ヒトの腫瘍微小環境と治療への反応を再現する新規マウス大腸がんモデルの確立とその応用
アピールポイント
- マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つプロモーター配列(CDX2P-9.5kb)を発見しました。
- CDX2Pを応用してヒトの右側結腸癌と左側結腸癌を再現する大腸癌マウスモデルを確立しました。
- ヒトの大腸癌分子サブタイプ(CMS)を再現した高度浸潤癌と粘液癌マウスモデルを作成しました。
- 薬剤のスクリーニングに有用な治療抵抗性高度浸潤型大腸癌マウスモデルを作成しました。
研究者のねらい
大腸癌は罹患数,死亡者数が多く対策が急務で、特に治療抵抗性大腸癌に対する新規治療薬の開発は重要な課題である。大腸癌は、4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)、それを改良したIMF分類のiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とし最も予後不良なサブタイプで有効な治療薬が未だ無い。
私共は独自の大腸上皮細胞特異的コンディショナル複合的遺伝子改変マウスの技術を使って、CMSサブタイプを再現するマウスモデルを確立してきた。このうち治療抵抗性で予後不良なiCMS3サブタイプを再現する高度浸潤型のApc+Ptenマウスモデルを使って、大腸癌に対する新規化合物や抗体薬のスクリーニングや治療効果を評価する共同研究を提示する。
研究内容
私共は、大腸癌関連遺伝子として腸上皮の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による遠位大腸に腫瘍が好発する大腸浸潤癌マウスモデル(CPC-Apcマウス、左側結腸癌モデル)を確立した。
このモデルをさらに改良してMSI発現誘導型のCreマウスCDX2P-G22Creマウスを作成してApc欠損させたところ、近位大腸に腫瘍が発生する大腸癌浸潤癌モデル(G22Cre-Apc)を作成することができた(図1)。

いずれも12ヶ月経過観察をして、浸潤癌の発生率が17%で生存期間中央値が160日であるため、浸潤癌の治療効果を検証するには不十分と思われた。
私共は、Apcに変異を持つCPC-APCマウスに別のドライバー遺伝子(Kras, Braf, Tgfbr2, Ptenなど)組み合わせた遺伝子変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作成し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤癌(CMS3)や粘液癌(CMS4)などの分子サブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できた(図2)。

Apc+Ptenマウスは予後不良(図3,4)の高度浸潤癌が発生するが、PI3K-PTENシグナルの標的分子に対する阻害剤が著効する(図5)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性の大腸癌や高度浸潤型の大腸癌に対して、抗腫瘍効果を持つ新規化合物や抗体薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われる。



想定される用途・応用先
私共が開発したヒト高度浸潤型大腸癌のプロファイルを持つマウスモデルを用いることで、治療抵抗性大腸癌に高頻度で認められるPI3K-PTENシグナルを標的とした新規化合物や抗体薬のスクリーニングならびに大腸癌の浸潤やがんの微小環境に作用する薬剤の治療効果を評価するために有用なマウスモデルである。評価方法についてもマウス用の大腸内視鏡を使う評価方法から、腫瘍から確立したオルガノイドを使った細胞培養実験での評価も可能である。
関連情報
代表的な論文:
Hinoi T, Fearon ER et al. Cancer Res. 2007 Oct 15;67(20):9721-30.
Akyol A, Hinoi T, Fearon ER et al. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):231-3
Kochi M, Hinoi T e al. Cancer Sci. 2020 Oct;111(10):3540-3549
Itakura H, Hinoi T, Yamamoto H et al. iScience. 2023 Mar 23;26(4):106478
企業に望む事:私共の作成したマウスモデルを使って大腸癌の治療開発や薬剤スクリーニングについての共同研究や競争的資金の獲得
研究者
檜井 孝夫
広島大学
病院(医)
教授
2025年BioJapan出展