脳生体ダイナミクスを捉える摂食嚥下機能リモート評価訓練システムの開発
この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。
新技術の概要 嚥下は反射・随意運動と認知機能が複雑に関連して診断と訓練が行える施設が限られる。末梢交感神経を血管のかたさ(末梢血管剛性)で評価する独自のシーズ技術により、水蒸気のネブライザーでも喉頭感覚の評価と嚥下訓練が可能となり、水飲み動作と認知機能課題を組み合わせることによって嚥下障害の推定を可能とした。また、起立台と組み合わせて30度挙上という低負荷試験でも自律神経活動が評価でき、訓練に応用できることも確認した。
従来技術・競合技術との比較 不顕性誤嚥と嚥下機能の評価は侵襲的で特殊な機器を使う嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が一般的。嚥下音だけのウエアラブル検査装置は不顕性誤嚥の評価が困難であり、咳テストは認知機能や自律神経は評価できない。
新技術の特徴
- 認知・運動・嚥下機能を自律神経活動の変化から非侵襲的に評価(見える化)できる
- 家庭や施設など専門家不在の状況でも、摂食・嚥下機能と認知機能を調べて訓練できる可能性がある
- ネブライザー(吸入器)と起立台(ヘッドアップチルト)の侵襲性を低減して対象者を拡大できる可能性がある
摂食嚥下障害の社会的位置づけ
- 70歳以上高齢者の4人に1人が嚥下困難を自覚
- 脳卒中患者の4~8割に嚥下障害あり
- 440万人の認知症の半数に摂食障害と嚥下障害
- 令和4年の誤嚥性肺炎の死亡5.6万人
- 肺炎の医療費:2327億円/年
- 嚥下障害は重症化して肺炎に至るまで気づきにくく、栄養状態を悪化させて虚弱状態(フレイル)を招き、筋力低下による転倒、認知症、うつ病などのリスクを増大させる
- 令和3年の介護保険要介護・支援677万人




自律神経活動の評価法 従来技術とその問題点
- 自律神経活動の一般的な評価方法にヘッドアップチルト試験がある。
- 頭側を60~70度挙上させると血液が下肢に移動して血圧が下がる。脳血流を維持するために交感神経が働いて脈拍が上がり、末梢血管が収縮して血圧を維持しようとする。この現象を利用して交感神経活動を評価するが、通常は心拍変動で評価する。
- 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。
- 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。
- 挙上角度が30度であれば、起立性低血圧のリスクは低く、ほぼ大部分の患者に行うことができるが、心拍の変動がほとんど抽出できないことから自律神経活動の評価は難しい。

30度ヘッドアップチルト:患者と健常者の比較
患者16名(脳疾患等)に対して30°ヘッドアップチルト試験を行い、
健常者21名と比較
脳疾患などの患者に対して末梢血管剛性を用いると30°挙上の低負荷ヘッドアップチルト試験で自律神経(末梢交感神経)活動の評価ができる




新技術の特徴・従来技術との比較
- 従来技術の問題点であった嚥下に関連する感覚認識の客観的な評価が、末梢血管剛性を用いることで可能となった。
- 従来は不顕性誤嚥を嚥下内視鏡検査や刺激物の吸入で咳を誘発して喉頭感覚を調べる方法に限られていたが、末梢血管剛性によって低侵襲の蒸留水の吸入で評価・訓練できる。
- 末梢血管剛性によって、低負荷の30度ヘッドアップチルトで交感神経活動が評価・訓練できる。
- 本技術の適用により、慢性的なストレス社会で増加する心筋梗塞、うつ病などの原因となり、糖尿病やパーキンソン病にも併発しやすい自律神経失調症状を、誰でも気軽にチェック出来るようになることが期待される。
想定される用途
- 外来や入院で摂食・嚥下障害に対して評価と訓練をする時に使用。
- 入院してリハビリを行って何とか飲み込めるようになった嚥下機能を自宅や施設で維持したい。
- 嚥下機能や認知機能が気になって、自宅や施設で調べて、少し訓練もしたい時。
実用化に向けた課題
- 現在、ヘッドアップチルト試験あるいは嚥下機能検査で末梢血管剛性データを同時取得が可能なところまで開発済み。しかし、摂食嚥下機能・脳活動と末梢交感神経活動との関連性を明らかにする点と末梢血管剛性の計測装置の簡素化が未解決である。
- 今後、嚥下障害患者の脳病変・高次脳機能データを取得し、末梢血管剛性との関連性解析を行う。
- 実用化に向けて、末梢血管剛性の簡素化に向けた技術を確立する必要もあり。

企業への期待
- 未解決の計測装置の簡素化については、末梢血管剛性の推定アルゴリズム、連続血圧波形の計測システムの修正により克服できると考えている。
- ネブライザー、チルトベッド(起立台)、嚥下障害検査・訓練の技術を持つ、企業との共同研究を希望。
- また、嚥下障害関連製品を開発中の企業、自律神経・ストレス分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。
企業への貢献、PRポイント
- 本技術は摂食・嚥下障害が、末梢血管剛性と蒸留水吸入を組み合わせることで、施設・一般家庭でも簡単にできる、従来にない製品開発の可能性があります。
- 30度ヘッドアップチルトでの自律神経評価は、多くの病院・クリニックでも行えて汎用性があります。
- 本技術は自律神経活動の異常が関連する多くの疾患やストレ
ス関連分野など、応用範囲が広いです。 - 人の「脳活動」「こころ」の変化を見える化できることから、
スマホ社会の新たなアプローチになる可能性があります。
本技術に関する知的財産権
- 発明の名称 :嚥下能力評価装置、嚥下能力評価装置の作動方法及びプログラム
- 出願番号 :特願2025-077839
- 出願人 :国立大学法人広島大学
- 発明者 :濱聖司、辻敏夫、山脇成人
産学連携の経歴
- 2社と各々1年ずつ共同研究実施
- 平成24年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業4社
- 平成25年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業5社
- 2021年度 JST研究成果展開事業A-STEPトライアウトタイプに採択
- 2022年-2025年 JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同<育成型>
- 10年以上にわたり、2社と共同研究実施
研究者濱聖司
脳・こころ・感性科学研究センター
特任准教授