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    2026.05.05
    • 食料/農林水産業
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    ゼニゴケのクローン繁殖を誘導する遺伝子を発見 ―農作物種を含むさまざまな植物への応用に期待―

    【本研究成果のポイント】 ゼニゴケのクローン繁殖体形成に必須の新規遺伝子を発見しました。 この遺伝子を活性化させることで、クローン繁殖体の形成を誘導することに成功しました。 本研究の成果は、植物がクローンで増えるメカニズムの解明やその人為的制御手法の開発に貢献するとともに、農作物種を含むさまざまな植物への応用が期待されます。   【概要】広島大学大学院統合生命科学研究科の平川有宇樹 教授と髙橋剛 研究員の研究グループは、学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 清末知宏 教授、山屋沙織 大学院生(研究当時)、英国Cambridge大学 Jim Haseloff 教授、Facundo Romani 博士、神戸大学大学院理学研究科 石崎公庸 教授、広島大学大学院統合生命科学研究科 嶋村正樹 教授らと共同で、コケ植物の一種であるゼニゴケがクローン繁殖体を発生させる引き金となる遺伝子を発見しました。 ゼニゴケは無性芽と呼ばれる小さなクローン繁殖体を自身の体から生み出し、雨水などによって散布されることで個体数を増やすことができます。本研究で発見した遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー)」は無性芽の形成に必須の遺伝子であり、さらに、この遺伝子を活性化させると無性芽形成を人為的に誘導できることが分かりました。本研究の成果は、植物がクローン繁殖を行うメカニズムの解明やその人為的制御方法の開発に重要な知見をもたらすと考えられます。 本研究は、国際学術誌Current Biologyのオンライン版で2026年5月5日午前0時(日本時間)に掲載されます。 1. 雑誌名:Current Biology タイトル: Initiation of asexual reproduction by the AP2/ERF gene GEMMIFER in Marchantia polymorpha 著者:Go Takahashi(髙橋剛), Saori Yamaya(山屋沙織), Facundo Romani, Ignacy Bonter, Kimitsune Ishizaki(石崎公庸), Masaki Shimamura(嶋村正樹), Tomohiro Kiyosue(清末知宏), Jim Haseloff, Yuki Hirakawa*(平川有宇樹) DOI: 10.1016/j.cub.2026.03.083 論文URL:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(26)00431-8 (open access)   【背景】植物は、雄(花粉)と雌(雌しべ)の受粉によって種子をつくるといった有性生殖の他に、無性生殖によっても繁殖します。無性生殖では、不定芽、塊茎、塊根などのさまざまな栄養器官において、配偶子(精子や卵)の形成を経ずにクローン体が生じます。短期間に多くの個体を生産できる繁殖の速さや、雌雄の出会いを必要としない生殖効率の高さから、無性生殖は植物の繁栄を支える重要な仕組みの一つとなっています。また、生殖において遺伝子の混合を伴わないことから、農作物の品質のばらつきを抑える上で有用な仕組みでもあります。しかしながら、植物の無性生殖が起こる発生学的なメカニズムに関する知見は少なく、不明な点が多く残っています。 近年、分子遺伝学的解析の可能なモデル生物として、コケ植物タイ類のゼニゴケが注目されています。ゼニゴケは、胞子を介した有性生殖の他に、無性芽と呼ばれるクローン繁殖体をつくり、この無性芽が雨水などによって外部に散布されることでも繁殖します。これまでに無性芽の発生に関する遺伝子の研究が進められてきましたが、無性芽の発生を開始させる引き金となる遺伝子は分かっていませんでした。   【研究成果の内容】 本研究では、無性芽の発生を開始させる遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー、短縮表記GMFR)」を発見しました(図1:研究成果の概要)。   ■ 1|ゼニゴケの無性芽形成に必須の遺伝子GMFRを発見 研究チームは、先行研究において、CLEペプチドと呼ばれるホルモンの一種がゼニゴケの成長や無性生殖を調節することを見出していました。特に、CLEペプチドの過剰産生株では、無性芽をつくるための器となる構造である「杯状体」が少ないことが分かっていました。この株を用いたトランスクリプト―ム解析によって、発現量の変動する遺伝子群を見つけており、この中には無性芽や杯状体の形成に関与する遺伝子が含まれるのではないか、と考えていました。 本研究では、このうちの一つの遺伝子の働きを抑える実験を行いました。CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術と人工miRNAによるノックダウン技術によって遺伝子を不活性化させると、ゼニゴケは無性芽と杯状体をつくれなくなりました(図2)。そのため、この遺伝子は無性芽形成に必須の遺伝子であることが分かりました(「無性芽(GEMMA)をつくる」遺伝子としてGEMMIFER/GMFRと命名)。 さらに、ゼニゴケの中でGMFR遺伝子が発現している部位を調べるため、蛍光タンパク質を利用したプロモーター活性解析を行いました。その結果、無性芽が生じる起点となる「杯状体底部細胞」や「発生初期段階の無性芽細胞(幹細胞)」において、GMFR遺伝子の発現を示す蛍光タンパク質のシグナルが検出されました(図3)。このことから、GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期の段階で働いていると考えられました。   ■ 2|GMFR遺伝子の働きを活性化すると無性芽を誘導できる 次に、本遺伝子の機能を詳細に解析するため、薬剤投与によって対象遺伝子を強制的に働かせる(過剰発現)ことができる組換え系統を作出しました。このゼニゴケ株では、薬剤のデキサメタゾンを与えることでGMFR遺伝子の働きを一時的に活性化することができます。デキサメタゾン処理を行ったところ、2日後には無性芽発生の起点となる幹細胞ができることが分かりました(図4)。さらに、デキサメタゾンを除いて育成を続けると、1週間ほどで多数の無性芽が生じました。この無性芽を新しい培地に植え替えると新たな個体として成長することも確認しました。この結果から、GMFR遺伝子を活性化することによって無性芽の起点となる幹細胞がつくられ、無性芽の発生を誘導できることが分かりました。   ■ 3|GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現を高めることで機能する 先行研究において、GMFR遺伝子と同じように無性芽形成に必須の遺伝子が複数報告されていました。ただし、これらの遺伝子を活性化しても無性芽が生じることはありません。GMFR遺伝子とこれらの必須遺伝子との関係を調べるため、定量PCRによる発現解析や二重形質転換株の作出による機能解析を行いました。その結果、GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現量に影響を与えていることが分かりました。既知の遺伝子の中で特に重要な役割を持つと考えられていたのがGCAM1遺伝子ですが、本研究の結果、GMFR遺伝子はGCAM1遺伝子の発現量を高める働きを持ち、このことが無性芽や杯状体の形成に重要であることが分かりました。   【今後の展開】本研究により、GMFRという単一の遺伝子が指令を出すことで、無性芽の起点となる幹細胞が生まれ、無性生殖が開始することが分かってきました(図1)。しかし、GMFR遺伝子によって駆動される細胞運命制御のメカニズムの詳細は不明であり、今後解明していく必要があります。GMFR遺伝子はゼニゴケに特有の遺伝子ではなく、無性生殖を行わない種を含む多くの陸上植物が持つことも分かっています。今後の研究においてGMFRの作用機序の詳細が解明できれば、農作物種を含むさまざまな植物のクローン繁殖制御に応用できるかもしれません。また、ゼニゴケの体の中ではGMFR遺伝子が働く時期や強度を調節することで、無性生殖の時期や部位を制御していると考えられます。活性のオン・オフを制御する仕組みの解明も、今後の研究対象として重要です。 【謝辞】 本研究は以下の支援を受けて実施しました。(順不同) 日本学術振興会科研費(JP22H02676) 科学技術振興機構 革新的GX技術創出事業(JPMJGX23B0) 日本学術振興会 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業 英国バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC) 公益財団法人 武田科学振興財団 公益財団法人 木下記念事業団 公益財団法人 内藤記念科学振興財団 公益財団法人 住友財団 広島大学APC助成   【参考資料】 図1.研究成果の概要 ゼニゴケは、無性芽と呼ばれる小さな繁殖体をつくってクローンで繁殖することができます。本研究ではこの無性芽の発生を開始する際に働く遺伝子を発見しました。 図2.GMFR遺伝子の機能欠損による無性芽・杯状体の形成不全 ゲノム編集技術によりGMFR遺伝子の機能を欠損させたゼニゴケ(右)では、野生株(左)とは異なり無性芽と杯状体がまったく形成されない。やじり(ピンク)は無性芽を含む杯状体を示す。   図3.GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期で発現する 蛍光タンパク質を利用したGMFR遺伝子のプロモーター活性解析。図中、緑色で示す蛍光タンパク質のシグナルが、杯状体底部細胞(矢印)および発生初期の無性芽(アスタリスク)で検出された。   図4.GMFR遺伝子の活性化により誘導される無性芽の発生 (左)薬剤誘導後、無性芽の起点となる細胞(アスタリスク)が生じる。 (右)誘導4日後に薬剤を除去し、さらに1週間育てると多数の無性芽が生じる。   報道発表資料(577.18 KB) 論文掲載ページ (Current Biologyに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (平川 有宇樹 教授)   【お問い合わせ先】 ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム 教授 平川 有宇樹 TEL:082-424-7455 E-mail:yuki-hirakawa@hiroshima-u.ac.jp   学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 教授 清末 知宏 E-mail:tomohiro.kiyosue@gakushuin.ac.jp   神戸大学大学院理学研究科 教授 石崎 公庸 E-mail:kimi@emerald.kobe-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   学習院大学 学長室広報センター TEL:03-5992-1008FAX:03-5992-9246 E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp   神戸大学 企画部広報課 TEL:078-803-5106FAX:078-803-5088 E-mail:ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp

    • 食料/農林水産業
    • 情報通信
    2025.08.21
    • 食料/農林水産業
    • 情報通信
    広域の飛翔体に対する羽ばたき振動検出法

    この研究成果は、2025年8月21、22日に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催の大学見本市2025~イノベーション・ジャパンに出展しました。   技術概要ダイナミクスベースド画像認識に基づいた、実時間画素レベル振動イメージングをコア技術とする。特に鳥やドローンなど移動する飛翔体を対象として、複数対象を瞬時に、高い時空間分解能で高倍率撮影するアクティブ振動カメラで広域モニタリングを実現する。   想定される活用事例広域空間での飛翔体モニタリングを実現するスマートセンシング技術を具現化し、空路整備のされていない自由な自然空間において、アンチドローン/スマートアグリ/バードストライク対策等、近年社会問題となっている具体的な応用場面を想定した事業構想を持つ。   1.背景・研究目的 近年、鳥類による経済的被害がますます注目されている 従来の検出方法 遠距離目標の低可視性が識別精度に大きい影響がある 2.技術概要・システム構成 鳥類の振動信号に含まれる特徴 提案手法の概念図とシステム構成 3.検出実験 30m離れた位置からの対象観測 4.想定活用事例 広域な空域を低コストで監視・管理することが可能 研究者 島﨑航平 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 素材
    2025.08.21
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 素材
    マイクロ金属触媒を低コストで自動製造するマイクロロボット

    この研究成果は、2025年8月21、22日に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催の大学見本市2025~イノベーション・ジャパンに出展しました。   技術概要無機膜の自励振動システムを新規に開発しました。さらに、そのアクチュエータ能を応用し、微小非球形金属化合物ビーズを自動射出成形するマイクロロボットの開発にも成功しました。このロボットには、微小金属化合物ビーズ製造装置として従来技術と比較し、以下の新規性・優位性があります。 自己組織化の原理で人による組み立て不要 極小(mmサイズ) 自動組上げ・極小なので低コスト(1000分の1) 単独駆動(外部電源不要) 極小・低コストながら従来のアクチュエータに比肩するエネルギー密度40µJ/cm^3   想定される活用事例開発した無機膜自励振動システムは、微小金属化合物ビーズの製造装置に展開できます。   従来のフェントン処理とその課題 本発明の新規性 自己組織化で製造装置が自動組み立て 単独駆動(外部電源不要) 高エネルギー密度の駆動能(40 µJ/cm3) 極小(µLサイズ)の金属ビーズを自動製造 フェントン条件で自己泳動する金属触媒   優位性 自己駆動材料が自己駆動材料を生産(世界初!) 既設フェントン処理システムを流用可能 電気代(0円~)、製造コスト(22円/kg)の削減   自動泳動微小金属触媒の製造からSTEM教材まで! 本発明の基本原理 実施例1 実施例2 実施例3   企業とのマイルストーン 触媒能のベンチ試験 触媒の耐久/安定性試験 触媒回収/再生法の検証 事業化検証 パイロット製品開発 量産化体制の構築 販売体制の確立   研究者松尾 宗征 広島大学 大学院統合生命科学研究科 助教

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.20
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    原子力・放射線事故発生時にスマホを使って現場で放射線測定が可能に 安価で持ち運べる線量測定システムを開発

    【本研究成果のポイント】 市販の線量計用ラジオフォトルミネセンス(RPL)ガラスと携帯可能な紫外線(UV)照射装置(価格5万円前後)、およびスマートフォンを組み合わせた、低コストで携帯可能な緊急時線量測定技術を開発 緊急事態発生時に個人で高線量被ばくの検出・評価が可能に 放射線影響が懸念される線量レベルでの測定精度は5%未満 現場における患者の迅速なトリアージに貢献   【概要】広島大学原爆放射線医科学研究所線量測定評価研究分野の大学院生・リサーチアシスタントであるソヘイル・アガバクルイと保田浩志教授は、株式会社千代田テクノル大洗研究所(茨城県)の柳田由香研究員、小口靖弘所長の両氏とともに、スマートフォンを使った緊急時用の線量測定技術を新たに開発しました。本研究成果は2026年3月17日、The European Physical Journal Plus誌(Springer Nature社)に掲載されました。   【背景】放射線被ばくの影響から人々を守るには、迅速な個人単位の線量評価が不可欠です。銀を添加したアルカリリン酸塩ガラスからなるRPL線量計は、個人被ばくおよび環境モニタリングに広く用いられています。 しかし、RPL線量計の読取りには通常、大型で高価な装置が必要であり、原子力事故等の放射線緊急事態に求められる、被ばくした人の線量を現場で直ちに評価して適切な医療処置を施せるようにすることは困難です。安価で個人で携行できる装置を用いて、誰もが正確で再現性の高い線量測定ができるようになれば、より安全・安心な放射線業務の遂行と、万が一の事故発生時にも迅速で確かな治療の実施につながるものと期待されます。   【研究成果の内容】放射線業務従事者の被ばく管理に使われている市販のRPLガラス(8mm×8mm×1.5mm)に、X線(160kVp、6.3mA)を0.5~10Gyの範囲で照射し、携帯型UV照射器(波長λ=254mm)でUV光を当てると、RPLガラスは青色から線量に応じた強度のオレンジ色へ変化することが確認されました。このRBG(赤・緑・青)カラー画像を、ISO感度(ISO)、ホワイトバランス(WB)、シャッタースピード(SS)を変えながら、異なるタイプのスマートフォン(サムソン社製GalaxyS23およびNote8)で撮影し(図1)、色強度と線量の関係を明らかにしました。 RGB色成分のうち、赤色は両スマートフォンにおいて最も強く、かつ一貫した線量応答を示しました。高感度測定(ISO800~1600、ホワイトバランス9000~10000K、シャッタースピード0.1秒)の撮影条件では相対的な背景ノイズが最小になり、RPLの強度を正確に(3回の測定で5%未満の変動で)測定できることが確認できました(図2)。本研究で得られた知見から、RGB色強度と線量との関係を予め定量化しておき、スマートフォンのカメラ設定を最適化すれば、本研究で提案した安価なシステムを用いて、放射線誘起RPLを正確に測定し、放射線の健康への影響の観点から重要な0~10Gyの線量範囲を正確に評価できることが確認されました。   【今後の展開】本研究で得られた知見を基盤として、今後はさらに小型で安価なUV照射装置および最新モデルのスマートフォンの多様な組み合わせに適用できる、標準となる緊急時線量測定用のプロトコル確立を目指して検討を進めていく予定です。   【論文情報】 掲載誌:The European Physical Journal Plus 論文タイトル:A low-cost emergency dosimetry technique using radiophotoluminescence glass DOI:https://doi.org/10.1140/epjp/s13360-026-07529-4 著者名:Soheil Aghabaklooei, Hiroshi Yasuda*, Yuka Yanagida & Yasuhiro Koguchi   本研究は、日本学術振興会(JSPS)「Japan’s Peak Research Universities形成プログラム(JSPS J-PEAKS)」および「放射線災害医療科学ネットワーク型共同利用・共同研究拠点プログラム」の一部支援を受けて実施されました。   報道発表資料(465.48 KB) 論文掲載ジャーナル (The European Physical Journal Plus) 広島大学研究者ガイドブック (保田浩志 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学原爆放射線医科学研究所保田浩志 Tel:082-257-5872FAX:082-257-5873 E-mail:hyasuda*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    2026.05.19
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    「イメージの多様性」は年代によって異なる ―若い人ほど、イメージが浮かばない(アファンタジア)割合が高くなる―

    概要みなさんは“バナナをイメージしてください”と言われたとき、頭のなかでバナナが見えますか?このことを心理学では「(心的)イメージ」と呼んでいます。最近、このイメージが浮かばない(見えない)特質―アファンタジア(aphantasia: Zeman et al., 2015)―が知られるようになってきました。 これまで、国内では福島大学を中心とする研究チームによって取り組んできました。今回、アファンタジア研究として新たな知見が得られましたので、その成果をご報告いたします。   アファンタジアの出現率は年代(20~70歳代)によって変化し(0.7~4.5%)、特に20・30歳代における出現率が高い(3.6~4.5%) 20・30歳代では「多感覚アファンタジア(全ての感覚イメージが浮かばない)」や「視覚アファンタジア(視覚イメージが特異的に浮かばない)」などのサブタイプが抽出されるが、年代が上がると抽出されにくくなる   以上の結果から、年代に応じてアファンタジアの出現率が変化することがわかります。アファンタジアは多様な認知スタイルの一種であり、私たちは、“認知には多様性が存在する”ということをあらためて理解すべきです。 この研究成果は『Neuropsychologia』誌に掲載されています。みなさまにアファンタジアの存在を知っていただきたく、ご報告いたします。   研究成果のポイント 年代によるアファンタジアの「出現率」と「サブタイプ」の違いを検討するために、20~70歳代の約2,500名を分析対象とした大規模調査を実施しました。 出現率:40~70歳代(0.8~1.7%)に比べて、20・30歳代(3.6~4.5%)の方が、アファンタジアの出現率が高い結果となりました。 サブタイプ:20・30歳代では「多感覚アファンタジア」や「視覚アファンタジア」のサブタイプが抽出された一方で、40~70歳代ではサブタイプは確認できませんでした。 年代によってどのようにイメージ能力が変化していくか(発達的変化)、に関しては縦断的検討などもふまえて今後も検討が必要です。 研究の背景目の前にはない物や人の顔を頭のなかで思い浮かべることを心理学では「(心的)イメージ」と呼んでいます。ここ10年ほどでイメージを思い浮かべられない特質が報告されるようになり、これをアファンタジア(aphantasia:Zeman et al., 2015)と呼んでいます。 研究が進むなかで、アファンタジアの認知特性などが明らかになりつつあります。一方で、アファンタジアの同定方法や出現率・サブタイプの存在など、研究の根幹にかかわる部分については、未だに不明な点が多々あります。特に、アファンタジアの出現率が年代に応じてどのように分布しているのか、それは発達的に変化するのかなどは、社会におけるアファンタジアの理解を進めるうえで重要なデータとなります。これらを明らかにするため、私たちは社会人を対象とした大規模調査を実施しました。   研究の手法調査参加者オンライン・サンプリングによるweb調査を行いました。調査参加者は20~70歳代の社会人であり、分析対象者は2,558名(男性1,184名,女性1,374名)でした。 本研究の実施については、福島大学研究倫理委員会の審査を経ています(2021-01)。 質問紙【アファンタジアの出現率】アファンタジアかどうかを同定する質問紙として、視覚イメージ鮮明性質問紙(VVIQ: Marks, 1973)を用いました。これは先行研究(Dance et al., 2022;Zeman et al., 2015)でも用いられている基準となります。質問項目には、たとえば“よく会っている親戚とか友人の顔や頭、肩、体の正確な輪郭”や“木や山や湖のある風景の木々の色と形”などについてイメージして、その鮮明度について評定を行うものがありました。評定は、それぞれ5段階(1:全くイメージがわかない~5:完全に明瞭)で求めました。このような質問を16項目設定し、その評定点を合計してアファンタジアに該当するかどうかの基準として用いました(合計点は16点~80点の範囲)。 【アファンタジアのサブタイプ】多感覚イメージについても着目し、イメージ質問紙(QMI:Betts, 1909;Sheehan, 1967)を用いました。質問項目には、たとえば“機関車の汽笛(聴覚イメージ)”や“木綿の布地(触覚イメージ)”などがありました。視覚、聴覚、触覚、運動感覚、味覚、嗅覚、有機感覚(内臓感覚)の7つについて、それぞれ5項目が設定されました(合計で35項目)。評定は、それぞれ7段階(1:全くイメージがわかない~7:完全に明瞭)で求めました。   研究の成果【出現率】アファンタジアの同定基準(VVIQ ≦23:Zeman et al., 2020)をもとに、分析対象者のVVIQ評定点を用いて出現率を算出したところ、3.6%(20歳代)、4.5%(30歳代)、1.7%(40歳代)、1.7%(50歳代)、0.7%(60歳代)、0.8%(70歳代)となりました。つまり、20・30歳代(3.6~4.5%)の方がその他の40~70歳代(0.8~1.7%)よりも出現率が高い結果でした(図2)。 【サブタイプ】各年代のQMI評定点を用いてクラスター分析を行うことで、多感覚アファンタジアや視覚アファンタジアなどのサブタイプがどの程度存在しているか、そして年代による違いがあるかどうかを検討しました。結果として、20・30歳代では多感覚アファンタジアや視覚アファンタジアが抽出されましたが、その他の40~70歳代では確認できませんでした(図3)。   【研究の意義】これまでも、海外の研究(Dance et al., 2022)や国内の私たちの研究(Takahashi et al., 2023)によって、アファンタジアの出現率やサブタイプの存在については報告されてきました。特に私たちの研究(Takahashi et al., 2023)から、サブタイプとして「多感覚アファンタジア」と「視覚アファンタジア」などの存在が明らかとなってきました。このことから、イメージが浮かびにくいアファンタジアの人たちが一定数存在していること、そこには様々なタイプも存在していることがわかります。 さらに本研究により、その出現率は年代によって変化することが明らかとなりました。年代によるアファンタジアの出現率の違いが見られたことは、アファンタジア研究、特にアファンタジアを同定するための基礎データの蓄積に貢献できます。また、今後のアファンタジア研究を展開するうえで、どのような人たちをアファンタジアと定義できるか、その研究法にも寄与するものと考えられます。結果として、アファンタジアの特性解明が進み、社会におけるアファンタジアの理解促進につながるものと期待できます。   今後の課題本研究の限界として、なぜ20・30歳代でアファンタジアの出現率が高くなったのか、そのメカニズムについては十分に説明できていません。たとえば、質問紙における「イメージ評定」に関する意識の個人差が影響したかもしれません(若い人ほど評定がシビアになる、など)。あるいは、イメージ形成には発達的変化があるのかもしれません(数年間の縦断的方法によって解明できるかもしれません)。継続した調査研究が必要であり、今後も信頼性・妥当性のあるアファンタジアの同定方法を追究していきます。 図2. 各年代におけるVVIQの平均評定値(棒グラフ)およびアファンタジアの出現率(折れ線グラフ)。赤枠の範囲が他の年代よりもアファンタジアの出現率が高い。 ※ 本報告用にグラフを作り変えています。   (a) (b) 図3. 多感覚イメージに関するサブタイプの分析(例として、20歳代(a)と70歳代(b)の結果)。20歳代(a)では多感覚アファンタジア(クラスター1)と視覚アファンタジア(クラスター2)が明確に抽出されたが、70歳代(b)でははっきりしない結果であった。 ※ 本報告用にグラフを作り変えています。   掲載誌・論文情報【タイトル】Age differences in visual and multisensory imagery: Notes on distributions of aphantasia and hyperphantasia in individuals aged 20s–70s. 年代における視覚イメージおよび多感覚イメージの違い:20―70歳代におけるアファンタジアとハイパー・ファンタジアの出現率の違い 【著者】Takahashi, J., Omura, K., and Sugimura, S. 【所属】髙橋純一(福島大学) 大村一史(山形大学) 杉村伸一郎(広島大学) 【掲載誌】Neuropsychologia 【公開日】2026年3月12日付けでオンライン公開 【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.neuropsychologia.2026.109433   当事者のエピソードに関する翻訳本 『アファンタジア』北大路書房、2021年 国内の当事者を対象としたエピソードをまとめた著書 『イメージの<ない>世界に生きるアファンタジア』北大路書房、2025年   報道発表資料(893.23 KB) 論文掲載ジャーナル(Neuropsychologia) アファンタジア研究に関連する情報 研究情報を発信しているwebサイト 広島大学研究者ガイドブック (杉村伸一郎 教授)   【お問い合わせ先】 【研究に関すること】 福島大学人間発達文化学類教授髙橋純一 MAIL: j-takahashi*educ.fukushima-u.ac.jp   山形大学 教育学部教授大村一史 MAIL: omura*e.yamagata-u.ac.jp   広島大学 大学院人間社会科学研究科 教授杉村伸一郎 MAIL: shinsugi*hiroshima-u.ac.jp   【広報に関すること】 福島大学総務課広報・渉外室 TEL: 024-548-5190 MAIL: kouho*adb.fukushima-u.ac.jp   山形大学総務部総務課秘書広報室 TEL:023-628-4008 MAIL: yu-koho*jm.kj.yamagata-u.ac.jp   広島大学広報グループ TEL: 082-424-3749 MAIL: koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.19
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    データから疾患進行の個人差を読み解く 〜進行の「速さ」と「進み方」の違いを捉える新手法を開発〜

    【本研究のポイント】 疾患進行の個人差を、「どのように進むか」という進行経路と、「どのくらいの速さで進むか」という進行速度に分けて捉える新しい機械学習手法DiSPAHを開発 四肢発症型ALS患者の縦断データを解析した結果、進行経路が異なる複数のサブグループが存在し、さらに各サブグループの中でも進行速度にばらつきがあることを発見 進行速度に関連する遺伝的特徴や疾患の背景にある分子レベルの仕組みの一端を解明 DiSPAHから得られる情報はALS関連機能低下リスクの評価に役立ち、初期の臨床情報や遺伝情報から将来の進行を見通す手がかりとなる可能性を示唆   【研究概要】名古屋大学大学院医学系研究科データ駆動生物学の矢田 祐一郎 准教授、本田 直樹 教授(兼任:広島大学大学院統合生命科学研究科特任教授)の研究グループは、疾患進行の個人差を「どのように進むか」という進行経路と、「どのくらいの速さで進むか」という進行速度に分けて捉える新しい機械学習手法DiSPAHを開発しました。神経変性疾患をはじめとする慢性疾患の多くは、患者ごとに症状の現れ方や進行の速さが大きく異なるため、予後予測や治療計画、臨床試験の設計が難しいことが課題となってきました。しかし、既存の解析手法では、「どのような症状から優先的に現れるのか」という「進行経路」と、「症状の変化がどのくらいの速さで進むのか」という「進行速度」を明確に区別して捉えることが難しく、それぞれの個人差の要因を十分に明らかにできませんでした。   本研究では、進行に個人差が大きいことが知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象とし、四肢発症型ALS患者264人におけるALS機能評価尺度の縦断データをDiSPAHで解析しました。その結果、ALSの進行は一様ではなく、複数の特徴的な進行経路を示すサブグループが存在すること、加えて同じサブグループの中でも進行速度にばらつきがあることが明らかになりました。さらに、より大規模なALS患者を対象とした研究から得られた2,565人のデータを用いた解析でも、同様の進行パターンが再現されました。 また、進行速度に関連する遺伝的特徴や分子基盤の一端が示されるとともに、DiSPAHから得られる情報がALS関連機能の低下リスクの評価に役立つ可能性も示されました。今後、検証を重ねることで、DiSPAHが疾患進行の理解を深め、将来的には患者ごとの予後予測や個別化医療への応用につながることが期待されます。 本研究成果は、2026年5月12日付で、国際学術雑誌『npj Digital Medicine』にオンライン掲載されました。   1. 背景神経変性疾患をはじめとする慢性疾患では、同じ病気であっても、ある患者では急速に進行する一方、別の患者では比較的ゆっくり進行するなど、経過に大きな個人差があります。加えて、どのような症状から現れ、どのような順序で進行していくのかも患者によって異なります。こうした個人差の大きさは、予後予測や治療計画の立案、さらには臨床試験の設計を難しくする要因となってきました。 近年では、同じ患者を長期間追跡して得られた臨床縦断データを機械学習モデルで解析し、観測される症状や検査結果の変化の背後にある、直接は観測できない疾患進行状態を仮定し、その状態の推移を推定する技術の開発が進められています。しかし、既存の手法では、「どのような症状から優先的に現れるのか」という「進行経路」と、「症状の変化がどのくらいの速さで進むのか」という「進行速度」とを明確に区別して捉えることが難しく、それぞれの個人差の要因を十分に明らかにできませんでした。 図1:疾患進行の「進行速度」と「進行経路」の個人差を切り分ける機械学習モデル 2. 研究成果本研究グループは、患者ごとの「進行経路」と「進行速度」を切り分けて同時に推定するため、連続時間隠れマルコフモデル*1)に基づく機械学習手法DiSPAHを開発しました。DiSPAHは、臨床縦断データを解析することで、症状変化の背後にある目に見えない疾患進行状態を同定し、あわせて患者ごとに、状態遷移のパターンとして表される進行経路と、遷移の進みやすさを表す進行速度を明らかにします(図1)。 研究グループは、「進行経路」だけでなく「進行速度」にも大きな個人差があることが知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象に、ALS機能評価尺度であるALSFRS-R*2)の臨床縦断データに本手法を適用しました。まず、米国のAnswer ALSコホートのうち条件を満たした264人の四肢発症型ALS患者の縦断データを解析し、DiSPAHによって患者ごとの進行速度と進行経路を推定しました。その結果、ALSの進行は一様ではなく、6つの特徴的な進行経路を示すサブグループが存在し、加えて各サブグループの中でも進行速度に一定のばらつきがあることが明らかになりました(図2)。さらに、Answer ALSコホートで同定された疾患進行状態をもとに、より大規模なPRO-ACTコホートの2,565人のデータを同じ手法で解析したところ、Answer ALSコホートで認められた進行パターンと似た傾向が再現されました。 図2:DiSPAHにより同定された進行経路のサブグループと進行速度 推定された進行速度と遺伝的な特徴の関連を調べると、C9orf72の遺伝子変異をもつ患者では進行速度が速い傾向が示されました。加えて、患者のiPS細胞に由来する運動ニューロン*3)の網羅的な遺伝子発現データ・タンパク質発現データとの関連を解析すると、タンパク質翻訳恒常性の破綻や酸化ストレスが進行速度に関わっている可能性が示唆されました。 臨床的な意義としては、臨床縦断データの追跡期間全体からDiSPAHが推定した進行速度や進行経路は、生存やALS関連機能の低下リスクと関連していました。さらに、進行速度や進行経路は追跡開始時点の臨床情報と遺伝情報からある程度予測可能であり、ALS関連機能低下リスク定量の性能を評価した結果、従来の指標だけでは捉えにくい情報をDiSPAHが補える可能性が示されました。   3. 今後の展開本研究で開発したDiSPAHは、疾患進行の個人差を「進行経路」と「進行速度」に分けて捉えることで、従来の手法では捉えにくかった疾患進行の違いをより細やかに理解することを可能にする新しい枠組みです。今後、より多様なALSの病型や、他の神経変性疾患を含むさまざまな慢性疾患への応用、より多くの医療機関や患者集団を用いた検証を進めることで、手法としての信頼性や汎用性の向上が期待されます。将来的には、初診時に近い段階で得られる情報からその後の疾患進行を見通せるようになれば、患者一人ひとりに応じた説明や治療計画の立案、さらには治験参加者の選定などへの応用も期待されます。また、進行の仕方に関連する遺伝的背景や分子基盤の理解が深まることで、新たな病態理解や治療標的の探索につながる可能性もあります。 ムーンショット目標2「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」では、疾患の発症や進行を早期に捉え、予測・予防につなげるための研究開発が進められています。DiSPAHは、臨床データから疾患進行の個人差を捉え、将来的な疾患進行リスクの評価にもつなげることができる手法です。データに基づく疾患予測技術の発展に貢献し、将来的な超早期予測・予防の実現に向けた基盤として、ムーンショット目標2の達成に寄与することが期待されます。   4. 支援・謝辞本研究は、以下の研究プロジェクトの支援のもとで行われたものです。 JST ムーンショット型研究開発事業 目標2「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」 JPMJMS2024 JSPS 科学研究費助成事業 JP23K16994 AMED 脳神経科学統合プログラム(個別重点研究課題)JP24wm0625416 and JP25wm0625322 JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「複雑生体現象の予測と制御に向けた離散・連続の統合幾何解析の構築と応用」 JPMJCR25Q2 また、本研究では米国AnswerALSコホートおよびPRO-ACTコホートのデータを使用しました。   【用語説明】 *1)連続時間隠れマルコフモデル:時間の経過に伴う確率的な状態の変化を表す数理モデルの1つ。「隠れ」とは、状態が直接は観察できないことを意味し、本研究では疾患の進行状態に相当する。「連続時間」は、観察の間隔が一定でないデータも扱えることを意味し、受診時期が不規則な臨床データの解析に適している。 *2)ALSFRS-R:ALS Functional Rating Scale-Revised の略で、ALSの機能障害の程度を評価するために広く用いられている指標。会話・嚥下、手の動き、歩行、呼吸などに関する12項目から構成され、患者の日常生活機能を総合的に評価する。 *3)運動ニューロン:脳や脊髄から筋肉へ信号を送り、体を動かす働きを担う神経細胞。ALSでは、この細胞が障害されることで筋力低下が生じる。   【論文情報】雑誌名:npj Digital Medicine 論文タイトル:Decomposing heterogeneity in disease progression speeds and pathways 著者:Yuichiro Yada1,2 and Honda Naoki1,3,4 1. Nagoya University Graduate School of Medicine 2. Institute for Advanced Research, Nagoya University 3. Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University 4. Center for One Medicine Innovative Translational Research (COMIT), Nagoya University   DOI: 10.1038/s41746-026-02665-8   報道発表資料(2.73 MB) 論文掲載ページ (Decomposing heterogeneity in disease progression speeds and pathwaysに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田直樹 特任教授)   【お問い合わせ先】 【研究者連絡先】 名古屋大学大学院医学系研究科データ駆動生物学 准教授矢田祐一郎(やだゆういちろう) TEL:052-744-1980 E-mail:yada.yuichiro.k4*f.mail.nagoya-u.ac.jp   【報道連絡先】 名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係 TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785 E-mail:iga-sous*t.mail.nagoya-u.ac.jp   広島大学広報グループ TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   科学技術振興機構 広報課 TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432 E-mail:jstkoho*jst.go.jp   【JST事業連絡先】 科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業部 松尾 浩司(まつおこうじ) TEL:03-5214-8419 FAX:03-5214-8427 E-mail:moonshot-info*jst.go.jp   東海国立大学機構は、岐阜大学と名古屋大学を運営する国立大学法人です。 国際的な競争力向上と地域創生への貢献を両輪とした発展を目指します。 東海国立大学機構HPhttps://www.thers.ac.jp/   (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.05.19
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    働く世代で見つかる「心房細動」は腎機能低下のサイン ―心臓と腎臓の「悪循環」を防ぐため、早期発見が重要

    【概要】広島大学大学院医系科学研究科 福間真悟 教授(兼:京都大学大学院医学研究科 特定教授)、京都大学大学院医学研究科 森雄一郎 博士課程学生(現:同大 特定研究員)、宮崎大学 池之上辰義 教授、京都大学大学院医学研究科 柳田素子 教授らの研究チームは、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する就労世代の健康診断および医療データを分析し、不整脈の一つである「心房細動(しんぼうさいどう)」が新たに見つかると、その後の腎機能が年齢に伴う自然な低下と比べて加速することを明らかにしました。 これまで心臓に病気のなかった35〜59歳の約770万人のデータから、新たに心房細動が見つかった約2.3万人を追跡調査しました(追跡期間中央値:4.7年)。その結果、心房細動のない人と比べて、年間の腎機能低下スピードが速いことが分かりました。近年、心臓病・腎臓病・代謝疾患が互いに悪影響を及ぼし合う「心血管・腎・代謝症候群」という概念が注目されています。本研究は、働く世代における心房細動が、心臓のみならず腎臓へのダメージを引き起こし、この悪循環を加速させる引き金になりうることを国内最大規模のデータで初めて示したものです。 研究チームは、「健診で見つかった不整脈を単なる1個の異常所見と考えるのではなく、全身の健康を見直すきっかけにすることが重要」とコメントしています。 本成果は、国際学術誌『JAMA Network Open』に2026年米国時間5月14日付(日本時間5月15日)で掲載されました。     働く世代で見つかる「心房細動」が腎機能低下のサインに―心臓と腎臓の「悪循環」を防ぐ早期発見の重要性― 広島大学、宮崎大学、京都大学の研究チームは、国内最大規模の医療保険データを用いた調査により、働く世代(35~59歳)で新たに見つかる「心房細動」が、その後の腎機能低下スピードの上昇と関連していることを明らかにしました。 この成果は、2026年5月14日付で米国医師会の国際学術誌 JAMA Network Open に掲載されました。   1.背景心房細動は健康診断で偶然見つかることも多い不整脈であり、脳梗塞や心不全の重大な原因となります。研究チームは先行研究において、働く世代で見つかった心房細動が、将来の脳梗塞リスクが5倍、心不全リスクが18倍高まる徴候であることを報告しました(2025年、米国心臓協会誌『Circulation』掲載)。 近年、医療の現場では、心臓病、腎臓病、そして肥満や糖尿病などの代謝疾患が互いに悪影響を及ぼし合い、全身の臓器障害を進行させる「CKM(心血管・腎・代謝)症候群」という考え方が重要視されています。しかし働く世代において、新しく見つかった心房細動が心臓そのものだけでなく「腎臓」にどのような悪影響を及ぼすのかは、これまで大規模なデータで検証されていませんでした。   2.研究手法・成果研究チームは、全国健康保険協会(協会けんぽ)のデータ(2015〜2023年)を用い、過去に心血管疾患や末期腎不全のない35〜59歳の男女約770万人の健診記録を分析しました。そのうち、新たに心房細動が見つかった23,510人と、年齢や性別などの条件を揃えた心房細動のない117,550人を比較し、その後の腎機能(eGFR:推算糸球体濾過量)の変化を比較しました。   腎機能の低下スピードが加速: 心房細動が見つかった人は、見つからなかった人と比べて、年間の腎機能低下量(eGFRの低下)が有意に大きいことが確認されました(-1.23 vs. -0.94 mL/min/1.73m²/年)。心房細動が見つかる前の低下スピードには両群で差がなかったことから、心房細動の発症が腎機能低下の引き金になったと考えられます。 大幅な腎機能低下リスクが3倍: 腎機能が基準時から30%以上低下する重大イベントの発生リスクは、心房細動が見つかった人で約3倍(ハザード比2.91)に達しました 正常な脈(洞調律)に戻った人では低下が緩やかに: 心房細動が初めて確認された後、1年後の健診等で正常な脈(洞調律)に戻っていた人は、心房細動が続いていた人と比べて、腎機能の低下スピードが有意に緩やかでした。   3.波及効果【研究の意義】 本研究により、働く世代における心房細動が「心臓」だけでなく「腎臓」の機能低下を加速させるリスク因子であることが明らかになりました。これは、心房細動がCKM(心血管・腎・代謝)症候群の進行を早めるシグナルであることを示唆しており、若い世代における心房細動への早期介入の効果検証研究を心臓のみならず全身を俯瞰するテーマで推進する重要性を指示する結果であり、また心房細動のみならず心臓に生じる軽微な異常をCKM(心血管・腎・代謝)症候群の初期症状として認識する重要性を示唆しています。 【社会へのメッセージ】 心房細動が見つかったとしても、すぐに薬の服用や手術が必要かどうかは、人によって様々です。それであっても、健康診断で「心房細動」を指摘された場合、医療機関を受診することが重要です。直接不整脈を治すための薬や手術だけでなく、血圧や血糖のコントロールなど生活習慣の見直しが、将来の心臓の健康や慢性腎臓病の予防につながります。   4.研究プロジェクトについて本研究は、協会けんぽの「外部有識者を活用した委託研究事業」で採択された、 福間真悟 教授の研究班「保健事業による健康アウトカムを改善するための行動インサイト:因果探索の応用」の一環として実施しました(助成番号:23JHIA04)。   <用語解説>『心房細動』:心臓の上部にある「心房」という部屋が、けいれんするように不規則に細かく震える不整脈の一種です。自覚症状がない場合も多いですが、心臓の中に血の塊(血栓)ができやすくなるため脳梗塞の主な原因となるほか、心臓のポンプ機能が低下して心不全を引き起こすこともあります。   『心不全』:心臓のポンプ機能が低下する病気です。進行すると、息切れやむくみ、だるさといった症状が現れ、生命に関わることもあります。   『腎機能・慢性腎臓病』: 腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として体外へ排出する重要な働きを担っています。本研究で用いたeGFR(推算糸球体濾過量)は、この腎臓の働き(腎機能)を評価する指標です。この腎機能が慢性的に悪化した状態を「慢性腎臓病」と呼びます。進行して人工透析などの腎代替療法がいよいよ避けられなくなるまで無症状で気づかないことも多く注意が必要で、また心血管疾患(心不全など)のリスクも高めることが知られています。   『全国健康保険協会(協会けんぽ)』: 日本の公的医療保険を運営する「保険者」の一つで、主に中小企業の従業員とその家族が加入しています。加入者数が約4,000万人にのぼる日本最大の保険者です。   <研究者のコメント>働く世代に生じた心房細動は、単に心臓に限った問題ではなく、腎臓といった一見離れた臓器にも今後障害が生じてくる重要なシグナルになりうることが分かりました。 今後は、こういった働く世代で心房細動に早期に介入することが腎臓にも良い影響があるのか、また他のこれまであまり問題ないと言われてきた他の軽い心電図異常についてもCKM(心血管・腎・代謝)症候群の観点で重要なシグナルになり得るのか、明らかにしていきたいと考えています   <論文タイトルと著者> タイトル: New-Onset Atrial Fibrillation and Accelerated Kidney Function Decline in Working-Age Adults 著者:Yuichiro Mori(森雄一郞), Keita Hirano(比良野 圭太), Tatsuyoshi Ikenoue(池之上 辰義), Arisa Kobayashi(小林亜里沙), Motoko Yanagita(柳田素子), Shingo Fukuma(福間真悟*)*責任著者 掲載誌: JAMA Network Open 掲載日:2026年5月14日付(米国時間)(オンライン) DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2026.12823   報道発表資料(409.77 KB) 論文掲載ページ (New-Onset Atrial Fibrillation and Accelerated Kidney Function Decline in Working-Age Adultsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (福間真悟 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 福間 真悟(ふくま しんご) 広島大学大学院医系科学研究科 教授(兼:京都大学大学院医学研究科 特定教授) TEL:082-257-5162 E-mail:shingo-fukuma*hiroshima-u.ac.jp , fukuma.shingo.3m*kyoto-u.ac.jp   <協会けんぽ『外部有識者を活用した委託研究事業』に関すること> 全国健康保険協会 企画部 調査分析・研究グループ 担当:馬場 武彦 TEL:03-6680-8476(直通) FAX:03-3355-0600 E-mail:99kenkyu.86t*kyoukaikenpo.or.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   京都大学 広報室 国際広報班 TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094 E-mail:comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.05.14
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    PAI-1阻害薬「TM5614」の抗老化効果をヒトで確認 -XPRIZE Healthspanセミファイナル臨床試験結果-

    【発表のポイント】 XPRIZE Healthspan (注1)のセミファイナル臨床試験において、PAI-1阻害薬「TM5614」(注2)を高齢者へ4ヶ月投与した結果、生物学的年齢(注3)が平均2〜3歳若返るなど、ヒトの遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク・細胞レベルで抗老化効果を確認しました。 免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、凝固・線溶、抗酸化など、広範な改善が確認され、比較的健常な高齢者にも安全に投与可能であることが示されました。 TM5614は「老化細胞を除去し、種々の加齢に伴う症状を改善できる新たな内服薬(Senolytic drug)候補」として健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆され、XPRIZE Healthspanファイナル試験への申請に向けた重要な臨床データが取得できました。   【概要】これまでTM5614は多くのがん患者には投与されてきましたが、比較的健康な高齢者を対象とした臨床試験は初めてです。 東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは、国際的な長寿コンペティション「XPRIZE Healthspan」のセミファイナル臨床試験(特定臨床研究)を実施しました。本試験では、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有する50歳以上75歳以下の被験者20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。その結果、生物学的年齢が平均して2〜3歳若返り、免疫や再生の機能が回復し、老化を促す物質が減少するなど、全身の抗老化を示唆する知見が確認されました。さらに、老化関連microRNA(注4)の減少、抗炎症や代謝改善に関わるタンパク質の変動、免疫細胞および造血幹細胞の機能回復、酸化ストレスマーカーの改善など、遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク、細胞レベルにわたる広範な改善が認められました。また、重大な副作用は確認されず、比較的健康な高齢者に対しても安全に投与可能であることが示されました。 本成果は、老化そのものに介入する内服薬の臨床応用の可能性を示すものであり、健康寿命の延伸に向けた新たな治療戦略として期待されます。今後は、2026年8月のファイナリスト選定を経て、日本、米国、サウジアラビア、台湾との国際共同による大規模臨床試験の実施を目指します。   【詳細な説明】研究の背景XPRIZE Healthspanの公募要項によれば、セミファイナリスト(TOP40)は、最終的な4年間のファイナル臨床試験の実現可能性を支持するための短期間(4週〜8週)、小規模(5~20人)の臨床試験をセミファイナル臨床試験として実施しなければいけません。そこで、東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは共同で、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有し、症状が安定している50歳以上75歳以下の20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与する非盲検試験をセミファイナル臨床試験として実施しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。 投与期間が短期間のため、各種臓器の抗老化作用を評価することは難しいことから、老化、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、各種臓器の老化に関わる遺伝子、エピゲノム(遺伝子修飾)、タンパク、細胞などのバイオマーカー(注5)の変動を解析しました。 実施医療機関は東北大学、さらに検査などの協力機関として広島大学、東海大学が参加しました。TM5614を4ヶ月間投与した前後の検査が実施できた19名の患者(平均年齢60.4±5.6歳、男性13名、女性6名)を有効性評価の対象とし、TM5614投与を受けた20名の患者を安全性評価の対象としました。 その結果、安全性に関しては、TM5614との因果関係が否定できない有害事象は1例で認められましたが(軽度肝機能異常)、その他の重篤な副作用は出血イベントを含めて確認されませんでした。 また有効性に関して、投与期間は4ヶ月と比較的短い期間でしたが、全身の抗老化を示唆する下記の知見が確認されました。   (1) エピゲノムあるいは遺伝子レベルでの改善 1) 生物学的年齢 (Epigenetic clock)の若齢化 遺伝子 (DNA)のメチル化修飾(エピゲノム)を解析することにより、生物学的年齢を推定することが可能です。白血球を用いたDNAメチル化解析に基づき、Horvath法及びPC-Horvath法(注6)を用いて生物学的年齢を推定した結果、対象者の実年齢(平均60.4歳)に対し推定した生物学的年齢はそれぞれ61.7歳および58.0歳と、実年齢に近い値を示しました。4ヶ月間の投与後における解析では、Horvath法で58.3歳(p< 0.001, 19人中15人で減少)、PC-Horvath法で56.1歳(p< 0.001, 19人中18人で減少)へと有意な若齢化が認められました(それぞれ3.4歳および1.9歳の生物学的年齢の若齢化を確認しました)(図1)。   2)老化関連microRNA(Senescence-associated (SA)-miRNA)の減少 microRNA(miRNA)は、遺伝子発現を調節する長さ約20塩基のRNAです。血清中の老化関連senescence-associated(SA)-miRNAを解析したところ、SA-miRNA(miR-22-3p、miR-18a-5p、miR-28-5p、miR-17-3p、miR-195-5p、miR-205-5p)はいずれも有意に低下し、老化を誘導する遺伝子発現制御が軽減したことが示唆されました(図2)。   (2)タンパクレベルの改善 アプタマー(核酸抗体)を用いたソマスキャンアッセイ(注7)により7596個の血漿タンパク質を解析しました。有意に増加したタンパクが 356個(4.7%)、有意に低下したタンパクが199個(2.6%)でした。19人中多くの被験者が同様に変化し、有意な変動が認められたタンパク質が複数見出されました。抗加齢作用と関連する複数のタンパク質の変化が認められ(図3)、抗炎症作用やマクロファージ機能の改善、骨および筋肉組織形成の改善、認知機能および神経生理機能の改善、抗血栓作用、脂質代謝改善、小胞体(ER)ストレス改善など、老化防止に関わる可能性が示唆されました。   (3)細胞レベルでの改善 1)免疫系の活性化 末梢血中の免疫細胞を表面マーカーで分画したところ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)(注8)数の減少(p

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    2026.05.12
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    ヘルペスウイルスの病態の違いを生む仕組みを発見 抗ウイルス因子APOBEC3から逃れる力が病態の違いを左右する

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    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
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    2026.05.11
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
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    酸素極小層から深海まで続くマンガン酸化の実態を解明 ―セリウム同位体が明らかにする海洋中の新しい物質循環モデル―

    発表のポイント 海水およびマンガンクラスト中のセリウム(Ce)安定同位体比の鉛直分布を初めて明らかにした。 酸素極小層(OMZ)内部を含め、深海に至るまで連続的にマンガン酸化物が形成されることを実証した。 海洋中のマンガン循環と希土類元素の挙動を統合的に理解する新しいモデルを提案した。 発表内容東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻のLi Wenshuai博士研究員(研究当時、現中国地質大学(武漢)教授)、高橋嘉夫教授(兼:同大学アイソトープ総合センターセンター長)、海洋研究開発機構の中田亮一主任研究員、柏原輝彦主任研究員、高知大学海洋コア国際研究所の臼井朗特任教授、東京大学大気海洋研究所の小畑元教授、漢那直也助教(研究当時、現岡山大学准教授)、名古屋大学大学院環境学研究科の淺原良浩准教授、弘前大学被ばく医療総合研究所の田副博文教授、法政大学自然科学センターの田中雅人准教授、公益財団法人高輝度光科学研究センターの河村直己主幹研究員らの研究グループは、北西太平洋において海水およびマンガンクラスト(注1)中のセリウム(Ce)安定同位体比δ142Ce(注2)の鉛直分布(注3)を詳細に解析し、酸素極小層(OMZ; 注4)から深海に至るまでマンガン(Mn)酸化物の形成が連続的に進行していることを明らかにしました。これまで、海洋におけるMnの酸化は、OMZで溶存したMn²⁺がその下部の酸素に富む層で酸化されることで主に進行すると考えられてきました。しかし、その実態は観測的に十分検証されていませんでした。 本研究では、水深10〜6000 mにわたる海水と、約900〜5500 mで形成されたマンガンクラスト試料についてCe安定同位体比を測定し、海水中ではOMZ内部で軽い同位体に富み、その下層で重い同位体にシフトする特徴的な鉛直分布が存在することを見出しました。これは、クラスト中の同位体比は周囲の海水の値を反映しており、Mn酸化物がその場で形成・沈着したことを示しています。さらに大型放射光施設SPring-8(BL01B1、BL39XU)(注5)と高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設(Photon Factory; BL-9A、BL-12C)(注6)においてCeやMnのX線吸収微細構造(XAFS; 注7)を測定して得た価数や局所構造の情報に基づいて、これら元素が海洋中で受ける反応も推定しました。その結果、Ceが主にマンガン酸化物に酸化吸着される過程で同位体分別が生じることが示唆され、観測されたCe同位体の鉛直分布は、Mnの酸化・沈殿が広い水深範囲で連続的に進行していることを強く示唆します。 これらの結果は、Mn酸化物が特定の深度で生成して沈降するという従来のモデルを見直し、OMZ内部を含む広範な深度での連続的な生成を想定する新しいモデルを支持するものです。本成果は、海洋におけるMnの循環と希土類元素(注8)の挙動の理解を大きく前進させるとともに、海底鉱物資源の形成過程の解明や、過去の海洋環境復元に向けた新たな地球化学トレーサー(注9)としての応用が期待されます。   発表者・研究者等情報 東京大学 大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 Li Wenshuai 博士研究員(研究当時、現 中国地質大学(武漢)教授) 高橋 嘉夫 教授(兼 東京大学 アイソトープ総合センター センター長) 大気海洋研究所 小畑 元 教授 漢那 直也 助教(研究当時、現 岡山大学環境生命自然科学学域 准教授) 海洋研究開発機構(JAMSTEC)物質地球科学研究部門 中田 亮一 主任研究員(兼 広島大学大学院先進理工系科学研究科 客員准教授) 柏原 輝彦 主任研究員 高知大学海洋コア国際研究所 臼井 朗 特任教授 (名誉教授) 名古屋大学大学院環境学研究科 淺原 良浩 准教授 弘前大学 被ばく医療総合研究所 田副 博文 教授 法政大学 自然科学センター・文学部 地理学科 田中 雅人 准教授 高輝度光科学研究センター 河村 直己 主幹研究員 東 晃太朗 主幹研究員   論文情報雑誌名:Science Advances 題名:Cerium isotopes unveil hydrogenetic Fe-Mn encrustation occurring throughout from the oxygen minimum zone to the deep Pacific(5月1日付掲載) 著者名:Wenshuai Li,* Ryoichi Nakada, Hajime Obata, Naoya Kanna, Inhee Kim, Teruhiko Kashiwabara, Kotaro Higashi, Naomi Kawamura, Yoshihiro Asahara, Hirofumi Tazoe, Masato Tanaka, Akira Usui, Yoshio Takahashi*(*責任著者) DOI:10.1126/sciadv.aee2813 URL:https://doi.org/10.1126/sciadv.aee2813   研究助成本研究は、中国国家自然科学基金「No. 42573006、No.42550152)」、日本学術振興会「外国人特別研究員 No. P21313」、科研費「特別研究員奨励費 課題番号22F21313、22KF0083」、科研費「課題番号 24H00268、24K21564、24K22346、23H03986、22H00166、22F21313、22KK0166」、米国国立科学財団「助成金番号 OCE-2140395」、科研費「基盤研究(S) 課題番号: 26K21720」科研費「学術変革領域研究(A) 課題番号26H00438」の支援により実施されました。   謝辞本研究で行った解析は、SPring-8(課題番号:2023A1453, 2023A1455, 2024A1446, 2024A1483, 2024A1484, 2024A1486, 2024B1493, 2024B1496, 2024B1905)と、高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設Photon Factoryのビームラインにおいて、高エネルギー加速器研究機構の承認のもとで実施しました(課題番号:2022G126, 2024G123)。また、本研究は、東京大学大気海洋研究所の研究船共同利用プログラム(学術研究船「白鳳丸」、JURCAOSSH22-02)の支援も受けました。F. Liu氏(成都理工大学)に、Ce標準溶液(CDUT-Ce)をご提供いただいたことに感謝いたします。   用語解説(注1) マンガンクラスト:海底の岩石表面に長い時間をかけて成長する鉄・マンガン酸化物の層。 (注2) 安定同位体比(δ142Ce):同じ元素でも質量数の異なる同位体の比で、起源物質や化学反応の違いを反映する指標。 (注3)鉛直分布:水深方向に沿った変化の様子。 (注4)酸素極小層(OMZ):海水中で酸素濃度が非常に低くなる深度帯。 (注5)大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。 (注6)高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造研究所放射光実験施設(Photon Factory):茨城県つくば市にある日本の放射光施設。 (注7)XAFS:X線吸収スペクトルに表れる元素の吸収端付近の微細な構造のことで、対象元素の価数や局所構造の情報が分かる分光法。 (注8)希土類元素:セリウムを含むランタノイド元素やイットリウムを含む元素群の名称で、環境や物質循環の指標として用いられる。レアアースとも呼ばれる。 (注9)地球化学トレーサー:物質の起源や移動過程を追跡するための化学的指標。   報道発表資料(425.42 KB) 論文掲載ページ (Science Advancesに移動します)   【お問い合わせ先】 東京大学大学院理学系研究科 教授高橋嘉夫(たかはしよしお) Tel:03-5841-4517E-mail:ytakaha*g.ecc.u-tokyo.ac.jp   東京大学大学院理学系研究科 E-mail:media.s*gs.mail.u-tokyo.ac.jp   東京大学大気海洋研究所附属共同利用・共同研究推進センター広報戦略室 E-mail:kouhou*aori.u-tokyo.ac.jp   海洋研究開発機構企画部門事業推進部報道室 Email:press@jamstec.go.jp   高知大学広報・校友課 Tel:088-844-8643E-mail:kh13@kochi-u.ac.jp   名古屋大学 総務部広報課 E-mail:nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp   弘前大学被ばく医療総合研究所総務グループ E-mail:jm5401*hirosaki-u.ac.jp   法政大学 総長室広報課 E-mail:pr*adm.hosei.ac.jp   公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部普及情報課 E-mail:kouhou*spring8.or.jp   広島大学広報グループ E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.05.11
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    “ヤゲン軟骨の秘密”を解明 〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜

    本研究成果のポイント 飛翔する鳥は胸骨に「竜骨突起」を持つ一方、走行性の鳥は平らな胸骨を持つことに着目 軟骨前駆細胞の増殖を促すTGF-β(※1)シグナルが、竜骨突起形成細胞では長く活性化する TGF-βシグナル活性化の“異時性(※2)”が、竜骨突起の有無を決めることを世界で初めて発見 骨格形態の多様化メカニズムの解明に加え、胸郭変形症の発症機序の理解にもつながる成果   概要脊椎動物の骨格は実に多様で、それぞれの動物の行動様式に適応した形をとります。鳥類の胸骨形態の違いはその典型例です。飛翔する鳥(胸峰類)は、胸骨の中央に「竜骨突起」と呼ばれるブレード状の構造を持ち、これが強力な飛翔筋の土台となります。一方、ダチョウやエミュー(※3)など走って移動する鳥(平胸類)は、この突起を持たず平らな胸骨をしています。こうした違いは進化の過程で生まれましたが、その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。 九州大学大学院システム生命科学府の権昇俊大学院生、理学研究院の熱田勇士講師は、農学研究院の江川史朗助教、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖真弥教授、鄒兆南助教、広島大学大学院統合生命科学研究科の本田瑞季助教と共同で、この問題解決に取り組みました。竜骨突起は胚発生期に形成されることから、研究グループはニワトリ胚(胸峰類)とエミュー胚(平胸類)を実験モデルとして、まず胸骨発生過程を比較しました。その結果、両者とも同じように胸骨のもととなる前駆細胞が現れるものの、ニワトリではこの前駆細胞が長く増え続けて竜骨突起をつくるのに対し、エミューでは早い段階で成熟してしまい、突起が形成されないことを明らかにしました。さらに、この違いの鍵となるのが「TGF-βシグナル」という細胞間の情報伝達であることを突き止めました。ニワトリではこのシグナルが長く働き続けることで細胞の増殖が保たれ、竜骨突起の形成につながります。本研究は、発生過程におけるシグナル活性化のタイミングのわずかな違い(異時性)が、飛べる鳥と飛べない鳥という大きな形態差を生み出すことを示したものです。 本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」に2026年4月29日(水)にオンライン掲載されました。   研究者からひとこと「鳥が飛べるかどうかは、目に見える翼や羽だけでなく、体の中の胸骨の形や、骨格の軽量化など、様々な要因が重なって決まります。脊椎動物の飛翔に必須な構造である竜骨突起について、発生シグナルのタイミングという視点からその進化、発生機構の一端を明らかにできて嬉しいです。」(権昇俊)   「本研究では、シグナル活性化のタイミングのわずかな違いが、骨格形態、ひいては行動様式の大きな違いにつながることを示しました。次に焼鳥屋さんで食事をされる際には、この研究内容を思い出しながらヤゲン軟骨を味わっていただければ、研究者冥利に尽きます。」(熱田勇士)   研究の背景と経緯脊椎動物の骨格系は、主要な構成成分(ハイドロキシアパタイトやコラーゲンなど)は体の部位や生物種間で顕著な違いはありませんが、大きさや形状はバラエティに富みます。鳥類内でも骨格形態には種間差があり、特に飛翔可能な鳥類である胸峰類と、進化の過程で飛ぶことをやめた平胸類との間には大きな違いがあります。胸峰類はその分類名が示すように、胸骨の正中線上に鋭く突き出したブレード状の構造を持ちます。この構造は「竜骨突起」と呼ばれます(参考図A)。あまり聞き馴染みがないように思われますが、ニワトリの若鶏の竜骨突起の一部は、実はヤゲン軟骨として食されています。飛ぶ鳥はこの竜骨を持つおかげで、筋肉の付着面積を拡大でき、飛翔に必要となる分厚い胸筋をつくることができます(参考図B)。一方で、走鳥類はこの突出構造を進化の過程で失ったため、私たちのような平坦な胸骨を持ちます(参考図A、B)。そのため平胸類とも呼ばれます。竜骨突起の存在については飛翔に必須の構造として古くから知られていましたが、竜骨突起形成を制御する分子、あるいは種間における突起の有無を決めるメカニズムは謎に包まれていました。   研究の内容と成果胸骨は発生過程において、まず鋳型となる軟骨がつくられ、その後、硬い骨に置き換えられることで形成されます。権大学院生らは、胸峰類のニワトリと平胸類のエミューを実験対象として選定し(参考図A、B)、鳥類胸骨のテンプレートとなる軟骨形成について研究を行いました。意外に思われるかも知れませんが、ニワトリは家畜化され飛ぶのが苦手ですが、未だに飛翔する鳥の体型を保っており、胸峰類のモデルになりえます。一方のエミューは新たな家畜として注目されているオーストラリア原産の鳥類で、平胸類の中でも比較的有精卵を入手しやすいこと、近年ゲノム解析が進んだことなどから研究に利用しました。 研究グループははじめに、胸骨形成過程のどのプロセスで違いが生まれるのかを観察しました。胸骨の元となる前駆細胞は側板中胚葉(※4)の一部から生じることが知られています。観察の結果、前駆細胞は両者とも同じ発生段階にて出現することがわかりました。また、左右の側板中胚葉から生まれた前駆細胞が体の正中線まで移動し、そこで癒合することで一枚の胸骨板がつくられますが、そのプロセスにおいても顕著な違いは認められませんでした。しかしながら、さらに発生段階を進めると、ニワトリ胚では前駆細胞が増殖を続け、竜骨突起を形成していく一方で、エミュー胚では前駆細胞が、早期に増殖が低下した成熟軟骨へと分化するため突起形成が起きないことがわかりました。 次に、本田助教、沖教授および九州大学の大川恭行教授らによって開発された、光照射技術とRNAシーケンス(※5)法を組み合わせた領域特異的な遺伝子発現解析法(PIC-RNA-Seq)を用いて、両種の前駆細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に調べました。すると、前駆細胞では成熟細胞と比べて、TGF-β(形質転換増殖因子β)シグナルの活性化レベルが高いことが明らかになりました。さらに、独自に確立した前駆細胞の培養系や、胚内での前駆細胞の遺伝子操作技術を活用することで、前駆細胞におけるTGF-βの役割を調べたところ、TGF-βが前駆細胞の増殖に必要不可欠な働きを担うことがわかりました。 これらの結果は、ニワトリでは前駆細胞においてTGF-βシグナル活性化が持続することで、増殖が促され突起を形成する一方で、エミューではTGF-βが早期に低下するため、前駆細胞の増殖が低下し突起形成が起きないことを示唆しています(参考図C)。   今後の展開今後は、このTGF-βの活性化の異時性がどのように生まれるかについて、遺伝子発現制御の観点から研究を進めます。いわゆるエピジェネティックな解析を実施し、TGF-βの発現のオン・オフを決めるゲノムDNA配列を同定します。さらに、ニワトリ、エミューに加え、高い飛翔能力と相対的に大きな竜骨突起を持つハチドリのゲノム情報も利用し、そのDNA配列が進化の過程でどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目指します。 研究成果の概要 TGF-βシグナルの異時的な活性化が鳥類胸骨の形態多様性を生み出すことを解明 (A)ニワトリ胸骨上には竜骨突起がある一方で、エミューには突出構造がない。 (B)竜骨突起は分厚い胸筋が付着する足場となる。 (C)成果の要約図:エミューではTGF-βシグナルの活性化が早期に減弱するが、ニワトリでは活性化が維持され前駆細胞の増殖が続く。   用語解説(※1) TGF-β・・・細胞の増殖や分化を調節するシグナル分子の一つ。 (※2) 異時性・・・ヘテロクロニー。発生過程における現象の起こるタイミングの違いを指す。 (※3) エミュー・・・オーストラリアに生息する飛べない大型の鳥。 (※4) 側板中胚葉・・・胚の外側に位置する中胚葉の一部。体壁や内臓のもとになる組織。 (※5) RNAシーケンス・・・どの遺伝子が使われているか(発現するか)を網羅的に調べる方法。   謝辞本研究は、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS、JP23ama12107 and JP25ama121017)、創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)(JSPS、JP25K09649)、住友財団基礎科学助成、武田科学振興財団ライフサイエンス研究助成の支援を受け行われたものです。また、研究を進めるにあたりご協力いただいた農学研究院研究教育支援センター、トランスクリプトミクス研究会、日本蛇族学術研究所、そして、エミュー有精卵を供給してくださったきやまファームに感謝申し上げます。筆頭著者の権大学院生は、K-SPRING採択者(JST、JPMJSP2136)および学振特別研究員(JSPS、JP24KJ7193)として研究を遂行しました。   論文情報掲載誌:Nature Communications タイトル:Heterochronic activation of TGF-β signaling drives the diversity of the avian sterna 著者名:Seung June Kwon, Zhaonan Zou, Mizuki Honda, Shiro Egawa, Shinya Oki, Yuji Atsuta DOI:10.1038/s41467-026-72602-6   【九州大学】“ヤゲン軟骨の秘密”を解明〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜.pdf(632.61 KB) 論文掲載ページ (Nature Communicationsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田瑞季 助教)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室 講師熱田勇士(アツタユウジ) TEL:092-802-6556FAX:092-802-4270 Mail:atsuta.yuji.360*m.kyushu-u.ac.jp   <報道に関すること> 九州大学広報課 TEL:092-802-2130FAX:092-802-2139 Mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp   熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3269FAX:096-342-3110 Mail:sos-kohojimu.k@umamoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL:082-424-3701FAX:082-424-6040 Mail:koho*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.05.01
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    がんを抑制するはずのシステムががんの発生を誘導する! ―細胞間コミュニケーションの新たな仕組みを解明し、がん治療戦略の提案に貢献―

    【本研究成果のポイント】 ショウジョウバエ上皮組織において、腫瘍(*1)抑制経路として知られるHippo経路が腫瘍の形成を誘導することを発見しました。本研究によって、Hippo経路による腫瘍形成を誘導するメカニズムの一端が明らかとなったことで、新たながん治療戦略の提案に貢献できます。   【概要】Hippo経路は腫瘍抑制経路として知られ、この経路を標的としたがん治療戦略が開発されてきました。一方で、いくつかのがんではHippo経路が腫瘍形成を促進することが報告されており、Hippo経路の腫瘍形成における役割は大きな議論を呼んでいます。広島大学大学院統合生命科学研究科の本田大智研究員、奥村美紗子准教授(現 東北大学教授)、千原崇裕教授、広島大学大学院医系科学研究科の安藤俊範教授、理化学研究所の大井綾乃基礎科学特別研究員、佐久間知佐子理研ECL研究チームリーダー、小幡史明チームディレクター、基礎生物学研究所の三浦正幸所長らの研究グループは、ショウジョウバエ上皮組織においてHippo経路が腫瘍形成を誘導することを発見しました。この腫瘍形成モデルを用いて、これまで未解明だったHippo経路による腫瘍誘導効果についてそのメカニズムを解明することを目指しました。Hippo経路による腫瘍形成には細胞間コミュニケーションが使われており、Hippo経路が活性化した細胞が増殖因子(*2)(WinglessとSpitz)の分泌やアミノ酸輸送を介して、周辺細胞の腫瘍化を引き起こすことを明らかにしました。本研究は、Hippo経路による腫瘍誘導効果の分子メカニズムの一端を明らかにするものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。また、本研究は、国際学術雑誌EMBO Reportsに2026年5月1日にオンライン公開されます。 さらに本研究内容は注目すべき論文としてEMBO Reports内での説明記事”News & Views”にも取り上げられています。   【背景】Hippo経路は細胞増殖やアポトーシス(*3)を制御することで、組織・臓器の過剰な増殖を抑制する腫瘍“抑制”経路として知られています(図1左)。一方で、近年の研究で、いくつかのがんでは、Hippo経路が腫瘍形成を“促進”することが報告されています(図1右)。こうしたHippo経路の持つ腫瘍形成への2面性(抑制と促進効果)は、Hippo経路を標的としたがん治療戦略において大きな問題となっています。しかしながら、Hippo経路がどのように腫瘍形成を“促進”するのか、その分子メカニズムはほとんど分かっていません(図1右)。そこで、本研究では、ショウジョウバエ上皮組織を使い、Hippo経路による腫瘍誘導効果について解析しました。   【研究成果の内容】遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、Hippo経路が活性化した細胞(Hippo活性化細胞)を作製しました。そして、このHippo活性化細胞を誘導した組織で腫瘍形成が起きるかを観察しました。その結果、Hippo活性化細胞の周りの細胞で腫瘍形成が起こることが確認されました(図2)。これは、Hippo活性化細胞が腫瘍誘導センターとして機能し、細胞間コミュニケーションを介した腫瘍形成を引き起こすことを示しています(図2)。この細胞間コミュニケーションがどのように行われているかを調べるために、遺伝学的スクリーニングを行いました。その結果、Hippo活性化細胞による2種類の細胞間コミュニケーションを見つけました。1つ目はHippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子(WinglessとSpitz)を発現・分泌することで周辺細胞の腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。もう1つは、Hippo活性化細胞がアミノ酸トランスポーター(*4)(Sat1とSat2)を介して、周辺細胞でのアミノ酸の取り込みを促進し、腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。そして、これら2つの経路が相乗的に作用することで周辺細胞の腫瘍形成が強く誘導されることを発見しました(図3)。   【今後の展開】Hippo経路は多くの研究で腫瘍形成を“抑制”すると報告されており、これまでHippo経路を標的としたがん治療法が開発されてきました。しかし、近年の研究で、Hippo経路に腫瘍形成を“促進”する作用があることが報告され、大きな問題となっています。この腫瘍形成への2面性、特にHippo経路による腫瘍“促進”効果についてはほとんど分かっていません。本研究は、これまで謎の多かった腫瘍“促進”効果のメカニズムの一端を明らかにしたものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。   【論文情報】掲載雑誌名:EMBO Reports 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo tumor suppressor pathway triggers non-cell autonomous tumorigenesis in Drosophila 著者:本田 大智、奥村 美紗子、大井 綾乃、佐久間 知佐子、小幡 史明、安藤 俊範、三浦 正幸、千原 崇裕 DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00778-5   参考:本論文の解説記事 掲載雑誌名:EMBO Reports(in “News & Views”) 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo paradox: how growth suppression drives tumor growth 著者:Pooja Rai, Andreas Bergmann(共にUMass Medical School) DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00777-6   【参考資料】◆用語解説 (*1) 腫瘍: 細胞が異常に増殖して形成された細胞塊 (*2) 増殖因子: 細胞の増殖・分化を促進するタンパク質 (*3) アポトーシス: 遺伝子プログラムによって制御された能動的な細胞死 (*4) アミノ酸トランスポーター: アミノ酸を細胞内外へ輸送する輸送タンパク質   図1Hippo経路による腫瘍形成への2つの作用 古典的モデル(左): Hippo経路による腫瘍“抑制”効果。矛盾的な機能(右): Hippo経路による腫瘍“促進”効果。Hippo経路は腫瘍形成を“抑制”すると考えられてきたが、いくつかのがんでは腫瘍形成を“促進”する。この促進効果についてはほとんど理解されていない。   図2Hippo活性化細胞による細胞間コミュニケーションを介した腫瘍誘導 Hippo活性化細胞をマゼンタ色で、腫瘍を緑色で表示。Hippo活性化細胞それ自体が腫瘍化するのではなく、周辺細胞が腫瘍化した。   図3Hippo活性化細胞が増殖因子とアミノ酸輸送を介して腫瘍形成を誘導する Hippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子を発現・分泌することで周辺細胞に作用する。また、Hippo活性化細胞はアミノ酸トランスポーターSat1/2を介して、周辺細胞のアミノ酸の取り込みを促進する。増殖因子とアミノ酸の両方が相乗的に周辺細胞へ作用することで腫瘍形成を引き起こす。   報道発表資料(424 KB) 論文掲載ページ (EMBO Reportsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (千原崇裕 教授)   【お問い合わせ先】 大学院統合生命科学研究科千原崇裕 Tel:082-424-7443 E-mail:tchihara@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 Tel:050-3495-0247 E-mail: ex-press@ml.riken.jp   基礎生物学研究所 Tel:0564-55-7628 E-mail:press@nibb.ac.jp

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