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    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    放射線治療が短時間中断した場合の影響を補正する新技術を開発 ~3次元補償が可能な治療計画システム(BART)の開発~

    本研究成果のポイント がんの放射線治療において予期せぬ治療の中断にも対応できる治療計画構築システム(BART)を開発しました。 治療効果の低下を抑え、がん患者の治療におけるQOL向上につながります。   概要 広島大学病院放射線部の河原大輔准教授を中心とする研究チームは、肺がん患者に対する放射線治療において、短時間の治療中断による影響を補正する新たなBARTシステムを開発しました。放射線治療中に発生する予期しない中断(機器の故障や患者の体調不良など)は、がん細胞の回復を引き起こし、治療効果を低下させることがあります。本研究では、この短時間の治療中断に伴い減少する、治療に必要な放射線量を補償する技術を開発し、従来の治療計画システムに統合する方法を示しました。 この新しいアプローチは、臨床現場において即座に適用可能であり、放射線治療の精度を高めるだけでなく、患者の治療効果をより確実にする可能性を示唆しています。 本研究成果は、2025年4月発行の「Medical Physics」誌に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Biological adaptive radiotherapy for short-time dose compensation in lung SBRT patients   著書 Daisuke Kawaharaa,*, Akito S Koganezawac,*, Takuya Wadaa,b, Yuji Murakamib a Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima 734-8551, Japan b Radiation Therapy Section, Department of Clinical Practice and Support, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan cRobotics and Artificial Intelligence Course, Department of Integrated Science and Engineering, Faculty of Science and Engineering, Teikyo University, Tochigi 320-8551, Japan   掲載雑誌 Medical Physics   DOI番号 10.1002/mp.17820   背景 がんの放射線治療1回にかかる治療時間はおよそ10分~30分程度です。治療中、ごくたまに装置のトラブルや患者さんの体調変化が起こり、数10分~数時間程度治療を中断する場合があります。この中断の間にがん細胞が回復してしまい、治療の効果が低下することが知られています。これを防ぐためには、治療中断中にがん細胞がどれくらい回復するのか把握し、その回復量に応じて治療強度を高めることが必要になります。   研究成果の内容 本研究では、治療の中断に伴うがん細胞の回復量を数値で表すために、「微視的動力学モデル(MKM)」を採用し、治療を中断した日数に応じて必要な補償係数と追加線量を自動的に算出するシステム(BART)を開発しました。このシステムを用いて、肺がん患者を対象にした放射線治療において、治療の中断による影響を評価し、BARTシステムによる補償後、目標線量の低下を最小限に抑えることができることを確認しました。 また、このシステムをもちいた解析により、30分の治療中断で減少する放射線量は12.1%、120分の中断で19.0%までに達することが確認されました。補償後、BARTシステムは、放射線治療計画装置上での1度の最適化計算により、当初の計画と同等の治療効果を有する新たな治療計画を作成することができ、補償後の周囲のリスク臓器への線量は許容範囲内に収まることが確認されました。   今後の展開 本研究により、治療期間の延長による影響を生物学的に補償する新たな技術が確立されました。これにより、臨床現場で頻繁に発生する治療中断の問題に対して、生物学的根拠に基づく高精度な補償計画を迅速に提供することが可能になります。BARTは、がんの放射線治療における治療計画を生物学的に最適化する手段として実用性が高く、今後は他部位への応用や、生物学的な個人パラメータを推定する技術の開発を進める予定です。また、治療中断が複数回発生する場合にも対応できるよう、補償計算の精度向上を目指して研究を進めていきます。   用語解説 #1BD(Biological Dose:生物線量) 生物線量(BD)は、放射線治療における腫瘍や正常組織の反応を評価するための指標で、治療中断などによって生じる生物学的影響を補償するために計算されます。   #2MKM(Microdosimetric Kinetic Model:微視的動力学モデル) 微視的動力学モデル(MKM)は、放射線治療における生物学的影響を計算するためのモデルです。このモデルでは、放射線のエネルギー分布や細胞修復のダイナミクスを考慮し、治療中断によるBDの減少と補償線量の計算を行います。 図1治療中断で不足するBDを補償する新規BARTシステムの概要 表1中断時間による肉眼的腫瘍体積(GTV)および計画標的体積(PTV)の生物学的線量(BED)の変化。中断によってGTV、 PTVともに低下するがBARTにより同等に補償されている。   報道発表資料(391.76 KB) 掲載ジャーナル:Medical Physics 研究者ガイドブック(河原 大輔 准教授)   病院放射線部准教授河原大輔 Tel:082-257-1545FAX:082-257-1546 E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    がん放射線治療の「中断」が起きても治療効果を最大化 ~新規生物学的適応放射線治療(BART)の開発拡張~

    本研究成果のポイント 予期せぬ放射線治療の中断も考慮し、がんの治療計画を再構築するシステム「BART」の効果を拡張しました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科和田拓也博士課程学生、広島大学病院放射線部河原大輔准教授、帝京大学理工学部総合理工学科小金澤明登准教授の研究グループは、放射線治療期間中に生じる中断による治療効果の低下を生物学的に補正する新しい技術を開発しました。 放射線治療では、治療期間の中断・延長によりがん細胞が再増殖し、治療効果が低下することが知られています。しかし、現行の放射線治療装置には、このような時間の経過までは考慮できません。 本研究では、mLQモデル(#2)を用いた補償計算に加え、複雑な3次元BED(#1)分布を扱うための独自アルゴリズムを開発し、BEDを予定されていた分布まで回復させるワークフローを構築しました。 本研究成果は、2025年10月欧州医学物理学会誌「European Journal of Medical Physics」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Compensated biological effective dose in extended radiotherapy course via a time-modified linear quadratic model for biological adaptive radiotherapy   著書 Takuya Wadaa、b、 Daisuke Kawaharab、*、 Akito S Koganezawac、*、 NobukiI manod、 Ikuno Nishibuchib、 Yuji Murakamib   aRadiation Therapy Section、 Department of Clinical Practice and Support、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan bDepartment of Radiation Oncology、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University、 Hiroshima 734-8551、 Japan cRobotics and Artificial Intelligence Course、 Department of Integrated Science and Engineering、 Faculty of Science and Engineering、 Teikyo University、 Tochigi 320-8551、 Japan dDepartment of Radiation Oncology、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan   掲載雑誌 European Journal of Medical Physics   DOI番号 10.1016/j.ejmp.2025.105202   背景 がんの放射線治療は、通常1カ月から2カ月にわたり、毎日少しずつ放射線を照射しますが、長期的な祝日や装置の故障、患者さんの体調不良により、治療を数日間中断せざるを得ない場合があり、その間にがん細胞が再増殖してしまい、治療効果(BED)が低下することが知られています。 臨床現場では、どれくらい放射線を照射するとがんに対しダメージを与えられるのかを「LQモデル」という計算方法で算出します。しかし、LQモデルには「時間の経過」の概念がないため、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのか、低下したBEDに対しどれだけの線量を追加で照射すればもとにもどるのか把握することは難しく、正常組織を守りながら正確に補償することは困難でした。   研究成果の内容 LQモデルに時間の経過の概念を組み込んだ「mLQモデル」という計算方法が存在します。これはLQモデルの計算方法に加え、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのかまで考慮することができます。本研究ではこのmLQモデルを使用し、中断日数に応じて必要な補償係数及び追加線量を部位ごとに自動算出するシステム「BART」を構築し、その効果を検証しました。 頭頸部がん81症例を対象に解析を行った結果、中断が生じた実際の治療期間ではBEDが4-10%低下することが示されました。そこに、本研究で開発したシステムを適応したところ、一度の計算だけで、当初の計画と同等の治療効果を持つ新たな治療計画を作成することが確認できました。また、補償後の周囲のリスク臓器への線量は許容値範囲内に収まることも確認されました。   今後の展開 本研究により、治療期間の延長という臨床現場で頻繁に起こる問題に対し、生物学的な根拠に基づいた高精度な補償計画を迅速に提供することが可能になります。これは、生物学的適応放射線治療の実践的な第一歩であり、今後は他部位への応用、生物学的な個人パラメータの推定などを進め実装を目指します。   用語解説 #1BED(Biological Effective Dose:生物学的実効線量) 放射線治療の効き目を示す生物学的な線量指標である。   #2時間修復LQ(mLQ)モデル 放射線治療期間の延長による腫瘍の再増殖を数理的に捉えるようLQモデルを拡張したもの。中断によるBED低下と補償線量の計算ができる。   #3SIB(Simultaneous Integrated Boost) 複数の標的に異なる線量を同時に照射する放射線治療の技術である。治療効率が高い一方で、BED補償計算は複雑になる。 図1治療中断で不足するBEDを新技術によって元の状態まで回復することを示した比較図。(a)元の理想的な線量、(b)数日中断した線量、(c)2週間中断した線量、(d)我々のシステムで補償した線量 表1治療中断が起きた場合、補償なしでは線量の評価指標が有意に低下するが、補償後は元の線量に回復するため評価指標の有意差が消滅する。中断無しの理想的な線量と補償後の線量が同等であることを示す。   報道発表資料(383.2 KB) 掲載ジャーナル:European Journal of Medical Physics 研究者ガイドブック(河原 大輔 准教授)   病院放射線部准教授河原大輔 Tel:082-257-1545FAX:082-257-1546 E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.01.29
    • 医療/ヘルスケア
    選ばれた接続を強く育てる脳の仕組みを解明 ~小脳神経回路形成におけるmGluR1シグナルの意外な二役~

    ポイント 「勝者」のシナプスを強く育てる司令塔(シグナル)を解明。 「敗者」を除去する分子(mGluR1)が、実は「勝者」の強化にも不可欠であることを発見。 一つのシグナルが「除去」と「強化」を使い分ける、脳の効率的な形成原理を提唱。   概要 北海道大学大学院医学研究院の山崎美和子准教授、帝京大学先端総合研究機構の狩野方伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 名誉教授)らを中心とする、北海道大学、帝京大学、東京大学、広島大学の研究グループは、運動学習や認知機能・社会性を担う小脳*1の神経回路形成過程において、重要な神経接続を強化する仕組みを明らかにしました。 生まれた直後のマウスのプルキンエ細胞*2は、5本以上の登上線維*3とシナプス*4を形成していますが、その後の1週間で1本の線維が選ばれて「勝者」となり、これ以外の線維(敗者)は最終的に除去されます。これまでの研究では、この「勝者」が強化され、樹状突起*5の広い範囲へ支配を拡大する仕組みについてよく分かっていませんでした。 本研究では、マウスを用いた実験により、プルキンエ細胞に豊富に発現する1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)―プロテインキナーゼCγ(PKCγ)に至る伝達経路が、「勝者」のシナプス機能と構造を強化し、樹状突起へと配線を広げるために必須であることを解明しました。これまでに、このシグナル伝達経路は、不要な神経結合(敗者)を除去するために必須であることが分かっていましたが、本研究により、必要な結合を強く育て上げ、勝者と敗者の格差を増強する役割も併せ持つことが初めて明らかになりました。 なお、本研究成果は 2026 年 1月23日(金)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌にオンライン掲載されました。 本研究で解明されたmGluR1シグナルの役割。本研究により、mGluR1-PKCγ経路は、選ばれた「勝者」線維のシナプス構造・機能の強化と、それに続く樹状突起への支配領域の拡大に必須であることが明らかになった。これまでに知られていた「敗者」の除去(シナプス刈り込み)に加え、選ばれた接続を強く育てるという「育成」の役割も併せ持つ。     背景 私たちの脳は、生まれた直後には未完成で、多くの神経細胞が過剰な接続を持っています。その後の発達過程で、必要な神経のつながりだけが選ばれて残され、不要な接続は消えていきます。この仕組みは「神経回路の精緻化」と呼ばれ、記憶や学習、運動の制御など、脳の高度な機能を支える基盤となります。生後間もない時期の小脳では、プルキンエ細胞に複数の登上線維が接続しますが、やがてその中から「勝者」となる1本の登上線維が選ばれ、他の線維(敗者)は次第に排除されます。 本研究グループをはじめとする先行研究により、選ばれた「勝者」の選抜そのものには神経活動は不要であるものの、その後の支配領域の拡大や回路の完成には神経活動(シナプス伝達)が不可欠であり、その過程でシナプス機能と構造も大きく発達することが明らかになっていました。しかし、「具体的にどのような分子シグナルが働いて、この活動依存的な『勝者』の強化スイッチを入れているのか?」という核心的なメカニズムは未解明のままでした。一方で、mGluR1からPKCγに至る細胞内シグナル伝達経路は、これまで「敗者」を除去するためのスイッチとして知られていました。そこで本研究では、この経路が「勝者」の運命にも関与しているのではないかと考え、検証を行いました。   研究手法 本研究では、mGluR1やPKCγを欠損させた全身性の遺伝子改変マウス、及びプルキンエ細胞特異的にmGluR1機能を抑制したマウスを用いて、生後発達期の小脳神経回路を機能と形態の両面から詳細に解析しました。 機能解析としては、電気生理学的手法により、登上線維からプルキンエ細胞へのシナプス伝達の強さや、シナプス可塑性*6(LTP:長期増強*7)を測定しました。   また、形態解析では、以下の三つの点を調べました。 ・支配領域: 神経トレーサーで「勝者」登上線維を可視化し、樹状突起上の広い領域に進展しているかを調べました。 ・微細構造: 連続電子顕微鏡法*8による3次元再構築で、シナプスの立体構造を可視化しました。 ・分子発現: 免疫組織化学法*9により、シナプス伝達を担うAMPA型グルタミン酸受容体*10の発現量を調べました。   研究成果 1. 「勝者」の強化と領域拡大の失敗 mGluR1やPKCγが働かないマウスでは、「勝者」として選ばれた登上線維のシナプス伝達強度が、野生型マウスに比べて著しく弱いことが判明しました(図1)。また、電子顕微鏡観察ではシナプスの構造も小さく、AMPA型グルタミン酸受容体の発現も低いことが分かりました。 そして、本来であればプルキンエ細胞の樹状突起へと進展するはずの「勝者」登上線維が、十分な支配領域を確保できていませんでした(図2)。これらの結果は、mGluR1シグナルが「敗者の除去」だけでなく、「勝者の強化」にも必須であることを示しています。   2. 強化メカニズム(LTP)の解明 さらに、発達期のマウスの小脳スライス標本を用いた実験から、「勝者」の登上線維シナプスでは、mGluR1とPKCγに依存した「長期増強(LTP)」が生じていることを突き止めました。   3. 「一分子二役」による効率的な回路形成 以上の結果から、mGluR1-PKCγシグナルは、単なる「ハサミ(除去役)」ではなく、文脈に応じて「肥料(育成役)」としても機能する二面性を持つことが明らかになりました。脳は限られた種類の分子を巧みに使い分けることで、効率的に神経回路の最適化を行っていると考えられます。   今後への期待 本研究は、脳の発達過程において、不要なシナプスを除去するだけでなく、勝ち残ったシナプスを十分に強化することが、成熟した神経回路の形成に不可欠であることを示しました。mGluR1シグナル伝達経路の機能不全により、よく知られた「不要なシナプスの残存」に加え、「必要なシナプスが神経活動依存的に強化されない」という新たな小脳失調の病態像が示唆されます。本成果は、小脳失調症や発達障害の病態理解を深め、治療標的や介入時期を考える上で重要な知見を提供することが期待されます。   謝辞 本研究はJSPS科研費 JP20H03410、JP22K06784、JP20H05628、JP21H02589、JP18H04012、JP20H05915、JP21H04785の助成を受けたものです。   論文情報 論文名mGluR1 signaling is necessary for strengthening winner climbing fiber inputs in the developing mouse cerebellum(mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である) 著者名山崎美和子1*, 宮﨑太輔2, 橋本浩一3, 武井則雄4, 饗場篤5, 狩野方伸6,7, 8*, 渡辺雅彦1 (1北海道大学大学院医学研究院解剖発生学教室、2北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野、3広島大学大学院医系科学研究科神経生理学教室、4北海道大学大学院医学研究院附属動物実験施設、5東京大学大学院医学系研究科附属 疾患生命工学センター、6東京大学大学院医学系研究科神経生理学分野、7東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)、8帝京大学先端総合研究機構、*共同責任著者) 雑誌名Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)(米国科学アカデミー紀要)(総合科学誌) DOI10.1073/pnas.2425460123 公表日2026年1月23日(金)(オンライン公開)   参考図 図1. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの機能的強化に必須である。 野生型マウスでは、生後発達に伴い「勝者」登上線維のシナプス応答が顕著に増大するが、mGluR1またはPKCγを欠損したマウスでは「勝者」の応答は十分に増大しない。代表的なシナプス応答波形(左)と定量解析(右)は、mGluR1–PKCγシグナルが「勝者」登上線維の機能的強化に必須であることを示している。 図2. mGluR1―PKCγシグナルは「勝者」登上線維シナプスの支配領域の拡大に必須である。 神経標識により可視化した「勝者」登上線維(緑)を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。生後12日の野生型マウスでは、発達に伴い「勝者」登上線維がプルキンエ細胞の樹状突起へと広く進展するのに対し、mGluR1 またはPKCγ 欠損マウスでは、その進展と支配領域の拡大が著しく障害されている。この障害は成体になっても回復しなかった。   用語解説 *1 小脳 … 運動の正確さやタイミングを調整し、動きを滑らかに保つ働きを担う脳の部位。 *2 プルキンエ細胞 … 小脳皮質からの唯一の出力を行う神経細胞。全身の運動の制御やバランスの維持に重要な役割を担う。 *3 登上線維 … プルキンエ細胞に入力し、強力な信号を伝える。生後の発達期に1本が選ばれて残存し、他の線維は除去される。 *4 シナプス … 神経細胞同士が情報を伝えるために接している場所。電気信号や化学物質(神経伝達物質)を使って信号をやりとりする。 *5 樹状突起 … 神経細胞から伸びた枝状の構造で、他の神経細胞からの信号を受け取る働きを持つ。 *6 シナプス可塑性 … 神経細胞どうしのつながり(シナプス)の働きが、活動や経験に応じて変化する性質のこと。 *7 長期増強(LTP) … 神経細胞間のシナプス伝達効率が、刺激に応じて持続的に増強される現象。学習や記憶の細胞レベルでの基盤と考えられている。 *8 連続電子顕微鏡法 … 超高解像度の電子顕微鏡で多数の断面画像を取得し、立体的に細胞の構造を再構築できる技術のこと。 *9 免疫組織化学法 … 特定のたんぱく質を検出・可視化するための手法のこと。抗体と色素を使い、どの細胞や場所に分子が存在しているかを明らかにする。 *10 AMPA型グルタミン酸受容体 … 神経の興奮を伝える主要な受容体の一つで、シナプスの信号伝達の強さに関わる。   報道発表資料(1.33 MB) 掲載ジャーナル:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 研究者ガイドブック(橋本 浩一 教授)   広島大学広報室 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.01.29
    • 医療/ヘルスケア
    ~ウイルスの増殖を予測する~ B型肝炎の治療効果を評価する新たな手法の可能性を見出しました。

    本研究成果のポイント B型肝炎の治療前および治療中において、「肝臓内でのウイルスの増えやすさ」を予測できうる新しい指標を発見しました。 治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。   概要 広島大学病院肝疾患センターの研究チームは、B型肝炎の治療継続や再発予測に関し、従来とは異なるアプローチでの測定を行う方法を発見しました。既存の方法では「肝臓内にどれくらいウイルスが作られているか」という量を測定していましたが、「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を評価する方法を見出し、その効果を検証しました。 本研究は、学術誌「International Journal of Molecular Science(Q1)」に掲載されました。   <発表論文> 掲載誌:International Journal of Molecular Science (MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)、Q1) 論文タイトル:Utility of Serum HBV RNA Measurement During Nucleoside/Nucleotide Analog Therapy in Chronic Hepatitis B Patients 著者名:Keiichi Hiraoka, Masataka Tsuge, Michihiko Kawahara, Hatsue Fujino, Yasutoshi Fujii, Atsushi Ono, Eisuke Murakami, Tomokazu Kawaoka, Daiki Miki, C. Nelson Hayes, Seiya Kashiyama, Sho Mokuda, Shinichi Yamazaki, Shiro Oka DOI: https://doi.org/10.3390/ijms262010141 掲載日時:2025年10月17日   背景 B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスに感染することによって肝臓に炎症が起こる病気で、放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性がある病気です。 B型肝炎ウイルスは、肝臓の細胞にあるcovalently closed circular DNA (以下、cccDNA)というB形肝炎ウイルスの設計図からHBV RNAというB型肝炎ウイルスの部品の材料となるものを作ります。現在使用されている薬はウイルスそのものの量を大きく減らすことは可能ですが、cccDNAからのウイルス性タンパク質の産生は続く場合があり、長期的な病状の進行リスクを完全には抑えられません。そのため、B型肝炎ウイルスの治療薬の効果を評価する上で、単にウイルスの数を減らせるだけでは足りず、別の指標が求められてきました。   上記の新しい指標として、「HBV RNAを血清で測定する方法」が、治療の継続判断や病気の再発予測に役立つ可能性を指摘されていました。これは、血液の成分のひとつである血清の中に、どれくらいHBV RNAが含まれているかを調べる方法です。つまり「肝臓内にどれくらいウイルスがいるか」ではなく「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を測るものです。 本研究ではETVとTAFという代表的な薬剤を用い、上記方法の効果を検討しました。   研究成果の内容 本研究では、B型肝炎の患者さん86人を対象に、治療の「前」と「12週間後」「48週間後」に血液検査を行い、HBV RNAの量を調べました。結果として、HBV RNAが多い人ほど、他の検査の目印(HBs抗原=ウイルスが体にいる目印、HBV DNA=完成したウイルスの数、HBコア関連抗原=活動の強さの目印)も多い傾向があり、HBV RNAは「今後肝臓内でウイルスがどれくらい増えそうか」を示す指標になり得ると分かりました。 また、肝臓が硬くなっている人では、HBV RNAやウイルスそのもの量は低めでしたが、この二つの関係が大きく崩れているわけではないことも示されました。さらに、治療開始から48週の時点では、ウイルスが活発な人で、HBV RNAが相対的に多い傾向が見られました。一方、肝臓の炎症の数値(ALT)が高い人では、治療によってHBV RNAがより下がる傾向も確認できました。 使った薬による違いもありました。ETVとTAFのどちらでも、ウイルスの量は同じくらいよく減りましたが、HBV RNAは治療12週でTAFのほうが早く下がる傾向があり、薬によって違いが出る可能性が示されました。 以上から、HBV RNAを血清で測ることは、治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。   以下、具体的な研究成果です。 本研究は慢性B型肝炎患者86人について、治療前、治療開始後12週、48週の血清HBV RNAを測定しました。治療前のRNAはHBs抗原、HBV DNA、HBコア関連抗原と有意に相関していました。肝線維化が進むほどDNAとRNAは低値となりましたが、RNA/DNA比は変化がありませんでした。治療48週時にはRNA/DNA比がHBe抗原陽性例で有意に高くなり、ALTが100 U/L以上の患者ではRNAが12週・48週で低下する傾向がありました。薬剤別にみると、DNAの減少は両薬剤で大きな差はありませんでしたが、RNAの減少は12週時にTAFで顕著であり、薬剤ごとにRNAの動きが異なる可能性が示されました。これらの結果は、血清HBV RNAが肝臓内ウイルス複製を反映する有用な指標となり得ることを示唆しており、薬剤によるRNAの動的変化が治療戦略に影響を与える可能性を示しています。   今後の展開 本研究ではTAF使用症例が6例と限られており、症例を蓄積させ再検討する必要性があり、また大規模・他施設での検証や、他のNA薬剤の比較、肝機能指標や他のウイルス学的マーカーとの統合的評価が求められます。HBV RNAの減少が臨床的な長期治療成果とどの程度関連しているか、さらなる検証が必要だと考えています。   報道発表資料(448.91 KB) 掲載ジャーナル:International Journal of Molecular Science 研究者ガイドブック(柘植 雅貴 教授)   広島大学大学院医系科学研究科肝臓学柘植 雅貴 Tel:082-257-2023FAX:082-257-2023 E-mail:tsuge@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    • 健康/スポーツ
    2023.10.23
    • 医療/ヘルスケア
    • 健康/スポーツ
    夜勤時の覚醒水準の維持と疲労感の低減を可能とする仮眠のとり方 ~90分間と30分間の分割仮眠と120分間の単相性仮眠の効果~

    研究成果のポイント 夜勤中にとる仮眠は眠気を軽減し、パフォーマンスの維持にも有効であることが明らかになっています。眠りには、急速眼球運動を伴うレム睡眠と伴わないノンレム睡眠の2種類があり、ノンレム睡眠の睡眠段階3は徐波睡眠(深睡眠)と呼ばれ、脳の休息と回復、成長に関与し、入眠後90分程度で最初のレム睡眠が出現し、情報制御に関する点検と更新が行われていると考えられています。その為、入眠に要する時間も加味して疲労の回復には120分間の仮眠が推奨されていますが夜勤中にとる仮眠取得時間は限られています。今回、16時間夜勤(16:00-09:00)を想定し、120分間の仮眠を1回にまとめてとる単相性仮眠と120分間を90分間と30分間に分けてとる分割仮眠と比較した結果、仮眠を分割することで早朝の眠気を抑え、特に疲労感の低減効果に優れていることを明らかにしました。 この研究成果は、長時間夜勤に従事する看護師や、夜間に危険を伴う作業に従事する労働者など、長時間集中力の維持を可能とし、労働者の健康にも有効な仮眠のとり方の確立に繋がることが期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科基礎看護開発学 折山早苗教授は、これまでに看護師の労働環境、特に夜勤時の仮眠について研究し効果を検証してきました。今回、これまでに収集した実験データを再分析し、16時間夜勤を伴う2交代制勤務の看護師の一般的な夜勤の時間帯を想定し120分間の仮眠(22:00-00:00)をまとめてとる単相性仮眠条件1)、90分間(22:30-00:00)と30分間(02:30-03:00)に分けた分割仮眠条件2)、仮眠をとらない仮眠条件3)の3条件を睡眠状態、心拍変動、眠気や疲労感、クレペリン検査による計算数を比較検討しました。   結果、仮眠時の平均の睡眠時間は、120分間仮眠が93.1分間、90分間仮眠が68.4分間、30分間仮眠が20.1分間で、睡眠効率*1の平均はいずれも90%以上、睡眠潜時*2の平均は10分以下でした。仮眠間で統計的な違いを認めませんでした。仮眠時の睡眠状態と仮眠直後の体温、眠気、疲労感、計算数の相関関係から、総睡眠時間が長いと120分仮眠は疲労感が増加し、30分仮眠は眠気が増加することが明らかになりました。また、90分仮眠は睡眠潜時が短いと、体温が上昇し、眠気や疲労感も増加することが示されました。 仮眠をとらない条件は早朝に眠気や疲労感が増加しましたが、仮眠を2回に分けてとった分割仮眠条件が、仮眠を1回にまとめてとった単相性仮眠条件よりも早朝の眠気を抑え、疲労感の低減効果に優れていることを確認しました。本研究成果は、夜間睡眠が限られる長時間の夜勤状況下においては、1回の仮眠をとるよりも2回に分けて仮眠をとる方が、眠気や疲労感の低減に繋がることが示されました。また、仮眠をとる時刻や時間で覚醒時の体温や眠気や疲労感に影響することが明らかになりました。  本研究成果は、夜勤に従事する労働者の疲労感の改善、覚醒水準維持のための有効な仮眠のとり方を開発する基礎資料として役立てられることが期待されます。 本研究成果は、2023年6月18日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。   論文情報 掲載誌:Scientific Reports 論文タイトル:Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study 著者名:Sanae Oriyama 広島大学大学院医系科学研究科基礎看護開発学 DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-023-37061-9   背景 夜勤時にとる仮眠には、記憶力や学習能力の向上、覚醒水準の維持や疲労の改善に効果があります。さらに仮眠は、ヒューマンエラーのリスクを低減することで安全性を高める可能性もあります。 看護師は、患者サービスを24時間提供する職務の性質上、交代制勤務が不可欠です。看護師の交代制勤務で最も長時間の夜勤は16時間とされ、看護師の疲労や眠気の増加による医療安全に対するリスクの増大が危惧されています。こうした状況の中、夜勤時にとる仮眠の効果が注目され、16時間夜勤に従事する看護師の多くは仮眠をとっていますが、眠気や疲労、作業能力を維持するため有効な仮眠のとり方は十分に明らかになっていません。   これまでの仮眠研究は、昼間にとる15分間の仮眠など短時間仮眠の有効性が明らかにされていますが、夜間の仮眠については、120分間以上の仮眠が推奨されています。しかしながら、看護師の勤務は、交代で休憩に入るため、仮眠の取得時刻や時間は一様ではありません。そのため、120分間の仮眠の取得時刻によっては、長時間の夜勤終了時まで効果を持続することは難しい場合もあります。そこで、今回、120分間の仮眠をまとめてとる場合と90分間と30分間に分割して仮眠をとる場合を比較し、仮眠による眠気や疲労感の変化を明らかにしました。   研究成果の内容 本研究は、これまでに実施した実験結果を再分析しました。睡眠に影響する因子として、年齢や女性ホルモンが影響し、夜勤従事者は夜勤慣れが生じると言われています。中高年齢期の睡眠は加齢とともに質が悪くなり、女性では性周期も影響し黄体期に比較的倦怠感が強く、眠気も増加傾向となります。また、看護師の多くが女性であることを考慮し、対象者は、夜勤経験のない大学4年次の女子学生とし、黄体期を避けてデータを収集しました。単相性仮眠条件(仮眠時刻:22:00-00:00)1)を14人、分割仮眠条件(仮眠時刻:22:30-00:00、02:30-03:00)2)12人、仮眠なし条件3)を15人の計41人を対象として仮眠の効果を検証しました。夜勤時間帯を16:00-09:00とし、実験開始から終了まで心拍変動より自律神経活動を確認するためアクティブトレーサー(GMS Inc., Tokyo, Japan)を装着しました。1時間毎に口腔温を測定し、眠気や疲労感の自覚的評価としてVisual analog scaleを使用しました。また、クレペリン検査による1桁の計算を10分間実施しました。毎時間、測定時間を20分間、自由時間20分間、安静時間を20分間としました。なお、前日から実験後までアクチグラフ(Ambulatory Monitoring Inc., Ardsley, NY, USA)を非利き手に装着し、睡眠状況も確認しました。   結果、仮眠時の平均の睡眠時間は、120分仮眠が93.1分間、90分間仮眠が68.4分間、30分間仮眠が20.1分間で、睡眠効率はそれぞれ90.5%、96.2%、99.1%、睡眠潜時は8.6分間、9.3分間、5.8分間で、睡眠効率、睡眠潜時は仮眠間で統計的に違いを認めませんでした。睡眠状態と仮眠直後の体温、眠気、疲労感、計算数の相関関係の結果から、総睡眠時間が長ければ120分仮眠は覚醒時に疲労感が増加し、30分仮眠は眠気が増加することが明らかになりました。また、90分仮眠は睡眠潜時が短いと、覚醒時に体温が上昇し、眠気や疲労感も増加することが示されました(表)。この結果から、22:00に120分間の仮眠をとる場合は120分間よりやや短い時間とする方が覚醒時の疲労感を抑える可能性が示されました。また、22:30に90分間の仮眠をとる場合には、昼間に短時間の仮眠をとり睡眠欲求を低減することが必要かもしれません。さらに、02:30に30分間の仮眠をとる場合も30分間より短時間にすることで、覚醒時の眠気を抑えることができるかもしれません。   仮眠をとらない条件は早朝の04:00-09:00に眠気や疲労感が増加し、計算数も低下しました。計算数については、仮眠をとった条件と仮眠をとらなかった条件で同様に低下しました(図A)が、疲労感は、仮眠を2回に分けてとった分割仮眠条件が、仮眠をまとめてとった単相性仮眠条件よりも04:00-09:00の期間、有意な疲労感の低減効果を認めました(図B)。また、眠気についても、仮眠直後に一時的に増加しましたが、分割仮眠条件は06:00までは眠気が少なく覚醒水準の維持効果を確認しました(図C)。   今後の展開 本研究では、120分間仮眠を90分間と30分間に分割しその効果を確認しましたが、今後は仮眠直後の一時的な眠気や疲労感の増加を防ぐ方法を組み合わせたり、仮眠環境の整備をしたりすることで夜勤時の疲労や眠気を理由に離職する看護師の離職防止にもつなげることが期待されます。 さらに将来的には、看護師だけでなく夜行バスのドライバーや交代制勤務に従事する工場で働く労働者などを対象として、夜勤中に覚醒水準の維持が必要とされる時間帯に合わせた仮眠のとり方を開発することで、労働者の心身の負担軽減と安全安心な職場環境の醸成にも期待されます。   参考資料   用語説明 *1睡眠効率:入眠から起床までの時間帯に占める全睡眠時間の割合(%) *2睡眠潜時:静止期時間帯の始まりから入眠までの時間(分)   報道発表資料(722.01 KB) 掲載誌:Scientific Reports 研究者ガイドブック(折山 早苗 教授)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科基礎看護開発学折山早苗 Tel:082-257-5355 E-mail:oriyama*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.06
    • 医療/ヘルスケア
    歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功 ―痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へ―

    本研究成果のポイント 歯科治療後に起こる顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因を明らかにしました。これまでは「痛みが発症してから抑える」治療法しかなかった病気ですが、今回の研究成果により「痛みを未然に防ぐ予防」への全く新しい治療戦略が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学の麻 思萌 現・育成助教(当時・大学院生)、中村 庸輝 助教、中島 一恵 助教、森岡 徳光 教授の研究グループは、歯科治療後にまれに起こる強い顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因と予防法を、マウスを使った実験で明らかにしました。神経が傷つくと「HMGB1」という物質が放出され、それが「RAGE」という受容体と結びつくことで、炎症が起こり、痛みが慢性化することがわかりました。研究では、神経損傷の直後にRAGEの働きを止める薬を神経の近くに投与することで、痛みの発症を完全に防ぐことに成功しました。さらに、この薬は神経の周囲だけでなく、脳内の痛みを増幅させる細胞の働きも抑えることが確認されました。これにより、従来の「痛みが発症してから抑える治療」から「痛みを未然に防ぐ予防」への新しい治療戦略が期待されています。今後は人への応用に向けて、安全性や効果の検証が進められます。     背景 私たちの顔には、三叉神経という神経が通っています。これは、顔に触れたときの感覚(温度や痛みなど)を脳に伝える役割を持っていますが、親知らずの抜歯やインプラント治療などの歯科治療時、偶発的に三叉神経が傷ついてしまうことがあります。これが原因となり、食事や会話、洗顔といった日常のわずかな刺激で耐え難い激痛が走る「外傷後三叉神経ニューロパチー」という病気を発症することがあります。この痛みは、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、うつ病や不安障害を引き起こすこともあります。 これまで、この痛みに対する治療は抗てんかん薬や抗うつ薬などの薬物療法が中心でしたが、効果は限定的で、めまいや眠気といった副作用も大きな課題でした。さらに、痛みが慢性化するのを未然に防ぐための有効な予防法は確立されておらず、神経損傷のリスクがある患者に対する新たな予防戦略の開発が強く求められていました。     研究成果の内容 本研究グループは、外傷後三叉神経ニューロパチーにおいてどのようなメカニズムで痛みが発生するのかを解明し、そしてその予防法を確立することを目指しました。 そもそも、「痛み」を人間が感じるメカニズムの一つとして、「HMGB1」と「RAGE」という物質が関わっています。HMGB1は細胞の中にあるたんぱく質の一種で、RAGEは細胞の表面にある受容体(センサーのような役割)です。HMGB1は細胞の中にあるので、細胞が傷つくと外に出てきます。すると、それを感知したRAGEが「体に異常がおきている」と判断し、炎症反応を引き起こします。このようなメカニズムから、HMGB1は「痛みの警報物質」とも呼ばれています。 そこで私たちは、RAGEがHMGB1を感知する前に、その働きを弱めることができれば、痛みを軽減できるのではないかと考えました。まず、歯科治療後に起こる痛みを再現するために、マウスの顔の神経を傷つけたマウスモデル(眼窩下神経を損傷したモデル)を作製しました。その後、一部のマウスにのみ、神経を傷つけた直後(当日と2日後)に、RAGEの働きを阻害する薬物(RAGE阻害薬)を、傷つけた神経の周辺に直接投与しました。その結果、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、顔を頻繁にこすったり、冷たい刺激に対する強い反応といった症状が、雄雌ともに確認されました。これに対し、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、これらの痛みの行動が全て、性別に関わらずに抑制されました(図1)。この結果は、RAGEの働きを初期段階で弱めることが、痛みを防ぐ上で重要であることを示しています。 図1:RAGE阻害薬の予防投与による痛み様行動の抑制効果 神経損傷マウスにRAGE阻害薬を予防的に投与した際の、痛みの強さを示す行動の変化。(左)自発的な痛み(顔を毛繕いする時間)と(右)冷たい刺激に対する痛み反応を評価した結果。神経損傷のみのマウス(黒)では、対照マウス(白色)に比べて痛みの行動が著しく増加しましたが、RAGE阻害薬を投与したマウス(灰色)では、これらの痛みの行動が有意に抑制されました。本図は雄マウスのデータですが、雌マウスにおいても同様の抑制効果が確認されています。(本研究成果の論文中の図を改変) ここまでで、RAGEの働きを弱めると痛みが抑制されることが分かりましたが、次に、この痛み予防効果の背景にあるメカニズムを解明するため、免疫細胞の活動を詳細に解析しました。まず、マウスの傷つけた神経の周辺を調べたところ、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、炎症を引き起こす主要な免疫細胞である「マクロファージ」が過剰に集まっていることが確認されました。しかし、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、このマクロファージの集まりが劇的に抑制されていました(図2)。 図2:RAGE阻害薬による神経損傷部位でのマクロファージ集積の抑制効果 損傷した三叉神経の周囲に集まる免疫細胞「マクロファージ」の様子(白色部分)。対照マウス(左)と比較して、神経損傷のみのマウス(中央)ではマクロファージが過剰に集積し、強い炎症反応が起きています。一方、RAGE阻害薬を投与したマウス(右)では、このマクロファージの集積が大幅に抑制されていることが分かります。(本研究成果の論文中の図を改変) さらに、神経からの痛みの情報が脳に伝わる最初の中継地点である「脳幹(三叉神経脊髄路核尾側亜核)」に注目しました。すると、神経が傷ついたことに反応して、脳幹に存在する免疫細胞「ミクログリア」が活性化し、その細胞数が異常に増加していることが分かりました。これは痛みの信号が増幅され、慢性化する「中枢性感作」と呼ばれる現象の証拠です。驚くべきことに、末梢神経周辺に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化をも抑制していました(図3)。 図3:RAGE阻害薬による脳幹でのミクログリア活性化の抑制効果 痛みの情報が脳に伝わる中継地点「脳幹」における免疫細胞「ミクログリア」の様子(白色部分)。対照マウス(左)のミクログリアは活動が穏やかな「休止状態」ですが、神経損傷のみのマウス(中央)では、細胞が大きく形も変化した「活性化状態」になっています。末梢神経に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化も強く抑制しました(右)。(本研究成果の論文中の図を改変) これらの結果から、 ①神経が傷ついた時に放出されたHMGB1がRAGEに結合し、 ②末梢神経でマクロファージによる過剰な炎症を引き起こし、 ③その情報が脳幹に伝達されてミクログリアを活性化させ、痛みを慢性化させる、 という一連のメカニズムが明らかになりました。 そして、神経損傷の直後にRAGEの働きを阻害することで、この負の連鎖を断ち切り、痛みの発症を未然に防ぐことができるという、全く新しい予防戦略の有効性が示されました。     今後の展開 今後は、ヒトでの臨床応用を目指し、安全性と有効性の検証を進めていきます。本研究で標的とした受容体「RAGE」は、アルツハイマー病など他の疾患の治療標的としても研究が進められており、それらの治療薬として開発された薬剤を応用することで、本予防法の早期実用化が期待されます 。また、本予防法は損傷した神経の周辺に薬剤を局所投与するため、全身性の副作用を低減できる可能性も秘めています。 本予防戦略は、歯科治療後の顔面痛だけでなく、様々な難治性疼痛へも展開できる可能性があるため、将来的にはより幅広い医療分野において、痛みの「治療」から「予防」へのパラダイムシフトを促すものと期待されます。     参考資料 掲載誌:Biochemical Pharmacology 論文題目:Preventive effect of RAGE antagonists on distal infraorbital nerve injury-induced pain behaviors of male and female mice 著者: Simeng Ma, Yoki Nakamura*, Takahiro Kochi, Suzuna Uemoto, Yume Miura, Zhaojing Wang, Kazue Hisaoka-Nakashima, Norimitsu Morioka* 掲載日:2025 年 12 月 (オンライン先行公開日:2025 年 8 月 14 日) DOI:10.1016/j.bcp.2025.117242 本研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   【プレスリリース】歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功ー痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へー.pdf(1.03 MB) 掲載誌:Biochemical Pharmacology 研究者ガイドブック(中村 庸輝 助教)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 助教中村庸輝 Tel:082-257-5312 E-mail:nakayoki@hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 教授森岡徳光 Tel:082-257-5310FAX:082-257-5314 E-mail:mnori@hiroshima-u.ac.jp

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    2025.08.21
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    噴霧法を用いたMOF分離膜の高速製膜手法

    この研究成果は、2025年8月21、22日に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催の大学見本市2025~イノベーション・ジャパンに出展しました。   技術概要金属有機構造体(MOF)の前駆体溶液を加熱基板上に噴霧することでMOF分離膜を短時間で製膜する手法を開発しました。従来複数ステップが必要で製膜まで24時間以上かかるMOF分離膜製造を、本手法ではワンステップかつ1時間程度の短時間で行うことを可能としました。さらに大面積で多様な基板上に表面修飾などせずに製膜可能です。本手法で作製したMOF分離膜によるナノろ過はMOF固有の細孔径に応じた分子量カットオフを示し、溶媒透過係数も従来のMOF分離膜と比べ10倍以上優れたナノろ過特性を示しました。   Metal-organic framework (MOF) 金属イオンと有機配位子の配位結合で構成される結晶性多孔質材料 無数の組み合わせで十万を超える結晶構造 従来の多孔質材料と比べて 高い比表面積(最大7,000 m2/g) 細孔径の精密制御 柔軟な骨格 様々な応用 吸着・分離(特にCO2貯蔵・分離) 触媒 センサーなど 代表的なMOF構造例 従来の膜作製方法との比較 MOF薄膜は特に気相および液相での分離膜としての応用が期待される。 しかしMOF薄膜作製には複数ステップが必要で製膜時間も長い、大面積の膜を作ることが困難である。 本手法はこれらの問題を解決する手法である 従来の膜作製方法との比較 MOF分離膜を短時間(数分)で作製可能な噴射法 ナノろ過分離膜としての応用 nmスケールの分子を分離するナノろ過応用にて、優れた分子ふるい特性を示した。さらに従来MOF膜よりも10~100倍以上高い溶媒透過係数を示した。 様々な基板上に薄膜作製可能 大面積薄膜の作製 作製したHKUST-1膜の分析 【作製条件: Si基板、加熱温度130℃、60秒噴霧(液量0.15mL)】   HKUST-1薄膜は直径約1μmの粒子で構成されていた。 各粒子の境界は明確ではなく、粒子間外空隙が少ない。 低倍率SEM画像では、薄膜に亀裂が少ないことがわかる。 断面SEM画像から、薄膜の厚さは32±0.8μmで均一であった。 噴霧時間(液量)の影響 【作製条件: Si基板、加熱温度130℃】 噴霧時間が長く(噴霧液量が多く)なると 結晶量が増えピーク増大 粒子径も大きく成長 膜厚は噴霧時間に比例   噴霧時間(液量)で膜厚制御可能 多層カーボンナノチューブとの複合、自立膜形成 多層カーボンナノチューブを添加しMWCNT/HKUST-1複合膜を作製 MWCNTによって粒子間が架橋されている様子を確認 剥離することで自立したMWCNT/HKUST-1薄膜の作製に成功   M. Kubo et al., icroporous Mesoporous Mater. 312, 110771 (2021).   研究者 久保 優 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 食料/農林水産業
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 食料/農林水産業
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    • バイオエコノミー
    未培養微生物を資源化する革新的培養技術

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、ゲルマイクロドロップレットを活用し、難培養微生物の資源化する革新的スクリーニング手法である。具体的には、難培養微生物を可培養化する新規培養技術と、10⁸個という膨大なサンプル数から目的活性を有する微生物を評価・選別する、ハイスループットスクリーニング手法を組み合わせることで実現する。   従来技術・競合技術との比較従来の分離培養技術では環境微生物のうち1%程度しか培養できないが、本手法では50%という微生物学の常識を覆す割合の微生物が可培養化される。また、従来のドロップレット培養技術では、培養菌体の活性や機能評価は極めて困難であったが、本技術では、多様な機能を対象に評価することを可能にする。   新技術の特徴 10⁸個という極めて多数の独立した培養系の機能評価が可能 新規酵素、化合物変換活性、特定物質生産活性、抗菌活性、特定遺伝子阻害活性など多様な評価に対応可能 従来法では培養できない未培養・難培養微生物も評価・利用可能   想定される用途 未培養・難培養微生物の資源化(創薬資源) 未培養・難培養微生物の資源化(農業・食品・化学分野) 変異株ライブラリーを用いた超高速スクリーニング   ほとんどの微生物は未培養・培養困難 未培養微生物の資源化におけるボトルネック 目的:GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 難培養微生物の可培養化 ドロップレット技術を活用した新規分離培養手法の開発 ー GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)   難培養微生物の資源化 ドロップレット技術を活用した新規スクリーニング手法の開発 ー 難培養微生物の可培養化と機能・活性ベースのスクリーニングを同時に実現   ゲル微粒子(GMD)の凝集培養を用いた未培養・難培養微生物の可培養化 GMD凝縮培養の手順 A Micro-colony in GMDs GMD培養中における増殖の追跡:可培養化率(Cultivability) GMD培養の期間中どのようなタイプが増殖しているのか? まとめ:GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)の培養性能 GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 革新的なハイスループットスクリーニング手法の開発 目的:108個のGMD全てを供試可能な超ハイスループットスクリーニング手法の開発 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 抗菌物質生産菌をターゲットにしたスクリーニング系の構築 Proof of Concept :モデル系を用いた実証試験 結果 環境微生物からの抗菌活性スクリーニング 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 酵素活性(セルラーゼ活性)を指標としたスクリーニング系の構築 環境微生物の可培養化と酵素活性(セルラーゼ活性)の検出 結論と展望 実用化に向けた今後の課題 目的の機能を有する新規微生物を獲得する 多様な機能を検出可能なスクリーニング系の構築 実用的なターゲットで方法論の有効性を実証する   難培養微生物を可培養化(従来アクセスできなかった微生物を利用可能) 超ハイスループット(108株を短時間で機能評価することが可能) 多様な機能(抗菌、酵素活性など)を指標とした探索に適用可能 環境微生物、変異株ライブラリーなど、様々な生物種に適用可能   本技術の創出に寄与した外部資金科研費 基盤研究(B)25K01934 新学術領域研究 (研究領域提案型)22H04887 新学術領域研究 (研究領域提案型) 20H05587 基盤研究(B)19H02873 若手研究(A)26709063   NEDO NEDO カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発   財団 内藤記念科学振興財団 研究助成 シオノギ感染症研究振興財団 研究助成   本技術に関する知的財産権 発明の名称:微生物の分離培養方法及び擬集体含有溶液 出願番号:特願願2015-196882(特許第6785465) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、高木雄貴、大橋晶良   発明の名称:スクリーニング方法および溶液 出願番号:特願2023-139257(PCT/JP2024/010423) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、下村有美、新山海   研究者青井議輝 広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授

    • 介護/福祉
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    2025.10.23
    • 介護/福祉
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    脳生体ダイナミクスを捉える摂食嚥下機能リモート評価訓練システムの開発

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要嚥下は反射・随意運動と認知機能が複雑に関連して診断と訓練が行える施設が限られる。末梢交感神経を血管のかたさ(末梢血管剛性)で評価する独自のシーズ技術により、水蒸気のネブライザーでも喉頭感覚の評価と嚥下訓練が可能となり、水飲み動作と認知機能課題を組み合わせることによって嚥下障害の推定を可能とした。また、起立台と組み合わせて30度挙上という低負荷試験でも自律神経活動が評価でき、訓練に応用できることも確認した。   従来技術・競合技術との比較不顕性誤嚥と嚥下機能の評価は侵襲的で特殊な機器を使う嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が一般的。嚥下音だけのウエアラブル検査装置は不顕性誤嚥の評価が困難であり、咳テストは認知機能や自律神経は評価できない。   新技術の特徴 認知・運動・嚥下機能を自律神経活動の変化から非侵襲的に評価(見える化)できる 家庭や施設など専門家不在の状況でも、摂食・嚥下機能と認知機能を調べて訓練できる可能性がある ネブライザー(吸入器)と起立台(ヘッドアップチルト)の侵襲性を低減して対象者を拡大できる可能性がある   摂食嚥下障害の社会的位置づけ 70歳以上高齢者の4人に1人が嚥下困難を自覚 脳卒中患者の4~8割に嚥下障害あり 440万人の認知症の半数に摂食障害と嚥下障害 令和4年の誤嚥性肺炎の死亡5.6万人 肺炎の医療費:2327億円/年 嚥下障害は重症化して肺炎に至るまで気づきにくく、栄養状態を悪化させて虚弱状態(フレイル)を招き、筋力低下による転倒、認知症、うつ病などのリスクを増大させる 令和3年の介護保険要介護・支援677万人 脳を起点とした感覚と摂食・嚥下機能 不顕性誤嚥と誤嚥性肺炎従来技術とその問題点 末梢交感神経活動の非侵襲的評価法 末梢血管剛性で嚥下を見える化 自律神経活動の評価法従来技術とその問題点 自律神経活動の一般的な評価方法にヘッドアップチルト試験がある。 頭側を60~70度挙上させると血液が下肢に移動して血圧が下がる。脳血流を維持するために交感神経が働いて脈拍が上がり、末梢血管が収縮して血圧を維持しようとする。この現象を利用して交感神経活動を評価するが、通常は心拍変動で評価する。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 挙上角度が30度であれば、起立性低血圧のリスクは低く、ほぼ大部分の患者に行うことができるが、心拍の変動がほとんど抽出できないことから自律神経活動の評価は難しい。 末梢血管剛性による自律神経活動の評価 30度ヘッドアップチルト:患者と健常者の比較 患者16名(脳疾患等)に対して30°ヘッドアップチルト試験を行い、 健常者21名と比較   脳疾患などの患者に対して末梢血管剛性を用いると30°挙上の低負荷ヘッドアップチルト試験で自律神経(末梢交感神経)活動の評価ができる 30度ヘッドアップチルト:嚥下障害との関連性 蒸留水の吸入で喉頭感覚の見える化 蒸留水吸入で喉頭感覚の見える化と訓練 研究の全体像 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術の問題点であった嚥下に関連する感覚認識の客観的な評価が、末梢血管剛性を用いることで可能となった。 従来は不顕性誤嚥を嚥下内視鏡検査や刺激物の吸入で咳を誘発して喉頭感覚を調べる方法に限られていたが、末梢血管剛性によって低侵襲の蒸留水の吸入で評価・訓練できる。 末梢血管剛性によって、低負荷の30度ヘッドアップチルトで交感神経活動が評価・訓練できる。 本技術の適用により、慢性的なストレス社会で増加する心筋梗塞、うつ病などの原因となり、糖尿病やパーキンソン病にも併発しやすい自律神経失調症状を、誰でも気軽にチェック出来るようになることが期待される。   想定される用途 外来や入院で摂食・嚥下障害に対して評価と訓練をする時に使用。 入院してリハビリを行って何とか飲み込めるようになった嚥下機能を自宅や施設で維持したい。 嚥下機能や認知機能が気になって、自宅や施設で調べて、少し訓練もしたい時。   実用化に向けた課題 現在、ヘッドアップチルト試験あるいは嚥下機能検査で末梢血管剛性データを同時取得が可能なところまで開発済み。しかし、摂食嚥下機能・脳活動と末梢交感神経活動との関連性を明らかにする点と末梢血管剛性の計測装置の簡素化が未解決である。 今後、嚥下障害患者の脳病変・高次脳機能データを取得し、末梢血管剛性との関連性解析を行う。 実用化に向けて、末梢血管剛性の簡素化に向けた技術を確立する必要もあり。   社会実装への道筋 企業への期待 未解決の計測装置の簡素化については、末梢血管剛性の推定アルゴリズム、連続血圧波形の計測システムの修正により克服できると考えている。 ネブライザー、チルトベッド(起立台)、嚥下障害検査・訓練の技術を持つ、企業との共同研究を希望。 また、嚥下障害関連製品を開発中の企業、自律神経・ストレス分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。   企業への貢献、PRポイント 本技術は摂食・嚥下障害が、末梢血管剛性と蒸留水吸入を組み合わせることで、施設・一般家庭でも簡単にできる、従来にない製品開発の可能性があります。 30度ヘッドアップチルトでの自律神経評価は、多くの病院・クリニックでも行えて汎用性があります。 本技術は自律神経活動の異常が関連する多くの疾患やストレ ス関連分野など、応用範囲が広いです。 人の「脳活動」「こころ」の変化を見える化できることから、 スマホ社会の新たなアプローチになる可能性があります。   本技術に関する知的財産権 発明の名称 :嚥下能力評価装置、嚥下能力評価装置の作動方法及びプログラム 出願番号 :特願2025-077839 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :濱聖司、辻敏夫、山脇成人   産学連携の経歴 2社と各々1年ずつ共同研究実施 平成24年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業4社 平成25年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業5社 2021年度 JST研究成果展開事業A-STEPトライアウトタイプに採択 2022年-2025年 JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同<育成型> 10年以上にわたり、2社と共同研究実施   研究者濱聖司 脳・こころ・感性科学研究センター 特任准教授

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    2025.10.23
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    従来法では困難な(100)面露出 高比表面積α-MoO3の合成

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要従来の水熱合成や固相合成などの酸化物合成手法では、前駆体構造を保持することができないため、最終生成物の構造や露出面を制御することは極めて困難であった。本技術は前駆体の構造を保持したまま次元性を逐次的に増加させる新規合成手法であるため、従来法では困難であった準安定なα-MoO3を合成することに成功した。   従来技術・競合技術との比較従来のα-MoO3合成手法では熱力学的に安定な(010)面が主に露出するため、触媒反応活性に乏しく、また比表面積も小さい。本手法で合成したα-MoO3はルイス酸点が豊富な(100)面が主に露出しており、かつ比表面積も大きい(>30 m2/g)ため、優れた酸触媒活性を示す。   新技術の特徴 グラムスケール合成可能 高比表面積 (100)面の露出   想定される用途 参照試薬としての販売 触媒 電極材料   酸化モリブデン 研究の動機 従来法と本手法の違い 合成戦略 1次元構造を有するα-MoO3の合成 構造の比較 1の結晶形態 1のキャラクタリゼーションとDMFの脱離 1の焼成 1300–600のキャラクタリゼーション 1300–600の吸着特性 1300–600を用いた触媒反応 マイクロファイバー(1300–600)の結晶形態 マイクロファイバー(1300–600)の露出面 マイクロファイバー(1300)の露出面 マイクロファイバー(1300)の断面図 マイクロファイバー(1300)の階層的構造 本技術の特徴・従来技術との比較 実用化に向けた課題 企業への期待 合成プロセスの自動化やスケールアップ 参照試薬としての販売 触媒用途の調査や実用化   基礎研究(合成、触媒反応開発、電極材料開発)は自分で掘り下げたいが、高性能化や実用化は企業にゆだねたい   企業への貢献・PRポイント 大量合成可能(サンプル提供可能) 高比表面積 従来法では合成できない(100)面露出の酸化モリブデン 研究成果は化学分野で権威ある学術誌に受理かつHot paperに選出され、国際的にも注目されている T. Minato et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2025, 64, e202506758 本技術に関する知的財産権 発明の名称 :モリブデン酸化物 出願番号 :特願2025-101705 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者:湊 拓生   研究者湊 拓生 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    経口摂取により暑熱耐性能を誘導しうる 微細藻類

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、特定の藍藻による動物の暑熱耐性誘導に関するものである。当該藍藻を含む飲食品組成物摂食により、動物の体温を摂餌に至適な範囲に調整可能である。結果、高温化であっても動物の食欲は維持され得る。本技術は、当該藍藻の体温調節機能を利用した、ヒトおよび畜産・愛玩動物等に暑熱耐性を付与する技術である。   従来技術・競合技術との比較近年の夏場の高温による畜産動物の暑熱ストレス回避技術として、空調設備の導入、換気扇等による強制換気、遮光ネット等による遮光等が試行されているが、大きなコストを要する。一方、我々の技術では既存設備下で、動物の生育・体調維持に繋がり、前記コスト面での問題は解消できるものと考える。また、当該藍藻は栄養的にもタンパク質・脂質含有量が他の藍藻類に比べて多い。また、当該藍藻はそれ自体が顕著な高温耐性を有するため、高温下でも培養破綻が起きにくく、他の藍藻類よりも安定した供給が可能である。   新技術の特徴 当該藍藻を含む飼料の摂取により、暑熱区飼育のカエル(変温動物)の高温耐性能が向上、また暑熱区飼育のニワトリ(恒温動物)の暑熱ストレスが減少 少ない配合量で顕著な効果を発揮(ニワトリの場合) 培養から製品化までのプロセスが低エネルギーかつカーボンニュートラル   本技術の概要 地球温暖化によって畜産物、水産物、ペットなどへの高温ストレスが高まり、生産リスク、健康リスクが上昇。 温泉という極限環境に生息する両生類「温泉ガエル」の餌資源として藍藻(シアノバクテリア)を発見。 オタマジャクシの高温下での生存率の上昇、鳥類(ニワトリ)での高温ストレス低減効果を確認。   地球温暖化と食料生産リスク 過去10万年(最後の間氷期以降)最も急速な全球的温暖化が進行中 「温泉ガエル」と餌資源としてのシアノバクテリアの発見 琉球列島に広範に分布する「リュウキュウカジカガエル」と本州、九州、四国などに生息する「カジカガエル」の、温泉に生息する集団を発見し、藍藻(シアノバクテリア)を食していることを見出した。   MinIONを使ったDNA解読 Oxford Nanopore Technologies社のシーケンサー(DNA解読装置)MinIONを使ってPCR産物・ゲノムDNAを解読。 オタマジャクシ腸内容物の16Sシーケンス(大きな分類) 腸内に存在する微生物群を分類し分析。   温泉藻(秋田県湯沢市・川原の湯っこ)の単離培養 新種シアノバクテリアのゲノム解読 約630万塩基対の環状ゲノムを解析。 タンパク質コード遺伝子:約6300 特徴として、 窒素代謝関連遺伝子が多い 遷移金属イオン結合遺伝子が多い   ネッタイツメガエル幼生の摂餌試験と高温下生存率 ネッタイツメガエル幼生に対して藻類を給餌。高温環境下において生存率が向上。 ニワトリに対する飼料添加と暑熱ストレスへの影響 供試動物:産卵鶏 (Julia Lite) 雄ヒナ、12L12D 試験区:2×3の完全要因配置 2種類の環境温度 (室温or暑熱) ×3種類の試験飼料(微細藻類粉末を飼料に対して乾物あたり0, 1, 2%添加) 供試羽数:各区5羽(5×2×3 = 合計30羽) 温度管理:D0で30℃、その後D4まで2日間ごとに1℃低下させる 暑熱区:D5より、9:00から2時間かけて38℃まで加温し、17:00から2時間かけて29℃まで減温 (サイクリック) 通常温度区:D5より27℃   試験スケジュール 産卵鶏雄ヒナの羽数、摂食量と藻類粉末重量 (70 g)から計算した最長の試験期間を設定 測定項目体重、日増体量、摂食量、飼料要求率、直腸温 D7に暑熱区の個体を動画撮影し、3分間あたりのパンティング(口を開け、 喉または背中を小刻みに動かす呼吸をパンティングと定義)時間を計測。   結果1 直腸温に藻類飼料添加の影響が認められた。 直腸温に藻類飼料添加と環境温度との交互作用が認められた。 (統計的有意差はないものの)増体量、摂食量も改善。   結果2 パンティング sec./180 sec. †: 0%添加区と比較してP

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    2025.10.23
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    トポロジー理論を用い、 編物の強靭性を高める

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要編物の強靭性はその編物を構成する糸の素材に強く依存するが、利用可能な素材は編物の用途に応じて限定される。編物を構成する糸の素材ではなく、編物を構成する編み目等の構造の選択によって、編地の機械的強度を高めることができれば、素材が限定された場合でも編物の強靭性を高めることができる。   本技術はトポロジー理論に基づいて編み目の構造を選択し、強靭性の高い編地を提供するものである。     従来技術とその問題点 編物の強靭性はその編物を構成する糸の素材に強く依存する 従来、編物の強靭性等の機械的性質について、編み目構造レベルでの研究が行われている 編物の機械的性質に係るメカニズムについては解明されていない → 素材依存による強度の限界 → 利用可能な素材は編物の用途に応じて限定される → 素材選択でコスト増・用途制限・耐久性不足が発生   新技術の特徴・従来技術との比較素材ではなく構造設計で編物の強靭性を付与   トポロジー(位相幾何学)理論で構造設計 素材依存によらず強靭性付与 素材選択の自由度の拡大 素材選択に制約が有っても強靭性向上可能 →軽量・高強度・コスト削減の実現   新技術について編物の機械的性質に係るメカニズムの解明 トポロジー(位相幾何学)的に同一である糸同士の絡み構造の編物は、高い強靭性を有し、局所的な破断や劣化を抑制することが可能 編地の素材となる糸の性質に依存することなく、編地の機械的特性を高めることができる 素材のコストを低減しつつ、編地およびこれを用いる編物の機械的強度を向上させることができる   トポロジー的に同一とは 図形や空間の連続的な性質に着目する位相幾何学の観点から同じ形であることを表し、切ったり貼り合わせたりすることなく、物体の形を自由に伸ばしたり縮めたりねじったりして同じ形にできる ことをいう 編地を構成する糸同士の絡み構造についてトポロジー的な同一性を考える それぞれの絡み構造について、空間的なつながり方が同じであることを、トポロジー的に同一であるという   編み物や織物は結び目が二次元に広がった構造をしている   結び目は右手、左手のキラリティを持つ場合がある   複数の結び目はキラリティが同じ場合と異なる場合がある   加わる力、エネルギーとキラリティの関係   引張試験の結果 同じ素材で作られた編物でも絡み構造の違いによって機械的強度が異なる   想定される用途 安全・安心社会への貢献 (防弾チョッキ、防刃ベスト、消防服、作業着等) 輸送・モビリティ分野 (材料の軽量化、タイヤ、シートベルト等) 環境・持続可能性 (リサイクル材料の高強度化、長寿命の布地等) その他の展開可能性 (スポーツ用品、医療用素材 等) 企業様への貢献 用途別最適設計、規格適合化、量産プロセス等の共同研究による貢献 共同研究、ライセンス、委託研究、技術者・研究者受入、技術指導等に柔軟に対応可能 軽量・高強度・コスト削減への貢献 新素材研究との相互補完 新市場開拓、環境対応などへの貢献   本技術に関する知的財産権 2025年9月16日 特許出願済み 出願人:広島大学、早稲田大学 発明者:井上克也 他2名   研究者井上克也 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

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