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    2025.11.07
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    銅酸化物の高温超伝導体で特殊な電子状態「ノード金属」を発見

    【本研究のポイント】 銅酸化物高温超伝導体で、世界で初めて「ノード金属」と呼ばれる特殊な電子状態を観測。 超伝導転移温度を大きく超える高温でも超伝導電子が存在することを発見し、それが「ノード金属」をもたらしていることを提唱。 三層構造が最も高い転移温度を示す理由を「ノード金属」に基づいて解明し、室温超伝導の物質設計に重要な指針を提示。     【概要】 広島大学放射光科学研究所准教授の出田真一郎、同大学技術専門職員の有田将司、京都大学大学院人間・環境学研究科教授の吉田鉄平、東京大学大学院理学系研究科名誉教授の藤森淳、内田慎一、同大学低温科学研究センター助教の藤井武則、弘前大学大学院理工学研究科教授の渡辺孝夫(研究当時)、同大学博士課程学生の足立伸太郎(研究当時、現職京都先端科学大学工学部講師)、自然科学研究機構分子科学研究所/総合研究大学院大学准教授の田中清尚、産業技術総合研究所主任研究員の石田茂之、東北大学大学院工学研究科助教の野地尚(研究当時)らと、台湾国立清華大学、米国スタンフォード大学の国際共同研究チームは、銅酸化物高温超伝導体(*1)のなかでCuO2面 (*2) を3枚もつ三層系銅酸化物の電子状態を詳細に調べ、超伝導転移温度 (Tc)を越える温度領域で、「ノード金属」(*3)と呼ばれる特殊な金属状態を世界で初めて観測しました。   当研究グループは、放射光を用いた高分解能の角度分解光電子分光(*4)により、ノード金属状態のキャリア濃度依存性を明らかにしました。その結果、キャリア量が非常に少ないCuO2面でも、Tcよりはるかに高い温度から超伝導電子が存在することを発見しました。さらに、超伝導を特徴づけるエネルギーギャップが従来の高温超伝導体よりも著しく大きいことがわかりました。これは、外側2枚と内側1枚のCuO2面の間で生じる「近接効果」(*5)により超伝導が安定化されたことを示しています。三層系が最大のTcを示す機構を明らかにした本研究成果は、高温超伝導の起源の解明に貢献するとともに、室温超伝導に向けた高いTcを示す物質設計の指針になることが期待されます。   本研究成果は「Nature Communications」において2025年10月27日付(イギリス時間)でオンライン掲載されました。本研究は科学研究費事業(課題番号:20H01861、22K03535、23K20229、24K06961、25400349)、台湾国家科学及技術委員会、教育省、米国エネルギー省による支援を受け、広島大学放射光科学研究所共同研究委員会により採択された研究課題(課題番号:22AG006、23BG011)、および、分子科学研究所により採択された研究課題(課題番号:29-549, 31-572, 31-861)のもとで実施されました。     【論文情報】 〈雑誌〉Nature Communications(Q1) 〈題名〉Proximity-Induced Nodal Metal in an Extremely Underdoped CuO2 Plane in Triple-layer Cuprates 〈著者〉Shin-ichiro Ideta*, Shintaro Adachi, Takashi Noji, Shunpei Yamaguchi, Nae Sasaki, Shigeyuki Ishida, Shin-ichi Uchida, Takenori Fujii, Takao Watanabe, Wen O. Wang, Brian Moritz, Thomas P. Devereaux, Masashi Arita, Chung-Yu Mou, Teppei Yoshida, Kiyohisa Tanaka, Ting-Kuo Lee, Atsushi Fujimori*(*責任著者) 〈DOI〉10.1038/s41467-025-64492-x     【背景】 1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体は、来年で発見から40周年という節目を迎えます。「超伝導」とは、物質を冷やすとある温度で電気抵抗が突然ゼロになる現象です。アルミニウムや鉛のような単体金属では、絶対零度に近い液体ヘリウム温度(-273℃)まで冷却しないと超伝導を示さないのに対し、銅酸化物高温超伝導体は、安価な液体窒素温度(-196℃)の高温で超伝導を示すため、送電ケーブルやリニアモーターカー、エネルギー貯蔵、医療分野など、幅広い応用が期待されています。しかし、発見から40年近く経った現在も「なぜ高い温度で超伝導がおこるのか」という起源は未解明です。そのため、物性物理学における最も挑戦的な課題として世界中の研究者の関心を集めています。 その中でも、特に重要な問題が、「多層系」の超伝導転移温度(Tc)です。超伝導は、モット絶縁体(*6)である2次元のCuO2面にキャリア(ホールまたは電子)を供給することで発現しますが、経験的にCuO2面が3枚ある三層系でTcが最大化することが知られています。しかし、なぜ三層構造だと最も高いTcが得られるのか、そして、そのときの電子の振る舞いについては長年の謎でした。     【研究成果の内容】 銅酸化物高温超伝導体は、電荷供給層からCuO2面にキャリアが供給されることで超伝導が発現します(図1a)。三層系銅酸化物では1単位格子に3枚のCuO2面があり、外側の2枚には多くのキャリアが入り、内側の1枚には少量しか注入されません。この内側CuO2面は、外側2枚に挟まれて「保護」されるため、平坦で清浄な状態が保たれ、超伝導に理想的な環境をもつと考えられます。 当研究グループは、この内側CuO2面のキャリア量を減らし、モット絶縁体に近い状態で超伝導電子がどのように振る舞うかを調べました。放射光を用いた高分解能角度分解光電子分光法(ARPES)の測定により、キャリア濃度が極端に減少した内側CuO2面を直接観測しました。通常、このような低キャリア状態ではモット絶縁体となり超伝導を維持できないと考えられます。しかし、実際には非常に大きなd波超伝導が実現していることを発見しました(図1b)。 さらに温度を上げても、Tcの約1.5~2倍に至る高温領域までd波の節構造を保持した「ノード金属」状態と呼ばれる特殊な状態が続くことを世界で初めて観測しました(図2)。この結果は、Tcを大きく超える温度から内側CuO2面で超伝導電子が形成され始めていることを意味しています。また、外側CuO2面からの「近接効果」が内側CuO2面の超伝導を安定化させ、d波超伝導を維持していることを見出しました。 これらの成果は、三層構造が最も理想的に超伝導を安定化させ、高いTcを実現する理由を示すものです。 図1: 3枚の超伝導層(CuO2面)をもつ三層系銅酸化物高温超伝導体の結晶構造。(a)3枚のCuO2面が、電荷供給層によって挟まれている。この電荷供給層を酸素アニールや原子置換を行うことでホールや電子がCuO2面に供給され、CuO2面のキャリア量が変化し超伝導が発現する。電荷供給層に近い外側CuO2面の方が内側CuO2面よりもキャリア量が多い。本研究では、内側CuO2面由来の電子状態で「ノード金属」を初めて観測することに成功した。(b)CuO2面でのエネルギーギャップの形がd波対称性をもつ状態の模式図。超伝導電子が角度依存性をもち、ノード(節)、アンチノード(腹)の方向がある。ノード方向は、図(b)の45°方向の矢印で示す銅原子-銅原子方向、アンチノード方向は図(b)の上矢印で示す銅原子-酸素原子方向に対応する。d波超伝導はノード方向でエネルギーギャップがゼロ、アンチノード方向で最大となる。 図2: 銅酸化物高温超伝導体でのエネルギーギャップ。エネルギーギャップは、ノード方向(節方向)においてゼロであり、アンチノード方向(腹方向)で最大となるd波超伝導を示す(図1b)。(a)内側CuO2面でのエネルギーギャップの温度変化。T < Tcの超伝導状態では、ノード方向でエネルギーギャップがゼロ、アンチノード方向でエネルギーギャップが最大となるd波超伝導が存在する。温度を上昇させていくとT = 1.5-2Tcまでd波ギャップが維持されるノード金属状態が存在することが本研究で明らかになった。これは、T = 1.5-2Tcで既に超伝導電子が形成され始める前駆的超伝導電子が存在することを意味している。T > 2Tcでは、ノード金属状態が崩壊し、フェルミアークと呼ばれるフェルミ面の一部が消失したアーク上のフェルミ面のみが観測される。     【今後の展開】 本研究により、三層系銅酸化物高温超伝導体で最も高いTcを発現させる理由と、超伝導電子の形成過程という長年の謎を解明しました。この成果は、高温超伝導の発現機構の理解を大きく前進させるものです。特に高温で超伝導電子が形成されることは、高いTcをもつ物質の設計や応用研究、さらには室温超伝導の実現に向けた重要な指針になると期待されます。     【用語説明】 (*1)銅酸化物高温超伝導体:銅(Cu)と酸素(0)を含む層状構造を持つ化合物で、比較的高い温度(液体窒素温度以上)で超伝導を示す物質群です。Bi系銅酸化物高温超伝導体では、単層系でTcは-233℃、二層系で-178℃、三層系で-163℃となり三層系で最大のTcを示します。   (*2)CuO2面:銅酸化物高温超伝導体に共通して存在する二次元的な銅と酸素からなる層です。CuO2面自体は電子が強いクーロン反発で局在しているため絶縁体ですが、この層に電子やホール(正孔)を供給すると、電子は運動できるようになり金属的な性質を示すようになります。CuO2面は銅酸化物高温超伝導の「舞台」ともいえる存在です。三層以上の銅酸化物を多層系銅酸化物高温超伝導体と呼び、本研究で対象としています。   (*3)ノード金属:銅酸化物高温超伝導体では、超伝導状態で超伝導ギャップがゼロとなる節(ノード)構造を保持します(d波超伝導)。ノード金属は、Tc以上の常伝導状態でも超伝導状態と同じようなノード方向のフェルミ準位にのみ電子が残る特殊な電子状態です。   (*4)角度分解光電子分光:物質の電子構造を調べるための先端的な実験技術です。物質に放射光や紫外線レーザーなどの光を入射したときに放出される光電子のエネルギーと放出角度を計測することで、物質内部で波動として振る舞う電子を特徴づけるエネルギーと波数の分布を調べることができます。   (*5)近接効果:多層構造を持つ銅酸化物高温超伝導体において、隣接するCuO2面同士が量子力学的に影響し合い、超伝導性が伝播・強化される現象です。特に、超伝導秩序が強い層から弱い層へと「しみ出す」ように伝わることで、全体のTcが向上することがあります。これは、単層系では見られない多層系特有の性質です。   (*6)モット絶縁体:本来は金属のように電気が流れるはずの物質が、電子同士の強い反発によって動けなくなり、絶縁体になる状態を「モット絶縁体」と呼びま す。銅酸化物高温超伝導体の母物質はこのモット絶縁体であり、超伝導の発現 を理解する出発点として重要視されています。   【プレスリリース】 銅酸化物の高温超伝導体で特殊な電子状態「ノード金属」を発見 ~三層構造が高い超伝導を実現する仕組みの解明へ~.pdf(604.04 KB) 掲載雑誌:Nature Communications 研究者ガイドブック(出田真一郎 准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 広島大学放射光科学研究所 准教授 出田 真一郎 Tel:082-424-6294 E-mail:idetas@hiroshima-u.ac.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 〒739-8511東広島市鏡山1-3-2 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   自然科学研究機構分子科学研究所 研究力強化戦略室広報担当 TEL:0564-55-7209FAX:0564-55-7340 E-mail:press@ims.ac.jp   総合研究大学院大学 総合企画課 広報社会連携係 TEL:046-858-1629FAX:046-858-1648 E-mail:kouhou1@ml.soken.ac.jp   東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室 E-mail:media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp   京都大学 広報室国際広報班 TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094 E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp   弘前大学理工学研究科総務グループ総務担当 TEL:0172-39-3510 FAX:0172-39-3513 E-mail:r_koho@hirosaki-u.ac.jp   京都先端科学大学広報センター TEL 075-406-9121 FAX 075-406-9130 E-mail:kouhou@kuas.ac.jp

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    2026.01.19
    • デジタル/AI
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    • 融合領域
    情報科学 × 医学 の融合研究

    アピールポイント 「情報科学」の画像処理等の技術と「医学」の画像診断の技術を組み合わせた研究 「情報科学 × 医学」の強い連携を活かした、臨床課題起点・臨床データ駆動型の研究 「医情連携 × 産学連携」による、研究成果の社会実装と臨床現場への還元   研究者のねらい 本研究は、放射線科医の臨床ニーズを起点とし、情報科学の専門性を有する研究者による画像処理・解析手法の研究開発を経て、医療機器メーカーとの連携による社会実装までを一貫して目指す医工産連携研究である。臨床現場における日常的なニーズに基づく研究テーマに始まり、実臨床に基づく検証を通じて実用性を重視した技術開発を進めている。研究成果を研究室内に留めることなく、医療機器としての実装・普及を視野に入れることで、放射線画像診断の質向上と臨床現場の負担軽減に貢献することを目的とする。   研究内容 深層学習を用いた医療用CT画像の画質改善 [1] 左:従来法右:深層学習   ✔ CT検査はX線を利用し、CT画像の画質は 撮影に使用した放射線強度に依存する ・被ばくを抑えて画質を保つ工夫が必要   ✔ 画像処理によりノイズ低減法はノイズを抑制すると同時に画像にボケが生じる ・画像診断においてはノイズ低減と共に空間分解能の高さも重要   ✔ 深層学習を利用したノイズ低減法 ・深層畳み込みニューラルネットワーク ・従来型のノイズ低減フィルタと比較して、空間分解能の劣化を抑えつつノイズを低減することができる ・検査による放射線被ばくのリスクを抑えつつ、高い診断能を保つことができ、患者に優しい検査が実施可能     全身循環モデルを用いた造影CT検査の造影シミュレーション [2][3] ✔ 造影剤を利用した造影CT検査 ・臓器コントラスト向上 → 診断能向上   ✔ 造影剤投与法や撮影タイミングが重要 ・体格等に依存し個人差が大きい   ✔ コンピュータシミュレーションで検証   関連情報 【論文】[1] Deep Learning Reconstruction at CT: Phantom Study of the Image Characteristics. Academic Radiology, 2020. [2] Minimizing individual variations in arterial enhancement on coronary CT angiographs using “contrast enhancement optimizer”: A prospective randomized single-center study. European Radiology, 2019.   【知財】[3] 特許:6740136シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置又は撮像システム、及びシミュレーションプログラム   研究者 檜垣 徹HIGAKI TORU 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 ビジュアル情報学研究室 准教授

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    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    2026.01.19
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用

    アピールポイント 筋電図・脳波・心電図など多様な生体信号をAIで解析し、作業者の状態推定や医療診断支援、直感的な機器操作を実現 個人差や信号のばらつきに強い適応型AI技術により実環境での安定性を実現 医療・福祉から製造現場まで、状態推定・異常早期検出・HMI開発など幅広い課題に対応可能   研究者のねらい 脳波・筋電図・心電図などの生体信号には、人の意図や健康状態に関する豊富な情報が含まれています。本研究室では、これらの信号を確率モデルとAI技術で解析し、「作業者の状態を可視化したい」「病気の兆候を早期に捉えたい」「機械を直感的に操作したい」といった課題に応える技術を開発しています。特に、実環境で問題となる個人差や信号のばらつきに対応できる適応的AI技術に強みがあり、医療機器、福祉機器、製造現場での作業支援など、幅広い分野での社会実装に向けた共同研究を積極的に進めています。   研究内容 神経信号処理グループ NeuroSignal Processing 神経筋システムの電気信号を処理・モデル化・認識する技術 筋電位のモデル化と動作識別[1] ✓ベイズ逐次学習による適応的動作識別[2]   ✓人の動作特性を模倣したロボット義手の制御[3]   脳波を用いたてんかん発作検出[4] ✓敵対的学習による患者に依存しない特徴の獲得[5]   視覚/動態解析グループ Vision/Dynamics Analysis 視覚的情報や動きの情報を活用して疾患や異常など隠れた性質を探る   超音波動画像による頸動脈プラークの異常評価[6] 心電図を用いたがん治療関連心機能障害の評価[7] ✓心電図の局所的な異常性に注目する機構の導入   姿勢推定と深層学習を用いた 運動機能評価[8] ✓動作の時空間特徴を効率的に捉えるモデル   関連情報 【論文】 [1] A. Furui et al., Expert Syst. Appl. (2021); [2] S. Yoneda & A. Furui, IEEE TNSRE (2025); [3] A. Furui et al., Sci. Robot. (2019); [4] A. Furui et al., IEEE Access (2024); [5] R. Tazaki et al., in Proc. EMBC 2025; [6] T. Yoshidomi et al., in Proc. EMBC 2024; [7] N. Suyama et al., in Proc. EMBC 2025; [8] J. Masaki et al., in Proc. SII 2026.   【知財】特許「心機能障害診断装置、心機能障害診断装置の作動方法及びプログラム」(特願2025-117013); 特許「生体信号解析装置及び生体信号解析方法」(特開2020-092753) など   研究者 古居 彬FURUI AKIRA 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 知能生体情報学研究室 准教授

    • 量子
    • 半導体
    • 素材
    • 融合領域
    2026.01.21
    • 量子
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    強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト -半世紀使われてきたドニアック相図を超えて-

    概要 理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループの山岡人志客員研究員、富山県立大学工学部教養教育センターの谷田博司准教授、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のアイケ・シュヴィア助教(研究当時)、シブ・クマール助教(研究当時)、有田将司技術専門職員、島田賢也教授(同大学放射光科学研究所所長)、関西学院大学の山本義哉大学院生(研究当時)、水木純一郎教授、高知大学の田島史郎大学院生(研究当時)、小野寺健太大学院生(研究当時)、西岡孝教授らの国際共同研究グループは、奇妙な異方性(磁気秩序が磁化の起こりやすい方向に起きない)を備えた反強磁性秩序[1]を示す近藤半導体[2]Ce(Ru1-xRhx)2Al10において、伝導電子とセリウム(Ce)が持つ4f電子[3]との結合(c-f混成[4])の異方性を考慮した新しい相図[5]を提案しました。 本研究成果は、高温超伝導体、次世代メモリ、高効率エネルギー変換デバイス、次世代コンピュータなどへの応用が期待される強相関電子系化合物[6]の物性発現の理解と新物質開拓に貢献すると期待されます。 今回、国際共同研究グループは、近藤半導体であるCeRu2Al10とそのルテニウム(Ru)の一部をロジウム(Rh)で置換した物質について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインおよび理研放射光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」[7]の放射光を用いた実験を駆使し、電子構造を調べ、少量のRh置換により引き起こされた電子構造の質的な変化、すなわちリフシッツ転移[8]が生じることを見いだしました。また、公表から約半世紀が経過した今でもなお強相関電子系の基底状態を記述する最も基本的な概念である相図(ドニアック相図(Doniach phase diagram)[9])を発展させ、方位依存性を持った「羅針盤」としての新しい相図を提案しました。 本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(2025年12月24日付)に掲載されました。   新たに提案した異方的c-f混成を扱う高次元の相図   背景 物質の中には無数の電子が存在します。それらは相互に影響し合い、超伝導や磁気/電荷秩序といった相転移[10]を示します。物の性質を扱う物性物理において、相転移の研究は花形の一つです。元素の組合せや原子のナノ配列構造(結晶構造)の特徴を反映した種々の相転移が知られていますが、こうした基礎研究は、現代社会を支える基盤技術(例えば磁気メモリなど)につながっています。 近藤半導体CeM2Al10(M:遷移金属のRu、オスミウム(Os)、鉄(Fe)など、Al:アルミニウム)は直方晶[11]の化合物です(図1(a))。近藤半導体では、磁気秩序が生じることは通常期待されませんが、CeRu2Al10とCeOs2Al10では常識に反し、約30ケルビン(K:絶対温度の単位)で反強磁性(AFM:antiferromagnetic)秩序が生じます。この転移温度は、大抵のCe化合物と比べて数倍高いものです。また、反強磁性秩序でのCeの磁気モーメントの向き(磁気異方性)も異常で、通常の磁性体では期待されない方向を向いてしまいます。このように奇妙な反強磁性秩序のカギとして、特に伝導電子とCe 4f電子との結合(c-f混成)の異方性が指摘されてきました。しかし、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで山岡客員研究員らは、角度分解光電子分光(ARPES)[12]実験(図1(b))を行い、CeRu2Al10では確かにc-f混成が異方的であることを明らかにしました注1)。この結果は、CeRu2Al10で生じる奇妙な反強磁性秩序が遍歴性[13]を有すことを浮き彫りにし、当時提唱されていた理論モデルを支持する内容でした注2)。 図1 CeRu2Al10の結晶構造、ARPES実験のセットアップ (a)CeRu2Al10の結晶構造。結晶系は直方晶(黄色四角枠)。Ru-Al10から成るクラスタ(灰色)がac2次元面を成し、b方向に積層している。クラスタの中心にRu(白っぽい灰色)が、クラスタの隙間にCe(黒色)がいる。小さい球はAlを表す。 (b)ARPES実験の例。光速に近い速度で運動する電子が向きを変えるときに放出する放射光を単結晶試料に入射させて、光電効果で飛び出した光電子を検出器で捉える。図中左下に示すように、物質中では電子の占める軌道によって結合エネルギーが異なる。単結晶の方位を変えながら光電子のエネルギーと運動量を調べることで、3次元的な電子構造の情報を得ることができる。本研究では図中の角度θを±10度程度の範囲でデータを積分し、c-f混成の異方性に関する情報を得た。なお実験では、Ceの4d-4fの共鳴条件に相当するエネルギーである122電子ボルト(eV)の放射光を入射させて行った。   注1) H. Yamaoka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 124704 (2024). 注2) S. Hoshino and Y. Kuramoto, Phys. Rev. Lett. 111, 026401 (2013).   研究手法と成果 今回、国際共同研究グループは、CeRu2Al10のRuサイトを周期表でRuの一つ右隣にある元素Rhに一部置き換えたCe(Ru1-xRhx)2Al10について、ARPES実験を行いました。Ce(Ru1-xRhx)2Al10の最大の特徴は、CeRu2Al10の異常な磁気異方性を解消し、磁気モーメントが期待される通りの向きを向くようになることです。この劇的な変化は、わずか5%程度のRh置換で起こります。このとき同時に転移温度も若干下がりますが、依然として同程度に高い温度を維持します。ここでも、c-f混成の強度と異方性がカギとなることが指摘されてきましたが、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで国際共同研究グループは、CeRu2Al10およびCe(Ru1-xRhx)2Al10について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインBL-1でARPES実験を行い、c-f混成に異方性があることを見いだしました。さらに、理研放射光科学研究センターSPring-8のビームラインBL12XUとBL12B2において実施した分光実験とX線回折実験の結果を合わせて、電子構造の変化、いわゆるリフシッツ転移がRh置換によって起きていることを明らかにしました。 図2(a)と(b)は、ARPES実験のデータを各結晶軸について積分して得たスペクトルです。これによりc-f混成の強度の異方性を調べることができます。図を見ると、フェルミエネルギー[14]近傍のスペクトル強度が明らかに違います。また、強度の強い方向がRh置換で変化しています。これは、Rh置換によってc-f混成の強い方向が切り替わったことを、実験的に明瞭かつ端的に示す結果です。 図2 CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10の実験結果 ARPES測定のデータを、結晶のa、b、c軸方向に積分した図。「f1」と示した信号が強い場合にc-f混成が強い。CeRu2Al10ではc方向のc-f混成が強いが(a)、Ce(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではb軸方向に強いことが明瞭に分かる(b)。これは、リフシッツ転移がRh置換で生じたことを示している。こうしてわずかなRh置換により、c-f混成の強い方向が切り替わることを実験的に初めて明らかにした。 図3(a)は、強相関電子系化合物の特徴を説明するために約50年来用いられてきたドニアック相図の概念を、模式的に示したものです。c-f混成が弱い領域では電子は局在的(特定の原子などに強く束縛されている状態)で、局在的反強磁性秩序が生じます。一方c-f混成が強い領域では遍歴的(電子が特定の場所にとどまらず自由に動く状態)で、非磁性の重い電子状態[15]が実現します。両者の中間ではさまざまな異常が発現します。これは、電子の粒子性と波動性[16]の問題に直結します。図中の円はフェルミ面[14]の大きさを表し、円の大きい方がc-f混成の強い状態を示します。 図3(b)は、ドニアック相図の概念を拡張した理論モデルです注2)。局在的反強磁性秩序と重い電子状態の間に、遍歴的反強磁性秩序の領域が割り込み、局在的反強磁性秩序の領域とはリフシッツ転移で隔てられています。これにより、CeRu2Al10の示す反強磁性秩序の遍歴性や、Rh置換で生じるリフシッツ転移を理解できます。 図3 ドニアック描像におけるc-f混成強度と物質の性質の移り変わり (a)ドニアック相図の概念。c-f混成が弱い領域は局在的な反強磁性、強い領域は非磁性の重い電子状態。両者は量子臨界点で隔てられる。量子臨界点とは相転移が起こり物質の状態が大きく変わる場所。(b)拡張されたドニアック相図。中間に遍歴的な反強磁性の領域が割り込む。局在的な反強磁性の領域とは、リフシッツ転移で隔てられている。図中の円により、c-f混成が等方的であることを象徴的に示す。   CeRu2Al10のc-f混成が異方的であるにもかかわらず、ドニアック相図ではc-f混成が等方的に扱われているため(図3)、CeRu2Al10の性質をうまく捉えることができませんでした。そこで国際共同研究グループは、c-f混成の異方性を考慮したより高次元の新しい相図を作成しました(図4)。 図4 新たに提案した異方的c-f混成を扱うドニアック描像の模式図   c-f混成が強くなるにつれ、局在的な反強磁性からリフシッツ転移を経て遍歴的な反強磁性に相転移し、量子臨界点を経て非磁性の重い電子状態へ移行する点は、図3(b)で示した概念と共通する。しかし、c-f混成の異方性を含めることで、従来のc-f混成を等方的に扱う相図よりも、的確に物質の特徴を示すことができる。CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではc-f混成は異方的で、それぞれc方向、b方向にc-f混成が強いことが楕円で表現されている。45度に傾いた破線はc-f混成が等方的な状況で、従来のドニアック描像はこの線上に対応する。CeRu2Al10ではb方向とc方向での顕著なc-f混成の異方性のため、2次元に拡張した相図で示したが、一般により高次元に拡張することが可能である。   CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10では、いずれもc-f混成の強さが異方的で、かつ、その強い方向は、それぞれc軸方向、b軸方向と異なりました。そこで、横軸と縦軸にそれぞれc軸方向とb軸方向のc-f混成の強さを取ることで、c-f混成が異方的な場合でも、その状況をうまく扱うことができるよう、旧来の概念を高次元に拡張した新たな相図を提案しました(図4)。従来のドニアック相図の概念は、c-f混成の強さの観点では1次元的です。新しい相図上では45°斜めの破線の軸上に対応します。 CeRu2Al10はc軸方向のc-f混成が強いため、相図の右側の領域、すなわちc軸方向のc-f混成が強い領域に位置付けられます。このとき、c軸方向にc-f混成の強いことが、c軸方向(横方向)に長い楕円で象徴的に示されています。同様に、Ce(Rh0.9Rh0.1)2Al10では、b軸方向のc-f混成が強いので、相図の左上に、b軸方向(縦方向)に長い楕円で示されています。両者は青い破線で示すようにリフシッツ転移で隔てられていて、今回の実験のようにRhで置換することで、遍歴的反強磁性状態から局在的反強磁性状態へと移行します。その際、c-f混成の強い方向がc軸方向からb軸方向へと大胆に入れ替わる様子が、黄色い矢印で示されています。 c-f混成の強さが弱い場合(図4左下)、あるいは強い場合(図4右上)には、c-f混成の異方性が実質的に消失し、等方的と見なすことができます。その様子は、図3(a)と図3(b)でも示した円により、象徴的に示されています。いわば、CeRu2Al10およびその関連物質は、c-f混成の強い/弱い領域の狭間にあり、種々の異常な性質の起源は、まさにその狭間の世界が生み出したc-f混成の異方性に端を発すると考えることができるようになります。このように提案した新しい相図は、c-f混成の示す異方性を針に据えた、まさに「羅針盤」として機能します。   今後の期待 本研究で得られた知見は、強相関電子系化合物の特徴を記述する最も基本的かつ象徴的な概念を、実験結果に基づき質的に拡張したものです。強相関電子系化合物が示す多様な性質の理解を深化させ、現象の統一的な理解、新たな物質開拓と理論研究の指針を与えます。元をたどれば電子の粒子性・波動性といった量子力学の基本原理に深く関わる概念であることから、本知見のインパクトは物性物理にとどまらず、広く波及し、基礎・応用を含む幅広い分野で活用されることが期待されます。   論文情報 <タイトル> Itinerant to localized heavy electron magnetism in Ce(Ru1-xRhx)2Al10: a direction-dependent phase diagram beyond the Doniach phase diagram   <著者名> Hitoshi Yamaoka, Hiroshi Tanida, Eike F. Schwier, Yoshiya Yamamoto, Shiv Kumar, Masashi Arita, Kenya Shimada, Fumisato Tajima, Renta Onodera, Takashi Nishioka, Hirofumi Ishii, Nozomu Hiraoka, and Jun’ichiro Mizuki   <雑誌> Physical Review Letters   <DOI> 10.1103/hdcf-dycj   補足説明 [1] 反強磁性秩序 隣り合う電子のスピンが互いに反対向きに整列し、全体では磁化の出ない状態(スピンは、量子力学的性質で上向きか下向きの状態しか取れない。スピンの向きがそろうと磁石になる)。   [2] 近藤半導体 強い電子相関により低温でエネルギーギャップを生じ、半導体的振る舞いを示す物質群。ギャップの大きい場合は近藤絶縁体と呼ばれる。「近藤」という名称は、この性質の起源と密接に関係する「金属の電気抵抗極小現象」の謎を世界で初めて解明した日本人物理学者、近藤淳(こんどうじゅん)博士の名前に由来する。物理学の世界で、日本人の個人名が冠された物理現象として有名なものの一つ。   [3] 4f電子 電子の取り得る軌道のうち、軌道角運動量がL=3の状態の軌道を占める電子。セリウム(Ce)などの希土類元素では、空間的に非常に原子核に近い軌道にある4f電子が不対電子となり、磁性を担う。   [4] c-f混成 伝導電子(conduction electron)とf電子(f-electron)とが混ざり合う効果や、混ざり合った状態、あるいは単に伝導電子とf電子との相互作用などを指す。磁気秩序、近藤効果、重い電子状態などのさまざまな現象は、これに端を発する。   [5] 相図 温度、圧力、組成などの関数として物質がどのような相・状態にいるのかを示す状態図。   [6] 強相関電子系化合物 電子間の相互作用が強い物質のこと。この性質が顕著に現れたものに、高温超伝導体、重い電子状態などがあり、物性研究の大きな一分野を成す。   [7] 大型放射光施設「SPring-8」 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。   [8] リフシッツ転移 結晶構造が変わらず、電子構造が変化する特殊な転移。熱力学的な相転移([10]参照)とは趣を異にする。   [9] ドニアック相図(Doniach phase diagram) 磁性や重い電子状態を示す化合物において、c-f混成の強さを横軸に、温度を縦軸に取った相図で、c-f混成は等方的に扱われる。1977年にS.ドニアック博士が提案して以来、約50年にわたり用いられてきた。一般に、c-f混成を強くすると、磁性が消え、量子臨界点を超えて非磁性の重い電子状態に移行する。量子臨界点付近では、非自明な超伝導などの風変りな現象が数多く報告されている。   [10] 相転移 磁場や温度、圧力などの外場(外的要因)によって、別の状態へ移行すること。エネルギーの変化の仕方により、1次相転移と2次相転移がある。水の状態変化は1次相転移、反強磁性秩序などは2次相転移に分類される。   [11] 直方晶 七つの結晶系の一つ。直方体で、縦、横、高さの各辺の長さが異なる。それぞれの軸方向は、a軸、b軸、c軸方向としている。   [12] 角度分解光電子分光(ARPES) 単結晶に光を照射し、光電効果で生じた電子の強度とエネルギーを、結晶との方位を変えながら調べる手法。これにより、固体中の電子が持つエネルギーと運動量ベクトルの関係、すなわちバンド構造を直接知ることができる。ARPESはAngle-Resolved Photoemission Spectroscopyの略。   [13] 遍歴性 外殻電子は、その占有軌道の波動関数の空間分布から、所属していた原子近傍に局在するか、結晶中を遍歴する伝導電子と成るかで、大きく二つに分類される。Ceの4f電子は典型的に局在的であるが、わずかに遍歴性も備える。   [14] フェルミエネルギー、フェルミ面 電子を、波数空間上でエネルギーの低い状態から順に詰めたときに、占有する状態と占有しない状態とを分ける境界面(フェルミ面)およびそのエネルギー(フェルミエネルギー)。電子は、統計性の違いからフェルミ粒子に分類される。   [15] 重い電子状態 電子の見かけの質量(有効質量)が100~1,000倍にも増強したように振る舞う異常な金属状態。Ceやイッテルビウム(Yb)、ウラン(U)化合物などで見られる。   [16] 粒子性と波動性 電子のような量子力学的な粒子は、粒子としての性質とともに、波としての性質を持つ。物質の示す性質に深く関わり、量子力学の基本原理の一つである不確定性原理に端を発する。   研究支援 本研究は、広島大学放射光科学研究所のビームラインBL-1、BL-7、BL9A(課題番号:13-A-2、13-B-38、14-A-3、14-A-5、15-A-2、16AG-002、17AG-007、19BG002、21AG003)、SPring-8にある台湾ビームラインBL12XU、BL12B2(課題番号:2013A4251、2013A4255(NSRRC課題番号:2012-3-011))を用いて行われました。   【理化学研究所】強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト_HP.pdf(650.3 KB) 掲載ジャーナル:Physical Review Letters 研究者ガイドブック(島田 賢也 教授)   発表者・機関窓口 <発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせください。 理化学研究所放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループ 客員研究員 山岡人志(ヤマオカ・ヒトシ)   富山県立大学工学部教養教育センター 准教授 谷田博司(タニダ・ヒロシ)   広島大学放射光科学研究所 助教(研究当時) アイケ・シュヴィア(Eike F. Schwier) 助教(研究当時) シブ・クマール(Shiv Kumar) 技術専門職員 有田将司(アリタ・マサシ) 教授 島田賢也(シマダ・ケンヤ) (同大学放射光科学研究所所長)   関西学院大学 大学院生(研究当時) 山本義哉(ヤマモト・ヨシヤ) 教授 水木純一郎(ミズキ・ジュンイチロウ)   高知大学 大学院生(研究当時) 田島史郎(タジマ・フミサト) 大学院生(研究当時) 小野寺健太(オノデラ・ケンタ) 教授 西岡孝(ニシオカ・タカシ)   <機関窓口> 理化学研究所広報部報道担当 Tel: 050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp   富山県立大学事務局教務課情報研究係 Tel: 0766-56-7500 Email: johokenkyu@pu-toyama.ac.jp   広島大学財務・総務室広報部広報グループ Tel: 082-424-4518 Email: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   学校法人関西学院広報部企画広報課 Tel: 0798−54−6873 Email: kg-koho@kwansei.ac.jp   高知大学広報・校友課 Tel: 088-844-8643 Email: kh13@kochi-u.ac.jp

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    2026.02.20
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    単層の氷の構造を初めて可視化 ― 渦状に並んだ水分子がつくるフェロアキシャル秩序を実証 ―

    本研究成果のポイント 鉱物中に閉じ込められた単層の水分子(単層氷)が研究の舞台 ハニカム格子上に並んだ水分子は室温で定まった方向を向かずに回転 低温で水分子が渦状に並んだ、フェロアキシャル秩序状態の新しい氷を発見   概要 静岡大学理学部の野村肇宏講師の研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教・有馬孝尚教授、岡山大学の小松寿弐千大学院生(当時)・木村純大学院生・甲賀研一郎教授、広島大学の長谷川巧准教授・荻田典男教授、高輝度光科学研究センターの中村唯我研究員、東京理科大学の石川孟講師、名古屋大学の矢島健准教授、東京大学物性研究所の松尾晶技術専門職員・古府麻衣子教授・廣井善二教授、芝浦工業大学の富田裕介教授、大阪大学の松尾隆祐名誉教授と共同で、2次元に閉じ込められた単層の水分子が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。 本研究では、2次元に閉じ込められた水分子の秩序構造を、放射光X線回折と分子動力学計算によって調べました。マーティアイトという鉱物中で、水分子はハニカム格子上に並んでおり、単層氷とみなすことができます。研究グループはこの単層氷が低温で渦状のモチーフを形成し、フェロアキシャル秩序と呼ばれる特異な秩序を示すことを明らかにしました。 この2次元氷の秩序構造は過去に予言されておらず、水という身近な研究対象がいかに複雑で謎に包まれた存在かを物語っています。2次元氷に関する知見は3次元氷を研究する礎となるものであり、今後人類が水に関する研究を進める上で重要なマイルストーンとなることが期待されます。 なお、本研究成果は、2026年2月13日に、アメリカ化学会の発行する国際雑誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 マーティアイトという鉱物中の水分子は、氷を一層だけ取り出して2次元に閉じ込めた、いわば単層氷とみなすことができます。本研究では、この単層氷が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。   背景 雪の結晶は六角形をモチーフとした形をとります。これは氷の結晶中で、水分子がハニカム格子上に整列した3次元構造をとるためです。それでは、極薄の氷を一層だけ取り出したときにどんな構造をとるでしょう?本研究はそんな単純な興味から始まりました。 研究グループはマーティアイト[martyite, Zn3(V2O7)(OH)2·2H2O]という層状の結晶構造を持つ鉱物に着目しました(図1)。マーティアイトのフレームワーク中で水分子はハニカム格子を形成しています。つまり、氷を一層だけ取り出して、それを2次元に閉じ込めたような状況が鉱物中で自然と実現しています。ハニカム格子上に配置された水分子は定まった方向を向くのではなく、面内をくるくる回転しています。これは幾何学的なフラストレーション*注1により、全ての水分子を同時に安定に並べることができないためです。マーティアイトを室温から冷却したときに、回転していた水分子がどのようにお互いを配慮しながら整列するかは容易には予測できません。 図1:3次元氷と2次元氷のハニカム格子(水分子の蜂の巣状配列)。マーティアイト中で回転する水分子がどう整列するかは非自明。   研究成果の内容 大型放射光施設「SPring-8」*注2のBL02B1で単結晶X線回折実験の結果、マーティアイト中の水分子の低温構造では、6個の水分子がまとまった渦状のモチーフ(六量体)を形成していることがわかりました(図2)。分子動力学計算を用いた単層氷のシミュレーションからも同様の水六量体が形成されることが明らかになり、マーティアイト中の水分子がたしかに単層氷とみなせることがわかりました。この水六量体では、水分子が電気分極を持つことから、電気双極子モーメントの渦が形成されることになります。このような多極子は電気トロイダルモーメントと呼ばれ、それらがそろった状態をフェロアキシャル秩序と呼びます。本研究から単層氷の安定構造がフェロアキシャル秩序であることが明らかになりました。 これまで20種類以上の氷の結晶構造*注3が報告されてきましたが、本研究で明らかになったフェロアキシャル秩序は理論的にも提案されたことがありませんでした。2次元に配置された水分子が作る渦状のモチーフは雪の結晶に劣らず美しく、自然の偉大さを再認識させられます。 図2:水分子のフェロアキシャル秩序と水六量体。渦状の電気双極子が電気トロイダルモーメントを作る。   今後の展望と波及効果 水分子がどのような安定構造をとるのかという問いは、氷・水・界面現象を理解する上で人類にとって不可避な問題です。それは氷が水に浮くことや、凍結した路面が滑るといった日常的な現象を理解する上でも重要な知見です。他方で、3次元氷の秩序は複雑かつ微妙な問題であり、人類が完全に理解したと言うには遠い状況です。本研究で明らかになった2次元氷の構造を足がかりに、水の理解が進展する可能性があります。   論文情報 掲載誌名: Journal of the American Chemical Society 論文タイトル: Ferroaxial order of the monolayer ice in martyite 著者: T. Nomura, S. Kitou, J. Komatsu, J. Kimura, K. Koga, T. Hasegawa, N. Ogita, Y. Nakamura,H. Ishikawa, T. Yajima, A. Matsuo, M. Kofu, O. Yamamuro, Z. Hiroi, Y. Tomita, T. Arima, T. Matsuo DOI: 10.1021/jacs.5c19407   研究助成 本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(22K14010, 23H04861, 24K06944, 24H01644, 24H01650, 25K00969)による助成を受けたものです。   用語解説 注1幾何学的なフラストレーション:格子の幾何学的配置のために、すべての相互作用を同時に満たせない状態。ハニカム格子上の水分子の場合、全てのペアで水素結合を形成することができず、不安定なペアが必ず存在してしまう。  注2大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。 注3氷の結晶構造:圧力と温度を制御することで多種多様な氷の結晶構造が出現することが知られている。これまでに20種類が確認されており、今後も増える可能性がある。   報道発表資料(512.72 KB) 掲載ジャーナル:Journal of the American Chemical Society 研究者ガイドブック(長谷川 巧 准教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 静岡大学理学部 講師・野村肇宏 (のむら としひろ) TEL : 054-238-4961 E-mail : nomura.toshihiro*shizuoka.ac.jp   (報道に関すること) 静岡大学 総務部 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室 TEL : 04-7136-5450 E-mail : press*k.u-tokyo.ac.jp   岡山大学 総務部 広報課 TEL : 086-251-7292 E-mail : www-adm*adm.okayama-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 TEL: 0791-58-2785 E-mail : kouhou*spring8.or.jp   東京理科大学 経営企画部 広報課 TEL : 03-5228-8107 E-mail : koho*admin.tus.ac.jp   名古屋大学 総務部 広報課 TEL:052-558-9735 E-mail : nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp   東京大学 物性研究所 広報室 TEL : 04-7136-3207 E-mail : press*issp.u-tokyo.ac.jp   芝浦工業大学 入試・広報部 企画広報課 TEL : 03-5859-7070 E-mail : koho*ow.shibaura-it.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    【フェニックスセミナー2025まとめ】AI/DX研究の最前線

    概要 フェニックス協力会主催(広島大学AI・データイノベーション教育研究センター共催)にて、2026年1月19日に広島駅前コンベンションホールにて、フェニックスセミナー2025(研究シーズ発表会)を開催しました。   当日は、企業や研究者など70名ほどが参加し、若手研究者によるAI/DXの研究の最前線についての発表がありました。セミナー後は、懇親会も開催。直接研究者とコミュニケーションをとることで、研究とビジネスをつなげるきっかけの場となりました。   発表内容の詳細 信頼性工学 × 生成AI:Nバージョンプログラミングを再考する(鄭 俊俊)   プライバシーを守る次世代AIの実践と応用(連 卓涛)   モノの形の最適化(松島 慶)   情報科学×医学の融合研究(檜垣 徹)   生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用(古居 彬)   深層学習・ニューラルネットワークによる視覚表現学習(相澤 宏旭)   ウェーブレットに基づいた円滑化技術による寿命分析の改善に関する検討(呉 敬馳)     フェニックス協力会とは 「地域社会・国際社会との共存」を具現化する取組みとして、2010年11月、地域社会、特に地域産業界への更なる貢献を目的として設立。 150社ほどの企業・団体が所属し、広島大学オープンイノベーション本部産学連携部門(事務局)から、産学連携に関連する情報発信や、会員企業の皆さまにご活用いただけるさまざまなサービスなどを発信しています。

    • 食料/農林水産業
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    2025.01.23
    • 食料/農林水産業
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    マグロ刺身の食べごろを散乱光で評価

    背景 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の安全検査や冷凍保存時の品質検査の技術確立の必要性が高まっている。 食用魚は、低温下で一定時間寝かせて熟成することでイノシン酸などのうま味成分が増すことが知られ、これらのうま味成分を計測する方法は多々あるが、鮮魚のおいしさはうま味成分のみでは決まらず、歯ごたえなどの食感も重要な要素となる。 魚肉は主に筋肉で構成されており、活け締め後の時間経過に伴う筋肉の分解が食感に大きく関わっているが、これまでの食感評価では、検査器を対象物に物理的に接触させる必要があった。 本研究では、光を照射して筋繊維やコラーゲンのような構造的に偏りのある物質内で特殊な散乱光を発生させ、これを観測することにより、筋肉やコラーゲンの分解プロセスを非接触で直接計測する手法を開発した。   研究成果の内容 計測方法 レーザー光照射により物質内で発生する散乱光(光第二高調波=SHG光)を測定する偏向顕微鏡(以前本研究者らが開発)を用いる。   キハダマグロの測定 新鮮な冷凍キハダマグロのブロックを、飲食店と同じ手順で解凍後に、4℃条件下に静置(チルド冷蔵) 静置後、0、12、24、48、72時間で、サンプルを採取し、レーザー光を様々な偏向角度(0~180°、10°きざみ)で照射し、散乱光の画像を測定   散乱光画像により筋繊維構造が可視化できる 筋繊維構造の時間変化を、散乱光の合成画像(様々な照射光偏向角における信号を足し合わせた画像)で評価する。 解凍後12時間さらには24時間で散乱光の強度は大きく低下し、散乱源となる筋肉の分解が進行している。 ただ、24時間後でも筋繊維の特徴である周期構造(サルコメア構造)が残っている。 24時間以降になると、周期構造に裂け目やぼやけが生じ、72時間後には細かい繊維のみとなる。 ※時間経過に伴い散乱光強度が低下し画像が暗くなるため、右三つの24時間以降の​図は画像処理して繊維構造を見やすくしている。   散乱光強度の偏向角依存性により筋肉かコラーゲンかが判る 散乱光画像を領域分割して、領域毎の散乱光強度を求め、その偏向角依存性をみる。 解凍後0時間では散乱光強度の偏向角依存性は二山形状に、72時間後にはすり鉢状の形になる。 先行研究で、二山形状は筋繊維に関わるたんぱく質ミシオンの特徴、すり鉢形状はコラーゲンの特徴であることが判っている。 図の説明:上の散乱光画像を、縦方向2分割、横方向4分割し、8つの各領域毎に、散乱光強度と入射偏向角度の関係を示す。領域毎に色を変えて下の図にプロットしている。​   散乱光強度と偏向角の関係をパラメータγで定量化 先の二山形状、すり鉢形状のグラフは共通の数式で近似でき、その形をパラメータγの値のみで表現できる。(詳細は省略) 解凍後各経過時間における散乱光強度と偏向角の関係からパラメータγの値を求め、時間毎のγの値の分布図(※)を示している。 解凍後、12時間までにタンパク質の分解が筋肉全体で始まるが、筋肉の構造はそれほど変化しない。 24時間までに、筋繊維の周期構造が急速に分解するが、その後、48時間までいったん安定期に入る。 48時間以降、筋肉分解が再開し、72時間までにはコラーゲン繊維を主とする組織となる。 ※ 各時間における散乱光画像40~50サンプルを採取し、それぞれを16領域に分割し、各領域におけるγの値を求めた。   「食べごろ」の判定 従来の食品検査法による鮮度の評価指標K値は、解凍後48時間までに大きく増加、すなはち、生化学的な反応による鮮度低下が進行する一方で、イノシン酸の産出によるうま味が増加する。 本研究によると、筋繊維の分解は、12時間以降急速に進むが、24時間後では筋繊維の構造はまだ残ったまま48時間まで安定期に入る。72時間経過するとコラーゲン繊維を主とする組織になる。 「食べごろ」は人により異なるが、 プリプリした弾力のある食感が好みの場合は、筋肉構造の変化が少ない12時間までが食べごろ 24時間から48時間までが、柔らかい歯応えとうま味を安定して感じられる食べごろ 48時間以降は、筋肉分解が大幅に進行し、コラーゲン主体の筋張った食感になる   本研究の優位性 鮮魚の食感に関わる筋肉繊維の構造とその変化を非接触で測定可能であり、食感の定量評価が可能となる。 繊維構造の直接計測のため、魚種などによらない汎用的な評価になりうる。 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の品質評価の基盤技術になりうる。   論文 Optical evaluation of internal meat quality deterioration in a tuna fillet based on second-harmonic generation anisotropy measurement Tomonobu M WATANABE, Yasuhiro MAEDA, Go SHIOI, Kaho MIYAZAKI, Hideaki FUJITA Journal of Food Engineering <DOI>10.1016/j.jfoodeng.2024.112422   研究者からのメッセージ 今回開発された手法は、筋肉繊維のみから選択的に発せられるSHG光を指標としているため、適用する魚種を選びません。また、従来の食感に関わる指標とも異なり、微視的な構造変化に基づいて評価でき、新しい鮮魚の評価法となると期待されます。   共同研究チーム 理化学研究所生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チーム チームリーダー渡邉朋信(広島大学原爆放射線医科学研究所教授) 技師前田康大塩井剛 広島大学原爆放射線医科学研究所 助教藤田英明 学部生宮崎夏帆   研究支援 理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究)により、一部、理化学研究所-広島大学共同研究拠点で実施 基盤となったSHG偏光顕微鏡技術は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「オールオプティカルメカノバイオロジーの創出に向けた技術開発と発生生物学への応用(研究代表者:倉永英里奈)」の研究過程において開発 研究者 渡邉朋信(WATANABE TOMONOBU) 広島大学 原爆放射線医科学研究所 教授

    • 環境エネルギー
    • 循環経済
    • 素材
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    2025.01.07
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    リサイクルができる画期的な新規汎用ゴム材料

    背景 エチレン-プロピレンゴムは、対候性、オゾン性、熱、光、および化学薬品に対する優れた耐性をもつ最も一般的なゴム材料である。 ゴム材料は、自動車や建材のチューブ、シール、ガスケットなど、様々な工業製品に利用されており、発生する膨大な廃ゴムのリサイクルが喫緊の課題となっている。 加硫プロセスにより製造された従来のゴムは、再生プロセスにおいて深刻な物性の劣化が生じるため、リサイクル不可である。 本研究は、リサイクル可能な新たなゴム材料を開発し、マテリアルリサイクルによる閉ループプロセスの実現を目指す。     リサイクルを可能にする取組み ゴムに弾性を付与するためには、原料の高分子(ポリマー)を相互に架橋させる必要がある。現在、このために硫黄を加える加硫プロセスを用いているが、この「加硫」がリサイクルを阻害している。 従来の加硫に代わり、可逆的に架橋および切断ができる共有結合による架橋プロセスを実現する。 ボロンを用いる架橋が一般的だが、ゴム材料用のポリマーにボロンを結合させることは非常に困難である。 本研究は、独自の触媒を用いて、高分子材料を合成する段階で、ボロンを組み込むことに成功した。     新しいプロセス ①エチレン、プロピレン、ボロン酸コモノマー(保護マスク付き)を新開発触媒を用いて、配置共重合しボロン含有ポリマーを合成 ②酸性条件下での加水分解によりマスク除去 ③ボロン酸の熱脱水縮合によりポリマーを架橋させて、ボロン架橋エチレン–プロピレンゴムを生成 (以下リサイクルプロセス) ④アルコール分解により脱架橋 ⑤脱架橋ポリマー中のボロン酸エステルを酸性メタノールを用いてボロン酸に変換してボロン含有ポリマーを再生   ボロン架橋エチレン-プロピレンゴムの特性 (1)引っ張り強さ・応力–歪特性 ボロン架橋ゴムの引っ張り強度は、従来の硫黄加硫ゴムより高く、エチレン含有量が増えるとより高い。 ボロン含有量を増やすと破断時の伸び歪を大きくできる。 (2)繰り返し引っ張りによる特性変化 2回目以降の応力-歪曲線は、ほぼ重なり合い、優れた弾性特性を示す。   (3)複数回のリサイクル後の特性変化 リサイクルに伴う引っ張り強度と破断伸びの劣化はない。   (4)雰囲気耐性・長期間安定性 ホウ素架橋は沸騰水、アルコール、酸に対して耐性があり、長期間安定性もある。 本研究の優位性 ゴムの製造プロセスにおいて、非可逆的な硫黄を用いる加硫処理に代えて、ボロンを介してポリマーを架橋させることにより、架橋-架橋解除の可逆処理を可能にする新たなプロセスを提案した。 ポリマーへのボロン組み込みは困難なため、独自の触媒を用いることにより、ポリマーの合成段階で重合とボロン組み込みを同時に行う新たな方法を見出した。 新たなプロセスのもとに、エチレン-プロピレンゴムを試作し、その機械的特性が従来の硫黄加硫品より優れ、環境安定性も高く、また、リサイクル性にも優れていることを実証した。     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :共重合体、共重合体の製造方法及び回収方法 特願 :2022-169053 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :田中亮、塩野毅、中山祐正     論文 Commodity Rubber Material with Reversible Cross-linking Ability:Application of Boroxine Cross-links to Ethylene-Propylene Rubber Yusuke Bando, Shin-ichi Kihara, Hiroya Fujii, Yuushou Nakayama, Takeshi Shiono, and Ryo Tanaka* https://doi.org/10.1021/acs.macromol.4c01312 Macromolecules 2024, 57, 7565−7574     研究者からのメッセージ 一般的なゴム材料は構造が整然としていない化合物ですが、我々の作ったものは架橋点が非常に美しく並び、網目が均一に分布しているため、より強いゴム材料になり得る可能性を秘めています。 実用化に向けたさらなる特性改善や課題解決を企業との共同研究で推進したいと考えております。       研究者 田中亮(TANAKA RYO) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    • 融合領域
    2024.05.08
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    微生物ガス発酵を用いた基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)製造によるカーボンリサイクル

    背景 地球環境問題への対応のため、化石燃料に替えてバイオマス資源を利用し、また、発生する二酸化炭素を化学原料や燃料として再利用するカーボンリサイクルの早期実現が、喫緊の課題となっている。 バイオマス資源から糖質のみを抽出して、発酵法により有用な化学物質を合成する手法はあるが、原料が食料と競合、糖以外の有機物が利用困難、糖化処理の高コストなどの弱点がある。 バイオマス資源から比較的容易に得られるメタン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素などの合成ガスから、有用な化学物質が合成できれば、カーボンリサイクルの自由度が大幅にアップする。 ホモ酢酸菌と呼ばれる嫌気性細菌の一群は、合成ガスから酢酸を生成することができる。酢酸以外の有用な化学物質が合成できれば、炭素循環型社会を支える有用技術となる。     概要 酢酸菌を遺伝子組み換えして基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生産     好熱性ホモ酢酸菌の1種Moorella thermoaceticaの野生株は、糖のみならず、CO2、H2、COを原料・エネルギー源として、酢酸を生成する代謝系を持つ。 遺伝子組み換えにより、 thermoaceticaが作る中間体アセチル-CoAを材料として、独自開発の遺伝子組換え技術により耐熱性酵素を導入することで、目的の基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生成することに成功した。 生産物が低沸点であることを活用し発酵/分離を統合した合成ガス高温発酵プロセスを開発した。     合成ガスからの基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)生成 作製した菌は合成ガスを基質として、上記基礎化学品を生産する。 菌体当たりの生産速度 アセトン: 90 mg/g-菌体/時間(CO:H2比 = 1:1)。 すなわち、10g/Lの菌体があれば、約1g/L/hの高速アセトン生産が可能になる。 2-プロパノール(アセトン生産経路にアルコール脱水素酵素を追加することで生成):30 mg/g-菌体/時間 エタノール(アルコール脱水素酵素およびエネルギー代謝改善酵素を導入することで生成):70mg/g-菌体/時間   開発した菌は、55℃から65℃で培養可能であり、蒸留発酵により生産物を回収しながら、物質生産を継続でき、分離・精製工程の負荷を低減できる。     本研究の優位性 化石燃料フリー、さらに、他で発生するCO2を利用して、有用化学物質を生産可能 バイオマス資源から糖化プロセスを経て有用化学物質を生産する発酵プロセスに比較して、原料が食料と競合しない糖に限定されず、有機物なら何でも利用可能である。 中温微生物による従来プロセスと比較して、発酵しながら分離(蒸留)するので、分離・精製工程の負荷や排水処理コストを低減可能である。 バイオマスや廃棄物等から比較的容易に生成可能な合成ガス、火力発電からの二酸化炭素、太陽光や風力発電で生成させた水素等、多様な組み合わせで、フレキシブルに有用化学物質を生産可能である。 合成ガスから有用化学物質を生産する既存の化学プロセスと比較して、例えば、メタノール合成プロセスのような高温・高圧の処理やガス組成の厳密な制御を必要としない。     期待される用途 生成物は有機溶媒として使われるほか、日本のプラスチック生産量の約半分を占めるポリエチレン、ポリプロピレン、C2-C4の化学品の合成前駆体として用いられる。 本技術を、バイオマスや廃プラ等による安価な合成ガス、火力発電所等からの二酸化炭素、太陽光や風力等からの水素と組み合わせることにより、今後のマテリアルカーボンリサイクルフロー実現のための重要技術となることが期待される。     実用化に向けての課題 菌株育種:合成ガスからの目的産物の生産を確認済みだが、酢酸が副生する点が未解決である。また、CO2/H2を原料とした際に生産性が低下する課題が未解決である。 プロセス開発:合成ガスおよびCO2/H2を原料とした発酵装置を開発した。しかし、開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとのインターフェース技術は未確立である。 LCA: 実用化に向けて、高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価も必要となる。     企業への期待 菌株育種:ガス発酵微生物のハイスループット育種技術の共同開発 プロセス開発:開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとの親和性検討とインターフェース技術の共同開発、および詳細プロセス設計に関わる共同研究 LCA: 高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価に関わる共同研究     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :アセトンを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたアセトンの製造方法 出願番号 :特願2020- 96417 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :中島田豊、加藤淳也、加藤節、竹村海正   発明の名称 :イソプロパノールを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたイソプロ パノールの製造方法 出願番号 :特願2023-058275 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者:中島田 豊, 加藤 淳也, 加藤 節, 竹村 海生, 松尾 赳志   発明の名称 :モーレラ属細菌の遺伝子組換え法 特許番号:特許5963538 権利者:国立大学法人広島大学, 国立研究開発法人産業技術総合研究所 発明者:酒井 伸介, 高岡 一栄, 中島田 豊,岩崎 祐樹, 矢野 伸一, 村上 克治, 喜多 晃久     論文 Metabolic engineering of Moorella thermoacetica for thermophilic bioconversion of gaseous substrates to a volatile chemical 国際科学誌「AMB Express」に 2021年23月 23 日にオンライン掲載   Isopropanol production via the thermophilic bioconversion of sugars and syngas using metabolically engineered Moorella thermoacetica 国際科学誌「Biotechnology for Biofuels and Bioproducts」に 2024年1月28 日にオンライン掲載     本研究は以下の研究助成を受けて産業技術総合研究所との共同研究により行われた。 科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」 領域「「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」 (研究科題名:再生可能エネルギーを活用した有用物質高生産微生物デザイン)     研究者からのメッセージ 合成ガスや水素など普通の微生物発酵にはなじみのない原料を使う新しい発酵技術です。代謝工学的な微生物育種技術とともに、安全かつ高性能な発酵プロセスの技術開発が必要なチャレンジングな試みです。しかし、本技術が社会実装できれば、微生物発酵は生産物だけではなく菌体そのものもタンパク源となり、物質文明を支える基礎化学品と食糧の併産も可能な夢の技術になりえます。   研究者 中島田豊(Nakashimada Yutaka) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

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