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    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.10
    • 医療/ヘルスケア
    口内の歯周病菌(F. nucleatum)の多さが、 多発性硬化症の重症度と関連することを明らかにしました

    本研究成果のポイント 多発性硬化症の患者では、舌苔中の歯周病菌 Fusobacterium nucleatum の多さが、身体障害の重症度(EDSS)と関連していることが明らかになりました。 概要 広島大学大学院医系科学研究科 脳神経内科学および広島大学病院 口腔総合診療科の共同研究により、多発性硬化症の患者の舌苔中で、歯周病菌 Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム; F. nucleatum)が多いほど、身体障害の重症度(EDSS)が高い傾向があることが明らかになりました。 本研究成果は学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 背景 多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄などの中枢神経を覆う「髄鞘」がという膜が傷つくことで、歩行障害や感覚障害などが生じる自己免疫性の脱髄疾患です。MSの発症・進行には腸内細菌叢の異常などの環境要因が関与すると報告されています。一方で、口腔内にも様々な細菌(口腔マイクロバイオーム)が多数存在し、関心が高まっています。 研究成果の内容 今回私たちの研究チームでは、F. nucleatumという菌に着目しました。F. nucleatum は歯周病の原因菌であり、他の菌とくっつくことで、歯周病だけでなく血管内皮障害や血液脳関門の破綻など、多くの病気に関与することが報告されています。本研究は、多発性硬化症患者で口腔内の歯周病菌と重症度の関連を臨床的に示した初めての報告です。 • 対象:自己免疫性脱髄疾患患者98例(MS 56、NMOSD 31、MOGAD 11) • 方法:舌苔サンプルを採取し、qPCR法で歯周病菌(F. nucleatum, P. gingivalis, P. intermedia, T. denticola)の相対存在量を測定 • 結果: • MS患者のうち、F. nucleatum の相対存在量が高い群では、EDSS ≥ 4 の割合が有意に高く(61.5 % vs 18.6 %, p = 0.003)、多重比較補正後も有意差が維持されました(p = 0.036)。 ・ F. nucleatum と他の歯周病菌を同時に多く有する「共存群」では、MS患者にて重症例(EDSS ≥ 4)の割合がさらに高く(37.5 % vs 10.0 %, p = 0.015)。この共存傾向が重症化と関連する可能性が示唆されました(参考資料の図参照)。 ・ NMOSDおよびMOGADでは同様の関連は認められず、F. nucleatum の関与はMSに特異的な傾向を示しました。 つまり、多発性硬化症の患者で、舌の細菌の中に歯周病菌「Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)」が多い人ほど、身体障害が重いことが初めて確認されました。 今後の展開 より大規模な多施設共同研究により、F. nucleatum の関与メカニズムを免疫学的に検証します。 サイトカイン解析やメタゲノム解析を組み合わせ、口腔―腸―中枢神経の炎症連関(oral–gut–brain axis)の全体像を解明します。 将来的には、歯科的介入(口腔ケアや歯周治療)による疾患修飾療法(病気の原因や進行に直接作用し、そのスピードや重症度を変化、抑制させる治療法)の可能性を探る臨床研究へ展開する予定です。 発表論文 掲載誌:Scientific Reports 論文タイトル:The periodontal pathogen Fusobacterium nucleatum is associated with disease severity in multiple sclerosis 著者:Hiroyuki Naito, Masahiro Nakamori*, Hiromi Nishi, Megumi Toko, Tomoko Muguruma, Hidetada Yamada, Takamichi Sugimoto, Yu Yamazaki, Kazuhide Ochi, Hiroyuki Kawaguchi, Hirofumi Maruyama DOI:10.1038/s41598-025-22266-x 参考資料 図F. nucleatum および他の歯周病菌の相対存在量が高い患者の割合(%) MS、NMOSD、MOGADの3群において、F. nucleatum と他の歯周病菌がともに高い相対存在量を示す患者の割合をEDSSスコア別に比較しました。MS群ではEDSS≧4の患者で高割合を示し(37.5% vs 10.0%, p=0.015)、NMOSDとMOGADでは有意差を認めませんでした。MSにおけるF. nucleatum共存菌の増加が疾患重症化と関連する可能性が示唆されました。   用語解説 多発性硬化症(MS):中枢神経の脱髄を特徴とする自己免疫疾患です。再発と寛解を繰り返しながら進行し、歩行障害や視力障害を呈します。 EDSSスコア:Expanded Disability Status Scale。0–10で身体障害の程度を評価する国際的指標です。 歯周病菌 Fusobacterium nucleatum:嫌気性グラム陰性桿菌で、歯周病の主要原因菌のひとつです。他の細菌を凝集させてバイオフィルムを形成する“架け橋菌”として知られ、炎症性サイトカインを誘導して免疫応答を活性化させます。近年では、神経や血管、消化管など様々な臓器の炎症性疾患への関与も指摘されており、当科の研究でも本菌に対する血清抗体価が脳卒中の予後不良と関連することを報告しています。 マイクロバイオームヒトの体に共生する微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の総体   【プレスリリース】口内の歯周病菌(F.nucleatum)の多さが、多発性硬化症の重症度と関連することを明らかにしました.pdf(362.78 KB) 掲載誌:Scientific Reports 研究者ガイドブック(内藤裕之助教)   【問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科 脳神経内科学 TEL:082-257-5201 FAX:082-505-0490 助教 内藤 裕之 講師 中森 正博 E-mail:naitohi6@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.01.19
    • 医療/ヘルスケア
    血圧上昇に関わる分子が膀胱がんを進行させる可能性があることが明らかに -高血圧治療薬が膀胱がん治療に役立つ可能性-

    本研究成果のポイント 血圧調整を行う「AGTR1」という受容体が多いほど、膀胱がんが進行しやすく再発しやすいことを発見しました。 高血圧の治療に広く使われているアンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)が、「AGTR1」の発現が高い膀胱がんの進行を抑制し得る可能性を示しました。   概要 広島大学の研究チーム(広島大学 原爆放射線医科学研究所 疾患モデル解析研究分野 神沼 修教授、大学院生の山中 亮憲さんら)は、血圧調整に関わる遺伝子と膀胱がんの進行の関係を調べました。その結果、血圧調整の役割をもつ受容体「AGTR1」の発現が高い膀胱がんの患者さんは、治療成績が良くないことを見出しました。また「AGTR1」の発現が高い膀胱がん細胞は、血圧の上昇に作用するホルモンである「アンジオテンシンII(AngII)」の影響下で進行が早まる一方、高血圧の薬であるARBにより抑えられる可能性を示しました。この研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受け、日本高血圧学会が出版する国際学術誌『Hypertension Research (Q1)』に掲載されました。   論文タイトル Angiotensin II Type 1 Receptor Signaling Promotes Bladder Cancer Progression and Its Inhibition by Losartan   著者 Ryoken Yamanaka, Kento Miura, Norimasa Yamasaki, Sawako Ogata, Megmi Nakamura, Toshiya Inaba, Anarkhuu Bold-Erdene, Uyanga Enkhbaatar, Fatemeh Beygom Mirkatouli, Shuka Miura, Naohisa Hosomi, Kohei Kobatake, Kenshiro Takemoto, Yuki Kohada, Ryo Tasaka, Tomoya Hatayama, Kazuma Yukihiro, Hiroyuki Shikuma, Kyosuke Iwane, Nobuyuki Hinata and Osamu Kaminuma* *:責任著者 DOI :10.1038/s41440-025-02535-y   背景 私たちの体の中では、さまざまなホルモンシステムが複雑かつ多様な働きをしています。その中のひとつ、「レニン-アンジオテンシン系」は、血圧や体液の調整に関わるホルモンシステムです。血圧が下がると、「レニン-アンジオテンシン系」により「アンジオテンシンII(AngII)」というホルモンがつくられ、これが細胞の表面にある「AGTR1」という受容体と合わさることで、血管を締めたり、水分や塩分をためる働きをして血圧を上昇させます。 この「AGTR1」の働きが、乳がんや肝臓がんなどを進行させる可能性が近年報告され始めています。実際に、膀胱がんの治療において、レニン-アンジオテンシン系に作用して高血圧を治療する薬剤を内服している患者さんでは、治療成績が良いことを示唆する臨床データが報告されていました。 しかし、「AGTR1」が本当に膀胱がんの進行に関わるのかは、その分子メカニズムも含め明らかにされていませんでした。   研究成果の内容 今回の研究では、さまざまながん患者さんの遺伝子情報を網羅した大規模データベースを用いて解析しました。「AGTR1」の発現が高い膀胱がんの患者さんは、発現が低い患者さんに比べて全生存期間が短いことが明らかとなりました。また、広島大学病院の患者さんの手術検体を用いた解析を行った結果、「AGTR1」の発現が高い膀胱がんの患者さんは、手術後の再発率が高いことがわかりました(図1)。 「AGTR1」の発現が高い膀胱がん細胞を人工的に作ったところ、それだけではがん細胞の挙動に変化はありませんでした。しかし、「AGTR1」に結合する血圧上昇ホルモンの「アンジオテンシンII(AngII)」を作用させると、「AGTR1」発現が低い膀胱がん細胞には影響がなかったのに対し、「AGTR1」発現が高い細胞は進行性が高まることがわかりました(図2)。   この「アンジオテンシンII(AngII)」と「AGTR1」の結合をブロックするアンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)という薬があり、既に高血圧治療に広く用いられています。そこで、ARBの一種である「ロサルタン」を作用させて同様の実験を行ったところ、「アンジオテンシンII(AngII)」による膀胱がん細胞の進行性が高まるのを抑えることができました。また、「AGTR1」に「アンジオテンシンII(AngII)」が結合することによって、細胞内の蛋白質リン酸化酵素ERKを介するシグナル伝達経路や、上皮間葉転換、エネルギー代謝に関わる経路が活性化され、それらが膀胱がん細胞の進行性に大きく関わっていることが明らかになりました。 次に、この膀胱がん細胞を皮下移植したマウスモデルを作って調べたところ、「AGTR1」発現の高いがん細胞では、それが低い細胞に比べて腫瘍が増大することがわかりました。また、これらのマウスに「ロサルタン」を内服させることによって、「AGTR1」を高発現する膀胱がん細胞の腫瘍増大が抑制される傾向がみられました(図3)。   今後の展開 「ロサルタン」をはじめとするARBは、既に高血圧治療に広く用いられている安全安価な薬剤です。膀胱がん細胞における「AGTR1」の発現量を早期に調べることで、患者さんの治療成績を向上できる可能性や、「AGTR1」の発現が高い患者さんに対する新たな治療薬として、ARBが役立つ可能性についての検証が期待されます。今後は、前向き研究に基づいた患者さんのデータ集積を行うことが重要となります。   参考資料 レニン-アンジオテンシン系:血圧や体液量の調節に関わるホルモンシステム。 AGTR1:血圧上昇ホルモンであるAngIIの受容体。 ARB:AngIIとAGTR1の結合をブロックすることで血圧上昇を抑制し、高血圧治療に使用される薬剤。ロサルタン、テルミサルタンなど。 ERK:細胞が生存、増殖するための細胞内シグナルを伝える蛋白質リン酸化酵素。 上皮間葉転換:上皮細胞が形質転換して間葉系細胞(結合組織など)の特徴を獲得するプロセス。細胞の接着性が低下し、運動性が高まることで、がん細胞の周辺組織への拡がり(浸潤)や、血液・リンパ流を介した他臓器への転移(遊走)に関わる。   図1:広島大学病院で膀胱がん摘出手術を受けた55人の患者さんのがん組織を調べたところ、34人(61.8%)のがんがAGTR1を高発現していました(A)。また、AGTR1の発現が高い患者さんのグループは、術後の再発、転移までの期間が有意に短い結果となりました(B)。 図2:AGTR1を高発現する膀胱がん細胞を人工的に作り、浸潤能(周囲組織へ広がっていく能力)を調べました。AGTR1の発現が高い細胞(◆)では、AngIIを投与すると浸潤能が高まることが明らかになりました。 図3:AGTR1を高発現する膀胱がん細胞をマウスの皮下に移植し、ロサルタンの効果を調べました。ロサルタンを投与したマウス(●)では、投与していないマウス(◆)に比べ、腫瘍の増大が抑制される傾向がみられました。   報道発表資料(333.07 KB) 掲載ジャーナル:Hypertension Research 研究者ガイドブック(神沼 修 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学原爆放射線医科学研究所疾患モデル解析研究分野 教授神沼修 Tel:082-257-1556FAX:082-255-8339 E-mail:okami@hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.06
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    DNAの「シトシン」が酸化されると変異が起こることを発見 ―がんの原因の解明につながる新たな手がかり―

    本研究成果のポイント DNAの塩基の一つ「シトシン」が酸化されると、変異を引き起こすことを新たに発見しました。これは、がんの原因の解明につながる手がかりとなります。   概要 広島大学大学院医系科学研究科(薬学部)の鈴木哲矢 助教、廣田杏 大学院生(当時)、紙谷浩之 教授のグループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 岩井成憲 教授(当時)と共同で、遺伝子の本体であるDNAの4種類の塩基の一つであるシトシンが酸化されると、損傷部位に変異を引き起こすこと、損傷部位から離れた部位にも変異を引き起こす可能性があることを見出しました。   背景 多くの生物の遺伝子の本体はDNAです。遺伝情報が変わることを変異と呼び、変異が少しずつ蓄積していくことで、がんが発生するリスクがあがることが知られています(※1)。変異の多くはDNAが傷つくこと(化学的修飾)により引き起こされます。 DNAは4文字(4種類の塩基)を持ちます。これまでの研究で、塩基の一つであるグアニンが酸化されると8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)などの酸化損傷塩基が生じることがわかっています(※2)。以前に本研究グループは、この損傷塩基が生じた部分に変異を引き起こすだけではなく、離れた部位にも変異を引き起こすことを見出していました。   研究成果の内容 今回、本研究グループは、別の塩基であるシトシンに着目しました。シトシンが酸化されると、主な損傷として5-hydroxycytosineが生じます(※3)。5-hydroxycytosineを含むDNAをヒト細胞に導入した結果、5-hydroxycytosineがあった部位がチミン(塩基の一つ)などに変わっていることを見出しました。また、グアニンの酸化体ほどではないものの、5-hydroxycytosineがあった部位から離れた部位にも変異が起こっていました。 一方、損傷部位から離れた部位での変異に着目して、紫外線によって生じる損傷であるチミン-チミン6-4光産物の影響を調べましたが、離れた部位での変異は観察されませんでした。 今回の結果は、グアニンの酸化体だけではなく、シトシンの酸化体も変異を引き起こし、がんの原因の一つになっている可能性を示しています。   今後の展開 今後は、他の損傷塩基の変異の生成機構を解明していきます。本研究の成果は、がん化の機構を理解し、それを抑制する方法の開発につながると期待されます。   参考資料 論文題目:Mutagenicity of 5-hydroxycytosine in human cells 著者名:Tetsuya Suzuki , Ann Hirota , Shigenori Iwai , Hiroyuki Kamiya*(*責任著者) 掲載誌:Mutagenesis 2月2日付でオンライン掲載されました。以下は論文のリンク先です。 https://doi.org/10.1093/mutage/geag004 用語解説 (※1)変異とがん:遺伝情報を担っているDNAはアデニン・チミン・グアニン・シトシンの4文字(塩基)からなり、この並びが遺伝情報です。がんに関連する遺伝子(がん遺伝子やがん抑制遺伝子)の遺伝情報の変化(変異)が複数回生じることで、がんが生じます。   (※2)グアニンの酸化体:種々のグアニンの酸化体が生成しますが、8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)は代表的なものであり、重要なDNAの損傷の一つと考えられています。   (※3)5-hydroxycytosine:下の図の左に描いた構造を持ち、六員環(六角形の部分)から出ているHO– がhydroxyと呼ばれる部分です。   報道発表資料(229.33 KB) 掲載ジャーナル:Mutagenesis 研究者ガイドブック(紙谷 浩之 教授)   ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院医系科学研究科 教授紙谷 浩之 TEl:082-257-5300FAX:082-257-5334 E-mail:hirokam@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4383 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.10
    • 医療/ヘルスケア
    肺が硬くなる病気を防ぐヒントは“遺伝子の調整役”にあった! ―マイクロRNA『miR-26a』を全身から無くすと 肺線維症を防げることを発見―

    本研究成果のポイント マイクロRNA*1(miR)の1つであるmiR-26aを持たないマウスでは肺が硬くなる変化(線維化)が起きにくいことを世界で初めて報告しました。 本研究の成果によって、miR-26aを標的とした新たな線維化治療の開発につながることが期待されます。     概要 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学の濱田 亜理沙大学院生、下地 清史助教、中島 拓講師、服部 登教授は、同大学病院 未来医療センターの 味八木 茂教授(現 香川大学医学部 組織細胞生物学講座 教授)、免疫学の 保田 朋波流教授らと共同で研究を行い、「miR-26aが全身で欠損すると肺線維症が軽度になること」を発見し、そのメカニズムについて新たな知見を蓄積しました。この研究成果は肺線維症に対するマイクロRNAを使用した治療を開発する上で大きく貢献すると期待されます。 本研究は、JSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業JPJ00420230011の支援を受けたもので、研究成果は2025年11月4日に国際学術雑誌である『Molecular Therapy – Nucleic Acids』オンライン版に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 発表論文 ・ 論文名:Systemic miR-26a deficiency attenuates pulmonary fibrosis via PTEN upregulation and downstream TIMP-1 suppression ・ 著者名:Arisa Hamada1#, Kiyofumi Shimoji1#, Taku Nakashima1*, Kakuhiro Yamaguchi1, Shinjiro Sakamoto1, Yasushi Horimasu1, Takeshi Masuda1, Hiroshi Iwamoto1, Hironobu Hamada2, Yun Guo3, Tomoharu Yasuda3, Shigeru Miyaki4,5,6, and Noboru Hattori1 1:広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学2:同 生体機能解析制御科学 3:同 免疫学4:同 整形外科学5:広島大学病院 未来医療センター 6:香川大学医学部 組織細胞生物学 #:筆頭著者、*:責任著者 ・ 掲載雑誌名:Molecular Therapy – Nucleic Acids(Q1) ・ DOI:10.1016/j.omtn.2025.102765 背景 肺線維症は、もともとスポンジのように柔らかいはずの肺が少しずつ硬くなってしまう病気です。だんだんと呼吸がしにくくなり、現在も完全に治す方法のない難病です。 細胞の中では、遺伝子の働きを抑えるマイクロRNA(miR)と呼ばれる小さな核酸があり、遺伝子のスイッチを調整しています。最近ではこのマイクロRNAも線維化に関わることが分かってきましたが、どのマイクロRNAがどのような仕組みで線維化を引き起こすのかまだ十分に明らかになっていません。 これまでの研究で、miR-26aというマイクロRNAを肺から無くすと、線維化が悪化するということが分かっており、そこからmiR-26aには“線維化を抑える働きがある”と考えられていました。しかし、肺だけではなく全身からmiR-26aが無くなった場合にどうなるのかはわかっていませんでした。 そこで本研究では、全身からmiR-26aを無くした場合、肺線維症にどのような影響が出るのかを調べ、その仕組みを明らかにすることを目的としました。 研究成果の内容 「全身でmiR-26aが無くなると肺が硬くならない」 本研究では、全身のmiR-26aを無くしたマウスと普通のマウスを用いてブレオマイシン*2による肺線維症モデルを作製し比較しました。すると、全身のmiR-26aを無くしたマウスではブレオマイシンを投与しても肺がほとんど硬くなりませんでした。さらに詳しく調べると、炎症の程度は普通のマウスとほぼ同じで、炎症の強さが違うから線維化が軽くなったわけではないことがわかりました。 「鍵は PTEN と TIMP-1」 RNAシーケンス*3を行って詳しく調べると、全身のmiR-26aを無くしたマウスではブレオマイシンを投与した後に細胞の信号を抑えるタンパクPTENが増えており、その結果、線維化を進めるTIMP-1というタンパクが減ることがわかりました。 今後の展開 今回の研究は、これまでに言われていた「(肺の一部で)miR-26aが無いと線維化が悪くなる」という報告とは逆に「(全身で)miR-26aが無いと線維化が軽くなる」という新しい視点を提示しました。これは、マイクロRNAが働きかける細胞の種類によって、肺での反応が大きく変わる可能性を示しています。今後、どの細胞でmiR-26aを抑えると効果が出るのかを詳しく調べることで、肺線維症の新しい治療につながる可能性があります。 参考資料 本研究の要旨 用語説明 *1 マイクロRNA:20〜25塩基程度の短いRNAで、標的となる遺伝子が つくられる量(発現)を抑えることで、細胞の機能や病気の進行に影響を与える。 *2 ブレオマイシン:抗がん剤の一種であるブレオマイシンという薬をマウスの 肺に投与することで肺が硬くなり肺線維症に似た状態になる。 *3 RNAシーケンス:次世代シーケンサーを用いてメッセンジャーRNA(mRNA) などの配列情報を網羅的に読み取り、遺伝子の発現量を解析する手法のこと。   【プレスリリース】肺が硬くなる病気を防ぐヒントは“遺伝子の調整役”にあった!-マイクロRNA『miR-26a』を全身から無くすと肺線維症を防げることを発見-.pdf(335.15 KB) 掲載誌:Molecular Therapy – Nucleic Acids 研究者ガイドブック(中島拓講師)   【問い合わせ先】 <研究に関すること> 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学中島 拓 Tel:082-257-5196FAX:082-255-7360 E-mail:tnaka@hiroshima-u.ac.jp   <広報に関すること> 広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.01.29
    • 医療/ヘルスケア
    ~ウイルスの増殖を予測する~ B型肝炎の治療効果を評価する新たな手法の可能性を見出しました。

    本研究成果のポイント B型肝炎の治療前および治療中において、「肝臓内でのウイルスの増えやすさ」を予測できうる新しい指標を発見しました。 治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。   概要 広島大学病院肝疾患センターの研究チームは、B型肝炎の治療継続や再発予測に関し、従来とは異なるアプローチでの測定を行う方法を発見しました。既存の方法では「肝臓内にどれくらいウイルスが作られているか」という量を測定していましたが、「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を評価する方法を見出し、その効果を検証しました。 本研究は、学術誌「International Journal of Molecular Science(Q1)」に掲載されました。   <発表論文> 掲載誌:International Journal of Molecular Science (MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)、Q1) 論文タイトル:Utility of Serum HBV RNA Measurement During Nucleoside/Nucleotide Analog Therapy in Chronic Hepatitis B Patients 著者名:Keiichi Hiraoka, Masataka Tsuge, Michihiko Kawahara, Hatsue Fujino, Yasutoshi Fujii, Atsushi Ono, Eisuke Murakami, Tomokazu Kawaoka, Daiki Miki, C. Nelson Hayes, Seiya Kashiyama, Sho Mokuda, Shinichi Yamazaki, Shiro Oka DOI: https://doi.org/10.3390/ijms262010141 掲載日時:2025年10月17日   背景 B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスに感染することによって肝臓に炎症が起こる病気で、放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性がある病気です。 B型肝炎ウイルスは、肝臓の細胞にあるcovalently closed circular DNA (以下、cccDNA)というB形肝炎ウイルスの設計図からHBV RNAというB型肝炎ウイルスの部品の材料となるものを作ります。現在使用されている薬はウイルスそのものの量を大きく減らすことは可能ですが、cccDNAからのウイルス性タンパク質の産生は続く場合があり、長期的な病状の進行リスクを完全には抑えられません。そのため、B型肝炎ウイルスの治療薬の効果を評価する上で、単にウイルスの数を減らせるだけでは足りず、別の指標が求められてきました。   上記の新しい指標として、「HBV RNAを血清で測定する方法」が、治療の継続判断や病気の再発予測に役立つ可能性を指摘されていました。これは、血液の成分のひとつである血清の中に、どれくらいHBV RNAが含まれているかを調べる方法です。つまり「肝臓内にどれくらいウイルスがいるか」ではなく「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を測るものです。 本研究ではETVとTAFという代表的な薬剤を用い、上記方法の効果を検討しました。   研究成果の内容 本研究では、B型肝炎の患者さん86人を対象に、治療の「前」と「12週間後」「48週間後」に血液検査を行い、HBV RNAの量を調べました。結果として、HBV RNAが多い人ほど、他の検査の目印(HBs抗原=ウイルスが体にいる目印、HBV DNA=完成したウイルスの数、HBコア関連抗原=活動の強さの目印)も多い傾向があり、HBV RNAは「今後肝臓内でウイルスがどれくらい増えそうか」を示す指標になり得ると分かりました。 また、肝臓が硬くなっている人では、HBV RNAやウイルスそのもの量は低めでしたが、この二つの関係が大きく崩れているわけではないことも示されました。さらに、治療開始から48週の時点では、ウイルスが活発な人で、HBV RNAが相対的に多い傾向が見られました。一方、肝臓の炎症の数値(ALT)が高い人では、治療によってHBV RNAがより下がる傾向も確認できました。 使った薬による違いもありました。ETVとTAFのどちらでも、ウイルスの量は同じくらいよく減りましたが、HBV RNAは治療12週でTAFのほうが早く下がる傾向があり、薬によって違いが出る可能性が示されました。 以上から、HBV RNAを血清で測ることは、治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。   以下、具体的な研究成果です。 本研究は慢性B型肝炎患者86人について、治療前、治療開始後12週、48週の血清HBV RNAを測定しました。治療前のRNAはHBs抗原、HBV DNA、HBコア関連抗原と有意に相関していました。肝線維化が進むほどDNAとRNAは低値となりましたが、RNA/DNA比は変化がありませんでした。治療48週時にはRNA/DNA比がHBe抗原陽性例で有意に高くなり、ALTが100 U/L以上の患者ではRNAが12週・48週で低下する傾向がありました。薬剤別にみると、DNAの減少は両薬剤で大きな差はありませんでしたが、RNAの減少は12週時にTAFで顕著であり、薬剤ごとにRNAの動きが異なる可能性が示されました。これらの結果は、血清HBV RNAが肝臓内ウイルス複製を反映する有用な指標となり得ることを示唆しており、薬剤によるRNAの動的変化が治療戦略に影響を与える可能性を示しています。   今後の展開 本研究ではTAF使用症例が6例と限られており、症例を蓄積させ再検討する必要性があり、また大規模・他施設での検証や、他のNA薬剤の比較、肝機能指標や他のウイルス学的マーカーとの統合的評価が求められます。HBV RNAの減少が臨床的な長期治療成果とどの程度関連しているか、さらなる検証が必要だと考えています。   報道発表資料(448.91 KB) 掲載ジャーナル:International Journal of Molecular Science 研究者ガイドブック(柘植 雅貴 教授)   広島大学大学院医系科学研究科肝臓学柘植 雅貴 Tel:082-257-2023FAX:082-257-2023 E-mail:tsuge@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.06
    • 医療/ヘルスケア
    口腔癌の「中程度リスク」に対し、 追加治療が有効であることがわかりました

    本研究成果のポイント 口腔癌の治療後、再発のリスクが中程度である患者に対して、追加の治療をした場合、再発の可能性が減り長く生きられる傾向がみられました。   概要 広島大学病院の小泉浩一講師を中心とする研究チームは、一度口腔癌の治療を行い、再発のリスクが中程度である患者に対し、追加の治療を行うことについて検討を行いました。その結果、再発の重要な危険因子を特定し、追加の治療を行うことで再発率の低下と生存期間を延長できることがわかりました。   本研究は、学術誌「Head & Neck(Q1)」に掲載されました。   <発表論文> 掲載誌:Head & Neck(Q1) 論文タイトル:Postoperative Adjuvant Therapy in Resectable Advanced Oral Squamous Cell Carcinoma With Intermediate Risk Factors 著者名:Koichi Koizumi、 Fumitaka Obayashi、 Mirai Higaki、 Kota Morishita、 Atsuko Hamada、 Sachiko Yamasaki、 Nanako Ito、 Souichi Yanamoto DOI: https://doi.org/10.1002/hed.70106 掲載日時:2025 年 11 月 27 日   背景 口腔癌における術後補助療法(手術後に行う追加治療)の方針は、一般的に切り取った組織の検査により決定されます。この検査により再発のリスクが高いと判断された患者には、追加での切除や化学放射線療法を行うといった方針がとられます。しかしながら、再発のリスクが中等度(手術断端近接、pT3-T4 分類、pN2-N3 リンパ節転移状態、神経周囲浸潤、血管浸潤、リンパ管浸潤、浸潤様式など)である患者に対して、術後補助療法がどの程度有効かについては不明であり、標準化された治療ガイドラインや専門家の合意は確立されていません。   研究成果の内容 1.方法 本臨床研究は、2010 年1 月から2023年12 月までに広島大学病院 顎・口腔外科を受診し、一次治療として外科療法を行った進行口腔扁平上皮癌130 例を対象としました(表1)。術後再発の危険因子は、頸部リンパ節の節外浸潤、切除断端陽性といった再発高リスク因子に加え、切除断端近接、病理学的T 分類(pT3 またはpT4)、病理学的N分類(pN2 またはpN3)、レベルIV またはV 領域のリンパ節転移、神経周囲浸潤、血管浸潤、およびリンパ管浸潤といった再発中等度リスク因子としました。これらの危険因子の存在と、術後補助療法の実施、再発または転移の発生、および患者の予後(無病生存期間:DFS)との関連について解析しました。   2.結果 (1)再発リスク因子別の術後治療と再発・転移について 局所再発、頸部リンパ節転移、遠隔転移の発生率はそれぞれ16.2%、15.4%、9.2%で、全体の再発・転移は36.9%でした。再発の危険因子別に解析すると、再発高リスク群48.6%、再発中等度リスク群34.1%、これらの病理学的危険因子をいずれも有さない低リスク群27.3%でした(表2)。   (2)再発リスク因子別の5 年生存率(DFS) 再発リスク因子とDFS の関連を解析した結果、高リスク群、中等度リスク群、低リスク群の5 年DFS はそれぞれ63.7%、79.3%、100%であり、全体の平均は76.2%でした(図1A)。中リスク群において術後療法を受けた患者と受けなかった患者の間でDFS に有意差は認められなかった(図1B)。   (3)再発中等度リスク因子別の5 年生存率(DFS) 個々の中等度リスク因子別にDFS を比較したところ、リンパ管侵襲を認める患者は有意に生存率が低かった(66.7% vs. 82.8%、p < 0.05)。Cox 比例ハザードモデルを用いた多変量解析でも、リンパ管侵襲の存在は独立した予後因子であることが示され(ハザード比(HR)=3.08、p=0.043)、その臨床的意義が確認された。またpT4、pN2-N3、神経周囲浸潤、脈管侵襲は統計的に有意差には達しなかったものの、いずれの症例においても生存率低下の傾向が認められた。(図2、表3)。   (4)再発中等度リスク因子と再発・転移 個々の中等度リスク因子別に再発および転移を比較したところ、神経周囲浸潤は有意に高く(51.9% vs. 23.6%、p

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    2025.12.17
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    肝移植拒絶リスクを遺伝子で予測、個別化治療への新たな一歩 ーSIRPα遺伝子多型が免疫応答を制御する仕組みを解明ー

    本研究成果のポイント 肝臓移植の際に拒絶反応が起こるかどうかは、免疫の働きを決める「SIRPα遺伝子」の違いが関係していることを世界ではじめて明らかにしました。 この成果により、患者ごとに拒絶反応が起きるリスクを予測し、治療法の個別化・最適化を目指します。   概要 広島大学の研究チーム(広島大学 大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学 大段秀樹 教授、Akhmet Seidakhmetov医師、呉医療センター谷峰直樹医師、ら)は、日本人154組の生体肝移植ドナー(提供する人)・レシピエント(受ける人)ペアを対象に肝移植の拒絶反応に関する研究を行いました。 その結果、肝臓移植の際に拒絶反応がおこるかどうかは、免疫の働きを決める「SIRPα遺伝子」の違いが関係していることを明らかにしました。具体的には、「SIRPα遺伝子」の「V2型」をもつ人では、急性拒絶反応の発生率が高いことを発見しました。 この研究成果は、国際学術誌 『PNAS Nexus(Q1)』(米国科学アカデミー機関誌系列) に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   論文タイトル Impact of SIRPα Genotype Combinations in Recipients and Donors on Alloimmune Response in Liver Transplantation 著者 Akhmet Seidakhmetov, Naoki Tanimine, Yuka Tanaka, Ryosuke Arata, Ryosuke Nakano, Hiroshi Sakai, Masahiro Ohira, Hiroyuki Tahara, Kentaro Ide, Tsuyoshi Kobayashi, Hideki Ohdan* *:責任著者 DOI:[10.1093/pnasnexus/pgaf351]   背景 肝硬変や肝臓がんなどにより、肝臓の機能が回復できないほど悪くなった患者では、肝臓移植が効果的な治療法となります。しかし臓器移植をする際には、患者自身の免疫が、移植された臓器を異物であると判断し攻撃してしまう「拒絶反応」が最大の課題です。 これまでの研究成果において、拒絶反応は主に「HLA遺伝子(免疫システムが「自己」と「非自己」を見分けるための目印のようなもの)」の不一致によって説明されてきました。移植された臓器と移植を受ける身体のHLA遺伝子が違うため、免疫システムが勘違いし、拒絶反応を起こしてしまうという仕組みです。しかし、HLA遺伝子が一致していても拒絶が起こる症例が存在しており、仕組みの解明が求められていました。   研究成果の内容 「CD47」とは、ほとんどすべての細胞の表面にある「この細胞は自己の細胞である」という目印のようなものです。一方「SIRPα」とは、免疫細胞がCD47を感知するためのたんぱく質で、「SIRPα」と「CD47」が結合すると、免疫の誤作動が防がれます。これは「自己細胞を食べない」ための分子シグナルであり、「“don’t eat me”シグナル」とも呼ばれています。本研究グループはこれまで、動物種の異なる生物間で臓器を移植する「異種移植」の研究で、この「SIRPα–CD47経路」がとても重要であることを報告してきました。 今回の成果は、この仕組みが ヒトとヒトのあいだで行われる通常の臓器移植(同種移植)でも働いていることを、臨床データを用いて初めて明らかにしたものです。   解析の結果、SIRPα遺伝子には複数の多型が存在し、日本人では「V1」と「V2」型が主要であることが判明しました。V2型SIRPαはCD47との結合力が強く、T細胞活性化を促進する性質を持つことを、ヒト血液細胞を用いた実験で確認しました。 さらに、85組の肝移植ドナー・レシピエントの遺伝子組み合わせを解析し、V2型を多く含む組み合わせでは、急性拒絶反応の発生率が約1.5倍高いことを明らかにしました。 これらの知見をもとに、研究チームはSIRPα遺伝子型に基づいた「免疫反応強度スコア」を提案。このスコアにより、移植前に拒絶リスクを予測し、免疫抑制薬の投与計画を個別化できる可能性が示されました。 今後の展開 本研究は、移植免疫学における「新たな遺伝子マッチング指標」としてSIRPαを提案するものです。 今後は、腎移植など他臓器でも同様の検証を進め、SIRPα遺伝子検査を用いた拒絶反応リスク予測モデルの臨床応用を目指します。 さらに、免疫チェックポイント分子CD47との関連から、がん免疫療法や自己免疫疾患の治療戦略にも応用が期待されます。   参考資料 SIRPα(Signal Regulatory Protein Alpha):免疫細胞が「自己」を認識するための受容体。CD47と結合し、攻撃を抑制する信号を送る。 CD47:「自分を食べないで」というシグナルを発する細胞膜分子。がん細胞でも高発現が知られる。 本研究では、SIRPα遺伝子のV2型がCD47との結合を強め、免疫細胞の活性化を促すことを発見。 HLA遺伝子とは、「ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)」をつくる遺伝子。免疫システムが“自分”と“他人”を見分けるための最も重要な遺伝子群であり、「免疫の指紋」とも呼ばれる。 (図1)この図は、人の免疫細胞に発現しているSIRPαというたんぱく質が、CD47というたんぱく質とどの程度強く結合するかを調べた実験結果を示しています。 研究では、健康なボランティアから採取した血液中の免疫細胞を使い、SIRPα遺伝子の型が「V1型」か「V2型」かによって結合の強さが違うかを比較しました。 CD47たんぱく質を蛍光で光るようにして細胞に加え、その光の強さ(平均蛍光強度:MFI)を測ることで、どのくらいCD47がSIRPαに結合したかを定量的に評価しました。 結果として、V2型をもつ人の免疫細胞は、V1型をもつ人よりもCD47と強く結合することが明らかになりました(図中の赤い点がV2型、青い点がV1型)。 このことから、SIRPαの遺伝的な違いが免疫の強さや拒絶反応に影響する可能性があることが示唆されます。 (図2)この図は、ドナーとレシピエントそれぞれが持つ SIRPα 遺伝子型が組み合わさった時にどれくらい免疫が強く反応しやすいかモデル化し、拒絶発症率との関連を解析した結果を示しています。ドナーとレシピエントの免疫細胞(抗原提示細胞:APC)とT細胞の活性化の強さを、「+」の数で表しています。「+」が多いほど免疫反応が強く、拒絶反応が起こりやすい可能性があります。この免疫反応の強さを合計して、以下の3つのグループに分類しました: • 4+〜5+:拒絶反応が起こりにくい(低リスク) • 6+:中程度のリスク • 7+〜8+:拒絶反応が起こりやすい(高リスク) つまり、このモデルは「ドナーとレシピエントのSIRPα遺伝子の組み合わせによって、移植後の拒絶反応の起こりやすさを予測できる」ことを示したものです。()内の数値は拒絶反応の発症率です。   報道発表資料(574.97 KB) 掲載雑誌:PNAS Nexus 研究者ガイドブック(大段 秀樹教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 教授大段秀樹 Tel:082-257-5220FAX:082-257-5224 E-mail:hohdan@hiroshima-u.ac.jp

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    2026.01.29
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    選ばれた接続を強く育てる脳の仕組みを解明 ~小脳神経回路形成におけるmGluR1シグナルの意外な二役~

    ポイント 「勝者」のシナプスを強く育てる司令塔(シグナル)を解明。 「敗者」を除去する分子(mGluR1)が、実は「勝者」の強化にも不可欠であることを発見。 一つのシグナルが「除去」と「強化」を使い分ける、脳の効率的な形成原理を提唱。   概要 北海道大学大学院医学研究院の山崎美和子准教授、帝京大学先端総合研究機構の狩野方伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 名誉教授)らを中心とする、北海道大学、帝京大学、東京大学、広島大学の研究グループは、運動学習や認知機能・社会性を担う小脳*1の神経回路形成過程において、重要な神経接続を強化する仕組みを明らかにしました。 生まれた直後のマウスのプルキンエ細胞*2は、5本以上の登上線維*3とシナプス*4を形成していますが、その後の1週間で1本の線維が選ばれて「勝者」となり、これ以外の線維(敗者)は最終的に除去されます。これまでの研究では、この「勝者」が強化され、樹状突起*5の広い範囲へ支配を拡大する仕組みについてよく分かっていませんでした。 本研究では、マウスを用いた実験により、プルキンエ細胞に豊富に発現する1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)―プロテインキナーゼCγ(PKCγ)に至る伝達経路が、「勝者」のシナプス機能と構造を強化し、樹状突起へと配線を広げるために必須であることを解明しました。これまでに、このシグナル伝達経路は、不要な神経結合(敗者)を除去するために必須であることが分かっていましたが、本研究により、必要な結合を強く育て上げ、勝者と敗者の格差を増強する役割も併せ持つことが初めて明らかになりました。 なお、本研究成果は 2026 年 1月23日(金)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌にオンライン掲載されました。 本研究で解明されたmGluR1シグナルの役割。本研究により、mGluR1-PKCγ経路は、選ばれた「勝者」線維のシナプス構造・機能の強化と、それに続く樹状突起への支配領域の拡大に必須であることが明らかになった。これまでに知られていた「敗者」の除去(シナプス刈り込み)に加え、選ばれた接続を強く育てるという「育成」の役割も併せ持つ。     背景 私たちの脳は、生まれた直後には未完成で、多くの神経細胞が過剰な接続を持っています。その後の発達過程で、必要な神経のつながりだけが選ばれて残され、不要な接続は消えていきます。この仕組みは「神経回路の精緻化」と呼ばれ、記憶や学習、運動の制御など、脳の高度な機能を支える基盤となります。生後間もない時期の小脳では、プルキンエ細胞に複数の登上線維が接続しますが、やがてその中から「勝者」となる1本の登上線維が選ばれ、他の線維(敗者)は次第に排除されます。 本研究グループをはじめとする先行研究により、選ばれた「勝者」の選抜そのものには神経活動は不要であるものの、その後の支配領域の拡大や回路の完成には神経活動(シナプス伝達)が不可欠であり、その過程でシナプス機能と構造も大きく発達することが明らかになっていました。しかし、「具体的にどのような分子シグナルが働いて、この活動依存的な『勝者』の強化スイッチを入れているのか?」という核心的なメカニズムは未解明のままでした。一方で、mGluR1からPKCγに至る細胞内シグナル伝達経路は、これまで「敗者」を除去するためのスイッチとして知られていました。そこで本研究では、この経路が「勝者」の運命にも関与しているのではないかと考え、検証を行いました。   研究手法 本研究では、mGluR1やPKCγを欠損させた全身性の遺伝子改変マウス、及びプルキンエ細胞特異的にmGluR1機能を抑制したマウスを用いて、生後発達期の小脳神経回路を機能と形態の両面から詳細に解析しました。 機能解析としては、電気生理学的手法により、登上線維からプルキンエ細胞へのシナプス伝達の強さや、シナプス可塑性*6(LTP:長期増強*7)を測定しました。   また、形態解析では、以下の三つの点を調べました。 ・支配領域: 神経トレーサーで「勝者」登上線維を可視化し、樹状突起上の広い領域に進展しているかを調べました。 ・微細構造: 連続電子顕微鏡法*8による3次元再構築で、シナプスの立体構造を可視化しました。 ・分子発現: 免疫組織化学法*9により、シナプス伝達を担うAMPA型グルタミン酸受容体*10の発現量を調べました。   研究成果 1. 「勝者」の強化と領域拡大の失敗 mGluR1やPKCγが働かないマウスでは、「勝者」として選ばれた登上線維のシナプス伝達強度が、野生型マウスに比べて著しく弱いことが判明しました(図1)。また、電子顕微鏡観察ではシナプスの構造も小さく、AMPA型グルタミン酸受容体の発現も低いことが分かりました。 そして、本来であればプルキンエ細胞の樹状突起へと進展するはずの「勝者」登上線維が、十分な支配領域を確保できていませんでした(図2)。これらの結果は、mGluR1シグナルが「敗者の除去」だけでなく、「勝者の強化」にも必須であることを示しています。   2. 強化メカニズム(LTP)の解明 さらに、発達期のマウスの小脳スライス標本を用いた実験から、「勝者」の登上線維シナプスでは、mGluR1とPKCγに依存した「長期増強(LTP)」が生じていることを突き止めました。   3. 「一分子二役」による効率的な回路形成 以上の結果から、mGluR1-PKCγシグナルは、単なる「ハサミ(除去役)」ではなく、文脈に応じて「肥料(育成役)」としても機能する二面性を持つことが明らかになりました。脳は限られた種類の分子を巧みに使い分けることで、効率的に神経回路の最適化を行っていると考えられます。   今後への期待 本研究は、脳の発達過程において、不要なシナプスを除去するだけでなく、勝ち残ったシナプスを十分に強化することが、成熟した神経回路の形成に不可欠であることを示しました。mGluR1シグナル伝達経路の機能不全により、よく知られた「不要なシナプスの残存」に加え、「必要なシナプスが神経活動依存的に強化されない」という新たな小脳失調の病態像が示唆されます。本成果は、小脳失調症や発達障害の病態理解を深め、治療標的や介入時期を考える上で重要な知見を提供することが期待されます。   謝辞 本研究はJSPS科研費 JP20H03410、JP22K06784、JP20H05628、JP21H02589、JP18H04012、JP20H05915、JP21H04785の助成を受けたものです。   論文情報 論文名mGluR1 signaling is necessary for strengthening winner climbing fiber inputs in the developing mouse cerebellum(mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である) 著者名山崎美和子1*, 宮﨑太輔2, 橋本浩一3, 武井則雄4, 饗場篤5, 狩野方伸6,7, 8*, 渡辺雅彦1 (1北海道大学大学院医学研究院解剖発生学教室、2北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野、3広島大学大学院医系科学研究科神経生理学教室、4北海道大学大学院医学研究院附属動物実験施設、5東京大学大学院医学系研究科附属 疾患生命工学センター、6東京大学大学院医学系研究科神経生理学分野、7東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)、8帝京大学先端総合研究機構、*共同責任著者) 雑誌名Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)(米国科学アカデミー紀要)(総合科学誌) DOI10.1073/pnas.2425460123 公表日2026年1月23日(金)(オンライン公開)   参考図 図1. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの機能的強化に必須である。 野生型マウスでは、生後発達に伴い「勝者」登上線維のシナプス応答が顕著に増大するが、mGluR1またはPKCγを欠損したマウスでは「勝者」の応答は十分に増大しない。代表的なシナプス応答波形(左)と定量解析(右)は、mGluR1–PKCγシグナルが「勝者」登上線維の機能的強化に必須であることを示している。 図2. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの支配領域の拡大に必須である。 神経標識により可視化した「勝者」登上線維(緑)を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。生後12日の野生型マウスでは、発達に伴い「勝者」登上線維がプルキンエ細胞の樹状突起へと広く進展するのに対し、mGluR1 またはPKCγ 欠損マウスでは、その進展と支配領域の拡大が著しく障害されている。この障害は成体になっても回復しなかった。   用語解説 *1 小脳 … 運動の正確さやタイミングを調整し、動きを滑らかに保つ働きを担う脳の部位。 *2 プルキンエ細胞 … 小脳皮質からの唯一の出力を行う神経細胞。全身の運動の制御やバランスの維持に重要な役割を担う。 *3 登上線維 … プルキンエ細胞に入力し、強力な信号を伝える。生後の発達期に1本が選ばれて残存し、他の線維は除去される。 *4 シナプス … 神経細胞同士が情報を伝えるために接している場所。電気信号や化学物質(神経伝達物質)を使って信号をやりとりする。 *5 樹状突起 … 神経細胞から伸びた枝状の構造で、他の神経細胞からの信号を受け取る働きを持つ。 *6 シナプス可塑性 … 神経細胞どうしのつながり(シナプス)の働きが、活動や経験に応じて変化する性質のこと。 *7 長期増強(LTP) … 神経細胞間のシナプス伝達効率が、刺激に応じて持続的に増強される現象。学習や記憶の細胞レベルでの基盤と考えられている。 *8 連続電子顕微鏡法 … 超高解像度の電子顕微鏡で多数の断面画像を取得し、立体的に細胞の構造を再構築できる技術のこと。 *9 免疫組織化学法 … 特定のたんぱく質を検出・可視化するための手法のこと。抗体と色素を使い、どの細胞や場所に分子が存在しているかを明らかにする。 *10 AMPA型グルタミン酸受容体 … 神経の興奮を伝える主要な受容体の一つで、シナプスの信号伝達の強さに関わる。   報道発表資料(1.33 MB) 掲載ジャーナル:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 研究者ガイドブック(橋本 浩一 教授)   広島大学広報室 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.09.24
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    • 医療/ヘルスケア
    ドナー肝臓由来ナチュラルキラー(NK)細胞を用いた肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法

    アピールポイント 通常は採取不可能な肝内在性NK細胞を用いた抗癌免疫細胞療法を開発した 肝内在性NK細胞は抗腫瘍分子TRAILを発現し、肝細胞癌に対する抗腫瘍活性が高い 本治療は有害事象が少なく、進行肝細胞癌の肝移植後再発を抑制する効果が期待できる   研究者のねらい 肝細胞癌は、2023年統計で5番目に多い癌である。肝硬変に合併する肝細胞癌に対する唯一の根治治療は肝臓移植であるが、再発率が10-20%であるにもかかわらず有効な術後補助療養や治療法がないのが現状である。肝臓内には、他の部位とは異なる特殊なリンパ球が存在している。特に、肝内在性ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍の増殖や感染症の拡大を防ぐ重要な役割をして担っており、TRAILと呼ばれる抗腫瘍分子を発現して、肝細胞癌を効率よく殺傷する。我々は、ヒトの肝臓内から採取した後サイトカイン刺激することによって強力な抗腫瘍活性を有する肝内在性NK細胞を用いた、肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法を開発した。   研究内容 TRAIL活性低下による肝腫瘍増殖、TRAIL陽性肝内在性NK細胞投与により腫瘍が縮小 B6マウスの門脈から肝臓を灌流したリンパ球中のNK細胞上に表出する抗腫瘍分子(TRAIL; TNF-related apoptosis inducing ligand)をフローサイトメトリーで解析した。70%肝切除後、3日目にはTRAIL発現が著明に低下した。   B6マウスの門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した1週間後の肝臓内腫瘍増殖を解析した。無処置マウスに対して、70%肝切除マウスは有意に、肝臓内腫瘍増殖が増加した(n=4)。​   70%肝切除マウスに対して、門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した後に、活性化肝内在性NK細胞を5×105個尾静脈から投与すると、肝臓内腫瘍の増殖は抑制された。​(Ohira M, Ohdan H, Transplantation 2006)   ヒト肝灌流液由来肝内在性NK細胞の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性​ NK細胞の割合は、肝臓内で46.4%、末梢血で21.9%。サイトカイン刺激でNK細胞上TRAILは肝臓内で65.8%、末梢血で29.6%であった。(n=7)​ サイトカイン刺激後の肝内在性NK細胞の抗腫瘍活性は、有意に高い。​ 中分化型・低分化型肝癌はDeath receptor(DR4, DR5)は強発現、Decoy receptor(DcR1, DcR2)は発現なし。TRAIL感受性のある癌腫と言える。​   ドナー肝由来NK細胞療法の臨床試験結果​ 肝移植時のドナーグラフト肝臓灌流液からリンパ球を抽出して、サイトカインで3-5日間刺激培養を行う。投与1日前に、抗CD3抗体を添加してT細胞除去を行い、肝臓移植後のレシピエントに経静脈的投与を行う治療法。​   肝移植後3日目と7日の末梢血単核球の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性。NK療法群で有意に増加している(n=7; NK, n=5; non-NK group)   NK療法を行ったレシピエントの末梢血NK細胞のキメラ率推移。ドナー由来のNK細胞は最長1ヶ月確認可能。   広島大学で24例の生体肝移植に対して第1相試験を実施。投与に関連する重篤な有害事象はなく安全性は確認された。肝細胞癌に対する生体肝移植後の無再発生存率は、背景をプロペンシティマッチで揃えた11例ずつで比較した場合、NK療法群が有意に良好であった。​   今後の研究開発計画 治験第2相以降の臨床試験の計画実施、承認申請(日本、海外)、培養効率改善に向けた製造法の​ スクリーニング・最適化、保存・輸送条件の最適化(事業化可能な条件設定)、細胞製品の製造・流通・販売、他の癌腫への応用​   関連情報 代表的な特許:肝臓内NK細胞活性を増強する培養方法の開発(特願2025-130828)​ 代表的な論文:Ohira M, Ohdan H, et al. Cancer Immunol Immunother 2022​ 企業に望む事:臨床試験や承認申請に必要な製造・保存輸送技術の最適化を担い、細胞製品の事業化を推進してほしい。​ 研究者 大段秀樹(Ohdan Hideki) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.12.17
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    日本の医療機器・技術の海外移転:低所得国での安全な出産に向けたモバイル胎児心拍モニターの効果検証

    本研究成果のポイント 本研究では、モバイル胎児心拍モニター(iCTG)が、妊娠後期の胎児の心拍異常をより確実に捉え、新生児の状態改善や周産期死亡の減少につながる可能性が示されました。日本企業の開発した医療機器が、資源が限られた地域でも導入しやすい、現実的かつ効果的な技術であることが明らかになりました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の新福洋子教授を中心とする研究チームは、低所得国での胎児モニタリングを可能にするため、モバイル胎児心拍モニター(iCTG)の効果を検証しました。その結果、従来の胎児モニタリングよりも異常心拍の検出率が大幅に向上し、出生直後の新生児の健康状態が改善しました。本研究は、低リソース環境における妊婦ケアの質向上に新たな可能性を示しています。 本研究成果は、学術誌「BMC Public Health」に掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   論文情報 タイトル:Effectiveness of a mobile cardiotocography device (iCTG) in improving antenatal care and detecting abnormal fetal heart rate during late pregnancy: an implementation study in Tanzania 掲載誌:BMC Public Health(Q1) 著者:Dorkasi L Mwakawanga, Sanmei Chen, Crystal L Patil, Md Moshiur Rahman, Beatrice Mwilike, Agnes F Massae, Naoki Hirose, Yuryon Kobayashi, Yoko Shimpuku DOI:10.1186/s12889-025-25383-4   背景 胎児モニタリングとは、おなかの中にいる胎児の状態を継続的に観察・記録することです。胎児の心拍などを観察することで、外から直接見ることのできない胎児の状態を把握することができ、出産時の胎児の異常を判断する重要なデータとなります。安全な出産にとても重要なのですが、多くの低所得国では、十分な胎児モニタリングが行えず、心拍異常が見逃されることで死産や新生児合併症の一因となっています。十分な胎児モニタリングが行えない理由は多々ありますが、その一つに機器とインフラの不足があります。胎児モニタリングを行う際、胎児心拍モニター(CTG)という機器を使用しますが、高価であり導入が難しい点などから、低資源国では導入数が限られています。よって、医療スタッフが使いやすく、持続的に運用できる新しいモニタリング技術の導入が求められていました。   研究成果の内容 今回の研究では、タンザニアの医療施設にモバイル胎児心拍モニター(iCTG)を導入し、その効果を検証しました。iCTGとは、従来のCTGを小型化し、持ち運びを可能にしたものです。また、データをクラウドで管理し、遠隔地からも胎児の状態を確認できます。小型であることから従来より容易に導入することができ、低コストであることや操作が簡潔であることなど、様々なメリットがあります。iCTGを導入した施設では、胎児心拍異常の発見数が従来の約10倍に増え、新生児の胎児仮死も半分以下に減少し、周産期死亡が約8割減少しました。助産師らが現場で無理なく使用できる操作性も確認され、実装研究として有用性が示されました。 今後の展開 今後は、より幅広い地域での導入と長期的な母子の健康への影響を検証するとともに、コスト効果や運用体制を含めた持続可能なモデル作りを進めます。最終的には、どこに住んでいても妊婦が安全な胎児モニタリングを受けられる世界的な体制整備を目指します。   参考資料 メロディ・インターナショナル株式会社(iCTG開発) https://melody.international/ AMED「開発途上国・新興国における医療技術等実用化研究事業」 https://www.amed.go.jp/program/list/12/01/003_jigor6.html   報道発表資料(332.21 KB) 掲載雑誌:BMC Public Health 研究者ガイドブック(新福 洋子 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科教授新福洋子 Tel:082-257-5345FAX:082-257-5345 E-mail:yokoshim@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
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    がん放射線治療の「中断」が起きても治療効果を最大化 ~新規生物学的適応放射線治療(BART)の開発拡張~

    本研究成果のポイント 予期せぬ放射線治療の中断も考慮し、がんの治療計画を再構築するシステム「BART」の効果を拡張しました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科和田拓也博士課程学生、広島大学病院放射線部河原大輔准教授、帝京大学理工学部総合理工学科小金澤明登准教授の研究グループは、放射線治療期間中に生じる中断による治療効果の低下を生物学的に補正する新しい技術を開発しました。 放射線治療では、治療期間の中断・延長によりがん細胞が再増殖し、治療効果が低下することが知られています。しかし、現行の放射線治療装置には、このような時間の経過までは考慮できません。 本研究では、mLQモデル(#2)を用いた補償計算に加え、複雑な3次元BED(#1)分布を扱うための独自アルゴリズムを開発し、BEDを予定されていた分布まで回復させるワークフローを構築しました。 本研究成果は、2025年10月欧州医学物理学会誌「European Journal of Medical Physics」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Compensated biological effective dose in extended radiotherapy course via a time-modified linear quadratic model for biological adaptive radiotherapy   著書 Takuya Wadaa、b、 Daisuke Kawaharab、*、 Akito S Koganezawac、*、 NobukiI manod、 Ikuno Nishibuchib、 Yuji Murakamib   aRadiation Therapy Section、 Department of Clinical Practice and Support、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan bDepartment of Radiation Oncology、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University、 Hiroshima 734-8551、 Japan cRobotics and Artificial Intelligence Course、 Department of Integrated Science and Engineering、 Faculty of Science and Engineering、 Teikyo University、 Tochigi 320-8551、 Japan dDepartment of Radiation Oncology、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan   掲載雑誌 European Journal of Medical Physics   DOI番号 10.1016/j.ejmp.2025.105202   背景 がんの放射線治療は、通常1カ月から2カ月にわたり、毎日少しずつ放射線を照射しますが、長期的な祝日や装置の故障、患者さんの体調不良により、治療を数日間中断せざるを得ない場合があり、その間にがん細胞が再増殖してしまい、治療効果(BED)が低下することが知られています。 臨床現場では、どれくらい放射線を照射するとがんに対しダメージを与えられるのかを「LQモデル」という計算方法で算出します。しかし、LQモデルには「時間の経過」の概念がないため、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのか、低下したBEDに対しどれだけの線量を追加で照射すればもとにもどるのか把握することは難しく、正常組織を守りながら正確に補償することは困難でした。   研究成果の内容 LQモデルに時間の経過の概念を組み込んだ「mLQモデル」という計算方法が存在します。これはLQモデルの計算方法に加え、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのかまで考慮することができます。本研究ではこのmLQモデルを使用し、中断日数に応じて必要な補償係数及び追加線量を部位ごとに自動算出するシステム「BART」を構築し、その効果を検証しました。 頭頸部がん81症例を対象に解析を行った結果、中断が生じた実際の治療期間ではBEDが4-10%低下することが示されました。そこに、本研究で開発したシステムを適応したところ、一度の計算だけで、当初の計画と同等の治療効果を持つ新たな治療計画を作成することが確認できました。また、補償後の周囲のリスク臓器への線量は許容値範囲内に収まることも確認されました。   今後の展開 本研究により、治療期間の延長という臨床現場で頻繁に起こる問題に対し、生物学的な根拠に基づいた高精度な補償計画を迅速に提供することが可能になります。これは、生物学的適応放射線治療の実践的な第一歩であり、今後は他部位への応用、生物学的な個人パラメータの推定などを進め実装を目指します。   用語解説 #1BED(Biological Effective Dose:生物学的実効線量) 放射線治療の効き目を示す生物学的な線量指標である。   #2時間修復LQ(mLQ)モデル 放射線治療期間の延長による腫瘍の再増殖を数理的に捉えるようLQモデルを拡張したもの。中断によるBED低下と補償線量の計算ができる。   #3SIB(Simultaneous Integrated Boost) 複数の標的に異なる線量を同時に照射する放射線治療の技術である。治療効率が高い一方で、BED補償計算は複雑になる。 図1治療中断で不足するBEDを新技術によって元の状態まで回復することを示した比較図。(a)元の理想的な線量、(b)数日中断した線量、(c)2週間中断した線量、(d)我々のシステムで補償した線量 表1治療中断が起きた場合、補償なしでは線量の評価指標が有意に低下するが、補償後は元の線量に回復するため評価指標の有意差が消滅する。中断無しの理想的な線量と補償後の線量が同等であることを示す。   報道発表資料(383.2 KB) 掲載ジャーナル:European Journal of Medical Physics 研究者ガイドブック(河原 大輔 准教授)   病院放射線部准教授河原大輔 Tel:082-257-1545FAX:082-257-1546 E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp

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    2025.09.24
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    ヒトの腫瘍微小環境と治療への反応を再現する新規マウス大腸がんモデルの確立とその応用​

    アピールポイント マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つプロモーター配列(CDX2P-9.5kb)を発見しました。​ CDX2Pを応用してヒトの右側結腸癌と左側結腸癌を再現する大腸癌マウスモデルを確立しました。​ ヒトの大腸癌分子サブタイプ(CMS)を再現した高度浸潤癌と粘液癌マウスモデルを作成しました。​ 薬剤のスクリーニングに有用な治療抵抗性高度浸潤型大腸癌マウスモデルを作成しました。   研究者のねらい 大腸癌は罹患数,死亡者数が多く対策が急務で、特に治療抵抗性大腸癌に対する新規治療薬の開発は重要な課題である。大腸癌は、4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)、それを改良したIMF分類のiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とし最も予後不良なサブタイプで有効な治療薬が未だ無い。​   私共は独自の大腸上皮細胞特異的コンディショナル複合的遺伝子改変マウスの技術を使って、CMSサブタイプを再現するマウスモデルを確立してきた。このうち治療抵抗性で予後不良なiCMS3サブタイプを再現する高度浸潤型のApc+Ptenマウスモデルを使って、大腸癌に対する新規化合物や抗体薬のスクリーニングや治療効果を評価する共同研究を提示する。 研究内容​ 私共は、大腸癌関連遺伝子として腸上皮の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による遠位大腸に腫瘍が好発する大腸浸潤癌マウスモデル(CPC-Apcマウス、左側結腸癌モデル)を確立した。 ​   このモデルをさらに改良してMSI発現誘導型のCreマウスCDX2P-G22Creマウスを作成してApc欠損させたところ、近位大腸に腫瘍が発生する大腸癌浸潤癌モデル(G22Cre-Apc)を作成することができた(図1)。​   いずれも12ヶ月経過観察をして、浸潤癌の発生率が17%で生存期間中央値が160日であるため、浸潤癌の治療効果を検証するには不十分と思われた。​   私共は、Apcに変異を持つCPC-APCマウスに別のドライバー遺伝子(Kras, Braf, Tgfbr2, Ptenなど)組み合わせた遺伝子変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作成し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤癌(CMS3)や粘液癌(CMS4)などの分子サブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できた(図2)。   Apc+Ptenマウスは予後不良(図3,4)の高度浸潤癌が発生するが、PI3K-PTENシグナルの標的分子に対する阻害剤が著効する(図5)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性の大腸癌や高度浸潤型の大腸癌に対して、抗腫瘍効果を持つ新規化合物や抗体薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われる。 想定される用途・応用先 私共が開発したヒト高度浸潤型大腸癌のプロファイルを持つマウスモデルを用いることで、治療抵抗性大腸癌に高頻度で認められるPI3K-PTENシグナルを標的とした新規化合物や抗体薬のスクリーニングならびに大腸癌の浸潤やがんの微小環境に作用する薬剤の治療効果を評価するために有用なマウスモデルである。評価方法についてもマウス用の大腸内視鏡を使う評価方法から、腫瘍から確立したオルガノイドを使った細胞培養実験での評価も可能である。​   関連情報 代表的な論文:​ Hinoi T, Fearon ER et al. Cancer Res. 2007 Oct 15;67(20):9721-30.​ Akyol A, Hinoi T, Fearon ER et al. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):231-3​ Kochi M, Hinoi T e al. Cancer Sci. 2020 Oct;111(10):3540-3549​ Itakura H, Hinoi T, Yamamoto H et al. iScience. 2023 Mar 23;26(4):106478​ 企業に望む事:私共の作成したマウスモデルを使って大腸癌の治療開発や薬剤スクリーニングについての共同研究や競争的資金の獲得   研究者 檜井孝夫 広島大学 病院(医) 教授   2025年BioJapan出展

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