• HOME
  • 研究成果紹介
  • 産学連携スキーム
  • センター・拠点
  • 組織紹介
  • EN
  • JP

研究成果紹介

研究成果を検索いただけます

※教員の職名・所属等は記事公開時点の情報であり、最新情報とは異なる場合があります。

Category

─ 研究成果をカテゴリー別に集約 ─
  • 環境エネルギー
  • 気候変動/エネルギー/GX
  • 自然共生/ネイチャーポジティブ
  • 循環経済
  • 食料/農林水産業
  • 防災
  • 介護/福祉
  • デジタル/AI
  • モビリティ
  • インフラ
  • フュージョン
  • 情報通信
  • 宇宙
  • 量子
  • 半導体
  • 素材
  • バイオエコノミー
  • 資源
  • 海洋
  • 医療/ヘルスケア
  • 教育/人材育成
  • 健康/スポーツ
  • 経営/組織運営/デザイン
  • 融合領域

キーワード検索

─ 研究成果をキーワードで探す ─
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2025.11.14
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    植物の形態にひそむ周期性を変調させる仕組みを発見  魅力的な花き類の創出に期待

      概要 奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕) 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の池内桃子特任准教授と京都府立大学の爲重才覚講師(研究当時:名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、 横浜市立大学、 奈良先端大を含む)、奈良先端大の土田岳志(研究当時:博士前期課程)らは、広島大学大学院統合生命科学研究科の藤本仰一教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所/テキサス大学の鳥居啓子教授、名古屋大学遺伝子実験施設の打田直行教授、東京農工大学の笠原博幸教授、熊本大学の相田光宏教授らの研究グループと共同で、植物の形態形成の周期性を変調させる仕組みを発見しました。  形態形成を司る植物ホルモンのオーキシン(注1)の空間的なパターンは、オーキシンの輸送によって創出されるという説が長年受け入れられてきましたが、パターンの周期性を決める仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。  今回の研究はEPFL2(EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKE 2)(注2)というペプチドホルモンとの相互抑制的な関係性が、オーキシンの周期的な空間パターンを変調させることを新たに見出しました。これは、従来モデルを20年ぶりに書き換える重大な発見であるといえます。  本研究の成果は、花卉(かき)類や園芸植物の形を操作する技術の創出につながることが期待できます。  この研究成果は、イギリスの学術誌「Nature Communications」オンライン版に2025年11月13日(木)午後7時(日本時間)に掲載されます(DOI:10.1038/s41467-025-65792-y)。     背景と目的 ヒマワリやマツボックリなどのフィボナッチらせん(注3)に代表される植物の周期的な構造は、葉や花などの器官を一定間隔で繰り返し生み出すことで形作られています。また、ひとつひとつの器官の形状に着目すると、葉の縁には鋸歯(きょし)と呼ばれるギザギザ構造が一定の間隔で形成されていることがわかります(図1)。  こうした器官や鋸歯等の突起構造は、植物ホルモンであるオーキシンが局所的に蓄積することによって形成されます。オーキシンの輸送体がオーキシン濃度の高い細胞の方へ流す働きがあることで自発的に周期的なパターンが生み出されることが、実験およびコンピュータシミュレーションの結果に基づいて20年ほど前から提唱されていました1,2,3,4。  この説によると、オーキシンの輸送と拡散の関係によって周期性が決まると想定されます。しかし、実際の植物において周期性が変わる観察例はなく、周期性が決まる仕組みは未解明でした。     研究手法と成果 周期性を制御する仕組みを理解する手がかりは、EPFL2と呼ばれるペプチドホルモンを作れない変異体の解析から得られました。  鋸歯形成に先立って葉の縁に形成されるオーキシン蓄積部位を観察すると、EPFL2の機能が損なわれたepfl2 変異体ではその形成間隔が短くなっていることを発見しました(図2)。以前の研究によって、EPFL2とオーキシンの間に相互に抑制し合う制御関係があることがわかっていました5。 そこで研究グループは、従来モデルのオーキシンと輸送体の制御関係にオーキシンとEPFL2の相互抑制関係を組み込んだ新しいモデルを構築しました。  葉を模した多細胞列をコンピュータ上で再現しEPFL2がオーキシン蓄積部位の周期性に与える影響を調べた結果、EPFL2の量が少なければ形成間隔が短くなるという観察結果を再現しました。さらに、EPFL2の量を通常条件よりも増やせば間隔がもっと長くなり、一方でEPFL2の量を極端に減らすとひとつひとつの蓄積部位が明瞭に形成されなくなるというシュミュレーションの結果が得られました。  研究グループは実験的にEPFL2の量を改変した植物体を作り出し、これらのシミュレーション結果を裏付けることに成功しました。 また、EPFL2が規則的な器官配置パターンの形成に必要であることも見出し、EPFL2は植物の形作りを一般的に制御する重要な因子であることを証明しました(図3)。  こうして、実験とシミュレーションの両面のアプローチに基づき、EPFL2とオーキシンの相互抑制的関係が繰り返し起こる形態形成イベントの周期性を変調させる仕組みを提案しました(図4)。     今後の展開 輸送体によってオーキシン蓄積部位が周期的に生み出される仕組みは、チューリングパターン(注4)と呼ばれる一般的な規則正しいパターン形成と類似した仕組みと考えられています6。  今回の研究は、相互抑制関係とチューリングパターンを組み合わせることで周期性を変調させるという、新しいパターン形成の仕組みを提案しています。植物の形態形成の制御に留まらず、自然界に見られる様々な周期的パターン形成においても同様の仕組みが働いている可能性が考えられます。  また、サニーレタスのように複雑に入り組んだ葉の構造やカーネーションなど花弁の辺縁構造も鋸歯と共通した仕組みで作られるため、鑑賞用の花卉類や園芸植物の形質を改変して魅力的な形の植物を生み出す技術の開発に利用できる可能性があります。     謝辞 本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR214H)、日本学術振興会(JSPS)新学術領域研究「植物の周期と変調」(20H05431, 22H04713)・新学術領域研究「植物多能性幹細胞」(JP17H06476)・基盤研究B (JP26291057)・若手研究(20K15807)などの支援を受けて行われました。     用語解説 注1 オーキシン:植物の成長を調節する代表的な植物ホルモンの一つ。茎の伸長や根の形成、葉や花の配置など、体の各部の形づくり全般に深く関わっており、農業や研究目的で人為的に投与することも多い。 注2 EPFL2:EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKEsを含む一群のペプチド(EPF/EPFLs)のうちの一種。EPF/EPFLsは植物が体の各部の形成を調節するホルモン様のペプチド分子で、多くの植物が持っている。EPFL2は特に葉の形態、胚珠(種子になる器官)の形成、分裂組織のサイズなどに関わることが知られている。 注3 フィボナッチらせん:らせんの列の数がフィボナッチ数列(前の2つの数を足した数が次の数になるという規則性を持つ数列)に従う規則的な配置。 注4 チューリングパターン:物質の反応と拡散の仕組みによって自然に生じる模様、およびその理論。イギリスの数学者で暗号解読の功績やコンピュータ科学の創始者としても知られるアラン・ チューリングが提唱した。動物の斑点や縞模様、植物の模様や形態などを説明する理論として知られる。     引用文献 1. Jönsson H, Heisler MG, Shapiro BE, Meyerowitz EM & Mjolsness E. An auxin-driven polarized transport model for phyllotaxis. Proc Natl Acad Sci U S A. 103, 1633-1638 (2006). 2. de Reuille, P. B. et al. Computer simulations reveal properties of the cell–cell signaling network at the shoot apex in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103, 1627-1632. (2006). 3. Smith, R. S. et al. A plausible model of phyllotaxis. Proc. Natl. Acad. Sci.USA 103, 1301-1306. (2006). 4. Bilsborough GD et al. Model for the regulation of Arabidopsis thaliana leaf margin development. Proc Natl Acad Sci U S A. 108, 3424-9 (2011). 5. Tameshige T et al. A secreted peptide and its receptors shape the auxin response pattern and leaf margin morphogenesis. Curr Biol. 26, 2478-2485 (2016). 6. Sahlin P., Söderberg B. & Jönsson H. Regulated transport as a mechanism for pattern generation: capabilities for phyllotaxis and beyond. J. Theor Biol. 258, 60-70 (2009).     掲載論文 タイトル:Mutual inhibition between EPFL2 and auxin extends the intervals of periodic leaf morphogenesis(EPFL2とオーキシンの相互抑制が葉の周期的な形態形成の間隔を伸ばしている) 著者:Toshiaki Tameshige#, Takeshi Tsuchida#, Yuuki Matsushita, Yuki Doll, Kaisei Maruyama, Takemoto Agui, Mitsuhiro Aida, Hiroyuki Kasahara, Keiko U Torii, Naoyuki Uchida, Koichi Fujimoto, Momoko Ikeuchi* #共筆頭著者 *責任著者 掲載誌:Nature Communications DOI:10.1038/s41467-025-65792-y     報道発表資料.pdf(1.59 MB) 掲載雑誌:Nature Communications 研究者ガイドブック(藤本 仰一 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域植物再生学研究室 特任准教授池内桃子 TEL:0743-72-5520E-mail:momoko.ikeuchi@bs.naist.jp 研究室紹介ホームページ:https://bsw3.naist.jp/ikeuchi/   京都府立大学大学院生命環境科学研究科 講師爲重才覚 TEL:075-703-5444E-mail:t-tamesige@kpu.ac.jp 研究室紹介ホームページ:https://sites.google.com/view/tameshigelab/   広島大学大学院統合生命科学研究科 教授藤本仰一 TEL:082-424-7346E-mail:kfjmt@hiroshima-u.ac.jp     <JST事業に関すること> 科学技術振興機構 創発的研究推進部東出学信 TEL:03-5214-7276E-mail:souhatsu-inquiry@jst.go.jp     <報道に関すること> 奈良先端科学技術大学院大学企画総務課渉外企画係 TEL:0743-72-5063/5112FAX:0743-72-5011E-mail:s-kikaku@ad.naist.jp   科学技術振興機構広報課 TEL:03-5214-8404FAX:03-5214-8432E-mail:jstkoho@jst.go.jp   京都府立大学企画・地域連携課企画・地域連携係 TEL:075-703-5147FAX:075-703-4979E-mail:kikaku@kpu.ac.jp   名古屋大学総務部広報課 TEL:052-558-9735FAX:052-788-6272E-mail:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp   広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    がんを抑制するはずのシステムががんの発生を誘導する! ―細胞間コミュニケーションの新たな仕組みを解明し、がん治療戦略の提案に貢献―

    【本研究成果のポイント】 ショウジョウバエ上皮組織において、腫瘍(*1)抑制経路として知られるHippo経路が腫瘍の形成を誘導することを発見しました。本研究によって、Hippo経路による腫瘍形成を誘導するメカニズムの一端が明らかとなったことで、新たながん治療戦略の提案に貢献できます。   【概要】Hippo経路は腫瘍抑制経路として知られ、この経路を標的としたがん治療戦略が開発されてきました。一方で、いくつかのがんではHippo経路が腫瘍形成を促進することが報告されており、Hippo経路の腫瘍形成における役割は大きな議論を呼んでいます。広島大学大学院統合生命科学研究科の本田大智研究員、奥村美紗子准教授(現 東北大学教授)、千原崇裕教授、広島大学大学院医系科学研究科の安藤俊範教授、理化学研究所の大井綾乃基礎科学特別研究員、佐久間知佐子理研ECL研究チームリーダー、小幡史明チームディレクター、基礎生物学研究所の三浦正幸所長らの研究グループは、ショウジョウバエ上皮組織においてHippo経路が腫瘍形成を誘導することを発見しました。この腫瘍形成モデルを用いて、これまで未解明だったHippo経路による腫瘍誘導効果についてそのメカニズムを解明することを目指しました。Hippo経路による腫瘍形成には細胞間コミュニケーションが使われており、Hippo経路が活性化した細胞が増殖因子(*2)(WinglessとSpitz)の分泌やアミノ酸輸送を介して、周辺細胞の腫瘍化を引き起こすことを明らかにしました。本研究は、Hippo経路による腫瘍誘導効果の分子メカニズムの一端を明らかにするものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。また、本研究は、国際学術雑誌EMBO Reportsに2026年5月1日にオンライン公開されます。 さらに本研究内容は注目すべき論文としてEMBO Reports内での説明記事”News & Views”にも取り上げられています。   【背景】Hippo経路は細胞増殖やアポトーシス(*3)を制御することで、組織・臓器の過剰な増殖を抑制する腫瘍“抑制”経路として知られています(図1左)。一方で、近年の研究で、いくつかのがんでは、Hippo経路が腫瘍形成を“促進”することが報告されています(図1右)。こうしたHippo経路の持つ腫瘍形成への2面性(抑制と促進効果)は、Hippo経路を標的としたがん治療戦略において大きな問題となっています。しかしながら、Hippo経路がどのように腫瘍形成を“促進”するのか、その分子メカニズムはほとんど分かっていません(図1右)。そこで、本研究では、ショウジョウバエ上皮組織を使い、Hippo経路による腫瘍誘導効果について解析しました。   【研究成果の内容】遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、Hippo経路が活性化した細胞(Hippo活性化細胞)を作製しました。そして、このHippo活性化細胞を誘導した組織で腫瘍形成が起きるかを観察しました。その結果、Hippo活性化細胞の周りの細胞で腫瘍形成が起こることが確認されました(図2)。これは、Hippo活性化細胞が腫瘍誘導センターとして機能し、細胞間コミュニケーションを介した腫瘍形成を引き起こすことを示しています(図2)。この細胞間コミュニケーションがどのように行われているかを調べるために、遺伝学的スクリーニングを行いました。その結果、Hippo活性化細胞による2種類の細胞間コミュニケーションを見つけました。1つ目はHippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子(WinglessとSpitz)を発現・分泌することで周辺細胞の腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。もう1つは、Hippo活性化細胞がアミノ酸トランスポーター(*4)(Sat1とSat2)を介して、周辺細胞でのアミノ酸の取り込みを促進し、腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。そして、これら2つの経路が相乗的に作用することで周辺細胞の腫瘍形成が強く誘導されることを発見しました(図3)。   【今後の展開】Hippo経路は多くの研究で腫瘍形成を“抑制”すると報告されており、これまでHippo経路を標的としたがん治療法が開発されてきました。しかし、近年の研究で、Hippo経路に腫瘍形成を“促進”する作用があることが報告され、大きな問題となっています。この腫瘍形成への2面性、特にHippo経路による腫瘍“促進”効果についてはほとんど分かっていません。本研究は、これまで謎の多かった腫瘍“促進”効果のメカニズムの一端を明らかにしたものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。   【論文情報】掲載雑誌名:EMBO Reports 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo tumor suppressor pathway triggers non-cell autonomous tumorigenesis in Drosophila 著者:本田 大智、奥村 美紗子、大井 綾乃、佐久間 知佐子、小幡 史明、安藤 俊範、三浦 正幸、千原 崇裕 DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00778-5   参考:本論文の解説記事 掲載雑誌名:EMBO Reports(in “News & Views”) 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo paradox: how growth suppression drives tumor growth 著者:Pooja Rai, Andreas Bergmann(共にUMass Medical School) DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00777-6   【参考資料】◆用語解説 (*1) 腫瘍: 細胞が異常に増殖して形成された細胞塊 (*2) 増殖因子: 細胞の増殖・分化を促進するタンパク質 (*3) アポトーシス: 遺伝子プログラムによって制御された能動的な細胞死 (*4) アミノ酸トランスポーター: アミノ酸を細胞内外へ輸送する輸送タンパク質   図1Hippo経路による腫瘍形成への2つの作用 古典的モデル(左): Hippo経路による腫瘍“抑制”効果。矛盾的な機能(右): Hippo経路による腫瘍“促進”効果。Hippo経路は腫瘍形成を“抑制”すると考えられてきたが、いくつかのがんでは腫瘍形成を“促進”する。この促進効果についてはほとんど理解されていない。   図2Hippo活性化細胞による細胞間コミュニケーションを介した腫瘍誘導 Hippo活性化細胞をマゼンタ色で、腫瘍を緑色で表示。Hippo活性化細胞それ自体が腫瘍化するのではなく、周辺細胞が腫瘍化した。   図3Hippo活性化細胞が増殖因子とアミノ酸輸送を介して腫瘍形成を誘導する Hippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子を発現・分泌することで周辺細胞に作用する。また、Hippo活性化細胞はアミノ酸トランスポーターSat1/2を介して、周辺細胞のアミノ酸の取り込みを促進する。増殖因子とアミノ酸の両方が相乗的に周辺細胞へ作用することで腫瘍形成を引き起こす。   報道発表資料(424 KB) 論文掲載ページ (EMBO Reportsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (千原崇裕 教授)   【お問い合わせ先】 大学院統合生命科学研究科千原崇裕 Tel:082-424-7443 E-mail:tchihara@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 Tel:050-3495-0247 E-mail: ex-press@ml.riken.jp   基礎生物学研究所 Tel:0564-55-7628 E-mail:press@nibb.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    2025.12.12
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    外来遺伝子を残さない安全なゲノム編集を藻類で実現! ―藻類バイオ燃料の実用化に向け、新しい遺伝子編集方法を開発―

    本研究成果のポイント バイオディーゼルなどの燃料生産が期待される微細藻類“ナンノクロロプシス*1”において、遺伝子を安全に改変できるよう「塩基編集*2システム」を搭載した脱落可能なDNAベクターを開発しました。 この塩基編集システムは、DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs)*3を導入しない安全な遺伝子改変システムであるため、外来遺伝子を残さず(外来遺伝子フリー*4)、必要な変異だけを導入できる安全な方法です。この技術を使うことで、遺伝子改変後も外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスを構築することが可能になりました。 脱落可能なベクターにより樹立できる外来遺伝子の残らないゲノム編集生物はカルタヘナ法*5の定める遺伝子組換え生物には該当しないため、屋外培養などの幅広い用途への応用が期待できます。     概要 広島大学ゲノム編集イノベーションセンターの諸井桂之研究員、山本卓教授および栗田朋和特任准教授は、非常に多くの油脂を蓄積する微細藻類、ナンノクロロプシスにおいて脱落可能な塩基編集ベクターを開発しました。この技術により変異導入時にDSBsを介さずに外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスのゲノム編集株を樹立する手法を確立しました。 本研究成果は令和7年11月27日に英国Nature research社の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。 論文情報 掲載雑誌:Scientific Reports 論文題目:“Double-strand break-free and transgene-free genome editing in the microalga Nannochloropsis oceanica using removable vectors containing the CRISPR base editing system” 著者: Keishi Moroi, Yamamoto, Tomokazu Kurita* 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター *:責任著者 DOI: 10.1038/s41598-025-26657-y 背景 微細藻類は細胞内に多量の油脂や有用物質を蓄積させるため、バイオディーゼルなどの生産が期待されていますが、生産コストなどの面で課題があるため、多くの研究者が微細藻類の分子育種を進めています。現在までに非常に効率の良いゲノム編集ツールが微細藻類で使用されて多くのゲノム編集藻類が構築されましたが、それらはDNA二本鎖切断(DSBs)を導入してから藻類細胞のDSB修復機構依存的に変異を導入していました。一方でこのようなDNAの二本鎖切断が稀に大規模なゲノムDNAの削除や染色体間での組換えなど宿主細胞に有毒で不都合な改変も起こっていました。 研究成果の内容 本研究ではナンノクロロプシスにおいてCEN/ARS*6を含む脱落可能ベクターに塩基編集用の発現カセットを搭載して、図のように塩基置換後に脱落可能なベクターを構築しました。この塩基編集ベクターによりナンノクロロプシスの内在性の5種の遺伝子における6つの標的サイトにおいて塩基置換の導入に成功しました。塩基置換効率は29.2%から47.6%で、塩基置換後のベクターの脱落にも成功しました。 今後の展開 本研究により確立したDSBフリー且つ、外来遺伝子が残らないゲノム編集法を用いて屋外培養可能、かつ油脂蓄積効率の高い“高機能藻類”の樹立が期待されます。DSBフリーのゲノム編集システムは複数箇所同時改変でも標的サイト間での大規模な遺伝子の脱落や染色体間での組換えといった不都合な改変が起こり難く、また脱落可能ベクターはマーカーの再利用が可能になるため、本システムは、細胞内の多数の遺伝子を改変する際に非常に有効であると考えられます。本研究で確立した外来遺伝子フリー塩基編集システムは藻類バイオディーゼル*7の実用化に必須の基盤技術と考えられます。 用語解説 *1ナンノクロロプシス 直径 2〜5μmほどの小さな海の植物プランクトンです。培養環境に応じてバイオディーゼルに変換できる油脂を大量に蓄積すること、オメガ3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)を豊富に含有することなど多くの特長を持つことから、さまざまな分野で活用されています。 *2塩基編集 Clustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR)–CRISPR-associated protein 9 (Cas9)には2つのヌクレアーゼドメインがあり、標的部位にDNA二本鎖切断を導入します。このヌクレアーゼの片方を失活したnCas9はDNAの2本鎖の片方のみを切断する酵素でCas9ニッカーゼと言います。このnCas9に塩基の脱アミノ化を行うデアミナーゼを融合して、標的部位の塩基を別の塩基に置換するのが塩基編集です。本研究では、nCas9にヤツメウナギのデアミナーゼであるPmCDA1とウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質を結合した融合タンパク質を使用しています。PmCDA1は標的配列のシトシンのアミノ基を脱離させてウラシルに置換します。ウラシルはチミンと同様にアデニンと塩基対を形成するため、最終的にシトシンをチミンに変換できます。このような塩基編集システムをシトシンベースエディター(cytosine base editors, CBE)と言います。ウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質はPmCDA1により変換されたウラシルが細胞内の塩基除去修復機構により取り除かれ、別の塩基に変換されるのを防ぐ役割があります。 *3DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs) 生命の設計図であるゲノムDNAは二本のDNA鎖が二重螺旋構造を形成していますが、この二本の鎖の両方を切断するのがDSBsです。DSBsが導入されると細胞内のDSB修復系が機能し基本的には元通り修復されます。しかし一定の割合で修復システムのエラーによりゲノムDNAに変異が導入されます。この現象を利用してDSBsを介したゲノム編集ツールは特定部位に結合してDSBsを導入、標的遺伝子に変異を導入しますが、この時に稀に標的以外の遺伝子を含む大規模な遺伝子の削除や、染色体間での置換など、宿主細胞にとって有害で不都合な反応が起こることがあります。このような反応は特に特にゲノムDNAの複数の場所でDSBsを同時に導入した場合に起こることがあるため、複数の遺伝子を同時に改変する場合には特にDSBフリーのシステムが重要になります。 *4外来遺伝子フリーシステム 異種生物由来や合成された配列など、外来のDNA配列を含む生物を遺伝子組換え生物(Gene Modified Organisms, GMOs)と言います。GMOsはカルタヘナ法に基づく生物学的封じ込めの規定があるため、屋外培養などには非常に強い使用制限があります。CEN/ARSを持つベクターは細胞内でゲノムDNAの外で維持されるエピソーマルベクターとして振舞い、抗生物質による選択圧が無い培養条件では自然に脱落します。このように最終的に外来遺伝子が残らないシステムを外来遺伝子フリーシステムと言います。 *5カルタヘナ法 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律。日本国内において、遺伝子組換え生物の使用等について規制をし、生物多様性条約カルタヘナ議定書を適切に運用するための法律で、遺伝子組換え生物が生物多様性へ影響を及ぼさないかどうか事前に審査することや、適切な使用方法について定められています。 *6CEN/ARS 出芽酵母の染色体の安定性に関わる配列であり、CEN/ARSはCentromere and autonomous replication sequenceの略で、出芽酵母の汎用low copyベクターに使用されています。最近このCEN/ARSを持つベクターが珪藻やナンノクロロプシスにおいても細胞内でゲノムDNAの外でエピソーマルベクターとして安定に維持されることが報告されていました。 *7藻類バイオディーゼル 微細藻類は環境ストレスなどに応じて細胞内に多量の油脂を蓄積します。この油脂に含まれる脂肪酸を脂肪酸メチルエステルに変換して使用する燃料です。藻類による油脂の生産は光合成によりCO2を吸収するため、大気中のCO2を増加させない次世代の再生可能エネルギーとして期待されています。   報道発表資料(733.68 KB) 掲載ジャーナル:Scientific Reports 研究者ガイドブック(栗田 朋和 特任准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 特任准教授 栗田 朋和 Tel:082-424-4008 E-mail:kuri616*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2026.05.05
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    ゼニゴケのクローン繁殖を誘導する遺伝子を発見 ―農作物種を含むさまざまな植物への応用に期待―

    【本研究成果のポイント】 ゼニゴケのクローン繁殖体形成に必須の新規遺伝子を発見しました。 この遺伝子を活性化させることで、クローン繁殖体の形成を誘導することに成功しました。 本研究の成果は、植物がクローンで増えるメカニズムの解明やその人為的制御手法の開発に貢献するとともに、農作物種を含むさまざまな植物への応用が期待されます。   【概要】広島大学大学院統合生命科学研究科の平川有宇樹 教授と髙橋剛 研究員の研究グループは、学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 清末知宏 教授、山屋沙織 大学院生(研究当時)、英国Cambridge大学 Jim Haseloff 教授、Facundo Romani 博士、神戸大学大学院理学研究科 石崎公庸 教授、広島大学大学院統合生命科学研究科 嶋村正樹 教授らと共同で、コケ植物の一種であるゼニゴケがクローン繁殖体を発生させる引き金となる遺伝子を発見しました。 ゼニゴケは無性芽と呼ばれる小さなクローン繁殖体を自身の体から生み出し、雨水などによって散布されることで個体数を増やすことができます。本研究で発見した遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー)」は無性芽の形成に必須の遺伝子であり、さらに、この遺伝子を活性化させると無性芽形成を人為的に誘導できることが分かりました。本研究の成果は、植物がクローン繁殖を行うメカニズムの解明やその人為的制御方法の開発に重要な知見をもたらすと考えられます。 本研究は、国際学術誌Current Biologyのオンライン版で2026年5月5日午前0時(日本時間)に掲載されます。 1. 雑誌名:Current Biology タイトル: Initiation of asexual reproduction by the AP2/ERF gene GEMMIFER in Marchantia polymorpha 著者:Go Takahashi(髙橋剛), Saori Yamaya(山屋沙織), Facundo Romani, Ignacy Bonter, Kimitsune Ishizaki(石崎公庸), Masaki Shimamura(嶋村正樹), Tomohiro Kiyosue(清末知宏), Jim Haseloff, Yuki Hirakawa*(平川有宇樹) DOI: 10.1016/j.cub.2026.03.083 論文URL:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(26)00431-8 (open access)   【背景】植物は、雄(花粉)と雌(雌しべ)の受粉によって種子をつくるといった有性生殖の他に、無性生殖によっても繁殖します。無性生殖では、不定芽、塊茎、塊根などのさまざまな栄養器官において、配偶子(精子や卵)の形成を経ずにクローン体が生じます。短期間に多くの個体を生産できる繁殖の速さや、雌雄の出会いを必要としない生殖効率の高さから、無性生殖は植物の繁栄を支える重要な仕組みの一つとなっています。また、生殖において遺伝子の混合を伴わないことから、農作物の品質のばらつきを抑える上で有用な仕組みでもあります。しかしながら、植物の無性生殖が起こる発生学的なメカニズムに関する知見は少なく、不明な点が多く残っています。 近年、分子遺伝学的解析の可能なモデル生物として、コケ植物タイ類のゼニゴケが注目されています。ゼニゴケは、胞子を介した有性生殖の他に、無性芽と呼ばれるクローン繁殖体をつくり、この無性芽が雨水などによって外部に散布されることでも繁殖します。これまでに無性芽の発生に関する遺伝子の研究が進められてきましたが、無性芽の発生を開始させる引き金となる遺伝子は分かっていませんでした。   【研究成果の内容】 本研究では、無性芽の発生を開始させる遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー、短縮表記GMFR)」を発見しました(図1:研究成果の概要)。   ■ 1|ゼニゴケの無性芽形成に必須の遺伝子GMFRを発見 研究チームは、先行研究において、CLEペプチドと呼ばれるホルモンの一種がゼニゴケの成長や無性生殖を調節することを見出していました。特に、CLEペプチドの過剰産生株では、無性芽をつくるための器となる構造である「杯状体」が少ないことが分かっていました。この株を用いたトランスクリプト―ム解析によって、発現量の変動する遺伝子群を見つけており、この中には無性芽や杯状体の形成に関与する遺伝子が含まれるのではないか、と考えていました。 本研究では、このうちの一つの遺伝子の働きを抑える実験を行いました。CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術と人工miRNAによるノックダウン技術によって遺伝子を不活性化させると、ゼニゴケは無性芽と杯状体をつくれなくなりました(図2)。そのため、この遺伝子は無性芽形成に必須の遺伝子であることが分かりました(「無性芽(GEMMA)をつくる」遺伝子としてGEMMIFER/GMFRと命名)。 さらに、ゼニゴケの中でGMFR遺伝子が発現している部位を調べるため、蛍光タンパク質を利用したプロモーター活性解析を行いました。その結果、無性芽が生じる起点となる「杯状体底部細胞」や「発生初期段階の無性芽細胞(幹細胞)」において、GMFR遺伝子の発現を示す蛍光タンパク質のシグナルが検出されました(図3)。このことから、GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期の段階で働いていると考えられました。   ■ 2|GMFR遺伝子の働きを活性化すると無性芽を誘導できる 次に、本遺伝子の機能を詳細に解析するため、薬剤投与によって対象遺伝子を強制的に働かせる(過剰発現)ことができる組換え系統を作出しました。このゼニゴケ株では、薬剤のデキサメタゾンを与えることでGMFR遺伝子の働きを一時的に活性化することができます。デキサメタゾン処理を行ったところ、2日後には無性芽発生の起点となる幹細胞ができることが分かりました(図4)。さらに、デキサメタゾンを除いて育成を続けると、1週間ほどで多数の無性芽が生じました。この無性芽を新しい培地に植え替えると新たな個体として成長することも確認しました。この結果から、GMFR遺伝子を活性化することによって無性芽の起点となる幹細胞がつくられ、無性芽の発生を誘導できることが分かりました。   ■ 3|GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現を高めることで機能する 先行研究において、GMFR遺伝子と同じように無性芽形成に必須の遺伝子が複数報告されていました。ただし、これらの遺伝子を活性化しても無性芽が生じることはありません。GMFR遺伝子とこれらの必須遺伝子との関係を調べるため、定量PCRによる発現解析や二重形質転換株の作出による機能解析を行いました。その結果、GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現量に影響を与えていることが分かりました。既知の遺伝子の中で特に重要な役割を持つと考えられていたのがGCAM1遺伝子ですが、本研究の結果、GMFR遺伝子はGCAM1遺伝子の発現量を高める働きを持ち、このことが無性芽や杯状体の形成に重要であることが分かりました。   【今後の展開】本研究により、GMFRという単一の遺伝子が指令を出すことで、無性芽の起点となる幹細胞が生まれ、無性生殖が開始することが分かってきました(図1)。しかし、GMFR遺伝子によって駆動される細胞運命制御のメカニズムの詳細は不明であり、今後解明していく必要があります。GMFR遺伝子はゼニゴケに特有の遺伝子ではなく、無性生殖を行わない種を含む多くの陸上植物が持つことも分かっています。今後の研究においてGMFRの作用機序の詳細が解明できれば、農作物種を含むさまざまな植物のクローン繁殖制御に応用できるかもしれません。また、ゼニゴケの体の中ではGMFR遺伝子が働く時期や強度を調節することで、無性生殖の時期や部位を制御していると考えられます。活性のオン・オフを制御する仕組みの解明も、今後の研究対象として重要です。 【謝辞】 本研究は以下の支援を受けて実施しました。(順不同) 日本学術振興会科研費(JP22H02676) 科学技術振興機構 革新的GX技術創出事業(JPMJGX23B0) 日本学術振興会 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業 英国バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC) 公益財団法人 武田科学振興財団 公益財団法人 木下記念事業団 公益財団法人 内藤記念科学振興財団 公益財団法人 住友財団 広島大学APC助成   【参考資料】 図1.研究成果の概要 ゼニゴケは、無性芽と呼ばれる小さな繁殖体をつくってクローンで繁殖することができます。本研究ではこの無性芽の発生を開始する際に働く遺伝子を発見しました。 図2.GMFR遺伝子の機能欠損による無性芽・杯状体の形成不全 ゲノム編集技術によりGMFR遺伝子の機能を欠損させたゼニゴケ(右)では、野生株(左)とは異なり無性芽と杯状体がまったく形成されない。やじり(ピンク)は無性芽を含む杯状体を示す。   図3.GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期で発現する 蛍光タンパク質を利用したGMFR遺伝子のプロモーター活性解析。図中、緑色で示す蛍光タンパク質のシグナルが、杯状体底部細胞(矢印)および発生初期の無性芽(アスタリスク)で検出された。   図4.GMFR遺伝子の活性化により誘導される無性芽の発生 (左)薬剤誘導後、無性芽の起点となる細胞(アスタリスク)が生じる。 (右)誘導4日後に薬剤を除去し、さらに1週間育てると多数の無性芽が生じる。   報道発表資料(577.18 KB) 論文掲載ページ (Current Biologyに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (平川 有宇樹 教授)   【お問い合わせ先】 ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム 教授 平川 有宇樹 TEL:082-424-7455 E-mail:yuki-hirakawa@hiroshima-u.ac.jp   学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 教授 清末 知宏 E-mail:tomohiro.kiyosue@gakushuin.ac.jp   神戸大学大学院理学研究科 教授 石崎 公庸 E-mail:kimi@emerald.kobe-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   学習院大学 学長室広報センター TEL:03-5992-1008FAX:03-5992-9246 E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp   神戸大学 企画部広報課 TEL:078-803-5106FAX:078-803-5088 E-mail:ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発 ~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~

    本研究成果のポイント ヒト細胞内で、遺伝子編集を行う際、オフターゲット作用(不要な場所のDNA切断)が起こらずに、目的の遺伝子修復(HDR)が成功した細胞だけを選別する独自スクリーニングシステムを開発しました。 本システムを用いて、標的 DNA を改変する新規のゲノム編集技術Cas9変異体「HSS Cas9」を獲得しました。HSS Cas9は野生型Cas9よりも特定の標的配列において高いHDR効率を示します。 HSS Cas9とHDRが活発になる細胞周期制御技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、不要な変異(インデル)の発生を大幅に抑制し、遺伝子編集の「正確性(HDR/インデル比)」を最大約30倍以上に向上させることに成功しました。 遺伝子編集の精度向上によって、安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の松本大亮助教(現東京都医学総合研究所主任研究員)、野村渉教授、山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センターの佐藤悠助教、東京都医学総合研究所宮岡佑一郎再生医療プロジェクトリーダーらのグループはヒト細胞においてHDRが成功するとジフテリア毒素への耐性を獲得する仕組みと緑色蛍光の消光によりオフターゲット作用を検出する仕組みを利用した、独自のスクリーニングシステムを構築しました。このシステムを用いてCas9変異体ライブラリを探索した結果、2つの新規アミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ「HSS Cas9」を同定しました。HSS Cas9は、野生型Cas9と比較して、特定の遺伝子標的(EMX1, VEGFAなど)において高いHDR効率を示しました。さらに、HSS Cas9と細胞周期依存的にCas9を活性化させる技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、インデルの発生を強く抑制し、遺伝子編集の正確性(HDR/インデル比)を飛躍的に向上させることに成功しました。本成果は、より安全で高精度な遺伝子治療技術の開発に貢献するものです。 本研究成果は、「Journal of Biomedical Science」(IF=12.1)に令和7年12月3日付でオンライン掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Screening Strategy to Identify Cas9 Variants with Higher HDR Activity Based on Diphtheria Toxin   著者 松本大亮1,2,3,*、久保田小茉利1、佐藤悠4、加藤-乾朋子3、濁川清美1,2、宮岡佑一郎3、野村渉1,2,* 1.広島大学薬学部 2.広島大学大学院医系科学研究科 3.東京都医学総合研究所 4.山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センター * 責任著者   掲載雑誌 Journal of Biomedical Science (IF=12.1)   DOI番号 DOI: 10.1186/s12929-025-01197-9   研究助成 この研究成果は、科研費、JSPS 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)JPJS004 20230011、HIRAKU-Global、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、持田記念医学薬学振興財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の支援を受けて研究を行い、得られたものです。   背景 ゲノム編集技術は、遺伝性疾患やがんの治療法として期待されています。ゲノム編集技術では、標的とする遺伝子を切断することが必要となります。これまでにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)やTALEN(例:Platinum TALEN)などが開発されてきており、現在では目的に沿った使い分けが可能な状況となっています。そのなかでもCRISPR-Cas9は標的配列を自在に特異的に標的化できるという点から、主要なゲノム編集ツールとして汎用されています。これらのツールはいずれも標的とする遺伝子配列を切断する機能を持っています。しかし、DNAを切断した後、あらかじめ用意した正しい遺伝子配列(テンプレートDNA)を使って正確に修復する「HDR(相同組換え修復)」の効率が低いことが大きな課題でした。ゲノム編集では、多くの場合に標的配列がエラーを伴いやすい「NHEJ(非相同末端結合)」によって修復されてしまい、意図しない変異(インデル)が生じてしまうためです。精度の高いゲノム編集によってより安全性の高い遺伝子治療が可能となりますが、この実現には、HDR効率を向上させることが不可欠です。しかし、これまでに決定的な解決策は示されていません。   研究成果の内容 研究グループはまず、ヒト細胞内でHDRによる修復に成功した細胞だけが生き残り、緑色蛍光タンパク質の消光によってゲノム編集操作における副作用であるオフターゲット作用を検出する、スクリーニングシステムを開発しました(図1)。このシステムを用いて、Cas9のDNA切断に関わるドメインにランダムな変異を導入したライブラリを探索した結果、これまでに報告のなかった2つのアミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ変異体「HSS Cas9(HDR-Screening-Selected Cas9)」を発見しました(図2)。このHSS Cas9は、野生型のCas9と比較して、特定の遺伝子標的において高いHDR効率を示しました。 さらに、研究グループはHSS Cas9と、HDRが活発になる細胞周期(S/G2期)でのみCas9を活性化させる既存の技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせました。その結果、望まない変異(インデル)の発生を劇的に抑制しつつ、高いHDR効率を維持することに成功。編集の「正確性(HDR/インデル比)」を、標的遺伝子によっては野生型Cas9と比べて最大約30倍以上に向上させることを実証しました(図3)。   今後の展開 Cas9によるヒト細胞のゲノム編集が報告されてから10年以上が過ぎ、基本特許の有効期間も折り返しの10年間を迎えています。今回開発されたスクリーニングシステムは、ランダムなCas9変異体の中からヒト細胞内での高精度な修復を起こしやすい変異体を選抜することができます。今後、このスクリーニングシステムに改良を加えながら、より大規模なスクリーニングを実施することで、新たなバージョンのHSS Cas9の獲得に展開していきます。これによって、より安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   参考資料 図1.スクリーニングシステムの概略図 図2.獲得した変異体の活性確認(#27がHSS Cas9) 図3.HSS Cas9の細胞周期依存的な活性化(WT: 野生型Cas9, HSS: HSS Cas9, A4C: AcrIIA4-Cdt1, PO: ホスフォジエステル結合の一本鎖オリゴの鋳型, PS: ホスフォロチオエート結合(末端3塩基)の一本鎖オリゴの鋳型)   【プレスリリース】遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~.pdf(398.74 KB) 掲載雑誌:Journal of Biomedical Science 研究者ガイドブック(野村渉教授)   【お問い合わせ先】   <研究に関すること> 東京都医学総合研究所主任研究員松本大亮 Tel:03-5316-3129 E-mail:matsumoto-ds*igakuken.or.jp   広島大学大学院医系科学研究科教授野村渉 Tel:082-257-5308 E-mail:wnomura*hiroshima-u.ac.jp   山口大学大学研究推進機構 中高温微生物研究センター助教 佐藤悠 Tel:083-933-5841 E-mail: yusato*yamaguchi-u.ac.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 Tel:082-424-4518 FAX 082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人 東京都医学総合研究所 事務局研究推進課乙竹・伊藤 Tel:03-5316-3109   山口大学総務企画部総務課広報室 Tel:083-933-5007 E-mail:sh011*yamaguchi-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • バイオエコノミー
    2026.05.08
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • バイオエコノミー
    広島大学の丸山史人教授が、米国エネルギー省JGI 2026 年度Community Science Program大型研究支援に世界でわずか14 件の採択プロジェクトの一つに日本から唯一採択 ~未解明の地下水微生物研究で国際競争を勝ち抜く快挙~

    ポイント 米国エネルギー省(Department Of Energy; DOE) Joint Genome Institute (JGI)の2026年度Community Science Program (CSP)大型研究支援公募において、世界でわずか14件の採択プロジェクトの一つに広島大学・丸山史人(まるやまふみと)教授の提案が選出されました。日本からの採択は丸山教授の1件のみです。 過去の採択実績では、プリンストン大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、 スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校など海外トップクラスの研究機関の教授が多く、今回はプリンストン大学、シカゴ大学、デューク大学、米国やフランスの国立研究所などの研究者が参画しており、国際的にも極めて競争率が高く名誉ある成果です。 DOE-JGIのCSPプログラムでは、数十万~数百万ドル相当の大規模ゲノム解析、ハイスループットDNAシーケンス、計算資源などの支援が採択課題に無償提供されます。 CSP採択プロジェクトの多くは研究成果をNatureやScienceといった世界最高峰の学術誌に発表しており(https://jgi.doe.gov/user-science/publications)、質の高い国際共同研究が推進されています(※例:JGIによるソルガム(バイオエネルギー作物)ゲノム解析研究が2009年にNature掲載)。 丸山教授の採択課題は、未培養で未知の地下水生微生物Patescibacteria門を対象に、その共生的な生態をゲノム解析によって解明し、地下環境での物質循環の役割に迫る革新的研究です。環境中の膨大な未解明微生物の機能解明を通じ、物質循環・環境微生物学に新たな展開が期待されます。 日本からCSP大型枠に採択される例は極めて稀であり、広島大学からの採択は国際舞台における国内研究者の存在感を示す画期的な成果と言えます。   概要広島大学IDEC国際連携機構の丸山史人教授の研究プロジェクトが、米国エネルギー省(DOE)の合同ゲノム研究所(Joint Genome Institute, JGI)による2026年度コミュニティ・サイエンス・プログラム(CSP)大型研究支援公募において、世界14件の採択プロジェクトの一つに選ばれました。日本からの採択は本件のみで、他の採択者には、プリンストン大学、シカゴ大学、デューク大学、米国やフランスの国立研究所など世界的トップクラスの研究機関の教授らが名を連ねています。また、過去の採択者にも日本国内の研究者がプロジェクトの代表となっている例は確認されていません。CSP大型公募は、エネルギーの持続可能性、気候変動への対応、水・環境資源の保全といった地球規模課題の解決(DOEミッションの内容を反映)に資する大規模ゲノム科学プロジェクトを世界中から募るもので、その採択は極めて狭き門を突破したことを意味します。本採択により、丸山教授のチームはDOE-JGIから大規模なゲノム解析支援を無償提供され、最先端の環境ゲノム研究を推進します。   背景DOE-JGIはカリフォルニア州ローレンスバークレー国立研究所に拠点を置く、米国エネルギー省の合同ゲノム研究施設です。CSP(コミュニティ・サイエンス・プログラム)はDOE-JGIの主要なユーザープログラムであり、世界中の研究者が提案する斬新なゲノム科学プロジェクトに対し、シーケンス解析やデータ解析といったサービスを無償提供するものです 。特に「大型(Large-Scale)」枠の公募では、数年スケールで大量のゲノムデータを生成する野心的な提案が求められます。このCSPは、毎年公募、採択される年1回の大型公募であり、2026年度においては世界中から応募が寄せられ、その中から厳正な国際ピアレビューを経て14件のみが採択されました。また、CSP採択プロジェクトは過去に数多く画期的な成果を生み出しており、その成果論文がNature、Scienceといった著名科学誌に掲載される例も少なくありません。こうした背景から、本プログラムへの採択は研究資源の獲得だけでなく、研究の国際的な評価・発信につながる名誉ある業績と位置付けられています。 日本からDOE-JGI CSPに採択される事例はきわめて少なく、本件は数年ぶりの快挙となりました。広島大学の丸山教授の採択は、日本の環境ゲノム・微生物研究が国際舞台で高く評価された証と言えます。   研究内容今回採択された丸山教授の研究課題は、「未培養Patescibacteria門微生物の地下水における物質循環機能の解明:共生的相互作用の解析を通じて」(原題:Uncovering the roles of uncultivated Patescibacteriota in groundwater biogeochemical cycling through the analysis of symbiotic interactions)です 。Patescibacteria門(分類学上はPatescibacteriotaとも呼称)は、近年存在が明らかになった超小型細菌群で、培養が困難な「未培養微生物」の一大系統です。これらの細菌はゲノムサイズがわずか0.5~1.0百万塩基対程度(100-300nm)と極端に小さく、他の生物に普通存在する必須遺伝子の多くを欠失しており、その大半が他の微生物に寄生・共生する形で生存していると考えられています 。しかし、こうした極小細胞の微生物が地下水環境でどのような役割を果たし、他の微生物とどのように関わっているのかは未解明のままでした。 丸山教授らのプロジェクトでは、JGIの支援する大規模ゲノム解析技術を駆使し、地下水中のPatescibacteria門細菌およびその共生相手となる微生物群集のDNAを包括的に解析します。具体的には、地下水試料からメタゲノム解析を行い高品質なゲノム配列を再構築することで、Patescibacteria門に属する複数種のゲノム情報を取得し、そこに潜む代謝経路や相互作用遺伝子を明らかにします。また、得られたゲノムから推定される機能に基づき、Patescibacteriaが共生相手からどのような栄養素や代謝産物をやりとりしているのか、逆に地下水中の炭素・窒素など物質循環プロセスに与える影響を解明することを目指します。さらに、必要に応じて単一細胞ゲノム解析や分子生態学的手法も組み合わせ、Patescibacteria門細菌と他の微生物との共生関係の実態に迫ります。本研究により、地下深部の環境で長らくブラックボックスとされてきた微生物生態系の一端が解明され、新規微生物の機能や進化の謎に光を当てることが期待されます。   今後の展開丸山教授のプロジェクトは、2026年度からDOE-JGIの支援のもと本格始動します。今後数年間でテラバイト級のDNAシーケンスデータが産出され、人工知能(AI)も活用した大規模データ解析により、地下水中微生物の未知の生態が次第に明らかになっていく見込みです。得られた知見は、地下環境における炭素循環や養分循環モデルの高度化、さらには環境浄化や資源エネルギー分野への応用に貢献することが期待されます。また、本採択を契機に広島大学はDOE-JGIや海外トップ研究者との連携を一層深め、国際共同研究の展開や本課題の共同受賞者であるスマートソサイエティ実践科学研究科博士課程2年の福士宗幸氏を含めて、人材交流を促進していきます。将来的には、本プロジェクトの成果論文を国際学術誌へ発表し、広島大学発の環境ゲノム研究として世界に発信する予定です。丸山教授は「本研究により、地下に広がる未知の微生物世界の解明が進み、環境微生物学のフロンティアを切り拓きたい」と抱負を述べています。本学は引き続き最先端研究を通じて地球規模課題の解決に貢献していきます。   <Joint Genome Institute(JGI)の公式発表ページはこちら> https://jgi.doe.gov/user-science/science-stories/jgi-announces-fy26-large-scale-portfolio-our-community-science-program   報道発表資料(240.68 KB) 研究者ガイドブック(丸山 史人教授)   【お問い合わせ先】 広島大学 IDEC国際連携機構環境遺伝生態学研究分野 教授丸山史人(まるやまふみと) E-mail:fumito*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    経口摂取により暑熱耐性能を誘導しうる 微細藻類

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、特定の藍藻による動物の暑熱耐性誘導に関するものである。当該藍藻を含む飲食品組成物摂食により、動物の体温を摂餌に至適な範囲に調整可能である。結果、高温化であっても動物の食欲は維持され得る。本技術は、当該藍藻の体温調節機能を利用した、ヒトおよび畜産・愛玩動物等に暑熱耐性を付与する技術である。   従来技術・競合技術との比較近年の夏場の高温による畜産動物の暑熱ストレス回避技術として、空調設備の導入、換気扇等による強制換気、遮光ネット等による遮光等が試行されているが、大きなコストを要する。一方、我々の技術では既存設備下で、動物の生育・体調維持に繋がり、前記コスト面での問題は解消できるものと考える。また、当該藍藻は栄養的にもタンパク質・脂質含有量が他の藍藻類に比べて多い。また、当該藍藻はそれ自体が顕著な高温耐性を有するため、高温下でも培養破綻が起きにくく、他の藍藻類よりも安定した供給が可能である。   新技術の特徴 当該藍藻を含む飼料の摂取により、暑熱区飼育のカエル(変温動物)の高温耐性能が向上、また暑熱区飼育のニワトリ(恒温動物)の暑熱ストレスが減少 少ない配合量で顕著な効果を発揮(ニワトリの場合) 培養から製品化までのプロセスが低エネルギーかつカーボンニュートラル   本技術の概要 地球温暖化によって畜産物、水産物、ペットなどへの高温ストレスが高まり、生産リスク、健康リスクが上昇。 温泉という極限環境に生息する両生類「温泉ガエル」の餌資源として藍藻(シアノバクテリア)を発見。 オタマジャクシの高温下での生存率の上昇、鳥類(ニワトリ)での高温ストレス低減効果を確認。   地球温暖化と食料生産リスク 過去10万年(最後の間氷期以降)最も急速な全球的温暖化が進行中 「温泉ガエル」と餌資源としてのシアノバクテリアの発見 琉球列島に広範に分布する「リュウキュウカジカガエル」と本州、九州、四国などに生息する「カジカガエル」の、温泉に生息する集団を発見し、藍藻(シアノバクテリア)を食していることを見出した。   MinIONを使ったDNA解読 Oxford Nanopore Technologies社のシーケンサー(DNA解読装置)MinIONを使ってPCR産物・ゲノムDNAを解読。 オタマジャクシ腸内容物の16Sシーケンス(大きな分類) 腸内に存在する微生物群を分類し分析。   温泉藻(秋田県湯沢市・川原の湯っこ)の単離培養 新種シアノバクテリアのゲノム解読 約630万塩基対の環状ゲノムを解析。 タンパク質コード遺伝子:約6300 特徴として、 窒素代謝関連遺伝子が多い 遷移金属イオン結合遺伝子が多い   ネッタイツメガエル幼生の摂餌試験と高温下生存率 ネッタイツメガエル幼生に対して藻類を給餌。高温環境下において生存率が向上。 ニワトリに対する飼料添加と暑熱ストレスへの影響 供試動物:産卵鶏 (Julia Lite) 雄ヒナ、12L12D 試験区:2×3の完全要因配置 2種類の環境温度 (室温or暑熱) ×3種類の試験飼料(微細藻類粉末を飼料に対して乾物あたり0, 1, 2%添加) 供試羽数:各区5羽(5×2×3 = 合計30羽) 温度管理:D0で30℃、その後D4まで2日間ごとに1℃低下させる 暑熱区:D5より、9:00から2時間かけて38℃まで加温し、17:00から2時間かけて29℃まで減温 (サイクリック) 通常温度区:D5より27℃   試験スケジュール 産卵鶏雄ヒナの羽数、摂食量と藻類粉末重量 (70 g)から計算した最長の試験期間を設定 測定項目体重、日増体量、摂食量、飼料要求率、直腸温 D7に暑熱区の個体を動画撮影し、3分間あたりのパンティング(口を開け、 喉または背中を小刻みに動かす呼吸をパンティングと定義)時間を計測。   結果1 直腸温に藻類飼料添加の影響が認められた。 直腸温に藻類飼料添加と環境温度との交互作用が認められた。 (統計的有意差はないものの)増体量、摂食量も改善。   結果2 パンティング sec./180 sec. †: 0%添加区と比較してP

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2004.04.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

    • 食料/農林水産業
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 食料/農林水産業
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    未培養微生物を資源化する革新的培養技術

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、ゲルマイクロドロップレットを活用し、難培養微生物の資源化する革新的スクリーニング手法である。具体的には、難培養微生物を可培養化する新規培養技術と、10⁸個という膨大なサンプル数から目的活性を有する微生物を評価・選別する、ハイスループットスクリーニング手法を組み合わせることで実現する。   従来技術・競合技術との比較従来の分離培養技術では環境微生物のうち1%程度しか培養できないが、本手法では50%という微生物学の常識を覆す割合の微生物が可培養化される。また、従来のドロップレット培養技術では、培養菌体の活性や機能評価は極めて困難であったが、本技術では、多様な機能を対象に評価することを可能にする。   新技術の特徴 10⁸個という極めて多数の独立した培養系の機能評価が可能 新規酵素、化合物変換活性、特定物質生産活性、抗菌活性、特定遺伝子阻害活性など多様な評価に対応可能 従来法では培養できない未培養・難培養微生物も評価・利用可能   想定される用途 未培養・難培養微生物の資源化(創薬資源) 未培養・難培養微生物の資源化(農業・食品・化学分野) 変異株ライブラリーを用いた超高速スクリーニング   ほとんどの微生物は未培養・培養困難 未培養微生物の資源化におけるボトルネック 目的:GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 難培養微生物の可培養化 ドロップレット技術を活用した新規分離培養手法の開発 ー GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)   難培養微生物の資源化 ドロップレット技術を活用した新規スクリーニング手法の開発 ー 難培養微生物の可培養化と機能・活性ベースのスクリーニングを同時に実現   ゲル微粒子(GMD)の凝集培養を用いた未培養・難培養微生物の可培養化 GMD凝縮培養の手順 A Micro-colony in GMDs GMD培養中における増殖の追跡:可培養化率(Cultivability) GMD培養の期間中どのようなタイプが増殖しているのか? まとめ:GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)の培養性能 GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 革新的なハイスループットスクリーニング手法の開発 目的:108個のGMD全てを供試可能な超ハイスループットスクリーニング手法の開発 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 抗菌物質生産菌をターゲットにしたスクリーニング系の構築 Proof of Concept :モデル系を用いた実証試験 結果 環境微生物からの抗菌活性スクリーニング 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 酵素活性(セルラーゼ活性)を指標としたスクリーニング系の構築 環境微生物の可培養化と酵素活性(セルラーゼ活性)の検出 結論と展望 実用化に向けた今後の課題 目的の機能を有する新規微生物を獲得する 多様な機能を検出可能なスクリーニング系の構築 実用的なターゲットで方法論の有効性を実証する   難培養微生物を可培養化(従来アクセスできなかった微生物を利用可能) 超ハイスループット(108株を短時間で機能評価することが可能) 多様な機能(抗菌、酵素活性など)を指標とした探索に適用可能 環境微生物、変異株ライブラリーなど、様々な生物種に適用可能   本技術の創出に寄与した外部資金科研費 基盤研究(B)25K01934 新学術領域研究 (研究領域提案型)22H04887 新学術領域研究 (研究領域提案型) 20H05587 基盤研究(B)19H02873 若手研究(A)26709063   NEDO NEDO カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発   財団 内藤記念科学振興財団 研究助成 シオノギ感染症研究振興財団 研究助成   本技術に関する知的財産権 発明の名称:微生物の分離培養方法及び擬集体含有溶液 出願番号:特願願2015-196882(特許第6785465) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、高木雄貴、大橋晶良   発明の名称:スクリーニング方法および溶液 出願番号:特願2023-139257(PCT/JP2024/010423) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、下村有美、新山海   研究者青井議輝 広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.25
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.11
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    “ヤゲン軟骨の秘密”を解明 〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜

    本研究成果のポイント 飛翔する鳥は胸骨に「竜骨突起」を持つ一方、走行性の鳥は平らな胸骨を持つことに着目 軟骨前駆細胞の増殖を促すTGF-β(※1)シグナルが、竜骨突起形成細胞では長く活性化する TGF-βシグナル活性化の“異時性(※2)”が、竜骨突起の有無を決めることを世界で初めて発見 骨格形態の多様化メカニズムの解明に加え、胸郭変形症の発症機序の理解にもつながる成果   概要脊椎動物の骨格は実に多様で、それぞれの動物の行動様式に適応した形をとります。鳥類の胸骨形態の違いはその典型例です。飛翔する鳥(胸峰類)は、胸骨の中央に「竜骨突起」と呼ばれるブレード状の構造を持ち、これが強力な飛翔筋の土台となります。一方、ダチョウやエミュー(※3)など走って移動する鳥(平胸類)は、この突起を持たず平らな胸骨をしています。こうした違いは進化の過程で生まれましたが、その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。 九州大学大学院システム生命科学府の権昇俊大学院生、理学研究院の熱田勇士講師は、農学研究院の江川史朗助教、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖真弥教授、鄒兆南助教、広島大学大学院統合生命科学研究科の本田瑞季助教と共同で、この問題解決に取り組みました。竜骨突起は胚発生期に形成されることから、研究グループはニワトリ胚(胸峰類)とエミュー胚(平胸類)を実験モデルとして、まず胸骨発生過程を比較しました。その結果、両者とも同じように胸骨のもととなる前駆細胞が現れるものの、ニワトリではこの前駆細胞が長く増え続けて竜骨突起をつくるのに対し、エミューでは早い段階で成熟してしまい、突起が形成されないことを明らかにしました。さらに、この違いの鍵となるのが「TGF-βシグナル」という細胞間の情報伝達であることを突き止めました。ニワトリではこのシグナルが長く働き続けることで細胞の増殖が保たれ、竜骨突起の形成につながります。本研究は、発生過程におけるシグナル活性化のタイミングのわずかな違い(異時性)が、飛べる鳥と飛べない鳥という大きな形態差を生み出すことを示したものです。 本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」に2026年4月29日(水)にオンライン掲載されました。   研究者からひとこと「鳥が飛べるかどうかは、目に見える翼や羽だけでなく、体の中の胸骨の形や、骨格の軽量化など、様々な要因が重なって決まります。脊椎動物の飛翔に必須な構造である竜骨突起について、発生シグナルのタイミングという視点からその進化、発生機構の一端を明らかにできて嬉しいです。」(権昇俊)   「本研究では、シグナル活性化のタイミングのわずかな違いが、骨格形態、ひいては行動様式の大きな違いにつながることを示しました。次に焼鳥屋さんで食事をされる際には、この研究内容を思い出しながらヤゲン軟骨を味わっていただければ、研究者冥利に尽きます。」(熱田勇士)   研究の背景と経緯脊椎動物の骨格系は、主要な構成成分(ハイドロキシアパタイトやコラーゲンなど)は体の部位や生物種間で顕著な違いはありませんが、大きさや形状はバラエティに富みます。鳥類内でも骨格形態には種間差があり、特に飛翔可能な鳥類である胸峰類と、進化の過程で飛ぶことをやめた平胸類との間には大きな違いがあります。胸峰類はその分類名が示すように、胸骨の正中線上に鋭く突き出したブレード状の構造を持ちます。この構造は「竜骨突起」と呼ばれます(参考図A)。あまり聞き馴染みがないように思われますが、ニワトリの若鶏の竜骨突起の一部は、実はヤゲン軟骨として食されています。飛ぶ鳥はこの竜骨を持つおかげで、筋肉の付着面積を拡大でき、飛翔に必要となる分厚い胸筋をつくることができます(参考図B)。一方で、走鳥類はこの突出構造を進化の過程で失ったため、私たちのような平坦な胸骨を持ちます(参考図A、B)。そのため平胸類とも呼ばれます。竜骨突起の存在については飛翔に必須の構造として古くから知られていましたが、竜骨突起形成を制御する分子、あるいは種間における突起の有無を決めるメカニズムは謎に包まれていました。   研究の内容と成果胸骨は発生過程において、まず鋳型となる軟骨がつくられ、その後、硬い骨に置き換えられることで形成されます。権大学院生らは、胸峰類のニワトリと平胸類のエミューを実験対象として選定し(参考図A、B)、鳥類胸骨のテンプレートとなる軟骨形成について研究を行いました。意外に思われるかも知れませんが、ニワトリは家畜化され飛ぶのが苦手ですが、未だに飛翔する鳥の体型を保っており、胸峰類のモデルになりえます。一方のエミューは新たな家畜として注目されているオーストラリア原産の鳥類で、平胸類の中でも比較的有精卵を入手しやすいこと、近年ゲノム解析が進んだことなどから研究に利用しました。 研究グループははじめに、胸骨形成過程のどのプロセスで違いが生まれるのかを観察しました。胸骨の元となる前駆細胞は側板中胚葉(※4)の一部から生じることが知られています。観察の結果、前駆細胞は両者とも同じ発生段階にて出現することがわかりました。また、左右の側板中胚葉から生まれた前駆細胞が体の正中線まで移動し、そこで癒合することで一枚の胸骨板がつくられますが、そのプロセスにおいても顕著な違いは認められませんでした。しかしながら、さらに発生段階を進めると、ニワトリ胚では前駆細胞が増殖を続け、竜骨突起を形成していく一方で、エミュー胚では前駆細胞が、早期に増殖が低下した成熟軟骨へと分化するため突起形成が起きないことがわかりました。 次に、本田助教、沖教授および九州大学の大川恭行教授らによって開発された、光照射技術とRNAシーケンス(※5)法を組み合わせた領域特異的な遺伝子発現解析法(PIC-RNA-Seq)を用いて、両種の前駆細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に調べました。すると、前駆細胞では成熟細胞と比べて、TGF-β(形質転換増殖因子β)シグナルの活性化レベルが高いことが明らかになりました。さらに、独自に確立した前駆細胞の培養系や、胚内での前駆細胞の遺伝子操作技術を活用することで、前駆細胞におけるTGF-βの役割を調べたところ、TGF-βが前駆細胞の増殖に必要不可欠な働きを担うことがわかりました。 これらの結果は、ニワトリでは前駆細胞においてTGF-βシグナル活性化が持続することで、増殖が促され突起を形成する一方で、エミューではTGF-βが早期に低下するため、前駆細胞の増殖が低下し突起形成が起きないことを示唆しています(参考図C)。   今後の展開今後は、このTGF-βの活性化の異時性がどのように生まれるかについて、遺伝子発現制御の観点から研究を進めます。いわゆるエピジェネティックな解析を実施し、TGF-βの発現のオン・オフを決めるゲノムDNA配列を同定します。さらに、ニワトリ、エミューに加え、高い飛翔能力と相対的に大きな竜骨突起を持つハチドリのゲノム情報も利用し、そのDNA配列が進化の過程でどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目指します。 研究成果の概要 TGF-βシグナルの異時的な活性化が鳥類胸骨の形態多様性を生み出すことを解明 (A)ニワトリ胸骨上には竜骨突起がある一方で、エミューには突出構造がない。 (B)竜骨突起は分厚い胸筋が付着する足場となる。 (C)成果の要約図:エミューではTGF-βシグナルの活性化が早期に減弱するが、ニワトリでは活性化が維持され前駆細胞の増殖が続く。   用語解説(※1) TGF-β・・・細胞の増殖や分化を調節するシグナル分子の一つ。 (※2) 異時性・・・ヘテロクロニー。発生過程における現象の起こるタイミングの違いを指す。 (※3) エミュー・・・オーストラリアに生息する飛べない大型の鳥。 (※4) 側板中胚葉・・・胚の外側に位置する中胚葉の一部。体壁や内臓のもとになる組織。 (※5) RNAシーケンス・・・どの遺伝子が使われているか(発現するか)を網羅的に調べる方法。   謝辞本研究は、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS、JP23ama12107 and JP25ama121017)、創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)(JSPS、JP25K09649)、住友財団基礎科学助成、武田科学振興財団ライフサイエンス研究助成の支援を受け行われたものです。また、研究を進めるにあたりご協力いただいた農学研究院研究教育支援センター、トランスクリプトミクス研究会、日本蛇族学術研究所、そして、エミュー有精卵を供給してくださったきやまファームに感謝申し上げます。筆頭著者の権大学院生は、K-SPRING採択者(JST、JPMJSP2136)および学振特別研究員(JSPS、JP24KJ7193)として研究を遂行しました。   論文情報掲載誌:Nature Communications タイトル:Heterochronic activation of TGF-β signaling drives the diversity of the avian sterna 著者名:Seung June Kwon, Zhaonan Zou, Mizuki Honda, Shiro Egawa, Shinya Oki, Yuji Atsuta DOI:10.1038/s41467-026-72602-6   【九州大学】“ヤゲン軟骨の秘密”を解明〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜.pdf(632.61 KB) 論文掲載ページ (Nature Communicationsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田瑞季 助教)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室 講師熱田勇士(アツタユウジ) TEL:092-802-6556FAX:092-802-4270 Mail:atsuta.yuji.360*m.kyushu-u.ac.jp   <報道に関すること> 九州大学広報課 TEL:092-802-2130FAX:092-802-2139 Mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp   熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3269FAX:096-342-3110 Mail:sos-kohojimu.k@umamoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL:082-424-3701FAX:082-424-6040 Mail:koho*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

123
Copyright © 2020- 広島大学