際学術誌 「Scientific Reports」 に掲載されました(2026年4月9日)。

 
発表論文

  • 掲載誌:Scientific Reports (Q1, IF: 3.9)
  • 論文タイトル:Longitudinal changes in health related quality of life in Japan based on nationwide surveys and Bayesian regional estimates(全国調査とベイズ推定による地域別推計に基づく日本の健康関連QOLに関する経年的変化)
  • 著者名:Tetsuo Hirako, Tomoyuki Akita*, Aya Sugiyama, Junko Tanaka , Shingo Fukuma 
    (平子哲夫、秋田智之、杉山文、田中純子、福間真悟)*責任著者
  • DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-45692-x

 
背景

  • 日本では高齢化の進行、労働環境の変化、慢性疾患の増加に加え、新型コロナウイルス感染症の影響など、国民の健康状態に影響を及ぼす要因が複雑化しています。
  • 健康関連QOL(HRQoL)は、疾病負担や生活の質を標準化した総合的評価指標として、広く用いられ、健康・医療政策や地域施策などにおいて重要性が高まっています。
  • しかし、全国規模のランダムサンプリングに基づく時系列データは極めて限られており、小標本を含む都道府県別の変化を精度高く把握した研究はほとんどありませんでした。

 
研究の方法

  • 本研究では、2017年度、2020年度、2024年度に実施された一般住民を対象に実施した肝炎ウイルス検査受検状況調査に含まれるHRQoL項目を解析に用いました。
     対  象:20〜85歳の日本人成人
     調査方法:層化二段抽出法による全国ランダムサンプリング
     有効回答数:2017年度:10,204人(34.0%)
     2020年度:8,810人(44.1%)
     2024年度:4,428人(29.5%)
     HRQoL指標:標準化された国際的な健康関連QOL指標であるEQ-5D-3L(日本語版)
     都道府県別推定:性・年齢調整に加え、経験的ベイズ法1)を用いて小標本の不安定性を補正
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  • 本研究は厚生労働科学研究費補助金(H25-kanenippan-010, H28-kansei-ippan-001, H29-kansei-shitei-001, 19HC1001, 20HC2002, 22HC1001, 23HC2003)の支援を受けて実施しました。
  • 本研究は広島大学の倫理審査委員会の承認を得て実施しました。

 
研究の主な結果

  • 全国平均HRQoL値の推移
    ▷ 0.9133(2017年度)→0.8977(2020年度)→0.8834(2024年度)と7年間で緩やかだが一貫して低下。
  • 就労世代でのHRQoL値の低下が顕著
    ▷ 男性:40〜69歳、女性:30〜59歳で統計的に有意な低下(P < 0.05)。
  • HRQoLの低下には「痛み/不快感」、「不安/ふさぎ込み」の影響が大きい。
  • ▷ 何らかの問題がある回答者の割合

    (男性)

    (女性)
     

  • 都道府県別の傾向
    ▷ 経験的ベイズ法による推定では、ほぼ全ての都道府県でHRQoL値が低下しており、地域差を含めた全国的な傾向であることが確認されました。

    各HRQoL推計値上位の1-5位
    各HRQoL推計値下位の43-47位

 
考察・社会的意義

  • 本研究は、世界的にも貴重な、国レベルでのCOVID-19の流行前中後を含む7年間のHRQoLを比較した初の大規模研究です。
  • COVID-19の流行時には医療サービス利用の減少、身体活動量の低下、メンタルヘルスの悪化など、多くの間接的影響が報告されています。本研究は因果関係を直接検証するものではありませんが、就労世代での顕著なHRQoL低下は、こうした行動・社会的変化の累積的影響を反映している可能性があり、特に緩やかな低下が継続していることに注目が必要です。
  • 都道府県別の状況把握は自治体の健康・医療政策の立案に有用であり、継続的に健康関連QOLのモニタリングを行うための手法が開発されたことは意義があります。

研究者コメント「今回の結果から、日本の就労世代における健康関連QOLは緩やかではありますが、確実に低下していることが示されました。今後の健康・医療政策や地域施策において、就労世代の健康支援策の検討に際し重要な基礎資料になると考えられます。今後も継続的に全国の健康関連QOLのモニタリングを行うとともに、その低下の原因について深く分析することが必要です。」
 
用語解説1)経験的ベイズ法:条件付き確率の関係式であるベイズの定理を用い、新しい情報(データ)が得られたときに、ある事象の確率を更新する統計手法の一つ。小さな標本サイズに起因する不安定性を解消する手法として用いられる。
 
報道発表資料(995.3 KB)
国際学術誌:Scientific Reports
研究者ガイドブック(秋田 智之 講師)
 
【お問い合わせ先】
大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
講師 秋田 智之
Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164
E-mail:tomo-akita*hiroshima-u.ac.jp
 
 (*は半角@に置き換えてください)