経口摂取により暑熱耐性能を誘導しうる 微細藻類

この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。
 
新技術の概要 本技術は、特定の藍藻による動物の暑熱耐性誘導に関するものである。当該藍藻を含む飲食品組成物摂食により、動物の体温を摂餌に至適な範囲に調整可能である。結果、高温化であっても動物の食欲は維持され得る。本技術は、当該藍藻の体温調節機能を利用した、ヒトおよび畜産・愛玩動物等に暑熱耐性を付与する技術である。
 
従来技術・競合技術との比較 近年の夏場の高温による畜産動物の暑熱ストレス回避技術として、空調設備の導入、換気扇等による強制換気、遮光ネット等による遮光等が試行されているが、大きなコストを要する。一方、我々の技術では既存設備下で、動物の生育・体調維持に繋がり、前記コスト面での問題は解消できるものと考える。また、当該藍藻は栄養的にもタンパク質・脂質含有量が他の藍藻類に比べて多い。また、当該藍藻はそれ自体が顕著な高温耐性を有するため、高温下でも培養破綻が起きにくく、他の藍藻類よりも安定した供給が可能である。
 
新技術の特徴

  • 当該藍藻を含む飼料の摂取により、暑熱区飼育のカエル(変温動物)の高温耐性能が向上、また暑熱区飼育のニワトリ(恒温動物)の暑熱ストレスが減少
  • 少ない配合量で顕著な効果を発揮(ニワトリの場合)
  • 培養から製品化までのプロセスが低エネルギーかつカーボンニュートラル

 
本技術の概要

  • 地球温暖化によって畜産物、水産物、ペットなどへの高温ストレスが高まり、生産リスク、健康リスクが上昇。
  • 温泉という極限環境に生息する両生類「温泉ガエル」の餌資源として藍藻(シアノバクテリア)を発見。
  • オタマジャクシの高温下での生存率の上昇、鳥類(ニワトリ)での高温ストレス低減効果を確認。

 
地球温暖化と食料生産リスク

過去10万年(最後の間氷期以降)最も急速な全球的温暖化が進行中

「温泉ガエル」と餌資源としてのシアノバクテリアの発見

琉球列島に広範に分布する「リュウキュウカジカガエル」と本州、九州、四国などに生息する「カジカガエル」の、温泉に生息する集団を発見し、藍藻(シアノバクテリア)を食していることを見出した。

 
MinIONを使ったDNA解読

Oxford Nanopore Technologies社のシーケンサー(DNA解読装置)MinIONを使ってPCR産物・ゲノムDNAを解読。

オタマジャクシ腸内容物の16Sシーケンス(大きな分類)

腸内に存在する微生物群を分類し分析。

 
温泉藻(秋田県湯沢市・川原の湯っこ)の単離培養
新種シアノバクテリアのゲノム解読

約630万塩基対の環状ゲノムを解析。

タンパク質コード遺伝子:約6300
  特徴として、

  • 窒素代謝関連遺伝子が多い
  • 遷移金属イオン結合遺伝子が多い

 
ネッタイツメガエル幼生の摂餌試験と高温下生存率

ネッタイツメガエル幼生に対して藻類を給餌。高温環境下において生存率が向上。

ニワトリに対する飼料添加と暑熱ストレスへの影響

  • 供試動物:産卵鶏 (Julia Lite) 雄ヒナ、12L12D
  • 試験区:2×3の完全要因配置
     2種類の環境温度 (室温or暑熱)
     ×3種類の試験飼料(微細藻類粉末を飼料に対して乾物あたり0, 1, 2%添加)
  • 供試羽数:各区5羽(5×2×3 = 合計30羽)
  • 温度管理:D0で30℃、その後D4まで2日間ごとに1℃低下させる
  •  暑熱区:D5より、9:00から2時間かけて38℃まで加温し、17:00から2時間かけて29℃まで減温 (サイクリック)
     通常温度区:D5より27℃
     
    試験スケジュール

    産卵鶏雄ヒナの羽数、摂食量と藻類粉末重量 (70 g)から計算した最長の試験期間を設定

    測定項目体重、日増体量、摂食量、飼料要求率、直腸温

    D7に暑熱区の個体を動画撮影し、3分間あたりのパンティング(口を開け、
    喉または背中を小刻みに動かす呼吸をパンティングと定義)時間を計測。

     
    結果1

    • 直腸温に藻類飼料添加の影響が認められた。
    • 直腸温に藻類飼料添加と環境温度との交互作用が認められた。
    • (統計的有意差はないものの)増体量、摂食量も改善。

     
    結果2

    パンティング sec./180 sec.
    • †: 0%添加区と比較してP <0.1
    • 藻類添加によりパンティング時間が短くなる傾向

     
    藻類利用のメリット

    • 藍藻自体が高温環境下でも自律的に増殖可能であり、温暖
      化が進行する将来の気候条件下でも安定した生産が可能。
    • 既存飼料にわずか1~2%の配合で顕著な効果を発揮する
      ことから、コスト効率が極めて高く、導入障壁が低い。
    • 培養から製品化までのプロセスが低エネルギーかつカーボ
      ンニュートラルで完結するため、環境負荷の低減と持続可能性の両立が可能

     
    想定される用途

    • ペットフード
    • 家畜用、水産魚種飼育飼料などへの添加物としての利用。
       
    • 今後の試験結果次第では、健康食品などへの応用も考えられる

     
    実用化に向けた課題

    • 大量培養法の確立
       [→ 日本微細藻類技術協会(IMAT)との共同研究]
    • 魚種などの水生生物での試験
    • 有効成分の同定
    • 生産物・食品としての品質の検証
    社会実装への道筋
     
    企業への期待

    • 飼料製品の開発技術を持つ、企業との共同研究を希望。
    • 有効性成分によっては、製薬、健康・医療関連企業との共同研究も希望。

     
    技術のPRポイント

    • 本技術は温泉ガエルの高温耐性付与という生態学研究に由来する新技術であり、他にはないユニークな付加価値が存在する。
    • 生態学的視点からの基礎研究と同時に科学的裏付けがより一層蓄積される。
    • カーボンニュートラルな生産過程、高温下での培養が可能であり、地球環境問題へのポジティブな影響をアピール可能。

     
    本技術に関する知的財産権

    • 発明名称:飲食品組成物、暑熱耐性の向上方法および飼育動物の飼育法
    • 出願番号:特願2024-143335
    • 出願人:広島大学
    • 発明者:井川武、廣田隆一、河上眞一、三本木至宏

     
    研究者井川武
    広島大学
    両生類研究センター
    准教授