• HOME
  • 研究成果紹介
  • 産学連携スキーム
  • センター・拠点
  • 組織紹介
  • EN
  • JP

研究成果紹介

研究成果を検索いただけます

※教員の職名・所属等は記事公開時点の情報であり、最新情報とは異なる場合があります。

Category

─ 研究成果をカテゴリー別に集約 ─
  • 環境エネルギー
  • 気候変動/エネルギー/GX
  • 自然共生/ネイチャーポジティブ
  • 循環経済
  • 食料/農林水産業
  • 防災
  • 介護/福祉
  • デジタル/AI
  • モビリティ
  • インフラ
  • フュージョン
  • 情報通信
  • 宇宙
  • 量子
  • 半導体
  • 素材
  • バイオエコノミー
  • 資源
  • 海洋
  • 医療/ヘルスケア
  • 教育/人材育成
  • 健康/スポーツ
  • 経営/組織運営/デザイン
  • 融合領域

キーワード検索

─ 研究成果をキーワードで探す ─
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発 ~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~

    本研究成果のポイント ヒト細胞内で、遺伝子編集を行う際、オフターゲット作用(不要な場所のDNA切断)が起こらずに、目的の遺伝子修復(HDR)が成功した細胞だけを選別する独自スクリーニングシステムを開発しました。 本システムを用いて、標的 DNA を改変する新規のゲノム編集技術Cas9変異体「HSS Cas9」を獲得しました。HSS Cas9は野生型Cas9よりも特定の標的配列において高いHDR効率を示します。 HSS Cas9とHDRが活発になる細胞周期制御技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、不要な変異(インデル)の発生を大幅に抑制し、遺伝子編集の「正確性(HDR/インデル比)」を最大約30倍以上に向上させることに成功しました。 遺伝子編集の精度向上によって、安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の松本大亮助教(現東京都医学総合研究所主任研究員)、野村渉教授、山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センターの佐藤悠助教、東京都医学総合研究所宮岡佑一郎再生医療プロジェクトリーダーらのグループはヒト細胞においてHDRが成功するとジフテリア毒素への耐性を獲得する仕組みと緑色蛍光の消光によりオフターゲット作用を検出する仕組みを利用した、独自のスクリーニングシステムを構築しました。このシステムを用いてCas9変異体ライブラリを探索した結果、2つの新規アミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ「HSS Cas9」を同定しました。HSS Cas9は、野生型Cas9と比較して、特定の遺伝子標的(EMX1, VEGFAなど)において高いHDR効率を示しました。さらに、HSS Cas9と細胞周期依存的にCas9を活性化させる技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、インデルの発生を強く抑制し、遺伝子編集の正確性(HDR/インデル比)を飛躍的に向上させることに成功しました。本成果は、より安全で高精度な遺伝子治療技術の開発に貢献するものです。 本研究成果は、「Journal of Biomedical Science」(IF=12.1)に令和7年12月3日付でオンライン掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Screening Strategy to Identify Cas9 Variants with Higher HDR Activity Based on Diphtheria Toxin   著者 松本大亮1,2,3,*、久保田小茉利1、佐藤悠4、加藤-乾朋子3、濁川清美1,2、宮岡佑一郎3、野村渉1,2,* 1.広島大学薬学部 2.広島大学大学院医系科学研究科 3.東京都医学総合研究所 4.山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センター * 責任著者   掲載雑誌 Journal of Biomedical Science (IF=12.1)   DOI番号 DOI: 10.1186/s12929-025-01197-9   研究助成 この研究成果は、科研費、JSPS 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)JPJS004 20230011、HIRAKU-Global、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、持田記念医学薬学振興財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の支援を受けて研究を行い、得られたものです。   背景 ゲノム編集技術は、遺伝性疾患やがんの治療法として期待されています。ゲノム編集技術では、標的とする遺伝子を切断することが必要となります。これまでにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)やTALEN(例:Platinum TALEN)などが開発されてきており、現在では目的に沿った使い分けが可能な状況となっています。そのなかでもCRISPR-Cas9は標的配列を自在に特異的に標的化できるという点から、主要なゲノム編集ツールとして汎用されています。これらのツールはいずれも標的とする遺伝子配列を切断する機能を持っています。しかし、DNAを切断した後、あらかじめ用意した正しい遺伝子配列(テンプレートDNA)を使って正確に修復する「HDR(相同組換え修復)」の効率が低いことが大きな課題でした。ゲノム編集では、多くの場合に標的配列がエラーを伴いやすい「NHEJ(非相同末端結合)」によって修復されてしまい、意図しない変異(インデル)が生じてしまうためです。精度の高いゲノム編集によってより安全性の高い遺伝子治療が可能となりますが、この実現には、HDR効率を向上させることが不可欠です。しかし、これまでに決定的な解決策は示されていません。   研究成果の内容 研究グループはまず、ヒト細胞内でHDRによる修復に成功した細胞だけが生き残り、緑色蛍光タンパク質の消光によってゲノム編集操作における副作用であるオフターゲット作用を検出する、スクリーニングシステムを開発しました(図1)。このシステムを用いて、Cas9のDNA切断に関わるドメインにランダムな変異を導入したライブラリを探索した結果、これまでに報告のなかった2つのアミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ変異体「HSS Cas9(HDR-Screening-Selected Cas9)」を発見しました(図2)。このHSS Cas9は、野生型のCas9と比較して、特定の遺伝子標的において高いHDR効率を示しました。 さらに、研究グループはHSS Cas9と、HDRが活発になる細胞周期(S/G2期)でのみCas9を活性化させる既存の技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせました。その結果、望まない変異(インデル)の発生を劇的に抑制しつつ、高いHDR効率を維持することに成功。編集の「正確性(HDR/インデル比)」を、標的遺伝子によっては野生型Cas9と比べて最大約30倍以上に向上させることを実証しました(図3)。   今後の展開 Cas9によるヒト細胞のゲノム編集が報告されてから10年以上が過ぎ、基本特許の有効期間も折り返しの10年間を迎えています。今回開発されたスクリーニングシステムは、ランダムなCas9変異体の中からヒト細胞内での高精度な修復を起こしやすい変異体を選抜することができます。今後、このスクリーニングシステムに改良を加えながら、より大規模なスクリーニングを実施することで、新たなバージョンのHSS Cas9の獲得に展開していきます。これによって、より安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   参考資料 図1.スクリーニングシステムの概略図 図2.獲得した変異体の活性確認(#27がHSS Cas9) 図3.HSS Cas9の細胞周期依存的な活性化(WT: 野生型Cas9, HSS: HSS Cas9, A4C: AcrIIA4-Cdt1, PO: ホスフォジエステル結合の一本鎖オリゴの鋳型, PS: ホスフォロチオエート結合(末端3塩基)の一本鎖オリゴの鋳型)   【プレスリリース】遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~.pdf(398.74 KB) 掲載雑誌:Journal of Biomedical Science 研究者ガイドブック(野村渉教授)   【お問い合わせ先】   <研究に関すること> 東京都医学総合研究所主任研究員松本大亮 Tel:03-5316-3129 E-mail:matsumoto-ds*igakuken.or.jp   広島大学大学院医系科学研究科教授野村渉 Tel:082-257-5308 E-mail:wnomura*hiroshima-u.ac.jp   山口大学大学研究推進機構 中高温微生物研究センター助教 佐藤悠 Tel:083-933-5841 E-mail: yusato*yamaguchi-u.ac.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 Tel:082-424-4518 FAX 082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人 東京都医学総合研究所 事務局研究推進課乙竹・伊藤 Tel:03-5316-3109   山口大学総務企画部総務課広報室 Tel:083-933-5007 E-mail:sh011*yamaguchi-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • バイオエコノミー
    2026.05.08
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • バイオエコノミー
    広島大学の丸山史人教授が、米国エネルギー省JGI 2026 年度Community Science Program大型研究支援に世界でわずか14 件の採択プロジェクトの一つに日本から唯一採択 ~未解明の地下水微生物研究で国際競争を勝ち抜く快挙~

    ポイント 米国エネルギー省(Department Of Energy; DOE) Joint Genome Institute (JGI)の2026年度Community Science Program (CSP)大型研究支援公募において、世界でわずか14件の採択プロジェクトの一つに広島大学・丸山史人(まるやまふみと)教授の提案が選出されました。日本からの採択は丸山教授の1件のみです。 過去の採択実績では、プリンストン大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、 スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校など海外トップクラスの研究機関の教授が多く、今回はプリンストン大学、シカゴ大学、デューク大学、米国やフランスの国立研究所などの研究者が参画しており、国際的にも極めて競争率が高く名誉ある成果です。 DOE-JGIのCSPプログラムでは、数十万~数百万ドル相当の大規模ゲノム解析、ハイスループットDNAシーケンス、計算資源などの支援が採択課題に無償提供されます。 CSP採択プロジェクトの多くは研究成果をNatureやScienceといった世界最高峰の学術誌に発表しており(https://jgi.doe.gov/user-science/publications)、質の高い国際共同研究が推進されています(※例:JGIによるソルガム(バイオエネルギー作物)ゲノム解析研究が2009年にNature掲載)。 丸山教授の採択課題は、未培養で未知の地下水生微生物Patescibacteria門を対象に、その共生的な生態をゲノム解析によって解明し、地下環境での物質循環の役割に迫る革新的研究です。環境中の膨大な未解明微生物の機能解明を通じ、物質循環・環境微生物学に新たな展開が期待されます。 日本からCSP大型枠に採択される例は極めて稀であり、広島大学からの採択は国際舞台における国内研究者の存在感を示す画期的な成果と言えます。   概要広島大学IDEC国際連携機構の丸山史人教授の研究プロジェクトが、米国エネルギー省(DOE)の合同ゲノム研究所(Joint Genome Institute, JGI)による2026年度コミュニティ・サイエンス・プログラム(CSP)大型研究支援公募において、世界14件の採択プロジェクトの一つに選ばれました。日本からの採択は本件のみで、他の採択者には、プリンストン大学、シカゴ大学、デューク大学、米国やフランスの国立研究所など世界的トップクラスの研究機関の教授らが名を連ねています。また、過去の採択者にも日本国内の研究者がプロジェクトの代表となっている例は確認されていません。CSP大型公募は、エネルギーの持続可能性、気候変動への対応、水・環境資源の保全といった地球規模課題の解決(DOEミッションの内容を反映)に資する大規模ゲノム科学プロジェクトを世界中から募るもので、その採択は極めて狭き門を突破したことを意味します。本採択により、丸山教授のチームはDOE-JGIから大規模なゲノム解析支援を無償提供され、最先端の環境ゲノム研究を推進します。   背景DOE-JGIはカリフォルニア州ローレンスバークレー国立研究所に拠点を置く、米国エネルギー省の合同ゲノム研究施設です。CSP(コミュニティ・サイエンス・プログラム)はDOE-JGIの主要なユーザープログラムであり、世界中の研究者が提案する斬新なゲノム科学プロジェクトに対し、シーケンス解析やデータ解析といったサービスを無償提供するものです 。特に「大型(Large-Scale)」枠の公募では、数年スケールで大量のゲノムデータを生成する野心的な提案が求められます。このCSPは、毎年公募、採択される年1回の大型公募であり、2026年度においては世界中から応募が寄せられ、その中から厳正な国際ピアレビューを経て14件のみが採択されました。また、CSP採択プロジェクトは過去に数多く画期的な成果を生み出しており、その成果論文がNature、Scienceといった著名科学誌に掲載される例も少なくありません。こうした背景から、本プログラムへの採択は研究資源の獲得だけでなく、研究の国際的な評価・発信につながる名誉ある業績と位置付けられています。 日本からDOE-JGI CSPに採択される事例はきわめて少なく、本件は数年ぶりの快挙となりました。広島大学の丸山教授の採択は、日本の環境ゲノム・微生物研究が国際舞台で高く評価された証と言えます。   研究内容今回採択された丸山教授の研究課題は、「未培養Patescibacteria門微生物の地下水における物質循環機能の解明:共生的相互作用の解析を通じて」(原題:Uncovering the roles of uncultivated Patescibacteriota in groundwater biogeochemical cycling through the analysis of symbiotic interactions)です 。Patescibacteria門(分類学上はPatescibacteriotaとも呼称)は、近年存在が明らかになった超小型細菌群で、培養が困難な「未培養微生物」の一大系統です。これらの細菌はゲノムサイズがわずか0.5~1.0百万塩基対程度(100-300nm)と極端に小さく、他の生物に普通存在する必須遺伝子の多くを欠失しており、その大半が他の微生物に寄生・共生する形で生存していると考えられています 。しかし、こうした極小細胞の微生物が地下水環境でどのような役割を果たし、他の微生物とどのように関わっているのかは未解明のままでした。 丸山教授らのプロジェクトでは、JGIの支援する大規模ゲノム解析技術を駆使し、地下水中のPatescibacteria門細菌およびその共生相手となる微生物群集のDNAを包括的に解析します。具体的には、地下水試料からメタゲノム解析を行い高品質なゲノム配列を再構築することで、Patescibacteria門に属する複数種のゲノム情報を取得し、そこに潜む代謝経路や相互作用遺伝子を明らかにします。また、得られたゲノムから推定される機能に基づき、Patescibacteriaが共生相手からどのような栄養素や代謝産物をやりとりしているのか、逆に地下水中の炭素・窒素など物質循環プロセスに与える影響を解明することを目指します。さらに、必要に応じて単一細胞ゲノム解析や分子生態学的手法も組み合わせ、Patescibacteria門細菌と他の微生物との共生関係の実態に迫ります。本研究により、地下深部の環境で長らくブラックボックスとされてきた微生物生態系の一端が解明され、新規微生物の機能や進化の謎に光を当てることが期待されます。   今後の展開丸山教授のプロジェクトは、2026年度からDOE-JGIの支援のもと本格始動します。今後数年間でテラバイト級のDNAシーケンスデータが産出され、人工知能(AI)も活用した大規模データ解析により、地下水中微生物の未知の生態が次第に明らかになっていく見込みです。得られた知見は、地下環境における炭素循環や養分循環モデルの高度化、さらには環境浄化や資源エネルギー分野への応用に貢献することが期待されます。また、本採択を契機に広島大学はDOE-JGIや海外トップ研究者との連携を一層深め、国際共同研究の展開や本課題の共同受賞者であるスマートソサイエティ実践科学研究科博士課程2年の福士宗幸氏を含めて、人材交流を促進していきます。将来的には、本プロジェクトの成果論文を国際学術誌へ発表し、広島大学発の環境ゲノム研究として世界に発信する予定です。丸山教授は「本研究により、地下に広がる未知の微生物世界の解明が進み、環境微生物学のフロンティアを切り拓きたい」と抱負を述べています。本学は引き続き最先端研究を通じて地球規模課題の解決に貢献していきます。   <Joint Genome Institute(JGI)の公式発表ページはこちら> https://jgi.doe.gov/user-science/science-stories/jgi-announces-fy26-large-scale-portfolio-our-community-science-program   報道発表資料(240.68 KB) 研究者ガイドブック(丸山 史人教授)   【お問い合わせ先】 広島大学 IDEC国際連携機構環境遺伝生態学研究分野 教授丸山史人(まるやまふみと) E-mail:fumito*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    経口摂取により暑熱耐性能を誘導しうる 微細藻類

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、特定の藍藻による動物の暑熱耐性誘導に関するものである。当該藍藻を含む飲食品組成物摂食により、動物の体温を摂餌に至適な範囲に調整可能である。結果、高温化であっても動物の食欲は維持され得る。本技術は、当該藍藻の体温調節機能を利用した、ヒトおよび畜産・愛玩動物等に暑熱耐性を付与する技術である。   従来技術・競合技術との比較近年の夏場の高温による畜産動物の暑熱ストレス回避技術として、空調設備の導入、換気扇等による強制換気、遮光ネット等による遮光等が試行されているが、大きなコストを要する。一方、我々の技術では既存設備下で、動物の生育・体調維持に繋がり、前記コスト面での問題は解消できるものと考える。また、当該藍藻は栄養的にもタンパク質・脂質含有量が他の藍藻類に比べて多い。また、当該藍藻はそれ自体が顕著な高温耐性を有するため、高温下でも培養破綻が起きにくく、他の藍藻類よりも安定した供給が可能である。   新技術の特徴 当該藍藻を含む飼料の摂取により、暑熱区飼育のカエル(変温動物)の高温耐性能が向上、また暑熱区飼育のニワトリ(恒温動物)の暑熱ストレスが減少 少ない配合量で顕著な効果を発揮(ニワトリの場合) 培養から製品化までのプロセスが低エネルギーかつカーボンニュートラル   本技術の概要 地球温暖化によって畜産物、水産物、ペットなどへの高温ストレスが高まり、生産リスク、健康リスクが上昇。 温泉という極限環境に生息する両生類「温泉ガエル」の餌資源として藍藻(シアノバクテリア)を発見。 オタマジャクシの高温下での生存率の上昇、鳥類(ニワトリ)での高温ストレス低減効果を確認。   地球温暖化と食料生産リスク 過去10万年(最後の間氷期以降)最も急速な全球的温暖化が進行中 「温泉ガエル」と餌資源としてのシアノバクテリアの発見 琉球列島に広範に分布する「リュウキュウカジカガエル」と本州、九州、四国などに生息する「カジカガエル」の、温泉に生息する集団を発見し、藍藻(シアノバクテリア)を食していることを見出した。   MinIONを使ったDNA解読 Oxford Nanopore Technologies社のシーケンサー(DNA解読装置)MinIONを使ってPCR産物・ゲノムDNAを解読。 オタマジャクシ腸内容物の16Sシーケンス(大きな分類) 腸内に存在する微生物群を分類し分析。   温泉藻(秋田県湯沢市・川原の湯っこ)の単離培養 新種シアノバクテリアのゲノム解読 約630万塩基対の環状ゲノムを解析。 タンパク質コード遺伝子:約6300 特徴として、 窒素代謝関連遺伝子が多い 遷移金属イオン結合遺伝子が多い   ネッタイツメガエル幼生の摂餌試験と高温下生存率 ネッタイツメガエル幼生に対して藻類を給餌。高温環境下において生存率が向上。 ニワトリに対する飼料添加と暑熱ストレスへの影響 供試動物:産卵鶏 (Julia Lite) 雄ヒナ、12L12D 試験区:2×3の完全要因配置 2種類の環境温度 (室温or暑熱) ×3種類の試験飼料(微細藻類粉末を飼料に対して乾物あたり0, 1, 2%添加) 供試羽数:各区5羽(5×2×3 = 合計30羽) 温度管理:D0で30℃、その後D4まで2日間ごとに1℃低下させる 暑熱区:D5より、9:00から2時間かけて38℃まで加温し、17:00から2時間かけて29℃まで減温 (サイクリック) 通常温度区:D5より27℃   試験スケジュール 産卵鶏雄ヒナの羽数、摂食量と藻類粉末重量 (70 g)から計算した最長の試験期間を設定 測定項目体重、日増体量、摂食量、飼料要求率、直腸温 D7に暑熱区の個体を動画撮影し、3分間あたりのパンティング(口を開け、 喉または背中を小刻みに動かす呼吸をパンティングと定義)時間を計測。   結果1 直腸温に藻類飼料添加の影響が認められた。 直腸温に藻類飼料添加と環境温度との交互作用が認められた。 (統計的有意差はないものの)増体量、摂食量も改善。   結果2 パンティング sec./180 sec. †: 0%添加区と比較してP

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2004.04.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

    • 食料/農林水産業
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    2025.10.23
    • 食料/農林水産業
    • デジタル/AI
    • バイオエコノミー
    未培養微生物を資源化する革新的培養技術

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、ゲルマイクロドロップレットを活用し、難培養微生物の資源化する革新的スクリーニング手法である。具体的には、難培養微生物を可培養化する新規培養技術と、10⁸個という膨大なサンプル数から目的活性を有する微生物を評価・選別する、ハイスループットスクリーニング手法を組み合わせることで実現する。   従来技術・競合技術との比較従来の分離培養技術では環境微生物のうち1%程度しか培養できないが、本手法では50%という微生物学の常識を覆す割合の微生物が可培養化される。また、従来のドロップレット培養技術では、培養菌体の活性や機能評価は極めて困難であったが、本技術では、多様な機能を対象に評価することを可能にする。   新技術の特徴 10⁸個という極めて多数の独立した培養系の機能評価が可能 新規酵素、化合物変換活性、特定物質生産活性、抗菌活性、特定遺伝子阻害活性など多様な評価に対応可能 従来法では培養できない未培養・難培養微生物も評価・利用可能   想定される用途 未培養・難培養微生物の資源化(創薬資源) 未培養・難培養微生物の資源化(農業・食品・化学分野) 変異株ライブラリーを用いた超高速スクリーニング   ほとんどの微生物は未培養・培養困難 未培養微生物の資源化におけるボトルネック 目的:GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 難培養微生物の可培養化 ドロップレット技術を活用した新規分離培養手法の開発 ー GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)   難培養微生物の資源化 ドロップレット技術を活用した新規スクリーニング手法の開発 ー 難培養微生物の可培養化と機能・活性ベースのスクリーニングを同時に実現   ゲル微粒子(GMD)の凝集培養を用いた未培養・難培養微生物の可培養化 GMD凝縮培養の手順 A Micro-colony in GMDs GMD培養中における増殖の追跡:可培養化率(Cultivability) GMD培養の期間中どのようなタイプが増殖しているのか? まとめ:GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)の培養性能 GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 革新的なハイスループットスクリーニング手法の開発 目的:108個のGMD全てを供試可能な超ハイスループットスクリーニング手法の開発 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 抗菌物質生産菌をターゲットにしたスクリーニング系の構築 Proof of Concept :モデル系を用いた実証試験 結果 環境微生物からの抗菌活性スクリーニング 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 酵素活性(セルラーゼ活性)を指標としたスクリーニング系の構築 環境微生物の可培養化と酵素活性(セルラーゼ活性)の検出 結論と展望 実用化に向けた今後の課題 目的の機能を有する新規微生物を獲得する 多様な機能を検出可能なスクリーニング系の構築 実用的なターゲットで方法論の有効性を実証する   難培養微生物を可培養化(従来アクセスできなかった微生物を利用可能) 超ハイスループット(108株を短時間で機能評価することが可能) 多様な機能(抗菌、酵素活性など)を指標とした探索に適用可能 環境微生物、変異株ライブラリーなど、様々な生物種に適用可能   本技術の創出に寄与した外部資金科研費 基盤研究(B)25K01934 新学術領域研究 (研究領域提案型)22H04887 新学術領域研究 (研究領域提案型) 20H05587 基盤研究(B)19H02873 若手研究(A)26709063   NEDO NEDO カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発   財団 内藤記念科学振興財団 研究助成 シオノギ感染症研究振興財団 研究助成   本技術に関する知的財産権 発明の名称:微生物の分離培養方法及び擬集体含有溶液 出願番号:特願願2015-196882(特許第6785465) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、高木雄貴、大橋晶良   発明の名称:スクリーニング方法および溶液 出願番号:特願2023-139257(PCT/JP2024/010423) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、下村有美、新山海   研究者青井議輝 広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.25
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.11
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    “ヤゲン軟骨の秘密”を解明 〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜

    本研究成果のポイント 飛翔する鳥は胸骨に「竜骨突起」を持つ一方、走行性の鳥は平らな胸骨を持つことに着目 軟骨前駆細胞の増殖を促すTGF-β(※1)シグナルが、竜骨突起形成細胞では長く活性化する TGF-βシグナル活性化の“異時性(※2)”が、竜骨突起の有無を決めることを世界で初めて発見 骨格形態の多様化メカニズムの解明に加え、胸郭変形症の発症機序の理解にもつながる成果   概要脊椎動物の骨格は実に多様で、それぞれの動物の行動様式に適応した形をとります。鳥類の胸骨形態の違いはその典型例です。飛翔する鳥(胸峰類)は、胸骨の中央に「竜骨突起」と呼ばれるブレード状の構造を持ち、これが強力な飛翔筋の土台となります。一方、ダチョウやエミュー(※3)など走って移動する鳥(平胸類)は、この突起を持たず平らな胸骨をしています。こうした違いは進化の過程で生まれましたが、その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。 九州大学大学院システム生命科学府の権昇俊大学院生、理学研究院の熱田勇士講師は、農学研究院の江川史朗助教、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖真弥教授、鄒兆南助教、広島大学大学院統合生命科学研究科の本田瑞季助教と共同で、この問題解決に取り組みました。竜骨突起は胚発生期に形成されることから、研究グループはニワトリ胚(胸峰類)とエミュー胚(平胸類)を実験モデルとして、まず胸骨発生過程を比較しました。その結果、両者とも同じように胸骨のもととなる前駆細胞が現れるものの、ニワトリではこの前駆細胞が長く増え続けて竜骨突起をつくるのに対し、エミューでは早い段階で成熟してしまい、突起が形成されないことを明らかにしました。さらに、この違いの鍵となるのが「TGF-βシグナル」という細胞間の情報伝達であることを突き止めました。ニワトリではこのシグナルが長く働き続けることで細胞の増殖が保たれ、竜骨突起の形成につながります。本研究は、発生過程におけるシグナル活性化のタイミングのわずかな違い(異時性)が、飛べる鳥と飛べない鳥という大きな形態差を生み出すことを示したものです。 本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」に2026年4月29日(水)にオンライン掲載されました。   研究者からひとこと「鳥が飛べるかどうかは、目に見える翼や羽だけでなく、体の中の胸骨の形や、骨格の軽量化など、様々な要因が重なって決まります。脊椎動物の飛翔に必須な構造である竜骨突起について、発生シグナルのタイミングという視点からその進化、発生機構の一端を明らかにできて嬉しいです。」(権昇俊)   「本研究では、シグナル活性化のタイミングのわずかな違いが、骨格形態、ひいては行動様式の大きな違いにつながることを示しました。次に焼鳥屋さんで食事をされる際には、この研究内容を思い出しながらヤゲン軟骨を味わっていただければ、研究者冥利に尽きます。」(熱田勇士)   研究の背景と経緯脊椎動物の骨格系は、主要な構成成分(ハイドロキシアパタイトやコラーゲンなど)は体の部位や生物種間で顕著な違いはありませんが、大きさや形状はバラエティに富みます。鳥類内でも骨格形態には種間差があり、特に飛翔可能な鳥類である胸峰類と、進化の過程で飛ぶことをやめた平胸類との間には大きな違いがあります。胸峰類はその分類名が示すように、胸骨の正中線上に鋭く突き出したブレード状の構造を持ちます。この構造は「竜骨突起」と呼ばれます(参考図A)。あまり聞き馴染みがないように思われますが、ニワトリの若鶏の竜骨突起の一部は、実はヤゲン軟骨として食されています。飛ぶ鳥はこの竜骨を持つおかげで、筋肉の付着面積を拡大でき、飛翔に必要となる分厚い胸筋をつくることができます(参考図B)。一方で、走鳥類はこの突出構造を進化の過程で失ったため、私たちのような平坦な胸骨を持ちます(参考図A、B)。そのため平胸類とも呼ばれます。竜骨突起の存在については飛翔に必須の構造として古くから知られていましたが、竜骨突起形成を制御する分子、あるいは種間における突起の有無を決めるメカニズムは謎に包まれていました。   研究の内容と成果胸骨は発生過程において、まず鋳型となる軟骨がつくられ、その後、硬い骨に置き換えられることで形成されます。権大学院生らは、胸峰類のニワトリと平胸類のエミューを実験対象として選定し(参考図A、B)、鳥類胸骨のテンプレートとなる軟骨形成について研究を行いました。意外に思われるかも知れませんが、ニワトリは家畜化され飛ぶのが苦手ですが、未だに飛翔する鳥の体型を保っており、胸峰類のモデルになりえます。一方のエミューは新たな家畜として注目されているオーストラリア原産の鳥類で、平胸類の中でも比較的有精卵を入手しやすいこと、近年ゲノム解析が進んだことなどから研究に利用しました。 研究グループははじめに、胸骨形成過程のどのプロセスで違いが生まれるのかを観察しました。胸骨の元となる前駆細胞は側板中胚葉(※4)の一部から生じることが知られています。観察の結果、前駆細胞は両者とも同じ発生段階にて出現することがわかりました。また、左右の側板中胚葉から生まれた前駆細胞が体の正中線まで移動し、そこで癒合することで一枚の胸骨板がつくられますが、そのプロセスにおいても顕著な違いは認められませんでした。しかしながら、さらに発生段階を進めると、ニワトリ胚では前駆細胞が増殖を続け、竜骨突起を形成していく一方で、エミュー胚では前駆細胞が、早期に増殖が低下した成熟軟骨へと分化するため突起形成が起きないことがわかりました。 次に、本田助教、沖教授および九州大学の大川恭行教授らによって開発された、光照射技術とRNAシーケンス(※5)法を組み合わせた領域特異的な遺伝子発現解析法(PIC-RNA-Seq)を用いて、両種の前駆細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に調べました。すると、前駆細胞では成熟細胞と比べて、TGF-β(形質転換増殖因子β)シグナルの活性化レベルが高いことが明らかになりました。さらに、独自に確立した前駆細胞の培養系や、胚内での前駆細胞の遺伝子操作技術を活用することで、前駆細胞におけるTGF-βの役割を調べたところ、TGF-βが前駆細胞の増殖に必要不可欠な働きを担うことがわかりました。 これらの結果は、ニワトリでは前駆細胞においてTGF-βシグナル活性化が持続することで、増殖が促され突起を形成する一方で、エミューではTGF-βが早期に低下するため、前駆細胞の増殖が低下し突起形成が起きないことを示唆しています(参考図C)。   今後の展開今後は、このTGF-βの活性化の異時性がどのように生まれるかについて、遺伝子発現制御の観点から研究を進めます。いわゆるエピジェネティックな解析を実施し、TGF-βの発現のオン・オフを決めるゲノムDNA配列を同定します。さらに、ニワトリ、エミューに加え、高い飛翔能力と相対的に大きな竜骨突起を持つハチドリのゲノム情報も利用し、そのDNA配列が進化の過程でどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目指します。 研究成果の概要 TGF-βシグナルの異時的な活性化が鳥類胸骨の形態多様性を生み出すことを解明 (A)ニワトリ胸骨上には竜骨突起がある一方で、エミューには突出構造がない。 (B)竜骨突起は分厚い胸筋が付着する足場となる。 (C)成果の要約図:エミューではTGF-βシグナルの活性化が早期に減弱するが、ニワトリでは活性化が維持され前駆細胞の増殖が続く。   用語解説(※1) TGF-β・・・細胞の増殖や分化を調節するシグナル分子の一つ。 (※2) 異時性・・・ヘテロクロニー。発生過程における現象の起こるタイミングの違いを指す。 (※3) エミュー・・・オーストラリアに生息する飛べない大型の鳥。 (※4) 側板中胚葉・・・胚の外側に位置する中胚葉の一部。体壁や内臓のもとになる組織。 (※5) RNAシーケンス・・・どの遺伝子が使われているか(発現するか)を網羅的に調べる方法。   謝辞本研究は、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS、JP23ama12107 and JP25ama121017)、創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)(JSPS、JP25K09649)、住友財団基礎科学助成、武田科学振興財団ライフサイエンス研究助成の支援を受け行われたものです。また、研究を進めるにあたりご協力いただいた農学研究院研究教育支援センター、トランスクリプトミクス研究会、日本蛇族学術研究所、そして、エミュー有精卵を供給してくださったきやまファームに感謝申し上げます。筆頭著者の権大学院生は、K-SPRING採択者(JST、JPMJSP2136)および学振特別研究員(JSPS、JP24KJ7193)として研究を遂行しました。   論文情報掲載誌:Nature Communications タイトル:Heterochronic activation of TGF-β signaling drives the diversity of the avian sterna 著者名:Seung June Kwon, Zhaonan Zou, Mizuki Honda, Shiro Egawa, Shinya Oki, Yuji Atsuta DOI:10.1038/s41467-026-72602-6   【九州大学】“ヤゲン軟骨の秘密”を解明〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜.pdf(632.61 KB) 論文掲載ページ (Nature Communicationsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田瑞季 助教)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室 講師熱田勇士(アツタユウジ) TEL:092-802-6556FAX:092-802-4270 Mail:atsuta.yuji.360*m.kyushu-u.ac.jp   <報道に関すること> 九州大学広報課 TEL:092-802-2130FAX:092-802-2139 Mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp   熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3269FAX:096-342-3110 Mail:sos-kohojimu.k@umamoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL:082-424-3701FAX:082-424-6040 Mail:koho*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.03.13
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    希少疾患「RelA異常症」のタイプを見分ける新しい法則の発見 〜重症度の見極めや治療選択の手がかりとなる可能性〜

    本研究成果のポイント 免疫や炎症の調整に異常が生じる希少疾患「RelA(レルエー)異常症」において、遺伝子の変異が起きる場所をもとに、症状の特徴を見分ける新しい指標を初めて確立しました。   概要今回、岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授)、早川博子(同大学院生)、津村弥来(同研究員)らの研究グループは、RelA異常症で多く認められる、切断型タンパクを生じるRELA遺伝子(注1)の変異に着目して解析を行いました。その結果、RelA-HI(半量不全変異)(注2)とRelA-DN(優性阻害変異)(注3)の分子病態を分ける機能的な境界領域を同定しました。 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究支援(原発性免疫不全症の診断率向上に向けたCD45陽性細胞を用いたマルチオミックス解析の開発、網羅的ゲノム解析のデータ二次利用に基づく原発性免疫不全症の広域診断体制構築に直結するエビデンス創出研究)、医学系研究支援プログラム(広島・神戸・熊本 医療革新・研究共同推進イニシアティブ(HK²-MIRAI))、文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)のサポートを受けて実施いたしました。 本研究成果は、2026年3月13日(金)に「Journal of Allergy and Clinical Immunology(Q1)」で公開されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   発表論文論文タイトルDiscovering patterns in the pathological significance of non-missense deleterious variants in RELA 著者Hiroko Hayakawa、Miyuki Tsumura、Takanori Utsumi、Hiroshi Nihira、Wei-Te Lei、Ryo Ogino、Giorgia Bucciol、Tomohiro Nakano、Kiyoko Amo、Kunihiko Moriya、Seiichi Hayakawa、Yoko Mizoguchi、Shuhei Karakawa、You-Ning Lin、Han-Po Shih、Chia-Chi Lo、Sunita Janssens-Willen、Sien Van Loo、Djalila Mekahli、Dusan Bogunovic、Stephanie Boisson-Dupuis、Kazushi Izawa、Cheng-Lung Ku、Takahiro Yasumi Takaki Asano、Isabelle Meyts、and Satoshi Okada* *Corresponding Author(責任著者) 掲載雑誌Journal of Allergy and Clinical Immunology DOI番号10.1016/j.jaci.2026.01.020   背景RelA異常症は、体の免疫や炎症の調整がうまくいかなくなる病気です。世界でも報告数が少ない希少疾患で、これまでに17家系45人が確認されています。 私たちの体では、感染や炎症が起こると、NF-κBシグナル経路(注4)という細胞内の情報伝達の仕組みが働き、免疫や炎症の調整が行われます(図1)。RelAは、このNF-κBシグナル経路で重要な役割を担うタンパク質の一つです。 RelA異常症は、RelAをつくるRELA遺伝子に変異が起きることで、RelAが正常につくられなくなり、免疫や炎症の調整がうまくいかなくなる病気です。RELA遺伝子の変異はこれまでに13種類見つかっています。 RelA異常症には、RelA-HI(半量不全変異)とRelA-DN(優性阻害変異)の2つのタイプがあります。RelA-HIは、異常なRelAが正常なRelAと結合することができないタイプで、慢性的な粘膜の潰瘍や自己免疫疾患が主な症状です。一方、RelA-DNは、異常なRelAが正常なRelAと結合して、正常なRelAの働きを阻害するタイプで、これらの症状に加えて、周期的な発熱、強い皮膚炎や腸炎など、より強い炎症症状を示すため、RelA-HIよりも重篤と考えられています。 また、これまでの研究から、RELA遺伝子に変異が起きると、多くの場合、短く切断されたRelA(切断型タンパク)を生じることが分かっています。   <図1>NF-κBシグナル経路と、RelA異常症における半量不全変異および優性阻害変異が引き起こす病態   研究成果の内容今回、新たに見つかったRelA異常症の患者5家系8人を対象にRELA遺伝子の解析を行いました。その結果と、これまでの報告をあわせて検討したところ、切断型タンパクでは、「切断された位置」によって、RelA-HIとRelA-DNの2つのタイプに分かれる分岐点があるのではないかと推測しました(図2)。そこで、切断型タンパクを人工的にたくさん作り出し、詳細に解析しました。その結果、RELA遺伝子の前半(N末端側)で切れるとRelA-HIに、後半(C末端側)で切れるとRelA-DNとなることが分かりました。さらに、これら2つのタイプを分ける境目は「アミノ酸P290」付近にあることが分かりました(図3)。 <図2>RelA-HIとRelA-DNの分子病態を分ける機能的分岐点の可能性 <図3>RelA-HIとRelA-DNを分ける機能的分岐点の同定   今後の展開本研究により、切断型のRelAタンパクを作るRELA遺伝子変異では、「切断された位置」を手がかりに病気のタイプを見分けることができる可能性が示されました。これにより、今後新しく見つかるRELA遺伝子変異の患者さんでも、より早く診断し、その人に合った治療を選びやすくなることが期待されます。   用語解説注1. RELA遺伝子:炎症や細胞増殖を制御する NF-κB シグナル経路の重要な因子である、RelA タンパクをコードする遺伝子です。 注2. 半量不全変異:遺伝子の一部が欠損または機能しないことで、作られるタンパクが十分に機能せず、正常に働くタンパクの量が不足することで病気を生じる状態を指します。 注3. 優性阻害変異:遺伝子変異によって生じた変異タンパクが、正常タンパクの機能を妨げることで病気を生じる状態を指します。 注4. NF-κBシグナル経路:免疫や炎症反応、細胞の増殖や生存を調節するために働く、細胞内の情報伝達の仕組みです。生体防御に不可欠である一方、その異常は自己免疫疾患や炎症性疾患などの発症に関与することが知られています。   報道発表資料(659.07 KB) 掲載誌:Journal of Allergy and Clinical Immunology 研究者ガイドブック(岡田 賢教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 広島大学大学院医系科学研究科小児科学教授 岡田賢 Tel:082-257-5212FAX:082-257-5214 E-mail:sokada@hiroshima-u.ac.jp   (広報に関すること) 広島大学広報室 〒739-8511 東広島市鏡山1-3-2 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.05.12
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    ヘルペスウイルスの病態の違いを生む仕組みを発見 抗ウイルス因子APOBEC3から逃れる力が病態の違いを左右する

    An official English press release has not yet been issued by the university.

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.26
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開

    ウニ胚や幼生の神経細胞は、細胞数が少なく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することが容易ではありません。今回、バフンウニについて、発生段階ごとの単一細胞RNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、誰もが手軽に1細胞レベルでの遺伝子発現を調べられる形で公開しました。   単一細胞RNAシーケンス(single-cell RNA-seq; scRNA-seq)は、個々の細胞がどの遺伝子を発現しているかを網羅的に解析できる強力な手法です。生物の発生過程では、同じ胚の中でも細胞が多様な運命へ分岐していきますが、scRNA-seqを用いると、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)だけでは捉えきれない「細胞ごとの違い」を明らかにすることができます。しかしながら、ウニ胚や幼生の神経細胞のように細胞数が少ない細胞集団は、解析データの中で埋もれやすく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することは困難です。 本研究では、バフンウニHemicentrotus pulcherrimusの胚発生(受精後24〜96時間)にわたるscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、発生段階に沿った細胞状態の変化を単一細胞レベルで体系的に整理しました。さらに、隣接する細胞の相互作用を薬理学的に阻害して、神経分化を増強させることで、通常条件では検出が難しい神経系の細胞集団や関連遺伝子群をより明瞭に捉えることに成功しました。得られたデータは、日本産ウニのゲノムデータベース(HpBase)にて公開し、計算解析に不慣れな研究者でも直感的に遺伝子発現を探索できる研究基盤として整備しました。   研究代表者 筑波大学生命環境系 谷口 俊介准教授 千葉大学大学院医学研究院 露崎 弘毅特任講師 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 山本 卓教授 国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室 池尾 一穂准教授   研究の背景 ウニは古くから発生生物学注1)の代表的な実験材料として用いられ、受精・卵割・原腸形成・細胞運命決定といった基本原理の解明に大きく貢献してきました。透明で操作しやすい胚を大量に得られる点に加え、外部からの処理や観察を組み合わせた実験設計に適しているという特徴があります。しかしながら、マウスやショウジョウバエなどの典型的なモデル生物と比較すると、系統維持や遺伝学的手法の蓄積には制約があり、近年急速に発展してきたゲノム解析注2)やトランスクリプトーム解析注3)などの大規模なデータ基盤は十分に整備されていません。 特に神経系の発生は、複数の細胞系列が精密に分化、配置される過程であり、限られた数の神経細胞やそのターゲットとなる細胞が時間とともに変化していくため、網羅的に捉えることが難しい研究対象です。実際にウニ胚や幼生においては、神経細胞は全細胞の中で相対的に少数であるため、単一細胞RNAシーケンス解析(scRNA-seq)注4)を行っても神経クラスターが小さくなり、神経分化を駆動する転写因子やシグナル経路を同定する際の感度が課題となっていました。そこで本研究では、発生段階を通したscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)の構築に加え、解析で見えにくい細胞集団を見えやすくするために、神経分化に強く関与するDelta–Notch経路注5)を実験的に抑制して神経細胞系列を増やし、ウニ神経発生の分子基盤をより高解像度で捉えることを目指しました。   研究内容と成果 本研究ではまず、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)の受精後24、36、48、72、96時間という発生の主要段階から単一細胞データを取得し、発生が進むにつれて細胞集団がどのように分岐し、多様化していくのかを可視化できるscRNA-seqアトラス注6)を構築しました。これにより、ウニ胚発生における細胞状態の連続的変化を単一細胞解像度で追跡できるだけでなく、細胞種・細胞系列ごとに特徴的な遺伝子発現プロファイルを参照できる「地図」として機能する基盤が整いました。 次に、胚に対して、Delta–Notch経路(細胞間の相互作用)を阻害する薬剤処理を行い、神経分化が増強される条件を作り出しました。その結果、神経系に相当する細胞集団が相対的に増加し、通常条件では小さくなりがちな神経関連クラスターや、その中で発現する神経分化関連遺伝子がより明確に検出できるようになりました。これは、scRNA-seqの弱点である「少数細胞集団の見えにくさ」を実験操作で補い、神経発生の分子制御の理解を促す有効なアプローチであることを示しています。 このようにして得られた単一細胞データは、研究活動に幅広く活用できるよう、日本産ウニのゲノムデータベースHpBaseにて公開し、フリーソフトKana注7)を用いて解析できるプロトコルを示しました(参考図)。これにより、特定の遺伝子の発現がどの細胞集団で、どの発生段階に現れるのかを直感的に探索でき、計算解析に不慣れな研究者でも実験計画や仮説検証に利用しやすくなります。また、scRNA-seqアトラスを参照として用いることで、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)の結果から細胞タイプ組成の変化を推定する枠組みも提示し、従来のバルク解析とscRNA-seqを橋渡しする実用的な解析フローを確立しました。   今後の展開 本研究成果は、ウニ神経発生の理解を深めるだけでなく、非モデル生物におけるscRNA-seqの活用を促進し、発生・進化・比較生物学を横断した研究展開に資する基盤になると期待されます。   参考図 図本研究で構築したウニ胚と幼生の単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)アトラス ウニ胚と幼生の発生ステージ(Stages of embryo/larvae、上段)に沿って、受精後24、36、48、72、96時間における細胞集団のscRNA-seq解析結果をアトラス(Single-cell scRNA-seq atlas)として整理した。各時点の細胞は、対照(Control、紫)と薬剤処理(Reagent、緑)で色分けして示した。薬剤は受精後16時間に添加し、その後の細胞状態の変化を単一細胞レベルで比較できる。特定領域を拡大すれば、処理条件ごとに目立つ細胞集団の変化を直感的に把握できる。得られたscRNA-seqアトラスはデータベースHpBase上で公開し、ブラウザ上で遺伝子発現の探索が可能。   用語解説 注1) 発生生物学 たった一つの細胞である受精卵から体が形作られるまでの分子メカニズムを解明する学問。細胞内外のシグナル分子の働きと、DNAに結合して遺伝子発現を調節する転写因子の機能解析などを通じて、時間的空間的にその生物個体に何が起きているのかを明らかにする。 注2) ゲノム解析 生物がもつ全DNA配列(ゲノム)を読み取り、遺伝子の種類、配置、変異を調べる解析。これにより生物の形質や進化、疾患、適応の基盤を理解する。 注3) トランスクリプトーム解析 細胞や組織で実際に転写されている全RNA(主にmRNA)を網羅的に測定する解析。どの遺伝子がどれくらい使われているかを示し、発生段階、細胞種、条件差による発現変化を捉える。 注4) 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq) 多細胞生物の体を構成する細胞に発現しているmRNAを細胞ごと網羅的に解析する手法。 注5) Delta-Notch経路 隣接する細胞が相互作用することで互いに異なる運命をもたらすメカニズムで、多くの動物の神経細胞分化の過程で見られる。DeltaとNotchはいずれも細胞膜上の膜タンパク質で、隣接する一方の細胞のDeltaがもう一方の細胞のNotchと結合することで、この細胞でのDeltaの発現を抑制し、役割の異なる細胞を分化させる。 注6) アトラス 細胞・組織・遺伝子発現などを網羅的にまとめたデータ集。単一細胞RNA-seqアトラスは、発生段階や臓器ごとに、存在する細胞タイプや遺伝子発現の分布を細胞単位で示す参照地図。 注7) Kana scRNA-seqの結果をブラウザ上で直感的に閲覧・探索できるフリーソフト。遺伝子の発現パターン、クラスター(細胞集団)、細胞タイプの違いを可視化できる。   研究資金 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C, JPMJPR1945;2019-2022年度)、科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業が助成するA-STEP(JPMJTR204E; 2019-2024年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤研究(B)(23K23933; 2022-2025年度)、(C)(23K11312;2023-2027年度)、(若手)(19K20406: 2019-2022 年度)による助成によって実施されました。   掲載論文 【題名】 Single-cell transcriptomic resources for tracing neurogenesis and cell fate specification in sea urchin embryos (ウニ胚における神経形成と細胞運命決定を解析するための単一細胞RNA-seqリソース) 【著者名】 *Koki Tsuyuzaki, Junko Yaguchi, Takashi Yamamoto, Kazuho Ikeo, *Shunsuke Yaguchi (*責任著者) 【掲載誌】 Development 【掲載日】 2026年2月26日 【DOI】 10.1242/dev.205025   【プレスリリース】ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開.pdf(1.1 MB) 掲載誌:Development 研究者ガイドブック(山本卓教授)   【問い合わせ先】 【研究に関すること】 谷口俊介(やぐちしゅんすけ) 筑波大学生命環境系/下田臨海実験センター准教授 TEL: 0558-22-1317 URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home X@urchin_lab   【取材・報道に関すること】 筑波大学 広報局 TEL: 029-853-2040 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp   千葉大学 広報室 TEL: 043-290-2018 E-mail: koho-press@chiba-u.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-4518 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   国立遺伝学研究所 TEL: 055-981-5873 E-mail: prkoho@nig.ac.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    • 健康/スポーツ
    2026.05.14
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    • 健康/スポーツ
    PAI-1阻害薬「TM5614」の抗老化効果をヒトで確認 -XPRIZE Healthspanセミファイナル臨床試験結果-

    【発表のポイント】 XPRIZE Healthspan (注1)のセミファイナル臨床試験において、PAI-1阻害薬「TM5614」(注2)を高齢者へ4ヶ月投与した結果、生物学的年齢(注3)が平均2〜3歳若返るなど、ヒトの遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク・細胞レベルで抗老化効果を確認しました。 免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、凝固・線溶、抗酸化など、広範な改善が確認され、比較的健常な高齢者にも安全に投与可能であることが示されました。 TM5614は「老化細胞を除去し、種々の加齢に伴う症状を改善できる新たな内服薬(Senolytic drug)候補」として健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆され、XPRIZE Healthspanファイナル試験への申請に向けた重要な臨床データが取得できました。   【概要】これまでTM5614は多くのがん患者には投与されてきましたが、比較的健康な高齢者を対象とした臨床試験は初めてです。 東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは、国際的な長寿コンペティション「XPRIZE Healthspan」のセミファイナル臨床試験(特定臨床研究)を実施しました。本試験では、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有する50歳以上75歳以下の被験者20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。その結果、生物学的年齢が平均して2〜3歳若返り、免疫や再生の機能が回復し、老化を促す物質が減少するなど、全身の抗老化を示唆する知見が確認されました。さらに、老化関連microRNA(注4)の減少、抗炎症や代謝改善に関わるタンパク質の変動、免疫細胞および造血幹細胞の機能回復、酸化ストレスマーカーの改善など、遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク、細胞レベルにわたる広範な改善が認められました。また、重大な副作用は確認されず、比較的健康な高齢者に対しても安全に投与可能であることが示されました。 本成果は、老化そのものに介入する内服薬の臨床応用の可能性を示すものであり、健康寿命の延伸に向けた新たな治療戦略として期待されます。今後は、2026年8月のファイナリスト選定を経て、日本、米国、サウジアラビア、台湾との国際共同による大規模臨床試験の実施を目指します。   【詳細な説明】研究の背景XPRIZE Healthspanの公募要項によれば、セミファイナリスト(TOP40)は、最終的な4年間のファイナル臨床試験の実現可能性を支持するための短期間(4週〜8週)、小規模(5~20人)の臨床試験をセミファイナル臨床試験として実施しなければいけません。そこで、東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは共同で、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有し、症状が安定している50歳以上75歳以下の20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与する非盲検試験をセミファイナル臨床試験として実施しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。 投与期間が短期間のため、各種臓器の抗老化作用を評価することは難しいことから、老化、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、各種臓器の老化に関わる遺伝子、エピゲノム(遺伝子修飾)、タンパク、細胞などのバイオマーカー(注5)の変動を解析しました。 実施医療機関は東北大学、さらに検査などの協力機関として広島大学、東海大学が参加しました。TM5614を4ヶ月間投与した前後の検査が実施できた19名の患者(平均年齢60.4±5.6歳、男性13名、女性6名)を有効性評価の対象とし、TM5614投与を受けた20名の患者を安全性評価の対象としました。 その結果、安全性に関しては、TM5614との因果関係が否定できない有害事象は1例で認められましたが(軽度肝機能異常)、その他の重篤な副作用は出血イベントを含めて確認されませんでした。 また有効性に関して、投与期間は4ヶ月と比較的短い期間でしたが、全身の抗老化を示唆する下記の知見が確認されました。   (1) エピゲノムあるいは遺伝子レベルでの改善 1) 生物学的年齢 (Epigenetic clock)の若齢化 遺伝子 (DNA)のメチル化修飾(エピゲノム)を解析することにより、生物学的年齢を推定することが可能です。白血球を用いたDNAメチル化解析に基づき、Horvath法及びPC-Horvath法(注6)を用いて生物学的年齢を推定した結果、対象者の実年齢(平均60.4歳)に対し推定した生物学的年齢はそれぞれ61.7歳および58.0歳と、実年齢に近い値を示しました。4ヶ月間の投与後における解析では、Horvath法で58.3歳(p< 0.001, 19人中15人で減少)、PC-Horvath法で56.1歳(p< 0.001, 19人中18人で減少)へと有意な若齢化が認められました(それぞれ3.4歳および1.9歳の生物学的年齢の若齢化を確認しました)(図1)。   2)老化関連microRNA(Senescence-associated (SA)-miRNA)の減少 microRNA(miRNA)は、遺伝子発現を調節する長さ約20塩基のRNAです。血清中の老化関連senescence-associated(SA)-miRNAを解析したところ、SA-miRNA(miR-22-3p、miR-18a-5p、miR-28-5p、miR-17-3p、miR-195-5p、miR-205-5p)はいずれも有意に低下し、老化を誘導する遺伝子発現制御が軽減したことが示唆されました(図2)。   (2)タンパクレベルの改善 アプタマー(核酸抗体)を用いたソマスキャンアッセイ(注7)により7596個の血漿タンパク質を解析しました。有意に増加したタンパクが 356個(4.7%)、有意に低下したタンパクが199個(2.6%)でした。19人中多くの被験者が同様に変化し、有意な変動が認められたタンパク質が複数見出されました。抗加齢作用と関連する複数のタンパク質の変化が認められ(図3)、抗炎症作用やマクロファージ機能の改善、骨および筋肉組織形成の改善、認知機能および神経生理機能の改善、抗血栓作用、脂質代謝改善、小胞体(ER)ストレス改善など、老化防止に関わる可能性が示唆されました。   (3)細胞レベルでの改善 1)免疫系の活性化 末梢血中の免疫細胞を表面マーカーで分画したところ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)(注8)数の減少(p

123
Copyright © 2020- 広島大学