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    2025.11.20
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    ウニ幼生に光で行動を調節する脳のような神経細胞群が存在することを発見

    脳を持たないとされてきたウニ幼生に、光で行動を調節する「脳のような」の神経細胞群(中枢)を見いだしました。この神経細胞群は、脊椎動物の脳と一部共通する特徴が確認され、後口動物の共通祖先までさかのぼる脳機能の起源に関する新たな示唆を提供する結果となりました。 本研究は、ウニ幼生の前端部神経外胚葉に、非視覚性光感受性ニューロン(「見る」ためではなく、光を感じて応答する神経)の細胞群を同定しました。これにより、脊椎動物の脳に相当する「中枢」が、脳を持たないとされてきた棘皮動物(ウニ)にも存在する可能性が示唆されました。これらの神経細胞群は、光を感知するタンパク質である非視覚オプシン(Opn5L)や、脊椎動物間脳の形成を担うrx、otx、six3、lhx6などの制御遺伝子を発現します。また、この細胞領域を統合的に解析したところ、Opn5Lの機能低下で光依存的な遊泳行動が損なわれることが分かりました。こういった分子特徴は脊椎動物の脳領域のそれと一部重なることから、ウニ幼生に存在する非視覚性の光受容中枢は、後口動物の共通祖先に由来する脳機能の素地を残している可能性を示します。 非視覚オプシンを発現する神経とその周辺領域の発生過程を厳密かつ系統横断的に比較することは、脊椎動物の脳を含む中枢神経の進化や多様化の過程を解く上で、新たな理論や見解を提供すると期待されます。     【研究代表者】 筑波大学生命環境系 谷口 俊介准教授 千葉大学大学院医学研究院 露崎 弘毅特任講師 京都大学大学院理学研究科 山下 高廣講師 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 山本 卓教授     【研究の背景】 進化の過程における中枢神経(脳)の獲得は、ヒトを含む脊索動物の多様化を支えた重要な出来事です。しかし、神経や脳が動物進化のどの段階で生まれ、どの系統でどのように複雑化したのかは、よく分かっていません。脳・中枢神経の主要な役割は外界情報を統合して適応的な運動へ変換することであり、その起源の解明は生物学の根本課題です。 一方、後口動物注1)では、前方神経外胚葉に由来する脳領域(前脳など)が光情報処理の中核を担うと考えられ、表層には、視覚オプシン、深部には非視覚オプシン(いずれも光を感知するタンパク質)が配置されるという脊椎動物との共通性が示唆されています。しかしながら、脊椎動物と最も近縁の棘皮動物門(ウニなど)注2)には集中して存在する「脳領域」が見えにくく、前後軸の明瞭な指標も乏しいため、脊椎動物型の脳がいつ、どのように現れたかをたどることは容易ではありません。 それでも近年、前後軸が明確な成長段階であるウニ幼生で、前脳様の遺伝子発現やそれを結ぶ制御ネットワーク、さらに光などの環境情報を行動へ統合する神経回路が明らかになりつつあります。非視覚オプシン様の受容体も複数同定され、光による遊泳や消化活動の調節に関与する例が報告されています。こうした知見を踏まえ、本研究では、ウニ幼生において非視覚的な光受容を担う「脳様」領域を、遺伝子発現と機能の両面から定義し、脊椎動物の脳に通じる組織化が棘皮動物との共通祖先にさかのぼる可能性を示しました。     【研究内容と成果】 本研究では、バフンウニ(Hemicentrotsu pulcherrimus)幼生の前端部神経外胚葉に存在する「非視覚的な光受容を担う脳様領域(神経細胞群)」を単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)注3)とin situ ハイブリダイゼーション注4)にて特定し、行動解析によってその機能を統合的に定義しました。幼生期の神経細胞は稀少で検出が難しいため、Delta–Notch による側方抑制注5)を阻害する薬剤を用いて神経細胞数を一時的に増やし、神経集団の解像度を高めました。その結果、これまで一様とみなされがちだったセロトニン注6)作動性ニューロンが、前方群と背側群という二つの集団に分かれており、背側群は非視覚オプシン(Opn5L)を発現していることを見いだしました(図1)。 遺伝子発現の空間解析では、背側群と前方群とでは、形態と配置のいずれもが異なること、さらに特定の転写因子セットが背側群に偏って現れることを明らかにしました。背側群の一部細胞は上皮層から脱落して移動し、前方群の近傍に合流する過程がライブイメージング注7)で観察され、移動性ニューロンとしての性質を持つことが示唆されました。これは、後口動物のうち脊索動物に特有と考えられてきた神経移動が、ウニ幼生にも備わっている可能性を示す重要な知見です。 機能面では、Opn5L の機能低下により、連続照明下で沈降(浮遊喪失)行動が有意に抑えられ、光入力が遊泳・浮沈の制御に直接関与することを実証しました。加えて、セロトニン合成関連の制御因子や領域指定因子の発現解析から、当該領域が脊椎動物の終脳/間脳と似た分子設計原理を持つことが示されました(図2)。以上より、ウニ幼生には非視覚光受容を核とする脳様中枢が存在し、環境光情報を行動へ統合する回路の一部が保存されている可能性が高いことが明らかになりました。これは、後口動物共通祖先にさかのぼる脳機能の起点を、具体的な細胞群と遺伝子プログラムとして提示する成果です。     【今後の展開】 今後は、光→行動の回路に関するより詳細な解析や、比較発生・比較ゲノミクスによる系統横断検証(棘皮・半索・脊索動物での保存/分岐の同定)を進め、非視覚オプシン中枢の普遍性と系統特異性の理解を深めます。最終的には、脳の「はじまり」の設計図を、細胞系譜、遺伝子ネットワーク、行動出力の三層で統合し、脊椎動物脳の起源と多様化に対する新しい指標の提示を目指します。   参考図 図1(左)ウニ幼生を背側から見た模式図。前端部(水色)領域は前端部神経外胚葉、つまり脊索動物でいうところの脳領域に類似する。しかし、発生初期にここに存在するセロトニン神経は単一のタイプとされ、それほど複雑さはないとみなされていた。(右)この脳領域に対してscRNA-seqを行ったところ、セロトニン神経が2集団から構成され、それぞれ異なる遺伝子発現をしていることが明らかになった。特に体の後方背側に位置する集団は非視覚オプシンとともに、脊索動物では間脳形成に関与している遺伝子群が発現していることが明らかになった。 図2前後方向に区画分けされたウニ幼生(左図)の脳様領域と、脊椎動物であるマウスの脳(右図)の比較。発現遺伝子プロファイルの比較で、前後軸に沿った類似性が見られた。   用語解説 注1) 後口動物 系統進化上、左右相称動物を大きく二つに分けた時の分類群の一つ。原腸陥入(消化管の元となる原腸が形成される過程)の際の原口(入口部分)が肛門になり、原腸の前端部が体表と接する部分に新たに口ができるグループ。脊索動物と棘皮動物、半索動物を含む。 注2) 棘皮動物門 分類学上の階級(界・門・綱・目・科・属・種)の中で、門で分類した場合のグループの一つ。ウニ、ナマコ、ヒトデ、クモヒトデ、ウミユリの仲間を含む。 注3) 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq) 多細胞生物の体を構成する細胞それぞれに発現しているmRNAを細胞ごと網羅的に解析する手法。どの細胞にどのような遺伝子が発現しているのかを知ることができる。 注4) in situハイブリダイゼーション 細胞内において特定のmRNAの分布を検出する手法。特定の配列を持つmRNAにラベルをつけ、細胞内のターゲットとなるmRNAと結合(ハイブリダイゼーション)させてラベルを検出する。 注5) Delta-Notchによる側方抑制 隣接する細胞が相互作用することで互いに異なる運命をもたらすメカニズムで、多くの動物の神経細胞分化の過程で見られる現象。DeltaとNotchはいずれも細胞膜上の膜タンパク質で、隣接する一方の細胞のDeltaがもう一方の細胞のNotchと結合することで、この細胞でのDeltaの発現を抑制し、役割の異なる細胞を分化させる。 注6) セロトニン 神経伝達物質の一つ。ヒトの脳にも存在しており、精神安定など、さまざまな機能を果たしている。ウニでは、脳を構成する神経の中で最も早く形成される。 注7)ライブイメージング 光学顕微鏡を用いて生きたままの生き物の動きや細胞の変化を直接観察する手法。今回はウニ胚の細胞膜と核を蛍光タンパク質によって標識し、それをレーザー光で光らせたものを観察した。   研究資金 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C, JPMJPR1945;2019-2022年度)、科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業が助成するA-STEP(JPMJTR204E; 2019-2024年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤研究(B)(23K23933; 2022-2025年度)、(C)(23K11312;2023-2027年度)、(若手)(19K20406: 2019-2022 年度)日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業 CREST「マルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明による革新的医療技術開発」研究領域(22gm1510007; 2022-2027年度)、東レ科学振興会が助成する東レ科学技術研究助成(2018-2020年度)、武田科学振興財団が助成するライフサイエンス研究奨励(2015年度)による助成によって実施されました。   掲載論文 【題名】 Non-Visual Photoreceptive Brain Specification in Sea Urchin Larvae (ウニ幼生における非視覚光受容に関与する脳領域の形成) 【著者名】 #Junko Yaguchi, *#Koki Tsuyuzaki, Ikutaro Sawada, Atsushi Horiuchi, Naoaki Sakamoto, Takashi Yamamoto, Takahiro Yamashita, *Shunsuke Yaguchi (*責任著者、#equal contribution) 【掲載誌】 Nature Communications 【掲載日】 2025年11月19日 【DOI】 10.1038/s41467-025-65628-9   【プレスリリース】ウニ幼生に光で行動を調節する脳のような神経細胞群が存在することを発見.pdf(1.42 MB)掲載誌:Nature Communications 研究者ガイドブック(山本卓教授)   【問い合わせ先】 【研究に関すること】 谷口俊介(やぐちしゅんすけ) 筑波大学生命環境系/下田臨海実験センター准教授 TEL: 0558-22-1317 E-mail: yag@shimoda.tsukuba.ac.jp URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home X@urchin_lab   【取材・報道に関すること】 筑波大学 広報室 TEL: 029-853-2040 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp   千葉大学 広報室 TEL: 043-290-2018 E-mail: koho-press@chiba-u.jp   京都大学 広報室 国際広報班 TEL: 075-753-5729 E-mail: comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-4518 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2025.11.14
    • 食料/農林水産業
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    植物の形態にひそむ周期性を変調させる仕組みを発見  魅力的な花き類の創出に期待

      概要 奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕) 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の池内桃子特任准教授と京都府立大学の爲重才覚講師(研究当時:名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、 横浜市立大学、 奈良先端大を含む)、奈良先端大の土田岳志(研究当時:博士前期課程)らは、広島大学大学院統合生命科学研究科の藤本仰一教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所/テキサス大学の鳥居啓子教授、名古屋大学遺伝子実験施設の打田直行教授、東京農工大学の笠原博幸教授、熊本大学の相田光宏教授らの研究グループと共同で、植物の形態形成の周期性を変調させる仕組みを発見しました。  形態形成を司る植物ホルモンのオーキシン(注1)の空間的なパターンは、オーキシンの輸送によって創出されるという説が長年受け入れられてきましたが、パターンの周期性を決める仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。  今回の研究はEPFL2(EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKE 2)(注2)というペプチドホルモンとの相互抑制的な関係性が、オーキシンの周期的な空間パターンを変調させることを新たに見出しました。これは、従来モデルを20年ぶりに書き換える重大な発見であるといえます。  本研究の成果は、花卉(かき)類や園芸植物の形を操作する技術の創出につながることが期待できます。  この研究成果は、イギリスの学術誌「Nature Communications」オンライン版に2025年11月13日(木)午後7時(日本時間)に掲載されます(DOI:10.1038/s41467-025-65792-y)。     背景と目的 ヒマワリやマツボックリなどのフィボナッチらせん(注3)に代表される植物の周期的な構造は、葉や花などの器官を一定間隔で繰り返し生み出すことで形作られています。また、ひとつひとつの器官の形状に着目すると、葉の縁には鋸歯(きょし)と呼ばれるギザギザ構造が一定の間隔で形成されていることがわかります(図1)。  こうした器官や鋸歯等の突起構造は、植物ホルモンであるオーキシンが局所的に蓄積することによって形成されます。オーキシンの輸送体がオーキシン濃度の高い細胞の方へ流す働きがあることで自発的に周期的なパターンが生み出されることが、実験およびコンピュータシミュレーションの結果に基づいて20年ほど前から提唱されていました1,2,3,4。  この説によると、オーキシンの輸送と拡散の関係によって周期性が決まると想定されます。しかし、実際の植物において周期性が変わる観察例はなく、周期性が決まる仕組みは未解明でした。     研究手法と成果 周期性を制御する仕組みを理解する手がかりは、EPFL2と呼ばれるペプチドホルモンを作れない変異体の解析から得られました。  鋸歯形成に先立って葉の縁に形成されるオーキシン蓄積部位を観察すると、EPFL2の機能が損なわれたepfl2 変異体ではその形成間隔が短くなっていることを発見しました(図2)。以前の研究によって、EPFL2とオーキシンの間に相互に抑制し合う制御関係があることがわかっていました5。 そこで研究グループは、従来モデルのオーキシンと輸送体の制御関係にオーキシンとEPFL2の相互抑制関係を組み込んだ新しいモデルを構築しました。  葉を模した多細胞列をコンピュータ上で再現しEPFL2がオーキシン蓄積部位の周期性に与える影響を調べた結果、EPFL2の量が少なければ形成間隔が短くなるという観察結果を再現しました。さらに、EPFL2の量を通常条件よりも増やせば間隔がもっと長くなり、一方でEPFL2の量を極端に減らすとひとつひとつの蓄積部位が明瞭に形成されなくなるというシュミュレーションの結果が得られました。  研究グループは実験的にEPFL2の量を改変した植物体を作り出し、これらのシミュレーション結果を裏付けることに成功しました。 また、EPFL2が規則的な器官配置パターンの形成に必要であることも見出し、EPFL2は植物の形作りを一般的に制御する重要な因子であることを証明しました(図3)。  こうして、実験とシミュレーションの両面のアプローチに基づき、EPFL2とオーキシンの相互抑制的関係が繰り返し起こる形態形成イベントの周期性を変調させる仕組みを提案しました(図4)。     今後の展開 輸送体によってオーキシン蓄積部位が周期的に生み出される仕組みは、チューリングパターン(注4)と呼ばれる一般的な規則正しいパターン形成と類似した仕組みと考えられています6。  今回の研究は、相互抑制関係とチューリングパターンを組み合わせることで周期性を変調させるという、新しいパターン形成の仕組みを提案しています。植物の形態形成の制御に留まらず、自然界に見られる様々な周期的パターン形成においても同様の仕組みが働いている可能性が考えられます。  また、サニーレタスのように複雑に入り組んだ葉の構造やカーネーションなど花弁の辺縁構造も鋸歯と共通した仕組みで作られるため、鑑賞用の花卉類や園芸植物の形質を改変して魅力的な形の植物を生み出す技術の開発に利用できる可能性があります。     謝辞 本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR214H)、日本学術振興会(JSPS)新学術領域研究「植物の周期と変調」(20H05431, 22H04713)・新学術領域研究「植物多能性幹細胞」(JP17H06476)・基盤研究B (JP26291057)・若手研究(20K15807)などの支援を受けて行われました。     用語解説 注1 オーキシン:植物の成長を調節する代表的な植物ホルモンの一つ。茎の伸長や根の形成、葉や花の配置など、体の各部の形づくり全般に深く関わっており、農業や研究目的で人為的に投与することも多い。 注2 EPFL2:EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKEsを含む一群のペプチド(EPF/EPFLs)のうちの一種。EPF/EPFLsは植物が体の各部の形成を調節するホルモン様のペプチド分子で、多くの植物が持っている。EPFL2は特に葉の形態、胚珠(種子になる器官)の形成、分裂組織のサイズなどに関わることが知られている。 注3 フィボナッチらせん:らせんの列の数がフィボナッチ数列(前の2つの数を足した数が次の数になるという規則性を持つ数列)に従う規則的な配置。 注4 チューリングパターン:物質の反応と拡散の仕組みによって自然に生じる模様、およびその理論。イギリスの数学者で暗号解読の功績やコンピュータ科学の創始者としても知られるアラン・ チューリングが提唱した。動物の斑点や縞模様、植物の模様や形態などを説明する理論として知られる。     引用文献 1. Jönsson H, Heisler MG, Shapiro BE, Meyerowitz EM & Mjolsness E. An auxin-driven polarized transport model for phyllotaxis. Proc Natl Acad Sci U S A. 103, 1633-1638 (2006). 2. de Reuille, P. B. et al. Computer simulations reveal properties of the cell–cell signaling network at the shoot apex in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103, 1627-1632. (2006). 3. Smith, R. S. et al. A plausible model of phyllotaxis. Proc. Natl. Acad. Sci.USA 103, 1301-1306. (2006). 4. Bilsborough GD et al. Model for the regulation of Arabidopsis thaliana leaf margin development. Proc Natl Acad Sci U S A. 108, 3424-9 (2011). 5. Tameshige T et al. A secreted peptide and its receptors shape the auxin response pattern and leaf margin morphogenesis. Curr Biol. 26, 2478-2485 (2016). 6. Sahlin P., Söderberg B. & Jönsson H. Regulated transport as a mechanism for pattern generation: capabilities for phyllotaxis and beyond. J. Theor Biol. 258, 60-70 (2009).     掲載論文 タイトル:Mutual inhibition between EPFL2 and auxin extends the intervals of periodic leaf morphogenesis(EPFL2とオーキシンの相互抑制が葉の周期的な形態形成の間隔を伸ばしている) 著者:Toshiaki Tameshige#, Takeshi Tsuchida#, Yuuki Matsushita, Yuki Doll, Kaisei Maruyama, Takemoto Agui, Mitsuhiro Aida, Hiroyuki Kasahara, Keiko U Torii, Naoyuki Uchida, Koichi Fujimoto, Momoko Ikeuchi* #共筆頭著者 *責任著者 掲載誌:Nature Communications DOI:10.1038/s41467-025-65792-y     報道発表資料.pdf(1.59 MB) 掲載雑誌:Nature Communications 研究者ガイドブック(藤本 仰一 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域植物再生学研究室 特任准教授池内桃子 TEL:0743-72-5520E-mail:momoko.ikeuchi@bs.naist.jp 研究室紹介ホームページ:https://bsw3.naist.jp/ikeuchi/   京都府立大学大学院生命環境科学研究科 講師爲重才覚 TEL:075-703-5444E-mail:t-tamesige@kpu.ac.jp 研究室紹介ホームページ:https://sites.google.com/view/tameshigelab/   広島大学大学院統合生命科学研究科 教授藤本仰一 TEL:082-424-7346E-mail:kfjmt@hiroshima-u.ac.jp     <JST事業に関すること> 科学技術振興機構 創発的研究推進部東出学信 TEL:03-5214-7276E-mail:souhatsu-inquiry@jst.go.jp     <報道に関すること> 奈良先端科学技術大学院大学企画総務課渉外企画係 TEL:0743-72-5063/5112FAX:0743-72-5011E-mail:s-kikaku@ad.naist.jp   科学技術振興機構広報課 TEL:03-5214-8404FAX:03-5214-8432E-mail:jstkoho@jst.go.jp   京都府立大学企画・地域連携課企画・地域連携係 TEL:075-703-5147FAX:075-703-4979E-mail:kikaku@kpu.ac.jp   名古屋大学総務部広報課 TEL:052-558-9735FAX:052-788-6272E-mail:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp   広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2025.12.12
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    外来遺伝子を残さない安全なゲノム編集を藻類で実現! ―藻類バイオ燃料の実用化に向け、新しい遺伝子編集方法を開発―

    本研究成果のポイント バイオディーゼルなどの燃料生産が期待される微細藻類“ナンノクロロプシス*1”において、遺伝子を安全に改変できるよう「塩基編集*2システム」を搭載した脱落可能なDNAベクターを開発しました。 この塩基編集システムは、DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs)*3を導入しない安全な遺伝子改変システムであるため、外来遺伝子を残さず(外来遺伝子フリー*4)、必要な変異だけを導入できる安全な方法です。この技術を使うことで、遺伝子改変後も外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスを構築することが可能になりました。 脱落可能なベクターにより樹立できる外来遺伝子の残らないゲノム編集生物はカルタヘナ法*5の定める遺伝子組換え生物には該当しないため、屋外培養などの幅広い用途への応用が期待できます。     概要 広島大学ゲノム編集イノベーションセンターの諸井桂之研究員、山本卓教授および栗田朋和特任准教授は、非常に多くの油脂を蓄積する微細藻類、ナンノクロロプシスにおいて脱落可能な塩基編集ベクターを開発しました。この技術により変異導入時にDSBsを介さずに外来遺伝子を含まないナンノクロロプシスのゲノム編集株を樹立する手法を確立しました。 本研究成果は令和7年11月27日に英国Nature research社の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。 論文情報 掲載雑誌:Scientific Reports 論文題目:“Double-strand break-free and transgene-free genome editing in the microalga Nannochloropsis oceanica using removable vectors containing the CRISPR base editing system” 著者: Keishi Moroi, Yamamoto, Tomokazu Kurita* 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター *:責任著者 DOI: 10.1038/s41598-025-26657-y 背景 微細藻類は細胞内に多量の油脂や有用物質を蓄積させるため、バイオディーゼルなどの生産が期待されていますが、生産コストなどの面で課題があるため、多くの研究者が微細藻類の分子育種を進めています。現在までに非常に効率の良いゲノム編集ツールが微細藻類で使用されて多くのゲノム編集藻類が構築されましたが、それらはDNA二本鎖切断(DSBs)を導入してから藻類細胞のDSB修復機構依存的に変異を導入していました。一方でこのようなDNAの二本鎖切断が稀に大規模なゲノムDNAの削除や染色体間での組換えなど宿主細胞に有毒で不都合な改変も起こっていました。 研究成果の内容 本研究ではナンノクロロプシスにおいてCEN/ARS*6を含む脱落可能ベクターに塩基編集用の発現カセットを搭載して、図のように塩基置換後に脱落可能なベクターを構築しました。この塩基編集ベクターによりナンノクロロプシスの内在性の5種の遺伝子における6つの標的サイトにおいて塩基置換の導入に成功しました。塩基置換効率は29.2%から47.6%で、塩基置換後のベクターの脱落にも成功しました。 今後の展開 本研究により確立したDSBフリー且つ、外来遺伝子が残らないゲノム編集法を用いて屋外培養可能、かつ油脂蓄積効率の高い“高機能藻類”の樹立が期待されます。DSBフリーのゲノム編集システムは複数箇所同時改変でも標的サイト間での大規模な遺伝子の脱落や染色体間での組換えといった不都合な改変が起こり難く、また脱落可能ベクターはマーカーの再利用が可能になるため、本システムは、細胞内の多数の遺伝子を改変する際に非常に有効であると考えられます。本研究で確立した外来遺伝子フリー塩基編集システムは藻類バイオディーゼル*7の実用化に必須の基盤技術と考えられます。 用語解説 *1ナンノクロロプシス 直径 2〜5μmほどの小さな海の植物プランクトンです。培養環境に応じてバイオディーゼルに変換できる油脂を大量に蓄積すること、オメガ3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)を豊富に含有することなど多くの特長を持つことから、さまざまな分野で活用されています。 *2塩基編集 Clustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR)–CRISPR-associated protein 9 (Cas9)には2つのヌクレアーゼドメインがあり、標的部位にDNA二本鎖切断を導入します。このヌクレアーゼの片方を失活したnCas9はDNAの2本鎖の片方のみを切断する酵素でCas9ニッカーゼと言います。このnCas9に塩基の脱アミノ化を行うデアミナーゼを融合して、標的部位の塩基を別の塩基に置換するのが塩基編集です。本研究では、nCas9にヤツメウナギのデアミナーゼであるPmCDA1とウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質を結合した融合タンパク質を使用しています。PmCDA1は標的配列のシトシンのアミノ基を脱離させてウラシルに置換します。ウラシルはチミンと同様にアデニンと塩基対を形成するため、最終的にシトシンをチミンに変換できます。このような塩基編集システムをシトシンベースエディター(cytosine base editors, CBE)と言います。ウラシルDNAグリコシレーション阻害タンパク質はPmCDA1により変換されたウラシルが細胞内の塩基除去修復機構により取り除かれ、別の塩基に変換されるのを防ぐ役割があります。 *3DNA二本鎖切断(DNA Double-strand Breaks, DSBs) 生命の設計図であるゲノムDNAは二本のDNA鎖が二重螺旋構造を形成していますが、この二本の鎖の両方を切断するのがDSBsです。DSBsが導入されると細胞内のDSB修復系が機能し基本的には元通り修復されます。しかし一定の割合で修復システムのエラーによりゲノムDNAに変異が導入されます。この現象を利用してDSBsを介したゲノム編集ツールは特定部位に結合してDSBsを導入、標的遺伝子に変異を導入しますが、この時に稀に標的以外の遺伝子を含む大規模な遺伝子の削除や、染色体間での置換など、宿主細胞にとって有害で不都合な反応が起こることがあります。このような反応は特に特にゲノムDNAの複数の場所でDSBsを同時に導入した場合に起こることがあるため、複数の遺伝子を同時に改変する場合には特にDSBフリーのシステムが重要になります。 *4外来遺伝子フリーシステム 異種生物由来や合成された配列など、外来のDNA配列を含む生物を遺伝子組換え生物(Gene Modified Organisms, GMOs)と言います。GMOsはカルタヘナ法に基づく生物学的封じ込めの規定があるため、屋外培養などには非常に強い使用制限があります。CEN/ARSを持つベクターは細胞内でゲノムDNAの外で維持されるエピソーマルベクターとして振舞い、抗生物質による選択圧が無い培養条件では自然に脱落します。このように最終的に外来遺伝子が残らないシステムを外来遺伝子フリーシステムと言います。 *5カルタヘナ法 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律。日本国内において、遺伝子組換え生物の使用等について規制をし、生物多様性条約カルタヘナ議定書を適切に運用するための法律で、遺伝子組換え生物が生物多様性へ影響を及ぼさないかどうか事前に審査することや、適切な使用方法について定められています。 *6CEN/ARS 出芽酵母の染色体の安定性に関わる配列であり、CEN/ARSはCentromere and autonomous replication sequenceの略で、出芽酵母の汎用low copyベクターに使用されています。最近このCEN/ARSを持つベクターが珪藻やナンノクロロプシスにおいても細胞内でゲノムDNAの外でエピソーマルベクターとして安定に維持されることが報告されていました。 *7藻類バイオディーゼル 微細藻類は環境ストレスなどに応じて細胞内に多量の油脂を蓄積します。この油脂に含まれる脂肪酸を脂肪酸メチルエステルに変換して使用する燃料です。藻類による油脂の生産は光合成によりCO2を吸収するため、大気中のCO2を増加させない次世代の再生可能エネルギーとして期待されています。   報道発表資料(733.68 KB) 掲載ジャーナル:Scientific Reports 研究者ガイドブック(栗田 朋和 特任准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 特任准教授 栗田 朋和 Tel:082-424-4008 E-mail:kuri616*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.12.22
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    遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発 ~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~

    本研究成果のポイント ヒト細胞内で、遺伝子編集を行う際、オフターゲット作用(不要な場所のDNA切断)が起こらずに、目的の遺伝子修復(HDR)が成功した細胞だけを選別する独自スクリーニングシステムを開発しました。 本システムを用いて、標的 DNA を改変する新規のゲノム編集技術Cas9変異体「HSS Cas9」を獲得しました。HSS Cas9は野生型Cas9よりも特定の標的配列において高いHDR効率を示します。 HSS Cas9とHDRが活発になる細胞周期制御技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、不要な変異(インデル)の発生を大幅に抑制し、遺伝子編集の「正確性(HDR/インデル比)」を最大約30倍以上に向上させることに成功しました。 遺伝子編集の精度向上によって、安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の松本大亮助教(現東京都医学総合研究所主任研究員)、野村渉教授、山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センターの佐藤悠助教、東京都医学総合研究所宮岡佑一郎再生医療プロジェクトリーダーらのグループはヒト細胞においてHDRが成功するとジフテリア毒素への耐性を獲得する仕組みと緑色蛍光の消光によりオフターゲット作用を検出する仕組みを利用した、独自のスクリーニングシステムを構築しました。このシステムを用いてCas9変異体ライブラリを探索した結果、2つの新規アミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ「HSS Cas9」を同定しました。HSS Cas9は、野生型Cas9と比較して、特定の遺伝子標的(EMX1, VEGFAなど)において高いHDR効率を示しました。さらに、HSS Cas9と細胞周期依存的にCas9を活性化させる技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、インデルの発生を強く抑制し、遺伝子編集の正確性(HDR/インデル比)を飛躍的に向上させることに成功しました。本成果は、より安全で高精度な遺伝子治療技術の開発に貢献するものです。 本研究成果は、「Journal of Biomedical Science」(IF=12.1)に令和7年12月3日付でオンライン掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Screening Strategy to Identify Cas9 Variants with Higher HDR Activity Based on Diphtheria Toxin   著者 松本大亮1,2,3,*、久保田小茉利1、佐藤悠4、加藤-乾朋子3、濁川清美1,2、宮岡佑一郎3、野村渉1,2,* 1.広島大学薬学部 2.広島大学大学院医系科学研究科 3.東京都医学総合研究所 4.山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センター * 責任著者   掲載雑誌 Journal of Biomedical Science (IF=12.1)   DOI番号 DOI: 10.1186/s12929-025-01197-9   研究助成 この研究成果は、科研費、JSPS 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)JPJS004 20230011、HIRAKU-Global、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、持田記念医学薬学振興財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の支援を受けて研究を行い、得られたものです。   背景 ゲノム編集技術は、遺伝性疾患やがんの治療法として期待されています。ゲノム編集技術では、標的とする遺伝子を切断することが必要となります。これまでにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)やTALEN(例:Platinum TALEN)などが開発されてきており、現在では目的に沿った使い分けが可能な状況となっています。そのなかでもCRISPR-Cas9は標的配列を自在に特異的に標的化できるという点から、主要なゲノム編集ツールとして汎用されています。これらのツールはいずれも標的とする遺伝子配列を切断する機能を持っています。しかし、DNAを切断した後、あらかじめ用意した正しい遺伝子配列(テンプレートDNA)を使って正確に修復する「HDR(相同組換え修復)」の効率が低いことが大きな課題でした。ゲノム編集では、多くの場合に標的配列がエラーを伴いやすい「NHEJ(非相同末端結合)」によって修復されてしまい、意図しない変異(インデル)が生じてしまうためです。精度の高いゲノム編集によってより安全性の高い遺伝子治療が可能となりますが、この実現には、HDR効率を向上させることが不可欠です。しかし、これまでに決定的な解決策は示されていません。   研究成果の内容 研究グループはまず、ヒト細胞内でHDRによる修復に成功した細胞だけが生き残り、緑色蛍光タンパク質の消光によってゲノム編集操作における副作用であるオフターゲット作用を検出する、スクリーニングシステムを開発しました(図1)。このシステムを用いて、Cas9のDNA切断に関わるドメインにランダムな変異を導入したライブラリを探索した結果、これまでに報告のなかった2つのアミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ変異体「HSS Cas9(HDR-Screening-Selected Cas9)」を発見しました(図2)。このHSS Cas9は、野生型のCas9と比較して、特定の遺伝子標的において高いHDR効率を示しました。 さらに、研究グループはHSS Cas9と、HDRが活発になる細胞周期(S/G2期)でのみCas9を活性化させる既存の技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせました。その結果、望まない変異(インデル)の発生を劇的に抑制しつつ、高いHDR効率を維持することに成功。編集の「正確性(HDR/インデル比)」を、標的遺伝子によっては野生型Cas9と比べて最大約30倍以上に向上させることを実証しました(図3)。   今後の展開 Cas9によるヒト細胞のゲノム編集が報告されてから10年以上が過ぎ、基本特許の有効期間も折り返しの10年間を迎えています。今回開発されたスクリーニングシステムは、ランダムなCas9変異体の中からヒト細胞内での高精度な修復を起こしやすい変異体を選抜することができます。今後、このスクリーニングシステムに改良を加えながら、より大規模なスクリーニングを実施することで、新たなバージョンのHSS Cas9の獲得に展開していきます。これによって、より安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   参考資料 図1.スクリーニングシステムの概略図 図2.獲得した変異体の活性確認(#27がHSS Cas9) 図3.HSS Cas9の細胞周期依存的な活性化(WT: 野生型Cas9, HSS: HSS Cas9, A4C: AcrIIA4-Cdt1, PO: ホスフォジエステル結合の一本鎖オリゴの鋳型, PS: ホスフォロチオエート結合(末端3塩基)の一本鎖オリゴの鋳型)   【プレスリリース】遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~.pdf(398.74 KB) 掲載雑誌:Journal of Biomedical Science 研究者ガイドブック(野村渉教授)   【お問い合わせ先】   <研究に関すること> 東京都医学総合研究所主任研究員松本大亮 Tel:03-5316-3129 E-mail:matsumoto-ds*igakuken.or.jp   広島大学大学院医系科学研究科教授野村渉 Tel:082-257-5308 E-mail:wnomura*hiroshima-u.ac.jp   山口大学大学研究推進機構 中高温微生物研究センター助教 佐藤悠 Tel:083-933-5841 E-mail: yusato*yamaguchi-u.ac.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 Tel:082-424-4518 FAX 082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人 東京都医学総合研究所 事務局研究推進課乙竹・伊藤 Tel:03-5316-3109   山口大学総務企画部総務課広報室 Tel:083-933-5007 E-mail:sh011*yamaguchi-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.12.22
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    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2004.04.01
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    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

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    2026.02.25
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    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2026.02.26
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    ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開

    ウニ胚や幼生の神経細胞は、細胞数が少なく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することが容易ではありません。今回、バフンウニについて、発生段階ごとの単一細胞RNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、誰もが手軽に1細胞レベルでの遺伝子発現を調べられる形で公開しました。   単一細胞RNAシーケンス(single-cell RNA-seq; scRNA-seq)は、個々の細胞がどの遺伝子を発現しているかを網羅的に解析できる強力な手法です。生物の発生過程では、同じ胚の中でも細胞が多様な運命へ分岐していきますが、scRNA-seqを用いると、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)だけでは捉えきれない「細胞ごとの違い」を明らかにすることができます。しかしながら、ウニ胚や幼生の神経細胞のように細胞数が少ない細胞集団は、解析データの中で埋もれやすく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することは困難です。 本研究では、バフンウニHemicentrotus pulcherrimusの胚発生(受精後24〜96時間)にわたるscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、発生段階に沿った細胞状態の変化を単一細胞レベルで体系的に整理しました。さらに、隣接する細胞の相互作用を薬理学的に阻害して、神経分化を増強させることで、通常条件では検出が難しい神経系の細胞集団や関連遺伝子群をより明瞭に捉えることに成功しました。得られたデータは、日本産ウニのゲノムデータベース(HpBase)にて公開し、計算解析に不慣れな研究者でも直感的に遺伝子発現を探索できる研究基盤として整備しました。   研究代表者 筑波大学生命環境系 谷口 俊介准教授 千葉大学大学院医学研究院 露崎 弘毅特任講師 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 山本 卓教授 国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室 池尾 一穂准教授   研究の背景 ウニは古くから発生生物学注1)の代表的な実験材料として用いられ、受精・卵割・原腸形成・細胞運命決定といった基本原理の解明に大きく貢献してきました。透明で操作しやすい胚を大量に得られる点に加え、外部からの処理や観察を組み合わせた実験設計に適しているという特徴があります。しかしながら、マウスやショウジョウバエなどの典型的なモデル生物と比較すると、系統維持や遺伝学的手法の蓄積には制約があり、近年急速に発展してきたゲノム解析注2)やトランスクリプトーム解析注3)などの大規模なデータ基盤は十分に整備されていません。 特に神経系の発生は、複数の細胞系列が精密に分化、配置される過程であり、限られた数の神経細胞やそのターゲットとなる細胞が時間とともに変化していくため、網羅的に捉えることが難しい研究対象です。実際にウニ胚や幼生においては、神経細胞は全細胞の中で相対的に少数であるため、単一細胞RNAシーケンス解析(scRNA-seq)注4)を行っても神経クラスターが小さくなり、神経分化を駆動する転写因子やシグナル経路を同定する際の感度が課題となっていました。そこで本研究では、発生段階を通したscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)の構築に加え、解析で見えにくい細胞集団を見えやすくするために、神経分化に強く関与するDelta–Notch経路注5)を実験的に抑制して神経細胞系列を増やし、ウニ神経発生の分子基盤をより高解像度で捉えることを目指しました。   研究内容と成果 本研究ではまず、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)の受精後24、36、48、72、96時間という発生の主要段階から単一細胞データを取得し、発生が進むにつれて細胞集団がどのように分岐し、多様化していくのかを可視化できるscRNA-seqアトラス注6)を構築しました。これにより、ウニ胚発生における細胞状態の連続的変化を単一細胞解像度で追跡できるだけでなく、細胞種・細胞系列ごとに特徴的な遺伝子発現プロファイルを参照できる「地図」として機能する基盤が整いました。 次に、胚に対して、Delta–Notch経路(細胞間の相互作用)を阻害する薬剤処理を行い、神経分化が増強される条件を作り出しました。その結果、神経系に相当する細胞集団が相対的に増加し、通常条件では小さくなりがちな神経関連クラスターや、その中で発現する神経分化関連遺伝子がより明確に検出できるようになりました。これは、scRNA-seqの弱点である「少数細胞集団の見えにくさ」を実験操作で補い、神経発生の分子制御の理解を促す有効なアプローチであることを示しています。 このようにして得られた単一細胞データは、研究活動に幅広く活用できるよう、日本産ウニのゲノムデータベースHpBaseにて公開し、フリーソフトKana注7)を用いて解析できるプロトコルを示しました(参考図)。これにより、特定の遺伝子の発現がどの細胞集団で、どの発生段階に現れるのかを直感的に探索でき、計算解析に不慣れな研究者でも実験計画や仮説検証に利用しやすくなります。また、scRNA-seqアトラスを参照として用いることで、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)の結果から細胞タイプ組成の変化を推定する枠組みも提示し、従来のバルク解析とscRNA-seqを橋渡しする実用的な解析フローを確立しました。   今後の展開 本研究成果は、ウニ神経発生の理解を深めるだけでなく、非モデル生物におけるscRNA-seqの活用を促進し、発生・進化・比較生物学を横断した研究展開に資する基盤になると期待されます。   参考図 図本研究で構築したウニ胚と幼生の単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)アトラス ウニ胚と幼生の発生ステージ(Stages of embryo/larvae、上段)に沿って、受精後24、36、48、72、96時間における細胞集団のscRNA-seq解析結果をアトラス(Single-cell scRNA-seq atlas)として整理した。各時点の細胞は、対照(Control、紫)と薬剤処理(Reagent、緑)で色分けして示した。薬剤は受精後16時間に添加し、その後の細胞状態の変化を単一細胞レベルで比較できる。特定領域を拡大すれば、処理条件ごとに目立つ細胞集団の変化を直感的に把握できる。得られたscRNA-seqアトラスはデータベースHpBase上で公開し、ブラウザ上で遺伝子発現の探索が可能。   用語解説 注1) 発生生物学 たった一つの細胞である受精卵から体が形作られるまでの分子メカニズムを解明する学問。細胞内外のシグナル分子の働きと、DNAに結合して遺伝子発現を調節する転写因子の機能解析などを通じて、時間的空間的にその生物個体に何が起きているのかを明らかにする。 注2) ゲノム解析 生物がもつ全DNA配列(ゲノム)を読み取り、遺伝子の種類、配置、変異を調べる解析。これにより生物の形質や進化、疾患、適応の基盤を理解する。 注3) トランスクリプトーム解析 細胞や組織で実際に転写されている全RNA(主にmRNA)を網羅的に測定する解析。どの遺伝子がどれくらい使われているかを示し、発生段階、細胞種、条件差による発現変化を捉える。 注4) 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq) 多細胞生物の体を構成する細胞に発現しているmRNAを細胞ごと網羅的に解析する手法。 注5) Delta-Notch経路 隣接する細胞が相互作用することで互いに異なる運命をもたらすメカニズムで、多くの動物の神経細胞分化の過程で見られる。DeltaとNotchはいずれも細胞膜上の膜タンパク質で、隣接する一方の細胞のDeltaがもう一方の細胞のNotchと結合することで、この細胞でのDeltaの発現を抑制し、役割の異なる細胞を分化させる。 注6) アトラス 細胞・組織・遺伝子発現などを網羅的にまとめたデータ集。単一細胞RNA-seqアトラスは、発生段階や臓器ごとに、存在する細胞タイプや遺伝子発現の分布を細胞単位で示す参照地図。 注7) Kana scRNA-seqの結果をブラウザ上で直感的に閲覧・探索できるフリーソフト。遺伝子の発現パターン、クラスター(細胞集団)、細胞タイプの違いを可視化できる。   研究資金 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C, JPMJPR1945;2019-2022年度)、科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業が助成するA-STEP(JPMJTR204E; 2019-2024年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤研究(B)(23K23933; 2022-2025年度)、(C)(23K11312;2023-2027年度)、(若手)(19K20406: 2019-2022 年度)による助成によって実施されました。   掲載論文 【題名】 Single-cell transcriptomic resources for tracing neurogenesis and cell fate specification in sea urchin embryos (ウニ胚における神経形成と細胞運命決定を解析するための単一細胞RNA-seqリソース) 【著者名】 *Koki Tsuyuzaki, Junko Yaguchi, Takashi Yamamoto, Kazuho Ikeo, *Shunsuke Yaguchi (*責任著者) 【掲載誌】 Development 【掲載日】 2026年2月26日 【DOI】 10.1242/dev.205025   【プレスリリース】ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開.pdf(1.1 MB) 掲載誌:Development 研究者ガイドブック(山本卓教授)   【問い合わせ先】 【研究に関すること】 谷口俊介(やぐちしゅんすけ) 筑波大学生命環境系/下田臨海実験センター准教授 TEL: 0558-22-1317 URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home X@urchin_lab   【取材・報道に関すること】 筑波大学 広報局 TEL: 029-853-2040 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp   千葉大学 広報室 TEL: 043-290-2018 E-mail: koho-press@chiba-u.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-4518 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   国立遺伝学研究所 TEL: 055-981-5873 E-mail: prkoho@nig.ac.jp

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    2026.03.06
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    DNAの「シトシン」が酸化されると変異が起こることを発見 ―がんの原因の解明につながる新たな手がかり―

    本研究成果のポイント DNAの塩基の一つ「シトシン」が酸化されると、変異を引き起こすことを新たに発見しました。これは、がんの原因の解明につながる手がかりとなります。   概要 広島大学大学院医系科学研究科(薬学部)の鈴木哲矢 助教、廣田杏 大学院生(当時)、紙谷浩之 教授のグループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 岩井成憲 教授(当時)と共同で、遺伝子の本体であるDNAの4種類の塩基の一つであるシトシンが酸化されると、損傷部位に変異を引き起こすこと、損傷部位から離れた部位にも変異を引き起こす可能性があることを見出しました。   背景 多くの生物の遺伝子の本体はDNAです。遺伝情報が変わることを変異と呼び、変異が少しずつ蓄積していくことで、がんが発生するリスクがあがることが知られています(※1)。変異の多くはDNAが傷つくこと(化学的修飾)により引き起こされます。 DNAは4文字(4種類の塩基)を持ちます。これまでの研究で、塩基の一つであるグアニンが酸化されると8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)などの酸化損傷塩基が生じることがわかっています(※2)。以前に本研究グループは、この損傷塩基が生じた部分に変異を引き起こすだけではなく、離れた部位にも変異を引き起こすことを見出していました。   研究成果の内容 今回、本研究グループは、別の塩基であるシトシンに着目しました。シトシンが酸化されると、主な損傷として5-hydroxycytosineが生じます(※3)。5-hydroxycytosineを含むDNAをヒト細胞に導入した結果、5-hydroxycytosineがあった部位がチミン(塩基の一つ)などに変わっていることを見出しました。また、グアニンの酸化体ほどではないものの、5-hydroxycytosineがあった部位から離れた部位にも変異が起こっていました。 一方、損傷部位から離れた部位での変異に着目して、紫外線によって生じる損傷であるチミン-チミン6-4光産物の影響を調べましたが、離れた部位での変異は観察されませんでした。 今回の結果は、グアニンの酸化体だけではなく、シトシンの酸化体も変異を引き起こし、がんの原因の一つになっている可能性を示しています。   今後の展開 今後は、他の損傷塩基の変異の生成機構を解明していきます。本研究の成果は、がん化の機構を理解し、それを抑制する方法の開発につながると期待されます。   参考資料 論文題目:Mutagenicity of 5-hydroxycytosine in human cells 著者名:Tetsuya Suzuki , Ann Hirota , Shigenori Iwai , Hiroyuki Kamiya*(*責任著者) 掲載誌:Mutagenesis 2月2日付でオンライン掲載されました。以下は論文のリンク先です。 https://doi.org/10.1093/mutage/geag004 用語解説 (※1)変異とがん:遺伝情報を担っているDNAはアデニン・チミン・グアニン・シトシンの4文字(塩基)からなり、この並びが遺伝情報です。がんに関連する遺伝子(がん遺伝子やがん抑制遺伝子)の遺伝情報の変化(変異)が複数回生じることで、がんが生じます。   (※2)グアニンの酸化体:種々のグアニンの酸化体が生成しますが、8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)は代表的なものであり、重要なDNAの損傷の一つと考えられています。   (※3)5-hydroxycytosine:下の図の左に描いた構造を持ち、六員環(六角形の部分)から出ているHO– がhydroxyと呼ばれる部分です。   報道発表資料(229.33 KB) 掲載ジャーナル:Mutagenesis 研究者ガイドブック(紙谷 浩之 教授)   ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院医系科学研究科 教授紙谷 浩之 TEl:082-257-5300FAX:082-257-5334 E-mail:hirokam@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4383 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp

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    2025.09.24
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    ドナー肝臓由来ナチュラルキラー(NK)細胞を用いた肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法

    アピールポイント 通常は採取不可能な肝内在性NK細胞を用いた抗癌免疫細胞療法を開発した 肝内在性NK細胞は抗腫瘍分子TRAILを発現し、肝細胞癌に対する抗腫瘍活性が高い 本治療は有害事象が少なく、進行肝細胞癌の肝移植後再発を抑制する効果が期待できる   研究者のねらい 肝細胞癌は、2023年統計で5番目に多い癌である。肝硬変に合併する肝細胞癌に対する唯一の根治治療は肝臓移植であるが、再発率が10-20%であるにもかかわらず有効な術後補助療養や治療法がないのが現状である。肝臓内には、他の部位とは異なる特殊なリンパ球が存在している。特に、肝内在性ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍の増殖や感染症の拡大を防ぐ重要な役割をして担っており、TRAILと呼ばれる抗腫瘍分子を発現して、肝細胞癌を効率よく殺傷する。我々は、ヒトの肝臓内から採取した後サイトカイン刺激することによって強力な抗腫瘍活性を有する肝内在性NK細胞を用いた、肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法を開発した。   研究内容 TRAIL活性低下による肝腫瘍増殖、TRAIL陽性肝内在性NK細胞投与により腫瘍が縮小 B6マウスの門脈から肝臓を灌流したリンパ球中のNK細胞上に表出する抗腫瘍分子(TRAIL; TNF-related apoptosis inducing ligand)をフローサイトメトリーで解析した。70%肝切除後、3日目にはTRAIL発現が著明に低下した。   B6マウスの門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した1週間後の肝臓内腫瘍増殖を解析した。無処置マウスに対して、70%肝切除マウスは有意に、肝臓内腫瘍増殖が増加した(n=4)。​   70%肝切除マウスに対して、門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した後に、活性化肝内在性NK細胞を5×105個尾静脈から投与すると、肝臓内腫瘍の増殖は抑制された。​(Ohira M, Ohdan H, Transplantation 2006)   ヒト肝灌流液由来肝内在性NK細胞の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性​ NK細胞の割合は、肝臓内で46.4%、末梢血で21.9%。サイトカイン刺激でNK細胞上TRAILは肝臓内で65.8%、末梢血で29.6%であった。(n=7)​ サイトカイン刺激後の肝内在性NK細胞の抗腫瘍活性は、有意に高い。​ 中分化型・低分化型肝癌はDeath receptor(DR4, DR5)は強発現、Decoy receptor(DcR1, DcR2)は発現なし。TRAIL感受性のある癌腫と言える。​   ドナー肝由来NK細胞療法の臨床試験結果​ 肝移植時のドナーグラフト肝臓灌流液からリンパ球を抽出して、サイトカインで3-5日間刺激培養を行う。投与1日前に、抗CD3抗体を添加してT細胞除去を行い、肝臓移植後のレシピエントに経静脈的投与を行う治療法。​   肝移植後3日目と7日の末梢血単核球の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性。NK療法群で有意に増加している(n=7; NK, n=5; non-NK group)   NK療法を行ったレシピエントの末梢血NK細胞のキメラ率推移。ドナー由来のNK細胞は最長1ヶ月確認可能。   広島大学で24例の生体肝移植に対して第1相試験を実施。投与に関連する重篤な有害事象はなく安全性は確認された。肝細胞癌に対する生体肝移植後の無再発生存率は、背景をプロペンシティマッチで揃えた11例ずつで比較した場合、NK療法群が有意に良好であった。​   今後の研究開発計画 治験第2相以降の臨床試験の計画実施、承認申請(日本、海外)、培養効率改善に向けた製造法の​ スクリーニング・最適化、保存・輸送条件の最適化(事業化可能な条件設定)、細胞製品の製造・流通・販売、他の癌腫への応用​   関連情報 代表的な特許:肝臓内NK細胞活性を増強する培養方法の開発(特願2025-130828)​ 代表的な論文:Ohira M, Ohdan H, et al. Cancer Immunol Immunother 2022​ 企業に望む事:臨床試験や承認申請に必要な製造・保存輸送技術の最適化を担い、細胞製品の事業化を推進してほしい。​ 研究者 大段秀樹(Ohdan Hideki) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    ヒトの腫瘍微小環境と治療への反応を再現する新規マウス大腸がんモデルの確立とその応用​

    アピールポイント マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つプロモーター配列(CDX2P-9.5kb)を発見しました。​ CDX2Pを応用してヒトの右側結腸癌と左側結腸癌を再現する大腸癌マウスモデルを確立しました。​ ヒトの大腸癌分子サブタイプ(CMS)を再現した高度浸潤癌と粘液癌マウスモデルを作成しました。​ 薬剤のスクリーニングに有用な治療抵抗性高度浸潤型大腸癌マウスモデルを作成しました。   研究者のねらい 大腸癌は罹患数,死亡者数が多く対策が急務で、特に治療抵抗性大腸癌に対する新規治療薬の開発は重要な課題である。大腸癌は、4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)、それを改良したIMF分類のiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とし最も予後不良なサブタイプで有効な治療薬が未だ無い。​   私共は独自の大腸上皮細胞特異的コンディショナル複合的遺伝子改変マウスの技術を使って、CMSサブタイプを再現するマウスモデルを確立してきた。このうち治療抵抗性で予後不良なiCMS3サブタイプを再現する高度浸潤型のApc+Ptenマウスモデルを使って、大腸癌に対する新規化合物や抗体薬のスクリーニングや治療効果を評価する共同研究を提示する。 研究内容​ 私共は、大腸癌関連遺伝子として腸上皮の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による遠位大腸に腫瘍が好発する大腸浸潤癌マウスモデル(CPC-Apcマウス、左側結腸癌モデル)を確立した。 ​   このモデルをさらに改良してMSI発現誘導型のCreマウスCDX2P-G22Creマウスを作成してApc欠損させたところ、近位大腸に腫瘍が発生する大腸癌浸潤癌モデル(G22Cre-Apc)を作成することができた(図1)。​   いずれも12ヶ月経過観察をして、浸潤癌の発生率が17%で生存期間中央値が160日であるため、浸潤癌の治療効果を検証するには不十分と思われた。​   私共は、Apcに変異を持つCPC-APCマウスに別のドライバー遺伝子(Kras, Braf, Tgfbr2, Ptenなど)組み合わせた遺伝子変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作成し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤癌(CMS3)や粘液癌(CMS4)などの分子サブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できた(図2)。   Apc+Ptenマウスは予後不良(図3,4)の高度浸潤癌が発生するが、PI3K-PTENシグナルの標的分子に対する阻害剤が著効する(図5)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性の大腸癌や高度浸潤型の大腸癌に対して、抗腫瘍効果を持つ新規化合物や抗体薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われる。 想定される用途・応用先 私共が開発したヒト高度浸潤型大腸癌のプロファイルを持つマウスモデルを用いることで、治療抵抗性大腸癌に高頻度で認められるPI3K-PTENシグナルを標的とした新規化合物や抗体薬のスクリーニングならびに大腸癌の浸潤やがんの微小環境に作用する薬剤の治療効果を評価するために有用なマウスモデルである。評価方法についてもマウス用の大腸内視鏡を使う評価方法から、腫瘍から確立したオルガノイドを使った細胞培養実験での評価も可能である。​   関連情報 代表的な論文:​ Hinoi T, Fearon ER et al. Cancer Res. 2007 Oct 15;67(20):9721-30.​ Akyol A, Hinoi T, Fearon ER et al. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):231-3​ Kochi M, Hinoi T e al. Cancer Sci. 2020 Oct;111(10):3540-3549​ Itakura H, Hinoi T, Yamamoto H et al. iScience. 2023 Mar 23;26(4):106478​ 企業に望む事:私共の作成したマウスモデルを使って大腸癌の治療開発や薬剤スクリーニングについての共同研究や競争的資金の獲得   研究者 檜井孝夫 広島大学 病院(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    難治性がんを克服するがん抗原提示細胞化mRNA療法の開発​

    アピールポイント 難治固形がんを対象とした腫瘍内投与型mRNA-LNP治療薬 ​ がん細胞を抗原提示細胞様にリプロラミングし、腫瘍内部でT細胞性免疫監視を誘導​ ①高い有効性 ②煩雑な操作不要 ③ユニバーサル ④効果持続性 ⑤低い副作用 ⑥免疫療法併用で効果   研究者のねらい 1,有効な治療が存在せず5年生存率が20%以下の難治がんに対し、新たな治療法を開発する。​   2 ・がん細胞は免疫細胞によって認識され、攻撃される。​ ・ただし、免疫細胞を活性化できるのは、免疫細胞によって認識される目印をもったがん細胞だけである。​ ・この性質を「がんの免疫原性」と呼ぶ。​   3,「がんの免疫原性」低下は予後不良因子 ・体内にがんができても免疫が機能していれば、がん細胞が排除され「がん」を発症しない。しかし、「がんの免疫原性」が低下すると、T細胞の働きが弱まりがんを発症してしまう。​   ・免疫細胞であるT細胞が腫瘍内部に活発に浸潤している高免疫原性がんと比較して、T細胞浸潤がほとんどみられない低免疫原性がんは、様々ながん種において特に予後が悪い。​   ・がんの免疫原性を上昇させれば,難治がんであっても治療できる可能性が高まる。​ 研究内容 1,既存の免疫療法の課題 ・これらはいずれもT細胞や樹状細胞などの免疫細胞を活性化するものであり、がん細胞に対して直接作用するわけではない。​   ・低免疫原性の難治がんでは、免疫細胞が認識する目印が消失しており、そのためがん細胞が隠れて見えない状態となっている。これでは、免疫細胞をいくら活性化しても高い治療効果を発揮できない。​   2,抗原提示細胞化mRNAの導入による抗原提示細胞化​ ①この問題を解決する手段として、腫瘍内部にLNP化したmRNAを導入する。​   ②mRNAが導入されたがん細胞は、mRNAの効果によってがん細胞が免疫細胞のように変化し、免疫反応を引き起こせるようになる。​   ③その結果、がんを認識するT細胞が選択的に活性化して増殖し、腫瘍内部からがんを攻撃できるようになる。​   ④さらに、がんのバリアも解除されるため、既存の免疫療法を併用することで、さらに高い治療効果が期待できる。​   3,免疫監視誘導mRNA-LNPの構造と外観 ヒトに感染するEBウイルスの研究から、特定のEBウイルス遺伝子が免疫細胞を強力に活性化してがんを抑制することを見出し、学術雑誌に発表 (1-4)。   4,免疫監視誘導mRNA-LNPの腫瘍縮小効果​ ・これまでに2タイプのmRNA-LNP(1. EBウイルス遺伝子型 (HMR-001); 2. ヒト転写遺伝子型 (HMR-002))を開発し、がん細胞を免疫細胞へとリプログラミングすることに成功。​   ・ mRNA-LNPを腫瘍に投与することで、劇的な腫瘍縮小効果を確認した。​   ・さらに、人にとって異物であるウイルス由来の遺伝子を用いる代わりに、人の遺伝子である2種類の転写因子を用いることでも同様の効果が得られることを発見。以上、論文投稿中のためデータ非公開。​   ・これらの技術はいずれも基礎特許出願済み。   5,先行技術と比較した優位性​ ・がん細胞を抗原提示細胞に変化させる新規作用機序で、世界初の技術​   ・従来の免疫療法が奏功しない腫瘍にも効果​   【優位性】​ ①寛解が望めるがん治療効果​ ②前培養など煩雑な操作が不要​ ③オーダーメイドではないため診断を受けたがん患者に迅速に使用可能​ ④免疫記憶を誘導するため長期的効果が期待​ ⑤腫瘍に限定したデリバリーであり、副作用がでにくい   想定される用途・応用先 【対象とするがん】​ ・難治性固形がん:特にステージ3-4胃がん、スキルス胃がん ・対象とするがん種を今後拡大予定​   【投与方法】 ・腫瘍内投与(内視鏡手術や腹腔鏡下手術が可能ながん種) ・チェックポイント阻害剤など既存治療との併用を想定​   関連情報 【関連特許】 発明の名称 : ウイルス由来遺伝子発現による抗腫瘍免疫誘導方法​   【その他】 ・AMED次世代がん事業・PSI GAPファンド事業​ ・事業化推進機関:広島ベンチャーキャピタル、パートナーズファンド​ ・2025-2026年度計画:ヒトがん検体を用いたin vitro, in vivo POC取得、​ mRNA持続期間延長の検証、有効性向上させる併用薬剤の検討など​ ・治験薬製造:広島大学PSI GMP教育研究センター​   【関連特許】 Yamane et al. 投稿中​ Jin, Y. et al. Front. Immunol., 2025​ Tamura et al. Front. Immunol., 2024​ Li, X. et al. Sci. Immunol., 2024​ Wirtz, T. et al. PNAS, 2016​ Zhang, B. et al., Cell, 2012​   【企業への要望】 ・当研究室との共同研究開発に興味のある企業様を募集しております。​   研究者 保田朋波流(YASUDA TOMOHARU) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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