• HOME
  • 研究成果紹介
  • 産学連携スキーム
  • センター・拠点
  • 組織紹介
  • EN
  • JP

研究成果紹介

研究成果を検索いただけます

※教員の職名・所属等は記事公開時点の情報であり、最新情報とは異なる場合があります。

Category

─ 研究成果をカテゴリー別に集約 ─
  • 環境エネルギー
  • 気候変動/エネルギー/GX
  • 自然共生/ネイチャーポジティブ
  • 循環経済
  • 食料/農林水産業
  • 防災
  • 介護/福祉
  • デジタル/AI
  • モビリティ
  • インフラ
  • フュージョン
  • 情報通信
  • 宇宙
  • 量子
  • 半導体
  • 素材
  • バイオエコノミー
  • 資源
  • 海洋
  • 医療/ヘルスケア
  • 教育/人材育成
  • 健康/スポーツ
  • 経営/組織運営/デザイン
  • 融合領域

キーワード検索

─ 研究成果をキーワードで探す ─
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2026.01.09
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    メスのメダカの性行動を行うモチベーションは排卵周期にシンクロする ~メスがオスを受け容れる行動を生み出す神経回路の解明に期待~

    本研究成果のポイント ゲノム編集により排卵できなくなったメダカのメスは、性行動のモチベーションがなくなり、オスの求愛を受け容れなくなった メスのメダカにおける排卵発生のタイミングと性行動のモチベーションが上昇するタイミングを正確に明らかにし、排卵が脳に伝わることで性行動を促す神経内分泌メカニズムの実体を提唱した この神経細胞を起点として、メスがオスを受け容れる行動を生み出す神経回路の全容解明につながると期待   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科 富原壮真 助教(研究当時:東京大学 大学院理学系研究科 博士課程)、下舞凜子(研究当時:東京大学 大学院理学系研究科 修士課程)、大阪医科薬科大学 医学部 中城光琴 助教、東京大学 岡良隆 名誉教授、東京農工大学 大学院農学研究院応用生命化学部門 馬谷千恵 助教(研究当時:東京大学 大学院理学系研究科 助教)の研究グループは、メダカのメスの性行動に対するモチベーション(性的受容性)が、一日周期で回る排卵周期に同期して変動することを明らかにしました。   一般に魚類のメスが産卵するためには、卵巣に発達した卵がある状態でオスを受け容れるといったように、卵巣の状態と性的受容性を同期させることが重要です。しかし、卵巣の状態を脳に伝え性的受容性を制御する神経内分泌メカニズムがどのようなものなのか、その詳細は明らかになっておりませんでした。   今回の研究では、ゲノム編集技術※1を用いて卵巣の状態が異なるメスメダカを作出し、卵巣の状態の中でも特に「排卵※2が起きたこと」がメスの性的受容性の促進に寄与していることを明らかにしました。また、メダカのメスを経時的に観察することで、排卵と性行動のそれぞれが起こるタイミングを正確に捉え、排卵の直後から性行動が起こることを示しました。さらに、卵巣において排卵時に分泌されるホルモンが脳内の神経細胞に直接受け取られることで、性的受容性が促進することを示唆する結果を得ました。これは、メスの性的受容性を排卵周期に同期して上昇させる神経内分泌メカニズムの実体を提唱するものです。   本研究により、魚類メスの性的受容性を促進する神経回路の理解が進むとともに、新たな繁殖技術など水産増養殖法の改良に向けた研究にもつながると期待されます。 本研究成果は、英国科学誌「Journal of Neuroendocrinology」に、2026年1月9日(金)(日本時間)にオンライン公開されました。   背景 魚類は、脊椎動物の中でも特に多様化した動物であり、さまざまな種が海や川などの世界中の水域に生息しています。この魚類たちは、一般にそれぞれの種の雌雄で性行動を行うことで、新たな子孫が生まれ、種が存続していきます。多くの魚類の性行動は、オスがメスに求愛行動を行うことで開始され、メスが求愛を受け容れるかどうかが繁殖成功の鍵となります。一方、メスはいつでもオスを受け容れるわけではなく、卵巣に発達した卵が存在し、卵が産める状態になった時にのみオスを受け入れることが多くの種で報告されています。このように魚類メスがオスを受け容れて性行動を行うモチベーションすなわち性的受容性は、卵巣の状態に同期して上昇し、これによってメスは正確なタイミングでオスの求愛を受け容れることができます。しかし、魚類において卵巣の状態を脳に伝える神経内分泌メカニズムがどのようなものなのか、その詳細は明らかになっていませんでした。   本研究で用いたメダカは、一日周期で卵を産み、また定型的な性行動のパターンを示すため、性行動の解析に適した魚です。また、卵巣での卵発達を制御する神経内分泌メカニズムの知見が豊富であるため、卵巣の状態と性的受容性を同期する仕組みの理解に適切なモデルであると考えました。   研究成果の内容 メダカをはじめとする魚類のメスにおいては、脳の視床下部に存在する神経細胞や脳下垂体から分泌されるホルモンによって卵巣における卵の成長が制御されています。このため、ゲノム編集技術でこの卵巣機能制御に関与する遺伝子を機能不全にしたメスメダカの性行動を解析し、オスから求愛を受けるかどうかや、その求愛を最終的に受け容れるかどうかを解析しました。その結果、脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH)※3の遺伝子の一部が欠損し、発達した卵を持ちながら排卵することが出来ないメスメダカ(LH欠損メダカ)は、オスから正常に求愛されるにも関わらず、その求愛を一切受け容れませんでした。また、正常なメダカのメスの排卵が起こるタイミングと性行動を行うタイミングを経時的に観察した結果、排卵は飼育室の照明が点灯する約2時間前に起き、一方で性行動は照明点灯の1.5〜1時間前に行われることを正確に明らかにました。このように、性行動は排卵の起きた直後に行われることがわかり、メスの性的受容性は排卵することで上昇することが示唆されました。   次に、このLH欠損メダカに排卵時に卵巣から分泌されることが報告されている性ステロイドホルモン17α, 20β-DHP※4と受容体※5をともにするP4※6を投与すると、オスと性行動をする様子が観察され、性的受容性が回復しました。興味深いことに、P4の投与では排卵そのものが回復することはなかったため、P4が卵巣に作用し排卵が起き、結果的に性的受容性が回復したのではなく、投与したP4が直接脳内に受容されることで性的受容性が回復したことが考えられます。実際、17α, 20β-DHPやP4の受容体は、終脳腹側野や視索前野といった脳内の性行動に関与することが報告されている領域に存在する神経細胞で発現しており、自然条件下でも排卵時に卵巣から分泌されるホルモンが脳内で直接受容され、この神経細胞が性的受容性の促進に関与する経路が存在することが示唆されました。   今後の展開 本研究により、魚類メスの性的受容性を促進することに寄与する神経細胞の実体が一部明らかになりました。今後はこの神経細胞を起点として、メスがオスを受け容れる行動を生み出す神経回路の全容解明につながると期待されます。   論文情報 掲載雑誌名:Journal of Neuroendocrinology 掲載日:2026年1月9日 タイトル:Sexual Receptivity Increases in Synchrony with the Ovulatory Cycle in Female Medaka 著者:富原 壮真、下舞 凜子、中城 光琴、岡 良隆、馬谷 千恵 DOI:https://doi.org/10.1111/jne.70119   参考資料   用語解説 ※1ゲノム編集技術:生物のゲノムDNAのうち、目的の遺伝子領域を酵素の“ハサミ”で切断することでその遺伝子の機能を欠損、あるいは改変する技術。 ※2排卵:卵巣内で発達した濾胞(卵を包む袋状の構造)が破れ、卵が卵巣の外に放出される現象。体外受精を行う魚類の多くは、メスが排卵された卵を腹内部に蓄え、オスと性行動を行うことで卵を体外に放出する。この体外に放出する現象は放卵といい、排卵とは異なる現象である。 ※3黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone; LH):脳下垂体から分泌されるホルモンで、複数のアミノ酸が繋がったペプチド。脊椎動物に広く保存されているホルモンであり、哺乳類では排卵に加え、卵を成長させる機能も担う。一方で魚類においてこのホルモンは排卵を制御し、卵の成長は別のホルモン(濾胞刺激ホルモン)が担う。 ※417α, 20β-DHP:メダカをはじめとした魚類の多くにおいて、排卵時に卵巣から分泌されるホルモン。このホルモンは、脳下垂体から分泌されたLHが卵巣の細胞の受容体に結合することで卵巣の細胞から産生・分泌され、濾胞を破って卵を濾胞の外に放出する現象(排卵)を引き起こす。 ※5受容体:細胞内または細胞膜に存在するタンパク質で、ホルモンや神経伝達物質のような特定の分子(リガンド)を選択的に受け取り、細胞内外の情報を伝達する。 ※6P4:17α, 20β-DHPと似た構造を持つものの、メダカにおいては排卵を引き起こすことのないホルモン。17α, 20β-DHPとP4は同じ受容体※5を活性化するため、これらのホルモンは同じ細胞に受容されることが予想される。   報道発表資料.pdf(372.84 KB) 掲載雑誌:Journal of Neuroendocrinology 研究者ガイドブック(富原 壮真 助教)   【お問い合わせ先】 〈研究に関すること〉 広島大学大学院統合生命科学研究科 助教富原 壮真 Tel:082-424-7458 E-mail:tomihara@hiroshima-u.ac.jp   東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門 助教馬谷 千恵 Tel:042-367-5696 E-mail:chie@go.tuat.ac.jp   〈報道に関すること〉 広島大学広報室 TEL:082-424-6762 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   東京農工大学総務課広報室 TEL:042-367-5930 E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 海洋
    2026.01.27
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 海洋
    朝に光をあびて夜に産卵するクラゲの発見 ─Clytia sp. IZ-Dがもつ新たな生物時計のしくみ─

    本研究成果のポイント 多くのクラゲは、「暗→明」の光変化(明刺激)から数時間以内に産卵する。一方、宮城県の海で新たに採集されたClytia sp. IZ-Dは、明刺激から14時間たった後にようやく産卵するという珍しい性質をもっていた。 卵の成長過程や卵成熟誘起ホルモンの種類は近縁種間で共通していたが、Clytia sp. IZ-Dは一定の周期で自動的にホルモンの分泌や受容をするように変化していた。すなわち、ホルモンの分泌・受容の制御に基づいた、新たな『生物時計』のしくみを獲得したと考えられる。 このしくみの獲得によって、Clytia sp. IZ-Dは日照に左右されにくい産卵方法を手に入れるとともに、近縁種からの種分化を果たしたと推測される。   概要 ヒドロ虫綱のClytia hemisphaericaをはじめとした多くのクラゲは、暗から明への移行(明刺激)直後の卵成熟誘起ホルモンの分泌、その受容による卵成熟を経て、1〜2時間後に産卵します。今回、宮城教育大学大学院教育学研究科の橘井瑠伽大学院生・出口竜作博士、広島大学大学院統合生命科学研究科の竹田典代博士、ソルボンヌ大学・国立科学研究センター(フランス)のEvelyn Houliston博士・百瀬剛博士の研究グループは、宮城県の海で新たに採集されたClytia sp. IZ-Dが明刺激を受けてもすぐには産卵せず、14時間もたってから同調して産卵するという珍しい性質をもつことを発見しました。卵の成長過程や卵成熟誘起ホルモンの種類などは近縁種間で共通していましたが、Clytia sp. IZ-Dは明刺激がなくても約20時間周期で自動的にホルモンを分泌・受容し、産卵に至ることがわかりました。また、明刺激があると、産卵は24時間周期に調整されました。すなわち、Clytia sp. IZ-Dは卵成熟誘起ホルモンの分泌・受容に立脚した新たな『生物時計』のしくみを獲得し、朝の光を利用して夜に産卵するように「進化」したと推測されます。このしくみの獲得によって、悪天候にも左右されにくい産卵方法を手に入れるとともに、近縁種からの種分化を果たしたのかもしれません。クラゲの生殖戦略や種分化、新たな生物時計のしくみの解明につながる、重要な発見です。 本研究成果は、2026年1月6日に科学誌PLOS Biology速報版に掲載されました。   背景 多くのクラゲは、光変化を利用して卵や精子の放出を同調させ、受精を成功させています。例えば、Clytia hemisphaerica(注1)は、明け方の明刺激(暗→明)から2時間後に産卵します(図1)。これは、明刺激によって生殖巣から分泌された卵成熟誘起ホルモン(注2)を受容した卵母細胞(注3)が2時間かけて卵成熟(注4)を進行させ、受精可能になってから放出されるからです。明刺激の逆の、夕刻の暗刺激(明→暗)に反応して産卵に至るエダアシクラゲのような種もいます。明刺激や暗刺激は1日1回ずつ起こることから、クラゲの産卵は24時間周期でくりかえされます。しかし、C. hemisphaericaや同じヒドロ虫綱のヒドラはいくつかの重要な時計遺伝子を失っていることもあり、クラゲの産卵に生物時計(注5)や概日リズム(注6)といったしくみはこれまで想定されていませんでした。   研究成果の内容 宮城県の海岸で新たに採集されたウミコップ属のクラゲ、Clytia sp. IZ-D(注7)を12時間明-12時間暗の明暗周期で飼育すると、暗への移行から2時間後の産卵を毎日くりかえしました(図1)。最初は、暗刺激(明→暗)への反応と思われていたのですが、明暗時間の長さなどを変えた実験により、実は明刺激に反応しており、それから14時間もたってから産卵していることがわかりました。また、光をあて続けた条件(恒明条件)では、20時間周期で産卵をくりかえすこともわかりました(図2)。すなわち、Clytia sp. IZ-Dは20時間周期で自動的に産卵する性質を備えているものの、明刺激がそれを24時間周期に調整している(図2)ことになります。   Clytia sp. IZ-Dの体内での卵母細胞の成長過程は、C. hemisphaericaと基本的に同じでした。また、卵成熟誘起ホルモンの有効濃度やホルモン投与後の減数分裂過程も両者で共通していました。一方で、Clytia sp. IZ-Dの体内の卵母細胞が低濃度(生理的濃度)のホルモンに反応できるようになるには、恒明条件では前回の産卵から18時間、明暗周期のある条件では21〜22時間を要しました。Clytia sp. IZ-Dはこれまで知られていなかったしくみ──卵母細胞の低濃度ホルモンに対する応答能力獲得のタイミングがその2時間後(卵成熟完了後)の産卵のタイミングを決める──をもっているようです(図2)。 図1. Clytia sp. IZ-Dの産卵 (A) Clytia sp. IZ-Dの顕微鏡写真 (B) Clytia sp. IZ-Dのイラスト (C) 単離した生殖巣からの産卵の様子 (D) Clytia hemisphaericaとClytia sp. IZ-Dの産卵のタイミング 図2. 恒明と12時間明-12時間暗の条件下でのClytia sp. IZ-Dの卵成熟・産卵のタイミング   以上の結果から、Clytia sp. IZ-Dは卵成熟ホルモンの分泌・受容に立脚した新たな生物時計や概日リズムのしくみを獲得し、朝の光を利用して夜に産卵するように「進化」したと推測されます。このしくみの獲得によって、悪天候にも左右されにくい産卵方法を手に入れるとともに、近縁種からの生殖隔離(注8)と種分化(注9)を果たしたのかもしれません。   今後の展望 Clytia sp. IZ-Dのもつ、新たな生物時計や概日リズムのしくみを理解するには、光受容や卵母細胞の成長の制御などに関わる分子(遺伝子)にどのような変異が生じたのかを明らかにしていく必要があります。また、産卵のタイミングの変化が実際に生殖隔離や種分化につながった例について、他のクラゲも含めて広く調べていくことも大切です。他の海産動物のように、概日リズムだけでなく月齢や温度にも影響される、複雑な卵成長や産卵のしくみを理解する手がかりとしても期待されます。Clytia sp. IZ-Dは飼育しやすく、温度変化にも強いクラゲです。中学校の理科や高等学校での生物における生殖分野の学習などに活用する道も探っていきたいと考えています。   謝辞 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 (課題番号20K06736)、公益財団法人日本科学協会 笹川科学研究助成 (研究番号2025-4059)、フランス国立科学研究センター生物学研究所 海洋生物学国際共同研究補助金の支援を受けました。   用語説明 注1. Clytia hemisphaerica:刺胞動物門ヒドロ虫綱軟クラゲ目ウミサカズキガヤ科ウミコップ属のクラゲ。ゲノム情報を含め、分子生物学的な基盤が整っている。   注2. 卵成熟誘起ホルモン(Maturation-inducing hormone, MIH):卵母細胞に作用し、減数分裂(卵成熟)を誘発するホルモン。C. hemisphaericaでは、ペプチド(WPRPaやその類似物質)であることがつきとめられている (https://journals.biologists.com/dev/article/145/2/dev156786/48822/)。   注3. 卵母細胞:減数分裂を完了する前の段階の卵細胞。   注4. 卵成熟:卵母細胞が減数分裂をおこない、受精可能な卵になっていく過程。   注5. 生物時計:生物がそなえていると考えられる時間測定のしくみ。概日リズムは生物時計の代表例。   注6. 概日リズム (サーカディアンリズム, circadian rhythm):およそ1日の周期で変動する生物現象。光などの外界の変化を受けることにより、ちょうど24時間周期に補正される。時計遺伝子による制御のしくみが明らかになっている生物現象もある。   注7. Clytia sp. IZ-D:C. hemisphaericaと同じウミコップ属のクラゲ。ウミコップ属のクラゲは形態的差異が乏しいため、種の同定が困難であり、正式な学名をつけることができていない。なお、宮城県では、Clytia sp. IZ-Dによく似たClytia sp. IZ-Cというクラゲも採集されているが、このクラゲはC. hemisphaericaと同様に明刺激から2時間程度で産卵する。   注8. 生殖隔離:なんらかの遺伝的差異による隔離。出現場所や産卵時期が異なることなどによる「交配前隔離」や、生じた子が不稔になることなどを含む「交配後隔離」がある。   注9. 種分化:同じ種の生物の集団間に生殖隔離が生じ、2つ以上の種が形成されること。   論文情報 タイトル: A light-entrained clock mechanism in a hydrozoan jellyfish synchronizes evening gamete release 著者: Ruka Kitsui, Noriyo Takeda, Evelyn Houliston, Ryusaku Deguchi*, Tsuyoshi Momose* *責任著者: 宮城教育大学 出口竜作、フランス ソルボンヌ大学・国立科学研究センター 百瀬剛 掲載誌: PLOS Biology DOI: 10.1371/journal.pbio.3003502 URL: https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003502   報道発表資料.pdf(504.95 KB) 掲載雑誌:PLOS Biology   【お問い合わせ先】 宮城教育大学大学院教育学研究科 出口 竜作 博士 TEL:022-214-3413 e-mail:deguchi@staff.miyakyo-u.ac.jp

    • 教育/人材育成
    2026.01.06
    • 教育/人材育成
    詩歌の五七調が「美しさ」の評価を高める ~詩作やキャッチコピーへの応用に期待~

    本研究成果のポイント 日本語の詩歌にみられる5音と7音のリズムは、詩歌の「好ましさ」、「穏やかさ」、「美しさ」の評価を高めることがわかりました。 同じ音が一定の間隔で繰り返し現れる詩歌は、「激しさ」の印象を増す可能性も示唆されました。 詩歌のリズムを活用し、人の心に響く詩作技法や、広告・キャッチコピーなどへの応用の進展が期待されます。   概要 広島大学大学院人間社会科学研究科の博士課程前期1年 吉尾 瑞希、神原 利宗 准教授は、日本語詩歌の音に注目し、どのような音の特徴を持つ詩歌が、好ましさ、穏やかさ、美しさの評価を高めるかを検証しました。実験1では実際に存在する詩歌(新古今和歌集収録の和歌)を、実験2では実験者が作成した擬似的な詩歌を用いました。本研究で検討した音の具体的な特徴は、5音と7音の繰り返しからなるリズム(韻律)と同じ音が句の最初に繰り返し現れること(頭韻)です。実験では、韻律と頭韻の有無を操作した詩歌の音声を提示した後に、日本語を母語とする参加者に主観的な評価を求めました。その結果、韻律のある詩歌では、好ましさ、穏やかさ、美しさの評価が高いことがわかりました。また、韻律と頭韻の両方がある詩歌は、韻律があって頭韻がない詩歌より激しい印象を与える可能性が示唆されました。   本研究成果は以下の査読付き国際誌に掲載されました。 掲載雑誌名:Psychology of Aesthetics Creativity and the Arts 掲載日:2025年11月10日(オンライン先行公開) DOI:https://dx.doi.org/10.1037/aca0000804 タイトル:“Alliteration and Meter in Japanese Real- and Pseudopoems: Emotional and Aesthetic Impacts” 著者:吉尾瑞希、神原利宗 所属:広島大学人間社会科学研究科心理学プログラム   背景 日本語話者は、なぜ日本語の詩歌に心惹かれるのでしょうか。日本語の定型詩は、5音と7音の繰り返しを特徴としています。たとえば、日本最古の詩歌集である万葉集は、5音と7音を決まった周期で繰り返す詩歌を4500首以上集めたものです。万葉集の成立は奈良時代で、それ以降、和歌(短歌)、長歌、川柳、俳句、都々逸など、同じリズムを持つ詩歌は、長い間日本語話者に愛されてきました。現代でも、短歌や俳句を読んだり作ったりする人は少なくありません。最近ではSNSで「#tanka」のハッシュタグで短歌を投稿する若者も増えています。こうした事実から、詩歌の形式には、時代を超えて愛される魅力があると考えられます。 しかし、日本語詩歌の音の特徴に注目した心理学的研究は少ない状況です。英語やドイツ語など、日本語とは異なるリズムや文法を持つ言語での詩歌研究は進みつつありますが、日本語の特徴を踏まえた体系的な研究はほとんど未開拓と言えます。そこで、本研究では、日本語のリズムや音の重なりに注目し、実験的な検討を行ないました。   研究成果の内容 実験1では、同じ音が繰り返される詩歌(頭韻あり)と繰り返しのない詩歌(頭韻なし)を実在の詩歌から選び、日本語を母語とする参加者に、音声で提示しました。参加者は、好ましさ、穏やかさ、美しさ、理解しやすさを評価しました。分析の結果、頭韻ありの詩歌と頭韻なしの詩歌の間に、統計的に有意な差はみられませんでした。実験に使った詩歌は古語でしたが、語彙の意味(たとえば、「桜」や「ふね」など)が評価に影響を与えた可能性があります。   実験2では、リズム(韻律)を検討に加えました。実験1で使った頭韻ありの詩歌と頭韻なしの詩歌を基に、57577のリズムを保った詩歌(韻律あり)と、68359などそのリズムを崩した詩歌(韻律なし)を作成し、材料として使用しました。この材料は、単語が持つ辞書的な意味の影響を除いて音の特徴に注目するために、日本語として意味を持たない擬似詩歌としました。評価の項目は、好ましさ、穏やかさ、美しさと、有意味度(どれくらい意味があるか/ないか)でした。分析によると、韻律のありの詩歌は、頭韻の有無にかかわらず、韻律なしの詩歌よりも好ましさ、穏やかさ、美しさ、有意味度の評価が高くなることがわかりました。韻律ありの詩歌は、日本語母語話者にとってなじみ深いリズムであるため予測しやすく、心の中の処理が容易になると考えられます。逆に、韻律なしの詩歌は、どのような音が次に続くか、予測ができません。筆者らは、韻律ありの詩歌の方が好ましさや穏やかさ、美しさの評価が高まった理由は、以上のような詩歌の心の中の処理を想定することで説明できると考えています。 また、頭韻については、韻律と頭韻の両方がある条件で、頭韻だけがない条件よりも穏やかさの評定が低い、つまり、より激しいと評価されることがわかりました。   本研究は、今まで検証されてこなかった日本語詩歌の音の特徴が人の心にもたらす影響について明らかにしました。本研究の強みは、日本語の特徴を考慮して実験材料を作ったところにあります。韻律や頭韻の効果は外国語の研究で示されてきましたが、本研究によって、日本語でも同様にポジティブな影響があることがわかりました。また、リズムが決まった詩歌は心地よく鑑賞できる、という直観がデータによって支持されたともいえるでしょう。本研究は、「日本語詩歌がなぜ千年以上も詠み継がれてきたのか」という問いに、「リズムが心地よいからである」と答えられるような、ひとつの証拠を示しました。   今後の展開 本研究から、詩歌のリズムや音の繰り返しといった特徴は、詩歌を耳で聴いたときの評価を高めるということが明らかになりました。しかし、詩歌は耳で聴いて楽しむだけでなく、文字で読んで楽しむこともできます。今後は、音声での提示だけでなく、視覚的に提示した場合の評価についても検討していく予定です。 本研究の知見から、詩作において日本語のリズムを取り入れることで、詩歌の美しさの評価を高められる可能性が示唆されます。また、広告やキャッチコピーにも詩歌のリズムを活用することができると思います。受け手に好ましさや美しさを感じさせたいような広告などのメッセージでは、韻律を利用するのがよいかもしれません。具体的には、商品名や広告文に5音と7音のリズムを取り入れると、より印象的になる可能性があります。   参考資料 主観的な評価:反対の意味を持つ形容詞のペア(「好き⇔嫌い」、「激しい⇔穏やか」など)を両端に配置した7段階の尺度(1~7)を用いました。参加者は各詩歌を聴いたあと、自分の感覚に最も当てはまると思う数字を、素早く直感的に選ぶように求められました。このような尺度を用いることで、詩歌への印象を数量的なデータとして収集することができます。この手法は意味、感情、印象を測る際に、心理学で広く用いられています。   報道発表資料.pdf(235.88 KB) 掲載雑誌:Psychology of Aesthetics Creativity and the Arts 研究者ガイドブック(神原 利宗 准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院人間社会科学研究科人文社会科学専攻心理学プログラム 博士課程前期1年吉尾 瑞希 准教授神原利宗 Tel:082-424-6280FAX:082-424-3481 E-mail:m252758@hiroshima-u.ac.jp tkambara@hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 資源
    2025.07.15
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 資源
    ナトリウムを利用したアンモニア合成法を開発 -プラチナなどの貴金属触媒を使用せず、安価なナトリウムのみで実現-

    本研究成果のポイント ナトリウムを利用した触媒およびケミカルルーピングプロセス(*1)によるアンモニア(*2)合成法を創出 常圧-1.0MPa(10気圧)程度の水素、窒素からアンモニアを合成可能 圧倒的な資源的優位性を有するナトリウムのみで構成される貴金属触媒(*3)フリーの技術を確立   概要 広島大学自然科学研究支援開発センター:宮岡裕樹教授、同大学スマートソサイエティ実践科学研究院:恒松紘喜(D2)、同大学大学院先進理工系科学研究科:市川貴之教授らの研究グループは、ナトリウムを触媒、あるいはケミカルルーピングプロセスの反応体として利用したアンモニア合成技術を開発した。この手法は、常圧-1.0 MPa(10気圧)程度の圧力下で水素と窒素からアンモニアを合成可能であり、かつ貴金属等の触媒を必要としないため、再生可能エネルギーの利用を目的とした元素戦略(*4)的に優位な小規模分散型のアンモニア合成手法(*5)としての展開が期待される。本研究成果は、Q1ジャーナルである国際科学誌「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載されました。   背景 現在、脱炭素化、カーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みが世界的に進められている。太陽光や風力等の自然エネルギーをはじめとした再生可能エネルギーの利用拡大は重要な課題の一つである。これら変動的かつ偏在的なエネルギーを効率的に利用するための媒体(二次エネルギー)として水素が注目されているが、貯蔵や輸送時のコストが課題となっている。近年、化成品や肥料の原料として知られるアンモニア(NH3)は、上述した再生可能エネルギーを効率的かつ低コストに貯蔵・輸送するためのキャリア、或いはCO2フリーの燃料として注目を集めている。現在、NH3の合成には、約500 ℃、250気圧以上という高温高圧条件で行われるハーバー・ボッシュ法(*6)が用いられているが、連続運転により大量合成を行うことでメリットが得られる技術として確立されている。従って、偏在する自然エネルギーの利用を考えた場合、より低温低圧条件で制御可能な小規模分散型のNH3合成技術が望ましく、このような技術が確立されれば、再生可能エネルギーの変動吸収や需要に対する供給の調整といったことが可能となる(図1)。   NH3合成においては、安定な三重結合(*7)を有する窒素分子(N2)を原子状(N)に分離する窒素解離プロセスが重要であり、この窒素解離のために、1000 °C近い高温条件やプラズマ、遷移元素や希土類元素等の金属触媒を利用するのが一般的である。一方、我々の研究グループでは、リチウム(Li)やナトリウム(Na)に代表されるアルカリ金属の窒素解離能に注目し、それらの触媒能の評価や既存の触媒プロセスとは異なる多段階の化学反応でNH3合成を行うケミカルルーピングプロセスの研究開発を進めてきた。   研究成果の内容 本研究グループでは、LiH、Li合金、Na合金を用いたアンモニア合成技術を提案し、それらの研究開発を進めてきた。本研究では、水素化ナトリウム(NaH)(*8)を用いたNH3合成技術の検討を行った。 まず、水素(H2)と窒素(N2)の混合ガス気流中でNaHを400 ℃まで加熱しNH3合成特性を評価した。図2(右)に結果を示す。 375 ℃で最も高い反応率:約550 mmol/g hが得られ、この値は、先行研究におけるLiあるいはNa合金触媒のNH3合成速度:

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 海洋
    2021.07.21
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 海洋
    メタンハイドレート(*1)資源開発支援を目的とした新コンセプト技術を開発~深海底の生物資源を活用した固化技術~

    本研究成果のポイント 国産資源としての期待が高まるメタンハイドレート商業化において技術的課題とされている出砂トラブルに対処する新しい技術開発を進めている。 天然にすでに存在する微生物の機能を活用し、抗井周辺の地層を固めることで出砂を抑制し、長期生産を可能とする効果が期待できる。   概要 日本周辺海域を対象としてJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が主体となり、2013年に世界初のメタンハイドレート海洋産出試験を、2017年には第2回の同試験を実施するなど商業化に向けた取り組みが進められている。過去2回の海洋産出試験では、一部の生産井 (注2) においてメタンハイドレート層から砂が流入し坑井を詰まらせる出砂という現象により試験が中断されるなどの課題が指摘されている。   この課題を解決する手法として天然に存在する微生物の作用に着目し、広島大学大学院先進理工系科学研究科社会基盤環境工学プログラムの畠俊郎教授(2021年3月まで富山県立大学教授)は、JOGMECと共同で抗井周辺の地層を広範囲に固化させることで坑井への出砂を抑制する技術の開発を進め、日本と米国で特許を取得した。 図1 地層固化のイメージ(左側イラスト)と高圧環境下で微生物が作り出す結晶鉱物(右側画像) 日本近海のメタンハイドレート胚胎層を再現した圧力条件(13MPa)で温度条件を変えて結晶析出試験を行った結果、30℃ではほぼカルサイト、13℃ではカルサイト80%、アラゴナイト20%と異なる炭酸カルシウム種が析出することを確認した。   用語解説 (注1)メタンハイドレート 天然ガス資源の一種であるメタンハイドレートは、水分子が水素結合により形成する籠(かご)状の格子の中にメタン分子を取り込んだ固体結晶で燃える氷とも呼ばれる。 メタンハイドレート1m3から約165m3生成されるメタンは都市ガスの主成分として使われる無色・無臭のガスである。このメタンを主成分とする「天然ガス」は燃焼時の二酸化炭素の排出量が石油や石炭を燃焼させた時より少ないため環境に優しいクリーンなエネルギーと言われており、メタンハイドレートは次世代エネルギーとして期待されている。 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001711/1001759.html(外部リンクに移動します) (注2)生産井 坑井の使用目的に基づいた分類の一つで、資源を汲み上げて採取する役割を持ったものを意味する語。本件では、メタンハイドレートの生産を目的に掘る坑井のことを示す。   論文情報 掲載誌: Journal of Natural Gas Science and Engineering 論文タイトル: Microbial-induced carbonate precipitation applicability with the methane hydrate-bearing layer microbe 著者名: Toshiro Hata、Alexandra Clarà Saracho、Stuart K. Haigh、Jun Yoneda、Koji Yamamoto DOI: https://doi.org/10.1016/j.jngse.2020.103490   特許情報 特許(日本):特許第6842765号(2021年3月取得) 特許(米国):Patent No.10914151(2021年2月取得) 報道発表資料(462.47 KB) 論文掲載ページ (Journal of Natural Gas Science and Engineeringに移動します) 広島大学研究者総覧 (畠 俊郎 教授)   【お問い合わせ先】 大学院先進理工系科学研究科 教授 畠 俊郎 Tel、Fax:082-424-7784 E-mail:thata*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

    • 健康/スポーツ
    • 経営/組織運営/デザイン
    2018.08.16
    • 健康/スポーツ
    • 経営/組織運営/デザイン
    “幸福感”は年収の高さに依存するのか? ~心理的傾向「マインドフルネス」の影響を初めて解明~

    本研究成果のポイント 一般に収入の高い人の方が、幸福感が高い傾向にあります。しかし「マインドフルネス」という心理的な傾向の高い人は、収入の多い少ないに関わらず、高い幸福感を感じていることを大規模な調査によって解明しました。 「マインドフルネス」傾向はトレーニングで向上させることもできます。今回の結果は幸福にいたる多様な道筋があることを示唆しており、ワークライフバランスや過労の問題など、働く人の多くが直面する問題へのよりよい解決の糸口につながることが期待されます。   概要 広島大学大学院総合科学研究科の杉浦義典准教授と杉浦知子特別研究員との研究グループは、「マインドフルネス」傾向と呼ばれる、自分の経験を言葉にあらわすのが得意であったり、自分の経験に批判的にならないような人は、年収の多い少ないに関わらず幸福感が高いことを明らかにしました。   収入が多い人の方が、幸福感が高い傾向があることは、すでに多くの大規模な研究データで示されています。本研究では、収入が幸福感に影響する人と影響しない人がいるのではないか、さらにその違いは、マインドフルネスと呼ばれる心理的な傾向の違いによるのではないかと考えました。   20歳から60歳までの、社会人734名のデータから、マインドフルネスの傾向の高い人は収入の多少に関係なく常に幸福感が高く、低い人では収入が多い人の方が幸福感が高いという結果が得られました。本研究ではじめて解明されたことは、収入に関係なく高い幸福感をえられる人がいて、その人たちはマインドフルネスの傾向が高いということです。   今回の研究では、マインドフルネスの高い人と低い人を比べています。しかし、マインドフルネスは自分の呼吸にゆっくりと注意を向ける、といったトレーニングによって高めることも可能です。働き過ぎや経済格差が問題となっている現代社会で、幸福になるための新しい道筋が示唆されたといえます。   本研究成果は、スイス科学誌「Frontiers in Psychology」のオンライン版に掲載されました。 図自分の体験を批判的に見ない人は収入と関係なく幸福感が高い(赤い点線)。横軸が年収、縦軸が幸福感です。年収は右にいくほど多いことを示しています(対数変換しているので横軸の数字は金額そのものではありません)。縦軸は上にいくほど幸福感が高いことを示しています。   論文情報 掲載誌: Frontiers in Psychology 論文タイトル: Mindfulness as a Moderator in The Relation Between Income and Psychological Well-Being 著者: 杉浦義典1、杉浦知子1, 2 1. 広島大学大学院総合科学研究科 2. 日本学術振興会 DOI番号: 10.3389/fpsyg.2018.01477   報道発表資料(259.12 KB) 論文掲載ページ(Frontiers in Psychologyに移動します) 広島大学研究者総覧 (杉浦 義典 准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院総合科学研究科 ​准教授 杉浦 義典 TEL: 082-424-6573 FAX: 082-424-0759 E-mail: ysugiura*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 防災
    • 海洋
    2026.01.20
    • 防災
    • 海洋
    能登半島地震の発生源となった沿岸海底活断層 世界最長級の地震隆起を引き起こしたことを解明

    本研究成果のポイント 2024年1月1日発生の能登半島地震による海岸隆起(※1)の分析 地震で海岸の地面が持ち上がる現象を解析し、世界最長級であることを示しました。 能登半島沖の海底活断層(※2)の連続分布の確認 海底にある活断層が連続的に分布することを明らかにし、隆起量の差異は海底活断層と海岸線の距離が主な要因であることを示しました。 海底活断層の長期活動履歴解明と防災への応用 活動周期や変位速度など長期的な活動履歴を明らかにするとともに、他沿岸域での活断層調査・地図化により、防災計画への応用を目指します。   概要 2024年1月1日に発生した能登半島地震(マグニチュード7.5)により、能登半島北部では顕著な地盤の隆起が観察されました。本研究は、この隆起が能登半島北岸に沿って並走する海底活断層の活動によって生じたことを、隆起海岸の地図化、隆起量の計測、および海底地形の分析を通じて明らかにしたものです。従来の津波・地震ハザード評価では十分に考慮されてこなかった沿岸域の海底活断層について、変動地形学的手法により具体的に示した点で、新たな視座を提供するものです。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けております。   著者:Hideaki Goto、 Tomoru Yamanaka、 Tomohiro Makita、 Yoshiya Iwasa、 Takuro Ogura、 Kyoko Kagohara、 Yasuhiro Kumahara、 Yasuhiro Suzuki、 Nobuhisa Matta、 Tatsuto Aoki、 Wataru Mori、 Kenta Haranishi、 Takashi Nakata タイトル:Coast uplifted by nearby shore-parallel active submarine faults during the 2024 Mw 7.5 Noto Peninsula earthquake 掲載雑誌:Geomorphology、493巻、 110069 DOI: https://doi.org/10.1016/j.geomorph.2025.110069 掲載日:15 January 2026(オンライン掲載日:30 October 2025)   背景 日本の沿岸部は、これまで繰り返し地震や津波の被害を受けてきました。強い揺れや津波に加え、地震に伴う海岸の隆起や沈降などの地形変化は、漁港・道路・護岸といった沿岸インフラや地域の生業に長期的な影響を及ぼします。そのため、こうした変化の発生メカニズムを解明することが重要です。 2024年1月1日に発生した能登半島地震(マグニチュード7.5)は、約120年間の観測史上、沿岸域で発生した最も大きな直下型地震でした。強い震動に加えて津波の発生や海岸環境の急激な変化など、多岐にわたる被害が報告されています。本地震は、沿岸活断層がもたらす地形変化や被害の多様性、そして半島地域が有する特有の災害脆弱性を示す代表的な事例といえます。 日本列島は長い海岸線をもち、沿岸域に人口や社会基盤が集中しています。能登半島と同様の環境をもつ地域は全国に多数存在します。したがって、今回の地震から得られた地形学的・測地学的・地理学的な新知見は、今後の沿岸域における災害想定や防災・減災政策の検討に直接的に役立つことが期待されます。   研究成果の内容 〈研究方法〉 広島大学大学院人間社会科学研究科の後藤秀昭教授を中心に、博士課程前期の牧田智大氏、千葉県立中央博物館の山中蛍研究員、福岡教育大学教育学部の岩佐佳哉講師、兵庫教育大学大学院学校教育研究科の小倉拓郎准教授、山口大学教育学部社会科教育講座の楮原京子准教授、岡山大学学術研究院教育学域(社会科教育)の松多信尚教授、金沢大学人間社会研究域地域創造学系の青木賢人准教授らで構成される研究チームは、2024年1月1日の能登半島地震の発生直後から、空中写真を用いて隆起海岸の詳細な地図化を行いました。あわせて、現地での観察や記録、隆起量の精密な計測を実施しました。さらに、海底地形データや地層探査記録を解析し、沿岸近傍に分布する海底活断層の位置と形状を明らかにしました。   〈主な成果〉 地震に伴い、能登半島の北岸では明瞭な地盤の隆起が確認されました。一方で、七尾湾や富山湾では隆起は認められませんでした。隆起によって新たに陸化した面積は約4.4平方キロメートル、隆起域の延長は約100キロメートルに及びます。陸化面積は、1804年に日本海で発生した象潟(きさかた)地震(図1)と同程度ですが、その延長は世界最長級であることが明らかになりました。 海岸線に沿って510地点で隆起量を計測した結果、隆起量は0.1〜5.2メートルで場所により異なりました(図2)。大きな隆起は北西端の猿山岬付近および北岸の鞍崎周辺で観測され、両側に向かって隆起量が減少する「山形」の分布を示しました。 さらに、海底地形データおよび地層探査データの解析から、隆起をもたらした活断層が海岸線にほぼ平行して連続的に延びていることが明らかとなりました(図2)。隆起量が特に大きかった場所は、断層線に近接する陸域に集中しており(図2,3)、南に傾斜した逆断層の活動によって隆起量分布が説明できることが確認されました。これらの特徴から、今回の地震は能登半島で過去数十万年間に繰り返し発生してきた地震の再来であることが示唆されます。   〈成果の優位性・社会/暮らしへの影響〉 2024年1月1日の能登半島地震は、沿岸域で発生した観測史上最大規模の内陸地震です。本研究では、海岸線のすぐ沖に位置する海底活断層の活動によって生じた海岸地形の変化を精密に捉えました。これは、地震・津波ハザード研究に新たな視点をもたらす重要な成果といえます。 従来、海岸線に極めて近い海底活断層は調査が難しく、十分に注目されていませんでした。本研究では、海底地形データの解析と陸上での地形調査を組み合わせることで、これらの断層の動きを初めて明瞭に捉えることに成功しました。この点で、手法的にも大きな優位性を有しています。 さらに、本研究成果は、地形変化による被害の拡大を抑えるための早期警戒体制の整備や、地域防災計画の見直しに直接貢献するものです。海岸部の隆起・沈降は、沿岸住民の津波避難行動、道路・防波堤・港湾施設などのインフラ設計、さらには耐震・耐津波性能評価に直結します。今後、沿岸自治体や関係機関が「海岸線近傍での断層活動の可能性」を防災計画に反映させる必要性を示す重要なメッセージとなります。   今後の展開 今後の研究では、本論文で示された海底活断層が2024年の地震時に実際に活動したことを示す直接的な証拠を、海底面のずれや変形の観測によって検証する必要があります。また、この活断層の活動周期や変位速度など、長期的な活動履歴を明らかにすることも重要な課題です。 さらに、他の沿岸域においても、海岸線近傍に存在する海底活断層の有無を調査し、地図化を進めることが求められます。従来の海底活断層調査は、主に海底下の地層構造に基づいて実施されてきましたが、陸上の活断層研究と同様に、海底地形の詳細な判読を組み合わせることで、これまで知られていなかった活断層の発見や、歴史地震の震源特定につながる可能性があります。   参考資料 図1海岸隆起を起こした地震(A)と2024年1月1日能登半島地震と余震(B) 図22024年地震の隆起量と海底活断層の分布 図3能登半島を北から3Dで見た様子(2024年隆起量と海底活断層)   用語解説 ※1)海岸隆起: 地震によって地盤が持ち上がる現象。海岸では、地震前に海水面の影響でできた痕跡(波の跡や海藻の付着跡など)が、地震後に海面より高い位置に現れることで、隆起の様子を確認できる。不動とみなせる海水面を基準に、これらの痕跡との高さの差を比べることで、地震による隆起量を知ることができる。   (※2)海底活断層: 海底にあり、過去に何度も動き、将来も活動すると考えられる断層。沿岸の近くに分布する場合、断層面が陸地の下まで延びていることもあり、地震のときには津波だけでなく強い揺れをもたらすことがある。   報道発表資料(772.46 KB) 掲載ジャーナル:Geomorphology 研究者ガイドブック(後藤 秀昭 教授)   【お問い合わせ先】 〈研究に関すること〉 広島大学大学院人間社会科学研究科教授後藤 秀昭 Tel:082-424-6658Fax:082-424-0320 E-mail:hgoto@hiroshima-u.ac.jp   千葉県立中央博物館展示課研究員山中 蛍 Tel:043-265-3111 E-mail: t_yamanaka@chiba-muse.or.jp   福岡教育大学教育学部講師岩佐 佳哉 Tel:0940-35-1299 E-mail:iwasa-y@fukuoka-edu.ac.jp   兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授小倉 拓郎 Tel:0795-44-2143 E-mail:togura@hyogo-u.ac.jp   山口大学教育学部社会科教育講座准教授楮原 京子 Tel:083-933-5325 Fax:083-933-5325 E-mail:k-kago@yamaguchi-u.ac.jp   岡山大学学術研究院教育学域(社会科教育)教授松多 信尚 Tel:086-251-7618 E-mail:matta@okayama-u.ac.jp   金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授青木 賢人 Tel:076-264-5330Fax:264-5362 E-mail:kentaoki@staff.kanazawa-u.ac.jp   〈報道に関すること〉 広島大学広報室 Tel:082-424-6762 Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   千葉県立中央博物館 管理部企画調整課 Tel:043-265-3111 E-mail:kouhou_cbm@mz.pref.chiba.lg.jp   福岡教育大学経営政策課広報担当 Tel:0940-35-1205 E-mail:kouhou@fukuoka-edu.ac.jp   兵庫教育大学広報室 Tel:0795-44-2431 E-mail:office-koho@ml.hyogo-u.ac.jp   山口大学 広報室 Tel:083-933-5007Fax:083-933-5013 E-mail:sh011@yamaguchi-u.ac.jp   岡山大学 総務部広報課 Tel:086-251-7292 E-mail:www-adm@adm.okayama-u.ac.jp   金沢大学人間社会系事務部総務課 Tel:076-264-5466 E-mail:n-somu@adm.kanazawa-u.ac.jp

    • 量子
    • 半導体
    • 素材
    • 融合領域
    2026.01.21
    • 量子
    • 半導体
    • 素材
    • 融合領域
    強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト -半世紀使われてきたドニアック相図を超えて-

    概要 理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループの山岡人志客員研究員、富山県立大学工学部教養教育センターの谷田博司准教授、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のアイケ・シュヴィア助教(研究当時)、シブ・クマール助教(研究当時)、有田将司技術専門職員、島田賢也教授(同大学放射光科学研究所所長)、関西学院大学の山本義哉大学院生(研究当時)、水木純一郎教授、高知大学の田島史郎大学院生(研究当時)、小野寺健太大学院生(研究当時)、西岡孝教授らの国際共同研究グループは、奇妙な異方性(磁気秩序が磁化の起こりやすい方向に起きない)を備えた反強磁性秩序[1]を示す近藤半導体[2]Ce(Ru1-xRhx)2Al10において、伝導電子とセリウム(Ce)が持つ4f電子[3]との結合(c-f混成[4])の異方性を考慮した新しい相図[5]を提案しました。 本研究成果は、高温超伝導体、次世代メモリ、高効率エネルギー変換デバイス、次世代コンピュータなどへの応用が期待される強相関電子系化合物[6]の物性発現の理解と新物質開拓に貢献すると期待されます。 今回、国際共同研究グループは、近藤半導体であるCeRu2Al10とそのルテニウム(Ru)の一部をロジウム(Rh)で置換した物質について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインおよび理研放射光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」[7]の放射光を用いた実験を駆使し、電子構造を調べ、少量のRh置換により引き起こされた電子構造の質的な変化、すなわちリフシッツ転移[8]が生じることを見いだしました。また、公表から約半世紀が経過した今でもなお強相関電子系の基底状態を記述する最も基本的な概念である相図(ドニアック相図(Doniach phase diagram)[9])を発展させ、方位依存性を持った「羅針盤」としての新しい相図を提案しました。 本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(2025年12月24日付)に掲載されました。   新たに提案した異方的c-f混成を扱う高次元の相図   背景 物質の中には無数の電子が存在します。それらは相互に影響し合い、超伝導や磁気/電荷秩序といった相転移[10]を示します。物の性質を扱う物性物理において、相転移の研究は花形の一つです。元素の組合せや原子のナノ配列構造(結晶構造)の特徴を反映した種々の相転移が知られていますが、こうした基礎研究は、現代社会を支える基盤技術(例えば磁気メモリなど)につながっています。 近藤半導体CeM2Al10(M:遷移金属のRu、オスミウム(Os)、鉄(Fe)など、Al:アルミニウム)は直方晶[11]の化合物です(図1(a))。近藤半導体では、磁気秩序が生じることは通常期待されませんが、CeRu2Al10とCeOs2Al10では常識に反し、約30ケルビン(K:絶対温度の単位)で反強磁性(AFM:antiferromagnetic)秩序が生じます。この転移温度は、大抵のCe化合物と比べて数倍高いものです。また、反強磁性秩序でのCeの磁気モーメントの向き(磁気異方性)も異常で、通常の磁性体では期待されない方向を向いてしまいます。このように奇妙な反強磁性秩序のカギとして、特に伝導電子とCe 4f電子との結合(c-f混成)の異方性が指摘されてきました。しかし、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで山岡客員研究員らは、角度分解光電子分光(ARPES)[12]実験(図1(b))を行い、CeRu2Al10では確かにc-f混成が異方的であることを明らかにしました注1)。この結果は、CeRu2Al10で生じる奇妙な反強磁性秩序が遍歴性[13]を有すことを浮き彫りにし、当時提唱されていた理論モデルを支持する内容でした注2)。 図1 CeRu2Al10の結晶構造、ARPES実験のセットアップ (a)CeRu2Al10の結晶構造。結晶系は直方晶(黄色四角枠)。Ru-Al10から成るクラスタ(灰色)がac2次元面を成し、b方向に積層している。クラスタの中心にRu(白っぽい灰色)が、クラスタの隙間にCe(黒色)がいる。小さい球はAlを表す。 (b)ARPES実験の例。光速に近い速度で運動する電子が向きを変えるときに放出する放射光を単結晶試料に入射させて、光電効果で飛び出した光電子を検出器で捉える。図中左下に示すように、物質中では電子の占める軌道によって結合エネルギーが異なる。単結晶の方位を変えながら光電子のエネルギーと運動量を調べることで、3次元的な電子構造の情報を得ることができる。本研究では図中の角度θを±10度程度の範囲でデータを積分し、c-f混成の異方性に関する情報を得た。なお実験では、Ceの4d-4fの共鳴条件に相当するエネルギーである122電子ボルト(eV)の放射光を入射させて行った。   注1) H. Yamaoka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 124704 (2024). 注2) S. Hoshino and Y. Kuramoto, Phys. Rev. Lett. 111, 026401 (2013).   研究手法と成果 今回、国際共同研究グループは、CeRu2Al10のRuサイトを周期表でRuの一つ右隣にある元素Rhに一部置き換えたCe(Ru1-xRhx)2Al10について、ARPES実験を行いました。Ce(Ru1-xRhx)2Al10の最大の特徴は、CeRu2Al10の異常な磁気異方性を解消し、磁気モーメントが期待される通りの向きを向くようになることです。この劇的な変化は、わずか5%程度のRh置換で起こります。このとき同時に転移温度も若干下がりますが、依然として同程度に高い温度を維持します。ここでも、c-f混成の強度と異方性がカギとなることが指摘されてきましたが、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで国際共同研究グループは、CeRu2Al10およびCe(Ru1-xRhx)2Al10について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインBL-1でARPES実験を行い、c-f混成に異方性があることを見いだしました。さらに、理研放射光科学研究センターSPring-8のビームラインBL12XUとBL12B2において実施した分光実験とX線回折実験の結果を合わせて、電子構造の変化、いわゆるリフシッツ転移がRh置換によって起きていることを明らかにしました。 図2(a)と(b)は、ARPES実験のデータを各結晶軸について積分して得たスペクトルです。これによりc-f混成の強度の異方性を調べることができます。図を見ると、フェルミエネルギー[14]近傍のスペクトル強度が明らかに違います。また、強度の強い方向がRh置換で変化しています。これは、Rh置換によってc-f混成の強い方向が切り替わったことを、実験的に明瞭かつ端的に示す結果です。 図2 CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10の実験結果 ARPES測定のデータを、結晶のa、b、c軸方向に積分した図。「f1」と示した信号が強い場合にc-f混成が強い。CeRu2Al10ではc方向のc-f混成が強いが(a)、Ce(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではb軸方向に強いことが明瞭に分かる(b)。これは、リフシッツ転移がRh置換で生じたことを示している。こうしてわずかなRh置換により、c-f混成の強い方向が切り替わることを実験的に初めて明らかにした。 図3(a)は、強相関電子系化合物の特徴を説明するために約50年来用いられてきたドニアック相図の概念を、模式的に示したものです。c-f混成が弱い領域では電子は局在的(特定の原子などに強く束縛されている状態)で、局在的反強磁性秩序が生じます。一方c-f混成が強い領域では遍歴的(電子が特定の場所にとどまらず自由に動く状態)で、非磁性の重い電子状態[15]が実現します。両者の中間ではさまざまな異常が発現します。これは、電子の粒子性と波動性[16]の問題に直結します。図中の円はフェルミ面[14]の大きさを表し、円の大きい方がc-f混成の強い状態を示します。 図3(b)は、ドニアック相図の概念を拡張した理論モデルです注2)。局在的反強磁性秩序と重い電子状態の間に、遍歴的反強磁性秩序の領域が割り込み、局在的反強磁性秩序の領域とはリフシッツ転移で隔てられています。これにより、CeRu2Al10の示す反強磁性秩序の遍歴性や、Rh置換で生じるリフシッツ転移を理解できます。 図3 ドニアック描像におけるc-f混成強度と物質の性質の移り変わり (a)ドニアック相図の概念。c-f混成が弱い領域は局在的な反強磁性、強い領域は非磁性の重い電子状態。両者は量子臨界点で隔てられる。量子臨界点とは相転移が起こり物質の状態が大きく変わる場所。(b)拡張されたドニアック相図。中間に遍歴的な反強磁性の領域が割り込む。局在的な反強磁性の領域とは、リフシッツ転移で隔てられている。図中の円により、c-f混成が等方的であることを象徴的に示す。   CeRu2Al10のc-f混成が異方的であるにもかかわらず、ドニアック相図ではc-f混成が等方的に扱われているため(図3)、CeRu2Al10の性質をうまく捉えることができませんでした。そこで国際共同研究グループは、c-f混成の異方性を考慮したより高次元の新しい相図を作成しました(図4)。 図4 新たに提案した異方的c-f混成を扱うドニアック描像の模式図   c-f混成が強くなるにつれ、局在的な反強磁性からリフシッツ転移を経て遍歴的な反強磁性に相転移し、量子臨界点を経て非磁性の重い電子状態へ移行する点は、図3(b)で示した概念と共通する。しかし、c-f混成の異方性を含めることで、従来のc-f混成を等方的に扱う相図よりも、的確に物質の特徴を示すことができる。CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではc-f混成は異方的で、それぞれc方向、b方向にc-f混成が強いことが楕円で表現されている。45度に傾いた破線はc-f混成が等方的な状況で、従来のドニアック描像はこの線上に対応する。CeRu2Al10ではb方向とc方向での顕著なc-f混成の異方性のため、2次元に拡張した相図で示したが、一般により高次元に拡張することが可能である。   CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10では、いずれもc-f混成の強さが異方的で、かつ、その強い方向は、それぞれc軸方向、b軸方向と異なりました。そこで、横軸と縦軸にそれぞれc軸方向とb軸方向のc-f混成の強さを取ることで、c-f混成が異方的な場合でも、その状況をうまく扱うことができるよう、旧来の概念を高次元に拡張した新たな相図を提案しました(図4)。従来のドニアック相図の概念は、c-f混成の強さの観点では1次元的です。新しい相図上では45°斜めの破線の軸上に対応します。 CeRu2Al10はc軸方向のc-f混成が強いため、相図の右側の領域、すなわちc軸方向のc-f混成が強い領域に位置付けられます。このとき、c軸方向にc-f混成の強いことが、c軸方向(横方向)に長い楕円で象徴的に示されています。同様に、Ce(Rh0.9Rh0.1)2Al10では、b軸方向のc-f混成が強いので、相図の左上に、b軸方向(縦方向)に長い楕円で示されています。両者は青い破線で示すようにリフシッツ転移で隔てられていて、今回の実験のようにRhで置換することで、遍歴的反強磁性状態から局在的反強磁性状態へと移行します。その際、c-f混成の強い方向がc軸方向からb軸方向へと大胆に入れ替わる様子が、黄色い矢印で示されています。 c-f混成の強さが弱い場合(図4左下)、あるいは強い場合(図4右上)には、c-f混成の異方性が実質的に消失し、等方的と見なすことができます。その様子は、図3(a)と図3(b)でも示した円により、象徴的に示されています。いわば、CeRu2Al10およびその関連物質は、c-f混成の強い/弱い領域の狭間にあり、種々の異常な性質の起源は、まさにその狭間の世界が生み出したc-f混成の異方性に端を発すると考えることができるようになります。このように提案した新しい相図は、c-f混成の示す異方性を針に据えた、まさに「羅針盤」として機能します。   今後の期待 本研究で得られた知見は、強相関電子系化合物の特徴を記述する最も基本的かつ象徴的な概念を、実験結果に基づき質的に拡張したものです。強相関電子系化合物が示す多様な性質の理解を深化させ、現象の統一的な理解、新たな物質開拓と理論研究の指針を与えます。元をたどれば電子の粒子性・波動性といった量子力学の基本原理に深く関わる概念であることから、本知見のインパクトは物性物理にとどまらず、広く波及し、基礎・応用を含む幅広い分野で活用されることが期待されます。   論文情報 <タイトル> Itinerant to localized heavy electron magnetism in Ce(Ru1-xRhx)2Al10: a direction-dependent phase diagram beyond the Doniach phase diagram   <著者名> Hitoshi Yamaoka, Hiroshi Tanida, Eike F. Schwier, Yoshiya Yamamoto, Shiv Kumar, Masashi Arita, Kenya Shimada, Fumisato Tajima, Renta Onodera, Takashi Nishioka, Hirofumi Ishii, Nozomu Hiraoka, and Jun’ichiro Mizuki   <雑誌> Physical Review Letters   <DOI> 10.1103/hdcf-dycj   補足説明 [1] 反強磁性秩序 隣り合う電子のスピンが互いに反対向きに整列し、全体では磁化の出ない状態(スピンは、量子力学的性質で上向きか下向きの状態しか取れない。スピンの向きがそろうと磁石になる)。   [2] 近藤半導体 強い電子相関により低温でエネルギーギャップを生じ、半導体的振る舞いを示す物質群。ギャップの大きい場合は近藤絶縁体と呼ばれる。「近藤」という名称は、この性質の起源と密接に関係する「金属の電気抵抗極小現象」の謎を世界で初めて解明した日本人物理学者、近藤淳(こんどうじゅん)博士の名前に由来する。物理学の世界で、日本人の個人名が冠された物理現象として有名なものの一つ。   [3] 4f電子 電子の取り得る軌道のうち、軌道角運動量がL=3の状態の軌道を占める電子。セリウム(Ce)などの希土類元素では、空間的に非常に原子核に近い軌道にある4f電子が不対電子となり、磁性を担う。   [4] c-f混成 伝導電子(conduction electron)とf電子(f-electron)とが混ざり合う効果や、混ざり合った状態、あるいは単に伝導電子とf電子との相互作用などを指す。磁気秩序、近藤効果、重い電子状態などのさまざまな現象は、これに端を発する。   [5] 相図 温度、圧力、組成などの関数として物質がどのような相・状態にいるのかを示す状態図。   [6] 強相関電子系化合物 電子間の相互作用が強い物質のこと。この性質が顕著に現れたものに、高温超伝導体、重い電子状態などがあり、物性研究の大きな一分野を成す。   [7] 大型放射光施設「SPring-8」 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。   [8] リフシッツ転移 結晶構造が変わらず、電子構造が変化する特殊な転移。熱力学的な相転移([10]参照)とは趣を異にする。   [9] ドニアック相図(Doniach phase diagram) 磁性や重い電子状態を示す化合物において、c-f混成の強さを横軸に、温度を縦軸に取った相図で、c-f混成は等方的に扱われる。1977年にS.ドニアック博士が提案して以来、約50年にわたり用いられてきた。一般に、c-f混成を強くすると、磁性が消え、量子臨界点を超えて非磁性の重い電子状態に移行する。量子臨界点付近では、非自明な超伝導などの風変りな現象が数多く報告されている。   [10] 相転移 磁場や温度、圧力などの外場(外的要因)によって、別の状態へ移行すること。エネルギーの変化の仕方により、1次相転移と2次相転移がある。水の状態変化は1次相転移、反強磁性秩序などは2次相転移に分類される。   [11] 直方晶 七つの結晶系の一つ。直方体で、縦、横、高さの各辺の長さが異なる。それぞれの軸方向は、a軸、b軸、c軸方向としている。   [12] 角度分解光電子分光(ARPES) 単結晶に光を照射し、光電効果で生じた電子の強度とエネルギーを、結晶との方位を変えながら調べる手法。これにより、固体中の電子が持つエネルギーと運動量ベクトルの関係、すなわちバンド構造を直接知ることができる。ARPESはAngle-Resolved Photoemission Spectroscopyの略。   [13] 遍歴性 外殻電子は、その占有軌道の波動関数の空間分布から、所属していた原子近傍に局在するか、結晶中を遍歴する伝導電子と成るかで、大きく二つに分類される。Ceの4f電子は典型的に局在的であるが、わずかに遍歴性も備える。   [14] フェルミエネルギー、フェルミ面 電子を、波数空間上でエネルギーの低い状態から順に詰めたときに、占有する状態と占有しない状態とを分ける境界面(フェルミ面)およびそのエネルギー(フェルミエネルギー)。電子は、統計性の違いからフェルミ粒子に分類される。   [15] 重い電子状態 電子の見かけの質量(有効質量)が100~1,000倍にも増強したように振る舞う異常な金属状態。Ceやイッテルビウム(Yb)、ウラン(U)化合物などで見られる。   [16] 粒子性と波動性 電子のような量子力学的な粒子は、粒子としての性質とともに、波としての性質を持つ。物質の示す性質に深く関わり、量子力学の基本原理の一つである不確定性原理に端を発する。   研究支援 本研究は、広島大学放射光科学研究所のビームラインBL-1、BL-7、BL9A(課題番号:13-A-2、13-B-38、14-A-3、14-A-5、15-A-2、16AG-002、17AG-007、19BG002、21AG003)、SPring-8にある台湾ビームラインBL12XU、BL12B2(課題番号:2013A4251、2013A4255(NSRRC課題番号:2012-3-011))を用いて行われました。   【理化学研究所】強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト_HP.pdf(650.3 KB) 掲載ジャーナル:Physical Review Letters 研究者ガイドブック(島田 賢也 教授)   発表者・機関窓口 <発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせください。 理化学研究所放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループ 客員研究員 山岡人志(ヤマオカ・ヒトシ)   富山県立大学工学部教養教育センター 准教授 谷田博司(タニダ・ヒロシ)   広島大学放射光科学研究所 助教(研究当時) アイケ・シュヴィア(Eike F. Schwier) 助教(研究当時) シブ・クマール(Shiv Kumar) 技術専門職員 有田将司(アリタ・マサシ) 教授 島田賢也(シマダ・ケンヤ) (同大学放射光科学研究所所長)   関西学院大学 大学院生(研究当時) 山本義哉(ヤマモト・ヨシヤ) 教授 水木純一郎(ミズキ・ジュンイチロウ)   高知大学 大学院生(研究当時) 田島史郎(タジマ・フミサト) 大学院生(研究当時) 小野寺健太(オノデラ・ケンタ) 教授 西岡孝(ニシオカ・タカシ)   <機関窓口> 理化学研究所広報部報道担当 Tel: 050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp   富山県立大学事務局教務課情報研究係 Tel: 0766-56-7500 Email: johokenkyu@pu-toyama.ac.jp   広島大学財務・総務室広報部広報グループ Tel: 082-424-4518 Email: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   学校法人関西学院広報部企画広報課 Tel: 0798−54−6873 Email: kg-koho@kwansei.ac.jp   高知大学広報・校友課 Tel: 088-844-8643 Email: kh13@kochi-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2026.02.04
    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    防風林近くの農業湿地では、ヒバリ、ケリなど草原や湿地に棲む野鳥が減少することを確認 ~農業生産と生物多様性保全を両立させる農地管理の実現へ~

    本研究成果のポイント 水田やハス田では、防風林※1の近くでオオヨシキリやホオジロなど林や藪を好む鳥やムクドリは増える一方、ヒバリやケリのような開けた環境を必要とする草原・湿地性鳥類は棲みにくくなります。これは、防風林があることでその林の中にキツネや猛禽類などの捕食者が身を隠しやすくなるため、などが考えられます。 草原性鳥類は、防風林に隣接する地点では、防風林から約1km離れた開放的な環境に比べて、個体数が約70%少ないことが分かりました。 本研究は、防風林を一律に増やすよりも、草原・湿地性鳥類が利用する開放的な農業湿地※2環境を途切れずに残すよう配置・管理する方が、農地全体の生物多様性の維持に有効であることを示しています。   概要 広島大学大学院先進理工系科学研究科の久野真純助教らは、農業湿地景観における防風林が鳥類群集※3に与える影響を明らかにしました。石川県河北潟周辺の農業湿地で調査した結果、防風林の周辺ではシジュウカラやコゲラを含む林の縁を好む鳥の種類や数が増える一方で、ヒバリなど草原性の鳥の数や、ケリなどのチドリ類、サギ類、カモ類など湿地性の鳥の種類が減少することが分かりました。 特に草原性鳥類(ヒバリとキジ)では、防風林に隣接する地点で個体数が大きく減り、開放環境と比べて約70%少ないことが明らかになりました(図1)。本研究は、防風林を一様に増やすだけでは農地全体の生物多様性の向上につながらない場合があることが示されました。今後は、開放的な環境が連続するよう防風林の配置や管理を工夫することがだと考えられます。 本研究成果は、2026年1月15日に、国際学術誌「Journal of Environmental Management」にオンライン掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   論文情報 掲載雑誌:Journal of Environmental Management 論文題目:Shelterbelts support edge birds but limit grassland and wetland specialists in agricultural landscape 著者: K久野真純・出口翔大・Wenhuan Xu・Xike Xiao・Keinosuke Sannoh・Xinli Chen・本村健 DOI: https://doi.org/10.1016/j.jenvman.2026.128583 図1:草原性の鳥の個体数と防風林までの距離の関係性を表したグラフ(Hisano et al. 2026を元に改変)   背景 農業集約化に伴う生息地の単純化は、世界的に農地鳥類の減少を引き起こしてきました。これに対応するため、各国の農業環境計画では、防風林や生け垣林などの農地樹林帯を維持・植栽することが推奨され、林縁性※4や森林性の鳥類を支える有効な手段と考えられてきました。一方で、こうした直線状の樹林帯は、草原性・湿地性鳥類にとって生息地を分断し、樹林帯を利用する猛禽類などに捕食される危険を高める可能性が指摘されています。   これまで、北米ヨーロッパの草原・畑地景観では、防風林や樹林帯が鳥類群集に与える影響が研究されてきましたが、アジア・モンスーン気候帯に広がる水田やハス田などの農業湿地景観では、その影響はほとんど検証されていませんでした。農業湿地は、自然湿地が減少した地域において、多くの湿地性・開放環境性鳥類にとって重要な代替生息地となっており、渡り鳥の中継地としても重要な役割を果たしています。そのため、農業湿地における防風林の効果を理解することは、生物多様性保全と農地管理の両立を考えるうえで重要な課題です。   研究成果の内容 本研究では、石川県河北潟周辺の農業湿地景観(水田・ハス田)を対象に、防風林の有無や距離が鳥類群集に与える影響を調べました。その結果、防風林は藪・林縁性鳥類の種数や個体数を増加させる一方で、草原性および湿地性スペシャリストの生息を制限することが明らかになりました。とくに草原性鳥類では、防風林に隣接する地点で個体数が著しく低下し、防風林から約1km離れた開放環境と比べて約70%少ないことが示されました。 これらの結果は、防風林が林縁性鳥類にとっては営巣や隠れ場所として機能する一方で、見通しの良い開放環境を必要とする地上営巣種にとっては、生息地の縮小や捕食リスクの増加をもたらす可能性を示しています。防風林は鳥類の多様性を一様に高めるのではなく、鳥類群集の構成そのものを変化させる要因であることが明らかになりました。  石川県河北潟のハス田に隣接して設けられた防風林の例。農地の風害対策として設置された防風林は、林や藪を利用する鳥類のすみかになる一方で、広く見通しのよい環境を必要とする鳥類にとっては、生息地利用の妨げの要因となることがある。 撮影:久野真純   防風林の影響を受けやすいと考えられる湿地性の鳥ケリ(左)と、草原性の鳥ヒバリ(右)。いずれも日本各地の水田で見られる種だが、本研究により、防風林に近い環境では生息地として利用しにくくなる可能性が示された。撮影:久野真純   期待される成果 本研究は、防風林や農地樹林帯の効果を、特定の種だけでなく鳥類群集全体の視点から評価し、農業湿地景観における管理上のトレードオフ※5を明確に示した点に特徴があります。これにより、防風林を含む農地樹林帯の維持・植栽がすべての鳥類にとって一様に有益であるという前提 (Hinsley and Bellamy 2000, Heath et al. 2017) を見直す科学的根拠を提供しました。 本研究成果は、農業環境計画や土地利用計画において、防風林を「増やすべき要素」として一律に扱うのではなく、どこに、どの程度配置するかを検討する必要性を示しています。とくに、草原性・湿地性スペシャリスト※6や地上営巣種が生息する農業湿地では、開放環境の連続性を確保することが、生物多様性の維持にとって重要であることが示唆されました。   さらに、水田やハス田などの農業湿地が、自然湿地の減少が進む地域において、渡り鳥や湿地性鳥類の重要な代替生息地となっている点を踏まえると、防風林の配置や規模を適切に設計することで、林縁性鳥類を支えつつ、国際的に減少傾向にある湿地性・草原性鳥類の生息地機能を損なわない農地管理が可能になると期待されます。これらの知見は、日本国内にとどまらず、アジア・モンスーン気候帯を中心とした世界の農業湿地において、持続的な農業と生物多様性保全を両立させる景観管理の指針として活用されることが期待されます。   今後の展開 本研究は、防風林の一律的な拡大が必ずしも農地生物多様性の向上につながらないことを示しました。今後は、防風林の配置や間隔、規模といった設計要素が、鳥類や捕食者の行動にどのように影響するかを、より詳細に検証する必要があります。また、季節や土地利用の違いを踏まえ、農業湿地全体の中でどの程度の開放環境を維持すべきかを明らかにすることが重要です。将来的には、防風林と開放環境を適切に組み合わせた景観設計指針を提示することで、農業生産と生物多様性保全を両立させる農地管理の実現に貢献することを目指します。   用語解説 ※1防風林:農地の風害防止を目的として植えられた直線状の樹木帯。農業生産を支える一方で、鳥類にとっては林縁環境や移動経路として機能することがある。 ※2農業湿地:水田やハス田など、人為的に管理されているが、水域や湿地環境の性質を持つ農地。自然湿地が減少した地域では、多くの湿地性生物の代替生息地となっている。 ※3鳥類群集:同じ地域に生息する複数の鳥類種からなる集まり。 ※4林縁性鳥類:森林と開放環境の境界(林縁)を主な生息場所として利用する鳥類。藪や樹木を隠れ場所や営巣場所として利用する種が多い。 ※5トレードオフ:ある対策によって得られる利益と、同時に生じる不利益の関係。本研究では、防風林が林縁性鳥類を支える一方で、草原・湿地性鳥類の生息を制限する関係を指す。 ※6草原性・湿地性スペシャリスト:草原や湿地などの開放的な環境に特化して生息する鳥類。見通しの良い環境を好み、地上で営巣する種も多い。   その他 本研究に取り組むきっかけは、これまでイギリスやアイルランド、ブルガリア、スイスなど、ヨーロッパを訪れた際に目にした農業景観にあります。ヨーロッパの農地には、畑や草地の境界にヘッジロー(生け垣林)が設けられており、日本の農村風景とは大きく異なる印象を受けました。農地の中に、周囲とは明瞭に異なる「緑の線」が連続している景観が、強く心に残りました。 一方で、日本の農地では、水田など広く開けた空間が人工湿地として機能しており、ヒバリやケリなど、見通しの良い環境を好む鳥たちが利用しています。こうした違いを実際に現地で見比べるなかで、「ヨーロッパで良いとされている農地での植栽が、日本の農地でも同じように良い結果をもたらすのだろうか」という疑問を抱くようになりました。とくに、共同研究者の出口翔大博士(福井市自然史博物館)と議論を重ねるなかで、ヘッジローや防風林のような線状の樹木構造は、林縁性の鳥類には居場所を提供する一方で、開放環境を必要とする鳥類にとっては、かえって生息しにくい環境をつくっているのではないか、という考えに至りました。この疑問が、本研究を進める原動力となりました。   本研究は、NPO法人河北潟湖沼研究所(河北潟研究奨励助成)、日本学術振興会(科研費・若手研究:21K17912)および広島大学スタートアップ経費による支援を受けて実施されました。   参考 Heath, S. K., C. U. Soykan, K. L. Velas, R. Kelsey, and S. M. Kross. 2017. A bustle in the hedgerow: Woody field margins boost on farm avian diversity and abundance in an intensive agricultural landscape. Biological Conservation 212:153-161.   Hinsley, S. A., and P. E. Bellamy. 2000. The influence of hedge structure, management and landscape context on the value of hedgerows to birds: a review. Journal of Environmental Management 60:33-49.   報道発表資料(648.85 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Environmental Management 研究者ガイドブック(久野 真純 助教)   【お問い合わせ先】 大学院先進理工系科学研究科理工学融合プログラム(開発科学分野) 久野 真純助教 Tel:082-424-6905FAX:082-424-6904 E-mail:hisano*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.04
    • 医療/ヘルスケア
    肝細胞癌の薬物療法にカテーテル治療を併用することで、 治療効果が高まる可能性を発見しました。

    本研究成果のポイント 手術不能な肝細胞癌に対する薬物療法として薬物療法(Atezo/Bev療法)※1に、カテーテル治療(TACE療法)※2を追加することで治療効果が高まる可能性があることを発見しました。   概要 広島大学病院消化器内科の研究チームは、広島大学病院と広島県内8施設で行われた肝細胞癌の治療398例を対象に、薬物治療とカテーテル治療を併用することに関して後ろ向きに解析※3を行いました。その結果、二つの治療法を併用すると、治療開始から亡くなるまでの期間及び治療開始から腫瘍が増大するか亡くなるまでの期間が長くなることがわかり、治療効果が高まる可能性を発見しました。 このことは、学術誌「Liver Cancer」に掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   発表論文 ■掲載誌:Liver Cancer(2025年12月) ■論文タイトル:Atezolizumab Plus Bevacizumab With Transcatheter Arterial Chemoembolization (Sandwich Strategy) versus Atezolizumab Plus Bevacizumab Alone in Hepatocellular Carcinoma: A Multicenter Retrospective Study ■DOI:10.1159/000549979 ■著者:Ko Hashimoto1, Tomokazu Kawaoka1*, Tomoaki Emori1, Aiko Tanaka1, Yuki Shirane1, Ryoichi Miura1, Yasutoshi Fujii1,2, Hikaru Nakahara3, Kenji Yamaoka1, Shinsuke Uchikawa1, Hatsue Fujino1, Atsushi Ono1, Eisuke Murakami1, Daiki Miki1, C. Nelson Hayes1, Akira Hiramatsu4, Kei Amioka5, Michihiro Nonaka6, Yasuyuki Aisaka6, Kei Morio7, Takashi Moriya7, Yuji Teraoka8, Hirotaka Kono8, Yosuke Suehiro9, Keiichi Masaki9, Kazuki Ohya10, Shintaro Takaki10, Nami Mori10, Keiji Tsuji10, Yumi Kosaka11, Takashi Nakahara11, Hiroshi Aikata11, Masataka Tsuge1, Shiro Oka1 1) Department of Gastroenterology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 2) Department of Clinical and Molecular Genetics, Genomic Medicine Center, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 3) Department of Clinical Oncology, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 4) Department of Gastroenterology, Hiroshima Memorial Hospital, Hiroshima, Japan 5) Department of Gastroenterology, NHO Higashihiroshima Medical Center, Hiroshima, Japan 6) Department of Gastroenterology, JA Hiroshima General Hospital, Hiroshima, Japan 7) Department of Gastroenterology, Chugoku Rosai Hospital, Hiroshima, Japan 8) Department of Gastroenterology, NHO Kure Medical Center and Chugoku Cancer Center, Hiroshima, Japan 9) Department of Gastroenterology, Hiroshima City North Medical Center Asa Citizens Hospital, Hiroshima, Japan 10) Department of Gastroenterology, Hiroshima Red Cross Hospital & Atomic-bomb Survivors Hospital, Hiroshima, Japan 11) Department of Gastroenterology, Hiroshima Prefectural Hospital, Hiroshima, Japan *責任著者   背景 肝細胞癌は、生活習慣病やウイルス性肝炎などを原因として発症する癌で、手術をして癌を切除することが根治的な治療法として知られています。一方、さまざまな理由で癌を切除することができないこともあり、このような場合、手術の代わりに薬物療法を行うことがあります。薬物療法では多くの場合「アテゾリズマブ」という免疫力を高める薬と、「ベバシズマブ」という癌への栄養供給を断つ薬を併用すること(以下、Atezo/Bev療法)が一般的ですが、Atezo/Bev療法で行う治療は、その効果は限定的なものとなっています。 また、肝細胞癌に対する局所的な治療法の一つとして、カテーテルを使い癌に直接抗がん剤を注入する方法「TACE療法」があります。 これらの二つの治療法を組み合わせた新しい治療法が、近年提唱されています。   研究成果の内容 今回の研究では、広島大学病院と広島県内8施設で行われた肝細胞癌の治療398例のうち、Atezo/Bev療法のみで治療を行った例と、Atezo/Bev療法とTACE療法を併用した例、それぞれ49例ずつを比較しました。その結果、併用群では、全生存期間※4(治療開始から亡くなるまでの期間)と無増悪生存期間※5(病気が悪化しない期間)が、Atezo/Bev療法単独での治療群よりも長くなることが分かりました。さらに、副作用の発生率にも大きな差はなく、肝臓の機能も悪化していませんでした。つまり、Atezo/Bev療法にTACE療法を追加しても安全性は保たれ、治療効果が高まる可能性があることが分かりました。   以下、具体的な研究成果です。 ・Atezo/Bev療法を開始した398例のうち、統計的なマッチングを行ったのちAtezo/Bev療法とTACE療法の併用群と、Atezo/Bev療法単独群をそれぞれ49例ずつ抽出しました。 ・TACE併用群と単独群のOSとPFSを比較すると、どちらも有意差をもってTACE併用群で延長する結果でした。 ・OSとPFSについて多変量解析※6を行い、それぞれに寄与する独立因子としてTACE療法併用の有無が抽出されました。 ・TACE療法実施の有無において、有害事象の有意な増加はみられませんでした。 ・TACE療法実施の前後において、肝予備能※7は保たれていました。   今後の展開 今回の研究では後方視的な解析のためすべてのバイアスを排除することは困難と思われます。現在、Atezo/Bev療法にTACE療法を併用することに関して多くの臨床研究が進行しており、その結果が待たれます。   用語解説 ※1. アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法(Atezo/Bev):免疫チェックポイント阻害薬※9のアテゾリズマブ(Atezo)と血管新生阻害剤※10のベバシズマブ(Bev)の併用療法は現在切除不能肝細胞癌の薬物療法における第一選択の一つとなっています。 ※2. TACE療法:肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization:TACE):足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、肝臓内の腫瘍を栄養する細い動脈までカテーテルを進め、そこで抗癌剤とともに塞栓物質を注入し腫瘍細胞を壊死させる方法。 ※3. 後ろ向きに解析:過去のデータを振り返って検討する研究方法。 ※4. 全生存期間(Overall Survival:OS):治療開始から亡くなるまでの期間を測る指標のこと。 ※5. 無増悪生存期間(Progression-Free Survival:PFS):治療開始から腫瘍が増大するか亡くなるまでの期間を測る指標のこと。 ※6. 多変量解析:複数の要因が同時に結果へどのくらい影響しているかを解析する方法。 ※7. 肝予備能:肝臓に必要な代謝・解毒・合成機能を維持できるかを示す指標のこと。Child-Pughスコアは肝硬変患者の重症度と予後を評価するために最も広く使われる評価法の一つ。 ※8. 独立因子:多変量解析の結果、他の要因とは無関係に独立して結果に影響を与えると判断された因子。 ※9. 癌細胞がリンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除することで免疫細胞の力を回復させ癌治療を行う薬剤のこと。 ※10. 癌細胞が新しい血管を作って増加することを阻止する薬剤のこと。   参考資料 図1. Atezo/Bev TACE併用群とAtezo/Bev単独群の全生存期間と無増悪生存期間の比較 全生存期間(a)、無増悪生存期間(b)ともにAtezo/Bev TACE併用群において有意差をもって延長しました。 図2. OSとPFSに寄与する因子について多変量解析を行った結果 (a)OSに寄与する因子として単変量解析ではBCLC stage・脈管侵襲の有無・DCP(腫瘍マーカーの一つ)・TACEの有無が抽出され、多変量解析ではDCPとTACEの有無が独立因子※8として抽出されました。 (b)PFSに寄与する因子として単変量解析では治療ライン・TACEの有無が抽出され、多変量解析でもどちらも独立因子として抽出されました。 図3. Atezo/Bev TACE併用群におけるTACE前後の肝予備能の推移 ベースラインからTACE実施時までは肝予備能は軽度悪化していますが、TACE実施の前後ではChild-Pughスコアの悪化は認めませんでした。 このプロジェクトの一部は、日本学術振興会のJ-PEAKS※の支援を受けており、広島大学では今後も、本支援により臨床研究を推進していきます。   ※ J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業): 地域の中核大学や研究の特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色のある研究力を核とした戦略的経営の下、 他大学との連携等を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装の加速等により研究力強化を図る環境整備を支援することにより、我が国全体の研究力の発展を牽引する研究大学群の形成を推進することを目的としています。   報道発表資料(479.95 KB) 掲載ジャーナル:Liver Cancer 広島大学大学院医系科学研究科消化器内科学   診療准教授河岡友和 Tel:082-257-5191FAX:082-257-5194 E-mail:kawaokatomo@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子「APOE4」をリスクの低い型「APOE3」に切り替えられるマウスモデルを作製。 ~ヒトへの応用、発症リスク低減に向けて~

    本研究成果のポイント アルツハイマー病最大の遺伝的リスク因子APOE4を、別の型APOE3に切り替える条件付きマウスモデルを開発・検証しました。 肝臓では遺伝子型の切り替えを実証しました。 一方で脳では十分な遺伝子発現がみられないことが判明しました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科 石川 若芸 博士研究員を中心とする研究チームは、アルツハイマー病を発症するリスクが高まる遺伝子「APOE4」を、リスクの低い「APOE3」に切り替えることができるマウスモデルを開発しました。このマウスモデルで、実際に肝臓の「APOE4」を「APOE3」に切り替えることに成功した一方、脳ではこの遺伝子自体が発現しないということも判明しました。 本研究成果は、2025年12月にNeurobiology of Disease(Q1)に掲載されました。   発表論文 ■掲載誌: Neurobiology of Disease (2025 年 12 月) ■論文タイトル: A Novel Conditional Knock-In Mouse Model for APOE4-to-APOE3 Switching ■Ruoyi Ishikawa1,2(石川 若芸), Yu Yamazaki1*(山崎 雄), Nayuta Nakazawa1(中澤 那由多), Xin Li1(リ シン), Taku Tazuma1(田妻 卓), Yoshiko Takebayashi1(竹林 佳子), Masahiro Nakamori1(中森 正博), Yusuke Sotomaru3(外丸 祐介), Hirofumi Maruyama1(丸山 博文)   1.広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 2.日本学術振興会特別研究員 3.広島大学自然科学研究支援開発センター *責任著者   背景 アルツハイマー病は、社会の高齢化とともに患者数が増加している認知症疾患です。その発症リスクに最も強く関与する遺伝子がAPOE(※1)であり、特にAPOE4を持つ人は、標準型であるAPOE3を持つ人に比べて、発症リスクが大幅に高くなることが知られています。 APOE4とAPOE3の違いはわずか1塩基であり、生体内でAPOE4をAPOE3へ切り替えることができれば、発症リスクそのものを低減できる可能性が考えられてきました。ヒトへの応用に先立ち、その有効性や危険性を、実験モデルを用い多面的に評価する必要がありますが、これまで「体の中で、任意のタイミングでAPOE遺伝子型を切り替える」ことを検証できる実験モデルは限られていました。   研究成果の内容 本研究では、体内でAPOE4からAPOE3に切り替えることができるマウスモデルの作製に成功しました。 まず、遺伝子工学の技術を用い、任意のタイミングでAPOE4からAPOE3に切り替えられる遺伝子をつくり、それをマウスの体内に取り込みました。 このマウスで遺伝子の切り替えを試したところ、肝臓ではAPOE4からAPOE3への切り替えが確認された一方、脳ではそもそもAPOEを作るためのタンパク質が減っていることが確認されました。   (以下、専門的な研究内容です。)   本研究では、Cre-loxP(FLEx)システム(※2)を用いて、APOE4からAPOE3へと不可逆的に切り替わる遺伝子設計を行い、まず培養細胞を用いた in vitro 実験で、本設計がCre依存的にAPOE4からAPOE3へ切り替わることを確認しました。 この検証結果を踏まえて、通常はAPOE4をマウスのApoeプロモーター制御下に発現し、特定のタイミングでAPOE3へと切り替わる条件付きノックインマウスモデルを新たに作製しました。このモデルを用いて生体内での遺伝子型切り替えを検証した結果、肝臓ではAPOE4からAPOE3への切り替えが明確に確認されました。   一方、脳ではAPOEタンパク質の発現が著しく低下していることが分かりました。さらに分子レベルで解析を行ったところ、脳ではイントロン3が除去されないイントロン保持型転写産物(※3)であるAPOE-I3が増加し、翻訳可能な成熟APOE mRNAが減少していることが明らかになりました。この原因として、遺伝子を切り替えるために導入した配列であるloxPが、遺伝子情報の正しい読み取り過程に影響を与えた可能性が考えられました。   今後の展開 今後、研究チームはloxP配列の配置を最適化するなど設計を改良することで、脳内でも安定した遺伝子発現と遺伝子型切り替えを可能にする次世代モデルの開発を進める予定です。   参考資料 用語解説 (※1)APOE 体内で脂質(コレステロールなど)を運ぶタンパク質を作る遺伝子です。脳の健康とも深く関係しており、アルツハイマー病の発症リスクに強く影響します。   (※2)Cre-loxP(FLEx)システム 遺伝子工学で使われる技術の一つで、DNAの一部を「切り取る」「向きを反転させる」といった操作を、狙ったタイミングで行うことができます。   (※3)イントロン保持型転写産物 本来は取り除かれるはずのイントロンが残ったままのmRNAです。この状態では、正常なタンパク質が作られにくくなります。本研究では、脳でこの型のAPOEのmRNAが増えていることが分かりました。   報道発表資料(1003.07 KB) 掲載ジャーナル:Neurobiology of Disease 研究者ガイドブック(山崎 雄 准教授)   広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 博士研究員石川若芸 准教授 山崎雄 Tel:082-257-5201FAX:082-505-0490 E-mail:yuyamazaki@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    進行肺がん患者の放射線肺炎予測精度を大幅に向上 ~SurvBETAモデルが多領域解析と複数のAI学習をつなぎ革新的な予測を実現~

    本研究成果のポイント 肺がん治療の副作用「放射性肺炎」のリスクを高精度に予測できる「SurvBETA」を開発しました。 本モデルにより、放射線肺炎リスクの早期予測が可能となり、個別化治療の選択を支援する強力なツールとして、臨床現場での利用が期待されます。   概要 広島大学病院放射線部の河原大輔准教授を中心とする研究チームは、肺がんの患者に対する放射線治療の後に発症する(放射性肺炎)のリスクを高精度で予測する新しいモデル「SurvBETA」を開発しました。 放射性肺炎は、放射線治療中に患者が経験する可能性がある重大な副作用で、発症すると治療方針の変更を余儀なくされることがあります。従来の予測方法では、臨床データや単一の画像から得られる情報に頼っており、リスク予測の精度には限界がありました。本研究では、患者のCT画像と放射線量情報から得られるさまざまな情報を抽出し、複数の機械学習アルゴリズムを用いて信頼性の高い予測を行うモデルを開発し、従来よりも高精度で放射性肺炎の発症リスクを予測できるようになりました。今後、より多くの施設での検証とデータの多様化を進め、放射線治療の個別化と最適化に向けた重要なツールとしての導入が期待されています。 本研究成果は、2025年12月発行の「Medical Physics」誌に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Prediction of radiation pneumonitis after CRT in patients with advanced NSCLC using multi-region radiomics and attention-based ensemble learning   著書 Daisuke Kawaharaa,*, Nobuki Imanoa, Misato Kishia,b, Toshiki Fujiwarac, Tomoki Kimurac, Yuji Murakamia   a Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima 734-8551, Japan b Radiation Therapy Section, Department of Clinical Practice and Support, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan cDepartment of Radiation Oncology Kochi Medical School, Kochi University, Kami, 783-0043, Japan.   掲載雑誌 Medical Physics   DOI番号 10.1002/mp.70140   背景 肺がんの治療において、放射線治療は効果的な方法の一つです。しかしこの治療では、がん細胞の周りの正常な細胞にも放射線が少し当たってしまい、放射性肺炎という肺炎を引き起こすことがあります。放射性肺炎はその重症度によりグレード1とグレード2に分けられますが、進行した肺がん患者がグレード2の放射性肺炎を発症した場合、患者の治療効果や生活の質に深刻な影響を与えるため、早期段階での予測が非常に重要です。従来、放射性肺炎の予測には主に臨床的な因子や線量に基づく手法が使われていましたが、これらの方法では予測精度に限界がありました。   研究成果の内容 本研究では、進行した肺がん患者における放射性肺炎のグレード2以上の発症リスクを高精度で予測する新しい予測モデル「SurvBETA」を開発しました。「SurvBETA」は、CT画像から得られる、腫瘍部位、肺組織、腫瘍周囲領域、放射線線量分布など、複数の解剖学的・線量ベースの領域から特徴を抽出し、それらを基に放射線肺炎のリスクを高精度で予測します。 「SurvBETA」は「アンサンブル学習」を利用しています。これは、複数の機械学習アルゴリズム(ランダムフォレスト、XGBoost、LightGBM、CatBoost)などに放射性肺炎発症リスクを予測させ、その予測結果を統合することで、より信頼性の高い予測を行う手法です。さらに、このモデルは、注意機構(Attention Mechanism)を組み込んでいます。これはCT画像や放射線の当たり方など、どの部分に着目すべきかをAIが自動で予測しすることで、患者ごとに異なる生物学的背景や放射線治療の影響を反映し、より正確なリスク評価を可能にするものです。この注意機構は、モデルが重要な特徴を動的に学習し、放射線肺炎発症のリスクが高い患者を正確に識別できるようにします。これにより、従来よりも高精度なリスク予測を実現しました。外部施設で行った検証結果では、C-index 0.83という優れた予測精度を達成し、これによりモデルの汎用性と実用性が確認されました。   今後の展開 本研究により開発された「SurvBETA」モデルは、NSCLC患者における放射性肺炎の予測精度を大幅に向上させました。今後は、このモデルをさらに多くの医療機関で検証し、実際の臨床現場における実用性と汎用性を確認していきます。「SurvBETA」モデルは、放射線治療計画の最適化にも活用でき、個別化治療の支援ツールとして、治療方針を患者ごとに最適化するための重要な指標となることが期待されます。 図1SurvBETAによる解析フロー図 表1予測モデルの比較とパフォーマンス。   報道発表資料(395.11 KB) 掲載ジャーナル:Medical Physics 研究者ガイドブック(河原 大輔 准教授)   病院放射線部准教授河原大輔 Tel:082-257-1545FAX:082-257-1546 E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp

〈234〉
Copyright © 2020- 広島大学