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研究成果紹介

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    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2004.04.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    2024.12.04
    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    主観的な咀嚼能力や咀嚼習慣が不良だと身体機能が低下する可能性があることが判明~高齢者の介護予防へ向けて~

    本研究成果のポイント 65-84歳の地域在住高齢者を対象としたコホート研究(あるグループを追跡して、健康状態の変化を調べる研究)の結果、主観的な咀嚼能力および咀嚼習慣は身体機能の低下と関連することが明らかとなりました。 咀嚼能力および咀嚼習慣を良好な状態に保つことは、高齢者の身体機能の維持に寄与する可能性があると考えられます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の竹下萌乃博士課程前期修了生、内藤真理子教授、愛知県歯科医師会の内堀典保会長らの研究グループは、愛知県の「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」で収集されたデータから、65-84歳の男女において、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣が関連することを明らかにしました。 本研究結果は、「BMC Oral Health」に令和6年10月24日付でオンライン掲載されました。 論文情報 論文タイトル:Association of physical function with masticatory ability and masticatory habits: a cohort study 著者:Moeno Takeshita1, Mariko Naito2,*, Rumi Nishimura2, Haruka Fukutani3, Minami Kondo1, Yuko Kurawaki2, Sachiko Yamada4 and Noriyasu Uchibori5 1R&D, Sunstar Inc., Osaka, Japan 2Department of Oral Epidemiology, Hiroshima University Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan 3Dentistry and Oral Surgery, Japan Community Health Care Organization (JCHO) Tokuyama Central Hospital, Yamaguchi, Japan 4Speech Clinic, Division of Specific Dentistry Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan 5Aichi Dental Association, Aichi, Japan *Corresponding author   掲載雑誌:BMC Oral Health(Q1) DOI:https://doi.org/10.1186/s12903-024-05051-6   背景 加齢に伴い、疾患や障害は増加し、介護を必要とする人の数も増加する可能性が高くなることから、健康寿命を延伸するための取り組みがますます重要になっています。 身体機能が低いことはフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)や入院等のリスクが高くなると報告されているため、身体機能を適切に評価し、高齢者の健康寿命延伸に対する介入に役立てることは重要です。 先行研究において、客観的または主観的な評価により測定された咀嚼能力は身体機能と相関関係にあることが示されています。一方、「よく噛んで食事をする」といった咀嚼習慣と、身体機能との関連性を検討した研究はほとんどありません。 本研究グループでは、高齢者の身体機能の低下には、咀嚼能力だけではなく咀嚼習慣も関係している可能性があると仮説を立て、検証を行いました。   研究成果の内容 本研究は、厚生労働省の平成30年度老人保健健康増進等事業の採択事業の一つである「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」のデータを分析しました。対象者は愛知県東浦町在住の65-84歳男女146人です。 身体機能の評価は、基本チェックリスト※1のうち、身体機能を示す5つの質問を用いました。咀嚼能力は機器または歯科医療従事者によって測定された客観データ(客観的咀嚼機能、客観的咬合力、現在歯数)および自記式アンケート※2によって得た主観データ(主観的咀嚼機能、主観的咬合状態)により評価しました。咀嚼習慣は、自記式アンケート※2から得られた回答によって評価しました。 対象者146人(男性77人、女性69人、年齢中央値73人)のうち、30人(20.5%)において1年間で身体機能が低下していました。 性別や年齢といった対象者の背景の差を調整後、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣の関連を解析したところ、主観的に咬合状態が不良であること(オッズ比6.00 、95%信頼区間1.44–25.05)および咀嚼習慣が不良であること(同6.49 、2.45–17.22)は1年後の身体機能の低下に影響を及ぼしていました。   今後の展開 本研究の結果、地域に暮らす自立高齢者における咀嚼能力および咀嚼習慣は1年後の身体機能と関連していました。高齢者の身体機能を維持するためには、咀嚼能力だけでなく咀嚼習慣にも配慮した早期の介入が必要であると考えられます。今後は長期にわたる追跡と対象者数を増やした調査を実施すること、さらに質問票の信頼性の検証を行うことが必要です。   解説 ※1 基本チェックリスト 介護予防や将来介護が必要となる可能性のあるハイリスク高齢者の早期選定を目的として厚生労働省によって作成された。25の質問に対して「はい/いいえ」で回答する自記式質問票である。7つの領域の質問群から構成され、本研究ではその中の「身体機能」の領域を用いた。   ※2 自記式アンケ―ト ・主観的咀嚼機能(「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」に対してはい/いいえで回答)*基本チェックリストNo.13の質問を活用 ・主観的咬合状態(「自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりとかみしめられますか」に対してはい/いいえで回答) ・咀嚼習慣(「ゆっくりよく噛んで食事をしますか」に対してはい/いいえで回答)   報道発表資料(327.67 KB) BMC Oral Health 研究者ガイドブック(内藤 真理子 教授)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科口腔保健疫学内藤真理子 Tel:082-257-5959FAX:082-257-5795 E-mail:naitom@hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    2025.06.10
    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    高齢者施設の看護職と介護職の連携が入居者の健康状態の変化を察知する鍵に ― 看護職へのインタビュー調査で具体的な看護の役割を解明 ―

    本研究成果のポイント 看護職と介護職による日常的な情報共有が、入居者の健康状態の変化をいち早く察知することにつながると明らかになりました。 看護職は「準備(入居者のいつもの状態や既往歴の把握)」、「評価(介護職からの報告や自身の観察による状態の確認)」、「判断(過去の事例や臨床経験に基づくリスク評価)」という3つの役割を果たして、早期発見につなげていました。 医療資源が限られる高齢者施設において、看護職は「異常な体温」「呼吸状態の異常」「意識レベルの低下」など10項目の兆候を、入居者の健康状態の変化を示す重要なサインとして重視していました。   概要 上智大学総合人間科学部看護学科の大河原啓文助教らの研究グループは、慶應義塾大学看護医療学部の深堀浩樹教授、真志田祐理子助教、日本赤十字看護大学さいたま看護学部の松本佐知子准教授、広島大学大学院医系科学研究科の那須佳津美講師、米国イリノイ大学シカゴ校看護学部のArdith Z. Doorenbos教授との共同研究で、日本の高齢者施設に勤務する看護職23名へのインタビュー調査を実施し、入居者の健康状態の変化を早期に察知するための看護の役割(看護実践)を明らかにしました。   本研究では、看護職が日々の観察や介護職との情報共有を通じて、入居者の健康状態の変化を「いつもと違う何か」として捉え、そこからどのように判断・対応しているのかをテキストデータの解析に用いる継続的比較分析といわれる手法で分析しました。その結果、看護職は「準備(入居者のいつもの状態や既往歴の把握)」、「評価(介護職からの報告や自身の観察による状態の確認)」、「判断(過去の事例や臨床経験に基づくリスク評価)」という実践を通じて、早期に異常を察知していることが明らかになりました。さらに、健康状態の兆候として看護職が重視している、「異常な体温」、「接触困難」、「呼吸状態の異常」、「意識レベルの低下」、「活動性の低下」、「表情や顔色の変化」、「怒りっぽさ」、「体重減少」など10の主要な症状・状態が設定されました。これらの知見は、今後の教育プログラム開発や、看護職と介護職の協働を促進する仕組みづくりに貢献することが期待されます。   背景 世界的な高齢化の進行に伴い、高齢者施設の入居者の健康状態の変化を早期に捉え、回避可能な救急搬送や入院を予防することが重要な課題となっています。高齢者施設の入居者の健康状態の変化は、日常的に入居者に接する介護職が最初に異常を察知することが多く、看護職がそれらの共有を受けて、迅速に判断し、適切に対応することが求められています。   研究成果の詳細 高齢者施設では、入居者の健康状態の変化を早期に察知し、救急搬送や入院を防ぐ看護職の役割が重要です。本研究は、高齢者施設の入居者の健康状態の変化を看護職がどのように察知しているのかを明らかにすることを目的に実施されました。研究チームは、全国14の高齢者施設に勤務する看護職23名にインタビュー調査を実施し、得られたデータをテキストデータの解析に用いる継続的比較分析といわれる手法で分析しました。分析の結果、入居者の健康状態の変化を早期に察知する看護職の役割の内容が明らかになり、「準備(Preparing)」「評価(Assessing)」「判断(Judging)」という3つの役割をしめすカテゴリーが明らかとなりました。これらのカテゴリーにはより細かい内容を示す8つのサブカテゴリーが含まれています。   「準備」では、看護職が日常的に入居者の「いつもの状態」を把握し、既往歴や過去の症状に関する情報を収集するほか、介護職に対して観察すべき視点をあらかじめ共有し、異変の早期発見を支援していました。また、多職種間の定期的な情報共有も重要な実践とされていました。   「評価」では、介護職が日常的なケアの中で「何かいつもと違う」と感じた情報をもとに、看護職が直接入居者の状態を観察し、曖昧な違和感でも変化を見逃さないように、必要に応じて速やかに対応していました。   「判断」では、過去の症例や自身の臨床経験をもとに、状態悪化のリスクを予測し、医療的な介入の必要性を迅速に判断していました。このカテゴリーには、現場経験を通じて培われた感覚的な臨床推論(経験に基づいた直感的な判断力)が多分に含まれており、個々の看護職の経験知の重要性が示唆されました。 さらに、入居者の健康状態の変化として看護職が捉えている兆候についても、10の主要な症状・状態が特定されました。これには、「異常な体温」「摂食困難」「呼吸状態の異常」「意識レベルの低下」「活動性の低下」「表情や顔色の変化」「怒りっぽさ」「体重減少」などが含まれ、これらは介護職からの報告や看護職自身の観察によって把握されていました。   これらの知見から、看護職と介護職の連携が、入居者のわずかな変化を見逃さず、適切な判断につながり状態悪化の予防や早期対応につながっていることが示されました。今後、研究チームでは、本研究で得られた実践知をもとに、看護職のアセスメント力(*1)を高めるための教育プログラムの開発や、現場における実践的なツールの設計や実装に取り組んでいく予定です。また、これらの知見を高齢者施設の管理者や、看護職、介護職が参考にすることで、早期発見と適切な対応によって、回避可能な救急搬送や入院を防ぐことにつながり、入居者の生活の質の向上にも寄与することが考えられます。   用語解説 *1:アセスメント力 看護職が入居者の状態を観察・分析し、健康上の問題やそのリスクなどを的確に判断する力。バイタルサイン、表情、行動などの多様な情報から状態変化や異常の兆候を早期に見極めるために必要な、看護職の専門的能力の一つ。   論文情報 掲載雑誌名 International Journal of Older People Nursing 論文名 Nursing Practice for Early Detection of Long-Term Care Resident Deterioration: A Qualitative Study オンライン版URL https://doi.org/10.1111/opn.70014 論文公開日 2025年2月9日 著者 Hirofumi Ogawara*, Hiroki Fukahori, Yuriko Mashida, Sachiko Matsumoto, Katsumi Nasu, Ardith Z. Doorenbos *責任著者   報道発表資料(1.21 MB) 掲載誌:International Journal of Older People Nursing 研究者ガイドブック(那須 佳津美 講師)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科講師那須 佳津美 E-mail:nasuk*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 資源
    • 海洋
    2024.08.06
    • 資源
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    海洋マントルの有機炭素検出 ―南太平洋アイツタキ島マントル捕獲岩からのアプローチ―

    本研究成果のポイント 南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩から、深部海洋マントルには表層に存在した有機炭素が存在することを明らかにしました。 マントル中の炭素系物質であるダイヤモンドは、海洋マントルの炭素解析において人的混入の可能性が指摘されていましたが、同じく炭素系物質である炭酸塩鉱物をマイクロスケールで解析することでその問題を克服しました。 本研究成果により、海洋深部マントルまで達する表層からの炭素循環実態解明への貢献が期待されます。 炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析   概要 東京大学大気海洋研究所の秋澤紀克助教を中心として、京都大学大学院人間・環境学研究科、広島大学大学院先進理工系科学研究科、東京工業大学理学院、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターのメンバーで構成される共同研究チームは、南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩(注1)を用いて、海洋域のマントル(注2)が有機炭素(注3)を含むことを明らかにしました。本研究では、南太平洋・クック諸島の島であるアイツタキ島で採取されたマントル捕獲岩(図1)に含まれるマントル由来の炭素系物質である炭酸塩鉱物(注4)をマイクロスケールで解析し、その起源は表層から運ばれた有機炭素であることを解明することができました。先行研究では、海洋域のマントル由来ダイヤモンドが、炭素解析において人的に混入した可能性が指摘されており、海洋域のマントルの炭素解析結果が問題視されていました。本研究成果から、海洋域では深部マントルまで達する表層からの炭素循環経路があると推察でき、地球規模での炭素循環実態解明への貢献が期待されます。 図1:アイツタキ島産のマントル捕獲岩の切断断面と鉱物分布解釈図 (a) 岩石の切断面イメージ。 (b) 岩石を構成する鉱物分布解釈図。左下の水色は、マントル捕獲岩の周りの玄武岩部分。マントル捕獲岩は、カンラン石(注5)-直方輝石(注6)-単斜輝石(注7)-スピネル(注8)-ザクロ石(注9)分解物(細粒鉱物集合体)から成ります。   発表内容 現在温暖化が進んでいる地球において、全球的な炭素循環の実態解明は急務となっています。特に、表層を起源とする炭素がマントル中に存在するのか明らかにすることは、マントルを炭素の貯蔵庫と捉える上で重要です。このたび、本共同研究チームは、クック諸島・アイツタキ島に産するマントル捕獲岩に見られる特異な細粒鉱物集合体(図1)が、高圧(〜70 km以深)由来のザクロ石が分解してできたものであることに着想を得て、そのザクロ石分解物中に“保護”されていたマイクロスケールの炭酸塩鉱物脈の炭素と酸素の同位体(注10)分析を実施しました(図2)。詳細な組織観察結果から、この炭酸塩鉱物脈はマントル中で形成されたと考えられるため、マントル中に存在する炭素の起源を明らかにすることができると期待できます。 図2:炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析 (a) 炭酸塩鉱物脈の写真。ザクロ石分解物である細粒集合体中のスピネルに発達する脈が炭酸塩鉱物から成ります。 (b) 炭酸塩鉱物脈の採取図。細い針で炭酸塩脈を掘り出し、それを集めて炭素・酸素同位体分析を実施しました。 本研究で使用した炭酸塩鉱物と同様に炭素から成る物質であるダイヤモンドは、マイクロスケールでサイズがとても小さいながらも海洋域のマントル中から報告されていました。しかし、その海洋ダイヤモンドは人的混入物である可能性が指摘されており、その解析結果が問題視されていました。本研究で新たに発見した上記の“保護”された炭酸塩鉱物脈は、マントルのカケラであるマントル捕獲岩が地球深部約70 kmでマグマにより捕獲された後に表層に向かって上昇する途中、マグマがマントル捕獲岩中に侵入する際に形成されたものであり、そのマグマの初生的な炭素記録を保持しています。本研究では、そのマイクロスケールの炭酸塩鉱物脈を採取し、京都大学の極微量安定同位体分析装置(MICAL3c)を用いて炭素と酸素同位体分析を実施しました(図2)。その結果、炭酸塩鉱物脈を作ったマグマの初生的な組成は一般的なマントルの組成と異なり、有機物由来の海洋炭酸塩組成側に外れていることがわかりました(図3)。そのため、マントル中には表層からの有機炭素を起源とする炭素が存在し、マグマ活動を通してそれが表層に放出されることを明らかにすることができました。以上の結果から、海洋域では深部マントルまで達する表層からの炭素循環経路があると推察でき、全球規模での炭素循環実態解明への貢献が期待されます。 図3:炭素・酸素同位体組成図 アイツタキ島のマントル捕獲岩中の炭酸塩鉱物の組成を赤丸で示します。他に、マントル(緑)、大気CO2(灰色)、太平洋堆積物(水色)の組成範囲、有機物由来の海洋炭酸塩の組成プロットを示しています。本研究の炭酸塩鉱物組成は典型的なマントル組成から外れており、有機物由来の海洋炭酸塩の組成範囲に入ります。これは、炭酸塩鉱物の炭素起源が表層由来であったことを示唆します。   論文情報 雑誌名:Marine Geology 題名:Stable carbon and oxygen isotope signatures of mantle-derived calcite in Aitutaki lherzolite xenolith: Implications for organic carbon cycle in the oceanic mantle 著者名:Norikatsu Akizawa*, Toyoho Ishimura, Masako Yoshikawa, Tetsu Kogiso, Akira Ishikawa, Kazuhide Mimura DOI:10.1016/j.margeo.2024.107363 URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025322724001476   発表者・研究者等情報 東京大学大気海洋研究所 秋澤紀克助教 兼:東京学芸大学非常勤講師   京都大学大学院人間・環境学研究科 石村豊穂教授 小木曽哲教授   広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム 芳川雅子特任教授 兼:広島大学プレート収束域の物質科学研究拠点特任教授   東京工業大学理学院地球惑星科学系 石川晃准教授   千葉工業大学次世代海洋資源研究センター 見邨和英主任研究員 現:産業技術総合研究所地質調査総合センター研究員   研究助成 本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:23H01267)」、「基盤研究(B)(課題番号:23H01269)」、「基盤研究(B)(課題番号:24K00733)」、「基盤研究(C)(課題番号:23K03544)」、「基盤研究(C)(課題番号:24K07189)」、「新学術領域研究(研究領域提案型)(課題番号:JP15H05831)」の支援により実施されました。   用語解説 (注1)マントル捕獲岩 地球深部のマントル(注2)は、カケラとしてマグマに取り込まれて地球表面に運ばれます。それを、マントル捕獲岩と呼びます。   (注2)マントル 我々が住んでいる地球表面の地殻の下には、マントルが存在します。マントルの下には金属で形成される核が存在しており、地球は成層構造をしています。   (注3)有機炭素 有機物を構成する炭素です。   (注4)炭酸塩鉱物 1個の炭素原子の周りに3個の酸素が配置した炭酸イオン CO32- が結晶構造を形作る鉱物です。代表的なものとしては方解石(CaCO3)であり、本研究ではこの方解石を解析に用いました。   (注5)カンラン石 マントル物質を構成する鉱物の中で最も多く、主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含む緑色のケイ酸塩鉱物です。ペリドットと呼ばれる宝石として親しまれています。   (注6)直方輝石 主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。   (注7)単斜輝石 カルシウムを多く含み、他にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。   (注8)スピネル マントル物質の中で組成変化に伴い赤色から黒色を示し、主にアルミニウムやクロム、鉄、マグネシウムを含む酸化鉱物です。   (注9)ザクロ石 マントル物質の中で赤色を示し、アルミニウムやカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素などを主に含む鉱物です。ガーネットと呼ばれる宝石として親しまれています。   (注10)同位体 原子番号が同じで、質量数が異なる元素(原子核の陽子数が同じで、中性子数が異なる元素)を同位体と言います。   参考資料 学術誌:Marine Geology 報道発表資料(593.54 KB) 研究者ガイドブック(芳川 雅子 特任教授)   【お問い合わせ先】 (研究内容については発表者にお問合せください) 東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系海洋底科学部門 助教秋澤紀克(あきざわのりかつ) Tel:04-7136-6142 E-mail:akizawa*g.ecc.u-tokyo.ac.jp   東京大学大気海洋研究所広報戦略室 E-mail:kouhou*aori.u-tokyo.ac.jp   京都大学渉外・産官学連携部広報課国際広報室 Tel:075-753-5729FAX:075-753-2094 E-mail:comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp   広島大学広報室 Tel:082-424-3749FAX:082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   東京工業大学総務部広報課 Tel:03-5734-2975FAX:03-5734-3661 E-mail:media*jim.titech.ac.jp   千葉工業大学入試広報部 Tel:047-478-0222 E-mail:cit*it-chiba.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    • 海洋
    2025.10.08
    • 防災
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    地球史上最大の火山活動が海洋プレートを作り変えたことが判明 ――プレート形成過程の包括的理解に道拓く

    岡山理科大学の志藤あずさ講師、東京科学大学の石川晃准教授、広島大学の芳川雅子特任教授らの研究グループは、地震波の解析から、世界最大の海台であるオントンジャワ海台のプレートが、海台を作った時の大規模火山活動で大きく作り変えられたことを明らかにしました。この研究成果は、「Geophysical Research Letters」に掲載されました。   本研究成果のポイント オントンジャワ海台のプレートは層状構造に貫入岩脈群が重なる複合構造をしている オントンジャワ海台のプレートの低速度異常は、熱組成プルーム由来のマグマがプレートを化学的に変化させたことを示唆 海洋プレートが大規模火山活動によって著しい物理化学的改変を経験したことを示す本研究結果は、プレート形成過程の包括的理解につながる 図1. 本研究でわかったオントンジャワ海台のプレートの模式図   背景 オントンジャワ海台は太平洋にある世界最大の海台で、1億1千万年〜1億2千万年前の海底火山活動によってできました。地球史上最大といわれる火山活動は、当時の地球環境を激変させ生物の大量絶滅を引き起こしたと考えられています。この大規模な火山活動の原因は、マントル深部からの上昇流である熱組成プルーム(注1)であることが最近の研究により示されましたが、深部から上昇してくるマグマが、既存の海洋プレートへ与える影響は不明でした。   研究内容と成果 本研究では、オントンジャワ海台周辺の海底地震計や海洋島に設置された地震計によって観測されたPo波So波という高周波の地震波を解析に使用しました。Po波So波は、海洋プレートを伝わる波で、その伝わり方は海洋プレートの内部構造に敏感です。通常Po波So波は、海洋プレート内部にある層状構造によってP波S波が多重散乱することで励起され、海洋プレートの中を数千 kmも伝わります。ところが、オントンジャワ海台周辺で観測されたPo波So波は、So波だけが伝わりにくいという際立った特徴を持っていました。この特徴を再現するようなプレートの内部構造を、地震波形モデリングによって推定した結果、オントンジャワ海台のプレートは層状構造(横縞)に貫入岩脈群(縦縞)が重なった複合構造をしていることがわかりました(図1)。   さらに、オントンジャワ海台のプレートを伝わるPo波So波の速度は通常の海洋プレートよりも顕著に遅いことがわかりました。本研究ではこれらの観測事実を説明するために、オントンジャワ海台のプレート内部を、熱組成プルームからのマグマが貫入岩脈群を形成しながら上昇し、さらにマグマがプレートを化学的に変化(=最肥沃化)(注2)させたというモデルを提案しました。本研究によって示された海洋プレートの物理化学的な改変のモデルは、プレート形成過程の包括的理解につながることが期待されます。本研究成果は「Geophysical Research Letters」に2025年9月30日に掲載されました。 図2.オントンジャワ海台の位置  研究助成 本研究はJSPS科研費(23K03555, 15H03720)の助成を受けました。   論文情報 掲載誌:Geophysical Research Letters タイトル:Dike Swarms in the Oceanic Lithosphere Beneath the Ontong Java Plateau DOI: 10.1029/2025GL115219 著者:Azusa Shito*, Daisuke Suetsugu, Akira Ishikawa, Masako Yoshikawa, Takehi Isse, Hajime Shiobara, Hiroko Sugioka, Aki Ito, Yasushi Ishihara, Satoru Tanaka, Masayuki Obayashi, Takashi Tonegawa, Junko Yoshimitsu   語句説明 (注1)熱組成プルーム:マントル深部からの上昇流(プルーム)のうち、プルームを構成する物質が通常のマントルと化学組成が異なり古い海洋地殻由来物質などを含んでいるもの。 (注2)再肥沃化:マントルを構成するかんらん岩は、部分溶融により発生したメルトが抜けることによりメルト成分に枯渇したかんらん岩に変化する。これとは逆にメルト成分が再充填されるプロセスを再肥沃化と言う。   報道発表資料(744.1 KB) 掲載雑誌:Geophysical Research Letters 研究者ガイドブック(芳川 雅子 特任教授)   【お問い合わせ先】 <研究内容に関する問い合わせ先> 岡山理科大学生物地球学部 講師志藤 あずさ Email: azusas*ous.ac.jp   東京科学大学理学院地球惑星科学系 准教授石川 晃 Email: ishikawa.a.9b1d*m.isct.ac.jp   広島大学大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム 特任教授芳川 雅子 Email: masako*hiroshima-u.ac.jp   <報道に関する問い合わせ先> 岡山理科大学企画部企画広報課 TEL:086-256-8508 Email: kikaku-koho*ous.ac.jp   東京科学大学 総務企画部広報課 TEL:03-5734-2975 Email: media*adm.isct.ac.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-3749 Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 防災
    • インフラ
    2025.03.18
    • 防災
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    高圧流体が引き起こすプレート境界断層の破壊 ―スロー地震発生メカニズム解明への新たな手がかり―

    研究のポイント スロー地震が発生するプレート境界の高温高圧環境を室内で再現し、高流体圧条件下で岩石中に「fault-fracture mesh構造」と呼ばれる多数の破壊面からなるネットワークが形成されることを発見。 プレート境界断層を構成していた蛇紋岩中に、実験で確認されたものと同じfault-fracture mesh構造が存在すること、さらに鉱物の析出により破壊による隙間が埋められていたことを確認。 蛇紋岩の破壊と鉱物析出の繰り返しがスロー地震の周期的な発生を説明することを世界で初めて地質学的に裏付け、スロー地震の発生メカニズム解明に向けた重要な手がかりを示した。   概要 沈み込み帯で発生する「スロー地震(注1)」は、通常の地震と異なり、数日から数ヶ月という長い時間をかけて断層が滑る現象です。こうしたスロー地震の発生には、従来の地震とは異なるメカニズムが関与していると考えられていますが、その詳細については明らかになっていませんでした。 静岡大学理学部の平内健一准教授、同大学大学院総合科学技術研究科の永田有里奈さん(研究当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の岡崎啓史准教授(研究当時:海洋研究開発機構・研究員)らの研究グループは、西南日本の沈み込み帯で頻繁に観測されているスロー地震の一種「Episodic Tremor and Slip (ETS)」に注目し、その仕組みを明らかにするため、室内実験および野外調査による研究を実施しました。   研究グループは、ETSの発生が深さ約30 kmのプレート境界断層付近に存在する蛇紋岩(注2)と、そこに供給される高圧状態の流体と密接な関係があることに着目しました。実験では、圧力容器内にこの環境を再現し、蛇紋岩が高い流体圧を受けると、多数の破壊面がネットワーク状に広がる「fault-fracture mesh構造(注3)」を形成することを明らかにしました。また、四国の三波川帯に露出する蛇紋岩体の地質調査からも、実験と同じくfault-fracture mesh構造が繰り返し形成されていたことを確認しました。さらに、流体から新たに蛇紋石が析出し、破壊によりできた隙間を埋めていました。この現象は、「断層バルブ挙動(注4)」と呼ばれるもので、スロー地震の周期性を説明する重要な地質学的証拠となります。   本研究の成果は、ETSが蛇紋岩の断層バルブ挙動によって周期的に発生するという仮説を初めて実験的かつ地質学的に裏付けました。この成果により、スロー地震の発生メカニズム解明が進展し、将来的にスロー地震の予測向上や地震防災対策への活用が期待されます。   本研究成果は、Springer Nature社の発行する英国科学雑誌「Communications Earth & Environment」に2025年3月5日に掲載されました。 国立大学法人静岡大学ウェブサイトhttps://www.shizuoka.ac.jp/ ○広報・基金課〒422-8529静岡県静岡市駿河区大谷836TEL:054-238-5179FAX:054-238-4450   背景 図1.西南日本沈み込み帯の模式断面図.スロー地震の一種であるEpisodic Tremor & Slip (ETS)の発生前後でプレート境界断層付近の流体圧変化が起こる.LFE:低周波地震.SSE:スロースリップイベント. 沈み込み帯のプレート境界断層では、テクトニック微動、低周波地震、スロースリップイベントなど、異なる時間スケールでゆっくり発生するスロー地震が観測されています。西南日本の沈み込み帯では、Episodic Tremor and Slip (ETS)と呼ばれる、数ヶ月から数年の周期で微動とスロースリップイベントが同時に発生する現象が知られており、通常の地震が起きる領域のさらに深い場所で発生しています。この領域では、沈み込んだ海洋プレートから放出される大量の水(流体)がプレート境界断層に供給されることで、「高流体圧」という特異な環境が形成されていると考えられています(図1上段)。 近年の地球物理観測研究では、ETSが起きるときに断層が破壊されることで、流体圧が一時的に減少するという現象が捉えられました(図1下段)。地球物理学者は、この流体圧の変化を「断層バルブモデル」を用いて説明しています。このモデルでは、断層が破壊されて生じた隙間(亀裂)に新たな鉱物が析出することで、再び流体圧が上昇し、それが次の破壊(地震)を引き起こすという周期的なメカニズムを想定しています。 ETSが起きる領域は「蛇紋岩」と呼ばれる岩石で構成されていると考えられています。蛇紋岩はマントルを構成する「かんらん岩」が水と反応してできる岩石で、力学的に弱い性質をもっています。そのため、蛇紋岩とETSには何らかの関連性があると考えられてきましたが、高流体圧下で実際に蛇紋岩がどのように振る舞うのか、その具体的なメカニズムは明らかではありませんでした。そこで本研究では、ETS発生域の環境(圧力1 GPa、温度500 °C、深さ約30 kmに相当)を再現した実験を行い、蛇紋岩の破壊と鉱物析出を繰り返す現象が本当にETSの発生サイクルと関連しているのかどうかを検証しました。   成果 図2.蛇紋岩中に発達するfault-fracture mesh構造.(A)実験後の試料の電子顕微鏡写真.(B)四国三波川帯・富郷蛇紋岩体の露頭写真.(C)fault-fracture mesh構造形成時の応力場を表した図.σ1:最大主応力軸.σ3:最大主応力軸. 本実験では、グリッグス型固体圧式装置を使用し、蛇紋岩試料に水を加えて実際のプレート境界深部の環境を再現しました。また、加える水の量を系統的に変化させることで、流体圧を制御することに成功しました。その結果、流体圧が増加するにつれて、蛇紋岩の破壊様式が変化することを明らかにしました。特に、非常に高い流体圧条件では、岩石全体にわたって網目状の亀裂(fault-fracture mesh構造)が形成されました(図2A)。 また、四国の三波川帯に分布する白亜紀の地質体には、深部スロー地震発生域に相当する環境下で形成された「過去のプレート境界断層」が露出しています。この地域の蛇紋岩を対象とした地質調査からも、fault-fracture mesh構造が地質学的な時間スケールで繰り返し形成されていたことがわかりました(図2B)。さらに、亀裂には新たに蛇紋石が析出して隙間を埋めていました。このことは、断層が破壊と鉱物析出を繰り返してきたという証拠であり、「断層バルブ挙動」の地質学的な痕跡であると考えられます。 これらの研究成果は、ETSの周期的発生を説明する断層モデルと非常によく一致しています。つまり、亀裂が蛇紋石の析出によって閉じるまでの時間が次の破壊(スロー地震)が起きるまでの準備期間であること、亀裂が閉じるにつれて再び流体圧が高まり、次の破壊を引き起こすことが示唆されます(図3)。 図3.Episodic Tremor & Slip (ETS)の発生機構を表した模式図.(A)温かい沈み込み帯の断面図(上段)とプレート境界に沿った有効法線応力(σneff)変化(下段).(B)蛇紋岩からなるプレート境界断層帯に発達するfault-fracture mesh構造を表した図.図A中の黒四角の範囲に対応する.(C)ETSの発生サイクルに対応した剪断応力(τ)、透水率(K)、流体圧(Pf)の時間変化.(D)ETSの発生サイクルを通じて起こる蛇紋岩の破壊・鉱物析出プロセスを表した図.σ1:最大主応力軸.σ3:最大主応力軸.   今後の展開 本研究は、蛇紋岩が断層バルブの役割を果たすこと、深部スロー地震が繰り返し起こることを、実験と野外調査により初めて具体的に示唆したものと言えます。今後は、蛇紋石の析出速度についてより詳細な実験を行い、実際のETSの周期(数ヶ月から数年)を説明できるかを明確にする必要があります。また、この破壊現象がスロー地震特有の低周波成分が卓越する地震波を発生させるのかについても、実験的に検証していきます。これらの研究が進展することで、スロー地震がなぜ、どのようにして発生するのかというメカニズムの本質的な理解が深まり、地震防災や予測の精度向上にも貢献することが期待されます。   論文情報 掲載誌名:Communications Earth & Environment 論文題目:Fault–fracture mesh development produces tectonic tremor in fluid-overpressured serpentinized mantle wedge 著者:Ken-ichi Hirauchi, Yurina Nagata, & Keishi Okazaki DOI:10.1038/s43247-025-02159-7   謝辞 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業である「基盤研究(B), 22H01320」、「学術変革領域研究(A) (公募研究), 22H05301」、「基盤研究(S), 22H04932」、「基盤研究(B), 18H01318」、「新学術領域研究(研究領域提案型), 19H04630」「基盤研究(A), 21H04528」、「挑戦的研究(開拓), 22K18283」の支援により実施されました。   用語解説 注1.スロー地震:低周波微動、低周波地震、スロースリップイベントなどに代表される、通常の地震に比べてゆっくりとした断層滑りの総称。   注2.蛇紋岩:上部マントルを構成するかんらん岩などの超苦鉄質岩が加水作用を受けて形成される岩石。主に蛇紋石から構成される。   注3.fault-fracture mesh構造:引張(モードI型)破壊と引張・剪断(モードI-II型)破壊が多数発生することで形成される網目状の亀裂構造。流体圧が岩石の静岩圧を超える高流体圧環境下で形成されると考えられている。   注4.断層バルブ挙動:流体が断層に沿って移動していく際、鉱物の析出などにより断層面上の隙間が閉じて(断層がシールされて)局所的に流体圧が上昇し、断層の実効的な強度が低下することで発生する滑り。   報道発表資料(1.32 MB) 掲載誌:Communications Earth & Environment 研究者ガイドブック(岡崎 啓史 准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 静岡大学理学部地球科学科 准教授・平内 健一 (ひらうち けんいち) TEL : 054-238-4735 E-mail : hirauchi.kenichi*shizuoka.ac.jp   広島大学大学院先進理工系科学研究科 海洋研究開発機構高知コア研究所招聘主任研究員 准教授・岡崎 啓史 (おかざき けいし) TEL : 082-424-7462 E-mail : keishiokazaki*hiroshima-u.ac.jp   <報道に関すること> 静岡大学 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.08.22
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    津波の高さと被害の大きさは一致していなかった 令和6年能登半島地震に伴う津波の詳細な分布、高さと被害との関係を解明

    本研究成果のポイント 空中写真の判読と現地調査を組み合わせ、令和6年能登半島地震に伴う津波の詳細な浸水範囲と津波の高さ、被害との関係を明らかにしました。 津波の浸水範囲の面積は3.7 km2でした。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じ、半島北岸では部分的にしか認められませんでした。このような特徴は、既存の津波浸水想定の結果と調和的なものでした。 津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8 m以上の地点で津波による漂着物を確認しました。20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。 津波による被害の分布は津波の高さとは異なり、半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によるものであることがわかりました。   概要 福岡教育大学の岩佐佳哉講師、広島大学の中田高名誉教授、熊原康博教授、中部大学の杉田暁准教授、千葉大学の濱侃助教、金沢大学の青木賢人准教授らの研究グループは、空中写真の判読と現地調査を組み合わせることで、令和6年能登半島地震に伴って発生した津波の詳細な分布と高さを明らかにしました。その結果、令和6年能登半島地震に伴う津波の被害は半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によることが明らかとなりました。 本研究成果は、2025年7月2日に国際的学術誌『Earth, Planets and Space』に掲載されました。   背景 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)では、海底の活断層が活動したことにより津波が発生し、北海道から長崎県までの日本海側で津波が到達しました。震源の近くに位置する能登半島では津波による大きな被害が発生しましたが、地殻変動による海岸の隆起により津波観測点が欠測となり、津波の高さがわかっていませんでした。   成果 国土地理院に提供いただいた高解像度空中写真の判読と現地調査を組み合わせて、津波の詳細な浸水範囲と津波の高さを調べました。その結果、浸水範囲の面積が3.7 km2であることが明らかになりました。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じていた一方で、半島の北岸では部分的にしか認められませんでした(図1)。また、半島の西岸では志賀町から輪島市黒島にかけて連続的に津波による浸水が生じており、東岸では珠洲市から能登町白丸にかけての地域に津波の浸水が集中していました。特に、珠洲市鵜飼や能登町白丸では海岸から400–500 m内陸まで津波が到達し、家屋が流失する被害が生じました(図2)。このような特徴は、2012年に石川県が震源を特定して行った津波浸水想定の結果と調和的なものでした。本研究では論文とともに浸水範囲のGISデータを公表しました。GISソフトや国土地理院の地理院地図を用いることで、津波による浸水範囲を詳細に閲覧することができます。   津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8 m以上の地点で津波による漂着物を確認しました(図3)。能登半島東岸では、珠洲市高屋や寺家、能登町白丸で標高5 mを超える地点に津波が到達していましたが、それ以外の地点では総じて標高4 mを超える地点にまでは津波が到達していませんでした。これは、震源断層の変位量や震源断層との位置関係によるものであると考えられます。また、20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。   津波による被害は主に能登半島の東岸で大きなものであり、西岸で高いという津波の高さの特徴とは異なっています。津波が高かった半島の西岸では、海岸から一段高い海成段丘の上に集落が立地していることに加え、地震時の地殻変動による隆起が生じたことで、津波が到達しなかったと考えられます。一方で、半島の東岸では集落が海に直接面した低地に立地していたことに加え、防波堤や防潮堤などの海岸構造物がほとんど存在しなかったことも被害を大きなものにした一因であると考えられます。   今後の展望 日本海沿岸地域では、海底活断層が陸域近傍に存在するため、地震発生から津波の到達までの時間が非常に短いことが従来から指摘されてきました。一方で、日本海沿岸地域における大規模な津波は、1993年に発生した日本海中部地震以来発生していませんでした。本研究の成果は、日本海沿岸地域における津波被害の特性を理解し、その軽減を図るうえで重要な知見を提示するものであると考えます。   本研究では、令和6年能登半島地震による津波浸水の範囲が、震源を特定した既存の津波浸水想定の結果と調和的なものであることを示しました。これにより、津波浸水に関するハザードマップの有用性が認知され、全国の沿岸地域にお住まいの方々の防災意識のさらなる涵養に寄与することを期待します。 図1. 津波浸水範囲と調査地点   図2. 珠洲市鵜飼と能登町白丸における津波被害の写真   図3. 津波の高さの分布   論文情報 タイトル:Distribution of tsunami inundation area and tsunami height associated with the 2024 Noto Peninsula earthquake, central Japan 著者:Yoshiya Iwasa*, Takashi Nakata, Yasuhiro Kumahara, Satoru Sugita, Akira Hama and Tatsuto Aoki(*は責任著者) 著者所属:岩佐佳哉(福岡教育大学教育学部)、中田高(広島大学名誉教授)熊原康博(広島大学大学院人間社会科学研究科)、杉田暁(中部大学中部高等学術研究所 国際GISセンター)、濱侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、青木賢人(金沢大学人間社会研究域) 掲載誌:Earth, Planets and Space DOI:https://doi.org/10.1186/s40623-025-02202-z   謝辞 本研究では国土地理院から高解像度の空中写真を提供していただきました。また、本研究の遂行にはJSPS科研費(JP23K18735,JP24K07718)および中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究(IDEAS202406)を使用しました。   報道発表資料(2.3 MB) 掲載誌:Earth, Planets and Space 研究者ガイドブック(熊原 康博 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 福岡教育大学教育学部 講師岩佐佳哉 TEL: 0940-35-1299Email: iwasa-y*fukuoka-edu.ac.jp   広島大学 名誉教授(元大学院人間社会科学研究科教授)中田高 Email: tnakata*hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院人間社会科学研究科 教授熊原康博 Email: kumakuma*hiroshima-u.ac.jp   中部大学中部高等学術研究所 国際GISセンター 准教授杉田暁 Email: satoru.sugita*fsc.chubu.ac.jp   千葉大学大学院園芸学研究院 助教濱侃 Email: a.hama*chiba-u.jp   金沢大学人間社会研究域 准教授青木賢人 Email: kentaoki*staff.kanazawa-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.06
    • 医療/ヘルスケア
    歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功 ―痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へ―

    本研究成果のポイント 歯科治療後に起こる顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因を明らかにしました。これまでは「痛みが発症してから抑える」治療法しかなかった病気ですが、今回の研究成果により「痛みを未然に防ぐ予防」への全く新しい治療戦略が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学の麻 思萌 現・育成助教(当時・大学院生)、中村 庸輝 助教、中島 一恵 助教、森岡 徳光 教授の研究グループは、歯科治療後にまれに起こる強い顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因と予防法を、マウスを使った実験で明らかにしました。神経が傷つくと「HMGB1」という物質が放出され、それが「RAGE」という受容体と結びつくことで、炎症が起こり、痛みが慢性化することがわかりました。研究では、神経損傷の直後にRAGEの働きを止める薬を神経の近くに投与することで、痛みの発症を完全に防ぐことに成功しました。さらに、この薬は神経の周囲だけでなく、脳内の痛みを増幅させる細胞の働きも抑えることが確認されました。これにより、従来の「痛みが発症してから抑える治療」から「痛みを未然に防ぐ予防」への新しい治療戦略が期待されています。今後は人への応用に向けて、安全性や効果の検証が進められます。     背景 私たちの顔には、三叉神経という神経が通っています。これは、顔に触れたときの感覚(温度や痛みなど)を脳に伝える役割を持っていますが、親知らずの抜歯やインプラント治療などの歯科治療時、偶発的に三叉神経が傷ついてしまうことがあります。これが原因となり、食事や会話、洗顔といった日常のわずかな刺激で耐え難い激痛が走る「外傷後三叉神経ニューロパチー」という病気を発症することがあります。この痛みは、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、うつ病や不安障害を引き起こすこともあります。 これまで、この痛みに対する治療は抗てんかん薬や抗うつ薬などの薬物療法が中心でしたが、効果は限定的で、めまいや眠気といった副作用も大きな課題でした。さらに、痛みが慢性化するのを未然に防ぐための有効な予防法は確立されておらず、神経損傷のリスクがある患者に対する新たな予防戦略の開発が強く求められていました。     研究成果の内容 本研究グループは、外傷後三叉神経ニューロパチーにおいてどのようなメカニズムで痛みが発生するのかを解明し、そしてその予防法を確立することを目指しました。 そもそも、「痛み」を人間が感じるメカニズムの一つとして、「HMGB1」と「RAGE」という物質が関わっています。HMGB1は細胞の中にあるたんぱく質の一種で、RAGEは細胞の表面にある受容体(センサーのような役割)です。HMGB1は細胞の中にあるので、細胞が傷つくと外に出てきます。すると、それを感知したRAGEが「体に異常がおきている」と判断し、炎症反応を引き起こします。このようなメカニズムから、HMGB1は「痛みの警報物質」とも呼ばれています。 そこで私たちは、RAGEがHMGB1を感知する前に、その働きを弱めることができれば、痛みを軽減できるのではないかと考えました。まず、歯科治療後に起こる痛みを再現するために、マウスの顔の神経を傷つけたマウスモデル(眼窩下神経を損傷したモデル)を作製しました。その後、一部のマウスにのみ、神経を傷つけた直後(当日と2日後)に、RAGEの働きを阻害する薬物(RAGE阻害薬)を、傷つけた神経の周辺に直接投与しました。その結果、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、顔を頻繁にこすったり、冷たい刺激に対する強い反応といった症状が、雄雌ともに確認されました。これに対し、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、これらの痛みの行動が全て、性別に関わらずに抑制されました(図1)。この結果は、RAGEの働きを初期段階で弱めることが、痛みを防ぐ上で重要であることを示しています。 図1:RAGE阻害薬の予防投与による痛み様行動の抑制効果 神経損傷マウスにRAGE阻害薬を予防的に投与した際の、痛みの強さを示す行動の変化。(左)自発的な痛み(顔を毛繕いする時間)と(右)冷たい刺激に対する痛み反応を評価した結果。神経損傷のみのマウス(黒)では、対照マウス(白色)に比べて痛みの行動が著しく増加しましたが、RAGE阻害薬を投与したマウス(灰色)では、これらの痛みの行動が有意に抑制されました。本図は雄マウスのデータですが、雌マウスにおいても同様の抑制効果が確認されています。(本研究成果の論文中の図を改変) ここまでで、RAGEの働きを弱めると痛みが抑制されることが分かりましたが、次に、この痛み予防効果の背景にあるメカニズムを解明するため、免疫細胞の活動を詳細に解析しました。まず、マウスの傷つけた神経の周辺を調べたところ、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、炎症を引き起こす主要な免疫細胞である「マクロファージ」が過剰に集まっていることが確認されました。しかし、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、このマクロファージの集まりが劇的に抑制されていました(図2)。 図2:RAGE阻害薬による神経損傷部位でのマクロファージ集積の抑制効果 損傷した三叉神経の周囲に集まる免疫細胞「マクロファージ」の様子(白色部分)。対照マウス(左)と比較して、神経損傷のみのマウス(中央)ではマクロファージが過剰に集積し、強い炎症反応が起きています。一方、RAGE阻害薬を投与したマウス(右)では、このマクロファージの集積が大幅に抑制されていることが分かります。(本研究成果の論文中の図を改変) さらに、神経からの痛みの情報が脳に伝わる最初の中継地点である「脳幹(三叉神経脊髄路核尾側亜核)」に注目しました。すると、神経が傷ついたことに反応して、脳幹に存在する免疫細胞「ミクログリア」が活性化し、その細胞数が異常に増加していることが分かりました。これは痛みの信号が増幅され、慢性化する「中枢性感作」と呼ばれる現象の証拠です。驚くべきことに、末梢神経周辺に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化をも抑制していました(図3)。 図3:RAGE阻害薬による脳幹でのミクログリア活性化の抑制効果 痛みの情報が脳に伝わる中継地点「脳幹」における免疫細胞「ミクログリア」の様子(白色部分)。対照マウス(左)のミクログリアは活動が穏やかな「休止状態」ですが、神経損傷のみのマウス(中央)では、細胞が大きく形も変化した「活性化状態」になっています。末梢神経に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化も強く抑制しました(右)。(本研究成果の論文中の図を改変) これらの結果から、 ①神経が傷ついた時に放出されたHMGB1がRAGEに結合し、 ②末梢神経でマクロファージによる過剰な炎症を引き起こし、 ③その情報が脳幹に伝達されてミクログリアを活性化させ、痛みを慢性化させる、 という一連のメカニズムが明らかになりました。 そして、神経損傷の直後にRAGEの働きを阻害することで、この負の連鎖を断ち切り、痛みの発症を未然に防ぐことができるという、全く新しい予防戦略の有効性が示されました。     今後の展開 今後は、ヒトでの臨床応用を目指し、安全性と有効性の検証を進めていきます。本研究で標的とした受容体「RAGE」は、アルツハイマー病など他の疾患の治療標的としても研究が進められており、それらの治療薬として開発された薬剤を応用することで、本予防法の早期実用化が期待されます 。また、本予防法は損傷した神経の周辺に薬剤を局所投与するため、全身性の副作用を低減できる可能性も秘めています。 本予防戦略は、歯科治療後の顔面痛だけでなく、様々な難治性疼痛へも展開できる可能性があるため、将来的にはより幅広い医療分野において、痛みの「治療」から「予防」へのパラダイムシフトを促すものと期待されます。     参考資料 掲載誌:Biochemical Pharmacology 論文題目:Preventive effect of RAGE antagonists on distal infraorbital nerve injury-induced pain behaviors of male and female mice 著者: Simeng Ma, Yoki Nakamura*, Takahiro Kochi, Suzuna Uemoto, Yume Miura, Zhaojing Wang, Kazue Hisaoka-Nakashima, Norimitsu Morioka* 掲載日:2025 年 12 月 (オンライン先行公開日:2025 年 8 月 14 日) DOI:10.1016/j.bcp.2025.117242 本研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   【プレスリリース】歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功ー痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へー.pdf(1.03 MB) 掲載誌:Biochemical Pharmacology 研究者ガイドブック(中村 庸輝 助教)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 助教中村庸輝 Tel:082-257-5312 E-mail:nakayoki@hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 教授森岡徳光 Tel:082-257-5310FAX:082-257-5314 E-mail:mnori@hiroshima-u.ac.jp

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    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.26
    • バイオエコノミー
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    ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開

    ウニ胚や幼生の神経細胞は、細胞数が少なく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することが容易ではありません。今回、バフンウニについて、発生段階ごとの単一細胞RNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、誰もが手軽に1細胞レベルでの遺伝子発現を調べられる形で公開しました。   単一細胞RNAシーケンス(single-cell RNA-seq; scRNA-seq)は、個々の細胞がどの遺伝子を発現しているかを網羅的に解析できる強力な手法です。生物の発生過程では、同じ胚の中でも細胞が多様な運命へ分岐していきますが、scRNA-seqを用いると、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)だけでは捉えきれない「細胞ごとの違い」を明らかにすることができます。しかしながら、ウニ胚や幼生の神経細胞のように細胞数が少ない細胞集団は、解析データの中で埋もれやすく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することは困難です。 本研究では、バフンウニHemicentrotus pulcherrimusの胚発生(受精後24〜96時間)にわたるscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、発生段階に沿った細胞状態の変化を単一細胞レベルで体系的に整理しました。さらに、隣接する細胞の相互作用を薬理学的に阻害して、神経分化を増強させることで、通常条件では検出が難しい神経系の細胞集団や関連遺伝子群をより明瞭に捉えることに成功しました。得られたデータは、日本産ウニのゲノムデータベース(HpBase)にて公開し、計算解析に不慣れな研究者でも直感的に遺伝子発現を探索できる研究基盤として整備しました。   研究代表者 筑波大学生命環境系 谷口 俊介准教授 千葉大学大学院医学研究院 露崎 弘毅特任講師 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 山本 卓教授 国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室 池尾 一穂准教授   研究の背景 ウニは古くから発生生物学注1)の代表的な実験材料として用いられ、受精・卵割・原腸形成・細胞運命決定といった基本原理の解明に大きく貢献してきました。透明で操作しやすい胚を大量に得られる点に加え、外部からの処理や観察を組み合わせた実験設計に適しているという特徴があります。しかしながら、マウスやショウジョウバエなどの典型的なモデル生物と比較すると、系統維持や遺伝学的手法の蓄積には制約があり、近年急速に発展してきたゲノム解析注2)やトランスクリプトーム解析注3)などの大規模なデータ基盤は十分に整備されていません。 特に神経系の発生は、複数の細胞系列が精密に分化、配置される過程であり、限られた数の神経細胞やそのターゲットとなる細胞が時間とともに変化していくため、網羅的に捉えることが難しい研究対象です。実際にウニ胚や幼生においては、神経細胞は全細胞の中で相対的に少数であるため、単一細胞RNAシーケンス解析(scRNA-seq)注4)を行っても神経クラスターが小さくなり、神経分化を駆動する転写因子やシグナル経路を同定する際の感度が課題となっていました。そこで本研究では、発生段階を通したscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)の構築に加え、解析で見えにくい細胞集団を見えやすくするために、神経分化に強く関与するDelta–Notch経路注5)を実験的に抑制して神経細胞系列を増やし、ウニ神経発生の分子基盤をより高解像度で捉えることを目指しました。   研究内容と成果 本研究ではまず、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)の受精後24、36、48、72、96時間という発生の主要段階から単一細胞データを取得し、発生が進むにつれて細胞集団がどのように分岐し、多様化していくのかを可視化できるscRNA-seqアトラス注6)を構築しました。これにより、ウニ胚発生における細胞状態の連続的変化を単一細胞解像度で追跡できるだけでなく、細胞種・細胞系列ごとに特徴的な遺伝子発現プロファイルを参照できる「地図」として機能する基盤が整いました。 次に、胚に対して、Delta–Notch経路(細胞間の相互作用)を阻害する薬剤処理を行い、神経分化が増強される条件を作り出しました。その結果、神経系に相当する細胞集団が相対的に増加し、通常条件では小さくなりがちな神経関連クラスターや、その中で発現する神経分化関連遺伝子がより明確に検出できるようになりました。これは、scRNA-seqの弱点である「少数細胞集団の見えにくさ」を実験操作で補い、神経発生の分子制御の理解を促す有効なアプローチであることを示しています。 このようにして得られた単一細胞データは、研究活動に幅広く活用できるよう、日本産ウニのゲノムデータベースHpBaseにて公開し、フリーソフトKana注7)を用いて解析できるプロトコルを示しました(参考図)。これにより、特定の遺伝子の発現がどの細胞集団で、どの発生段階に現れるのかを直感的に探索でき、計算解析に不慣れな研究者でも実験計画や仮説検証に利用しやすくなります。また、scRNA-seqアトラスを参照として用いることで、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)の結果から細胞タイプ組成の変化を推定する枠組みも提示し、従来のバルク解析とscRNA-seqを橋渡しする実用的な解析フローを確立しました。   今後の展開 本研究成果は、ウニ神経発生の理解を深めるだけでなく、非モデル生物におけるscRNA-seqの活用を促進し、発生・進化・比較生物学を横断した研究展開に資する基盤になると期待されます。   参考図 図本研究で構築したウニ胚と幼生の単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)アトラス ウニ胚と幼生の発生ステージ(Stages of embryo/larvae、上段)に沿って、受精後24、36、48、72、96時間における細胞集団のscRNA-seq解析結果をアトラス(Single-cell scRNA-seq atlas)として整理した。各時点の細胞は、対照(Control、紫)と薬剤処理(Reagent、緑)で色分けして示した。薬剤は受精後16時間に添加し、その後の細胞状態の変化を単一細胞レベルで比較できる。特定領域を拡大すれば、処理条件ごとに目立つ細胞集団の変化を直感的に把握できる。得られたscRNA-seqアトラスはデータベースHpBase上で公開し、ブラウザ上で遺伝子発現の探索が可能。   用語解説 注1) 発生生物学 たった一つの細胞である受精卵から体が形作られるまでの分子メカニズムを解明する学問。細胞内外のシグナル分子の働きと、DNAに結合して遺伝子発現を調節する転写因子の機能解析などを通じて、時間的空間的にその生物個体に何が起きているのかを明らかにする。 注2) ゲノム解析 生物がもつ全DNA配列(ゲノム)を読み取り、遺伝子の種類、配置、変異を調べる解析。これにより生物の形質や進化、疾患、適応の基盤を理解する。 注3) トランスクリプトーム解析 細胞や組織で実際に転写されている全RNA(主にmRNA)を網羅的に測定する解析。どの遺伝子がどれくらい使われているかを示し、発生段階、細胞種、条件差による発現変化を捉える。 注4) 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq) 多細胞生物の体を構成する細胞に発現しているmRNAを細胞ごと網羅的に解析する手法。 注5) Delta-Notch経路 隣接する細胞が相互作用することで互いに異なる運命をもたらすメカニズムで、多くの動物の神経細胞分化の過程で見られる。DeltaとNotchはいずれも細胞膜上の膜タンパク質で、隣接する一方の細胞のDeltaがもう一方の細胞のNotchと結合することで、この細胞でのDeltaの発現を抑制し、役割の異なる細胞を分化させる。 注6) アトラス 細胞・組織・遺伝子発現などを網羅的にまとめたデータ集。単一細胞RNA-seqアトラスは、発生段階や臓器ごとに、存在する細胞タイプや遺伝子発現の分布を細胞単位で示す参照地図。 注7) Kana scRNA-seqの結果をブラウザ上で直感的に閲覧・探索できるフリーソフト。遺伝子の発現パターン、クラスター(細胞集団)、細胞タイプの違いを可視化できる。   研究資金 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C, JPMJPR1945;2019-2022年度)、科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業が助成するA-STEP(JPMJTR204E; 2019-2024年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤研究(B)(23K23933; 2022-2025年度)、(C)(23K11312;2023-2027年度)、(若手)(19K20406: 2019-2022 年度)による助成によって実施されました。   掲載論文 【題名】 Single-cell transcriptomic resources for tracing neurogenesis and cell fate specification in sea urchin embryos (ウニ胚における神経形成と細胞運命決定を解析するための単一細胞RNA-seqリソース) 【著者名】 *Koki Tsuyuzaki, Junko Yaguchi, Takashi Yamamoto, Kazuho Ikeo, *Shunsuke Yaguchi (*責任著者) 【掲載誌】 Development 【掲載日】 2026年2月26日 【DOI】 10.1242/dev.205025   【プレスリリース】ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開.pdf(1.1 MB) 掲載誌:Development 研究者ガイドブック(山本卓教授)   【問い合わせ先】 【研究に関すること】 谷口俊介(やぐちしゅんすけ) 筑波大学生命環境系/下田臨海実験センター准教授 TEL: 0558-22-1317 URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home X@urchin_lab   【取材・報道に関すること】 筑波大学 広報局 TEL: 029-853-2040 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp   千葉大学 広報室 TEL: 043-290-2018 E-mail: koho-press@chiba-u.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-4518 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   国立遺伝学研究所 TEL: 055-981-5873 E-mail: prkoho@nig.ac.jp

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    2026.03.16
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    脳の神経細胞の成長を導く新たな仕組みを発見 ― 神経再生医療への応用可能性に期待 ―

    概要 広島大学大学院医系科学研究科の田中 茂 准教授を中心とする研究チームは、脳の神経細胞が分化をはじめるとき、ごく初期の段階で「GPR3」という受容体が働き、それが他の遺伝子の活動を引き起こしていることが分かりました。 神経分化の最初期で働く遺伝子に、細胞膜に存在する受容体がかかわる例はこれまでほとんど報告されていません。本研究は、受容体が分化初期の遺伝子発現制御に直接関与するという新しい概念を提示するものであり、神経発達研究の枠組みに新たな視点を加える成果です。 本研究成果は、2026年2月19日に国際学術誌「iScience」(Cell Press)に掲載されました。 発表論文 論文タイトル: GPR3 Is an Immediate Early Gene–Like GPCR Regulating CREB Dependent Neuronal Differentiation 著者: 田中 茂*、猪川文朗、白榊紘子、原田佳奈、秀 和泉、酒井規雄 (*責任著者) 所属: 広島大学 大学院医系科学研究科 神経薬理学 掲載誌:iScience(Cell Press) 掲載日:2026年2月19日 DOI:10.1016/j.isci.2026.114944 背景 私たちの脳は「神経細胞」から成り立ちます。はじめは未熟な細胞としてうまれ、そこから神経細胞としての形を少しずつつくり、さらに他の神経細胞とつながることで、脳の機能を果たせる神経細胞へと成長していきます。この過程を「分化」といいます。具体的には、脳の中で神経細胞が別の神経細胞とシナプスという接点でつながり、巨大なネットワークをつくることで、記憶、学習、思考などの働きが生まれます。このネットワークを「神経回路」といいます。 しかし、この神経回路がどのようにして作られるのか、つまり、神経細胞がどのタイミングで分化を始めるのか、どの遺伝子が働くのか、どの神経細胞同士がつながっているのか、などについては、まだ完全にはわかっていません。脳の働きを理解するために、神経細胞がどのようにして成熟し、脳の回路を形成するのかを把握することは、脳科学の重要な課題です。 研究成果 神経細胞は、外部からの刺激を受けると、遺伝子発現を段階的に切り替えながら分化・成熟していきます。本研究では、神経細胞に発現する受容体GPR3が、神経分化のごく初期段階で遺伝子発現制御に関与し、その後の神経回路形成を方向づける役割を担うことを明らかにしました。 これまで、神経分化の初期に働く遺伝子の多くは、転写因子など細胞内で機能する分子として知られてきました。刺激を受けた直後に一過性に誘導され、次の遺伝子発現を制御するこれらの遺伝子は「最初期遺伝子(Immediate Early Gene; IEG)」と呼ばれています。一方で、細胞膜に存在する受容体が、このような初期遺伝子制御に関わる例はほとんど報告されていませんでした。 本研究では、神経分化刺激によりGPR3遺伝子が刺激後1~2時間の早期に一過性に上昇した後、いったん低下し、その後再び持続的に発現が上昇する早期一過性上昇と後期持続的上昇からなる二相性の発現パターンを示すことを見出しました。さらにGPR3は、転写因子CREBによる制御を受けながら、細胞内のシグナル伝達を増幅し、転写因子NR4Aファミリーの発現誘導に関与することが示されました。 NR4A1は転写因子としてシナプス前タンパク質Synapsin1の発現を制御しており、GPR3を欠損したマウス由来神経細胞では、Synapsin1の発現低下とシナプス前終末の形成低下が認められました。 これらの結果から、GPR3は最初期遺伝子様の発現パターンを示し、遺伝子発現ネットワークを介してシナプス形成に関与する新たな分子機構の一端が明らかになりました。 今後の展開 GPR3を起点とする「分化初期の受容体による遺伝子制御」という新しい仕組みは、神経発達や学習・記憶の分子基盤の理解を深める成果です。今後は、生体脳内での機能解析や脳梗塞などの病態モデルを用いた研究を進めることで、神経再生医療への応用可能性について検討を進めていく予定です。 参考資料 GPR3による分化初期遺伝子制御機構の模式図 神経分化刺激によりCREBが活性化され、GPR3遺伝子の発現が刺激後早期に一過性に上昇する。誘導されたGPR3は細胞内シグナル伝達を増幅し、転写因子NR4Aファミリーの発現を促進する。NR4A1はSynapsin1遺伝子の転写を活性化し、シナプス前終末形成を制御する。 図1: 本研究の要点 <用語解説> ■ 神経分化 未成熟な神経細胞が成長し、形態や機能を変化させて成熟した神経細胞になる過程。 ■ シナプス 神経細胞同士が情報をやり取りする接点。学習や記憶の基盤となる構造。 ■ Gタンパク共役型受容体(GPCR) 細胞膜に存在する受容体の一種。外部からの刺激を受け取ると、細胞内にシグナルを伝える分子群。 ■ 最初期遺伝子(Immediate Early Gene; IEG) 細胞が刺激を受けた後、比較的短時間(数十分〜数時間程度)で一過性に発現が増加する遺伝子群。次に働く遺伝子の発現を方向づける役割をもつ。 ■ CREB 細胞内シグナルに応答して活性化され、特定のDNA配列に結合して遺伝子の転写を促進する転写因子。 ■ NR4Aファミリー 刺激に応答して発現が増加する転写因子群。本研究ではGPR3の働きによって誘導されることが示された。 ■ Synapsin1 シナプス前終末に存在するタンパク質で、神経伝達物質の放出やシナプス形成に重要な役割をもつ。 報道発表資料(271.77 KB) 研究者ガイドブック(田中 茂准教授) 【お問い合わせ先】 広島大学 大学院医系科学研究科 神経薬理学 准教授 田中 茂(たなか しげる) E-mail:tanakamd@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.16
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    肝腫瘍の腹腔鏡手術、どんな時に開腹に切り替える? 多施設前向き研究で「3回目以降の肝切除」と「男性」がリスク因子と判明

    本研究成果のポイント 肝腫瘍の腹腔鏡手術において、手術中に体への負担が大きい開腹手術に切り替えなくてはならない状況が発生することがあります。どのような状況で、この切り替え(コンバージョン)が発生してしまうのか、リスクとなる因子を明らかにしました。 概要 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループは、広島臨床腫瘍外科研究グループ (Hiroshima Surgical Study Group of Clinical Oncology: HiSCO)に所属する7施設による多施設共同前向き研究を行い、腹腔鏡下肝切除において、手術中に用手補助腹腔鏡手術(HALS)または、開腹手術へ移行(コンバージョン)するリスク因子を明らかにしました。その結果、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが、コンバージョンのリスクであることが明らかになりました。 本研究の成果は、2025年12月26日に「Scientific Reports」に掲載されました。 論文タイトル Risk factors of conversion to hand-assisted laparoscopic surgery or open surgery in laparoscopic liver resection: a multicenter prospective study (HiSCO-08) 著者 Ko Oshita¹、 Michinori Hamaoka²*、 Tsuyoshi Kobayashi¹、 Takashi Onoe³、 Tomoyuki Abe⁴、 Toshihiko Kohashi⁵、 Koichi Oishi⁶、 Daisuke Takei⁷、 Tomoyuki Akita⁸、 Hideki Ohdan¹ *責任著者 1. Department of Gastroenterological and Transplant Surgery、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University 2. Department of Gastroenterological、 Breast and Transplant Surgery、 Hiroshima Prefectural Hospital 3. Department of Gastroenterological Surgery、 Kure Medical Center and Chugoku Cancer Center、 National Hospital Organization. 4. Department of Gastroenterological Surgery、 Higashihiroshima Medical Center、 National Hospital Organization. 5. Department of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery、 Hiroshima City North Medical Center Asa Citizens Hospital. 6. Department of Surgery、 Chugoku Rosai Hospital. 7. Department of Surgery、 Onomichi General Hospital. 8. Department of Epidemiology、 Infectious Disease Control and Prevention、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University. 掲載雑誌 Scientific Reports DOI 10.1038/s41598-025-34013-3 背景 肝腫瘍の治療において、腹腔鏡下肝切除という手法があります。これはお腹に小さな穴をあけて行う治療法で、出血量が少なく、手術後の痛みが軽く、早期に社会復帰可能といった利点から、体への負担が少ない手術として世界的に普及しています。とくに部分切除や外側区域切除といった小さな範囲の肝腫瘍を切除する際には、この治療法が標準的に選ばれることが多いです。 一方で、腹腔鏡下肝切除では、手術中に安全性の担保や腫瘍を確実に切り取ることが困難となり、用手補助腹腔鏡手術(HALS)や開腹手術という手術法へ移行(コンバージョン)する症例が一定数存在します。コンバージョンすると、体への負担が増加し入院期間の延長につながることが知られており、どのような症例でコンバージョンリスクが高いかを手術前に把握することは、極めて重要な課題です。 これまでにもコンバージョンのリスク因子に関する報告はありますが、その多くは後ろ向き研究(過去の記録を振り返る研究)でした。経験的にコンバージョンの可能性が高いと予測された症例は最初から腹腔鏡下肝切除を選ばないことが多く、実際に腹腔鏡下肝切除を試みたときに何が本当に影響するのかを正確に評価しにくいという課題がありました。このため、従来の研究では「腹腔鏡下肝切除を実際に試みた場合に、どの因子が真にコンバージョンに影響するのか」を正確に評価することが困難でした。実際、我々の経験でも、手術前にはコンバージョンのリスクが高いと予測して開腹手術を選択した症例において、後から振り返れば腹腔鏡手術が可能であったと思われる症例がありました。 本研究ではこの課題を克服するため、肝切除の既往歴や肝硬変の有無などの背景に関わらず、適格基準を満たすすべての症例に対してまず腹腔鏡アプローチを行うという、これまでにない前向き研究(あらかじめ計画して将来の結果を追う研究)デザインを採用しました。これにより、選択バイアスを最小限に抑え、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンリスクを、実臨床に近い形で検証することが可能となりました。 研究成果の内容 本研究は、広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)に所属する7施設が参加した多施設共同前向き臨床試験として実施されました。 5cm以下の単発肝腫瘍に対して部分切除または外側区域切除を予定した患者を対象とし、すべての症例を腹腔鏡で手術を開始しました。199例が登録され、うち172例(86.4%)では腹腔鏡下肝切除を完遂しました。一方、27例(13.6%)では、術中の安全性や根治性の確保を目的として、HALSまたは開腹手術へコンバージョンしました。コンバージョンの主な理由は腹腔内癒着であり、特に複数回の肝切除を受けた症例で高頻度に認められました。多変量解析の結果、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンの独立したリスク因子として、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが明らかになりました。 また、コンバージョン症例では、腹腔鏡下肝切除を完遂できた症例と比較して、手術時間の延長、出血量の増加、術後入院期間の延長が認められました。一方で、重篤な術後合併症や周術期死亡は認められませんでした。 今後の展開 本研究は、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンのリスク因子を、前向きかつ多施設で検証した世界初の臨床研究です。本研究成果により、「コンバージョン高リスク症例を事前に把握したうえでの、慎重かつ現実的な手術戦略の立案」、「早期のHALS・開腹手術への移行を含めた、安全性を最優先とした判断」、「不必要な手術侵襲や合併症リスクの回避」が可能となり、腹腔鏡下肝切除全体の安全性向上が期待されます。 また、本研究で明らかとなったコンバージョンのリスク因子は、腹腔鏡手術の適応を制限するためのものではなく、術中に生じ得る技術的困難を予測する指標として活用されるべきものです。高リスク症例においても、適切な準備と判断のもとで腹腔鏡アプローチを選択することは十分に可能であり、本研究はその判断を支える科学的根拠を提供します。 今後は、本研究で得られた知見を基盤として、より高難度な肝切除や解剖学的切除への応用やロボット支援肝切除におけるコンバージョンリスク評価など、低侵襲肝手術の最適化に向けた研究を展開していく予定です。 図1: 本研究の要点 用語解説 腹腔鏡下肝切除:お腹に数か所の小さな穴を開け、カメラ(腹腔鏡)と細い器具を用いて肝臓の一部を切除する低侵襲手術。 コンバージョン(開腹移行):腹腔鏡手術中に、安全性や確実性を優先するため、予定していた腹腔鏡手術を中止し、より侵襲の大きい手術方法へ変更すること。 用手補助腹腔鏡手術(HALS):腹腔鏡手術の途中で、術者の手をお腹に入れて行う手術方法。腹腔鏡手術と開腹手術の中間的な手技。 前向き研究:あらかじめ研究計画を立て、対象となる患者を登録し、将来に向かって結果を追跡・解析する研究方法。後ろ向き研究より結果に信頼性が高い。 選択バイアス:研究対象の選び方によって、結果が偏ってしまうこと。 報道発表資料(511.25 KB)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 Tel:082-257-5220FAX:082-257-5224 E-mail:hohdan@hiroshima-u.ac.jp

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    2026.01.19
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    【フェニックスセミナー2025まとめ】AI/DX研究の最前線

    概要 フェニックス協力会主催(広島大学AI・データイノベーション教育研究センター共催)にて、2026年1月19日に広島駅前コンベンションホールにて、フェニックスセミナー2025(研究シーズ発表会)を開催しました。   当日は、企業や研究者など70名ほどが参加し、若手研究者によるAI/DXの研究の最前線についての発表がありました。セミナー後は、懇親会も開催。直接研究者とコミュニケーションをとることで、研究とビジネスをつなげるきっかけの場となりました。   発表内容の詳細 信頼性工学 × 生成AI:Nバージョンプログラミングを再考する(鄭 俊俊)   プライバシーを守る次世代AIの実践と応用(連 卓涛)   モノの形の最適化(松島 慶)   情報科学×医学の融合研究(檜垣 徹)   生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用(古居 彬)   深層学習・ニューラルネットワークによる視覚表現学習(相澤 宏旭)   ウェーブレットに基づいた円滑化技術による寿命分析の改善に関する検討(呉 敬馳)     フェニックス協力会とは 「地域社会・国際社会との共存」を具現化する取組みとして、2010年11月、地域社会、特に地域産業界への更なる貢献を目的として設立。 150社ほどの企業・団体が所属し、広島大学オープンイノベーション本部産学連携部門(事務局)から、産学連携に関連する情報発信や、会員企業の皆さまにご活用いただけるさまざまなサービスなどを発信しています。

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