• HOME
  • 研究成果紹介
  • 産学連携スキーム
  • センター・拠点
  • 組織紹介
  • EN
  • JP

研究成果紹介

研究成果を検索いただけます

※教員の職名・所属等は記事公開時点の情報であり、最新情報とは異なる場合があります。

Category

─ 研究成果をカテゴリー別に集約 ─
  • 環境エネルギー
  • 気候変動/エネルギー/GX
  • 自然共生/ネイチャーポジティブ
  • 循環経済
  • 食料/農林水産業
  • 防災
  • 介護/福祉
  • デジタル/AI
  • モビリティ
  • インフラ
  • フュージョン
  • 情報通信
  • 宇宙
  • 量子
  • 半導体
  • 素材
  • バイオエコノミー
  • 資源
  • 海洋
  • 医療/ヘルスケア
  • 教育/人材育成
  • 健康/スポーツ
  • 経営/組織運営/デザイン
  • 融合領域

キーワード検索

─ 研究成果をキーワードで探す ─
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    寒さに耐える冬眠動物の筋幹細胞 ~再生能力を意図的に抑える「省エネ戦略」~

    本研究成果のポイント 冬眠動物は、極端な体温低下と長期間の不活動を経験するにもかかわらず、筋肉の衰えを驚くほど防いでいます。本研究では、冬眠動物の“筋肉が衰えない仕組み”の一端が、「組織幹細胞を生かしたまま、再生を抑える」というエネルギー節約戦略にある可能性を示しました。   概要 ハムスターやクマなどの冬眠動物では、骨格筋の幹細胞(サテライト細胞)が極端な低温下でも死なずに生存できることを発見 その低温耐性機構は、フェロトーシス(鉄依存性細胞死)を抑える細胞内の抗酸化システムにより成立 しかし生存した細胞は、筋形成に必要な「活性化・分化」プログラムを意図的に抑制しており、増殖能力が低温下では大きく低下 実際にハムスターでの筋損傷モデルでも、冬眠中は筋再生が著しく遅延 冬眠動物は「細胞死は防ぐが、エネルギー消費の大きい炎症・再生反応は抑える」という、エネルギー節約型の“冬眠モード”を幹細胞レベルで備えていることが明らかに   広島大学大学院 医系科学研究科 生理機能情報科学の宮﨑充功准教授らの研究グループは、福山大学薬学部・渡邊准教授、北海道大学大学院獣医学研究院・下鶴准教授、北里大学理学部・塚本助教、北海道大学低温科学研究所・山口教授らとの共同研究により、冬眠する哺乳類が、極端な低温環境でも筋肉の幹細胞(サテライト細胞)を死なせず保持する一方、筋形成に関わる遺伝子群の働きを大幅に抑制し、あえて再生を遅らせる仕組みを解明しました。 本研究成果は、米国実験生物学会連合の学術誌The FASEB Journal に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   掲載雑誌: The FASEB Journal, 2025; 39:e71297 URL: https://doi.org/10.1096/fj.202502651R 題目: Cold-induced suppression of myogenesis in skeletal muscle stem cells contributes to delayed muscle regeneration during hibernation 著者: Tatsuya Miyaji, Ryuichi Kasuya, Mayuko Monden, Yutaka Tamura, Michito Shimozuru, Toshio Tsubota, Daisuke Tsukamoto, Guangyuan Li, Shota Kawano, Yuri Watanabe, Yoshifumi Yamaguchi, Masatomo Watanabe, and Mitsunori Miyazaki* *Corresponding author (責任著者) doi: 10.1096/fj.202502651R   背景 一般に、骨格筋は長期間使われないと萎縮し、筋肉を形成するための幹細胞の働きも弱まるため、冬眠によりほとんど動かない期間が続くと、通常なら筋肉が衰えると考えられます。しかし冬眠動物では、数か月におよぶ極度の不活動と低体温にもかかわらず、筋肉量がほとんど失われません。この理由はこれまでも研究されてきましたが、明確な答えは出ていませんでした。 本研究は、冬眠動物の筋肉が衰えない背景に「細胞死を防ぎながら再生は抑制する」という、冬眠期特有のエネルギー節約戦略が存在することを、世界で初めて幹細胞レベルで示しました。   研究内容と成果 1. 冬眠動物の筋幹細胞は、極端な低温ストレス下でも死なない 研究チームはまず、冬眠動物のサテライト細胞※1が低温ストレスに対して著しい抵抗性を示すことを発見しました。冬眠する動物(シリアンハムスター、シマリス、ツキノワグマ等)と冬眠しない動物(マウス、ラット等)の細胞をそれぞれ4℃の低温に24~48時間さらしたところ、冬眠しない動物の細胞は大半が死滅するのに対し、冬眠する哺乳類の筋肉から得た細胞はほぼ死なずに生存しました。解析の結果、冬眠動物の細胞では、鉄依存性細胞死(フェロトーシス)※2を抑える抗酸化システムが成立しており、これが極端な低温下でも細胞死を防ぐ鍵であることが分かりました。 図1|冬眠動物の筋幹細胞は極端な低温下でも死なずに生き残る マウスやラットなど冬眠しない動物では、4℃の低温にさらすと筋幹細胞の多くが死んでしまいます(赤色:死んだ細胞)。一方、シリアンハムスター、シマリス、ツキノワグマといった冬眠動物では、同じ低温条件でも細胞がほとんど死なずに生き残ります。右下のグラフは、低温条件下における48時間後の細胞死の割合を示しており、冬眠動物の細胞が「細胞レベルで寒さに強い」ことが分かります。   2. 低温下で生存した筋幹細胞は「活性化できない = 筋再生スイッチが切られる」 さらに、低温環境を生き延びた細胞のふるまいを詳しく調べたところ、筋肉の形成に必要な MyoD※3 や Myogenin※4 などの遺伝子群が大きく抑制されており、筋肉の組織幹細胞が“生存するが再生は遅らせる”という特殊な待機状態にあることが明らかになりました。これは、冬眠動物のサテライト細胞が、低温ストレス下では再生スイッチを積極的にオフにすることで、状態を維持していることを示しています。 図2|低温にさらされたハムスター筋幹細胞では、筋形成に関わる遺伝子だけがまとまって弱まる   左図は、ハムスターの筋幹細胞を4℃に冷却した際の遺伝子発現を網羅的に解析した結果です。緑色の点は、発現量が統計学的に有意に“減少した”遺伝子を示し、逆に“増加した”遺伝子は1つも見られませんでした。右図は、それら発現が減少した遺伝子の特徴を調べたGene Ontology※5解析の結果で、筋肉の形成や構造維持に関わる遺伝子群が特に大きく抑制されていることが分かります。これらの結果は、低温下で生存した細胞が、筋形成・再生を開始するための遺伝子プログラムを意図的に落としていることを示しています。   3. 冬眠期のハムスターでは、実際に筋再生が遅延 冬眠期間のハムスターは、体温を周期的に大きく下げる「深冬眠」※6と体温が常温に戻る「中途覚醒」※7を繰り返します。この状態で筋肉が傷つくと、通常であれば見られるはずの再生マーカー eMyHC※8 の発現がほとんど確認されず(下図右下)、再生途中の小さな筋線維も形成されません(右上)。さらに、再生の初期に重要なサテライト細胞の活性化や免疫細胞(マクロファージ※9)の浸潤も大幅に抑えられていました。これらの結果は、冬眠中の生体がエネルギーを節約するため、炎症反応や再生反応といった代謝負荷の高いプロセスを意図的に遅らせている、つまり、省エネモードに入っていることを示しています。 図3|冬眠中のハムスターでは筋再生がほとんど進まない   冬眠期のハムスターは体温低下(深冬眠)と復温(中途覚醒)を繰り返します。この状態で筋損傷を起こすと、再生マーカー eMyHC の発現がほとんど見られず、サテライト細胞の活性化や免疫細胞の浸潤も弱く、筋再生が大きく遅れることが分かります。   本研究の意義と今後の展開 本研究は、冬眠動物が「筋肉の幹細胞を死なせずに保持しつつ、再生は適温に戻るまで待機させる」という高度な省エネ戦略を備えていることを明らかにした点で重要です。これらの知見は将来的に、臓器や細胞の低温保存技術の高度化、長期不活動に伴う筋萎縮予防、さらには人工的な冬眠・低代謝医療の開発など、ヒト医療への応用可能性を広げるものと期待されます。   現在、冬眠中に生じる筋再生抑制がどのような分子機構で制御されているのか、特にエピジェネティクスや神経—筋連関などの側面はいまだ明らかになっていません。研究チームは今後、これらの分子機構の解明を進め、冬眠状態を人工的に誘導・制御しうる基盤的知見の確立を目指しています。   用語解説 ※1 サテライト細胞(筋幹細胞) 骨格筋に存在する「筋肉の幹細胞」。普段は休んでいるが、運動やけがが起こると活性化し、筋肉を修復・再生する役割を持つ。   ※2 フェロトーシス(鉄依存性細胞死) 細胞内の鉄が引き起こす「脂質の酸化」により生じる特殊な細胞死の一種。低温ストレスによる細胞死はフェロトーシスを介して起こる。   ※3 MyoD(マイオディー) 筋幹細胞が「筋形成・筋再生を始める」ときにスイッチとなる転写因子。活性化すると筋肉に分化する方向へ進む。低温では発現が抑えられる。   ※4 Myogenin(マイオジェニン) 筋幹細胞が筋細胞として成熟していく過程で重要となる転写因子。筋再生の“後半”を進める役割がある。   ※5 Gene Ontology(遺伝子オントロジー解析) 膨大な遺伝子の機能を「どんな役割をしているか」で分類し、特定の条件下でどの機能の遺伝子が変化したかを調べる手法。   ※6 深冬眠(Deep Torpor) 小型の冬眠動物が体温を大きく下げ、代謝を極端に落とした状態。体温が数℃まで下がることもある。クマなど大型の冬眠動物の場合、代謝低下は認められるものの、小型動物ほどの極端な体温低下は起こらない。   ※7 中途覚醒(Interbout Arousal) 冬眠中に体温が一時的に正常レベルまで戻る短い覚醒期。小型の冬眠動物はこの「深冬眠」と「中途覚醒」を繰り返す。   ※8 eMyHC(embryonic Myosin Heavy Chain) 再生途中の新しい筋線維に発現する「再生マーカー」。筋損傷後に通常であれば増えるが、冬眠期はほぼ発現しない。   ※9 マクロファージ 筋損傷の修復に重要な免疫細胞。壊れた筋細胞を処理し、筋幹細胞の活性化をサポートする。冬眠期は浸潤が強く抑制される。   報道発表資料(636.78 KB) 掲載雑誌:The FASEB Journal 研究者ガイドブック(宮崎 充功准教授) 【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 広島大学大学院医系科学研究科生理機能情報科学 准教授宮﨑充功 Tel:082-257-5435 E-mail:mmiya4@hiroshima-u.ac.jp   (報道に関すること) 広島大学広報室 Tel:082-424-4383 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    進行肺がん患者の放射線肺炎予測精度を大幅に向上 ~SurvBETAモデルが多領域解析と複数のAI学習をつなぎ革新的な予測を実現~

    本研究成果のポイント 肺がん治療の副作用「放射性肺炎」のリスクを高精度に予測できる「SurvBETA」を開発しました。 本モデルにより、放射線肺炎リスクの早期予測が可能となり、個別化治療の選択を支援する強力なツールとして、臨床現場での利用が期待されます。   概要 広島大学病院放射線部の河原大輔准教授を中心とする研究チームは、肺がんの患者に対する放射線治療の後に発症する(放射性肺炎)のリスクを高精度で予測する新しいモデル「SurvBETA」を開発しました。 放射性肺炎は、放射線治療中に患者が経験する可能性がある重大な副作用で、発症すると治療方針の変更を余儀なくされることがあります。従来の予測方法では、臨床データや単一の画像から得られる情報に頼っており、リスク予測の精度には限界がありました。本研究では、患者のCT画像と放射線量情報から得られるさまざまな情報を抽出し、複数の機械学習アルゴリズムを用いて信頼性の高い予測を行うモデルを開発し、従来よりも高精度で放射性肺炎の発症リスクを予測できるようになりました。今後、より多くの施設での検証とデータの多様化を進め、放射線治療の個別化と最適化に向けた重要なツールとしての導入が期待されています。 本研究成果は、2025年12月発行の「Medical Physics」誌に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Prediction of radiation pneumonitis after CRT in patients with advanced NSCLC using multi-region radiomics and attention-based ensemble learning   著書 Daisuke Kawaharaa,*, Nobuki Imanoa, Misato Kishia,b, Toshiki Fujiwarac, Tomoki Kimurac, Yuji Murakamia   a Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima 734-8551, Japan b Radiation Therapy Section, Department of Clinical Practice and Support, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan cDepartment of Radiation Oncology Kochi Medical School, Kochi University, Kami, 783-0043, Japan.   掲載雑誌 Medical Physics   DOI番号 10.1002/mp.70140   背景 肺がんの治療において、放射線治療は効果的な方法の一つです。しかしこの治療では、がん細胞の周りの正常な細胞にも放射線が少し当たってしまい、放射性肺炎という肺炎を引き起こすことがあります。放射性肺炎はその重症度によりグレード1とグレード2に分けられますが、進行した肺がん患者がグレード2の放射性肺炎を発症した場合、患者の治療効果や生活の質に深刻な影響を与えるため、早期段階での予測が非常に重要です。従来、放射性肺炎の予測には主に臨床的な因子や線量に基づく手法が使われていましたが、これらの方法では予測精度に限界がありました。   研究成果の内容 本研究では、進行した肺がん患者における放射性肺炎のグレード2以上の発症リスクを高精度で予測する新しい予測モデル「SurvBETA」を開発しました。「SurvBETA」は、CT画像から得られる、腫瘍部位、肺組織、腫瘍周囲領域、放射線線量分布など、複数の解剖学的・線量ベースの領域から特徴を抽出し、それらを基に放射線肺炎のリスクを高精度で予測します。 「SurvBETA」は「アンサンブル学習」を利用しています。これは、複数の機械学習アルゴリズム(ランダムフォレスト、XGBoost、LightGBM、CatBoost)などに放射性肺炎発症リスクを予測させ、その予測結果を統合することで、より信頼性の高い予測を行う手法です。さらに、このモデルは、注意機構(Attention Mechanism)を組み込んでいます。これはCT画像や放射線の当たり方など、どの部分に着目すべきかをAIが自動で予測しすることで、患者ごとに異なる生物学的背景や放射線治療の影響を反映し、より正確なリスク評価を可能にするものです。この注意機構は、モデルが重要な特徴を動的に学習し、放射線肺炎発症のリスクが高い患者を正確に識別できるようにします。これにより、従来よりも高精度なリスク予測を実現しました。外部施設で行った検証結果では、C-index 0.83という優れた予測精度を達成し、これによりモデルの汎用性と実用性が確認されました。   今後の展開 本研究により開発された「SurvBETA」モデルは、NSCLC患者における放射性肺炎の予測精度を大幅に向上させました。今後は、このモデルをさらに多くの医療機関で検証し、実際の臨床現場における実用性と汎用性を確認していきます。「SurvBETA」モデルは、放射線治療計画の最適化にも活用でき、個別化治療の支援ツールとして、治療方針を患者ごとに最適化するための重要な指標となることが期待されます。 図1SurvBETAによる解析フロー図 表1予測モデルの比較とパフォーマンス。   報道発表資料(395.11 KB) 掲載ジャーナル:Medical Physics 研究者ガイドブック(河原 大輔 准教授)   病院放射線部准教授河原大輔 Tel:082-257-1545FAX:082-257-1546 E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    2026.01.19
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    情報科学 × 医学 の融合研究

    アピールポイント 「情報科学」の画像処理等の技術と「医学」の画像診断の技術を組み合わせた研究 「情報科学 × 医学」の強い連携を活かした、臨床課題起点・臨床データ駆動型の研究 「医情連携 × 産学連携」による、研究成果の社会実装と臨床現場への還元   研究者のねらい 本研究は、放射線科医の臨床ニーズを起点とし、情報科学の専門性を有する研究者による画像処理・解析手法の研究開発を経て、医療機器メーカーとの連携による社会実装までを一貫して目指す医工産連携研究である。臨床現場における日常的なニーズに基づく研究テーマに始まり、実臨床に基づく検証を通じて実用性を重視した技術開発を進めている。研究成果を研究室内に留めることなく、医療機器としての実装・普及を視野に入れることで、放射線画像診断の質向上と臨床現場の負担軽減に貢献することを目的とする。   研究内容 深層学習を用いた医療用CT画像の画質改善 [1] 左:従来法右:深層学習   ✔ CT検査はX線を利用し、CT画像の画質は 撮影に使用した放射線強度に依存する ・被ばくを抑えて画質を保つ工夫が必要   ✔ 画像処理によりノイズ低減法はノイズを抑制すると同時に画像にボケが生じる ・画像診断においてはノイズ低減と共に空間分解能の高さも重要   ✔ 深層学習を利用したノイズ低減法 ・深層畳み込みニューラルネットワーク ・従来型のノイズ低減フィルタと比較して、空間分解能の劣化を抑えつつノイズを低減することができる ・検査による放射線被ばくのリスクを抑えつつ、高い診断能を保つことができ、患者に優しい検査が実施可能     全身循環モデルを用いた造影CT検査の造影シミュレーション [2][3] ✔ 造影剤を利用した造影CT検査 ・臓器コントラスト向上 → 診断能向上   ✔ 造影剤投与法や撮影タイミングが重要 ・体格等に依存し個人差が大きい   ✔ コンピュータシミュレーションで検証   関連情報 【論文】[1] Deep Learning Reconstruction at CT: Phantom Study of the Image Characteristics. Academic Radiology, 2020. [2] Minimizing individual variations in arterial enhancement on coronary CT angiographs using “contrast enhancement optimizer”: A prospective randomized single-center study. European Radiology, 2019.   【知財】[3] 特許:6740136シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置又は撮像システム、及びシミュレーションプログラム   研究者 檜垣 徹HIGAKI TORU 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 ビジュアル情報学研究室 准教授

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.02
    • 医療/ヘルスケア
    アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子「APOE4」をリスクの低い型「APOE3」に切り替えられるマウスモデルを作製。 ~ヒトへの応用、発症リスク低減に向けて~

    本研究成果のポイント アルツハイマー病最大の遺伝的リスク因子APOE4を、別の型APOE3に切り替える条件付きマウスモデルを開発・検証しました。 肝臓では遺伝子型の切り替えを実証しました。 一方で脳では十分な遺伝子発現がみられないことが判明しました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科 石川 若芸 博士研究員を中心とする研究チームは、アルツハイマー病を発症するリスクが高まる遺伝子「APOE4」を、リスクの低い「APOE3」に切り替えることができるマウスモデルを開発しました。このマウスモデルで、実際に肝臓の「APOE4」を「APOE3」に切り替えることに成功した一方、脳ではこの遺伝子自体が発現しないということも判明しました。 本研究成果は、2025年12月にNeurobiology of Disease(Q1)に掲載されました。   発表論文 ■掲載誌: Neurobiology of Disease (2025 年 12 月) ■論文タイトル: A Novel Conditional Knock-In Mouse Model for APOE4-to-APOE3 Switching ■Ruoyi Ishikawa1,2(石川 若芸), Yu Yamazaki1*(山崎 雄), Nayuta Nakazawa1(中澤 那由多), Xin Li1(リ シン), Taku Tazuma1(田妻 卓), Yoshiko Takebayashi1(竹林 佳子), Masahiro Nakamori1(中森 正博), Yusuke Sotomaru3(外丸 祐介), Hirofumi Maruyama1(丸山 博文)   1.広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 2.日本学術振興会特別研究員 3.広島大学自然科学研究支援開発センター *責任著者   背景 アルツハイマー病は、社会の高齢化とともに患者数が増加している認知症疾患です。その発症リスクに最も強く関与する遺伝子がAPOE(※1)であり、特にAPOE4を持つ人は、標準型であるAPOE3を持つ人に比べて、発症リスクが大幅に高くなることが知られています。 APOE4とAPOE3の違いはわずか1塩基であり、生体内でAPOE4をAPOE3へ切り替えることができれば、発症リスクそのものを低減できる可能性が考えられてきました。ヒトへの応用に先立ち、その有効性や危険性を、実験モデルを用い多面的に評価する必要がありますが、これまで「体の中で、任意のタイミングでAPOE遺伝子型を切り替える」ことを検証できる実験モデルは限られていました。   研究成果の内容 本研究では、体内でAPOE4からAPOE3に切り替えることができるマウスモデルの作製に成功しました。 まず、遺伝子工学の技術を用い、任意のタイミングでAPOE4からAPOE3に切り替えられる遺伝子をつくり、それをマウスの体内に取り込みました。 このマウスで遺伝子の切り替えを試したところ、肝臓ではAPOE4からAPOE3への切り替えが確認された一方、脳ではそもそもAPOEを作るためのタンパク質が減っていることが確認されました。   (以下、専門的な研究内容です。)   本研究では、Cre-loxP(FLEx)システム(※2)を用いて、APOE4からAPOE3へと不可逆的に切り替わる遺伝子設計を行い、まず培養細胞を用いた in vitro 実験で、本設計がCre依存的にAPOE4からAPOE3へ切り替わることを確認しました。 この検証結果を踏まえて、通常はAPOE4をマウスのApoeプロモーター制御下に発現し、特定のタイミングでAPOE3へと切り替わる条件付きノックインマウスモデルを新たに作製しました。このモデルを用いて生体内での遺伝子型切り替えを検証した結果、肝臓ではAPOE4からAPOE3への切り替えが明確に確認されました。   一方、脳ではAPOEタンパク質の発現が著しく低下していることが分かりました。さらに分子レベルで解析を行ったところ、脳ではイントロン3が除去されないイントロン保持型転写産物(※3)であるAPOE-I3が増加し、翻訳可能な成熟APOE mRNAが減少していることが明らかになりました。この原因として、遺伝子を切り替えるために導入した配列であるloxPが、遺伝子情報の正しい読み取り過程に影響を与えた可能性が考えられました。   今後の展開 今後、研究チームはloxP配列の配置を最適化するなど設計を改良することで、脳内でも安定した遺伝子発現と遺伝子型切り替えを可能にする次世代モデルの開発を進める予定です。   参考資料 用語解説 (※1)APOE 体内で脂質(コレステロールなど)を運ぶタンパク質を作る遺伝子です。脳の健康とも深く関係しており、アルツハイマー病の発症リスクに強く影響します。   (※2)Cre-loxP(FLEx)システム 遺伝子工学で使われる技術の一つで、DNAの一部を「切り取る」「向きを反転させる」といった操作を、狙ったタイミングで行うことができます。   (※3)イントロン保持型転写産物 本来は取り除かれるはずのイントロンが残ったままのmRNAです。この状態では、正常なタンパク質が作られにくくなります。本研究では、脳でこの型のAPOEのmRNAが増えていることが分かりました。   報道発表資料(1003.07 KB) 掲載ジャーナル:Neurobiology of Disease 研究者ガイドブック(山崎 雄 准教授)   広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 博士研究員石川若芸 准教授 山崎雄 Tel:082-257-5201FAX:082-505-0490 E-mail:yuyamazaki@hiroshima-u.ac.jp

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    2026.01.19
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 融合領域
    生体信号情報のAI解析と医療・インタフェース応用

    アピールポイント 筋電図・脳波・心電図など多様な生体信号をAIで解析し、作業者の状態推定や医療診断支援、直感的な機器操作を実現 個人差や信号のばらつきに強い適応型AI技術により実環境での安定性を実現 医療・福祉から製造現場まで、状態推定・異常早期検出・HMI開発など幅広い課題に対応可能   研究者のねらい 脳波・筋電図・心電図などの生体信号には、人の意図や健康状態に関する豊富な情報が含まれています。本研究室では、これらの信号を確率モデルとAI技術で解析し、「作業者の状態を可視化したい」「病気の兆候を早期に捉えたい」「機械を直感的に操作したい」といった課題に応える技術を開発しています。特に、実環境で問題となる個人差や信号のばらつきに対応できる適応的AI技術に強みがあり、医療機器、福祉機器、製造現場での作業支援など、幅広い分野での社会実装に向けた共同研究を積極的に進めています。   研究内容 神経信号処理グループ NeuroSignal Processing 神経筋システムの電気信号を処理・モデル化・認識する技術 筋電位のモデル化と動作識別[1] ✓ベイズ逐次学習による適応的動作識別[2]   ✓人の動作特性を模倣したロボット義手の制御[3]   脳波を用いたてんかん発作検出[4] ✓敵対的学習による患者に依存しない特徴の獲得[5]   視覚/動態解析グループ Vision/Dynamics Analysis 視覚的情報や動きの情報を活用して疾患や異常など隠れた性質を探る   超音波動画像による頸動脈プラークの異常評価[6] 心電図を用いたがん治療関連心機能障害の評価[7] ✓心電図の局所的な異常性に注目する機構の導入   姿勢推定と深層学習を用いた 運動機能評価[8] ✓動作の時空間特徴を効率的に捉えるモデル   関連情報 【論文】 [1] A. Furui et al., Expert Syst. Appl. (2021); [2] S. Yoneda & A. Furui, IEEE TNSRE (2025); [3] A. Furui et al., Sci. Robot. (2019); [4] A. Furui et al., IEEE Access (2024); [5] R. Tazaki et al., in Proc. EMBC 2025; [6] T. Yoshidomi et al., in Proc. EMBC 2024; [7] N. Suyama et al., in Proc. EMBC 2025; [8] J. Masaki et al., in Proc. SII 2026.   【知財】特許「心機能障害診断装置、心機能障害診断装置の作動方法及びプログラム」(特願2025-117013); 特許「生体信号解析装置及び生体信号解析方法」(特開2020-092753) など   研究者 古居 彬FURUI AKIRA 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 知能生体情報学研究室 准教授

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.04
    • 医療/ヘルスケア
    肝細胞癌の薬物療法にカテーテル治療を併用することで、 治療効果が高まる可能性を発見しました。

    本研究成果のポイント 手術不能な肝細胞癌に対する薬物療法として薬物療法(Atezo/Bev療法)※1に、カテーテル治療(TACE療法)※2を追加することで治療効果が高まる可能性があることを発見しました。   概要 広島大学病院消化器内科の研究チームは、広島大学病院と広島県内8施設で行われた肝細胞癌の治療398例を対象に、薬物治療とカテーテル治療を併用することに関して後ろ向きに解析※3を行いました。その結果、二つの治療法を併用すると、治療開始から亡くなるまでの期間及び治療開始から腫瘍が増大するか亡くなるまでの期間が長くなることがわかり、治療効果が高まる可能性を発見しました。 このことは、学術誌「Liver Cancer」に掲載されました。 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   発表論文 ■掲載誌:Liver Cancer(2025年12月) ■論文タイトル:Atezolizumab Plus Bevacizumab With Transcatheter Arterial Chemoembolization (Sandwich Strategy) versus Atezolizumab Plus Bevacizumab Alone in Hepatocellular Carcinoma: A Multicenter Retrospective Study ■DOI:10.1159/000549979 ■著者:Ko Hashimoto1, Tomokazu Kawaoka1*, Tomoaki Emori1, Aiko Tanaka1, Yuki Shirane1, Ryoichi Miura1, Yasutoshi Fujii1,2, Hikaru Nakahara3, Kenji Yamaoka1, Shinsuke Uchikawa1, Hatsue Fujino1, Atsushi Ono1, Eisuke Murakami1, Daiki Miki1, C. Nelson Hayes1, Akira Hiramatsu4, Kei Amioka5, Michihiro Nonaka6, Yasuyuki Aisaka6, Kei Morio7, Takashi Moriya7, Yuji Teraoka8, Hirotaka Kono8, Yosuke Suehiro9, Keiichi Masaki9, Kazuki Ohya10, Shintaro Takaki10, Nami Mori10, Keiji Tsuji10, Yumi Kosaka11, Takashi Nakahara11, Hiroshi Aikata11, Masataka Tsuge1, Shiro Oka1 1) Department of Gastroenterology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 2) Department of Clinical and Molecular Genetics, Genomic Medicine Center, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 3) Department of Clinical Oncology, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan 4) Department of Gastroenterology, Hiroshima Memorial Hospital, Hiroshima, Japan 5) Department of Gastroenterology, NHO Higashihiroshima Medical Center, Hiroshima, Japan 6) Department of Gastroenterology, JA Hiroshima General Hospital, Hiroshima, Japan 7) Department of Gastroenterology, Chugoku Rosai Hospital, Hiroshima, Japan 8) Department of Gastroenterology, NHO Kure Medical Center and Chugoku Cancer Center, Hiroshima, Japan 9) Department of Gastroenterology, Hiroshima City North Medical Center Asa Citizens Hospital, Hiroshima, Japan 10) Department of Gastroenterology, Hiroshima Red Cross Hospital & Atomic-bomb Survivors Hospital, Hiroshima, Japan 11) Department of Gastroenterology, Hiroshima Prefectural Hospital, Hiroshima, Japan *責任著者   背景 肝細胞癌は、生活習慣病やウイルス性肝炎などを原因として発症する癌で、手術をして癌を切除することが根治的な治療法として知られています。一方、さまざまな理由で癌を切除することができないこともあり、このような場合、手術の代わりに薬物療法を行うことがあります。薬物療法では多くの場合「アテゾリズマブ」という免疫力を高める薬と、「ベバシズマブ」という癌への栄養供給を断つ薬を併用すること(以下、Atezo/Bev療法)が一般的ですが、Atezo/Bev療法で行う治療は、その効果は限定的なものとなっています。 また、肝細胞癌に対する局所的な治療法の一つとして、カテーテルを使い癌に直接抗がん剤を注入する方法「TACE療法」があります。 これらの二つの治療法を組み合わせた新しい治療法が、近年提唱されています。   研究成果の内容 今回の研究では、広島大学病院と広島県内8施設で行われた肝細胞癌の治療398例のうち、Atezo/Bev療法のみで治療を行った例と、Atezo/Bev療法とTACE療法を併用した例、それぞれ49例ずつを比較しました。その結果、併用群では、全生存期間※4(治療開始から亡くなるまでの期間)と無増悪生存期間※5(病気が悪化しない期間)が、Atezo/Bev療法単独での治療群よりも長くなることが分かりました。さらに、副作用の発生率にも大きな差はなく、肝臓の機能も悪化していませんでした。つまり、Atezo/Bev療法にTACE療法を追加しても安全性は保たれ、治療効果が高まる可能性があることが分かりました。   以下、具体的な研究成果です。 ・Atezo/Bev療法を開始した398例のうち、統計的なマッチングを行ったのちAtezo/Bev療法とTACE療法の併用群と、Atezo/Bev療法単独群をそれぞれ49例ずつ抽出しました。 ・TACE併用群と単独群のOSとPFSを比較すると、どちらも有意差をもってTACE併用群で延長する結果でした。 ・OSとPFSについて多変量解析※6を行い、それぞれに寄与する独立因子としてTACE療法併用の有無が抽出されました。 ・TACE療法実施の有無において、有害事象の有意な増加はみられませんでした。 ・TACE療法実施の前後において、肝予備能※7は保たれていました。   今後の展開 今回の研究では後方視的な解析のためすべてのバイアスを排除することは困難と思われます。現在、Atezo/Bev療法にTACE療法を併用することに関して多くの臨床研究が進行しており、その結果が待たれます。   用語解説 ※1. アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法(Atezo/Bev):免疫チェックポイント阻害薬※9のアテゾリズマブ(Atezo)と血管新生阻害剤※10のベバシズマブ(Bev)の併用療法は現在切除不能肝細胞癌の薬物療法における第一選択の一つとなっています。 ※2. TACE療法:肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization:TACE):足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、肝臓内の腫瘍を栄養する細い動脈までカテーテルを進め、そこで抗癌剤とともに塞栓物質を注入し腫瘍細胞を壊死させる方法。 ※3. 後ろ向きに解析:過去のデータを振り返って検討する研究方法。 ※4. 全生存期間(Overall Survival:OS):治療開始から亡くなるまでの期間を測る指標のこと。 ※5. 無増悪生存期間(Progression-Free Survival:PFS):治療開始から腫瘍が増大するか亡くなるまでの期間を測る指標のこと。 ※6. 多変量解析:複数の要因が同時に結果へどのくらい影響しているかを解析する方法。 ※7. 肝予備能:肝臓に必要な代謝・解毒・合成機能を維持できるかを示す指標のこと。Child-Pughスコアは肝硬変患者の重症度と予後を評価するために最も広く使われる評価法の一つ。 ※8. 独立因子:多変量解析の結果、他の要因とは無関係に独立して結果に影響を与えると判断された因子。 ※9. 癌細胞がリンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除することで免疫細胞の力を回復させ癌治療を行う薬剤のこと。 ※10. 癌細胞が新しい血管を作って増加することを阻止する薬剤のこと。   参考資料 図1. Atezo/Bev TACE併用群とAtezo/Bev単独群の全生存期間と無増悪生存期間の比較 全生存期間(a)、無増悪生存期間(b)ともにAtezo/Bev TACE併用群において有意差をもって延長しました。 図2. OSとPFSに寄与する因子について多変量解析を行った結果 (a)OSに寄与する因子として単変量解析ではBCLC stage・脈管侵襲の有無・DCP(腫瘍マーカーの一つ)・TACEの有無が抽出され、多変量解析ではDCPとTACEの有無が独立因子※8として抽出されました。 (b)PFSに寄与する因子として単変量解析では治療ライン・TACEの有無が抽出され、多変量解析でもどちらも独立因子として抽出されました。 図3. Atezo/Bev TACE併用群におけるTACE前後の肝予備能の推移 ベースラインからTACE実施時までは肝予備能は軽度悪化していますが、TACE実施の前後ではChild-Pughスコアの悪化は認めませんでした。 このプロジェクトの一部は、日本学術振興会のJ-PEAKS※の支援を受けており、広島大学では今後も、本支援により臨床研究を推進していきます。   ※ J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業): 地域の中核大学や研究の特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色のある研究力を核とした戦略的経営の下、 他大学との連携等を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装の加速等により研究力強化を図る環境整備を支援することにより、我が国全体の研究力の発展を牽引する研究大学群の形成を推進することを目的としています。   報道発表資料(479.95 KB) 掲載ジャーナル:Liver Cancer 広島大学大学院医系科学研究科消化器内科学   診療准教授河岡友和 Tel:082-257-5191FAX:082-257-5194 E-mail:kawaokatomo@hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.10
    • 医療/ヘルスケア
    うつ病患者の脳内ネットワークにおける「独自性」の低下を発見 ~個人の脳の「指紋」を指標とした新たな客観的診断法の開発に期待~

    千葉大学子どものこころの発達教育研究センターのSiti Nurul Zhahara特任研究員、平野好幸教授、清水栄司教授、および広島大学大学院医系科学研究科の岡田剛教授らの共同研究グループは、うつ病患者を対象とした安静時機能的MRI注1)から、個人の独自性を示す脳の領域間の機能的なつながりのパターンである「機能的コネクトーム(Functional connectome; FC)独自性注2)参考資料1)」を解析しました。その結果、健常者と比較して有意に低下していることを明らかにしました。 「脳の指紋」とも呼ばれるこのFC独自性の低下は、特に前頭頭頂ネットワーク注3)や感覚運動ネットワーク注4)において顕著であり、うつ病の症状が重いほど、脳の独自性が失われているという相関関係も示されました。本研究は、診断の難しいうつ病に対して、客観的かつ再現性の高い神経画像マーカー注5)を提供し、将来的な診断や個別化医療の進展に寄与することが期待されます。 本研究成果は、学術誌Journal of Affective Disordersに2026年1月4日(現地時間)にオンライン公開されました。   研究の背景 うつ病は世界で約2億4,600万人が罹患する深刻な疾患ですが、これまでの脳画像研究では、解析手法の違いにより結果の一貫性が乏しく、信頼できる生物学的指標(バイオマーカー注6))の確立が大きな課題となっていました。 近年、脳の領域間のつながりのパターンが指紋のように個人ごとにユニークで安定しているという「脳の指紋(Brain Fingerprinting)参考資料2)」という概念が注目されています(図1)。この独自性は脳の成熟や精神的健康状態を反映すると考えられており、本研究グループはこの指標を用いて、うつ病患者における臨床的な妥当性を世界で初めて検証しました。   研究の成果 研究グループは、19歳から37歳のうつ病患者35名と健常対照群(HC)42名の多施設で撮像した安静時機能的MRIデータを解析しました。その結果、うつ病患者は、健常群と比較して全脳レベルでの脳活動の独自性(FC独自性)が有意に低いことが示されました(図2)。また特に、高度な認知制御を司る前頭頭頂ネットワークや、身体感覚を処理する感覚運動ネットワークにおいて、FC独自性の精度(脳の指紋を使用したときの本人の判別精度:脳指紋の精度)の低下が顕著でした。症状の重症度との相関に関してはFC独自性が低いほど、PHQ-9注7)やBDI-II注8)によるうつ病の重症度スコアが高くなる(症状が重い)という強い負の相関が確認されました。脳は発達過程において「シナプスの剪定(せんてい)」や調整(チューニング)を経て、効率的で専門化された独自のネットワークを形成します。研究グループは、うつ病患者で見られた独自性の低下について、こうした脳の微細な構造調整プロセスの不具合が、ネットワークの「自分らしさ」の確立を阻害している可能性を指摘しています。本手法は異なる施設で取得されたデータにおいても一貫した結果を示し、客観的な診断や臨床評価に利用可能な再現性の高いマーカーであることが証明されました。   今後の展望 本研究により、脳の指紋の独自性の低下、すなわち脳の機能的な「自分らしさ」の欠如が、うつ病の病理を反映する重要な鍵であることが示唆されました。この成果は、個々の患者に最適な治療を選択するための「層別化」や、将来的な精神的脆弱性の予測(レジリエンスの評価)に役立つ可能性があります。今後は、この指標を用いて治療による改善を予測する研究や、患者一人ひとりに最適化された治療戦略を構築するための強力なツールとしての臨床応用が期待されます。   用語解説 注1)安静時機能的MRI:機能的磁気共鳴画像(functional Magnetic Resonance Imaging)を用いて、安静時の脳血流の変化を測定することにより脳の活動を観測することが可能。何か特定の作業をしているときの脳の動きを調べるfMRIに比べ、安静時fMRIはリラックスした状態での脳の活動を評価する。 注2)機能的コネクトーム(FC)独自性:脳の異なる領域間のつながりのパターンが、どれだけ他の人と異なり、同一個人内で一貫しているかを示す数値。「脳の指紋」の一つ。 注3)前頭頭頂ネットワーク:前頭皮質と頭頂葉をつなぐ安静時脳機能ネットワークで、注意の制御や意思決定など、高度な認知機能を担う脳のネットワーク。 注4)感覚運動ネットワーク:運動野や体性感覚野を含む安静時脳機能ネットワークで、身体感覚の処理や運動の制御を担う脳のネットワーク 注5)神経画像マーカー:疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる脳神経由来の画像データのこと。 注6)生物学的指標(バイオマーカー):疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる生体由来のデータ。神経画像マーカーもこれに含まれる。 注7)PHQ-9:Patient Health Questionnaire-9。うつ病の症状の重症度を評価するために世界的に広く用いられている標準的な自己記入式の質問票。 注8)BDI-II:ベック抑うつ質問票。過去2週間の状態についての21項目の質問によって抑うつ症状の重症度を短時間で評価することができる質問票。 要です。   研究プロジェクトについて 本研究は以下の助成金による支援を受けて行われました。 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」(課題名:縦断的MRIデータに基づく成人期気分障害と関連疾患の神経回路の解明(分担課題名:成人期のうつ病、不安症、強迫症の脳画像等の総合的解析研究))、および、「脳神経科学統合プログラム」(課題名:抑うつ症状と認知機能障害が生じる皮質−皮質下脳ダイナミクスのヒト多次元縦断データを用いた解明と霊長類モデルでの検証) 独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(A)25H01085、挑戦的研究(萌芽)24K21493、基盤研究(B)23K22361、25K00879)基盤研究(C)19K03309、JP21K03084、25K06842   報道発表資料(979.17 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Affective Disorders 研究者ガイドブック(岡田 剛 教授)   〈お問い合わせ〉 広島大学 広報室 電話:082-424-4383メール:koho@hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.23
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    ビタミン「ビオチン」を細胞へ迅速・効率的に届ける新手法を開発 ~バイオテクノロジー技術の改良や遺伝性代謝異常症治療への応用に期待~

    本研究成果のポイント 皮膚や髪の健康を保ち、体のエネルギーづくりにも関わるビタミンの一種「ビオチン(※1)」を、細胞の中により速く、効率的に届ける方法を開発しました。 細胞膜を素早く通過できる新しいビオチン誘導体を用いることで、細胞内のビオチン量を短時間で増やし、ビオチンを用いるさまざまなバイオテクノロジー技術を改良できることが分かりました。 ビオチンを利用するバイオ技術の改良や、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(※2)の新しい治療法につながる可能性があります。   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子 教授、理化学研究所光量子工学研究センターの中野明彦 客員主管研究員、戸島拓郎 上級研究員らは、ビオチンを細胞に入りやすい形に改良したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME)(※5)を用いることで細胞内への迅速なビオチンの誘導に成功しました。 私達が生きるために必須なビタミンの一種である「ビオチン」は、卵白に含まれる「アビジン(※3)」と呼ばれるタンパク質と強く結合する性質を持つため、現在、さまざまなバイオテクノロジー技術に用いられています。ビオチンはナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT)(※4) と呼ばれるタンパク質の働きで細胞内に取り込まれます。しかし、私達は多くの細胞でSMVTによるビオチン取り込みに時間がかるため、生細胞内へのビオチン投与を必要とするバイオテクノロジー技術が迅速に機能しないことを発見しました。 さらに、BMEは細胞内でビオチンへと急速に加水分解(化学反応によって物質が水の働きで分解され、元の成分に戻る反応)され、細胞内のビオチン濃度を迅速に上昇させることで、バイオテクノロジー技術を改良できることを発見しました。また、最近の研究から、SMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。私達の研究成果は、BMEがビオチンのプロドラッグ(※6)として機能することを示しており、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症の患者さんへのビオチン供給を促進する可能性があり、治療への応用が考えられます。   論文情報 掲載雑誌名: Communications Biology 論文名: Biotin methyl ester enhances cargo release in RUSH system and enables rapid biotinylation with TurboID 著者名: Uehara T1#, Takiguchi A1#, Tojima T2, Nakano A2, 3, Kagawa S1, Nehira T1, Satoh T1, Satoh AK1,*. 所属:1)広島大学大学院 統合生命科学研究科 2)理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム(研究当時、現画像情報処理研究チームの所属) 3)東京科学大学 総合研究院高等研究府 # 共筆頭著者:上原 大政・瀧口 新 * 責任著者:佐藤 明子   DOI: 10.1038/s42003-025-09176-4. 掲載日時: 2025年12月16日   背景 ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することはできないため、ビオチンを食事により取り入れる必要があります。ビオチンの細胞内への取り込みは、細胞膜に存在するナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) が行っています。 ビオチンはアビジンと強い結合を示すことから、ビオチン・アビジン結合性を利用したさまざまなバイオテクノロジー技術が発達しています。さらに、近年、近位依存性ビオチン化酵素(※7)を用いたタンパク質相互作用の網羅的解析(近位依存性ビオチン標識法(※8))が活発に進められています。生きた細胞でこれらの技術を用いる場合には、細胞培養液へのビオチン投与で十分であると考えられてきました。 細胞内における物質輸送(膜交通)の研究分野では、ビオチン投与によりタンパク質輸送を開始できる同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook 法: RUSH) 法(※9)が汎用されています。しかし、私達は、RUSH法において、ビオチン投与後すぐには輸送開始しない細胞が多いことを報告していました (Tago et al., EMBO repo, 2025)( https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/87904)。今回、私達は、この理由がビオチンの細胞内取り込みが迅速ではないからではないかと考え、実験を行いました。   研究成果の内容 本研究では、ビオチンの膜透過性を向上させる目的で、ビオチンのカルボキシ基を保護したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME) を用いてRUSH法においてタンパク質輸送が迅速に開始するかを評価しました。その結果、RUSH法において推奨されている40μMにおいてビオチンが十分な輸送開始を引き起こせないのに対して、BMEでは、その20分の1の濃度である2μMの投与でもタンパク質輸送が迅速に開始することを示しました。また、BMEの細胞内への取り込みはSMVTの阻害剤では阻害されず、BMEが直接細胞膜を透過することが強く示唆されました。 さらに、BMEが近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化の速度も上昇させることを発見しました。ビオチン化酵素はBMEを直接基質として利用できないことから、この結果はBMEが細胞内で急速に加水分解されることを強く示唆しています。また、細胞内の核・細胞質ゾル・小胞体内腔のいずれの領域においても、BME投与が近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化を活性化することを示しました。これらの結果から、BMEがビオチンを用いるバイオテクノロジー技術を大きく改良できると結論しました。 今後の展開 本研究が示した「BMEによる細胞内への迅速なビオチン供給」は、ビオチンを利用するさまざまなバイオテクノロジー技術全般に普及するものと考えられます。 また、ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することができないため、ビオチンを食事により摂取し、細胞内に取り込んでいます。最近の研究から、ビオチンの細胞内への取り込みに必要なSMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。BMEはビオチンのプロドラッグ(体内で活性成分に変化して働く薬)として機能することから、代謝マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症を含むビオチン代謝異常症の患者へビオチン供給を簡単に行うことができる可能性があり、治療への応用が考えられます。 参考資料 図ビオチンメチルエステル (BME)による細胞内への迅速なビオチン供給と応用 BMEはビオチンのカルボキシル基がメチル化された、電荷を持たない小分子であり、容易に細胞膜を通過する。小胞体内腔において、カルボキシルエステラーゼの働きで加水分解されてビオチンとなる。小胞体膜は電荷を持った小分子も容易に通すため、BME投与により細胞質ゾル・核・小胞体のいずれの領域にもビオチンを迅速に供給でき、バイオテクノロジー技術を改良できる。さらにビオチン代謝異常症の治療に役立つ可能性がある。   用語解説 (※1)ビオチン ビタミンB群の一種であり、エネルギー代謝や皮膚・粘膜・髪・爪の健康維持に重要な役割を果たす水溶性ビタミン。体内で糖質、アミノ酸、脂質の代謝を助ける補酵素として働く。   (※2) マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症 SMVTの欠損によって引き起こされる先天性代謝異常症の1つであり、最近同定された疾患。ビオチンがカルボキシラーゼの補酵素であるため、患者はマルチプルカルボキシラーゼ欠損症と呼ばれる病態を含む多様な症状を示す。 (※3)アビジン 卵白に存在する糖タンパク質で、ビタミンであるビオチンと非常に強く結合する性質を持ちます。この強力な結合を利用して、生命科学分野では、様々なバイオテクノロジー技術に利用されています。   (※4) ナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) ビオチン・パントテン酸・リボ酸塩の細胞内への取り込みに機能する細胞膜タンパク質。濃度勾配に従ってナトリウムを細胞内に取り込むときにこれらのビタミンを同時に輸送するシンポーター。   (※5) ビオチンメチルエステル (BME) ビオチンのカルボキシル基がメチル基とエステル結合したビオチン誘導体。電荷を持たない小分子であり、カルボキシルエステラーゼにより分解される。   (※6) プロドラッグ 機能分子(ドラッグ)のカルボキシ基がエステル化された分子。電荷を持たないため迅速に細胞膜を透過する。細胞内に入るとカルボキシルエステラーゼにより加水分解され、活性を持つドラッグとして機能する。   (※7) 近位依存性ビオチン化酵素 大腸菌ビオチンリガーゼ酵素BirA に変異を導入し、中間体のbiotinyl-5’-AMP が酵素から遊離し,近傍のタンパク質のリジン残基にビオチンを付加するように改変した酵素BirA* (BioID) やそれを改良したもの等。活性を高めたTurboID, AirID などがよく利用される。   (※8) 近位依存性ビオチン標識法 以下の一連の操作により、相互作用ネットワークを解析する手法。相互作用ネットワークを知りたいタンパク質に、近位依存性ビオチン化酵素を融合して発現させる。細胞にビオチンを投与することで、興味あるタンパク質近傍に存在するタンパク質を網羅的にビオチン化する。ビオチン化タンパク質をアビジンカラムで精製し質量分析機で解析することで相互作用ネットワークを明らかにできる。   (※9) 同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook法: RUSH法) 膜交通分野で汎用されるタンパク質輸送を同調的に開始させる手法。ビオチン投与によりタンパク質がアビジンから遊離して輸送を開始する。     報道発表資料.pdf(335.32 KB) 掲載雑誌:Communications Biology 研究者ガイドブック(佐藤 明子 教授)   【お問い合わせ先】 〈研究に関すること〉 広島大学大学院統合生命科学研究科佐藤明子教授 TEL:082-424-6507FAX:082-424-0759 E-mail:aksatoh@hiroshima-u.ac.jp   〈広報・報道に関すること〉 広島大学 広報室 TEL:082-424-6762 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 TEL:050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.20
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    ボノボ(大型類人猿)とテナガザル(小型類人猿)のiPS細胞と 脚腕の元になる細胞の作製に成功 —霊長類発生進化学・生物多様性保全・動物園獣医学の統合推進に貢献 —

    本研究成果のポイント ボノボ(大型類人猿)とテナガザル(小型類人猿)からiPS細胞(※1)を作製 類人猿のiPS細胞から四肢骨格の起源である細胞を作出することに成功 進化研究・生物多様性保全・動物園獣医学の3分野融合「動物園まるごとiPS細胞化プロジェクト」を大きく展開   概要 今村公紀 准教授(研究当時:京都大学ヒト行動進化研究センター助教、現:金沢大学医薬保健研究域)、博士課程4年 濱嵜裕介(京都大学ヒト行動進化研究センター)、今村拓也 教授(広島大学大学院統合生命科学研究科)、博士課程1年 飽田寛人(広島大学大学院統合生命科学研究科)らの研究グループは、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(熊本県宇城市)、公益財団法人日本モンキーセンター(愛知県犬山市)、豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)、東山動植物園(愛知県名古屋市)、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)、名古屋大学 一柳健司 教授、総合研究大学院大学 田辺秀之 准教授らと共同で、大型類人猿ボノボと小型類人猿テナガザルから、ゲノムに外来遺伝子が挿入されない人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製に成功しました。 今回作製したiPS細胞について、複数種の霊長類iPS細胞の遺伝子発現パターンを比較した結果、iPS細胞の遺伝子発現は霊長類進化の系統関係を反映していること、ならびに種特異的な特徴を同定しました。また、本研究では、作製した類人猿iPS細胞から四肢骨格の起源である細胞(肢芽中胚葉細胞)を誘導することにも成功しました。本成果は、霊長類の進化発生学(エボデボ)、生物多様性の保全、動物園獣医学の発展を統合的に推進するための重要な基盤になると考えられます(図1)。   雑誌名:BMC Genomics タイトル:Generation and transcriptome profiling of bonobo induced pluripotent stem cells using stealth RNA vectors: a tripartite comparative study with humans and chimpanzees. 著者:Yusuke Hamazaki,、Hiroto Akuta、Hikaru Suzuki、Hideyuki Tanabe、Tsubasa Suzuki、Kouki Inoue、Kenji Ichiyanagi、Takuya Imamura*、Masanori Imamura*. BMC Genomics、in press DOI:https://doi.org/10.1186/s12864-025-12400-4 (open access) 雑誌名:Frontiers in Cell and Developmental Biology タイトル:Generation and characterization of induced pluripotent stem cells of small apes. 著者:Yusuke Hamazaki、Hiroto Akuta、Hikaru Suzuki、Hideyuki Tanabe、Kenji Ichiyanagi、Takuya Imamura、Masanori Imamura*. Front Cell Dev Biol, 13: 1536947 (2025) DOI:https://doi.org/10.3389/fcell.2025.1536947 (open access) 背景 ヒトとサルの境目はどこにあり、両者は何が違うのでしょうか。生物学的にヒトはヒト上科というグループに属し、ニホンザルのようなサル類と区分されます。ヒト上科にはヒトの他に大型類人猿(ボノボやチンパンジー、ゴリラ、オランウータン)と小型類人猿(テナガザル)が分類されます。なかでもボノボとチンパンジーはヒトに最も近縁な現生類人猿であり、ヒト、ボノボ、チンパンジーの3種の比較はヒト固有の特性を解明する糸口になります。一方、小型類人猿はヒトとの共通祖先から最も早く、最も古い時期に分岐しました。したがって、小型類人猿は系統進化上、ヒト・大型類人猿とサル類の中間に位置しており、サルからヒトへの進化の過程を解明する上で非常に重要な存在といえます。 研究成果の内容 ■ 1|ボノボiPS細胞とテナガザルiPS細胞の作製に成功 本研究では、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ(熊本県宇城市)で飼養されているボノボとチンパンジーについて、健康診断時に採血された余剰血液から末梢血単核球を分離・培養しました。また、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)、豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)、東山動植物園(愛知県名古屋市)、大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)と連携し、動物園で自然死した小型類人猿3種5個体(シロテテナガザル、アボットハイイロテナガザル、フクロテナガザル)の皮膚片から線維芽細胞を培養しました。これらの細胞にゲノムに外来遺伝子が挿入されない方法で初期化因子を導入することでiPS細胞の作製を行った結果、ボノボ2個体、チンパンジー1個体、テナガザル3個体(シロテテナガザル1個体、フクロテナガザル2個体)のiPS細胞を作製することに成功しました(図1)。   ■ 2|iPS細胞の霊長類種ごとの特徴を遺伝子発現パターンから解析 ヒト、大型類人猿(ボノボ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)、小型類人猿(シロテテナガザル、フクロテナガザル)、サル類(アカゲザル、カニクイザル)のiPS細胞について、遺伝子発現プロファイルを比較解析したところ、iPS細胞の遺伝子発現は霊長類の系統関係を反映したパターンに分類されること(サル類、小型類人猿、大型類人猿、ヒトの順に分岐)がわかりました。さらに、ヒト、ボノボとチンパンジーの間で異なる遺伝子発現や、テナガザルだけで見られる遺伝子発現など、種に特異的な特徴も検出されました。   ■ 3|類人猿iPS細胞から四肢骨格の起源(脚腕の元)である肢芽中胚葉細胞の誘導に成功 作製した類人猿(ボノボ、チンパンジー、テナガザル)のiPS細胞から四肢骨格の起源(腕脚の元)である肢芽中胚葉細胞を作出することに世界で初めて成功しました。腕と脚の長さはサル類ではほぼ同じであるのに対し、類人猿では脚に比べて腕が長く、ヒトでは反対に腕に比べて脚が長くなります。霊長類iPS細胞から肢芽中胚葉細胞を分化誘導する実験系は、脚腕の長さという類人猿やヒトの四肢の特徴がどのようなメカニズムによって進化してきたのかを解明することに役立つと考えられます。     今後の展開 本研究は「動物園まるごとiPS細胞化プロジェクト」の一環として、動物園と連携して実施しました。本プロジェクトは、動物園や飼養施設にいる動物たちの細胞バンク化とiPS細胞の作製を行うことで、以下の3つの活用に繋げることを目的としています。   ■ 1|哺乳動物の進化発生学(エボデボ研究)の進展 哺乳動物のiPS細胞を作製することで、哺乳動物が進化させた多様性や新奇性のメカニズムの解明が期待されます。今後は、動物園にいるさまざまな動物のiPS細胞から四肢を形成する肢芽中胚葉細胞を分化誘導することで、脚腕の長さや形の発生進化研究を展開する予定です。   ■ 2|生物多様性の保全 ボノボやテナガザルをはじめ、多くの希少動物は絶滅の危機に瀕しており、遺伝資源の保存は喫緊の課題です。本研究で進める細胞バンク化(動物由来の細胞を長期保存・再利用可能な形で蓄積すること)とiPS細胞の作製は、絶滅危惧種の「細胞レベルで生きた遺伝資源」を長期的に保存・活用できる基盤となります。   ■ 3|動物園獣医学の発展 希少動物では疾患研究や治療法の検討が難しい場合があります。iPS細胞を活用することで、動物種ごとの疾患モデルの構築や、薬剤反応性・毒性の種差や個体差の評価が可能となり、動物医療・健康管理の高度化に貢献すると期待されます。     参考資料 図1. 本研究の概要 動物園・研究施設からご提供いただいた組織試料から細胞を培養し、テナガザルとボノボ、チンパンジーのiPS細胞の作製に成功した。動物園のiPS細胞は今後大きく分けて3つの活用法が考えられる。 図2. ヒト・類人猿・サル類のiPS細胞の遺伝子発現パターンは霊長類進化の系統関係を反映する ヒト・類人猿・サル類のiPS細胞の遺伝子発現データに基づき、それぞれのiPS細胞株(点)間の類似性を樹形図として可視化すると、系統進化を反映したまとまりを示した(サル類、小型類人猿、大型類人猿、ヒトの順に分岐)。さらに、小型類人猿テナガザルのiPS細胞では他の霊長類に比べて”細胞死”に関連する遺伝子の発現が低い傾向が見られた。また、大型類人猿のうち、ボノボとチンパンジーのiPS細胞の間を比較すると、”代謝”機能に関連する遺伝子の一部で発現が異なっていた。 図3. 類人猿のiPS細胞から四肢骨格の起源である肢芽中胚葉細胞の分化誘導に成功 ボノボとテナガザルのiPS細胞(上段)から肢芽中胚葉細胞(下段)を分化誘導することに成功した。下図では、肢芽中胚葉を特徴づける遺伝子のPRRX1(赤)が発現していることを示している。   用語解説 (※1) iPS細胞 培養下(実験室)で半永久的に増え、身体を構成するさまざまな細胞種に分化することできる(=多能性)性質を持った細胞。   (※2) 分化誘導 iPS細胞の持つ、身体を構成するさまざまな細胞種に分化することできる(=多能性)性質を活かして、iPS細胞から目的の細胞を培養下で作出する方法のこと。   報道発表資料(741.67 KB) 掲載ジャーナル:BMC Genomics 掲載ジャーナル:Frontiers in Cell and Developmental Biology 研究者ガイドブック(今村 拓也 教授)   研究に関するお問い合わせ先 金沢大学医薬保健研究域 准教授今村 公紀 E-mail:imamura-masanori@staff.kanazawa-u.ac.jp 京都大学ヒト行動進化研究センター 博士課程4年 濱嵜 裕介 E-mail:hamazaki.yusuke.84n@st.kyoto-u.ac.jp 広島大学大学院統合生命科学研究科 教授今村 拓也 TEL:082-424-7438 E-mail:timamura@hiroshima-u.ac.jp ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-6762 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp 京都大学広報室 国際広報班 TEL:075-753-5729FAX:075-753-2094 E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp  

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2004.04.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.25
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

〈234
Copyright © 2020- 広島大学