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    2026.04.30
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    日本人の健康関連QOLが7年間で一貫して低下 ―特に就労世代で顕著―<2017・2020・2024年度の全国大規模調査で判明>

    概要 広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 平子哲夫客員教授、秋田智之講師、杉山文講師、田中純子特任教授、福間真悟教授の研究グループは、COVID-19流行中を含む2017年度・2020年度・2024年度に実施された全国ランダムサンプリング調査を用いて、日本人成人の健康関連QOL(Health-related Quality of Life:HRQoL)の時系列変化を分析しました。国レベルでCOVID-19の流行前・流行中・流行後のHRQoLを比較した研究は国内外に類例がなく、世界的にも貴重な知見を提供するものです。 その結果、日本人成人の全国平均HRQoLは、過去7年間にわたり一貫して低下していることが明らかとなりました。特に、男性では40〜69歳、女性では30〜59歳の就労世代で低下が顕著であり、都道府県別の推定でも、ほぼ全国的に同様の傾向が確認されました。 本研究成果は、国際学術誌 「Scientific Reports」 に掲載されました(2026年4月9日)。   発表論文 掲載誌:Scientific Reports (Q1, IF: 3.9) 論文タイトル:Longitudinal changes in health related quality of life in Japan based on nationwide surveys and Bayesian regional estimates(全国調査とベイズ推定による地域別推計に基づく日本の健康関連QOLに関する経年的変化) 著者名:Tetsuo Hirako, Tomoyuki Akita*, Aya Sugiyama, Junko Tanaka , Shingo Fukuma (平子哲夫、秋田智之、杉山文、田中純子、福間真悟)*責任著者 DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-45692-x   背景 日本では高齢化の進行、労働環境の変化、慢性疾患の増加に加え、新型コロナウイルス感染症の影響など、国民の健康状態に影響を及ぼす要因が複雑化しています。 健康関連QOL(HRQoL)は、疾病負担や生活の質を標準化した総合的評価指標として、広く用いられ、健康・医療政策や地域施策などにおいて重要性が高まっています。 しかし、全国規模のランダムサンプリングに基づく時系列データは極めて限られており、小標本を含む都道府県別の変化を精度高く把握した研究はほとんどありませんでした。   研究の方法 本研究では、2017年度、2020年度、2024年度に実施された一般住民を対象に実施した肝炎ウイルス検査受検状況調査に含まれるHRQoL項目を解析に用いました。 対象:20〜85歳の日本人成人 調査方法:層化二段抽出法による全国ランダムサンプリング 有効回答数:2017年度:10,204人(34.0%) 2020年度:8,810人(44.1%) 2024年度:4,428人(29.5%) HRQoL指標:標準化された国際的な健康関連QOL指標であるEQ-5D-3L(日本語版) 都道府県別推定:性・年齢調整に加え、経験的ベイズ法1)を用いて小標本の不安定性を補正   本研究は厚生労働科学研究費補助金(H25-kanenippan-010, H28-kansei-ippan-001, H29-kansei-shitei-001, 19HC1001, 20HC2002, 22HC1001, 23HC2003)の支援を受けて実施しました。 本研究は広島大学の倫理審査委員会の承認を得て実施しました。   研究の主な結果 全国平均HRQoL値の推移 ▷ 0.9133(2017年度)→0.8977(2020年度)→0.8834(2024年度)と7年間で緩やかだが一貫して低下。 就労世代でのHRQoL値の低下が顕著 ▷ 男性:40〜69歳、女性:30〜59歳で統計的に有意な低下(P < 0.05)。 HRQoLの低下には「痛み/不快感」、「不安/ふさぎ込み」の影響が大きい。 ▷ 何らかの問題がある回答者の割合 (男性) (女性)   都道府県別の傾向 ▷ 経験的ベイズ法による推定では、ほぼ全ての都道府県でHRQoL値が低下しており、地域差を含めた全国的な傾向であることが確認されました。 各HRQoL推計値上位の1-5位 各HRQoL推計値下位の43-47位   考察・社会的意義 本研究は、世界的にも貴重な、国レベルでのCOVID-19の流行前中後を含む7年間のHRQoLを比較した初の大規模研究です。 COVID-19の流行時には医療サービス利用の減少、身体活動量の低下、メンタルヘルスの悪化など、多くの間接的影響が報告されています。本研究は因果関係を直接検証するものではありませんが、就労世代での顕著なHRQoL低下は、こうした行動・社会的変化の累積的影響を反映している可能性があり、特に緩やかな低下が継続していることに注目が必要です。 都道府県別の状況把握は自治体の健康・医療政策の立案に有用であり、継続的に健康関連QOLのモニタリングを行うための手法が開発されたことは意義があります。 研究者コメント「今回の結果から、日本の就労世代における健康関連QOLは緩やかではありますが、確実に低下していることが示されました。今後の健康・医療政策や地域施策において、就労世代の健康支援策の検討に際し重要な基礎資料になると考えられます。今後も継続的に全国の健康関連QOLのモニタリングを行うとともに、その低下の原因について深く分析することが必要です。」   用語解説1)経験的ベイズ法:条件付き確率の関係式であるベイズの定理を用い、新しい情報(データ)が得られたときに、ある事象の確率を更新する統計手法の一つ。小さな標本サイズに起因する不安定性を解消する手法として用いられる。   報道発表資料(995.3 KB) 国際学術誌:Scientific Reports 研究者ガイドブック(秋田 智之 講師)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 講師秋田智之 Tel:082-257-5160FAX:082-257-5164 E-mail:tomo-akita*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    2024.12.04
    • 介護/福祉
    • 医療/ヘルスケア
    主観的な咀嚼能力や咀嚼習慣が不良だと身体機能が低下する可能性があることが判明~高齢者の介護予防へ向けて~

    本研究成果のポイント 65-84歳の地域在住高齢者を対象としたコホート研究(あるグループを追跡して、健康状態の変化を調べる研究)の結果、主観的な咀嚼能力および咀嚼習慣は身体機能の低下と関連することが明らかとなりました。 咀嚼能力および咀嚼習慣を良好な状態に保つことは、高齢者の身体機能の維持に寄与する可能性があると考えられます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の竹下萌乃博士課程前期修了生、内藤真理子教授、愛知県歯科医師会の内堀典保会長らの研究グループは、愛知県の「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」で収集されたデータから、65-84歳の男女において、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣が関連することを明らかにしました。 本研究結果は、「BMC Oral Health」に令和6年10月24日付でオンライン掲載されました。 論文情報 論文タイトル:Association of physical function with masticatory ability and masticatory habits: a cohort study 著者:Moeno Takeshita1, Mariko Naito2,*, Rumi Nishimura2, Haruka Fukutani3, Minami Kondo1, Yuko Kurawaki2, Sachiko Yamada4 and Noriyasu Uchibori5 1R&D, Sunstar Inc., Osaka, Japan 2Department of Oral Epidemiology, Hiroshima University Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan 3Dentistry and Oral Surgery, Japan Community Health Care Organization (JCHO) Tokuyama Central Hospital, Yamaguchi, Japan 4Speech Clinic, Division of Specific Dentistry Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan 5Aichi Dental Association, Aichi, Japan *Corresponding author   掲載雑誌:BMC Oral Health(Q1) DOI:https://doi.org/10.1186/s12903-024-05051-6   背景 加齢に伴い、疾患や障害は増加し、介護を必要とする人の数も増加する可能性が高くなることから、健康寿命を延伸するための取り組みがますます重要になっています。 身体機能が低いことはフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)や入院等のリスクが高くなると報告されているため、身体機能を適切に評価し、高齢者の健康寿命延伸に対する介入に役立てることは重要です。 先行研究において、客観的または主観的な評価により測定された咀嚼能力は身体機能と相関関係にあることが示されています。一方、「よく噛んで食事をする」といった咀嚼習慣と、身体機能との関連性を検討した研究はほとんどありません。 本研究グループでは、高齢者の身体機能の低下には、咀嚼能力だけではなく咀嚼習慣も関係している可能性があると仮説を立て、検証を行いました。   研究成果の内容 本研究は、厚生労働省の平成30年度老人保健健康増進等事業の採択事業の一つである「歯科検診と事後フォローによる高齢者の自立支援と重症化予防への検証及び口腔機能の維持と栄養・運動を含めた総合プログラム検証事業」のデータを分析しました。対象者は愛知県東浦町在住の65-84歳男女146人です。 身体機能の評価は、基本チェックリスト※1のうち、身体機能を示す5つの質問を用いました。咀嚼能力は機器または歯科医療従事者によって測定された客観データ(客観的咀嚼機能、客観的咬合力、現在歯数)および自記式アンケート※2によって得た主観データ(主観的咀嚼機能、主観的咬合状態)により評価しました。咀嚼習慣は、自記式アンケート※2から得られた回答によって評価しました。 対象者146人(男性77人、女性69人、年齢中央値73人)のうち、30人(20.5%)において1年間で身体機能が低下していました。 性別や年齢といった対象者の背景の差を調整後、身体機能と咀嚼能力および咀嚼習慣の関連を解析したところ、主観的に咬合状態が不良であること(オッズ比6.00 、95%信頼区間1.44–25.05)および咀嚼習慣が不良であること(同6.49 、2.45–17.22)は1年後の身体機能の低下に影響を及ぼしていました。   今後の展開 本研究の結果、地域に暮らす自立高齢者における咀嚼能力および咀嚼習慣は1年後の身体機能と関連していました。高齢者の身体機能を維持するためには、咀嚼能力だけでなく咀嚼習慣にも配慮した早期の介入が必要であると考えられます。今後は長期にわたる追跡と対象者数を増やした調査を実施すること、さらに質問票の信頼性の検証を行うことが必要です。   解説 ※1 基本チェックリスト 介護予防や将来介護が必要となる可能性のあるハイリスク高齢者の早期選定を目的として厚生労働省によって作成された。25の質問に対して「はい/いいえ」で回答する自記式質問票である。7つの領域の質問群から構成され、本研究ではその中の「身体機能」の領域を用いた。   ※2 自記式アンケ―ト ・主観的咀嚼機能(「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」に対してはい/いいえで回答)*基本チェックリストNo.13の質問を活用 ・主観的咬合状態(「自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりとかみしめられますか」に対してはい/いいえで回答) ・咀嚼習慣(「ゆっくりよく噛んで食事をしますか」に対してはい/いいえで回答)   報道発表資料(327.67 KB) BMC Oral Health 研究者ガイドブック(内藤 真理子 教授)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科口腔保健疫学内藤真理子 Tel:082-257-5959FAX:082-257-5795 E-mail:naitom@hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.16
    • 医療/ヘルスケア
    がん患者が抱える倦怠感「がん関連疲労」に対し、 刺さない鍼治療「接触鍼法」が有効であることがわかりました。

    本研究成果のポイント がん患者の多くが経験する「がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対し、身体に鍼を刺さずに行える鍼治療「接触鍼法(K-style CNT)」の有効性と安全性を、世界で初めて確認しました。   概要 広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授(研究代表者)らの研究グループは、全国5施設の緩和ケア科と共同で行った臨床研究において、接触鍼法(K-style CNT)が、がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」に対しに有効であることを明らかにしました。この成果は、The Multinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)の国際誌Supportive Care in Cancer (2026年2月19日号) に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   背景と目的 「がん関連疲労」とは、がん患者の多くが経験する、休息や睡眠をとっても改善しない持続的で不快な全身倦怠感や疲労感のことです。日常生活に支障をきたすほど強力なだるさ、やる気の低下、身体の消耗感が特徴で、がん治療(化学療法、放射線など)やがんそのものによる慢性的な炎症が主な原因です。 「がん関連疲労」の回復には、適度な運動や睡眠、バランスの良い食事等の方法がありますが、これらに加わる新しい方法が求められています。 本研究では、通常の身体症状に対する治療に加えて鍼治療を用いることにより、症状の改善、QOL(生活の質)の改善に結び付くかどうかを検討する目的で、鍼治療を行い、その臨床的有効性と安全性について、患者の自覚症状と他覚的な評価を指標として、前向きに検討しました。 今回は鍼治療の一種である「接触鍼法」を行いました。「接触鍼法」とは、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する、刺さずに行える鍼治療のことです(図1)。刺激するツボは、天枢(へそから指3本分外側に位置するツボ)、中脘(胸骨の下端とへその中間に位置するツボ)、関元(へそから指4本分下に位置するツボ)を中心とし、その他に患者さんの状態に合わせて他のツボを組み合わせ、数か所刺激して行います。鍼を皮膚に刺入せず、肌の表面に軽く接触させて刺激を与えるという施術で、刺さないので痛みはなく、肌にも優しいのが特徴です。 図1接触鍼 接触鍼は一般的な鍼治療と異なり、鍼を皮膚に刺入せず、皮膚の表面から経穴(ツボ)を刺激する治療   方法と結果 がん患者121名をA群 接触鍼施行群とB群 接触鍼非接触のプラセボ群にランダムに割付け、A群の患者に通常治療と並行して週1回接触鍼治療を4週間行い、倦怠感に関する自覚症状のアンケートや検査を通じて、がんの倦怠感スケール(CFS)スコア、疼痛、唾液アミラーゼ値の数値評価スケール(NRS)スコア等の評価を行いました。 4週時点での重回帰分析ではSTAS-J でCNTに有意な治療効果が認められました(図2) 唾液アミラーゼ活性の変化は、交感神経系の活性化とストレス反応の生理学的マーカーです。この結果は接触鍼が患者の苦痛の生理学的側面と心理的側面の両方に影響を及ぼす可能性を裏付けています(図3)。 図24週間にわたる評価スケジュール-日本語版(STAS-J)の変化 対照群(a)および鍼治療群(b) (STAS-J)スコア。 図3接触鍼治療群と対照群における 2週間後の唾液アミラーゼの個別変化   論文情報 論文タイトル:Effect of contact needle technique on cancer‑related fatiguein palliative care patients: a randomized controlled trial 著者:Keiko Ogawa-Ochiai、MD、 PhD(広島大学病院 漢方診療センター)ほか 掲載誌: Supportive Care in Cancer doi:https://doi.org/10.1007/s00520-026-10430-6   報道発表資料(417.07 KB) 掲載誌:Supportive Care in Cancer 研究者ガイドブック(小川 恵子 教授)   【お問い合わせ先】 広島大学病院 漢方診療センター 教授小川 恵子(おがわ けいこ) E-mail:okeiko22@hiroshima-u.ac.jp TEL:082-257-1921(内線 6921)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    がんを抑制するはずのシステムががんの発生を誘導する! ―細胞間コミュニケーションの新たな仕組みを解明し、がん治療戦略の提案に貢献―

    【本研究成果のポイント】 ショウジョウバエ上皮組織において、腫瘍(*1)抑制経路として知られるHippo経路が腫瘍の形成を誘導することを発見しました。本研究によって、Hippo経路による腫瘍形成を誘導するメカニズムの一端が明らかとなったことで、新たながん治療戦略の提案に貢献できます。   【概要】Hippo経路は腫瘍抑制経路として知られ、この経路を標的としたがん治療戦略が開発されてきました。一方で、いくつかのがんではHippo経路が腫瘍形成を促進することが報告されており、Hippo経路の腫瘍形成における役割は大きな議論を呼んでいます。広島大学大学院統合生命科学研究科の本田大智研究員、奥村美紗子准教授(現 東北大学教授)、千原崇裕教授、広島大学大学院医系科学研究科の安藤俊範教授、理化学研究所の大井綾乃基礎科学特別研究員、佐久間知佐子理研ECL研究チームリーダー、小幡史明チームディレクター、基礎生物学研究所の三浦正幸所長らの研究グループは、ショウジョウバエ上皮組織においてHippo経路が腫瘍形成を誘導することを発見しました。この腫瘍形成モデルを用いて、これまで未解明だったHippo経路による腫瘍誘導効果についてそのメカニズムを解明することを目指しました。Hippo経路による腫瘍形成には細胞間コミュニケーションが使われており、Hippo経路が活性化した細胞が増殖因子(*2)(WinglessとSpitz)の分泌やアミノ酸輸送を介して、周辺細胞の腫瘍化を引き起こすことを明らかにしました。本研究は、Hippo経路による腫瘍誘導効果の分子メカニズムの一端を明らかにするものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。また、本研究は、国際学術雑誌EMBO Reportsに2026年5月1日にオンライン公開されます。 さらに本研究内容は注目すべき論文としてEMBO Reports内での説明記事”News & Views”にも取り上げられています。   【背景】Hippo経路は細胞増殖やアポトーシス(*3)を制御することで、組織・臓器の過剰な増殖を抑制する腫瘍“抑制”経路として知られています(図1左)。一方で、近年の研究で、いくつかのがんでは、Hippo経路が腫瘍形成を“促進”することが報告されています(図1右)。こうしたHippo経路の持つ腫瘍形成への2面性(抑制と促進効果)は、Hippo経路を標的としたがん治療戦略において大きな問題となっています。しかしながら、Hippo経路がどのように腫瘍形成を“促進”するのか、その分子メカニズムはほとんど分かっていません(図1右)。そこで、本研究では、ショウジョウバエ上皮組織を使い、Hippo経路による腫瘍誘導効果について解析しました。   【研究成果の内容】遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、Hippo経路が活性化した細胞(Hippo活性化細胞)を作製しました。そして、このHippo活性化細胞を誘導した組織で腫瘍形成が起きるかを観察しました。その結果、Hippo活性化細胞の周りの細胞で腫瘍形成が起こることが確認されました(図2)。これは、Hippo活性化細胞が腫瘍誘導センターとして機能し、細胞間コミュニケーションを介した腫瘍形成を引き起こすことを示しています(図2)。この細胞間コミュニケーションがどのように行われているかを調べるために、遺伝学的スクリーニングを行いました。その結果、Hippo活性化細胞による2種類の細胞間コミュニケーションを見つけました。1つ目はHippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子(WinglessとSpitz)を発現・分泌することで周辺細胞の腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。もう1つは、Hippo活性化細胞がアミノ酸トランスポーター(*4)(Sat1とSat2)を介して、周辺細胞でのアミノ酸の取り込みを促進し、腫瘍形成を誘導する経路です(図3)。そして、これら2つの経路が相乗的に作用することで周辺細胞の腫瘍形成が強く誘導されることを発見しました(図3)。   【今後の展開】Hippo経路は多くの研究で腫瘍形成を“抑制”すると報告されており、これまでHippo経路を標的としたがん治療法が開発されてきました。しかし、近年の研究で、Hippo経路に腫瘍形成を“促進”する作用があることが報告され、大きな問題となっています。この腫瘍形成への2面性、特にHippo経路による腫瘍“促進”効果についてはほとんど分かっていません。本研究は、これまで謎の多かった腫瘍“促進”効果のメカニズムの一端を明らかにしたものであり、Hippo経路を標的とした新たながん治療戦略の提案に繋がるものです。   【論文情報】掲載雑誌名:EMBO Reports 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo tumor suppressor pathway triggers non-cell autonomous tumorigenesis in Drosophila 著者:本田 大智、奥村 美紗子、大井 綾乃、佐久間 知佐子、小幡 史明、安藤 俊範、三浦 正幸、千原 崇裕 DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00778-5   参考:本論文の解説記事 掲載雑誌名:EMBO Reports(in “News & Views”) 掲載日:2026年5月1日 タイトル:The Hippo paradox: how growth suppression drives tumor growth 著者:Pooja Rai, Andreas Bergmann(共にUMass Medical School) DOI:https://doi.org/10.1038/s44319-026-00777-6   【参考資料】◆用語解説 (*1) 腫瘍: 細胞が異常に増殖して形成された細胞塊 (*2) 増殖因子: 細胞の増殖・分化を促進するタンパク質 (*3) アポトーシス: 遺伝子プログラムによって制御された能動的な細胞死 (*4) アミノ酸トランスポーター: アミノ酸を細胞内外へ輸送する輸送タンパク質   図1Hippo経路による腫瘍形成への2つの作用 古典的モデル(左): Hippo経路による腫瘍“抑制”効果。矛盾的な機能(右): Hippo経路による腫瘍“促進”効果。Hippo経路は腫瘍形成を“抑制”すると考えられてきたが、いくつかのがんでは腫瘍形成を“促進”する。この促進効果についてはほとんど理解されていない。   図2Hippo活性化細胞による細胞間コミュニケーションを介した腫瘍誘導 Hippo活性化細胞をマゼンタ色で、腫瘍を緑色で表示。Hippo活性化細胞それ自体が腫瘍化するのではなく、周辺細胞が腫瘍化した。   図3Hippo活性化細胞が増殖因子とアミノ酸輸送を介して腫瘍形成を誘導する Hippo活性化細胞がアポトーシス制御因子を介して、増殖因子を発現・分泌することで周辺細胞に作用する。また、Hippo活性化細胞はアミノ酸トランスポーターSat1/2を介して、周辺細胞のアミノ酸の取り込みを促進する。増殖因子とアミノ酸の両方が相乗的に周辺細胞へ作用することで腫瘍形成を引き起こす。   報道発表資料(424 KB) 論文掲載ページ (EMBO Reportsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (千原崇裕 教授)   【お問い合わせ先】 大学院統合生命科学研究科千原崇裕 Tel:082-424-7443 E-mail:tchihara@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 Tel:050-3495-0247 E-mail: ex-press@ml.riken.jp   基礎生物学研究所 Tel:0564-55-7628 E-mail:press@nibb.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.06
    • 医療/ヘルスケア
    歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功 ―痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へ―

    本研究成果のポイント 歯科治療後に起こる顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因を明らかにしました。これまでは「痛みが発症してから抑える」治療法しかなかった病気ですが、今回の研究成果により「痛みを未然に防ぐ予防」への全く新しい治療戦略が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学の麻 思萌 現・育成助教(当時・大学院生)、中村 庸輝 助教、中島 一恵 助教、森岡 徳光 教授の研究グループは、歯科治療後にまれに起こる強い顔の痛み「外傷後三叉神経ニューロパチー」の原因と予防法を、マウスを使った実験で明らかにしました。神経が傷つくと「HMGB1」という物質が放出され、それが「RAGE」という受容体と結びつくことで、炎症が起こり、痛みが慢性化することがわかりました。研究では、神経損傷の直後にRAGEの働きを止める薬を神経の近くに投与することで、痛みの発症を完全に防ぐことに成功しました。さらに、この薬は神経の周囲だけでなく、脳内の痛みを増幅させる細胞の働きも抑えることが確認されました。これにより、従来の「痛みが発症してから抑える治療」から「痛みを未然に防ぐ予防」への新しい治療戦略が期待されています。今後は人への応用に向けて、安全性や効果の検証が進められます。     背景 私たちの顔には、三叉神経という神経が通っています。これは、顔に触れたときの感覚(温度や痛みなど)を脳に伝える役割を持っていますが、親知らずの抜歯やインプラント治療などの歯科治療時、偶発的に三叉神経が傷ついてしまうことがあります。これが原因となり、食事や会話、洗顔といった日常のわずかな刺激で耐え難い激痛が走る「外傷後三叉神経ニューロパチー」という病気を発症することがあります。この痛みは、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、うつ病や不安障害を引き起こすこともあります。 これまで、この痛みに対する治療は抗てんかん薬や抗うつ薬などの薬物療法が中心でしたが、効果は限定的で、めまいや眠気といった副作用も大きな課題でした。さらに、痛みが慢性化するのを未然に防ぐための有効な予防法は確立されておらず、神経損傷のリスクがある患者に対する新たな予防戦略の開発が強く求められていました。     研究成果の内容 本研究グループは、外傷後三叉神経ニューロパチーにおいてどのようなメカニズムで痛みが発生するのかを解明し、そしてその予防法を確立することを目指しました。 そもそも、「痛み」を人間が感じるメカニズムの一つとして、「HMGB1」と「RAGE」という物質が関わっています。HMGB1は細胞の中にあるたんぱく質の一種で、RAGEは細胞の表面にある受容体(センサーのような役割)です。HMGB1は細胞の中にあるので、細胞が傷つくと外に出てきます。すると、それを感知したRAGEが「体に異常がおきている」と判断し、炎症反応を引き起こします。このようなメカニズムから、HMGB1は「痛みの警報物質」とも呼ばれています。 そこで私たちは、RAGEがHMGB1を感知する前に、その働きを弱めることができれば、痛みを軽減できるのではないかと考えました。まず、歯科治療後に起こる痛みを再現するために、マウスの顔の神経を傷つけたマウスモデル(眼窩下神経を損傷したモデル)を作製しました。その後、一部のマウスにのみ、神経を傷つけた直後(当日と2日後)に、RAGEの働きを阻害する薬物(RAGE阻害薬)を、傷つけた神経の周辺に直接投与しました。その結果、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、顔を頻繁にこすったり、冷たい刺激に対する強い反応といった症状が、雄雌ともに確認されました。これに対し、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、これらの痛みの行動が全て、性別に関わらずに抑制されました(図1)。この結果は、RAGEの働きを初期段階で弱めることが、痛みを防ぐ上で重要であることを示しています。 図1:RAGE阻害薬の予防投与による痛み様行動の抑制効果 神経損傷マウスにRAGE阻害薬を予防的に投与した際の、痛みの強さを示す行動の変化。(左)自発的な痛み(顔を毛繕いする時間)と(右)冷たい刺激に対する痛み反応を評価した結果。神経損傷のみのマウス(黒)では、対照マウス(白色)に比べて痛みの行動が著しく増加しましたが、RAGE阻害薬を投与したマウス(灰色)では、これらの痛みの行動が有意に抑制されました。本図は雄マウスのデータですが、雌マウスにおいても同様の抑制効果が確認されています。(本研究成果の論文中の図を改変) ここまでで、RAGEの働きを弱めると痛みが抑制されることが分かりましたが、次に、この痛み予防効果の背景にあるメカニズムを解明するため、免疫細胞の活動を詳細に解析しました。まず、マウスの傷つけた神経の周辺を調べたところ、RAGE阻害薬を投与しなかったマウスでは、炎症を引き起こす主要な免疫細胞である「マクロファージ」が過剰に集まっていることが確認されました。しかし、RAGE阻害薬を投与したマウスでは、このマクロファージの集まりが劇的に抑制されていました(図2)。 図2:RAGE阻害薬による神経損傷部位でのマクロファージ集積の抑制効果 損傷した三叉神経の周囲に集まる免疫細胞「マクロファージ」の様子(白色部分)。対照マウス(左)と比較して、神経損傷のみのマウス(中央)ではマクロファージが過剰に集積し、強い炎症反応が起きています。一方、RAGE阻害薬を投与したマウス(右)では、このマクロファージの集積が大幅に抑制されていることが分かります。(本研究成果の論文中の図を改変) さらに、神経からの痛みの情報が脳に伝わる最初の中継地点である「脳幹(三叉神経脊髄路核尾側亜核)」に注目しました。すると、神経が傷ついたことに反応して、脳幹に存在する免疫細胞「ミクログリア」が活性化し、その細胞数が異常に増加していることが分かりました。これは痛みの信号が増幅され、慢性化する「中枢性感作」と呼ばれる現象の証拠です。驚くべきことに、末梢神経周辺に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化をも抑制していました(図3)。 図3:RAGE阻害薬による脳幹でのミクログリア活性化の抑制効果 痛みの情報が脳に伝わる中継地点「脳幹」における免疫細胞「ミクログリア」の様子(白色部分)。対照マウス(左)のミクログリアは活動が穏やかな「休止状態」ですが、神経損傷のみのマウス(中央)では、細胞が大きく形も変化した「活性化状態」になっています。末梢神経に投与したRAGE阻害薬は、この脳幹におけるミクログリアの活性化も強く抑制しました(右)。(本研究成果の論文中の図を改変) これらの結果から、 ①神経が傷ついた時に放出されたHMGB1がRAGEに結合し、 ②末梢神経でマクロファージによる過剰な炎症を引き起こし、 ③その情報が脳幹に伝達されてミクログリアを活性化させ、痛みを慢性化させる、 という一連のメカニズムが明らかになりました。 そして、神経損傷の直後にRAGEの働きを阻害することで、この負の連鎖を断ち切り、痛みの発症を未然に防ぐことができるという、全く新しい予防戦略の有効性が示されました。     今後の展開 今後は、ヒトでの臨床応用を目指し、安全性と有効性の検証を進めていきます。本研究で標的とした受容体「RAGE」は、アルツハイマー病など他の疾患の治療標的としても研究が進められており、それらの治療薬として開発された薬剤を応用することで、本予防法の早期実用化が期待されます 。また、本予防法は損傷した神経の周辺に薬剤を局所投与するため、全身性の副作用を低減できる可能性も秘めています。 本予防戦略は、歯科治療後の顔面痛だけでなく、様々な難治性疼痛へも展開できる可能性があるため、将来的にはより幅広い医療分野において、痛みの「治療」から「予防」へのパラダイムシフトを促すものと期待されます。     参考資料 掲載誌:Biochemical Pharmacology 論文題目:Preventive effect of RAGE antagonists on distal infraorbital nerve injury-induced pain behaviors of male and female mice 著者: Simeng Ma, Yoki Nakamura*, Takahiro Kochi, Suzuna Uemoto, Yume Miura, Zhaojing Wang, Kazue Hisaoka-Nakashima, Norimitsu Morioka* 掲載日:2025 年 12 月 (オンライン先行公開日:2025 年 8 月 14 日) DOI:10.1016/j.bcp.2025.117242 本研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   【プレスリリース】歯科治療後の顔面痛、原因物質をブロックして予防に成功ー痛くなる前に防ぐ、全く新しい治療戦略へー.pdf(1.03 MB) 掲載誌:Biochemical Pharmacology 研究者ガイドブック(中村 庸輝 助教)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 助教中村庸輝 Tel:082-257-5312 E-mail:nakayoki@hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学 教授森岡徳光 Tel:082-257-5310FAX:082-257-5314 E-mail:mnori@hiroshima-u.ac.jp

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    2025.03.26
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    大規模言語モデル(LLM)を活用した医学倫理教育の可能性 ―倫理的な行動の手本や相談役としての機能を検討―

    (Credit: Kanon Tanaka) 本研究成果のポイント 医学教育では、人的・財的資源の制約から、倫理教育が十分とは言えません。本研究では、この問題への対策として、医学倫理教育においてAIモデルの一種であるLLM(Large Language Models、大規模言語モデル)*1が有用な学習ツールとなる可能性を提示しました。 医学倫理を学ぶうえで、医療に必要なルールや原則に関する知識の獲得だけでなく、患者や医療現場ごとに生じる複雑な倫理的ジレンマに対応するための態度や徳を身につけることが重要です。本論文では、知識の獲得と、態度や徳を身につける教育の双方を取り入れたハイブリッドアプローチの必要性を指摘しました。 LLMに対して、医療倫理に特化した追加学習(ファインチューニング*2)を行うことで、医学倫理教育においてLLMを倫理的な手本や相談役として活用する可能性を提示しました。利用者とLLMとの反復的な対話を通じて利用者の意識やLLMの情報の偏り(バイアス)を減らし、より公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することができると考えられます。   概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附講座教授兼務、京都大学 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者、シンガポール国立大学客員教授)は、広島大学大学院人間社会科学研究科の岡本慎平 助教、板野誠 博士課程大学院生とともにLLMを活用した医学倫理教育の可能性を検討しました。 本研究成果は、2025年2月5日に学術誌「BMC Medical Education」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:AI-based medical ethics education: examining the potential of large language models as a tool for virtue cultivation 著者:Shimpei Okamoto1, Masanori Kataoka1,2, Makoto Itano1, Tsutomu Sawai1,2,3,4* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科 2. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 3. 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi) 4. Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore, Singapore. *: 責任著者 雑誌:BMC Medical Education URL:https://bmcmededuc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12909-025-06801-y DOI:https://doi.org/10.1186/s12909-025-06801-y   背景 現在の医学教育カリキュラムでは倫理教育が十分とは言い難く、医学生や研修医が臨床現場で倫理的に複雑な状況に直面した際、対応に苦慮することが報告されています。 このような問題への理想的な対処法として、専門的な教育を受けた倫理指導者の雇用や、医学教育カリキュラムの改善が求められます。しかし、人的・財的資源の制約から、こうした対処は困難であり、医学倫理教育の充実が進まない状況が続いています。 こうした背景を踏まえ、次善の策としてLLMを教育ツールとして活用することが考えられます。医療分野に特化した学習を行ったLLMに対し、対応に苦慮するケースの情報を入力することで、手本となりうる対応策や、患者ケアにおいて考慮すべき情報を得ることができます。 LLMを倫理的な手本や相談役として活用することで、人的・財的資源を抑えながら、道徳的知識や患者ケアに必要な姿勢の獲得を促す可能性があります。   研究成果の内容 本研究では、医学倫理教育のアプローチについて検討し(①)、LLMが倫理的な手本(②)や相談役(③)として有用な学習ツールとなる可能性を示しました。 また、医学教育におけるLLMの実用性を検討するために取り組むべき課題を整理しました(④)。   ① ハイブリッドアプローチの重要性 医学倫理教育においては、2つの教育アプローチが存在します。 原則主義的アプローチは、医療倫理の4原則*3のように、医療に必要なルールや原則に関する知識を獲得するという、認知的目標の達成を目的としています。 一方で、非原則主義的アプローチは、個別の患者が抱える状況を認識・判断し、倫理的価値に基づいて行動するための態度と徳を育み、身に着ける態度的目標の達成を目的としています。 医療の現場において、適切な倫理的意思決定を行うためには、2つのアプローチを組み合わせたハイブリッドアプローチを取り入れ、医療に必要なルールや原則に対する十分な知識と、患者ケアに不可欠な徳や態度を獲得する必要があります。   ② 倫理的な手本としてのLLM 私たちは、倫理的な手本となるような人物の行動を真似することによって、徳や態度を身に着けることができます。 同様に、歴史上の人物や架空のキャラクターなど、目の前に実在しない存在を手本として倫理的な原則を理解し、その行動を真似することで、徳や態度を身に着けることもあります。実際に、教育の現場では文学や映画などの作品を通して、複雑な倫理的ジレンマを理解したり、共感や道徳的態度を身に着けたりする試みがなされています。 目の前に存在しない人物や架空のキャラクターを真似することで徳や態度を身に着けることができるのであれば、私たちはLLMの示した回答やシナリオを通して倫理的行動の手本を認識し、それらを真似することで徳や態度を身に着けることが出来るかもしれません。   ③ 相談役としてのLLM LLMの回答は、あくまでも助言として活用されるべきであり、絶対に正しいものであるかのように扱うべきではありません。 LLMの提示した回答の結論だけでなく、その回答が導き出された過程や参照している情報源を検討し、どの部分が手本として参照するに値するか、値しないかを判断する必要があります。 また、ファインチューニングを行っていないLLMは、原則主義的な回答を行う傾向にあることが指摘されています。徳倫理やフェミニスト倫理など、他の考え方が示された場合に、初めてそうした考え方を反映した回答を出力することが確認されています。 原則主義的な考え方のみに基づいて教育を行うと、LLMの利用者が患者一人一人の状況に対応できない、不適切な考え方や行動を身に着けてしまう可能性があります。 そのため、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、より適切な回答を出力できるようファインチューニングを行って、LLMの情報を更新していく必要があります。   ④ 検証すべき課題 1. 原則主義的な回答を行う傾向があるのなら、どのように態度的目標を達成するのか? LLMによる原則主義的な回答の傾向は、ハイブリッドアプローチに組み込むことで、解消することが出来ます。利用者は、非原則主義的な観点からLLMの回答を批判的に検討することで、相手に対する共感や適切な態度について考えることができます。 特定のシナリオにおいて、人間の気づかない感情の動きをLLMが認識するという研究結果も示されていることから、LLMが活用できる場面を見極めながら教育の現場に組み込むことで、教師の負担を部分的に削減したり、新たな気付きを与えたりする可能性があります。   2. LLMの回答を、患者ケアの参考にする人はいるのか? LLMが共感や配慮といった複雑な感情を理解できないのではないかという理由から、LLMの回答をアドバイスとして取り入れたり、LLMが提供した手本となる行動の例を真似したりするに値しないのではないかという懐疑的な意見もあります。 しかし、「推論」に対する判断を行う課題においては、作成者が人間であっても、LLMであっても、アドバイスとして採用する際に影響は生じないという研究結果が示されています。 認知的要素である推論と、態度的要素である徳や態度では結果が異なる可能性もあるため、今後、実証的な実験によって、相談役としてのLLMの実用性を検討する必要があります。   3. 徳や感情を持っていないLLMが、倫理的な手本になりうるか? 文学作品や映画作品の多くは、作者と直接対話を行うことができない環境で鑑賞されています。物語の作者のことを知らずとも、物語のキャラクターを手本として徳を育み、身に着けることができるのであれば、LLMが感情の機微に欠けており、倫理的な態度や徳を有していないとしても、出力されたシナリオや回答を手本とすることができる可能性はあります。 倫理的手本としてのLLMの実用性は、作成者の情報や手本とする存在の実在など、様々な条件を考慮したうえで、教育的実験を通じて実証的に検証される必要があります。   4. 更新の作業が必要なら、医学教育の役に立たないのではないか? 人間と人間のコミュニケーションにおいても、世代間で価値観に相違が生じるなど、バイアスが表面化することがあります。たとえば、ワークライフバランスの取れた生活を求めるといった価値観は、世代間で異なった受け取られ方をするかもしれません。 このように、徳や価値観が時代や文化によって変化することを教師も認識しなければなりません。 LLMと人間の教師による教育を組み合わせることによって、学生と教師の対話、徳や価値観に対する批判的反省、相互学習の機会の場を促進することができるかもしれません。 LLMと利用者のバイアスを認識し、取り除くという更新の作業は、人的なリソースを必要としますが、最終的にはより公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することに繋がる可能性があります。   今後の展開 LLMを医学倫理教育で活用するためには、実用性を測定するための実証的な検証が必要です。 人間の教育者が割く時間の増加を抑えつつ、より高品質な教育を実現するため、LLMと教育者の協力関係の構築について、検討を進めることが望まれます。 より実用的な回答を出力するために、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、LLMのファインチューニングを進めていくことが求められます。   謝辞 本研究は、以下の支援により実施しました。   日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 若手研究 「経験的生命倫理学における方法論の構築とその応用」21K12908 (研究代表者:澤井努) 上廣倫理財団論文投稿助成[UEHIRO2023-0116]   参考資料 Ethical Exemplar in Medicine https://chatgpt.com/g/g-EjSMhG7W1-ethical-exemplar-in-medicine   用語解説 *1:LLM(Large Language Models、大規模言語モデル) ChatGPTに代表される生成AIモデルの1つで、膨大な文章データを元に学習を行い、人間の会話や文章から単語の出現確率をモデル化する技術。単語の並びから言語のルールや文脈を学習し、人間が自然だと思う文章を生成したり、文章表現を分析したり、文章の翻訳や要約をしたりすることに用いられる。   *2:ファインチューニング LLMに対する追加学習の1つ。事前学習を行ったLLMに対して、特定の課題や分野に特化した新たなデータを学習させるプロセス。 特定の分野のニーズに合わせてLLMをトレーニングできるため、より精度が高く、有用な情報を提供できるよう、カスタマイズすることができる。   *3:医療倫理の4原則 アメリカの倫理学者であるトム・ビーチャムとジェイムズ・チルドレスが提唱した4原則。自律性の尊重、無危害、善行、正義の4つからなる。 自律性の尊重:患者自身の決定や意思を大切にして、患者の行動を制限したり、干渉したりしないこと。 無危害:患者に危害を及ぼさないことや、今ある危害や危険を取り除き、予防すること。 善行:患者のために、患者の考える最善の善行を行うこと。 正義:患者を平等かつ公平に扱うこと。   報道発表資料(560.34 KB) 学術誌: BMC Medical Education 広島大学研究者ガイドブック (片岡 雅知 寄附講座准教授) 広島大学研究者ガイドブック (澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.01.19
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    【フェニックスセミナー2025まとめ】AI/DX研究の最前線

    概要 フェニックス協力会主催(広島大学AI・データイノベーション教育研究センター共催)にて、2026年1月19日に広島駅前コンベンションホールにて、フェニックスセミナー2025(研究シーズ発表会)を開催しました。   当日は、企業や研究者など70名ほどが参加し、若手研究者によるAI/DXの研究の最前線についての発表がありました。セミナー後は、懇親会も開催。直接研究者とコミュニケーションをとることで、研究とビジネスをつなげるきっかけの場となりました。   発表内容の詳細 信頼性工学 × 生成AI:Nバージョンプログラミングを再考する(鄭 俊俊)   プライバシーを守る次世代AIの実践と応用(連 卓涛)   モノの形の最適化(松島 慶)   情報科学×医学の融合研究(檜垣 徹)   生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用(古居 彬)   深層学習・ニューラルネットワークによる視覚表現学習(相澤 宏旭)   ウェーブレットに基づいた円滑化技術による寿命分析の改善に関する検討(呉 敬馳)     フェニックス協力会とは 「地域社会・国際社会との共存」を具現化する取組みとして、2010年11月、地域社会、特に地域産業界への更なる貢献を目的として設立。 150社ほどの企業・団体が所属し、広島大学オープンイノベーション本部産学連携部門(事務局)から、産学連携に関連する情報発信や、会員企業の皆さまにご活用いただけるさまざまなサービスなどを発信しています。

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    2025.10.23
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    脳生体ダイナミクスを捉える摂食嚥下機能リモート評価訓練システムの開発

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要嚥下は反射・随意運動と認知機能が複雑に関連して診断と訓練が行える施設が限られる。末梢交感神経を血管のかたさ(末梢血管剛性)で評価する独自のシーズ技術により、水蒸気のネブライザーでも喉頭感覚の評価と嚥下訓練が可能となり、水飲み動作と認知機能課題を組み合わせることによって嚥下障害の推定を可能とした。また、起立台と組み合わせて30度挙上という低負荷試験でも自律神経活動が評価でき、訓練に応用できることも確認した。   従来技術・競合技術との比較不顕性誤嚥と嚥下機能の評価は侵襲的で特殊な機器を使う嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が一般的。嚥下音だけのウエアラブル検査装置は不顕性誤嚥の評価が困難であり、咳テストは認知機能や自律神経は評価できない。   新技術の特徴 認知・運動・嚥下機能を自律神経活動の変化から非侵襲的に評価(見える化)できる 家庭や施設など専門家不在の状況でも、摂食・嚥下機能と認知機能を調べて訓練できる可能性がある ネブライザー(吸入器)と起立台(ヘッドアップチルト)の侵襲性を低減して対象者を拡大できる可能性がある   摂食嚥下障害の社会的位置づけ 70歳以上高齢者の4人に1人が嚥下困難を自覚 脳卒中患者の4~8割に嚥下障害あり 440万人の認知症の半数に摂食障害と嚥下障害 令和4年の誤嚥性肺炎の死亡5.6万人 肺炎の医療費:2327億円/年 嚥下障害は重症化して肺炎に至るまで気づきにくく、栄養状態を悪化させて虚弱状態(フレイル)を招き、筋力低下による転倒、認知症、うつ病などのリスクを増大させる 令和3年の介護保険要介護・支援677万人 脳を起点とした感覚と摂食・嚥下機能 不顕性誤嚥と誤嚥性肺炎従来技術とその問題点 末梢交感神経活動の非侵襲的評価法 末梢血管剛性で嚥下を見える化 自律神経活動の評価法従来技術とその問題点 自律神経活動の一般的な評価方法にヘッドアップチルト試験がある。 頭側を60~70度挙上させると血液が下肢に移動して血圧が下がる。脳血流を維持するために交感神経が働いて脈拍が上がり、末梢血管が収縮して血圧を維持しようとする。この現象を利用して交感神経活動を評価するが、通常は心拍変動で評価する。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 脳卒中患者では起立性低血圧による失神や脳梗塞再発リスクが高いため、検査困難なことが多い。 挙上角度が30度であれば、起立性低血圧のリスクは低く、ほぼ大部分の患者に行うことができるが、心拍の変動がほとんど抽出できないことから自律神経活動の評価は難しい。 末梢血管剛性による自律神経活動の評価 30度ヘッドアップチルト:患者と健常者の比較 患者16名(脳疾患等)に対して30°ヘッドアップチルト試験を行い、 健常者21名と比較   脳疾患などの患者に対して末梢血管剛性を用いると30°挙上の低負荷ヘッドアップチルト試験で自律神経(末梢交感神経)活動の評価ができる 30度ヘッドアップチルト:嚥下障害との関連性 蒸留水の吸入で喉頭感覚の見える化 蒸留水吸入で喉頭感覚の見える化と訓練 研究の全体像 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術の問題点であった嚥下に関連する感覚認識の客観的な評価が、末梢血管剛性を用いることで可能となった。 従来は不顕性誤嚥を嚥下内視鏡検査や刺激物の吸入で咳を誘発して喉頭感覚を調べる方法に限られていたが、末梢血管剛性によって低侵襲の蒸留水の吸入で評価・訓練できる。 末梢血管剛性によって、低負荷の30度ヘッドアップチルトで交感神経活動が評価・訓練できる。 本技術の適用により、慢性的なストレス社会で増加する心筋梗塞、うつ病などの原因となり、糖尿病やパーキンソン病にも併発しやすい自律神経失調症状を、誰でも気軽にチェック出来るようになることが期待される。   想定される用途 外来や入院で摂食・嚥下障害に対して評価と訓練をする時に使用。 入院してリハビリを行って何とか飲み込めるようになった嚥下機能を自宅や施設で維持したい。 嚥下機能や認知機能が気になって、自宅や施設で調べて、少し訓練もしたい時。   実用化に向けた課題 現在、ヘッドアップチルト試験あるいは嚥下機能検査で末梢血管剛性データを同時取得が可能なところまで開発済み。しかし、摂食嚥下機能・脳活動と末梢交感神経活動との関連性を明らかにする点と末梢血管剛性の計測装置の簡素化が未解決である。 今後、嚥下障害患者の脳病変・高次脳機能データを取得し、末梢血管剛性との関連性解析を行う。 実用化に向けて、末梢血管剛性の簡素化に向けた技術を確立する必要もあり。   社会実装への道筋 企業への期待 未解決の計測装置の簡素化については、末梢血管剛性の推定アルゴリズム、連続血圧波形の計測システムの修正により克服できると考えている。 ネブライザー、チルトベッド(起立台)、嚥下障害検査・訓練の技術を持つ、企業との共同研究を希望。 また、嚥下障害関連製品を開発中の企業、自律神経・ストレス分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。   企業への貢献、PRポイント 本技術は摂食・嚥下障害が、末梢血管剛性と蒸留水吸入を組み合わせることで、施設・一般家庭でも簡単にできる、従来にない製品開発の可能性があります。 30度ヘッドアップチルトでの自律神経評価は、多くの病院・クリニックでも行えて汎用性があります。 本技術は自律神経活動の異常が関連する多くの疾患やストレ ス関連分野など、応用範囲が広いです。 人の「脳活動」「こころ」の変化を見える化できることから、 スマホ社会の新たなアプローチになる可能性があります。   本技術に関する知的財産権 発明の名称 :嚥下能力評価装置、嚥下能力評価装置の作動方法及びプログラム 出願番号 :特願2025-077839 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :濱聖司、辻敏夫、山脇成人   産学連携の経歴 2社と各々1年ずつ共同研究実施 平成24年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業4社 平成25年度 新産業創出研究会 公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター 研究会参加企業5社 2021年度 JST研究成果展開事業A-STEPトライアウトタイプに採択 2022年-2025年 JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同<育成型> 10年以上にわたり、2社と共同研究実施   研究者濱聖司 脳・こころ・感性科学研究センター 特任准教授

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    2025.11.04
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    ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に関する意識調査を実施 7割以上が包括同意に慎重

      本研究成果のポイント 回答者の73%が包括同意に慎重 日本人の20代から60代の男女326人を対象にオンライン調査を実施した結果、脳オルガノイド(多能性幹細胞*1を培養して作製される立体的な脳組織)が作成される可能性がある場合、「包括同意」(提供細胞の幅広い研究利用への同意を取る方法)を採用する研究機関に対し、36%(121人)が「提供しない」、37%(116人)が「場合による」と回答。 十分な説明・用途の決定権・研究者の信頼性が重要 「提供しない」「場合による」の選択理由として、回答者の多くが、研究内容や研究目的への説明、研究用途の決定権、研究者や研究機関の信頼性を要求。現状の日本では研究プロジェクト毎に個別に研究内容を説明したうえでの同意取得が推奨される。 適切なサイエンスコミュニケーション*2の重要性を指摘 調査結果から、ヒト脳オルガノイド*3研究に関する平易で明瞭な説明に加え、基礎研究と医療応用との関連を示すサイエンスコミュニケーションが求められることを指摘。     概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附座教授兼務、シンガポール国立大学客員教授)は、東京科学大学工学院の小池真由助教とともに、ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に対する日本人の意識を調査するため、オンラインでアンケート調査を実施しました。日本人326件の回答のうち、提供細胞を幅広い医学・科学研究に利用することを可能にする包括同意に対して否定的・慎重な態度を示すものが73%を占めることが明らかになりました。 本研究成果は、2025年8月22日に学術誌「Frontiers in Genetics」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:Japanese Attitudes Toward Cell Donation in Human Brain Organoid Research: Many Oppose Broad Consent 著者:Masanori Kataoka1, Mayu Koike2, Tsutomu Sawai1,3,4,* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 2. 東京科学大学工学院 3. 広島大学大学院人間社会科学研究科 4. Centre for Biomedical Ethics, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore.*: 責任著者 雑誌:Frontiers in Genetics URL: https://www.frontiersin.org/journals/genetics/articles/10.3389/fgene.2025.1606923 DOI:10.3389/fgene.2025.1606923     背景 ヒトの脳の発生過程の解明や、脳に関連する疾患の解明、創薬・治療法の開発を目的として、 ヒト脳オルガノイド研究が急速に進展しています。ヒト脳オルガノイドとはヒトの多能性幹細胞を培養して作製される3次元的な脳組織であり、その作製のためには細胞の提供が不可欠です。 細胞提供の場面では、日々の研究を円滑に進めるため、多くの研究機関が「包括同意」方式を採用しています。そのため、この方式で得られた細胞が、ヒト脳オルガノイドの作製に用いられる可能性があります。 ヒト脳オルガノイド研究の領域は、ヒト脳オルガノイドを体外で作製するだけにとどまらず、動物への移植、機械への接続など多岐にわたります。こうした研究用途に対して、道徳的な抵抗をおぼえる人々が一定数いることがこれまでの研究から知られており、包括同意に基づいて提供された細胞からヒト脳オルガノイドを作製することは、細胞提供者の道徳感に反してしまう可能性が指摘されてきました。 ヒト脳オルガノイド研究において、細胞提供者の望まないかたちで細胞が利用される可能性があるのであれば、より望ましい細胞提供の手法や同意取得のモデルを確立することが早急に取り組むべき課題です。このような背景から、本研究では日本人を対象とした社会調査を実施し、適切な同意のあり方を検討しました。     —研究成果の内容—   研究手法 2022年12月8日に、日本人を対象に「脳オルガノイドに関する意識調査」というオンライン調査を実施し、20代から60代の男女326人(女性126人・男性200人)から有効回答を得ました。 回答者には、ヒト脳オルガノイド研究の概要を説明した上で、ヒト脳オルガノイドについて事前に知っていたかどうかを尋ねました。 自分の細胞をヒト脳オルガノイド研究に対して提供する意思があるか、また、どのような研究目的であれば提供する意思があるかを尋ねました。 包括同意の概要を説明した上で、提供した細胞がヒト脳オルガノイドの作製に利用される可能性がある場合に、包括同意を採用する研究機関に細胞を提供する意思があるかを尋ねました。加えて、自由記述で回答の理由を記載する機会を設けました。     結果 ・参加者の91%はヒト脳オルガノイドに関する事前知識なし。 ・ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供意思を示した参加者は76%。 ・医療応用が目的の場合は60-70%程度の参加者が提供意思を示すのに対し、基礎研究が目的の場合は42%まで低下。 ・包括同意を採用する研究機関への細胞提供意思を示した参加者は52%。 表1:包括同意採用機関に細胞提供の「意思なし」「場合による」を選択した理由(自由記述) 考察 細胞がヒト脳オルガノイド研究に用いられると明確に説明されている場合、多くの参加者が細胞を提供する意思を表明しました。ただし、基礎研究に対しては医療目的の研究よりも提供意思を示した参加者が少ないという傾向が見られました。このようなギャップを埋めるためには、医療応用の基盤として基礎研究が不可欠であることを伝えるサイエンスコミュニケーションが推奨されます。 ヒト脳オルガノイドが作製される可能性を踏まえると、包括同意を採用する研究機関への細胞提供については、「意思なし」・「場合による」と回答した参加者が73%を占めました。このように慎重な態度をとる人が多くいることを踏まえると、包括同意を取得した細胞からヒト脳オルガノイドを作製することが、細胞提供者の意思に反することになってしまう可能性があります。 慎重な態度の理由として、研究内容に関する説明を求める声や、研究目的を限定したいという声が挙げられました。これらを尊重する方法として、プロジェクト毎に研究内容を個別に説明したうえで同意を取得するという方法が推奨されます。 包括同意を維持する場合も、本調査の参加者の間でのヒト脳オルガノイドの認知度が10%程度であったことを踏まえると、ヒト脳オルガノイド研究に関する平易で明瞭な説明や、提供細胞がヒト脳オルガノイド作製に使用される可能性を事前に明示することが推奨されます。     今後の展開 今回の調査には、参加者の偏りや、対象群の設定など、いくつかの限界があります。責任あるヒト脳オルガノイド研究をさらに支援するため、質的な調査も含め、より多様な人々の意見を明らかにする調査が重要になります。 本調査は、研究者・研究機関への不信が細胞提供に対して慎重となる理由の一部であることを示しました。本研究のような社会調査の成果が、研究への理解や信頼の構築を支援するサイエンスコミュニケーション戦略に活用されることが期待されます。 細胞提供は個人の同意に基づいて実施されるため、個人の道徳観を尊重することが非常に重要です。そのため、国や地域、集団の文化や慣行に配慮した同意の仕組みを構築する必要があります。今回のような調査を多様な国・地域・集団で実施し、同意の仕組みに反映していくことが求められます。     謝辞 本調査にご協力いただいた参加者のみなさまに感謝いたします。 また、本研究は以下の支援により実施しました。     本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 基盤研究(B) 「現代社会におけるヒト発生研究の倫理基盤の構築」[24K00039] (代表者:澤井努) 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 学術変革領域研究(B) 「ヒト培養技術を用いた「個人複製」の倫理学」[24H00813] (代表者:澤井努) 日本医療研究開発機構(AMED) 脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト) 「ヒト脳オルガノイド研究に伴う倫理的・法的・社会的課題に関する研究」[JP23wm0425021/JP24wm0425021] (代表者:澤井努) 日本学術振興会 (JSPS)・文部科学省科学研究費基金若手研究(21K12908) 科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX) [JPMJRS22J4] 公益財団法人上廣倫理財団 [UEHIRO2023-0122].   用語解説 *1:多能性幹細胞 自己増殖能(無限に増殖する能力)と多分化能(体を構成する全ての細胞に分化できる能力)を持つ 細胞。ES細胞(精子と卵子の受精後5〜7 日が経過した胚盤胞から内部細胞塊を取り出して人工 的に作られる)やiPS細胞(皮膚や血液の細胞に複数の遺伝子を導入して人工的に作られる)がある。   *2:ヒト脳オルガノイド ヒトの多能性幹細胞を培養して作製される立体的な脳組織。   *3:「サイエンスコミュニケーション」 科学者や専門家が科学の知識を人々(非専門家)にわかりやすく伝えたり、科学技術をめぐる課題を人々に伝えたりすることで、専門家と非専門家による双方向の対話を生み出す活動のこと。   報道発表資料.pdf(498.51 KB) 掲載雑誌:Frontiers in Genetics 研究者ガイドブック(澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan@hiroshima-u.ac.jp

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    2022.07.13
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    目的の遺伝子を自在に改変するゲノム編集技術

    概要 発生生物学が専門の山本教授は、ウニの研究を行う際、胚の中の遺伝子の働きを光の強さで見ることができれば、正確にその遺伝子の働きが分かると考えた。そうした融合的な研究を進めるためには、光る遺伝子を狙ったところに入れる必要があり、ゲノム編集が必要不可欠であった。 山本教授の研究室では、いち早くゲノム編集技術を導入。他の研究グループは企業から購入する形での導入であったのに対し、2008年から人工DNA切断酵素 第一世代と呼ばれる「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)」の作製システムを立ち上げ、2010年には最初の論文を発表。 以来、同研究グループでは、ウニの研究を続ける一方で、ゲノム編集技術そのものの研究にも挑み続け、さまざまな独自技術の開発に成功。発表された研究成果は主に次のようなものである(以下はごく一部。カッコ内は発表時期)。 高効率なゲノム編集ツール「プラチナTALEN」の開発とその作成システムの開発に成功(2013年11月) ゲノム編集技術を用いた簡便な遺伝子挿入法「PITCh法」を開発(2015年12月) ゲノム編集技術を改良し、狙い通りの改変結果が得られる確率を高める新技術「LoADシステム」を開発(2018年8月) ゲノム編集技術を応用し、遺伝子を高度に活性化する新技術「TREEシステム」を開発(2018年10月)   詳しい研究内容は、下記リンクをご覧ください。 広島大学大学院 統合生命科学研究科 教員インタビューのページへ進みます。 研究を語る | 分子遺伝学研究室山本卓教授 (hiroshima-u.ac.jp)   本研究に興味のある方は、お問い合わせください。   研究者 山本卓(Yamamoto Takashi) 広島大学 ゲノム編集イノベーションセンター 教授

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    2021.02.04
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    動いて治す~痛みや障害と基本的動作能力の関係を科学的に解明する~

    目標・狙い 身体運動が体の痛みや障害の緩和に及ぼす効果とその限界を探る 医療、介護、健康に関する科学と社会の橋渡しとなる学際的研究を推進する 科学的根拠に基づく健康増進や障害予防の方法論を確立し、社会実装を目指す   概要     ①膝痛に対する効果的なエクササイズプログラムの開発 膝痛は中高齢者の歩行やADLを悩ませる症状の一つであり、体重増加や運動不足により発生することも多い。 この研究では、自分自身で膝痛を治すエクササイズの効果検証に取り組んでいる。 筋力トレーニングや有酸素運動などのエクササイズは、膝痛の緩和が期待できる方法の一つである。そのため、膝痛が悪化する前から実施されることが望ましい。しかしながら、全ての膝痛者にエクササイズが有効であるとは限らない。また、有効だとしてもエクササイズの継続は容易でない。 このような背景を踏まえ、病院及び地域をフィールドに保存療法や運動教室(座学及びエクササイズ)を実施し、そこで計測したデータをもとに、エクササイズの効果や、効果のある人・ない人の違いを科学的な側面から分析してきた。 また、ストレスや不満も膝痛の要因の一つであることから、身体的なアプローチに加え、心理的な側面に対するアプローチについても取り組んでいる。現在は、痛みに対する認識や考え方を修正する「痛み教育」を実施し、膝痛が緩和した人と緩和しなかった人の特徴の違いを調べている。 将来的には、アプリを使った痛み教育コンテンツの開発、最適なエクササイズの選択を可能にするアルゴリズムの作成、人工筋を使ったウォーキングエクササイズ、無痛感覚を錯覚させるVRトレーニングを扱う予定である。   ②マーカーレスモーションキャプチャを使った高齢者の健康的な歩き方 人間にとって歩行は移動するための重要な手段であり、歩行の障害はADL(日常生活活動)の悪化やQOL(生活の質)の低下を招く。しかし、加齢による筋機能や関節機能の低下により、歩行の際に痛みが発生したり、転倒する高齢者は多い。 この研究では、これまでに様々な年齢の人の歩行計測を行い、年齢ごとの歩き方の違い、痛みが発生しやすい歩き方とそうでない歩き方、転びやすい歩き方とそうでない歩き方の違いについて調べている。 従来、歩行評価は肉眼観察やパフォーマンステスト(例:5m歩行)を参考にして行っていたが、本研究では、赤外線カメラ(※)を使った3Dマーカレスモーションキャプチャシステムを用いたデータに基づいた科学的な歩行評価を行う。 また、集めたデータをもとに、歩行の速度、歩幅、左右差、変動性から歩行年齢を算出し、地域の歩行教室などで活用している。 今後さらに歩行計測のデータベースを充実させ、将来的に痛みが出やすい歩き方や、転倒しやすい歩き方について導き出す。併せて、現在の歩き方から将来の膝痛発生リスク、転倒発生リスクを予測するシステムの開発を目指す。 (※)株式会社システムフレンドとの共同研究で精度を検証している。歩行中の関節角度等を手軽に計測できる。   連携したい企業 シューズメーカー トレーニング器具メーカー 美容・健康器具メーカー ➡アイデア出し、商品の効果検証・育成のサポート等   地方自治体 フィットネスクラブ 高齢者を対象とした福祉施設 ➡科学的根拠に基づいた、オフライン・オンラインエクササイズプログラムの提供等   福祉向けのシステム開発企業 ➡人工知能(AI)をつかった歩行解析、身体運動の改善を「見える化」するための動画解析、高齢者の運動継続を支援するアプリの共同開発   本研究の優位性 データに基づき健康によい体の動かし方を科学的に解明できる 病院や地域とのつながりがあるため、実証フィールドを有している エクササイズに関する商品の信頼性、妥当性、有効性が検証できる   論文 膝痛や変形性膝関節症とエクササイズに関する論文 Tanaka R, Hirohama K, Kurashige Y, Mito K, Miyamoto S, Masuda R, Morita T, Yokota S, Sato S. Prediction models considering psychological factors to identify pain relief in conservative treatment of people with knee osteoarthritis: A multicenter, prospective cohort study. Journal of Orthopaedic Science 25:618-626 2020 Tanaka R, Hayashizaki T, Taniguchi R, Kobayashi J, Umehara T. Effect of an intensive functional rehabilitation program on the recovery of activities of daily living after total knee arthroplasty: A multicenter, randomized, controlled trial. Journal of Orthopaedic Science 25:285-290 2020 Tanaka R, Hirohama K, Ozawa J. Can Muscle Weakness and Disability Influence the Relationship between Pain Catastrophizing and Pain Worsening in Patients with Knee Osteoarthritis? A Cross-sectional Study. Brazilian Journal of Physical Therapy 23:266-272 2019 Tanaka R, Umehara T, Kawabata Y, Sakuda T. Effect of Continuous Compression Stimulation on Pressure-Pain Threshold and Muscle Spasms in Older Adults with Knee Osteoarthritis: A Randomized Trial. Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics 41:315-322 2018 Tanaka R, Ozawa J, Kito N, Moriyama H. Effects of exercise therapy on walking ability in individuals with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Clinical Rehabilitation 30(1) 36-52 2016 Tanaka R, Ozawa J, Kito N, Moriyama H. Does exercise therapy improve the health-related quality of life of people with knee osteoarthritis? A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Physical Therapy Science 27(10) 3309-3314 2015 Tanaka R, Ozawa J, Kito N, Moriyama H. Effect of the Frequency and Duration of Land-based Therapeutic Exercise on Pain Relief for People with Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Journal of Physical Therapy Science 26(7) 969-975 2014 Tanaka R, Ozawa J, Kito N, Moriyama H. Efficacy of strengthening or aerobic exercise on pain relief in people with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clinical Rehabilitation 27(12) 1059-1071 2013   マーカーレスモーションキャプチャの精度検証に関する論文 Tamura H, Tanaka R, Kawanishi H. Reliability of a markerless motion capture system to measure the trunk, hip and knee angle during walking on a flatland and a treadmill. Journal of Biomechanics 109:109929 2020 Tanaka R, Ishikawa Y, Yamasaki T, Diez, A. Accuracy of classifying the movement strategy in the functional reach test using a markerless motion capture system. Journal of Medical Engineering and Technology 43:133-138 2019 Tanaka R, Ishii Y, Yamasaki T, Kawanishi H. Measurement of the total body center of gravity during sit-to-stand motion using a markerless motion capture system. Medical Engineering & Physics 66:91-95 2019 Tanaka R, Takimoto H, Yamasaki T, Higashi A. Validity of time series kinematical data as measured by a markerless motion capture system on a flatland for gait assessment. Journal of Biomechanics. 11:71:281-285 2018 Tanaka R, Kubota T, Yamasaki T, Higashi A. Validity of the total body center of gravity during gait using a markerless motion capture system. Journal of Medical Engineering and Technology 30:1-7 2018     外部資金の獲得状況 2020年 科学研究費助成事業基盤C(研究代表) 共同研究(研究代表)、2件 受託研究(研究代表)、1件 2019年 共同研究(研究代表)、1件 受託研究(研究代表)、1件 2018年 中冨健康科学振興財団研究助成(研究代表) 三井住友海上福祉財団研究助成(研究代表) 共同研究(研究代表)、1件 2017年 共同研究(研究代表)、1件 2016年 共同研究(研究代表)、1件 2015年 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究助成(研究代表) 共同研究(研究代表)、1件 2014年 科学研究費助成事業若手B(研究代表)   研究者からのメッセージ 理学療法士として20年以上の臨床経験があり、臨床研究、共同研究、受託研究の実績も豊富です。エクササイズの効果を最大限に引き出すツールの共同開発や、既存製品の応用やアレンジに関心があります。また、ウェアラブルデバイスやAIなどを使った身体運動の「見える化」にも興味があります。自治体、セラピスト、トレーナー、運動指導者が抱える現場の問題の解決につながる産官学連携を期待しています。   研究者 田中亮(TANAKA RYO) 広島大学 大学院人間社会科学研究科 教授

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2020.10.21
    • 環境エネルギー
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    低コストで大量繁殖・飼育ができる新規実験動物

    目標・狙い “カエル”はヒトと同じ脊椎動物に属する両生類の代表として、古くから実験に用いられてきた。現在では大量飼育が容易なツメガエルが主に用いられてきた。 実験動物にはそれぞれの特徴や性質があるので、カエル類を使った実験や研究では不十分な場合もある。 我々は、カエルと同じ両生類に属するイモリを実験動物として整備することで、両生類を用いた実験システムの充実化や利便性の向上を目指している。   想定される市場・製品・産業分野 カエルと同じ両生類の実験動物材料として、以下の分野における活用 農薬業界 医薬品開発 毒性・環境評価   概要 脊椎動物であるイモリは実験動物としての有用性は認められていたものの、従来の種は大量繁殖が不可能であり、利便性が低い動物とされていた。 本研究では、年間数千個もの卵を産卵するイベリアトゲイモリに着目。ホルモン処理による一年中の産卵や人工授精法を確立した。 イベリアトゲイモリは文献的には性成熟に1年半以上かかるとされていたが、飼育条件(給餌、水温など)を変えることにより生育速度を早め、雄は6ヶ月、雌は9ヶ月までに短縮すると同時に、大量のイモリを安定的に飼育する技術を開発した。 その結果、カエル類を補完あるいは代替する実験動物としての利用が可能となった。   本研究の優位性 有尾両生類(イモリやサンショウウオ類)において、低コストで大量繁殖・飼育ができる唯一の実験動物。 ゲノム編集技術との相性が良いため、実験目的に合わせた遺伝子の改変が可能。   論文 Matsunami et al. “A comprehensive reference transcriptome resource for the Iberian ribbed newt Pleurodeles waltl, an emerging model for developmental and regeneration biology.” DNA Res. (2019) 26:217-229. doi: 10.1093/dnares/dsz003.PMID: 31006799 Suzuki et al. “Cas9 ribonucleoprotein complex allows direct and rapid analysis of coding and noncoding regions of target genes in Pleurodeles waltl development and regeneration.” Dev Biol. (2018) 443:127-136. doi: 10.1016/j.ydbio.2018.09.008 Hayashi et al. “Molecular genetic system for regenerative studies using newts.” Dev Growth Differ. (2013) 55:229-36. doi: 10.1111/dgd.12019   外部資金の獲得状況 住友財団基礎科学研究助成 内藤記念科学奨励金・助成金 科研費2019〜2021年度基盤研究(C)(代表) 科研費2019〜2021年度基盤研究(C)(分担)他   研究者からのメッセージ イベリアトゲイモリを安定的に飼育する技術の開発により、カエル類を補完あるいは代替する実験動物としての利用が可能となりました。イベリアトゲイモリを介した研究にご興味のある企業の方は是非一度ご相談ください。   研究者 林利憲(HAYASHI TOSHINORI) 広島大学 両生類研究センター 教授

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