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    2026.01.21
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    強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト -半世紀使われてきたドニアック相図を超えて-

    概要 理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループの山岡人志客員研究員、富山県立大学工学部教養教育センターの谷田博司准教授、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のアイケ・シュヴィア助教(研究当時)、シブ・クマール助教(研究当時)、有田将司技術専門職員、島田賢也教授(同大学放射光科学研究所所長)、関西学院大学の山本義哉大学院生(研究当時)、水木純一郎教授、高知大学の田島史郎大学院生(研究当時)、小野寺健太大学院生(研究当時)、西岡孝教授らの国際共同研究グループは、奇妙な異方性(磁気秩序が磁化の起こりやすい方向に起きない)を備えた反強磁性秩序[1]を示す近藤半導体[2]Ce(Ru1-xRhx)2Al10において、伝導電子とセリウム(Ce)が持つ4f電子[3]との結合(c-f混成[4])の異方性を考慮した新しい相図[5]を提案しました。 本研究成果は、高温超伝導体、次世代メモリ、高効率エネルギー変換デバイス、次世代コンピュータなどへの応用が期待される強相関電子系化合物[6]の物性発現の理解と新物質開拓に貢献すると期待されます。 今回、国際共同研究グループは、近藤半導体であるCeRu2Al10とそのルテニウム(Ru)の一部をロジウム(Rh)で置換した物質について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインおよび理研放射光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」[7]の放射光を用いた実験を駆使し、電子構造を調べ、少量のRh置換により引き起こされた電子構造の質的な変化、すなわちリフシッツ転移[8]が生じることを見いだしました。また、公表から約半世紀が経過した今でもなお強相関電子系の基底状態を記述する最も基本的な概念である相図(ドニアック相図(Doniach phase diagram)[9])を発展させ、方位依存性を持った「羅針盤」としての新しい相図を提案しました。 本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(2025年12月24日付)に掲載されました。   新たに提案した異方的c-f混成を扱う高次元の相図   背景 物質の中には無数の電子が存在します。それらは相互に影響し合い、超伝導や磁気/電荷秩序といった相転移[10]を示します。物の性質を扱う物性物理において、相転移の研究は花形の一つです。元素の組合せや原子のナノ配列構造(結晶構造)の特徴を反映した種々の相転移が知られていますが、こうした基礎研究は、現代社会を支える基盤技術(例えば磁気メモリなど)につながっています。 近藤半導体CeM2Al10(M:遷移金属のRu、オスミウム(Os)、鉄(Fe)など、Al:アルミニウム)は直方晶[11]の化合物です(図1(a))。近藤半導体では、磁気秩序が生じることは通常期待されませんが、CeRu2Al10とCeOs2Al10では常識に反し、約30ケルビン(K:絶対温度の単位)で反強磁性(AFM:antiferromagnetic)秩序が生じます。この転移温度は、大抵のCe化合物と比べて数倍高いものです。また、反強磁性秩序でのCeの磁気モーメントの向き(磁気異方性)も異常で、通常の磁性体では期待されない方向を向いてしまいます。このように奇妙な反強磁性秩序のカギとして、特に伝導電子とCe 4f電子との結合(c-f混成)の異方性が指摘されてきました。しかし、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで山岡客員研究員らは、角度分解光電子分光(ARPES)[12]実験(図1(b))を行い、CeRu2Al10では確かにc-f混成が異方的であることを明らかにしました注1)。この結果は、CeRu2Al10で生じる奇妙な反強磁性秩序が遍歴性[13]を有すことを浮き彫りにし、当時提唱されていた理論モデルを支持する内容でした注2)。 図1 CeRu2Al10の結晶構造、ARPES実験のセットアップ (a)CeRu2Al10の結晶構造。結晶系は直方晶(黄色四角枠)。Ru-Al10から成るクラスタ(灰色)がac2次元面を成し、b方向に積層している。クラスタの中心にRu(白っぽい灰色)が、クラスタの隙間にCe(黒色)がいる。小さい球はAlを表す。 (b)ARPES実験の例。光速に近い速度で運動する電子が向きを変えるときに放出する放射光を単結晶試料に入射させて、光電効果で飛び出した光電子を検出器で捉える。図中左下に示すように、物質中では電子の占める軌道によって結合エネルギーが異なる。単結晶の方位を変えながら光電子のエネルギーと運動量を調べることで、3次元的な電子構造の情報を得ることができる。本研究では図中の角度θを±10度程度の範囲でデータを積分し、c-f混成の異方性に関する情報を得た。なお実験では、Ceの4d-4fの共鳴条件に相当するエネルギーである122電子ボルト(eV)の放射光を入射させて行った。   注1) H. Yamaoka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 124704 (2024). 注2) S. Hoshino and Y. Kuramoto, Phys. Rev. Lett. 111, 026401 (2013).   研究手法と成果 今回、国際共同研究グループは、CeRu2Al10のRuサイトを周期表でRuの一つ右隣にある元素Rhに一部置き換えたCe(Ru1-xRhx)2Al10について、ARPES実験を行いました。Ce(Ru1-xRhx)2Al10の最大の特徴は、CeRu2Al10の異常な磁気異方性を解消し、磁気モーメントが期待される通りの向きを向くようになることです。この劇的な変化は、わずか5%程度のRh置換で起こります。このとき同時に転移温度も若干下がりますが、依然として同程度に高い温度を維持します。ここでも、c-f混成の強度と異方性がカギとなることが指摘されてきましたが、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで国際共同研究グループは、CeRu2Al10およびCe(Ru1-xRhx)2Al10について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインBL-1でARPES実験を行い、c-f混成に異方性があることを見いだしました。さらに、理研放射光科学研究センターSPring-8のビームラインBL12XUとBL12B2において実施した分光実験とX線回折実験の結果を合わせて、電子構造の変化、いわゆるリフシッツ転移がRh置換によって起きていることを明らかにしました。 図2(a)と(b)は、ARPES実験のデータを各結晶軸について積分して得たスペクトルです。これによりc-f混成の強度の異方性を調べることができます。図を見ると、フェルミエネルギー[14]近傍のスペクトル強度が明らかに違います。また、強度の強い方向がRh置換で変化しています。これは、Rh置換によってc-f混成の強い方向が切り替わったことを、実験的に明瞭かつ端的に示す結果です。 図2 CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10の実験結果 ARPES測定のデータを、結晶のa、b、c軸方向に積分した図。「f1」と示した信号が強い場合にc-f混成が強い。CeRu2Al10ではc方向のc-f混成が強いが(a)、Ce(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではb軸方向に強いことが明瞭に分かる(b)。これは、リフシッツ転移がRh置換で生じたことを示している。こうしてわずかなRh置換により、c-f混成の強い方向が切り替わることを実験的に初めて明らかにした。 図3(a)は、強相関電子系化合物の特徴を説明するために約50年来用いられてきたドニアック相図の概念を、模式的に示したものです。c-f混成が弱い領域では電子は局在的(特定の原子などに強く束縛されている状態)で、局在的反強磁性秩序が生じます。一方c-f混成が強い領域では遍歴的(電子が特定の場所にとどまらず自由に動く状態)で、非磁性の重い電子状態[15]が実現します。両者の中間ではさまざまな異常が発現します。これは、電子の粒子性と波動性[16]の問題に直結します。図中の円はフェルミ面[14]の大きさを表し、円の大きい方がc-f混成の強い状態を示します。 図3(b)は、ドニアック相図の概念を拡張した理論モデルです注2)。局在的反強磁性秩序と重い電子状態の間に、遍歴的反強磁性秩序の領域が割り込み、局在的反強磁性秩序の領域とはリフシッツ転移で隔てられています。これにより、CeRu2Al10の示す反強磁性秩序の遍歴性や、Rh置換で生じるリフシッツ転移を理解できます。 図3 ドニアック描像におけるc-f混成強度と物質の性質の移り変わり (a)ドニアック相図の概念。c-f混成が弱い領域は局在的な反強磁性、強い領域は非磁性の重い電子状態。両者は量子臨界点で隔てられる。量子臨界点とは相転移が起こり物質の状態が大きく変わる場所。(b)拡張されたドニアック相図。中間に遍歴的な反強磁性の領域が割り込む。局在的な反強磁性の領域とは、リフシッツ転移で隔てられている。図中の円により、c-f混成が等方的であることを象徴的に示す。   CeRu2Al10のc-f混成が異方的であるにもかかわらず、ドニアック相図ではc-f混成が等方的に扱われているため(図3)、CeRu2Al10の性質をうまく捉えることができませんでした。そこで国際共同研究グループは、c-f混成の異方性を考慮したより高次元の新しい相図を作成しました(図4)。 図4 新たに提案した異方的c-f混成を扱うドニアック描像の模式図   c-f混成が強くなるにつれ、局在的な反強磁性からリフシッツ転移を経て遍歴的な反強磁性に相転移し、量子臨界点を経て非磁性の重い電子状態へ移行する点は、図3(b)で示した概念と共通する。しかし、c-f混成の異方性を含めることで、従来のc-f混成を等方的に扱う相図よりも、的確に物質の特徴を示すことができる。CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではc-f混成は異方的で、それぞれc方向、b方向にc-f混成が強いことが楕円で表現されている。45度に傾いた破線はc-f混成が等方的な状況で、従来のドニアック描像はこの線上に対応する。CeRu2Al10ではb方向とc方向での顕著なc-f混成の異方性のため、2次元に拡張した相図で示したが、一般により高次元に拡張することが可能である。   CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10では、いずれもc-f混成の強さが異方的で、かつ、その強い方向は、それぞれc軸方向、b軸方向と異なりました。そこで、横軸と縦軸にそれぞれc軸方向とb軸方向のc-f混成の強さを取ることで、c-f混成が異方的な場合でも、その状況をうまく扱うことができるよう、旧来の概念を高次元に拡張した新たな相図を提案しました(図4)。従来のドニアック相図の概念は、c-f混成の強さの観点では1次元的です。新しい相図上では45°斜めの破線の軸上に対応します。 CeRu2Al10はc軸方向のc-f混成が強いため、相図の右側の領域、すなわちc軸方向のc-f混成が強い領域に位置付けられます。このとき、c軸方向にc-f混成の強いことが、c軸方向(横方向)に長い楕円で象徴的に示されています。同様に、Ce(Rh0.9Rh0.1)2Al10では、b軸方向のc-f混成が強いので、相図の左上に、b軸方向(縦方向)に長い楕円で示されています。両者は青い破線で示すようにリフシッツ転移で隔てられていて、今回の実験のようにRhで置換することで、遍歴的反強磁性状態から局在的反強磁性状態へと移行します。その際、c-f混成の強い方向がc軸方向からb軸方向へと大胆に入れ替わる様子が、黄色い矢印で示されています。 c-f混成の強さが弱い場合(図4左下)、あるいは強い場合(図4右上)には、c-f混成の異方性が実質的に消失し、等方的と見なすことができます。その様子は、図3(a)と図3(b)でも示した円により、象徴的に示されています。いわば、CeRu2Al10およびその関連物質は、c-f混成の強い/弱い領域の狭間にあり、種々の異常な性質の起源は、まさにその狭間の世界が生み出したc-f混成の異方性に端を発すると考えることができるようになります。このように提案した新しい相図は、c-f混成の示す異方性を針に据えた、まさに「羅針盤」として機能します。   今後の期待 本研究で得られた知見は、強相関電子系化合物の特徴を記述する最も基本的かつ象徴的な概念を、実験結果に基づき質的に拡張したものです。強相関電子系化合物が示す多様な性質の理解を深化させ、現象の統一的な理解、新たな物質開拓と理論研究の指針を与えます。元をたどれば電子の粒子性・波動性といった量子力学の基本原理に深く関わる概念であることから、本知見のインパクトは物性物理にとどまらず、広く波及し、基礎・応用を含む幅広い分野で活用されることが期待されます。   論文情報 <タイトル> Itinerant to localized heavy electron magnetism in Ce(Ru1-xRhx)2Al10: a direction-dependent phase diagram beyond the Doniach phase diagram   <著者名> Hitoshi Yamaoka, Hiroshi Tanida, Eike F. Schwier, Yoshiya Yamamoto, Shiv Kumar, Masashi Arita, Kenya Shimada, Fumisato Tajima, Renta Onodera, Takashi Nishioka, Hirofumi Ishii, Nozomu Hiraoka, and Jun’ichiro Mizuki   <雑誌> Physical Review Letters   <DOI> 10.1103/hdcf-dycj   補足説明 [1] 反強磁性秩序 隣り合う電子のスピンが互いに反対向きに整列し、全体では磁化の出ない状態(スピンは、量子力学的性質で上向きか下向きの状態しか取れない。スピンの向きがそろうと磁石になる)。   [2] 近藤半導体 強い電子相関により低温でエネルギーギャップを生じ、半導体的振る舞いを示す物質群。ギャップの大きい場合は近藤絶縁体と呼ばれる。「近藤」という名称は、この性質の起源と密接に関係する「金属の電気抵抗極小現象」の謎を世界で初めて解明した日本人物理学者、近藤淳(こんどうじゅん)博士の名前に由来する。物理学の世界で、日本人の個人名が冠された物理現象として有名なものの一つ。   [3] 4f電子 電子の取り得る軌道のうち、軌道角運動量がL=3の状態の軌道を占める電子。セリウム(Ce)などの希土類元素では、空間的に非常に原子核に近い軌道にある4f電子が不対電子となり、磁性を担う。   [4] c-f混成 伝導電子(conduction electron)とf電子(f-electron)とが混ざり合う効果や、混ざり合った状態、あるいは単に伝導電子とf電子との相互作用などを指す。磁気秩序、近藤効果、重い電子状態などのさまざまな現象は、これに端を発する。   [5] 相図 温度、圧力、組成などの関数として物質がどのような相・状態にいるのかを示す状態図。   [6] 強相関電子系化合物 電子間の相互作用が強い物質のこと。この性質が顕著に現れたものに、高温超伝導体、重い電子状態などがあり、物性研究の大きな一分野を成す。   [7] 大型放射光施設「SPring-8」 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。   [8] リフシッツ転移 結晶構造が変わらず、電子構造が変化する特殊な転移。熱力学的な相転移([10]参照)とは趣を異にする。   [9] ドニアック相図(Doniach phase diagram) 磁性や重い電子状態を示す化合物において、c-f混成の強さを横軸に、温度を縦軸に取った相図で、c-f混成は等方的に扱われる。1977年にS.ドニアック博士が提案して以来、約50年にわたり用いられてきた。一般に、c-f混成を強くすると、磁性が消え、量子臨界点を超えて非磁性の重い電子状態に移行する。量子臨界点付近では、非自明な超伝導などの風変りな現象が数多く報告されている。   [10] 相転移 磁場や温度、圧力などの外場(外的要因)によって、別の状態へ移行すること。エネルギーの変化の仕方により、1次相転移と2次相転移がある。水の状態変化は1次相転移、反強磁性秩序などは2次相転移に分類される。   [11] 直方晶 七つの結晶系の一つ。直方体で、縦、横、高さの各辺の長さが異なる。それぞれの軸方向は、a軸、b軸、c軸方向としている。   [12] 角度分解光電子分光(ARPES) 単結晶に光を照射し、光電効果で生じた電子の強度とエネルギーを、結晶との方位を変えながら調べる手法。これにより、固体中の電子が持つエネルギーと運動量ベクトルの関係、すなわちバンド構造を直接知ることができる。ARPESはAngle-Resolved Photoemission Spectroscopyの略。   [13] 遍歴性 外殻電子は、その占有軌道の波動関数の空間分布から、所属していた原子近傍に局在するか、結晶中を遍歴する伝導電子と成るかで、大きく二つに分類される。Ceの4f電子は典型的に局在的であるが、わずかに遍歴性も備える。   [14] フェルミエネルギー、フェルミ面 電子を、波数空間上でエネルギーの低い状態から順に詰めたときに、占有する状態と占有しない状態とを分ける境界面(フェルミ面)およびそのエネルギー(フェルミエネルギー)。電子は、統計性の違いからフェルミ粒子に分類される。   [15] 重い電子状態 電子の見かけの質量(有効質量)が100~1,000倍にも増強したように振る舞う異常な金属状態。Ceやイッテルビウム(Yb)、ウラン(U)化合物などで見られる。   [16] 粒子性と波動性 電子のような量子力学的な粒子は、粒子としての性質とともに、波としての性質を持つ。物質の示す性質に深く関わり、量子力学の基本原理の一つである不確定性原理に端を発する。   研究支援 本研究は、広島大学放射光科学研究所のビームラインBL-1、BL-7、BL9A(課題番号:13-A-2、13-B-38、14-A-3、14-A-5、15-A-2、16AG-002、17AG-007、19BG002、21AG003)、SPring-8にある台湾ビームラインBL12XU、BL12B2(課題番号:2013A4251、2013A4255(NSRRC課題番号:2012-3-011))を用いて行われました。   【理化学研究所】強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト_HP.pdf(650.3 KB) 掲載ジャーナル:Physical Review Letters 研究者ガイドブック(島田 賢也 教授)   発表者・機関窓口 <発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせください。 理化学研究所放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループ 客員研究員 山岡人志(ヤマオカ・ヒトシ)   富山県立大学工学部教養教育センター 准教授 谷田博司(タニダ・ヒロシ)   広島大学放射光科学研究所 助教(研究当時) アイケ・シュヴィア(Eike F. Schwier) 助教(研究当時) シブ・クマール(Shiv Kumar) 技術専門職員 有田将司(アリタ・マサシ) 教授 島田賢也(シマダ・ケンヤ) (同大学放射光科学研究所所長)   関西学院大学 大学院生(研究当時) 山本義哉(ヤマモト・ヨシヤ) 教授 水木純一郎(ミズキ・ジュンイチロウ)   高知大学 大学院生(研究当時) 田島史郎(タジマ・フミサト) 大学院生(研究当時) 小野寺健太(オノデラ・ケンタ) 教授 西岡孝(ニシオカ・タカシ)   <機関窓口> 理化学研究所広報部報道担当 Tel: 050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp   富山県立大学事務局教務課情報研究係 Tel: 0766-56-7500 Email: johokenkyu@pu-toyama.ac.jp   広島大学財務・総務室広報部広報グループ Tel: 082-424-4518 Email: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   学校法人関西学院広報部企画広報課 Tel: 0798−54−6873 Email: kg-koho@kwansei.ac.jp   高知大学広報・校友課 Tel: 088-844-8643 Email: kh13@kochi-u.ac.jp

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    単層の氷の構造を初めて可視化 ― 渦状に並んだ水分子がつくるフェロアキシャル秩序を実証 ―

    本研究成果のポイント 鉱物中に閉じ込められた単層の水分子(単層氷)が研究の舞台 ハニカム格子上に並んだ水分子は室温で定まった方向を向かずに回転 低温で水分子が渦状に並んだ、フェロアキシャル秩序状態の新しい氷を発見   概要 静岡大学理学部の野村肇宏講師の研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教・有馬孝尚教授、岡山大学の小松寿弐千大学院生(当時)・木村純大学院生・甲賀研一郎教授、広島大学の長谷川巧准教授・荻田典男教授、高輝度光科学研究センターの中村唯我研究員、東京理科大学の石川孟講師、名古屋大学の矢島健准教授、東京大学物性研究所の松尾晶技術専門職員・古府麻衣子教授・廣井善二教授、芝浦工業大学の富田裕介教授、大阪大学の松尾隆祐名誉教授と共同で、2次元に閉じ込められた単層の水分子が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。 本研究では、2次元に閉じ込められた水分子の秩序構造を、放射光X線回折と分子動力学計算によって調べました。マーティアイトという鉱物中で、水分子はハニカム格子上に並んでおり、単層氷とみなすことができます。研究グループはこの単層氷が低温で渦状のモチーフを形成し、フェロアキシャル秩序と呼ばれる特異な秩序を示すことを明らかにしました。 この2次元氷の秩序構造は過去に予言されておらず、水という身近な研究対象がいかに複雑で謎に包まれた存在かを物語っています。2次元氷に関する知見は3次元氷を研究する礎となるものであり、今後人類が水に関する研究を進める上で重要なマイルストーンとなることが期待されます。 なお、本研究成果は、2026年2月13日に、アメリカ化学会の発行する国際雑誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 マーティアイトという鉱物中の水分子は、氷を一層だけ取り出して2次元に閉じ込めた、いわば単層氷とみなすことができます。本研究では、この単層氷が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。   背景 雪の結晶は六角形をモチーフとした形をとります。これは氷の結晶中で、水分子がハニカム格子上に整列した3次元構造をとるためです。それでは、極薄の氷を一層だけ取り出したときにどんな構造をとるでしょう?本研究はそんな単純な興味から始まりました。 研究グループはマーティアイト[martyite, Zn3(V2O7)(OH)2·2H2O]という層状の結晶構造を持つ鉱物に着目しました(図1)。マーティアイトのフレームワーク中で水分子はハニカム格子を形成しています。つまり、氷を一層だけ取り出して、それを2次元に閉じ込めたような状況が鉱物中で自然と実現しています。ハニカム格子上に配置された水分子は定まった方向を向くのではなく、面内をくるくる回転しています。これは幾何学的なフラストレーション*注1により、全ての水分子を同時に安定に並べることができないためです。マーティアイトを室温から冷却したときに、回転していた水分子がどのようにお互いを配慮しながら整列するかは容易には予測できません。 図1:3次元氷と2次元氷のハニカム格子(水分子の蜂の巣状配列)。マーティアイト中で回転する水分子がどう整列するかは非自明。   研究成果の内容 大型放射光施設「SPring-8」*注2のBL02B1で単結晶X線回折実験の結果、マーティアイト中の水分子の低温構造では、6個の水分子がまとまった渦状のモチーフ(六量体)を形成していることがわかりました(図2)。分子動力学計算を用いた単層氷のシミュレーションからも同様の水六量体が形成されることが明らかになり、マーティアイト中の水分子がたしかに単層氷とみなせることがわかりました。この水六量体では、水分子が電気分極を持つことから、電気双極子モーメントの渦が形成されることになります。このような多極子は電気トロイダルモーメントと呼ばれ、それらがそろった状態をフェロアキシャル秩序と呼びます。本研究から単層氷の安定構造がフェロアキシャル秩序であることが明らかになりました。 これまで20種類以上の氷の結晶構造*注3が報告されてきましたが、本研究で明らかになったフェロアキシャル秩序は理論的にも提案されたことがありませんでした。2次元に配置された水分子が作る渦状のモチーフは雪の結晶に劣らず美しく、自然の偉大さを再認識させられます。 図2:水分子のフェロアキシャル秩序と水六量体。渦状の電気双極子が電気トロイダルモーメントを作る。   今後の展望と波及効果 水分子がどのような安定構造をとるのかという問いは、氷・水・界面現象を理解する上で人類にとって不可避な問題です。それは氷が水に浮くことや、凍結した路面が滑るといった日常的な現象を理解する上でも重要な知見です。他方で、3次元氷の秩序は複雑かつ微妙な問題であり、人類が完全に理解したと言うには遠い状況です。本研究で明らかになった2次元氷の構造を足がかりに、水の理解が進展する可能性があります。   論文情報 掲載誌名: Journal of the American Chemical Society 論文タイトル: Ferroaxial order of the monolayer ice in martyite 著者: T. Nomura, S. Kitou, J. Komatsu, J. Kimura, K. Koga, T. Hasegawa, N. Ogita, Y. Nakamura,H. Ishikawa, T. Yajima, A. Matsuo, M. Kofu, O. Yamamuro, Z. Hiroi, Y. Tomita, T. Arima, T. Matsuo DOI: 10.1021/jacs.5c19407   研究助成 本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(22K14010, 23H04861, 24K06944, 24H01644, 24H01650, 25K00969)による助成を受けたものです。   用語解説 注1幾何学的なフラストレーション:格子の幾何学的配置のために、すべての相互作用を同時に満たせない状態。ハニカム格子上の水分子の場合、全てのペアで水素結合を形成することができず、不安定なペアが必ず存在してしまう。  注2大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。 注3氷の結晶構造:圧力と温度を制御することで多種多様な氷の結晶構造が出現することが知られている。これまでに20種類が確認されており、今後も増える可能性がある。   報道発表資料(512.72 KB) 掲載ジャーナル:Journal of the American Chemical Society 研究者ガイドブック(長谷川 巧 准教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 静岡大学理学部 講師・野村肇宏 (のむら としひろ) TEL : 054-238-4961 E-mail : nomura.toshihiro*shizuoka.ac.jp   (報道に関すること) 静岡大学 総務部 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室 TEL : 04-7136-5450 E-mail : press*k.u-tokyo.ac.jp   岡山大学 総務部 広報課 TEL : 086-251-7292 E-mail : www-adm*adm.okayama-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 TEL: 0791-58-2785 E-mail : kouhou*spring8.or.jp   東京理科大学 経営企画部 広報課 TEL : 03-5228-8107 E-mail : koho*admin.tus.ac.jp   名古屋大学 総務部 広報課 TEL:052-558-9735 E-mail : nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp   東京大学 物性研究所 広報室 TEL : 04-7136-3207 E-mail : press*issp.u-tokyo.ac.jp   芝浦工業大学 入試・広報部 企画広報課 TEL : 03-5859-7070 E-mail : koho*ow.shibaura-it.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2024.07.23
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    未利用の低温排熱から発電できる新規有機熱電変換材料

    背景 資源枯渇あるいは地球温暖化への対応のため、化石燃料に代わる太陽光、風力、水力、地熱などの自然エネルギー利用のニーズが高まる一方で、世界で消費されるエネルギーの内、約3分の2が未利用のまま排熱として捨てられており、この排熱の利用拡大が合わせて重要な課題となっている。 この排熱は80%以上が200℃以下の中低温排熱であり、温水供給など熱としての利用促進は図れているものの、利用先が限定的である。一部でも電力に変換できれば、利用価値は飛躍的に増す。 高温の熱源が得やすい化石燃料利用の場では、大容量化にも対応しやすい従来の熱サイクルのシステムが有効であったが、中低温排熱は周囲環境との温度差が小さいため電力への変換効率が低く、コスト的にも成立しない。 熱を電気に直接変換する熱電変換技術は、比較的小さな温度差、且つ小容量の熱源にも対応しやすくシステムがシンプルである等、メリットが大きい。 従来の熱電変換材料は、特殊で量産化にも不向きであったため、放射性同位元素の熱を利用する宇宙探査分野や人間の体温を利用する時計など、特殊な用途に限られていたが、現在の資源や地球環境の制約のなかで、その利用拡大のニーズは非常に高まっている。     熱電変換の原理 1.熱電変換材料の両端を高温(HOT)と低温(COLD)にさらすと、両端の温度差 (ΔT) に比例して電位差 (ΔV) が生じる。この比例定数をゼーベック係数 (S) と呼ぶ。Sの値が大きいほど大きな電位差を生じることができる。 2.電位差が生じると材料の中に電流 (I)が流れ、電力を生む。材料の電気伝導率 (σ) が大きいほど、多くの電流が流れ、大きな電力を得ることができる。 3.温度差があると材料の中に熱流 (J) を生じる。同じ電力を生み出すための熱量は少ない方が効率が良いので、材料の熱伝導率(κ)は小さい方がよい。     従来の熱電変換材料 これまでの材料は大半が金属化合物のため、希少金属やTeなど毒性のある元素を含む金属など、一般的な利用に不向きなものが多い。 作動温度が500K以上のものが多く、低温で使用可能な材料が限定的である。     有機化合物を用いた熱電変換デバイスの特長 一般的な元素からなる有機化合物であり原材料が安価 多様な反応設計により低毒性の材料創出が可能 豊富な埋蔵資源をもつ元素を利用可能 デバイスに軽量・柔軟性を付与可能 溶液プロセスにより安価な製造コスト実現が可能     期待される用途 工場や自動車から排出される200℃以下の中低温排熱を利用する発電 オフィスや家庭の電子機器の発熱を利用する発電 特殊環境に置かれる自立型機器における電力供給 など     新規有機熱電変換材料への要求性能 小さな温度差で大きな電位差の生成 大きな電力を得るための高い電気伝導性 少ない熱量で発電するための低い熱伝導性 使用環境における材料の耐久性・安全性 低い製造コスト     研究成果の内容 1)カーボンナノチューブ/導電性高分子複合体 新規熱電変換材料の候補として単層カーボンナノチューブ (SWCNT) があり、ゼーベック係数が比較的高く、電気伝導率も非常に高いが、熱伝導率が非常に高いため、単体での熱電変換性能は大きくない。 SWCNTを導電性高分子と複合化すると、熱伝導率 κ が0.5~0.7Wm-1K-1程度と高分子材料並みに極端に低下することがわかっている。 そこで、SWCNTと熱電変換材料として有望視されている導電性高分子(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸), PEDOT:PSS)の複合体を作り、電気特性を検討した。 図示のとおり、複合体において、SWCNTの割合を増やしていくと、電気伝導率 (σ)、ゼーベック係数 (S)、電力因子 (PF) の値は増加するが、70~80%程度の割合でピークとなり、それ以上では逆に低下することがわかった。 この複合割合において、複合体の電気伝導率 (σ) の値がSWCNT単体より高くなるのは、顕微鏡写真中にモデル化して示すように、 PEDOT:PSSがSWCNTの繊維の結節点に付着することにより接触点の電気抵抗が低下したことが考えられる。     2)有機化合物の自在な構造制御により新規高分子材料を創出 カーボンナノチューブと導電性高分子の複合体が優れた熱電変換特性を示すことがわかったので、次に、導電性高分子材料そのものの高性能化について検討した。 PEDOTは導電性に優れているものの、溶剤への溶解性が乏しく、また、分子量が低く製膜性に乏しいという欠点がある。 一方、ポリ(3-ヘキシルチオフェン) (P3HT) は溶解性・製膜性には優れているが、PEDOTに比べると導電性が低い。 これらの欠点を克服するため、PEDOTとP3HTの構成要素(モノマーユニット)を異なる割合で含む共重合体 (PE2HT, PE1HT) などの新規導電性高分子の開発に成功した。     3)ドーピング処理により新規高分子材料に電荷を注入 新規高分子膜に電荷を注入して、導電性を付与するための、電気化学的ドーピング処理システムを考案した。 対象高分子膜、電解質溶液、三つの電極(作用、参照、対)、電位を付加する二つのポテンショスタット、電流を測定するクーロメータからなる。 電極電位 (E1) を変化させることにより電荷の注入を制御する。そのとき、クーロメータにより注入電荷密度を定量する。 同時に対象高分子膜に電位差 (E2) を付加して、電流を測定することにより、高分子材料の電気伝導率をその場測定することができる。     4)電極電位によってドープ率および電気伝導率を制御 新たに合成したPEDOTとP3HTの構成要素(モノマーユニット)を異なる割合で含む共重合体について電気特性を測定した。 ドーピングの電極電位を高くするとドープ率(電荷を注入された分子の割合)が増加し、対応して電気伝導度も大きくなる。 モノマーユニットの割合や電極電位によってドープ率や電気伝導率を制御することが可能になる。   5)添加物とドープ率によって熱電変換特性を制御 P3HTやPEDOT: PSSの熱電変換特性についてもドープ率との相関を解析することに成功した。 ドープ率を増加させると電気伝導率は大きくなるが、逆に、ゼーベック係数は低下する。 PEDOT:PSSにおいてはエチレングリコール (EG) あるいはジメチルスルホキシド (DMSO) を添加すると、電気伝導率は大きくなるが、ゼーベック係数は低くなる。 熱電変換材料から得られる電気出力の指数となる電力因子 (PF) は、ドープ率増加とともに大きくなり、ドープ率10%近傍でピークとなる。 無次元性能指数 (ZT) も同様の傾向を示す。 電力因子や無次元性能指数の値は、電気伝導度 (σ) とゼーベック係数 (S) の値の相反関係に依存するため、最も高い性能を得るために、ドープ率の制御が非常に重要になることがわかった。     本研究の優位性 導電性高分子とカーボンナノチューブの複合体が示す特異な熱電変換特性を見出し、有機化合物を用いた熱電変換デバイスの高い可能性を示した。 多様な反応設計による自在な構造制御により、高性能な熱電換特性を示す有機高分子材料の候補を提案した。 合成した有機高分子材料に導電性を付与するドーピング処理において、熱電変換の特性をその場でモニターしながら処理が可能な新システムを提案した。 ドーピングの際の電極電位とドープ率により熱電変換特性が大きく変わることを示し、これらを制御することにより高い熱電変換特性を得ることができることを示した。     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :熱電変換材料の製造方法及び熱電変換材料 特許 :特許第7061361号 特許権者 :国立大学法人広島大学 発明者 :今榮一郎、播磨裕     論文 Imae, Ichiro; Ogino, Ryo; Tsuboi, Yoshiaki; Goto, Tatsunari; Komaguchi, Kenji; Harima, Yutaka, “Synthesis of EDOT-containing polythiophenes and their properties in relation to the composition ratio of EDOT”, RSC Advances (2015) 5(103), 84694-84702. Imae, Ichiro; Akazawa, Ryosuke; Harima, Yutaka, “Seebeck coefficients of regioregular poly(3-hexylthiophene) correlated with doping levels”, Physical Chemistry and Chemical Physics (2018) 20(2), 738-741. Imae, Ichiro; Koumoto, Takashi; Harima, Yutaka, “Thermoelectric properties of polythiophenes partially substituted by ethylenedioxy groups”, Polymer (2018) 144, 43-50. Imae, Ichiro; Shi, Mengyan; Ooyama, Yousuke; Harima, Yutaka, “Seebeck coefficients of poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrene sulfonate) correlated with oxidation levels”, Journal of Physical Chemistry C (2019) 123(7), 4002-4006. Imae, Ichiro; Akazawa, Ryosuke; Ooyama, Yousuke; Harima, Yutaka, “Investigation of organic thermoelectric materials using potential-step chronocoulometry: Effect of polymerization methods on thermoelectric properties of poly(3‐hexylthiophene)”, ournal of Polymer Science(2020) 58(21), 3004-3008. Imae, Ichiro; Yamane, Haruka; Imato, Keiichi; Ooyama, Yousuke, “Thermoelectric properties of PEDOT:PSS/SWCNT composite films with controlled carrier density”, Composites Communications (2021) 27, 100897 (6pp.). Imae, Ichiro; Uehara, Hirokii; Imato, Keiichi; Ooyama, Yousuke, “Thermoelectric properties of conductive freestanding films prepared from PEDOT:PSS aqueous dispersion and ionic liquids”, ACS Applied Materials and Interfaces (2022) 14(51), 57064-57069.     研究者からのメッセージ 研究者の有する「多様な反応設計による自在な高分子の構造制御技術」と「独自のドーピングシステム」を活用して、新規有機熱電変換材料のさらなる性能向上を目指す。このための基礎研究と実用化のための検討を企業との共同研究で進めたい。     研究者 今榮一郎(Imae Ichiro) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2024.06.17
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    絶対零度近くの温度を効率よく実現する新規磁気冷凍材料

    磁気冷凍の原理 ①磁気冷凍材料に磁場を印加すると、原子の持つ磁石(磁気モーメント)が整列して、材料の温度が Ti  に上昇する。 ② 放熱先(Ti より少し低い温度)に放熱する。 ③ 磁場を除去(消磁)すると、磁気モーメントの向きがバラバラになり、材料の温度が Tʄ  まで降下する。 ④ 冷却対象( Tʄ  より少し高い温度)から吸熱(対象物を冷却)が生じる。   磁気冷凍の特長 磁気冷凍材料への磁場のオン/オフだけで冷却が可能なためシステムが簡単であり、原理的に冷却効率が高い。 従来の気体冷凍サイクルでは到達困難な極低温までの冷却が可能となる。 オゾン層破壊や温室効果のある冷媒が不要であり、また、極低温域では高価で入手困難なヘリウム同位体などの冷媒が不要となる。   期待される用途 絶対零度近傍(~ 0.1K)レベル:量子コンピューター、極微量元素分析、ダークマター検出やX線天文学に有用   磁気冷凍材料への要求性能 絶対零度近傍での高い磁気冷凍性能(磁気熱量効果) 外界との吸・放熱を迅速に行うために高い熱伝導性 使用環境における材料の耐久性   研究の概要 (1)イッテルビウム系金属間化合物 YbCu4Ni に注目した イッテルビウム系金属間化合物YbCu4Niの特徴 化学的に安定であるため、扱いやすい。 熱伝導率が高いため、効率的に冷却能力を伝達可能である。 合金中のYb原子の割合が高く、単位体積当たりのエントロピー量が多いため、少量での磁気冷凍が可能である。 エントロピーの温度依存性 S (T ) より、磁場 8 Tで、1.8 Kから0.13 Kまでの冷却が期待できる。 (2)YbCu4Niの冷凍性能の基礎試験 1)目的 磁気冷凍材料YbCu4Niの最低到達温度の検証を目的とする。   2)装置構成(図参照) 試料(e)17gを輻射熱シールド(h)内に断熱保持させる。 全体を予備冷却用の市販冷凍機に搭載する。(冷凍機には磁場印加用の電磁石と排気装置付) 試料に温度センサーを接着し、温度を計測する。   3)試験手順 1)試料を市販の冷凍機により1.8Kまで予備冷却する。 2)磁場を印加(10T以下)、1.8 Kを保持する。 3)試料雰囲気を真空排気(10-4 Torr 以下)する。 4)0.6T/minの速度で消磁する。 5)試料の温度変化を計測する。   4)試験結果 初期印加磁場5T、8T、10Tの条件で、それぞれ最低到達温度0.22K、0.17K、0.16Kが得られた。 エントロピーの温度依存性から予測した最低到達温度0.18K(5T)、0.13K(8T)ともほぼ一致した。   (3)YbCu4Ni の大型合金の作製 1)目的 YbCu4Niの実用化のため、大型試料を作製し、冷却能力を向上させる。   2)作成方法および結果 1)高周波加熱炉において、YbとCu4Ni合金を、アルゴンガス雰囲気中で溶解する。 2)700℃で7日間アニール後、水中で急冷する。 3)69gの YbCu4Ni の大型インゴットを得ることができた。   (4)YbCu4Niの大型試料を用いた断熱消磁冷却試験 1)装置構成変更の内容(基礎試験装置を一部改造) 試料の断熱支持部分を、グラファイト棒から熱伝導率の低いストローに変更した。 試料を17gから53gに大型化した。   2)試験手順:初期磁場 8 T、初期温度 1.8 K、消磁速度 0.6 T/minの条件で冷凍実験を行う。 1)磁場8 Tを印加する。 2)試料を市販の冷凍機により、1.8Kまで予備冷却する。 3)試料雰囲気を真空排気する。 4)0.6 T/minの速度で消磁する。 5)試料の温度変化を計測して、基礎試験結果等と比較する。 3)試験結果 大型試料を用いることにより、断熱性を向上させ、0.3 K以下の極低温状態を3時間以上保持できることを実証できた。 A:基礎試験と同じ装置 B:基礎試験装置の断熱支持部分をグラファイト棒からストローに変更した装置 C:ストローおよび大型試料を使用した装置   本研究の優位性 以下の特長をもつ新規磁気冷凍材料YbCu4Niを見出し、実際に材料を試作し、磁気冷凍能力を実証した。 絶対零度近傍までの磁気冷凍(断熱消磁冷却)が可能である。 熱伝導率が高く、迅速な吸放熱が可能なため実用性が高い。 化学・物理的に安定である。 磁気冷凍に有効なイッテルビウム原子の割合が高い結晶構造のため、単位体積当たりのエントロピーの総量が大きく、少量でも冷却可能である。 高価あるいは希少な元素を使用していない。     想定される用途 量子コンピューター 極微量元素分析 ダークマター検出およびX線天文学 量子物性物理学     論文 Journal of Applied Physics, 131 013903 (2022),“Magnetic refrigeration down to 0.2K by heavy fermion metal YbCu4Ni”Yasuyuki Shimura, Kanta Watanabe, Takanori Taniguchi, Kotaro Osato, Rikako Yamamoto, Yuka Kusanose, Kazunori Umeo,  Masaki Fujita, Takahiro Onimaru, Toshiro Takabatae     研究者からのメッセージ 磁気冷凍材料の組成の調整による性能向上や、新たな磁気冷凍材料の探索および、社会実装を目指した大型化や形状の工夫、冷却システムの開発を、材料製造や冷凍機製作を行う企業と共に共同研究を進めたい。   研究者 志村恭通(SHIMURA YASUYUKI) 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2023.12.13
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    三原色発光するシリコン量子ドットフィルム

    量子ドットの特徴 量子ドットとは、大きさが数ナノメートルの発光性の半導体ナノ結晶であり、次のような特徴がある。 1)粒子サイズによりフルカラー発光 2)高効率発光 3)極採色(狭い発光幅で有機ELの3-4倍の色域) 4)溶液プロセスによる低温・大気圧でのデバイス製造   背景 米国の調査会社(グローバルインフォメーション)によると、量子ドットの市場規模は2026年に86億ドルに到達と試算されている。 量子ドットは夢の光材料とよばれ、最近、量子ドットの大画面TVやタブレットが市場に出回り始めているが、現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題がある。 本研究グループは、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いた量子ドットの研究を進めており、これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率0.1%と比較すると飛躍的に高い。これまでに、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)なども報告してきた。 この度、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムの作製、加速劣化試験を行い、更に、発光と劣化の機構を解明した。     研究の詳細 光の三原色で発光するSi量子ドット(SiQD)フィルムを作成し、太陽光照射、熱水への浸漬(80℃、湿度100%)の加速劣化試験で評価した。 成果の概要は次の通りである。     概要1三原色発光する溶液分散型SiQDを合成 三原色(赤・青・緑)発光する溶液分散型SiQDを、それぞれ異なる手法で化学合成した。(図1) それぞれの発光ピークの波長は、赤(660 nm)、緑(530 nm)、青(400 nm)であった。 発光効率(発光量子収率)は、赤(34%)、緑(20%)、青(12%)であった。 SiQDの表面は異なる官能基で化学修飾され、赤(炭化水素基)、緑(アミノ基)、青(シロキサン基:Si-O-Si結合)である。     概要2三原色発光するSiQDフィルムを作成 得られたSiQD溶液を、それぞれ高分子フィルムに分散し、赤・青・緑発光するSiQDフィルムを得た。 このSiQDフィルムは、フレキシブルで伸縮性を有する。(図2)     概要3SiQDフィルムの耐久性評価【太陽光への暴露試験】 赤・緑色発光のSiQDフィルムは、太陽光に照射後6hで、発光強度が急減し、安定した発光になった。青色シリコン量子ドットは8日間の太陽光照射に対し、発光強度(発光量子収率)の劣化は少なく、80%の発光強度が保たれた。(図3) 太陽光照射への耐久性は、量子ドットと高分子フィルム、それぞれの光吸収特性に依存しており、劣化のメカニズムは、化学修飾基の結合切断と考えられる。     概要4SiQDフィルムの耐久性評価【熱水への浸漬試験】 青色SiQDフィルムを、80℃の熱水に12日間浸漬する加速劣化試験を行った。(図4) 12日間の発光強度の劣化は15%程度で、驚異的な耐久性を示した。 青色SiQDの高い耐久性は、表面の強固なシロキサン結合によると考えられる。 青色SiQDフィルムを80℃の熱水へ浸漬すると、発光量子収率が上昇した。これは、未反応の表面官能基の後続反応によるシロキサン結合の増加によると考えられる。 熱水耐久性試験において、シリコーンエラストマー系よりフッ素樹脂系ポリマーの母材で、高い耐久性が観測された。     概要5発光メカニズム SiQDの発光と粒子サイズの関係について、本研究の結果と過去の文献データを比較した。(図5) 図中においてデータは、発光メカニズムの違いにより、上下二つのデータ群に分かれている。 上部は表面効果(量子ドットの表面に結合した官能基が新しい発光準位を作る)による発光、下部は量子閉じ込め効果(粒子がナノサイズになると同じ物資でも発光色が変わる)による発光である。曲線(赤色)は、量子閉じ込め効果に対応する理論計算(有効質量近似)の結果を示す。 この結果から、本研究で得られた赤色SiQDの発光は量子閉じ込め効果、緑色SiQDと青色SiQDの発光は表面効果によるものと考えられる。       本研究の優位性 現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題があるのに対し、本研究では、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いている。 これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率01%と比較すると飛躍的に高い。また、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)など、一連の研究成果を出している。 本研究は、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムを実際に作製して、その発光特性を明らかにしたうえで、加速劣化試験を行い、耐久性の評価まで行っている。     期待される用途 安全・安心・安価な発光体ならびにフレキシブル発光フィルムとして、マイクロLED、VR、AR、折り曲げディスプレイ、照明、生医学イメージングの他、超高効率太陽電池(量子ドット太陽電池)での利用が期待される。     実用化に向けての課題 より広範な波長・色の実現、発光効率の上昇、耐久性の向上 三原色SiQDのLEDへの搭載     企業への期待 実用化に向けた課題解決のための共同研究 実用化に向けたシステムの概念設計とフィージビリティスタディ     本技術に関する知的財産権 発明の名称:シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、及びそれらの製造方法 出願番号:特願2020-154517 公開番号:特開2022-048615 出願人:国立大学法人広島大学 発明者:齋藤健一     論文 Stability of Silicon Quantum Dots Against Solar Light/Hot Water: RGB Foldable Films and Ligand Engineering Keisuke Fujimoto1, Toma Hayakawa2, Yuping Xu1, Nana Jingu3, and Ken-ichi Saitow*1-4 1.広島大学 大学院理学研究科(化学専攻) 2.広島大学 理学部(化学科) 3.広島大学 大学院先進理工系科学研究科(化学プログラム) 4.広島大学 自然科学研究支援開発センター(研究開発部門物質科学部) * 責任著者   掲載誌:2022年11月6日発刊のアメリカ化学会のサステナブル化学の学術誌ACS Sustainable Chemistry & Engineering (IF=9.224)で公開。以下は論文のリンク先。(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.2c03791)     研究者からのメッセージ 量子ドットは,2023年のノーベル化学賞の受賞テーマです。私のところにも多くのメディアから問い合わせを頂きました。量子ドットの利用は,蛍光体,LEDはもちろんのこと,バイオマーカー,医薬品,太陽電池,光触媒など非常に多岐にわたります。これはノーベル財団の公式プレスリリースでも発表されています。これまでの量子ドットは,レアメタルまた重金属系の量子ドットでしたが,環境問題が益々重要となる現在,また生体適合性の視点からも,シリコン製量子ドットの重要性は大変高くなることでしょう。企業の皆様と共同研究を行い,その成果をもとに実用化へつなげ,世界へ量子ドットとそのデバイスを供給できる日が一日でも早く来ることを,願ってやみません。     研究者 齊藤一彦(SAITO KAZUHIKO) 広島大学 大学院人間社会科学研究科 教授

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