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研究成果紹介

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    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    2024.12.04
    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    主観的な咀嚼能力や咀嚼習慣が不良だと身体機能が低下する可能性があることが判明~高齢者の介護予防へ向けて~

    本研究成果のポイント 65-84歳の地域在住高齢者を対象としたコホート研究(あるグループを追跡して、健康状態の変化を調べる研究)の結果、主観的な咀嚼能力および咀嚼習慣は身体機能の低下と関連することが明らかとなりました。 咀嚼能力および咀嚼習慣を良好な状態に保つことは、高齢者の身体機能の維持に寄与する可能性があると考えられます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の竹下萌乃博士課程前期修了生、内藤真理子教授、愛知県歯科医師会の内堀典保会長らの研究グループは、愛知県の「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」で収集されたデータから、65-84歳の男女において、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣が関連することを明らかにしました。 本研究結果は、「BMC Oral Health」に令和6年10月24日付でオンライン掲載されました。 論文情報 論文タイトル:Association of physical function with masticatory ability and masticatory habits: a cohort study 著者:Moeno Takeshita1, Mariko Naito2,*, Rumi Nishimura2, Haruka Fukutani3, Minami Kondo1, Yuko Kurawaki2, Sachiko Yamada4 and Noriyasu Uchibori5 1R&D, Sunstar Inc., Osaka, Japan 2Department of Oral Epidemiology, Hiroshima University Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan 3Dentistry and Oral Surgery, Japan Community Health Care Organization (JCHO) Tokuyama Central Hospital, Yamaguchi, Japan 4Speech Clinic, Division of Specific Dentistry Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan 5Aichi Dental Association, Aichi, Japan *Corresponding author   掲載雑誌:BMC Oral Health(Q1) DOI:https://doi.org/10.1186/s12903-024-05051-6   背景 加齢に伴い、疾患や障害は増加し、介護を必要とする人の数も増加する可能性が高くなることから、健康寿命を延伸するための取り組みがますます重要になっています。 身体機能が低いことはフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)や入院等のリスクが高くなると報告されているため、身体機能を適切に評価し、高齢者の健康寿命延伸に対する介入に役立てることは重要です。 先行研究において、客観的または主観的な評価により測定された咀嚼能力は身体機能と相関関係にあることが示されています。一方、「よく噛んで食事をする」といった咀嚼習慣と、身体機能との関連性を検討した研究はほとんどありません。 本研究グループでは、高齢者の身体機能の低下には、咀嚼能力だけではなく咀嚼習慣も関係している可能性があると仮説を立て、検証を行いました。   研究成果の内容 本研究は、厚生労働省の平成30年度老人保健健康増進等事業の採択事業の一つである「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」のデータを分析しました。対象者は愛知県東浦町在住の65-84歳男女146人です。 身体機能の評価は、基本チェックリスト※1のうち、身体機能を示す5つの質問を用いました。咀嚼能力は機器または歯科医療従事者によって測定された客観データ(客観的咀嚼機能、客観的咬合力、現在歯数)および自記式アンケート※2によって得た主観データ(主観的咀嚼機能、主観的咬合状態)により評価しました。咀嚼習慣は、自記式アンケート※2から得られた回答によって評価しました。 対象者146人(男性77人、女性69人、年齢中央値73人)のうち、30人(20.5%)において1年間で身体機能が低下していました。 性別や年齢といった対象者の背景の差を調整後、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣の関連を解析したところ、主観的に咬合状態が不良であること(オッズ比6.00 、95%信頼区間1.44–25.05)および咀嚼習慣が不良であること(同6.49 、2.45–17.22)は1年後の身体機能の低下に影響を及ぼしていました。   今後の展開 本研究の結果、地域に暮らす自立高齢者における咀嚼能力および咀嚼習慣は1年後の身体機能と関連していました。高齢者の身体機能を維持するためには、咀嚼能力だけでなく咀嚼習慣にも配慮した早期の介入が必要であると考えられます。今後は長期にわたる追跡と対象者数を増やした調査を実施すること、さらに質問票の信頼性の検証を行うことが必要です。   解説 ※1 基本チェックリスト 介護予防や将来介護が必要となる可能性のあるハイリスク高齢者の早期選定を目的として厚生労働省によって作成された。25の質問に対して「はい/いいえ」で回答する自記式質問票である。7つの領域の質問群から構成され、本研究ではその中の「身体機能」の領域を用いた。   ※2 自記式アンケ―ト ・主観的咀嚼機能(「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」に対してはい/いいえで回答)*基本チェックリストNo.13の質問を活用 ・主観的咬合状態(「自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりとかみしめられますか」に対してはい/いいえで回答) ・咀嚼習慣(「ゆっくりよく噛んで食事をしますか」に対してはい/いいえで回答)   報道発表資料(327.67 KB) BMC Oral Health 研究者ガイドブック(内藤 真理子 教授)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科口腔保健疫学内藤真理子 Tel:082-257-5959FAX:082-257-5795 E-mail:naitom@hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.16
    • 医療/ヘルスケア
    がん患者が抱える倦怠感「がん関連疲労」に対し、 刺さない鍼治療「接触鍼法」が有効であることがわかりました。

    本研究成果のポイント がん患者の多くが経験する「がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対し、身体に鍼を刺さずに行える鍼治療「接触鍼法(K-style CNT)」の有効性と安全性を、世界で初めて確認しました。   概要 広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授(研究代表者)らの研究グループは、全国5施設の緩和ケア科と共同で行った臨床研究において、接触鍼法(K-style CNT)が、がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対しに有効であることを明らかにしました。この成果は、The Multinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)の国際誌Supportive Care in Cancer (2026年2月19日号) に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   背景と目的 「がん関連疲労」とは、がん患者の多くが経験する、休息や睡眠をとっても改善しない持続的で不快な全身倦怠感や疲労感のことです。日常生活に支障をきたすほど強力なだるさ、やる気の低下、身体の消耗感が特徴で、がん治療(化学療法、放射線など)やがんそのものによる慢性的な炎症が主な原因です。 「がん関連疲労」の回復には、適度な運動や睡眠、バランスの良い食事等の方法がありますが、これらに加わる新しい方法が求められています。 本研究では、通常の身体症状に対する治療に加えて鍼治療を用いることにより、症状の改善、QOL(生活の質)の改善に結び付くかどうかを検討する目的で、鍼治療を行い、その臨床的有効性と安全性について、患者の自覚症状と他覚的な評価を指標として、前向きに検討しました。 今回は鍼治療の一種である「接触鍼法」を行いました。「接触鍼法」とは、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する、刺さずに行える鍼治療のことです(図1)。刺激するツボは、天枢(へそから指3本分外側に位置するツボ)、中脘(胸骨の下端とへその中間に位置するツボ)、関元(へそから指4本分下に位置するツボ)を中心とし、その他に患者さんの状態に合わせて他のツボを組み合わせ、数か所刺激して行います。鍼を皮膚に刺入せず、肌の表面に軽く接触させて刺激を与えるという施術で、刺さないので痛みはなく、肌にも優しいのが特徴です。 図1接触鍼 接触鍼は一般的な鍼治療と異なり、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する治療   方法と結果 がん患者121名をA群 接触鍼施行群とB群 接触鍼非接触のプラセボ群にランダムに割付け、A群の患者に通常治療と並行して週1回接触鍼治療を4週間行い、倦怠感に関する自覚症状のアンケートや検査を通じて、がんの倦怠感スケール(CFS)スコア、疼痛、唾液アミラーゼ値の数値評価スケール(NRS)スコア等の評価を行いました。 4週時点での重回帰分析ではSTAS-J でCNTに有意な治療効果が認められました(図2) 唾液アミラーゼ活性の変化は、交感神経系の活性化とストレス反応の生理学的マーカーです。この結果は接触鍼が患者の苦痛の生理学的側面と心理的側面の両方に影響を及ぼす可能性を裏付けています(図3)。 図24週間にわたる評価スケジュール-日本語版(STAS-J)の変化 対照群(a)および鍼治療群(b) (STAS-J)スコア。 図3接触鍼治療群と対照群における 2週間後の唾液アミラーゼの個別変化   論文情報 論文タイトル:Effect of contact needle technique on cancer‑related fatiguein palliative care patients: a randomized controlled trial 著者:Keiko Ogawa-Ochiai、MD、 PhD(広島大学病院 漢方診療センター)ほか 掲載誌: Supportive Care in Cancer doi:https://doi.org/10.1007/s00520-026-10430-6   報道発表資料(417.07 KB) 掲載誌:Supportive Care in Cancer 研究者ガイドブック(小川 恵子 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学病院 漢方診療センター 教授小川 恵子(おがわ けいこ) E-mail:okeiko22@hiroshima-u.ac.jp TEL:082-257-1921(内線 6921)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    がんを抑制するはずのシステムががんの発生を誘導する! ―細胞間コミュニケーションの新たな仕組みを解明し、がん治療戦略の提案に貢献―

    【本研究成果のポイント】 ショウジョウバエ上皮組織において、腫瘍(*1)抑制経路として知られるHippo経路が腫瘍の形成を誘導することを発見しました。本研究によって、Hippo経路による腫瘍形成を誘導するメカニズムの一端が明らかとなったことで、新たながん治療戦略の提案に貢献できます。   【概要】Hippo経路は腫瘍抑制経路として知られ、この経路を標的としたがん治療戦略が開発されてきました。一方で、いくつかのがんではHippo経路が腫瘍形成を促進することが報告されており、Hippo経路の腫瘍形成における役割は大きな議論を呼んでいます。広島大学大学院統合生命科学研究科の本田大智研究員、奥村美紗子准教授(現 東北大学教授)、千原崇裕教授、広島大学大学院医系科学研究科の安藤俊範教授、理化学研究所の大井綾乃基礎科学特別研究員、佐久間知佐子理研ECL研究チームリーダー、小幡史明チームディレクター、基礎生物学研究所の三浦正幸所長らの研究グループは、ショウジョウバエ上皮組織においてHippo経路が腫瘍形成を誘導することを発見しました。この腫瘍形成モデルを用いて、これまで未解明だったHippo経路による腫瘍誘導効果についてそのメカニズムを解明することを目指しました。Hippo経路による腫瘍形成には細胞間コミュニケーションが使われており、Hippo経路が活性化した細胞が増殖因子(*2)(WinglessとSpitz)の分泌やアミノ酸輸送を介して、周辺細胞の腫瘍化を引き起こすことを明らかにしました。本研究は、Hippo経路による腫瘍誘導効果の分子メカニズムの一端を明らかにするものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。また、本研究は、国際学術雑誌EMBO Reportsに2026年5月1日にオンライン公開されます。 さらに本研究内容は注目すべき論文としてEMBO Reports内での説明記事”News & Views”にも取り上げられています。   【背景】Hippo経路は細胞増殖やアポトーシス(*3)を制御することで、組織・臓器の過剰な増殖を抑制する腫瘍“抑制”経路として知られています(図1左)。一方で、近年の研究で、いくつかのがんでは、Hippo経路が腫瘍形成を“促進”することが報告されています(図1右)。こうしたHippo経路の持つ腫瘍形成への2面性(抑制と促進効果)は、Hippo経路を標的としたがん治療戦略において大きな問題となっています。しかしながら、Hippo経路がどのように腫瘍形成を“促進”するのか、その分子メカニズムはほとんど分かっていません(図1右)。そこで、本研究では、ショウジョウバエ上皮組織を使い、Hippo経路による腫瘍誘導効果について解析しました。   【研究成果の内容】遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、Hippo経路が活性化した細胞(Hippo活性化細胞)を作製しました。そして、このHippo活性化細胞を誘導した組織で腫瘍形成が起きるかを観察しました。その結果、Hippo活性化細胞の周りの細胞で腫瘍形成が起こることが確認されました(図2)。これは、Hippo活性化細胞が腫瘍誘導センターとして機能し、細胞間コミュニケーションを介した腫瘍形成を引き起こすことを示しています(図2)。この細胞間コミュニケーションがどのように行われているかを調べるために、遺伝学的スクリーニングを行いました。その結果、Hippo活性化細胞による2種類の細胞間コミュニケーションを見つけました。1つ目はHippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子(WinglessとSpitz)を発現・分泌することで周辺細胞の腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。もう1つは、Hippo活性化細胞がアミノ酸トランスポーター(*4)(Sat1とSat2)を介して、周辺細胞でのアミノ酸の取り込みを促進し、腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。そして、これら2つの経路が相乗的に作用することで周辺細胞の腫瘍形成が強く誘導されることを発見しました(図3)。   【今後の展開】Hippo経路は多くの研究で腫瘍形成を“抑制”すると報告されており、これまでHippo経路を標的としたがん治療法が開発されてきました。しかし、近年の研究で、Hippo経路に腫瘍形成を“促進”する作用があることが報告され、大きな問題となっています。この腫瘍形成への2面性、特にHippo経路による腫瘍“促進”効果についてはほとんど分かっていません。本研究は、これまで謎の多かった腫瘍“促進”効果のメカニズムの一端を明らかにしたものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。   【論文情報】掲載雑誌名:EMBO Reports 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo tumor suppressor pathway triggers non-cell autonomous tumorigenesis in Drosophila 著者:本田 大智、奥村 美紗子、大井 綾乃、佐久間 知佐子、小幡 史明、安藤 俊範、三浦 正幸、千原 崇裕 DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00778-5   参考:本論文の解説記事 掲載雑誌名:EMBO Reports(in “News & Views”) 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo paradox: how growth suppression drives tumor growth 著者:Pooja Rai, Andreas Bergmann(共にUMass Medical School) DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00777-6   【参考資料】◆用語解説 (*1) 腫瘍: 細胞が異常に増殖して形成された細胞塊 (*2) 増殖因子: 細胞の増殖・分化を促進するタンパク質 (*3) アポトーシス: 遺伝子プログラムによって制御された能動的な細胞死 (*4) アミノ酸トランスポーター: アミノ酸を細胞内外へ輸送する輸送タンパク質   図1Hippo経路による腫瘍形成への2つの作用 古典的モデル(左): Hippo経路による腫瘍“抑制”効果。矛盾的な機能(右): Hippo経路による腫瘍“促進”効果。Hippo経路は腫瘍形成を“抑制”すると考えられてきたが、いくつかのがんでは腫瘍形成を“促進”する。この促進効果についてはほとんど理解されていない。   図2Hippo活性化細胞による細胞間コミュニケーションを介した腫瘍誘導 Hippo活性化細胞をマゼンタ色で、腫瘍を緑色で表示。Hippo活性化細胞それ自体が腫瘍化するのではなく、周辺細胞が腫瘍化した。   図3Hippo活性化細胞が増殖因子とアミノ酸輸送を介して腫瘍形成を誘導する Hippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子を発現・分泌することで周辺細胞に作用する。また、Hippo活性化細胞はアミノ酸トランスポーターSat1/2を介して、周辺細胞のアミノ酸の取り込みを促進する。増殖因子とアミノ酸の両方が相乗的に周辺細胞へ作用することで腫瘍形成を引き起こす。   報道発表資料(424 KB) 論文掲載ページ (EMBO Reportsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (千原崇裕 教授)   【お問い合わせ先】 大学院統合生命科学研究科千原崇裕 Tel:082-424-7443 E-mail:tchihara@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 Tel:050-3495-0247 E-mail: ex-press@ml.riken.jp   基礎生物学研究所 Tel:0564-55-7628 E-mail:press@nibb.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.06
    • 医療/ヘルスケア
    歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功 ―痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へ―

    本研究成果のポイント 歯科治療後に起こる顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因を明らかにしました。これまでは「痛みが発症してから抑える」治療法しかなかった病気ですが、今回の研究成果により「痛みを未然に防ぐ予防」への全く新しい治療戦略が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学の麻 思萌 現・育成助教(当時・大学院生)、中村 庸輝 助教、中島 一恵 助教、森岡 徳光 教授の研究グループは、歯科治療後にまれに起こる強い顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因と予防法を、マウスを使った実験で明らかにしました。神経が傷つくと「HMGB1」という物質が放出され、それが「RAGE」という受容体と結びつくことで、炎症が起こり、痛みが慢性化することがわかりました。研究では、神経損傷の直後にRAGEの働きを止める薬を神経の近くに投与することで、痛みの発症を完全に防ぐことに成功しました。さらに、この薬は神経の周囲だけでなく、脳内の痛みを増幅させる細胞の働きも抑えることが確認されました。これにより、従来の「痛みが発症してから抑える治療」から「痛みを未然に防ぐ予防」への新しい治療戦略が期待されています。今後は人への応用に向けて、安全性や効果の検証が進められます。     背景 私たちの顔には、三叉神経という神経が通っています。これは、顔に触れたときの感覚(温度や痛みなど)を脳に伝える役割を持っていますが、親知らずの抜歯やインプラント治療などの歯科治療時、偶発的に三叉神経が傷ついてしまうことがあります。これが原因となり、食事や会話、洗顔といった日常のわずかな刺激で耐え難い激痛が走る「外傷後三叉神経ニューロパチー」という病気を発症することがあります。この痛みは、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、うつ病や不安障害を引き起こすこともあります。 これまで、この痛みに対する治療は抗てんかん薬や抗うつ薬などの薬物療法が中心でしたが、効果は限定的で、めまいや眠気といった副作用も大きな課題でした。さらに、痛みが慢性化するのを未然に防ぐための有効な予防法は確立されておらず、神経損傷のリスクがある患者に対する新たな予防戦略の開発が強く求められていました。     研究成果の内容 本研究グループは、外傷後三叉神経ニューロパチーにおいてどのようなメカニズムで痛みが発生するのかを解明し、そしてその予防法を確立することを目指しました。 そもそも、「痛み」を人間が感じるメカニズムの一つとして、「HMGB1」と「RAGE」という物質が関わっています。HMGB1は細胞の中にあるたんぱく質の一種で、RAGEは細胞の表面にある受容体(センサーのような役割)です。HMGB1は細胞の中にあるので、細胞が傷つくと外に出てきます。すると、それを感知したRAGEが「体に異常がおきている」と判断し、炎症反応を引き起こします。このようなメカニズムから、HMGB1は「痛みの警報物質」とも呼ばれています。 そこで私たちは、RAGEがHMGB1を感知する前に、その働きを弱めることができれば、痛みを軽減できるのではないかと考えました。まず、歯科治療後に起こる痛みを再現するために、マウスの顔の神経を傷つけたマウスモデル(眼窩下神経を損傷したモデル)を作製しました。その後、一部のマウスにのみ、神経を傷つけた直後(当日と2日後)に、RAGEの働きを阻害する薬物(RAGE阻害薬)を、傷つけた神経の周辺に直接投与しました。その結果、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、顔を頻繁にこすったり、冷たい刺激に対する強い反応といった症状が、雄雌ともに確認されました。これに対し、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、これらの痛みの行動が全て、性別に関わらずに抑制されました(図1)。この結果は、RAGEの働きを初期段階で弱めることが、痛みを防ぐ上で重要であることを示しています。 図1:RAGE阻害薬の予防投与による痛み様行動の抑制効果 神経損傷マウスにRAGE阻害薬を予防的に投与した際の、痛みの強さを示す行動の変化。(左)自発的な痛み(顔を毛繕いする時間)と(右)冷たい刺激に対する痛み反応を評価した結果。神経損傷のみのマウス(黒)では、対照マウス(白色)に比べて痛みの行動が著しく増加しましたが、RAGE阻害薬を投与したマウス(灰色)では、これらの痛みの行動が有意に抑制されました。本図は雄マウスのデータですが、雌マウスにおいても同様の抑制効果が確認されています。(本研究成果の論文中の図を改変) ここまでで、RAGEの働きを弱めると痛みが抑制されることが分かりましたが、次に、この痛み予防効果の背景にあるメカニズムを解明するため、免疫細胞の活動を詳細に解析しました。まず、マウスの傷つけた神経の周辺を調べたところ、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、炎症を引き起こす主要な免疫細胞である「マクロファージ」が過剰に集まっていることが確認されました。しかし、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、このマクロファージの集まりが劇的に抑制されていました(図2)。 図2:RAGE阻害薬による神経損傷部位でのマクロファージ集積の抑制効果 損傷した三叉神経の周囲に集まる免疫細胞「マクロファージ」の様子(白色部分)。対照マウス(左)と比較して、神経損傷のみのマウス(中央)ではマクロファージが過剰に集積し、強い炎症反応が起きています。一方、RAGE阻害薬を投与したマウス(右)では、このマクロファージの集積が大幅に抑制されていることが分かります。(本研究成果の論文中の図を改変) さらに、神経からの痛みの情報が脳に伝わる最初の中継地点である「脳幹(三叉神経脊髄路核尾側亜核)」に注目しました。すると、神経が傷ついたことに反応して、脳幹に存在する免疫細胞「ミクログリア」が活性化し、その細胞数が異常に増加していることが分かりました。これは痛みの信号が増幅され、慢性化する「中枢性感作」と呼ばれる現象の証拠です。驚くべきことに、末梢神経周辺に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化をも抑制していました(図3)。 図3:RAGE阻害薬による脳幹でのミクログリア活性化の抑制効果 痛みの情報が脳に伝わる中継地点「脳幹」における免疫細胞「ミクログリア」の様子(白色部分)。対照マウス(左)のミクログリアは活動が穏やかな「休止状態」ですが、神経損傷のみのマウス(中央)では、細胞が大きく形も変化した「活性化状態」になっています。末梢神経に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化も強く抑制しました(右)。(本研究成果の論文中の図を改変) これらの結果から、 ①神経が傷ついた時に放出されたHMGB1がRAGEに結合し、 ②末梢神経でマクロファージによる過剰な炎症を引き起こし、 ③その情報が脳幹に伝達されてミクログリアを活性化させ、痛みを慢性化させる、 という一連のメカニズムが明らかになりました。 そして、神経損傷の直後にRAGEの働きを阻害することで、この負の連鎖を断ち切り、痛みの発症を未然に防ぐことができるという、全く新しい予防戦略の有効性が示されました。     今後の展開 今後は、ヒトでの臨床応用を目指し、安全性と有効性の検証を進めていきます。本研究で標的とした受容体「RAGE」は、アルツハイマー病など他の疾患の治療標的としても研究が進められており、それらの治療薬として開発された薬剤を応用することで、本予防法の早期実用化が期待されます 。また、本予防法は損傷した神経の周辺に薬剤を局所投与するため、全身性の副作用を低減できる可能性も秘めています。 本予防戦略は、歯科治療後の顔面痛だけでなく、様々な難治性疼痛へも展開できる可能性があるため、将来的にはより幅広い医療分野において、痛みの「治療」から「予防」へのパラダイムシフトを促すものと期待されます。     参考資料 掲載誌:Biochemical Pharmacology 論文題目:Preventive effect of RAGE antagonists on distal infraorbital nerve injury-induced pain behaviors of male and female mice 著者: Simeng Ma, Yoki Nakamura*, Takahiro Kochi, Suzuna Uemoto, Yume Miura, Zhaojing Wang, Kazue Hisaoka-Nakashima, Norimitsu Morioka* 掲載日:2025 年 12 月 (オンライン先行公開日:2025 年 8 月 14 日) DOI:10.1016/j.bcp.2025.117242 本研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   【プレスリリース】歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功ー痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へー.pdf(1.03 MB) 掲載誌:Biochemical Pharmacology 研究者ガイドブック(中村 庸輝 助教)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 助教中村庸輝 Tel:082-257-5312 E-mail:nakayoki@hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 教授森岡徳光 Tel:082-257-5310FAX:082-257-5314 E-mail:mnori@hiroshima-u.ac.jp

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    2025.03.26
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    大規模言語モデル(LLM)を活用した医学倫理教育の可能性 ―倫理的な行動の手本や相談役としての機能を検討―

    (Credit: Kanon Tanaka) 本研究成果のポイント 医学教育では、人的・財的資源の制約から、倫理教育が十分とは言えません。本研究では、この問題への対策として、医学倫理教育においてAIモデルの一種であるLLM(Large Language Models、大規模言語モデル)*1が有用な学習ツールとなる可能性を提示しました。 医学倫理を学ぶうえで、医療に必要なルールや原則に関する知識の獲得だけでなく、患者や医療現場ごとに生じる複雑な倫理的ジレンマに対応するための態度や徳を身につけることが重要です。本論文では、知識の獲得と、態度や徳を身につける教育の双方を取り入れたハイブリッドアプローチの必要性を指摘しました。 LLMに対して、医療倫理に特化した追加学習(ファインチューニング*2)を行うことで、医学倫理教育においてLLMを倫理的な手本や相談役として活用する可能性を提示しました。利用者とLLMとの反復的な対話を通じて利用者の意識やLLMの情報の偏り(バイアス)を減らし、より公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することができると考えられます。   概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附講座教授兼務、京都大学 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者、シンガポール国立大学客員教授)は、広島大学大学院人間社会科学研究科の岡本慎平 助教、板野誠 博士課程大学院生とともにLLMを活用した医学倫理教育の可能性を検討しました。 本研究成果は、2025年2月5日に学術誌「BMC Medical Education」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:AI-based medical ethics education: examining the potential of large language models as a tool for virtue cultivation 著者:Shimpei Okamoto1, Masanori Kataoka1,2, Makoto Itano1, Tsutomu Sawai1,2,3,4* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科 2. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 3. 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi) 4. Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore, Singapore. *: 責任著者 雑誌:BMC Medical Education URL:https://bmcmededuc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12909-025-06801-y DOI:https://doi.org/10.1186/s12909-025-06801-y   背景 現在の医学教育カリキュラムでは倫理教育が十分とは言い難く、医学生や研修医が臨床現場で倫理的に複雑な状況に直面した際、対応に苦慮することが報告されています。 このような問題への理想的な対処法として、専門的な教育を受けた倫理指導者の雇用や、医学教育カリキュラムの改善が求められます。しかし、人的・財的資源の制約から、こうした対処は困難であり、医学倫理教育の充実が進まない状況が続いています。 こうした背景を踏まえ、次善の策としてLLMを教育ツールとして活用することが考えられます。医療分野に特化した学習を行ったLLMに対し、対応に苦慮するケースの情報を入力することで、手本となりうる対応策や、患者ケアにおいて考慮すべき情報を得ることができます。 LLMを倫理的な手本や相談役として活用することで、人的・財的資源を抑えながら、道徳的知識や患者ケアに必要な姿勢の獲得を促す可能性があります。   研究成果の内容 本研究では、医学倫理教育のアプローチについて検討し(①)、LLMが倫理的な手本(②)や相談役(③)として有用な学習ツールとなる可能性を示しました。 また、医学教育におけるLLMの実用性を検討するために取り組むべき課題を整理しました(④)。   ① ハイブリッドアプローチの重要性 医学倫理教育においては、2つの教育アプローチが存在します。 原則主義的アプローチは、医療倫理の4原則*3のように、医療に必要なルールや原則に関する知識を獲得するという、認知的目標の達成を目的としています。 一方で、非原則主義的アプローチは、個別の患者が抱える状況を認識・判断し、倫理的価値に基づいて行動するための態度と徳を育み、身に着ける態度的目標の達成を目的としています。 医療の現場において、適切な倫理的意思決定を行うためには、2つのアプローチを組み合わせたハイブリッドアプローチを取り入れ、医療に必要なルールや原則に対する十分な知識と、患者ケアに不可欠な徳や態度を獲得する必要があります。   ② 倫理的な手本としてのLLM 私たちは、倫理的な手本となるような人物の行動を真似することによって、徳や態度を身に着けることができます。 同様に、歴史上の人物や架空のキャラクターなど、目の前に実在しない存在を手本として倫理的な原則を理解し、その行動を真似することで、徳や態度を身に着けることもあります。実際に、教育の現場では文学や映画などの作品を通して、複雑な倫理的ジレンマを理解したり、共感や道徳的態度を身に着けたりする試みがなされています。 目の前に存在しない人物や架空のキャラクターを真似することで徳や態度を身に着けることができるのであれば、私たちはLLMの示した回答やシナリオを通して倫理的行動の手本を認識し、それらを真似することで徳や態度を身に着けることが出来るかもしれません。   ③ 相談役としてのLLM LLMの回答は、あくまでも助言として活用されるべきであり、絶対に正しいものであるかのように扱うべきではありません。 LLMの提示した回答の結論だけでなく、その回答が導き出された過程や参照している情報源を検討し、どの部分が手本として参照するに値するか、値しないかを判断する必要があります。 また、ファインチューニングを行っていないLLMは、原則主義的な回答を行う傾向にあることが指摘されています。徳倫理やフェミニスト倫理など、他の考え方が示された場合に、初めてそうした考え方を反映した回答を出力することが確認されています。 原則主義的な考え方のみに基づいて教育を行うと、LLMの利用者が患者一人一人の状況に対応できない、不適切な考え方や行動を身に着けてしまう可能性があります。 そのため、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、より適切な回答を出力できるようファインチューニングを行って、LLMの情報を更新していく必要があります。   ④ 検証すべき課題 1. 原則主義的な回答を行う傾向があるのなら、どのように態度的目標を達成するのか? LLMによる原則主義的な回答の傾向は、ハイブリッドアプローチに組み込むことで、解消することが出来ます。利用者は、非原則主義的な観点からLLMの回答を批判的に検討することで、相手に対する共感や適切な態度について考えることができます。 特定のシナリオにおいて、人間の気づかない感情の動きをLLMが認識するという研究結果も示されていることから、LLMが活用できる場面を見極めながら教育の現場に組み込むことで、教師の負担を部分的に削減したり、新たな気付きを与えたりする可能性があります。   2. LLMの回答を、患者ケアの参考にする人はいるのか? LLMが共感や配慮といった複雑な感情を理解できないのではないかという理由から、LLMの回答をアドバイスとして取り入れたり、LLMが提供した手本となる行動の例を真似したりするに値しないのではないかという懐疑的な意見もあります。 しかし、「推論」に対する判断を行う課題においては、作成者が人間であっても、LLMであっても、アドバイスとして採用する際に影響は生じないという研究結果が示されています。 認知的要素である推論と、態度的要素である徳や態度では結果が異なる可能性もあるため、今後、実証的な実験によって、相談役としてのLLMの実用性を検討する必要があります。   3. 徳や感情を持っていないLLMが、倫理的な手本になりうるか? 文学作品や映画作品の多くは、作者と直接対話を行うことができない環境で鑑賞されています。物語の作者のことを知らずとも、物語のキャラクターを手本として徳を育み、身に着けることができるのであれば、LLMが感情の機微に欠けており、倫理的な態度や徳を有していないとしても、出力されたシナリオや回答を手本とすることができる可能性はあります。 倫理的手本としてのLLMの実用性は、作成者の情報や手本とする存在の実在など、様々な条件を考慮したうえで、教育的実験を通じて実証的に検証される必要があります。   4. 更新の作業が必要なら、医学教育の役に立たないのではないか? 人間と人間のコミュニケーションにおいても、世代間で価値観に相違が生じるなど、バイアスが表面化することがあります。たとえば、ワークライフバランスの取れた生活を求めるといった価値観は、世代間で異なった受け取られ方をするかもしれません。 このように、徳や価値観が時代や文化によって変化することを教師も認識しなければなりません。 LLMと人間の教師による教育を組み合わせることによって、学生と教師の対話、徳や価値観に対する批判的反省、相互学習の機会の場を促進することができるかもしれません。 LLMと利用者のバイアスを認識し、取り除くという更新の作業は、人的なリソースを必要としますが、最終的にはより公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することに繋がる可能性があります。   今後の展開 LLMを医学倫理教育で活用するためには、実用性を測定するための実証的な検証が必要です。 人間の教育者が割く時間の増加を抑えつつ、より高品質な教育を実現するため、LLMと教育者の協力関係の構築について、検討を進めることが望まれます。 より実用的な回答を出力するために、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、LLMのファインチューニングを進めていくことが求められます。   謝辞 本研究は、以下の支援により実施しました。   日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 若手研究 「経験的生命倫理学における方法論の構築とその応用」21K12908 (研究代表者:澤井努) 上廣倫理財団論文投稿助成[UEHIRO2023-0116]   参考資料 Ethical Exemplar in Medicine https://chatgpt.com/g/g-EjSMhG7W1-ethical-exemplar-in-medicine   用語解説 *1:LLM(Large Language Models、大規模言語モデル) ChatGPTに代表される生成AIモデルの1つで、膨大な文章データを元に学習を行い、人間の会話や文章から単語の出現確率をモデル化する技術。単語の並びから言語のルールや文脈を学習し、人間が自然だと思う文章を生成したり、文章表現を分析したり、文章の翻訳や要約をしたりすることに用いられる。   *2:ファインチューニング LLMに対する追加学習の1つ。事前学習を行ったLLMに対して、特定の課題や分野に特化した新たなデータを学習させるプロセス。 特定の分野のニーズに合わせてLLMをトレーニングできるため、より精度が高く、有用な情報を提供できるよう、カスタマイズすることができる。   *3:医療倫理の4原則 アメリカの倫理学者であるトム・ビーチャムとジェイムズ・チルドレスが提唱した4原則。自律性の尊重、無危害、善行、正義の4つからなる。 自律性の尊重:患者自身の決定や意思を大切にして、患者の行動を制限したり、干渉したりしないこと。 無危害:患者に危害を及ぼさないことや、今ある危害や危険を取り除き、予防すること。 善行:患者のために、患者の考える最善の善行を行うこと。 正義:患者を平等かつ公平に扱うこと。   報道発表資料(560.34 KB) 学術誌: BMC Medical Education 広島大学研究者ガイドブック (片岡 雅知 寄附講座准教授) 広島大学研究者ガイドブック (澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.01.19
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    【フェニックスセミナー2025まとめ】AI/DX研究の最前線

    概要 フェニックス協力会主催(広島大学AI・データイノベーション教育研究センター共催)にて、2026年1月19日に広島駅前コンベンションホールにて、フェニックスセミナー2025(研究シーズ発表会)を開催しました。   当日は、企業や研究者など70名ほどが参加し、若手研究者によるAI/DXの研究の最前線についての発表がありました。セミナー後は、懇親会も開催。直接研究者とコミュニケーションをとることで、研究とビジネスをつなげるきっかけの場となりました。   発表内容の詳細 信頼性工学 × 生成AI:Nバージョンプログラミングを再考する(鄭 俊俊)   プライバシーを守る次世代AIの実践と応用(連 卓涛)   モノの形の最適化(松島 慶)   情報科学×医学の融合研究(檜垣 徹)   生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用(古居 彬)   深層学習・ニューラルネットワークによる視覚表現学習(相澤 宏旭)   ウェーブレットに基づいた円滑化技術による寿命分析の改善に関する検討(呉 敬馳)     フェニックス協力会とは 「地域社会・国際社会との共存」を具現化する取組みとして、2010年11月、地域社会、特に地域産業界への更なる貢献を目的として設立。 150社ほどの企業・団体が所属し、広島大学オープンイノベーション本部産学連携部門(事務局)から、産学連携に関連する情報発信や、会員企業の皆さまにご活用いただけるさまざまなサービスなどを発信しています。

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    2025.10.23
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    脳生体ダイナミクスを捉える摂食嚥下機能リモート評価訓練システムの開発

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要嚥下は反射・随意運動と認知機能が複雑に関連して診断と訓練が行える施設が限られる。末梢交感神経を血管のかたさ(末梢血管剛性)で評価する独自のシーズ技術により、水蒸気のネブライザーでも喉頭感覚の評価と嚥下訓練が可能となり、水飲み動作と認知機能課題を組み合わせることによって嚥下障害の推定を可能とした。また、起立台と組み合わせて30度挙上という低負荷試験でも自律神経活動が評価でき、訓練に応用できることも確認した。   従来技術・競合技術との比較不顕性誤嚥と嚥下機能の評価は侵襲的で特殊な機器を使う嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が一般的。嚥下音だけのウエアラブル検査装置は不顕性誤嚥の評価が困難であり、咳テストは認知機能や自律神経は評価できない。   新技術の特徴 認知・運動・嚥下機能を自律神経活動の変化から非侵襲的に評価(見える化)できる 家庭や施設など専門家不在の状況でも、摂食・嚥下機能と認知機能を調べて訓練できる可能性がある ネブライザー(吸入器)と起立台(ヘッドアップチルト)の侵襲性を低減して対象者を拡大できる可能性がある   摂食嚥下障害の社会的位置づけ 70歳以上高齢者の4人に1人が嚥下困難を自覚 脳卒中患者の4~8割に嚥下障害あり 440万人の認知症の半数に摂食障害と嚥下障害 令和4年の誤嚥性肺炎の死亡5.6万人 肺炎の医療費:2327億円/年 嚥下障害は重症化して肺炎に至るまで気づきにくく、栄養状態を悪化させて虚弱状態(フレイル)を招き、筋力低下による転倒、認知症、うつ病などのリスクを増大させる 令和3年の介護保険要介護・支援677万人 脳を起点とした感覚と摂食・嚥下機能 不顕性誤嚥と誤嚥性肺炎従来技術とその問題点 末梢交感神経活動の非侵襲的評価法 末梢血管剛性で嚥下を見える化 自律神経活動の評価法従来技術とその問題点 自律神経活動の一般的な評価方法にヘッドアップチルト試験がある。 頭側を60~70度挙上させると血液が下肢に移動して血圧が下がる。脳血流を維持するために交感神経が働いて脈拍が上がり、末梢血管が収縮して血圧を維持しようとする。この現象を利用して交感神経活動を評価するが、通常は心拍変動で評価する。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 挙上角度が30度であれば、起立性低血圧のリスクは低く、ほぼ大部分の患者に行うことができるが、心拍の変動がほとんど抽出できないことから自律神経活動の評価は難しい。 末梢血管剛性による自律神経活動の評価 30度ヘッドアップチルト:患者と健常者の比較 患者16名(脳疾患等)に対して30°ヘッドアップチルト試験を行い、 健常者21名と比較   脳疾患などの患者に対して末梢血管剛性を用いると30°挙上の低負荷ヘッドアップチルト試験で自律神経(末梢交感神経)活動の評価ができる 30度ヘッドアップチルト:嚥下障害との関連性 蒸留水の吸入で喉頭感覚の見える化 蒸留水吸入で喉頭感覚の見える化と訓練 研究の全体像 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術の問題点であった嚥下に関連する感覚認識の客観的な評価が、末梢血管剛性を用いることで可能となった。 従来は不顕性誤嚥を嚥下内視鏡検査や刺激物の吸入で咳を誘発して喉頭感覚を調べる方法に限られていたが、末梢血管剛性によって低侵襲の蒸留水の吸入で評価・訓練できる。 末梢血管剛性によって、低負荷の30度ヘッドアップチルトで交感神経活動が評価・訓練できる。 本技術の適用により、慢性的なストレス社会で増加する心筋梗塞、うつ病などの原因となり、糖尿病やパーキンソン病にも併発しやすい自律神経失調症状を、誰でも気軽にチェック出来るようになることが期待される。   想定される用途 外来や入院で摂食・嚥下障害に対して評価と訓練をする時に使用。 入院してリハビリを行って何とか飲み込めるようになった嚥下機能を自宅や施設で維持したい。 嚥下機能や認知機能が気になって、自宅や施設で調べて、少し訓練もしたい時。   実用化に向けた課題 現在、ヘッドアップチルト試験あるいは嚥下機能検査で末梢血管剛性データを同時取得が可能なところまで開発済み。しかし、摂食嚥下機能・脳活動と末梢交感神経活動との関連性を明らかにする点と末梢血管剛性の計測装置の簡素化が未解決である。 今後、嚥下障害患者の脳病変・高次脳機能データを取得し、末梢血管剛性との関連性解析を行う。 実用化に向けて、末梢血管剛性の簡素化に向けた技術を確立する必要もあり。   社会実装への道筋 企業への期待 未解決の計測装置の簡素化については、末梢血管剛性の推定アルゴリズム、連続血圧波形の計測システムの修正により克服できると考えている。 ネブライザー、チルトベッド(起立台)、嚥下障害検査・訓練の技術を持つ、企業との共同研究を希望。 また、嚥下障害関連製品を開発中の企業、自律神経・ストレス分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。   企業への貢献、PRポイント 本技術は摂食・嚥下障害が、末梢血管剛性と蒸留水吸入を組み合わせることで、施設・一般家庭でも簡単にできる、従来にない製品開発の可能性があります。 30度ヘッドアップチルトでの自律神経評価は、多くの病院・クリニックでも行えて汎用性があります。 本技術は自律神経活動の異常が関連する多くの疾患やストレ ス関連分野など、応用範囲が広いです。 人の「脳活動」「こころ」の変化を見える化できることから、 スマホ社会の新たなアプローチになる可能性があります。   本技術に関する知的財産権 発明の名称 :嚥下能力評価装置、嚥下能力評価装置の作動方法及びプログラム 出願番号 :特願2025-077839 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :濱聖司、辻敏夫、山脇成人   産学連携の経歴 2社と各々1年ずつ共同研究実施 平成24年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業4社 平成25年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業5社 2021年度 JST研究成果展開事業A-STEPトライアウトタイプに採択 2022年-2025年 JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同<育成型> 10年以上にわたり、2社と共同研究実施   研究者濱聖司 脳・こころ・感性科学研究センター 特任准教授

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.19
    • 医療/ヘルスケア
    リンパ管の病気「リンパ管奇形」に対して、漢方薬「越婢加朮湯」が有効であることを確認しました~半数以上の患者さんで患部の腫れを20%以上縮小、世界初 臨床試験で実証~

    本研究成果のポイント 先天性のリンパ管の病気「リンパ管奇形」に対して、漢方薬「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」が有効であることを世界で初めて確認しました。   概要 広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授(研究代表者)らの研究グループは、全国8施設の小児外科・放射線科と共同で行った臨床研究において、漢方薬「越婢加朮湯(TJ-28)」が小児リンパ管奇形(lymphatic malformation: LM)に有効であることを明らかにしました。この成果は、米国医学会の国際誌 JAMA Network Open(2025 年11 月3 日号)に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 論文情報 ・論文タイトル:Eppikajutsuto for Treatment of Lymphatic Malformations in Children: A Nonrandomized Clinical Trial ・著者:Keiko Ogawa-Ochiai, MD, PhD(広島大学病院 漢方診療センター)ほか ・掲載誌:JAMA Network Open 2025 年11 月3 日 ・doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.40897 https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/10.1001/jamanetworkopen.2025.40897?guestAccessKey=330f0c68-47b9-46c5-8851-24ecb13f6048&utm_source=for_the_media&utm_medium=referral&utm_campaign=ftm_links&utm_ content=tfl&utm_term=110325 ・試験登録番号:Japan Registry of Clinical Trials(jRCTs041210007) ・研究助成:日本医療研究開発機構(AMED)「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業 (リンパ管奇形に対する越婢加朮湯の効果を評価する治験のプロトコール作成、リンパ管奇形に対する越婢加朮湯の効果を評価する臨床研究) 背景 リンパ管奇形とは、生まれつきリンパ管の病気の一種です。リンパ管という管がうまくつくられなかったことで、体の中の老廃物や余分な水分が袋状に溜まりコブをつくってしまう病気で、このコブが顔や首回りによくできるため、気道を圧迫して呼吸がしづらくなったり、見た目上の問題などを引き起こします。 従来の治療法である硬化療法(コブの中に薬を注射して小さくする方法)や外科手術によるコブ切除は効果がある一方で、治療後の腫れにより気道を閉塞してしまうリスクがあるほか、近年注目される「mTOR 阻害薬シロリムス」という薬は、免疫力が低下し、他の病気に感染してしまうリスクや、口内炎などの副作用が課題となっており、新たな治療法が求められていました。 https://cure-vas.jp/list/lymphatic-malformation/ 難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班ホームページより 研究成果の内容 今回、リンパ管奇形の治療に「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」という漢方薬を活用することを見出しました。越婢加朮湯はむくみや炎症をやわらげる効果がある漢方薬で、古代中国の医学書『金匱要略(きんきようりゃく)』に由来します。日本では1986年に厚生労働省により承認され、保険収載されています。1 日あたり約120円程度と経済的であり、外来で安全に使用できる治療法です。 本研究では、体重25kg 以下の小児19 人に越婢加朮湯を6 か月間投与し、その効果を調べました。MRI により画像検査を行ったところ、52.6%の症例で病気の部分が20%以上縮小し、顔や首回りでは83.3%の小児に効果が見られました。副作用は軽度なものが多く、重い副作用を発症したのは1 人だけでした。また、薬の継続率も高く、約9 割が実際にきちんと飲まれており、多くの子どもが継続して治療を受けら れたことがわかりました。 本研究は、広島大学病院を中心に、金沢大学、慶應義塾大学、大阪大学、日本大学、国立成育医療研究センター、昭和医科大学、聖マリアンナ医科大学、全国8 施設が共同で実施しました。MRI 画像解析は中央判定により行われました。   今後の展開 本研究成果は、難治性疾患に対する漢方薬の科学的有効性を示す初のエビデンスとして、国内外の小児外科・小児科・放射線科・形成外科・皮膚科・漢方医学領域に新たな治療選択肢を提供するものです。今後は、長期予後の検証や、分子標的薬との併用・比較研究を通じて、より個別化された治療モデルの確立を目指します。この結果を基に、世界のリンパ管奇形の子供たちに漢方薬での治療が可能になるように尽力したいと思っています。     報道発表資料(553.19 KB) 掲載誌:JAMA Network Open 研究者ガイドブック(小川恵子教授)   【お問い合わせ先】 広島大学病院 漢方診療センター 教授 小川 恵子(おがわ けいこ) E-mail:okeiko22@hiroshima-u.ac.jp TEL:082-257-1921(内線 6921)

    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    2022.07.12
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    医療系学生のための「感染症教育VR」教材を制作!~広島大学における実証授業でVR教材の効果を検証~

    本研究成果のポイント 「感染症対策」を共通テーマとして、部門横断型の医療教育VRを制作しました。 本VRによる学習を行った学生は、従来の講義形式の学習を行った学生に比べ、より正しく感染対策を実践できていることを検証しました。 本学では感染症に強い人材を早期段階から育成していきます。   概要 広島大学病院(広島県広島市、感染症科教授:大毛宏喜 他)は株式会社ジョリーグッド(東京都中央区、代表取締役:上路健介、以下 ジョリーグッド)に撮影と編集を委託し、新型コロナウイルスを含む「感染症対策」を共通テーマとして、「医学」「看護」「歯学」「薬学」「リハビリ」の5部門横断型の医療教育VRを制作しました。360°カメラによって撮影された現場の映像を元に、CGによりウイルス・細菌の飛沫や付着を表現しています。医療スタッフの目線のみならず患者視点でも、感染症のリスクをリアルに体験できる教育コンテンツを目指して各部門職員が脚本、出演、演出および監修をしました。   また、広島大学において、医学生を対象に今回開発した医療教育VRを用いた実証授業と医学部共用試験OSCE(オスキー)形式の実技試験を組み合わせた実証実験を行ない、VRによる学習を行った学生は、従来の講義形式の学習を行った学生に比べ、より正しく感染対策を実践できていることを検証しました。   今後、広島大学では、疑似体験によって高い教育効果が得られるVR教材を積極的に活用して医学生の実技レベルを飛躍的に向上させ、臨床実習にて自信を持って患者診療が行える学生医「スチューデント・ドクター」を輩出するなど、感染症に強い人材を早期段階から育成していきます。   本研究成果は、2022年7月12日付けで「American Journal of Infection Control」誌のオンライン版に掲載されました。   論文情報 掲載誌: American Journal of Infection Control 論文タイトル: Virtual reality as a Learning Tool for Improving Infection Control Procedures ​​​著者: Keitaro Omori*, Norifumi Shigemoto, Hiroki Kitagawa, Toshihito Nomura, Yuki Kaiki, Kentaro Miyaji, Tomoyuki Akita, Tomoki Kobayashi, Minoru Hattori, Naoko Hasunuma, Junko Tanaka, Hiroki Ohge*責任著者 DOI: 10.1016/j.ajic.2022.05.023 (7月12日に本学霞キャンパスで記者説明会を開催。左から広島大学の繁本准教授・蓮沼教授・大森診療講師、ジョリーグッドの細木部長)   報道発表資料(661.27 KB) 広島大学研究者ガイドブック ( 大毛 宏喜 教授) 論文掲載ページ (American Journal of Infection Control)に移動します   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 広島大学病院 感染症科 教授 大毛宏喜 Tel:082-257-1613 E-mail:ohge*hiroshima-u.ac.jp   <製品・技術等に関すること> 株式会社ジョリーグッド広報担当 Tel:050-5477-7697 E-mail: press*jollygood.co.jp   <報道に関すること> 広島大学広報室 Tel:082-424-3701 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   株式会社ジョリーグッド広報担当 Tel:050-5477-7697 E-mail: press*jollygood.co.jp   (注: *は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.16
    • 医療/ヘルスケア
    肝腫瘍の腹腔鏡手術、どんな時に開腹に切り替える? 多施設前向き研究で「3回目以降の肝切除」と「男性」がリスク因子と判明

    本研究成果のポイント 肝腫瘍の腹腔鏡手術において、手術中に体への負担が大きい開腹手術に切り替えなくてはならない状況が発生することがあります。どのような状況で、この切り替え(コンバージョン)が発生してしまうのか、リスクとなる因子を明らかにしました。 概要 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループは、広島臨床腫瘍外科研究グループ (Hiroshima Surgical Study Group of Clinical Oncology: HiSCO)に所属する7施設による多施設共同前向き研究を行い、腹腔鏡下肝切除において、手術中に用手補助腹腔鏡手術(HALS)または、開腹手術へ移行(コンバージョン)するリスク因子を明らかにしました。その結果、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが、コンバージョンのリスクであることが明らかになりました。 本研究の成果は、2025年12月26日に「Scientific Reports」に掲載されました。 論文タイトル Risk factors of conversion to hand-assisted laparoscopic surgery or open surgery in laparoscopic liver resection: a multicenter prospective study (HiSCO-08) 著者 Ko Oshita¹、 Michinori Hamaoka²*、 Tsuyoshi Kobayashi¹、 Takashi Onoe³、 Tomoyuki Abe⁴、 Toshihiko Kohashi⁵、 Koichi Oishi⁶、 Daisuke Takei⁷、 Tomoyuki Akita⁸、 Hideki Ohdan¹ *責任著者 1. Department of Gastroenterological and Transplant Surgery、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University 2. Department of Gastroenterological、 Breast and Transplant Surgery、 Hiroshima Prefectural Hospital 3. Department of Gastroenterological Surgery、 Kure Medical Center and Chugoku Cancer Center、 National Hospital Organization. 4. Department of Gastroenterological Surgery、 Higashihiroshima Medical Center、 National Hospital Organization. 5. Department of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery、 Hiroshima City North Medical Center Asa Citizens Hospital. 6. Department of Surgery、 Chugoku Rosai Hospital. 7. Department of Surgery、 Onomichi General Hospital. 8. Department of Epidemiology、 Infectious Disease Control and Prevention、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University. 掲載雑誌 Scientific Reports DOI 10.1038/s41598-025-34013-3 背景 肝腫瘍の治療において、腹腔鏡下肝切除という手法があります。これはお腹に小さな穴をあけて行う治療法で、出血量が少なく、手術後の痛みが軽く、早期に社会復帰可能といった利点から、体への負担が少ない手術として世界的に普及しています。とくに部分切除や外側区域切除といった小さな範囲の肝腫瘍を切除する際には、この治療法が標準的に選ばれることが多いです。 一方で、腹腔鏡下肝切除では、手術中に安全性の担保や腫瘍を確実に切り取ることが困難となり、用手補助腹腔鏡手術(HALS)や開腹手術という手術法へ移行(コンバージョン)する症例が一定数存在します。コンバージョンすると、体への負担が増加し入院期間の延長につながることが知られており、どのような症例でコンバージョンリスクが高いかを手術前に把握することは、極めて重要な課題です。 これまでにもコンバージョンのリスク因子に関する報告はありますが、その多くは後ろ向き研究(過去の記録を振り返る研究)でした。経験的にコンバージョンの可能性が高いと予測された症例は最初から腹腔鏡下肝切除を選ばないことが多く、実際に腹腔鏡下肝切除を試みたときに何が本当に影響するのかを正確に評価しにくいという課題がありました。このため、従来の研究では「腹腔鏡下肝切除を実際に試みた場合に、どの因子が真にコンバージョンに影響するのか」を正確に評価することが困難でした。実際、我々の経験でも、手術前にはコンバージョンのリスクが高いと予測して開腹手術を選択した症例において、後から振り返れば腹腔鏡手術が可能であったと思われる症例がありました。 本研究ではこの課題を克服するため、肝切除の既往歴や肝硬変の有無などの背景に関わらず、適格基準を満たすすべての症例に対してまず腹腔鏡アプローチを行うという、これまでにない前向き研究(あらかじめ計画して将来の結果を追う研究)デザインを採用しました。これにより、選択バイアスを最小限に抑え、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンリスクを、実臨床に近い形で検証することが可能となりました。 研究成果の内容 本研究は、広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)に所属する7施設が参加した多施設共同前向き臨床試験として実施されました。 5cm以下の単発肝腫瘍に対して部分切除または外側区域切除を予定した患者を対象とし、すべての症例を腹腔鏡で手術を開始しました。199例が登録され、うち172例(86.4%)では腹腔鏡下肝切除を完遂しました。一方、27例(13.6%)では、術中の安全性や根治性の確保を目的として、HALSまたは開腹手術へコンバージョンしました。コンバージョンの主な理由は腹腔内癒着であり、特に複数回の肝切除を受けた症例で高頻度に認められました。多変量解析の結果、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンの独立したリスク因子として、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが明らかになりました。 また、コンバージョン症例では、腹腔鏡下肝切除を完遂できた症例と比較して、手術時間の延長、出血量の増加、術後入院期間の延長が認められました。一方で、重篤な術後合併症や周術期死亡は認められませんでした。 今後の展開 本研究は、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンのリスク因子を、前向きかつ多施設で検証した世界初の臨床研究です。本研究成果により、「コンバージョン高リスク症例を事前に把握したうえでの、慎重かつ現実的な手術戦略の立案」、「早期のHALS・開腹手術への移行を含めた、安全性を最優先とした判断」、「不必要な手術侵襲や合併症リスクの回避」が可能となり、腹腔鏡下肝切除全体の安全性向上が期待されます。 また、本研究で明らかとなったコンバージョンのリスク因子は、腹腔鏡手術の適応を制限するためのものではなく、術中に生じ得る技術的困難を予測する指標として活用されるべきものです。高リスク症例においても、適切な準備と判断のもとで腹腔鏡アプローチを選択することは十分に可能であり、本研究はその判断を支える科学的根拠を提供します。 今後は、本研究で得られた知見を基盤として、より高難度な肝切除や解剖学的切除への応用やロボット支援肝切除におけるコンバージョンリスク評価など、低侵襲肝手術の最適化に向けた研究を展開していく予定です。 図1: 本研究の要点 用語解説 腹腔鏡下肝切除:お腹に数か所の小さな穴を開け、カメラ(腹腔鏡)と細い器具を用いて肝臓の一部を切除する低侵襲手術。 コンバージョン(開腹移行):腹腔鏡手術中に、安全性や確実性を優先するため、予定していた腹腔鏡手術を中止し、より侵襲の大きい手術方法へ変更すること。 用手補助腹腔鏡手術(HALS):腹腔鏡手術の途中で、術者の手をお腹に入れて行う手術方法。腹腔鏡手術と開腹手術の中間的な手技。 前向き研究:あらかじめ研究計画を立て、対象となる患者を登録し、将来に向かって結果を追跡・解析する研究方法。後ろ向き研究より結果に信頼性が高い。 選択バイアス:研究対象の選び方によって、結果が偏ってしまうこと。 報道発表資料(511.25 KB)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 Tel:082-257-5220FAX:082-257-5224 E-mail:hohdan@hiroshima-u.ac.jp

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    2026.05.11
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    “ヤゲン軟骨の秘密”を解明 〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜

    本研究成果のポイント 飛翔する鳥は胸骨に「竜骨突起」を持つ一方、走行性の鳥は平らな胸骨を持つことに着目 軟骨前駆細胞の増殖を促すTGF-β(※1)シグナルが、竜骨突起形成細胞では長く活性化する TGF-βシグナル活性化の“異時性(※2)”が、竜骨突起の有無を決めることを世界で初めて発見 骨格形態の多様化メカニズムの解明に加え、胸郭変形症の発症機序の理解にもつながる成果   概要脊椎動物の骨格は実に多様で、それぞれの動物の行動様式に適応した形をとります。鳥類の胸骨形態の違いはその典型例です。飛翔する鳥(胸峰類)は、胸骨の中央に「竜骨突起」と呼ばれるブレード状の構造を持ち、これが強力な飛翔筋の土台となります。一方、ダチョウやエミュー(※3)など走って移動する鳥(平胸類)は、この突起を持たず平らな胸骨をしています。こうした違いは進化の過程で生まれましたが、その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。 九州大学大学院システム生命科学府の権昇俊大学院生、理学研究院の熱田勇士講師は、農学研究院の江川史朗助教、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖真弥教授、鄒兆南助教、広島大学大学院統合生命科学研究科の本田瑞季助教と共同で、この問題解決に取り組みました。竜骨突起は胚発生期に形成されることから、研究グループはニワトリ胚(胸峰類)とエミュー胚(平胸類)を実験モデルとして、まず胸骨発生過程を比較しました。その結果、両者とも同じように胸骨のもととなる前駆細胞が現れるものの、ニワトリではこの前駆細胞が長く増え続けて竜骨突起をつくるのに対し、エミューでは早い段階で成熟してしまい、突起が形成されないことを明らかにしました。さらに、この違いの鍵となるのが「TGF-βシグナル」という細胞間の情報伝達であることを突き止めました。ニワトリではこのシグナルが長く働き続けることで細胞の増殖が保たれ、竜骨突起の形成につながります。本研究は、発生過程におけるシグナル活性化のタイミングのわずかな違い(異時性)が、飛べる鳥と飛べない鳥という大きな形態差を生み出すことを示したものです。 本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」に2026年4月29日(水)にオンライン掲載されました。   研究者からひとこと「鳥が飛べるかどうかは、目に見える翼や羽だけでなく、体の中の胸骨の形や、骨格の軽量化など、様々な要因が重なって決まります。脊椎動物の飛翔に必須な構造である竜骨突起について、発生シグナルのタイミングという視点からその進化、発生機構の一端を明らかにできて嬉しいです。」(権昇俊)   「本研究では、シグナル活性化のタイミングのわずかな違いが、骨格形態、ひいては行動様式の大きな違いにつながることを示しました。次に焼鳥屋さんで食事をされる際には、この研究内容を思い出しながらヤゲン軟骨を味わっていただければ、研究者冥利に尽きます。」(熱田勇士)   研究の背景と経緯脊椎動物の骨格系は、主要な構成成分(ハイドロキシアパタイトやコラーゲンなど)は体の部位や生物種間で顕著な違いはありませんが、大きさや形状はバラエティに富みます。鳥類内でも骨格形態には種間差があり、特に飛翔可能な鳥類である胸峰類と、進化の過程で飛ぶことをやめた平胸類との間には大きな違いがあります。胸峰類はその分類名が示すように、胸骨の正中線上に鋭く突き出したブレード状の構造を持ちます。この構造は「竜骨突起」と呼ばれます(参考図A)。あまり聞き馴染みがないように思われますが、ニワトリの若鶏の竜骨突起の一部は、実はヤゲン軟骨として食されています。飛ぶ鳥はこの竜骨を持つおかげで、筋肉の付着面積を拡大でき、飛翔に必要となる分厚い胸筋をつくることができます(参考図B)。一方で、走鳥類はこの突出構造を進化の過程で失ったため、私たちのような平坦な胸骨を持ちます(参考図A、B)。そのため平胸類とも呼ばれます。竜骨突起の存在については飛翔に必須の構造として古くから知られていましたが、竜骨突起形成を制御する分子、あるいは種間における突起の有無を決めるメカニズムは謎に包まれていました。   研究の内容と成果胸骨は発生過程において、まず鋳型となる軟骨がつくられ、その後、硬い骨に置き換えられることで形成されます。権大学院生らは、胸峰類のニワトリと平胸類のエミューを実験対象として選定し(参考図A、B)、鳥類胸骨のテンプレートとなる軟骨形成について研究を行いました。意外に思われるかも知れませんが、ニワトリは家畜化され飛ぶのが苦手ですが、未だに飛翔する鳥の体型を保っており、胸峰類のモデルになりえます。一方のエミューは新たな家畜として注目されているオーストラリア原産の鳥類で、平胸類の中でも比較的有精卵を入手しやすいこと、近年ゲノム解析が進んだことなどから研究に利用しました。 研究グループははじめに、胸骨形成過程のどのプロセスで違いが生まれるのかを観察しました。胸骨の元となる前駆細胞は側板中胚葉(※4)の一部から生じることが知られています。観察の結果、前駆細胞は両者とも同じ発生段階にて出現することがわかりました。また、左右の側板中胚葉から生まれた前駆細胞が体の正中線まで移動し、そこで癒合することで一枚の胸骨板がつくられますが、そのプロセスにおいても顕著な違いは認められませんでした。しかしながら、さらに発生段階を進めると、ニワトリ胚では前駆細胞が増殖を続け、竜骨突起を形成していく一方で、エミュー胚では前駆細胞が、早期に増殖が低下した成熟軟骨へと分化するため突起形成が起きないことがわかりました。 次に、本田助教、沖教授および九州大学の大川恭行教授らによって開発された、光照射技術とRNAシーケンス(※5)法を組み合わせた領域特異的な遺伝子発現解析法(PIC-RNA-Seq)を用いて、両種の前駆細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に調べました。すると、前駆細胞では成熟細胞と比べて、TGF-β(形質転換増殖因子β)シグナルの活性化レベルが高いことが明らかになりました。さらに、独自に確立した前駆細胞の培養系や、胚内での前駆細胞の遺伝子操作技術を活用することで、前駆細胞におけるTGF-βの役割を調べたところ、TGF-βが前駆細胞の増殖に必要不可欠な働きを担うことがわかりました。 これらの結果は、ニワトリでは前駆細胞においてTGF-βシグナル活性化が持続することで、増殖が促され突起を形成する一方で、エミューではTGF-βが早期に低下するため、前駆細胞の増殖が低下し突起形成が起きないことを示唆しています(参考図C)。   今後の展開今後は、このTGF-βの活性化の異時性がどのように生まれるかについて、遺伝子発現制御の観点から研究を進めます。いわゆるエピジェネティックな解析を実施し、TGF-βの発現のオン・オフを決めるゲノムDNA配列を同定します。さらに、ニワトリ、エミューに加え、高い飛翔能力と相対的に大きな竜骨突起を持つハチドリのゲノム情報も利用し、そのDNA配列が進化の過程でどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目指します。 研究成果の概要 TGF-βシグナルの異時的な活性化が鳥類胸骨の形態多様性を生み出すことを解明 (A)ニワトリ胸骨上には竜骨突起がある一方で、エミューには突出構造がない。 (B)竜骨突起は分厚い胸筋が付着する足場となる。 (C)成果の要約図:エミューではTGF-βシグナルの活性化が早期に減弱するが、ニワトリでは活性化が維持され前駆細胞の増殖が続く。   用語解説(※1) TGF-β・・・細胞の増殖や分化を調節するシグナル分子の一つ。 (※2) 異時性・・・ヘテロクロニー。発生過程における現象の起こるタイミングの違いを指す。 (※3) エミュー・・・オーストラリアに生息する飛べない大型の鳥。 (※4) 側板中胚葉・・・胚の外側に位置する中胚葉の一部。体壁や内臓のもとになる組織。 (※5) RNAシーケンス・・・どの遺伝子が使われているか(発現するか)を網羅的に調べる方法。   謝辞本研究は、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS、JP23ama12107 and JP25ama121017)、創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)(JSPS、JP25K09649)、住友財団基礎科学助成、武田科学振興財団ライフサイエンス研究助成の支援を受け行われたものです。また、研究を進めるにあたりご協力いただいた農学研究院研究教育支援センター、トランスクリプトミクス研究会、日本蛇族学術研究所、そして、エミュー有精卵を供給してくださったきやまファームに感謝申し上げます。筆頭著者の権大学院生は、K-SPRING採択者(JST、JPMJSP2136)および学振特別研究員(JSPS、JP24KJ7193)として研究を遂行しました。   論文情報掲載誌:Nature Communications タイトル:Heterochronic activation of TGF-β signaling drives the diversity of the avian sterna 著者名:Seung June Kwon, Zhaonan Zou, Mizuki Honda, Shiro Egawa, Shinya Oki, Yuji Atsuta DOI:10.1038/s41467-026-72602-6   【九州大学】“ヤゲン軟骨の秘密”を解明〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜.pdf(632.61 KB) 論文掲載ページ (Nature Communicationsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田瑞季 助教)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室 講師熱田勇士(アツタユウジ) TEL:092-802-6556FAX:092-802-4270 Mail:atsuta.yuji.360*m.kyushu-u.ac.jp   <報道に関すること> 九州大学広報課 TEL:092-802-2130FAX:092-802-2139 Mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp   熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3269FAX:096-342-3110 Mail:sos-kohojimu.k@umamoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL:082-424-3701FAX:082-424-6040 Mail:koho*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.11.19
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    肥満や肝炎「MASH」発症の新規メカニズムを明らかに!~治療薬開発に向けた第一歩~

    本研究成果のポイント 代謝機能障害関連脂肪肝炎 (MASH)の発症にPin1という酵素が関与することを明らかにしました。現時点では、ほとんど治療薬のない病気に対し、新たなアプローチでの治療法開発が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科医化学講座の中津祐介准教授、浅野知一郎名誉教授を中心とした研究グループは、プロリン異性化酵素Pin1がMASHの発症に重要であることを明らかにしました。この病気は現時点で有効な治療薬がないのですが、今回の発見により、今後、Pin1を標的としたMASH治療法の開発につながる可能性があります。   論文タイトル: Pin1 mediates metabolic dysfunction-associated steatohepatitis in mice fed high-fat, high-cholesterol diet by regulating both PPARα and acetyl CoA carboxylase. 掲載雑誌:Biochim. Biophys. Acta. Mol. Basis Dis. (2026年2月号に掲載) 著者:1中津祐介、2佐野朋美、1中西魅加子、3松永泰花、1, 4神名麻智、 2兼松隆、1浅野知一郎 1. 広島大学大学院医系科学研究科医化学講座 2. 九州大学大学院歯学研究院口腔機能分子科学分野 3. John W. Deming Department of Medicine, Tulane University School of Medicine, 4. 山陽小野田市立山口東京理科大学工学部機械工学科   背景 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)とは、肥満や糖尿病などの生活習慣病が原因で肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化(傷)が起こる病気です。近年、患者数が増加しており、放っておくと肝癌につながる可能性があるため、早期の治療が重要ですが、現時点では生活習慣の改善や体重の減少などの手段しかなく、決定的な治療薬は存在しません。 決定的な治療薬がない原因の一つとして、MASHがどのようにして発症するのかがまだ十分に分かっておらず、病気のどの部分を薬で狙えばよいのかはっきりしない点が挙げられます。 そのため、MASHの発症に関わる新しい原因(因子)を見つけることが求められていました。   研究成果の内容 本研究では、Pin1という酵素が、上述したMASHの原因である可能性について調べるため、肝臓の大部分を占める肝細胞からPin1を取り除いたマウスを用いて解析を行いました。普通のマウスに高カロリーな餌を長期間与えると、肥満とともにMASHを発症します。一方、Pin1を取り除いたマウスに同じ餌を与えても肥満やMASHになりにくいことがわかりました。 そこで、その原因を調べたところ、Pin1がPPARというたんぱく質の働きを妨げていることがわかりました。PPARは肝臓で脂肪を分解したり、エネルギーの消費を促すホルモン「FGF21」を作るように促す働きがあるのですが、Pin1がPPARの機能を抑制することで、肝臓で脂肪が蓄積しやすくしていることを明らかにしました。さらに、Pin1には肝臓で脂肪を作り出す働きをもつ「アセチルCoAカルボキシラーゼ」という酵素を増やす働きもありました。 つまりPin1は、肝臓で脂肪の分解を妨げると同時に脂肪の合成を促す働きをもつため、肥満やMASHの発症に関与していることがわかりました。   今後の展開 今回の研究は、マウスを用いて肝臓のPin1を欠損させると肥満やMASHが改善することを明らかにしました。今後は、Pin1の選択的阻害剤の開発やPin1の阻害剤が肥満やMASHを改善するかを検討する必要があります。   謝辞 本研究は、科学研究費補助金(研究代表者:中津祐介、浅野知一郎、佐野朋美)、土谷記念医学振興基金(研究代表者:中津祐介)、山口内分泌疾患研究振興財団(研究代表者:中津祐介)、薬理研究会(研究代表者:中津祐介)、朝日生命成人病研究所研究助成(研究代表者:中津祐介)、持田記念医学薬学振興財団(研究代表者:中津祐介)の支援で行われました。 また、広島大学からの論文掲載料の支援を受けています。   参考資料 本研究の概略図     報道発表資料(373.64 KB) 掲載誌:Biochim. Biophys. Acta. Mol. Basis Dis. 研究者ガイドブック(中津祐介准教授)     【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科医化学講座中津祐介 Tel:082-257-5138 E-mail:nakatsu@hiroshima-u.ac.jp

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