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    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.16
    • 医療/ヘルスケア
    がん患者が抱える倦怠感「がん関連疲労」に対し、 刺さない鍼治療「接触鍼法」が有効であることがわかりました。

    本研究成果のポイント がん患者の多くが経験する「がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対し、身体に鍼を刺さずに行える鍼治療「接触鍼法(K-style CNT)」の有効性と安全性を、世界で初めて確認しました。   概要 広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授(研究代表者)らの研究グループは、全国5施設の緩和ケア科と共同で行った臨床研究において、接触鍼法(K-style CNT)が、がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対しに有効であることを明らかにしました。この成果は、The Multinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)の国際誌Supportive Care in Cancer (2026年2月19日号) に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   背景と目的 「がん関連疲労」とは、がん患者の多くが経験する、休息や睡眠をとっても改善しない持続的で不快な全身倦怠感や疲労感のことです。日常生活に支障をきたすほど強力なだるさ、やる気の低下、身体の消耗感が特徴で、がん治療(化学療法、放射線など)やがんそのものによる慢性的な炎症が主な原因です。 「がん関連疲労」の回復には、適度な運動や睡眠、バランスの良い食事等の方法がありますが、これらに加わる新しい方法が求められています。 本研究では、通常の身体症状に対する治療に加えて鍼治療を用いることにより、症状の改善、QOL(生活の質)の改善に結び付くかどうかを検討する目的で、鍼治療を行い、その臨床的有効性と安全性について、患者の自覚症状と他覚的な評価を指標として、前向きに検討しました。 今回は鍼治療の一種である「接触鍼法」を行いました。「接触鍼法」とは、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する、刺さずに行える鍼治療のことです(図1)。刺激するツボは、天枢(へそから指3本分外側に位置するツボ)、中脘(胸骨の下端とへその中間に位置するツボ)、関元(へそから指4本分下に位置するツボ)を中心とし、その他に患者さんの状態に合わせて他のツボを組み合わせ、数か所刺激して行います。鍼を皮膚に刺入せず、肌の表面に軽く接触させて刺激を与えるという施術で、刺さないので痛みはなく、肌にも優しいのが特徴です。 図1接触鍼 接触鍼は一般的な鍼治療と異なり、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する治療   方法と結果 がん患者121名をA群 接触鍼施行群とB群 接触鍼非接触のプラセボ群にランダムに割付け、A群の患者に通常治療と並行して週1回接触鍼治療を4週間行い、倦怠感に関する自覚症状のアンケートや検査を通じて、がんの倦怠感スケール(CFS)スコア、疼痛、唾液アミラーゼ値の数値評価スケール(NRS)スコア等の評価を行いました。 4週時点での重回帰分析ではSTAS-J でCNTに有意な治療効果が認められました(図2) 唾液アミラーゼ活性の変化は、交感神経系の活性化とストレス反応の生理学的マーカーです。この結果は接触鍼が患者の苦痛の生理学的側面と心理的側面の両方に影響を及ぼす可能性を裏付けています(図3)。 図24週間にわたる評価スケジュール-日本語版(STAS-J)の変化 対照群(a)および鍼治療群(b) (STAS-J)スコア。 図3接触鍼治療群と対照群における 2週間後の唾液アミラーゼの個別変化   論文情報 論文タイトル:Effect of contact needle technique on cancer‑related fatiguein palliative care patients: a randomized controlled trial 著者:Keiko Ogawa-Ochiai、MD、 PhD(広島大学病院 漢方診療センター)ほか 掲載誌: Supportive Care in Cancer doi:https://doi.org/10.1007/s00520-026-10430-6   報道発表資料(417.07 KB) 掲載誌:Supportive Care in Cancer 研究者ガイドブック(小川 恵子 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学病院 漢方診療センター 教授小川 恵子(おがわ けいこ) E-mail:okeiko22@hiroshima-u.ac.jp TEL:082-257-1921(内線 6921)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.25
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2026.02.20
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    単層の氷の構造を初めて可視化 ― 渦状に並んだ水分子がつくるフェロアキシャル秩序を実証 ―

    本研究成果のポイント 鉱物中に閉じ込められた単層の水分子(単層氷)が研究の舞台 ハニカム格子上に並んだ水分子は室温で定まった方向を向かずに回転 低温で水分子が渦状に並んだ、フェロアキシャル秩序状態の新しい氷を発見   概要 静岡大学理学部の野村肇宏講師の研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教・有馬孝尚教授、岡山大学の小松寿弐千大学院生(当時)・木村純大学院生・甲賀研一郎教授、広島大学の長谷川巧准教授・荻田典男教授、高輝度光科学研究センターの中村唯我研究員、東京理科大学の石川孟講師、名古屋大学の矢島健准教授、東京大学物性研究所の松尾晶技術専門職員・古府麻衣子教授・廣井善二教授、芝浦工業大学の富田裕介教授、大阪大学の松尾隆祐名誉教授と共同で、2次元に閉じ込められた単層の水分子が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。 本研究では、2次元に閉じ込められた水分子の秩序構造を、放射光X線回折と分子動力学計算によって調べました。マーティアイトという鉱物中で、水分子はハニカム格子上に並んでおり、単層氷とみなすことができます。研究グループはこの単層氷が低温で渦状のモチーフを形成し、フェロアキシャル秩序と呼ばれる特異な秩序を示すことを明らかにしました。 この2次元氷の秩序構造は過去に予言されておらず、水という身近な研究対象がいかに複雑で謎に包まれた存在かを物語っています。2次元氷に関する知見は3次元氷を研究する礎となるものであり、今後人類が水に関する研究を進める上で重要なマイルストーンとなることが期待されます。 なお、本研究成果は、2026年2月13日に、アメリカ化学会の発行する国際雑誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 マーティアイトという鉱物中の水分子は、氷を一層だけ取り出して2次元に閉じ込めた、いわば単層氷とみなすことができます。本研究では、この単層氷が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。   背景 雪の結晶は六角形をモチーフとした形をとります。これは氷の結晶中で、水分子がハニカム格子上に整列した3次元構造をとるためです。それでは、極薄の氷を一層だけ取り出したときにどんな構造をとるでしょう?本研究はそんな単純な興味から始まりました。 研究グループはマーティアイト[martyite, Zn3(V2O7)(OH)2·2H2O]という層状の結晶構造を持つ鉱物に着目しました(図1)。マーティアイトのフレームワーク中で水分子はハニカム格子を形成しています。つまり、氷を一層だけ取り出して、それを2次元に閉じ込めたような状況が鉱物中で自然と実現しています。ハニカム格子上に配置された水分子は定まった方向を向くのではなく、面内をくるくる回転しています。これは幾何学的なフラストレーション*注1により、全ての水分子を同時に安定に並べることができないためです。マーティアイトを室温から冷却したときに、回転していた水分子がどのようにお互いを配慮しながら整列するかは容易には予測できません。 図1:3次元氷と2次元氷のハニカム格子(水分子の蜂の巣状配列)。マーティアイト中で回転する水分子がどう整列するかは非自明。   研究成果の内容 大型放射光施設「SPring-8」*注2のBL02B1で単結晶X線回折実験の結果、マーティアイト中の水分子の低温構造では、6個の水分子がまとまった渦状のモチーフ(六量体)を形成していることがわかりました(図2)。分子動力学計算を用いた単層氷のシミュレーションからも同様の水六量体が形成されることが明らかになり、マーティアイト中の水分子がたしかに単層氷とみなせることがわかりました。この水六量体では、水分子が電気分極を持つことから、電気双極子モーメントの渦が形成されることになります。このような多極子は電気トロイダルモーメントと呼ばれ、それらがそろった状態をフェロアキシャル秩序と呼びます。本研究から単層氷の安定構造がフェロアキシャル秩序であることが明らかになりました。 これまで20種類以上の氷の結晶構造*注3が報告されてきましたが、本研究で明らかになったフェロアキシャル秩序は理論的にも提案されたことがありませんでした。2次元に配置された水分子が作る渦状のモチーフは雪の結晶に劣らず美しく、自然の偉大さを再認識させられます。 図2:水分子のフェロアキシャル秩序と水六量体。渦状の電気双極子が電気トロイダルモーメントを作る。   今後の展望と波及効果 水分子がどのような安定構造をとるのかという問いは、氷・水・界面現象を理解する上で人類にとって不可避な問題です。それは氷が水に浮くことや、凍結した路面が滑るといった日常的な現象を理解する上でも重要な知見です。他方で、3次元氷の秩序は複雑かつ微妙な問題であり、人類が完全に理解したと言うには遠い状況です。本研究で明らかになった2次元氷の構造を足がかりに、水の理解が進展する可能性があります。   論文情報 掲載誌名: Journal of the American Chemical Society 論文タイトル: Ferroaxial order of the monolayer ice in martyite 著者: T. Nomura, S. Kitou, J. Komatsu, J. Kimura, K. Koga, T. Hasegawa, N. Ogita, Y. Nakamura,H. Ishikawa, T. Yajima, A. Matsuo, M. Kofu, O. Yamamuro, Z. Hiroi, Y. Tomita, T. Arima, T. Matsuo DOI: 10.1021/jacs.5c19407   研究助成 本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(22K14010, 23H04861, 24K06944, 24H01644, 24H01650, 25K00969)による助成を受けたものです。   用語解説 注1幾何学的なフラストレーション:格子の幾何学的配置のために、すべての相互作用を同時に満たせない状態。ハニカム格子上の水分子の場合、全てのペアで水素結合を形成することができず、不安定なペアが必ず存在してしまう。  注2大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。 注3氷の結晶構造:圧力と温度を制御することで多種多様な氷の結晶構造が出現することが知られている。これまでに20種類が確認されており、今後も増える可能性がある。   報道発表資料(512.72 KB) 掲載ジャーナル:Journal of the American Chemical Society 研究者ガイドブック(長谷川 巧 准教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 静岡大学理学部 講師・野村肇宏 (のむら としひろ) TEL : 054-238-4961 E-mail : nomura.toshihiro*shizuoka.ac.jp   (報道に関すること) 静岡大学 総務部 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室 TEL : 04-7136-5450 E-mail : press*k.u-tokyo.ac.jp   岡山大学 総務部 広報課 TEL : 086-251-7292 E-mail : www-adm*adm.okayama-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 TEL: 0791-58-2785 E-mail : kouhou*spring8.or.jp   東京理科大学 経営企画部 広報課 TEL : 03-5228-8107 E-mail : koho*admin.tus.ac.jp   名古屋大学 総務部 広報課 TEL:052-558-9735 E-mail : nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp   東京大学 物性研究所 広報室 TEL : 04-7136-3207 E-mail : press*issp.u-tokyo.ac.jp   芝浦工業大学 入試・広報部 企画広報課 TEL : 03-5859-7070 E-mail : koho*ow.shibaura-it.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 宇宙
    2026.03.03
    • 宇宙
    地球との通信に依存しない自律的な宇宙航法へ一歩 -超小型X線衛星NinjaSatによるX線パルサー航法の実証-

    概要 理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室の大田尚享大学院生リサーチ・アソシエイト(東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程)、開拓研究所玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川徹主任研究員(仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室室長)、京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻物理学第二分野の榎戸輝揚准教授、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの岩切渉助教、広島大学大学院先進理工系科学研究科の武田朋志日本学術振興会特別研究員らの国際共同研究グループは、超小型X線衛星「ニンジャサット(NinjaSat)[1]」に搭載された超小型X線検出器が観測したパルサー[2]のX線パルス信号を用い、超小型X線検出器によるX線パルサー航法[3]を初めて実証しました。 本研究成果は、GPS[4]に依存しない宇宙航法を可能にする技術であり、太陽系外を含む遠方宇宙の探査や、GPSが利用できない環境下での自律的な宇宙航行への応用が期待されます。 今回、国際共同研究グループは、NinjaSatで観測されたX線パルス信号を利用することで、外部のナビゲーション支援を受けることなく、自身の位置を約30〜50kmの精度で特定できることを実証し、超小型X線検出器でもX線パルサー航法が実現できることを初めて示しました。 本研究は、科学雑誌『Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems』オンライン版(2月17日付)に掲載されました。 パルサーから放射されるX線パルスを利用して測位を行うNinjaSat(想像図) ©RIKEN、NASA/CXC/SAO、気象庁(図を改変)   背景 人工衛星の位置決定には、地球周回軌道上に配置されたGPS衛星からの信号受信や、地上局との電波通信を利用した測位が一般的に用いられています。しかし、深宇宙[5]探査や通信遅延・途絶が生じる環境では、地球周回の測位インフラや地上局との通信が利用できないため、それらに依存しない自律航法が求められています。 強い磁場を持つ中性子星のパルサーは、高速で回転して周期的に電磁波(X線パルス)を放射します。放射される電磁波は極めて正確な周期のため、パルサーは「宇宙の灯台」とも呼ばれます。理論的に古くから知られているX線パルサー航法は、パルサーから放射されたX線パルスを利用した自律航法で、天体そのものを基準として位置を推定できます。各国の衛星注)などの観測により、X線パルサー航法に関する研究が進展しており、2019年には、初のX線パルサー航法実証衛星XPNAV-1が平均38kmの位置精度で測位したことが報告されました。 X線パルサー航法を、電力や設置場所の限られた宇宙探査で実用化するためには、小型かつ低消費電力な装置による実証が不可欠です。これまでの実証研究の多くは、大型衛星や高性能観測装置を用いたものであり、超小型のX線観測装置を用いた研究には課題が残されていました。 そこで、国際共同研究グループは、NinjaSatに搭載された超小型X線検出器を用い、X線パルサー航法の実証を試みました。NinjaSatは、10cm×20cm×30cm(6U、1Uは10cm×10cm×10cm)サイズに人工衛星として必要な機能が搭載されており、地上からの指令により天体のX線観測を行う、理研が開発したキューブサット[6]です。科学観測装置として、超小型(1Uサイズ)のX線検出器2台と、粒子線検出器2台が搭載されています。   注)主に、米国と中国の衛星や観測装置が、X線パルサー航法に挑んでいる。例えば米国のNICER(2017~)、RXTE(1995~2012)、中国のXPNAV-1(2016~)、POLAR(2016~2017)、Insight-HXMT(2017~)など。いずれもNinjaSatに比べると大型の装置である。   研究手法と成果 NinjaSatでは、数十ミリ秒以下の自転周期を持つ単独パルサーの中で最も明るく、小型の検出器でもX線パルスが検出しやすい「かにパルサー[7]」を通常の天体観測の一環として、繰り返し観測してきました。本研究では、衛星の軌道を推定する手法「SEPO法(Significance Enhancement of Pulse-profile with Orbit-dynamics)」を、NinjaSatで観測した「かにパルサー」のデータに適用しました。 「かにパルサー」から放射されるX線パルスは、約33.8ミリ秒の周期(1秒間に約30回転)で規則正しく繰り返されます(図1)。推定した衛星の軌道が真の軌道からずれていると、X線の到来時刻が不正確となり、このX線パルスの波形がわずかに崩れます。   図1 NinjaSatが観測した「かにパルサー」のX線パルス波形 中性子星「かにパルサー」が1回自転する約33.8ミリ秒の間に、X線の強いピーク(山)が二つ現れる。   本研究では、観測されたX線パルス波形の鋭敏さを定量的な指標として評価し、その指標が最大となるようにベイズ最適化[8]を行うことで、衛星軌道のパラメータを推定しました。 X線パルサー航法による衛星軌道の推定精度を評価するために、GPSによって得た高精度な位置情報と軌道推定結果とを比較しました。その結果、パルサーの視線方向において、いずれの観測時期においても実際の軌道からのずれが40km以内の位置精度であることを確認しました(図2)。   図2 推定軌道と実際の軌道との位置のずれの比較 初期の軌道情報だけを頼りにした位置推定(青)は、初めは正確に見えるものの、時間が経つにつれて少しずつずれが大きくなっていく。一方、X線パルサー航法による位置推定(赤)は、NinjaSatが「宇宙の灯台」であるパルサーを使って継続的に自身の位置を修正するため、時間が経ってもずれが増えず、長期間にわたって安定した軌道の推定ができていることを示している。   3次元の位置推定精度は、衛星の軌道面[9]とパルサーの位置関係に依存することも分かりました。衛星の軌道面が天体の方向に対して垂直に近くなると、位置を決める精度が最大370kmまで悪化する一方、それ以外の多くの期間では、27〜53kmの精度で位置を決定できることを示しました。   今後の期待 本研究では、超小型X線衛星NinjaSatに搭載した超小型X線検出器を用い、約1年にわたって複数回「かにパルサー」を観測しました。その結果、GPSなどの人工的な信号に依存することなく、宇宙空間における自身の位置を自律的に推定できることを実証しました。この成果は、GPSの届かない深宇宙探査や、何らかの理由でGPSが使えない状況下においても、天体そのものを基準とした新たな宇宙航法が可能であることを示すものです。 NinjaSatの測位精度は、地上におけるGPSの測位精度(数メートル程度)には及びません。しかし、太陽系内、ひいては星間空間へと続く広大な宇宙の中で自身の位置が30~50kmの精度で分かるのは驚くほど高性能ともいえます。今後は、観測対象となるパルサーの数を増やすとともに、解析手法の高度化を進めることで、衛星軌道の推定精度のさらなる向上が期待されます。将来的には、地球との通信に依存せず、天体のみを用いて航行可能な自律的宇宙探査の実現につながると考えられます。 NinjaSatには精度の良い時計が搭載されていないため、本研究では、正確な時刻情報のみGPSから取得しました。将来の完全自律航法の実現には、衛星に搭載された極めて高精度な時計が必要不可欠となります。例えば、日本の超小型宇宙探査機EQUULEUS(エクレウス)[10]には、約1.5cm四方の超小型原子時計が搭載された実績があります。将来的には光格子時計[11]のような究極の時計を搭載し、精度を上げることも期待できます。X線パルサー航法では、X線パルスの到来時刻を高精度に測定することが重要であり、超小型衛星においても高性能な時刻管理技術が鍵となります。   論文情報 <タイトル>In-orbit Demonstration of X-ray Pulsar Navigation with NinjaSat <著者名>Naoyuki Ota, et al.(the NinjaSat team) <雑誌>Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems <DOI>10.1117/1.JATIS.12.1.018002   補足説明 [1] ニンジャサット(NinjaSat) 理研が中心となり開発した、超小型X線衛星(キューブサット([6]参照))。X線を出すブラックホールや中性子星の迅速な観測を目的とする。2023年11月に打ち上げられ、32個のX線天体を観測し、2025年9月に大気圏に再突入して運用を終了した。   [2] パルサー 超新星爆発後に残った超高密度の中性子星で、高速自転し、周期的に電磁波を放つ天体。自転軸と電磁波の放射軸のずれにより、灯台のような規則正しいパルスとして観測される。   [3] X線パルサー航法 一定周期でX線を放つ中性子星パルサー([2]参照)を宇宙の「灯台」として利用し、到達時刻のずれから位置を計算する航法。GPS([4]参照)に頼らず深宇宙([5]参照)でも自己位置推定ができるため、将来の宇宙探査で期待されている。   [4] GPS 人工衛星からの電波の到達時刻を利用して、地上や空中での位置・時刻を高精度に求める測位システム。GPSはGlobal Positioning Systemの略。GPSを含む全球測位衛星システムは、広くGNSS(Global Navigation Satellite System)と呼ばれている。   [5] 深宇宙 地球周辺を大きく離れ、惑星間空間から太陽系外縁へと広がる宇宙空間を指す。人類の宇宙探査が本格的に展開される、地球圏の外側の領域で、人工衛星や探査機が地上の支援を受けにくくなる。   [6] キューブサット 10cm×10cm×10cmを一つのユニット(1U)とした、超小型衛星の規格の一つ。ここ10年ほど、世界的に宇宙の商業利用が進んだことで、キューブサット規格の地球観測衛星や通信衛星などが、安価に大量に打ち上げられている。   [7] かにパルサー 西暦1054年に爆発した星の残骸(かに星雲)中に存在する、高速回転する中性子星。電波からガンマ線まで、あらゆる波長の電磁波で輝いている。放射が安定していることから、標準光源として用いられることが多い。1秒間に約30回転していることが知られている。   [8] ベイズ最適化 実験や計算にコストがかかる問題で、限られた試行結果から全体の傾向を推定しつつ最適な条件を探す方法。これまでの試行結果を基に「よさそうな点」と「まだ分かっていない点」を考慮して次の試行を決めるため、少ない回数で効率よく最適化できる。   [9] 衛星の軌道面 地球中心と衛星の軌道を含む仮想的な平面のこと。この平面の向きによって、衛星が地球上のどの地域をどのように通過するかが決まる。NinjaSatは南極と北極の付近を通る、太陽同期軌道に投入されていた。   [10] 超小型宇宙探査機EQUULEUS(エクレウス) 日本が開発した6Uキューブサットで、月―地球系ラグランジュ点(地球と月とともに太陽の周りを回りながら、相対的に同じ場所にとどまれる点)近傍での深宇宙航行技術を実証する探査機。低推力軌道制御や月周辺プラズマ観測を行い、超小型探査機による月・深宇宙探査の実現性を検証した。   [11] 光格子時計 レーザーで原子を動かないように固定し、その性質を使って時間を測る非常に正確な時計。300億年に1秒以下のずれしか起きないほど高精度。   関連情報 • NinjaSat web page: https://cosmic.riken.jp/ninjasat/ • NinjaSat X(旧Twitter): https://twitter.com/ninjasat_xray   国際共同研究グループ 理化学研究所 仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室 大学院生リサーチ・アソシエイト 大田尚享(オオタ・ナオユキ) (東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程3年) 開拓研究所玉川高エネルギー宇宙物理研究室 主任研究員 玉川徹(タマガワ・トオル) (理研仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室 室長)   京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻物理学第二分野 准教授 榎戸輝揚(エノト・テルアキ) (理研光量子工学研究センター中性子ビーム技術開発チーム客員主管研究員)   千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター 助教 岩切渉(イワキリ・ワタル)   広島大学大学院先進理工系科学研究科 日本学術振興会特別研究員 武田朋志(タケダ・トモシ)   〇上記の以外の参加者   理化学研究所:北口貴雄、加藤陽(研究当時)、三原建弘、谷口絢太郎(研究当時)   広島大学:高橋弘充   東京理科大学:吉田勇登(研究当時)、林昇輝(研究当時)、渡部蒼汰、重城新大、青山有未来、高橋拓也、岩田智子、山﨑楓、土屋草馬、中野遥介、内山慶祐、周圓輝(研究当時)   立教大学:一番ヶ瀬麻由   芝浦工業大学:佐藤宏樹(研究当時)   東京都立大学:沼澤正樹   彰化師範大:胡欽評(Chin-Ping Hu)   大阪大学:小高裕和   宇宙航空研究開発機構(JAXA):丹波翼   研究支援 本研究は、RIKEN Pioneering Project 「最先端の宇宙利用技術でつなぐ宇宙における基礎科学(2025~2029、研究代表者:玉川徹)」による助成を受けて行われました。   発表者コメント NinjaSatは天文観測のために開発された超小型X線衛星ですが、それを応用することで、GPSなしで本当に自分の位置を知ることができたのは驚きでした。人工の星ではなく、本物の星が深宇宙における道を教えてくれる、SFのような世界が到来することを夢見ています。(玉川徹)   報道発表資料(583.15 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems   【お問い合わせ先】 <発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせください。 理化学研究所 仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室 大学院生リサーチ・アソシエイト 大田尚享(オオタ・ナオユキ) (東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程) 開拓研究所玉川高エネルギー宇宙物理研究室 主任研究員 玉川徹(タマガワ・トオル) (理研仁科加速器科学研究センター宇宙放射線研究室室長)   京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻物理学第二分野 准教授 榎戸輝揚(エノト・テルアキ)   千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター 助教 岩切渉(イワキリ・ワタル)   広島大学大学院先進理工系科学研究科 日本学術振興会特別研究員 武田朋志(タケダ・トモシ)   <機関窓口> 理化学研究所広報部報道担当 Tel: 050-3495-0247 Email: ex-press*ml.riken.jp   学校法人東京理科大学経営企画部広報課 〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3 Tel: 03-5228-8107 Email: koho*admin.tus.ac.jp   京都大学広報室国際広報班 Tel: 075-753-5729Fax: 075-753-2094 Email: comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp   千葉大学広報室 Tel: 043-290-2018 Email: koho-press*chiba-u.jp   広島大学広報室 Tel: 082-424-3749 Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.09.24
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    難治性がんを克服するがん抗原提示細胞化mRNA療法の開発​

    アピールポイント 難治固形がんを対象とした腫瘍内投与型mRNA-LNP治療薬 ​ がん細胞を抗原提示細胞様にリプロラミングし、腫瘍内部でT細胞性免疫監視を誘導​ ①高い有効性 ②煩雑な操作不要 ③ユニバーサル ④効果持続性 ⑤低い副作用 ⑥免疫療法併用で効果   研究者のねらい 1,有効な治療が存在せず5年生存率が20%以下の難治がんに対し、新たな治療法を開発する。​   2 ・がん細胞は免疫細胞によって認識され、攻撃される。​ ・ただし、免疫細胞を活性化できるのは、免疫細胞によって認識される目印をもったがん細胞だけである。​ ・この性質を「がんの免疫原性」と呼ぶ。​   3,「がんの免疫原性」低下は予後不良因子 ・体内にがんができても免疫が機能していれば、がん細胞が排除され「がん」を発症しない。しかし、「がんの免疫原性」が低下すると、T細胞の働きが弱まりがんを発症してしまう。​   ・免疫細胞であるT細胞が腫瘍内部に活発に浸潤している高免疫原性がんと比較して、T細胞浸潤がほとんどみられない低免疫原性がんは、様々ながん種において特に予後が悪い。​   ・がんの免疫原性を上昇させれば,難治がんであっても治療できる可能性が高まる。​ 研究内容 1,既存の免疫療法の課題 ・これらはいずれもT細胞や樹状細胞などの免疫細胞を活性化するものであり、がん細胞に対して直接作用するわけではない。​   ・低免疫原性の難治がんでは、免疫細胞が認識する目印が消失しており、そのためがん細胞が隠れて見えない状態となっている。これでは、免疫細胞をいくら活性化しても高い治療効果を発揮できない。​   2,抗原提示細胞化mRNAの導入による抗原提示細胞化​ ①この問題を解決する手段として、腫瘍内部にLNP化したmRNAを導入する。​   ②mRNAが導入されたがん細胞は、mRNAの効果によってがん細胞が免疫細胞のように変化し、免疫反応を引き起こせるようになる。​   ③その結果、がんを認識するT細胞が選択的に活性化して増殖し、腫瘍内部からがんを攻撃できるようになる。​   ④さらに、がんのバリアも解除されるため、既存の免疫療法を併用することで、さらに高い治療効果が期待できる。​   3,免疫監視誘導mRNA-LNPの構造と外観 ヒトに感染するEBウイルスの研究から、特定のEBウイルス遺伝子が免疫細胞を強力に活性化してがんを抑制することを見出し、学術雑誌に発表 (1-4)。   4,免疫監視誘導mRNA-LNPの腫瘍縮小効果​ ・これまでに2タイプのmRNA-LNP(1. EBウイルス遺伝子型 (HMR-001); 2. ヒト転写遺伝子型 (HMR-002))を開発し、がん細胞を免疫細胞へとリプログラミングすることに成功。​   ・ mRNA-LNPを腫瘍に投与することで、劇的な腫瘍縮小効果を確認した。​   ・さらに、人にとって異物であるウイルス由来の遺伝子を用いる代わりに、人の遺伝子である2種類の転写因子を用いることでも同様の効果が得られることを発見。以上、論文投稿中のためデータ非公開。​   ・これらの技術はいずれも基礎特許出願済み。   5,先行技術と比較した優位性​ ・がん細胞を抗原提示細胞に変化させる新規作用機序で、世界初の技術​   ・従来の免疫療法が奏功しない腫瘍にも効果​   【優位性】​ ①寛解が望めるがん治療効果​ ②前培養など煩雑な操作が不要​ ③オーダーメイドではないため診断を受けたがん患者に迅速に使用可能​ ④免疫記憶を誘導するため長期的効果が期待​ ⑤腫瘍に限定したデリバリーであり、副作用がでにくい   想定される用途・応用先 【対象とするがん】​ ・難治性固形がん:特にステージ3-4胃がん、スキルス胃がん ・対象とするがん種を今後拡大予定​   【投与方法】 ・腫瘍内投与(内視鏡手術や腹腔鏡下手術が可能ながん種) ・チェックポイント阻害剤など既存治療との併用を想定​   関連情報 【関連特許】 発明の名称 : ウイルス由来遺伝子発現による抗腫瘍免疫誘導方法​   【その他】 ・AMED次世代がん事業・PSI GAPファンド事業​ ・事業化推進機関:広島ベンチャーキャピタル、パートナーズファンド​ ・2025-2026年度計画:ヒトがん検体を用いたin vitro, in vivo POC取得、​ mRNA持続期間延長の検証、有効性向上させる併用薬剤の検討など​ ・治験薬製造:広島大学PSI GMP教育研究センター​   【関連特許】 Yamane et al. 投稿中​ Jin, Y. et al. Front. Immunol., 2025​ Tamura et al. Front. Immunol., 2024​ Li, X. et al. Sci. Immunol., 2024​ Wirtz, T. et al. PNAS, 2016​ Zhang, B. et al., Cell, 2012​   【企業への要望】 ・当研究室との共同研究開発に興味のある企業様を募集しております。​   研究者 保田朋波流(YASUDA TOMOHARU) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    ヒトの腫瘍微小環境と治療への反応を再現する新規マウス大腸がんモデルの確立とその応用​

    アピールポイント マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つプロモーター配列(CDX2P-9.5kb)を発見しました。​ CDX2Pを応用してヒトの右側結腸癌と左側結腸癌を再現する大腸癌マウスモデルを確立しました。​ ヒトの大腸癌分子サブタイプ(CMS)を再現した高度浸潤癌と粘液癌マウスモデルを作成しました。​ 薬剤のスクリーニングに有用な治療抵抗性高度浸潤型大腸癌マウスモデルを作成しました。   研究者のねらい 大腸癌は罹患数,死亡者数が多く対策が急務で、特に治療抵抗性大腸癌に対する新規治療薬の開発は重要な課題である。大腸癌は、4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)、それを改良したIMF分類のiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とし最も予後不良なサブタイプで有効な治療薬が未だ無い。​   私共は独自の大腸上皮細胞特異的コンディショナル複合的遺伝子改変マウスの技術を使って、CMSサブタイプを再現するマウスモデルを確立してきた。このうち治療抵抗性で予後不良なiCMS3サブタイプを再現する高度浸潤型のApc+Ptenマウスモデルを使って、大腸癌に対する新規化合物や抗体薬のスクリーニングや治療効果を評価する共同研究を提示する。 研究内容​ 私共は、大腸癌関連遺伝子として腸上皮の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による遠位大腸に腫瘍が好発する大腸浸潤癌マウスモデル(CPC-Apcマウス、左側結腸癌モデル)を確立した。 ​   このモデルをさらに改良してMSI発現誘導型のCreマウスCDX2P-G22Creマウスを作成してApc欠損させたところ、近位大腸に腫瘍が発生する大腸癌浸潤癌モデル(G22Cre-Apc)を作成することができた(図1)。​   いずれも12ヶ月経過観察をして、浸潤癌の発生率が17%で生存期間中央値が160日であるため、浸潤癌の治療効果を検証するには不十分と思われた。​   私共は、Apcに変異を持つCPC-APCマウスに別のドライバー遺伝子(Kras, Braf, Tgfbr2, Ptenなど)組み合わせた遺伝子変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作成し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤癌(CMS3)や粘液癌(CMS4)などの分子サブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できた(図2)。   Apc+Ptenマウスは予後不良(図3,4)の高度浸潤癌が発生するが、PI3K-PTENシグナルの標的分子に対する阻害剤が著効する(図5)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性の大腸癌や高度浸潤型の大腸癌に対して、抗腫瘍効果を持つ新規化合物や抗体薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われる。 想定される用途・応用先 私共が開発したヒト高度浸潤型大腸癌のプロファイルを持つマウスモデルを用いることで、治療抵抗性大腸癌に高頻度で認められるPI3K-PTENシグナルを標的とした新規化合物や抗体薬のスクリーニングならびに大腸癌の浸潤やがんの微小環境に作用する薬剤の治療効果を評価するために有用なマウスモデルである。評価方法についてもマウス用の大腸内視鏡を使う評価方法から、腫瘍から確立したオルガノイドを使った細胞培養実験での評価も可能である。​   関連情報 代表的な論文:​ Hinoi T, Fearon ER et al. Cancer Res. 2007 Oct 15;67(20):9721-30.​ Akyol A, Hinoi T, Fearon ER et al. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):231-3​ Kochi M, Hinoi T e al. Cancer Sci. 2020 Oct;111(10):3540-3549​ Itakura H, Hinoi T, Yamamoto H et al. iScience. 2023 Mar 23;26(4):106478​ 企業に望む事:私共の作成したマウスモデルを使って大腸癌の治療開発や薬剤スクリーニングについての共同研究や競争的資金の獲得   研究者 檜井孝夫 広島大学 病院(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    ドナー肝臓由来ナチュラルキラー(NK)細胞を用いた肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法

    アピールポイント 通常は採取不可能な肝内在性NK細胞を用いた抗癌免疫細胞療法を開発した 肝内在性NK細胞は抗腫瘍分子TRAILを発現し、肝細胞癌に対する抗腫瘍活性が高い 本治療は有害事象が少なく、進行肝細胞癌の肝移植後再発を抑制する効果が期待できる   研究者のねらい 肝細胞癌は、2023年統計で5番目に多い癌である。肝硬変に合併する肝細胞癌に対する唯一の根治治療は肝臓移植であるが、再発率が10-20%であるにもかかわらず有効な術後補助療養や治療法がないのが現状である。肝臓内には、他の部位とは異なる特殊なリンパ球が存在している。特に、肝内在性ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍の増殖や感染症の拡大を防ぐ重要な役割をして担っており、TRAILと呼ばれる抗腫瘍分子を発現して、肝細胞癌を効率よく殺傷する。我々は、ヒトの肝臓内から採取した後サイトカイン刺激することによって強力な抗腫瘍活性を有する肝内在性NK細胞を用いた、肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法を開発した。   研究内容 TRAIL活性低下による肝腫瘍増殖、TRAIL陽性肝内在性NK細胞投与により腫瘍が縮小 B6マウスの門脈から肝臓を灌流したリンパ球中のNK細胞上に表出する抗腫瘍分子(TRAIL; TNF-related apoptosis inducing ligand)をフローサイトメトリーで解析した。70%肝切除後、3日目にはTRAIL発現が著明に低下した。   B6マウスの門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した1週間後の肝臓内腫瘍増殖を解析した。無処置マウスに対して、70%肝切除マウスは有意に、肝臓内腫瘍増殖が増加した(n=4)。​   70%肝切除マウスに対して、門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した後に、活性化肝内在性NK細胞を5×105個尾静脈から投与すると、肝臓内腫瘍の増殖は抑制された。​(Ohira M, Ohdan H, Transplantation 2006)   ヒト肝灌流液由来肝内在性NK細胞の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性​ NK細胞の割合は、肝臓内で46.4%、末梢血で21.9%。サイトカイン刺激でNK細胞上TRAILは肝臓内で65.8%、末梢血で29.6%であった。(n=7)​ サイトカイン刺激後の肝内在性NK細胞の抗腫瘍活性は、有意に高い。​ 中分化型・低分化型肝癌はDeath receptor(DR4, DR5)は強発現、Decoy receptor(DcR1, DcR2)は発現なし。TRAIL感受性のある癌腫と言える。​   ドナー肝由来NK細胞療法の臨床試験結果​ 肝移植時のドナーグラフト肝臓灌流液からリンパ球を抽出して、サイトカインで3-5日間刺激培養を行う。投与1日前に、抗CD3抗体を添加してT細胞除去を行い、肝臓移植後のレシピエントに経静脈的投与を行う治療法。​   肝移植後3日目と7日の末梢血単核球の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性。NK療法群で有意に増加している(n=7; NK, n=5; non-NK group)   NK療法を行ったレシピエントの末梢血NK細胞のキメラ率推移。ドナー由来のNK細胞は最長1ヶ月確認可能。   広島大学で24例の生体肝移植に対して第1相試験を実施。投与に関連する重篤な有害事象はなく安全性は確認された。肝細胞癌に対する生体肝移植後の無再発生存率は、背景をプロペンシティマッチで揃えた11例ずつで比較した場合、NK療法群が有意に良好であった。​   今後の研究開発計画 治験第2相以降の臨床試験の計画実施、承認申請(日本、海外)、培養効率改善に向けた製造法の​ スクリーニング・最適化、保存・輸送条件の最適化(事業化可能な条件設定)、細胞製品の製造・流通・販売、他の癌腫への応用​   関連情報 代表的な特許:肝臓内NK細胞活性を増強する培養方法の開発(特願2025-130828)​ 代表的な論文:Ohira M, Ohdan H, et al. Cancer Immunol Immunother 2022​ 企業に望む事:臨床試験や承認申請に必要な製造・保存輸送技術の最適化を担い、細胞製品の事業化を推進してほしい。​ 研究者 大段秀樹(Ohdan Hideki) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2026.03.06
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    口腔癌の「中程度リスク」に対し、 追加治療が有効であることがわかりました

    本研究成果のポイント 口腔癌の治療後、再発のリスクが中程度である患者に対して、追加の治療をした場合、再発の可能性が減り長く生きられる傾向がみられました。   概要 広島大学病院の小泉浩一講師を中心とする研究チームは、一度口腔癌の治療を行い、再発のリスクが中程度である患者に対し、追加の治療を行うことについて検討を行いました。その結果、再発の重要な危険因子を特定し、追加の治療を行うことで再発率の低下と生存期間を延長できることがわかりました。   本研究は、学術誌「Head & Neck(Q1)」に掲載されました。   <発表論文> 掲載誌:Head & Neck(Q1) 論文タイトル:Postoperative Adjuvant Therapy in Resectable Advanced Oral Squamous Cell Carcinoma With Intermediate Risk Factors 著者名:Koichi Koizumi、 Fumitaka Obayashi、 Mirai Higaki、 Kota Morishita、 Atsuko Hamada、 Sachiko Yamasaki、 Nanako Ito、 Souichi Yanamoto DOI: https://doi.org/10.1002/hed.70106 掲載日時:2025 年 11 月 27 日   背景 口腔癌における術後補助療法(手術後に行う追加治療)の方針は、一般的に切り取った組織の検査により決定されます。この検査により再発のリスクが高いと判断された患者には、追加での切除や化学放射線療法を行うといった方針がとられます。しかしながら、再発のリスクが中等度(手術断端近接、pT3-T4 分類、pN2-N3 リンパ節転移状態、神経周囲浸潤、血管浸潤、リンパ管浸潤、浸潤様式など)である患者に対して、術後補助療法がどの程度有効かについては不明であり、標準化された治療ガイドラインや専門家の合意は確立されていません。   研究成果の内容 1.方法 本臨床研究は、2010 年1 月から2023年12 月までに広島大学病院 顎・口腔外科を受診し、一次治療として外科療法を行った進行口腔扁平上皮癌130 例を対象としました(表1)。術後再発の危険因子は、頸部リンパ節の節外浸潤、切除断端陽性といった再発高リスク因子に加え、切除断端近接、病理学的T 分類(pT3 またはpT4)、病理学的N分類(pN2 またはpN3)、レベルIV またはV 領域のリンパ節転移、神経周囲浸潤、血管浸潤、およびリンパ管浸潤といった再発中等度リスク因子としました。これらの危険因子の存在と、術後補助療法の実施、再発または転移の発生、および患者の予後(無病生存期間:DFS)との関連について解析しました。   2.結果 (1)再発リスク因子別の術後治療と再発・転移について 局所再発、頸部リンパ節転移、遠隔転移の発生率はそれぞれ16.2%、15.4%、9.2%で、全体の再発・転移は36.9%でした。再発の危険因子別に解析すると、再発高リスク群48.6%、再発中等度リスク群34.1%、これらの病理学的危険因子をいずれも有さない低リスク群27.3%でした(表2)。   (2)再発リスク因子別の5 年生存率(DFS) 再発リスク因子とDFS の関連を解析した結果、高リスク群、中等度リスク群、低リスク群の5 年DFS はそれぞれ63.7%、79.3%、100%であり、全体の平均は76.2%でした(図1A)。中リスク群において術後療法を受けた患者と受けなかった患者の間でDFS に有意差は認められなかった(図1B)。   (3)再発中等度リスク因子別の5 年生存率(DFS) 個々の中等度リスク因子別にDFS を比較したところ、リンパ管侵襲を認める患者は有意に生存率が低かった(66.7% vs. 82.8%、p < 0.05)。Cox 比例ハザードモデルを用いた多変量解析でも、リンパ管侵襲の存在は独立した予後因子であることが示され(ハザード比(HR)=3.08、p=0.043)、その臨床的意義が確認された。またpT4、pN2-N3、神経周囲浸潤、脈管侵襲は統計的に有意差には達しなかったものの、いずれの症例においても生存率低下の傾向が認められた。(図2、表3)。   (4)再発中等度リスク因子と再発・転移 個々の中等度リスク因子別に再発および転移を比較したところ、神経周囲浸潤は有意に高く(51.9% vs. 23.6%、p

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    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.06
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    DNAの「シトシン」が酸化されると変異が起こることを発見 ―がんの原因の解明につながる新たな手がかり―

    本研究成果のポイント DNAの塩基の一つ「シトシン」が酸化されると、変異を引き起こすことを新たに発見しました。これは、がんの原因の解明につながる手がかりとなります。   概要 広島大学大学院医系科学研究科(薬学部)の鈴木哲矢 助教、廣田杏 大学院生(当時)、紙谷浩之 教授のグループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 岩井成憲 教授(当時)と共同で、遺伝子の本体であるDNAの4種類の塩基の一つであるシトシンが酸化されると、損傷部位に変異を引き起こすこと、損傷部位から離れた部位にも変異を引き起こす可能性があることを見出しました。   背景 多くの生物の遺伝子の本体はDNAです。遺伝情報が変わることを変異と呼び、変異が少しずつ蓄積していくことで、がんが発生するリスクがあがることが知られています(※1)。変異の多くはDNAが傷つくこと(化学的修飾)により引き起こされます。 DNAは4文字(4種類の塩基)を持ちます。これまでの研究で、塩基の一つであるグアニンが酸化されると8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)などの酸化損傷塩基が生じることがわかっています(※2)。以前に本研究グループは、この損傷塩基が生じた部分に変異を引き起こすだけではなく、離れた部位にも変異を引き起こすことを見出していました。   研究成果の内容 今回、本研究グループは、別の塩基であるシトシンに着目しました。シトシンが酸化されると、主な損傷として5-hydroxycytosineが生じます(※3)。5-hydroxycytosineを含むDNAをヒト細胞に導入した結果、5-hydroxycytosineがあった部位がチミン(塩基の一つ)などに変わっていることを見出しました。また、グアニンの酸化体ほどではないものの、5-hydroxycytosineがあった部位から離れた部位にも変異が起こっていました。 一方、損傷部位から離れた部位での変異に着目して、紫外線によって生じる損傷であるチミン-チミン6-4光産物の影響を調べましたが、離れた部位での変異は観察されませんでした。 今回の結果は、グアニンの酸化体だけではなく、シトシンの酸化体も変異を引き起こし、がんの原因の一つになっている可能性を示しています。   今後の展開 今後は、他の損傷塩基の変異の生成機構を解明していきます。本研究の成果は、がん化の機構を理解し、それを抑制する方法の開発につながると期待されます。   参考資料 論文題目:Mutagenicity of 5-hydroxycytosine in human cells 著者名:Tetsuya Suzuki , Ann Hirota , Shigenori Iwai , Hiroyuki Kamiya*(*責任著者) 掲載誌:Mutagenesis 2月2日付でオンライン掲載されました。以下は論文のリンク先です。 https://doi.org/10.1093/mutage/geag004 用語解説 (※1)変異とがん:遺伝情報を担っているDNAはアデニン・チミン・グアニン・シトシンの4文字(塩基)からなり、この並びが遺伝情報です。がんに関連する遺伝子(がん遺伝子やがん抑制遺伝子)の遺伝情報の変化(変異)が複数回生じることで、がんが生じます。   (※2)グアニンの酸化体:種々のグアニンの酸化体が生成しますが、8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)は代表的なものであり、重要なDNAの損傷の一つと考えられています。   (※3)5-hydroxycytosine:下の図の左に描いた構造を持ち、六員環(六角形の部分)から出ているHO– がhydroxyと呼ばれる部分です。   報道発表資料(229.33 KB) 掲載ジャーナル:Mutagenesis 研究者ガイドブック(紙谷 浩之 教授)   ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院医系科学研究科 教授紙谷 浩之 TEl:082-257-5300FAX:082-257-5334 E-mail:hirokam@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4383 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp

    • 情報通信
    • 半導体
    2026.03.05
    • 情報通信
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    サブマイクロ秒・700Gbps超を実現する 低遅延データ圧縮通信技術を開発 ~FPGAクラスタにおける通信ボトルネックの解消に貢献~

    大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:黒橋 禎夫、東京都千代田区)アーキテクチャ科学研究系 教授/所長補佐、鯉渕 道紘、特任助教 平澤 将一は、国立大学法人 広島大学(学長: 越智 光夫、広島県東広島市)大学院先進理工系科学研究科教授 中野 浩嗣、富士通株式会社(代表取締役社長 時田 隆仁、本店 神奈川県川崎市中原区)シニアプロジェクトディレクター 福本 尚人、リサーチディレクター 本田 巧の研究グループと共同で、FPGAクラスタにおける通信性能を大幅に引き上げる超低遅延・高帯域圧縮通信技術を開発しました。本技術は、FPGA間通信においてデータ圧縮と復号を含めて590ナノ秒という極めて低い遅延を実現し、さらに1 台のFPGAあたり最大757Gbpsの実効通信帯域を達成しました。本成果は、計算性能の高さに比べ通信性能がボトルネックとなっていたためFPGAベースの高性能計算システムに対し、高いスケーラビリティを提供するものです。   近年、書き換え可能な専用回路(FPGA: Field Programmable Gate Array)を多数つなぎ、高速・低遅延・省電力で特定の処理を並列実行できる計算システム(以後、FPGAクラスタと呼ぶ)が注目を集めています。高性能なFPGA カードには高帯域なメモリが搭載され、単体カード内の計算性能およびメモリアクセス性能は大きく向上しています。一方で、FPGA間の通信帯域や通信遅延は依然として制約が大きく、特に集合通信*1を多用する大規模並列処理やAI学習では、通信がシステム全体の性能を支配する要因となっていました。 この問題を解決する手段としてデータ圧縮が注目されていますが、従来のデータ圧縮方式はハードウェア実装の複雑さや処理遅延の増大が課題となり、超低遅延通信には適していませんでした。 本研究では、この問題を解決するデータ圧縮通信技術を開発しました。特徴は、どのような場合でも通信データが元より大きくならない軽量な圧縮方式と、通信路の幅に合わせてデータを整列させる独自の回路構成を組み合わせている点です。図1に示す提案FPGA回路の例では、16個の数値データ(合計512ビット)をメモリから一度に受け取り、これらを圧縮後、256ビット幅の通信路に効率よく送り出します。従来の方式では、圧縮後のデータを通信路の幅にぴったり合わせる処理が難しく、これが通信速度の低下を招いていました。本技術では、まず入力されたデータの並び順を入れ替えることで、複数のデータを同時に並列に圧縮でき、処理を高速化できます。圧縮されたデータは通信路の幅に揃えて送り出されるため、通信帯域を無駄なく活用できます。この例の回路を用いた評価では、実質的に通信性能を非圧縮時と比べて約2倍に高めながら、通信全体の遅延をサブマイクロ秒(100万分の1秒未満)という低遅延に抑えることに成功しました*2。 本技術は、光技術を用いた高速通信回線を備えるFPGAクラスタにおいて実装され、1対1の通信だけでなく、集合通信においても最大757Gbpsという高い通信性能を達成しました。さらに、AIの分散学習で用いられる勾配データの通信に適用したところ、学習結果の精度にほとんど影響を与えないことも分かりました。 図1: 16個(計512ビット)の入力データを圧縮して256ビットに出力する回路例   本成果は、FPGAクラスタに限らず、将来の光インターコネクトを用いた高性能計算システムやAIアクセラレータにおいても有効性が期待されます。今後は、適応的な誤差制御や様々な数値表現への拡張を進め、より幅広い応用分野への展開を目指します。   解説 (*1)複数の計算ノード(FPGAを含)間でデータを一斉に送受信・共有する並列計算向けの通信方式。 (*2)評価に用いたFPGAクラスタは、8台のFPGAを約50Gbpsの専用光リンクで相互に接続する構成。各FPGAは異なるXeonサーバーに格納されている。詳細: Michihiro Koibuchi, Takumi Honda, Naoto Fukumoto, Shoichi Hirasawa, Koji Nakano, A 590-nanosecond 757-Gbps FPGA Lossy Compressed Network, IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems, Volume 37, Issue 4, pp.836-848, 2026 DOI 10.1109/TPDS.2026.3659817.   【プレスリリース】サブマイクロ秒・700Gbps超を実現する低遅延データ圧縮通信技術を開発.pdf(1 MB) 掲載ジャーナル:IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems 研究者ガイドブック(中野 浩嗣教授)   【お問い合わせ先】 <メディアの皆さまからのお問い合わせ先> 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 総務部 総務企画課 企画・広報チーム TEL:03-4212-2164E-mail:media*nii.ac.jp   国立大学法人 広島大学 広報室 TEL:082-424-3749E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2026.02.20
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    単層の氷の構造を初めて可視化 ― 渦状に並んだ水分子がつくるフェロアキシャル秩序を実証 ―

    本研究成果のポイント 鉱物中に閉じ込められた単層の水分子(単層氷)が研究の舞台 ハニカム格子上に並んだ水分子は室温で定まった方向を向かずに回転 低温で水分子が渦状に並んだ、フェロアキシャル秩序状態の新しい氷を発見   概要 静岡大学理学部の野村肇宏講師の研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教・有馬孝尚教授、岡山大学の小松寿弐千大学院生(当時)・木村純大学院生・甲賀研一郎教授、広島大学の長谷川巧准教授・荻田典男教授、高輝度光科学研究センターの中村唯我研究員、東京理科大学の石川孟講師、名古屋大学の矢島健准教授、東京大学物性研究所の松尾晶技術専門職員・古府麻衣子教授・廣井善二教授、芝浦工業大学の富田裕介教授、大阪大学の松尾隆祐名誉教授と共同で、2次元に閉じ込められた単層の水分子が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。 本研究では、2次元に閉じ込められた水分子の秩序構造を、放射光X線回折と分子動力学計算によって調べました。マーティアイトという鉱物中で、水分子はハニカム格子上に並んでおり、単層氷とみなすことができます。研究グループはこの単層氷が低温で渦状のモチーフを形成し、フェロアキシャル秩序と呼ばれる特異な秩序を示すことを明らかにしました。 この2次元氷の秩序構造は過去に予言されておらず、水という身近な研究対象がいかに複雑で謎に包まれた存在かを物語っています。2次元氷に関する知見は3次元氷を研究する礎となるものであり、今後人類が水に関する研究を進める上で重要なマイルストーンとなることが期待されます。 なお、本研究成果は、2026年2月13日に、アメリカ化学会の発行する国際雑誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 マーティアイトという鉱物中の水分子は、氷を一層だけ取り出して2次元に閉じ込めた、いわば単層氷とみなすことができます。本研究では、この単層氷が渦状の秩序構造(フェロアキシャル秩序)を示すことを発見しました。   背景 雪の結晶は六角形をモチーフとした形をとります。これは氷の結晶中で、水分子がハニカム格子上に整列した3次元構造をとるためです。それでは、極薄の氷を一層だけ取り出したときにどんな構造をとるでしょう?本研究はそんな単純な興味から始まりました。 研究グループはマーティアイト[martyite, Zn3(V2O7)(OH)2·2H2O]という層状の結晶構造を持つ鉱物に着目しました(図1)。マーティアイトのフレームワーク中で水分子はハニカム格子を形成しています。つまり、氷を一層だけ取り出して、それを2次元に閉じ込めたような状況が鉱物中で自然と実現しています。ハニカム格子上に配置された水分子は定まった方向を向くのではなく、面内をくるくる回転しています。これは幾何学的なフラストレーション*注1により、全ての水分子を同時に安定に並べることができないためです。マーティアイトを室温から冷却したときに、回転していた水分子がどのようにお互いを配慮しながら整列するかは容易には予測できません。 図1:3次元氷と2次元氷のハニカム格子(水分子の蜂の巣状配列)。マーティアイト中で回転する水分子がどう整列するかは非自明。   研究成果の内容 大型放射光施設「SPring-8」*注2のBL02B1で単結晶X線回折実験の結果、マーティアイト中の水分子の低温構造では、6個の水分子がまとまった渦状のモチーフ(六量体)を形成していることがわかりました(図2)。分子動力学計算を用いた単層氷のシミュレーションからも同様の水六量体が形成されることが明らかになり、マーティアイト中の水分子がたしかに単層氷とみなせることがわかりました。この水六量体では、水分子が電気分極を持つことから、電気双極子モーメントの渦が形成されることになります。このような多極子は電気トロイダルモーメントと呼ばれ、それらがそろった状態をフェロアキシャル秩序と呼びます。本研究から単層氷の安定構造がフェロアキシャル秩序であることが明らかになりました。 これまで20種類以上の氷の結晶構造*注3が報告されてきましたが、本研究で明らかになったフェロアキシャル秩序は理論的にも提案されたことがありませんでした。2次元に配置された水分子が作る渦状のモチーフは雪の結晶に劣らず美しく、自然の偉大さを再認識させられます。 図2:水分子のフェロアキシャル秩序と水六量体。渦状の電気双極子が電気トロイダルモーメントを作る。   今後の展望と波及効果 水分子がどのような安定構造をとるのかという問いは、氷・水・界面現象を理解する上で人類にとって不可避な問題です。それは氷が水に浮くことや、凍結した路面が滑るといった日常的な現象を理解する上でも重要な知見です。他方で、3次元氷の秩序は複雑かつ微妙な問題であり、人類が完全に理解したと言うには遠い状況です。本研究で明らかになった2次元氷の構造を足がかりに、水の理解が進展する可能性があります。   論文情報 掲載誌名: Journal of the American Chemical Society 論文タイトル: Ferroaxial order of the monolayer ice in martyite 著者: T. Nomura, S. Kitou, J. Komatsu, J. Kimura, K. Koga, T. Hasegawa, N. Ogita, Y. Nakamura,H. Ishikawa, T. Yajima, A. Matsuo, M. Kofu, O. Yamamuro, Z. Hiroi, Y. Tomita, T. Arima, T. Matsuo DOI: 10.1021/jacs.5c19407   研究助成 本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(22K14010, 23H04861, 24K06944, 24H01644, 24H01650, 25K00969)による助成を受けたものです。   用語解説 注1幾何学的なフラストレーション:格子の幾何学的配置のために、すべての相互作用を同時に満たせない状態。ハニカム格子上の水分子の場合、全てのペアで水素結合を形成することができず、不安定なペアが必ず存在してしまう。    注2大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。   注3氷の結晶構造:圧力と温度を制御することで多種多様な氷の結晶構造が出現することが知られている。これまでに20種類が確認されており、今後も増える可能性がある。   報道発表資料(512.72 KB) 掲載ジャーナル:Journal of the American Chemical Society 研究者ガイドブック(長谷川 巧 准教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 静岡大学理学部 講師・野村肇宏 (のむら としひろ) TEL : 054-238-4961 E-mail : nomura.toshihiro*shizuoka.ac.jp   (報道に関すること) 静岡大学 総務部 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室 TEL : 04-7136-5450 E-mail : press*k.u-tokyo.ac.jp   岡山大学 総務部 広報課 TEL : 086-251-7292 E-mail : www-adm*adm.okayama-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 TEL: 0791-58-2785 E-mail : kouhou*spring8.or.jp   東京理科大学 経営企画部 広報課 TEL : 03-5228-8107 E-mail : koho*admin.tus.ac.jp   名古屋大学 総務部 広報課 TEL:052-558-9735 E-mail : nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp   東京大学 物性研究所 広報室 TEL : 04-7136-3207 E-mail : press*issp.u-tokyo.ac.jp   芝浦工業大学 入試・広報部 企画広報課 TEL : 03-5859-7070 E-mail : koho*ow.shibaura-it.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.20
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    ボノボ(大型類人猿)とテナガザル(小型類人猿)のiPS細胞と 脚腕の元になる細胞の作製に成功 —霊長類発生進化学・生物多様性保全・動物園獣医学の統合推進に貢献 —

    本研究成果のポイント ボノボ(大型類人猿)とテナガザル(小型類人猿)からiPS細胞(※1)を作製 類人猿のiPS細胞から四肢骨格の起源である細胞を作出することに成功 進化研究・生物多様性保全・動物園獣医学の3分野融合「動物園まるごとiPS細胞化プロジェクト」を大きく展開   概要 今村公紀 准教授(研究当時:京都大学ヒト行動進化研究センター助教、現:金沢大学医薬保健研究域)、博士課程4年 濱嵜裕介(京都大学ヒト行動進化研究センター)、今村拓也 教授(広島大学大学院統合生命科学研究科)、博士課程1年 飽田寛人(広島大学大学院統合生命科学研究科)らの研究グループは、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(熊本県宇城市)、公益財団法人日本モンキーセンター(愛知県犬山市)、豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)、東山動植物園(愛知県名古屋市)、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)、名古屋大学 一柳健司 教授、総合研究大学院大学 田辺秀之 准教授らと共同で、大型類人猿ボノボと小型類人猿テナガザルから、ゲノムに外来遺伝子が挿入されない人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製に成功しました。 今回作製したiPS細胞について、複数種の霊長類iPS細胞の遺伝子発現パターンを比較した結果、iPS細胞の遺伝子発現は霊長類進化の系統関係を反映していること、ならびに種特異的な特徴を同定しました。また、本研究では、作製した類人猿iPS細胞から四肢骨格の起源である細胞(肢芽中胚葉細胞)を誘導することにも成功しました。本成果は、霊長類の進化発生学(エボデボ)、生物多様性の保全、動物園獣医学の発展を統合的に推進するための重要な基盤になると考えられます(図1)。   雑誌名:BMC Genomics タイトル:Generation and transcriptome profiling of bonobo induced pluripotent stem cells using stealth RNA vectors: a tripartite comparative study with humans and chimpanzees. 著者:Yusuke Hamazaki,、Hiroto Akuta、Hikaru Suzuki、Hideyuki Tanabe、Tsubasa Suzuki、Kouki Inoue、Kenji Ichiyanagi、Takuya Imamura*、Masanori Imamura*. BMC Genomics、in press DOI:https://doi.org/10.1186/s12864-025-12400-4 (open access) 雑誌名:Frontiers in Cell and Developmental Biology タイトル:Generation and characterization of induced pluripotent stem cells of small apes. 著者:Yusuke Hamazaki、Hiroto Akuta、Hikaru Suzuki、Hideyuki Tanabe、Kenji Ichiyanagi、Takuya Imamura、Masanori Imamura*. Front Cell Dev Biol, 13: 1536947 (2025) DOI:https://doi.org/10.3389/fcell.2025.1536947 (open access) 背景 ヒトとサルの境目はどこにあり、両者は何が違うのでしょうか。生物学的にヒトはヒト上科というグループに属し、ニホンザルのようなサル類と区分されます。ヒト上科にはヒトの他に大型類人猿(ボノボやチンパンジー、ゴリラ、オランウータン)と小型類人猿(テナガザル)が分類されます。なかでもボノボとチンパンジーはヒトに最も近縁な現生類人猿であり、ヒト、ボノボ、チンパンジーの3種の比較はヒト固有の特性を解明する糸口になります。一方、小型類人猿はヒトとの共通祖先から最も早く、最も古い時期に分岐しました。したがって、小型類人猿は系統進化上、ヒト・大型類人猿とサル類の中間に位置しており、サルからヒトへの進化の過程を解明する上で非常に重要な存在といえます。 研究成果の内容 ■ 1|ボノボiPS細胞とテナガザルiPS細胞の作製に成功 本研究では、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(熊本県宇城市)で飼養されているボノボとチンパンジーについて、健康診断時に採血された余剰血液から末梢血単核球を分離・培養しました。また、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)、豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)、東山動植物園(愛知県名古屋市)、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)と連携し、動物園で自然死した小型類人猿3種5個体(シロテテナガザル、アボットハイイロテナガザル、フクロテナガザル)の皮膚片から線維芽細胞を培養しました。これらの細胞にゲノムに外来遺伝子が挿入されない方法で初期化因子を導入することでiPS細胞の作製を行った結果、ボノボ2個体、チンパンジー1個体、テナガザル3個体(シロテテナガザル1個体、フクロテナガザル2個体)のiPS細胞を作製することに成功しました(図1)。   ■ 2|iPS細胞の霊長類種ごとの特徴を遺伝子発現パターンから解析 ヒト、大型類人猿(ボノボ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)、小型類人猿(シロテテナガザル、フクロテナガザル)、サル類(アカゲザル、カニクイザル)のiPS細胞について、遺伝子発現プロファイルを比較解析したところ、iPS細胞の遺伝子発現は霊長類の系統関係を反映したパターンに分類されること(サル類、小型類人猿、大型類人猿、ヒトの順に分岐)がわかりました。さらに、ヒト、ボノボとチンパンジーの間で異なる遺伝子発現や、テナガザルだけで見られる遺伝子発現など、種に特異的な特徴も検出されました。   ■ 3|類人猿iPS細胞から四肢骨格の起源(脚腕の元)である肢芽中胚葉細胞の誘導に成功 作製した類人猿(ボノボ、チンパンジー、テナガザル)のiPS細胞から四肢骨格の起源(腕脚の元)である肢芽中胚葉細胞を作出することに世界で初めて成功しました。腕と脚の長さはサル類ではほぼ同じであるのに対し、類人猿では脚に比べて腕が長く、ヒトでは反対に腕に比べて脚が長くなります。霊長類iPS細胞から肢芽中胚葉細胞を分化誘導する実験系は、脚腕の長さという類人猿やヒトの四肢の特徴がどのようなメカニズムによって進化してきたのかを解明することに役立つと考えられます。     今後の展開 本研究は「動物園まるごとiPS細胞化プロジェクト」の一環として、動物園と連携して実施しました。本プロジェクトは、動物園や飼養施設にいる動物たちの細胞バンク化とiPS細胞の作製を行うことで、以下の3つの活用に繋げることを目的としています。   ■ 1|哺乳動物の進化発生学(エボデボ研究)の進展 哺乳動物のiPS細胞を作製することで、哺乳動物が進化させた多様性や新奇性のメカニズムの解明が期待されます。今後は、動物園にいるさまざまな動物のiPS細胞から四肢を形成する肢芽中胚葉細胞を分化誘導することで、脚腕の長さや形の発生進化研究を展開する予定です。   ■ 2|生物多様性の保全 ボノボやテナガザルをはじめ、多くの希少動物は絶滅の危機に瀕しており、遺伝資源の保存は喫緊の課題です。本研究で進める細胞バンク化(動物由来の細胞を長期保存・再利用可能な形で蓄積すること)とiPS細胞の作製は、絶滅危惧種の「細胞レベルで生きた遺伝資源」を長期的に保存・活用できる基盤となります。   ■ 3|動物園獣医学の発展 希少動物では疾患研究や治療法の検討が難しい場合があります。iPS細胞を活用することで、動物種ごとの疾患モデルの構築や、薬剤反応性・毒性の種差や個体差の評価が可能となり、動物医療・健康管理の高度化に貢献すると期待されます。     参考資料 図1. 本研究の概要 動物園・研究施設からご提供いただいた組織試料から細胞を培養し、テナガザルとボノボ、チンパンジーのiPS細胞の作製に成功した。動物園のiPS細胞は今後大きく分けて3つの活用法が考えられる。 図2. ヒト・類人猿・サル類のiPS細胞の遺伝子発現パターンは霊長類進化の系統関係を反映する ヒト・類人猿・サル類のiPS細胞の遺伝子発現データに基づき、それぞれのiPS細胞株(点)間の類似性を樹形図として可視化すると、系統進化を反映したまとまりを示した(サル類、小型類人猿、大型類人猿、ヒトの順に分岐)。さらに、小型類人猿テナガザルのiPS細胞では他の霊長類に比べて”細胞死”に関連する遺伝子の発現が低い傾向が見られた。また、大型類人猿のうち、ボノボとチンパンジーのiPS細胞の間を比較すると、”代謝”機能に関連する遺伝子の一部で発現が異なっていた。 図3. 類人猿のiPS細胞から四肢骨格の起源である肢芽中胚葉細胞の分化誘導に成功 ボノボとテナガザルのiPS細胞(上段)から肢芽中胚葉細胞(下段)を分化誘導することに成功した。下図では、肢芽中胚葉を特徴づける遺伝子のPRRX1(赤)が発現していることを示している。   用語解説 (※1) iPS細胞 培養下(実験室)で半永久的に増え、身体を構成するさまざまな細胞種に分化することできる(=多能性)性質を持った細胞。   (※2) 分化誘導 iPS細胞の持つ、身体を構成するさまざまな細胞種に分化することできる(=多能性)性質を活かして、iPS細胞から目的の細胞を培養下で作出する方法のこと。   報道発表資料(741.67 KB) 掲載ジャーナル:BMC Genomics 掲載ジャーナル:Frontiers in Cell and Developmental Biology 研究者ガイドブック(今村 拓也 教授)   研究に関するお問い合わせ先 金沢大学医薬保健研究域 准教授今村 公紀 E-mail:imamura-masanori@staff.kanazawa-u.ac.jp 京都大学ヒト行動進化研究センター 博士課程4年 濱嵜 裕介 E-mail:hamazaki.yusuke.84n@st.kyoto-u.ac.jp 広島大学大学院統合生命科学研究科 教授今村 拓也 TEL:082-424-7438 E-mail:timamura@hiroshima-u.ac.jp ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-6762 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp 京都大学広報室 国際広報班 TEL:075-753-5729FAX:075-753-2094 E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp  

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