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    2025.10.23
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    未培養微生物を資源化する革新的培養技術

    この研究成果は2025年10月23日に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催で開催されました新技術説明会に出展しました。   新技術の概要本技術は、ゲルマイクロドロップレットを活用し、難培養微生物の資源化する革新的スクリーニング手法である。具体的には、難培養微生物を可培養化する新規培養技術と、10⁸個という膨大なサンプル数から目的活性を有する微生物を評価・選別する、ハイスループットスクリーニング手法を組み合わせることで実現する。   従来技術・競合技術との比較従来の分離培養技術では環境微生物のうち1%程度しか培養できないが、本手法では50%という微生物学の常識を覆す割合の微生物が可培養化される。また、従来のドロップレット培養技術では、培養菌体の活性や機能評価は極めて困難であったが、本技術では、多様な機能を対象に評価することを可能にする。   新技術の特徴 10⁸個という極めて多数の独立した培養系の機能評価が可能 新規酵素、化合物変換活性、特定物質生産活性、抗菌活性、特定遺伝子阻害活性など多様な評価に対応可能 従来法では培養できない未培養・難培養微生物も評価・利用可能   想定される用途 未培養・難培養微生物の資源化(創薬資源) 未培養・難培養微生物の資源化(農業・食品・化学分野) 変異株ライブラリーを用いた超高速スクリーニング   ほとんどの微生物は未培養・培養困難 未培養微生物の資源化におけるボトルネック 目的:GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 難培養微生物の可培養化 ドロップレット技術を活用した新規分離培養手法の開発 ー GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)   難培養微生物の資源化 ドロップレット技術を活用した新規スクリーニング手法の開発 ー 難培養微生物の可培養化と機能・活性ベースのスクリーニングを同時に実現   ゲル微粒子(GMD)の凝集培養を用いた未培養・難培養微生物の可培養化 GMD凝縮培養の手順 A Micro-colony in GMDs GMD培養中における増殖の追跡:可培養化率(Cultivability) GMD培養の期間中どのようなタイプが増殖しているのか? まとめ:GMD凝集培養(微生物間相互作用を促進)の培養性能 GMD培養技術により、2つのボトルネックを同時に解消する 革新的なハイスループットスクリーニング手法の開発 目的:108個のGMD全てを供試可能な超ハイスループットスクリーニング手法の開発 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 抗菌物質生産菌をターゲットにしたスクリーニング系の構築 Proof of Concept :モデル系を用いた実証試験 結果 環境微生物からの抗菌活性スクリーニング 2種類のmMD(bGMDとGMD in WODL) PoC: 酵素活性(セルラーゼ活性)を指標としたスクリーニング系の構築 環境微生物の可培養化と酵素活性(セルラーゼ活性)の検出 結論と展望 実用化に向けた今後の課題 目的の機能を有する新規微生物を獲得する 多様な機能を検出可能なスクリーニング系の構築 実用的なターゲットで方法論の有効性を実証する   難培養微生物を可培養化(従来アクセスできなかった微生物を利用可能) 超ハイスループット(108株を短時間で機能評価することが可能) 多様な機能(抗菌、酵素活性など)を指標とした探索に適用可能 環境微生物、変異株ライブラリーなど、様々な生物種に適用可能   本技術の創出に寄与した外部資金科研費 基盤研究(B)25K01934 新学術領域研究 (研究領域提案型)22H04887 新学術領域研究 (研究領域提案型) 20H05587 基盤研究(B)19H02873 若手研究(A)26709063   NEDO NEDO カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発   財団 内藤記念科学振興財団 研究助成 シオノギ感染症研究振興財団 研究助成   本技術に関する知的財産権 発明の名称:微生物の分離培養方法及び擬集体含有溶液 出願番号:特願願2015-196882(特許第6785465) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、高木雄貴、大橋晶良   発明の名称:スクリーニング方法および溶液 出願番号:特願2023-139257(PCT/JP2024/010423) 出願人:広島大学 発明者:青井議輝、下村有美、新山海   研究者青井議輝 広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授

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    2026.02.25
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    鎖骨頭蓋異形成症の新たな病態モデルを確立 〜Runx2のミスセンス変異が骨と歯の形成に与える影響〜

    本研究成果のポイント 鎖骨等の未発達や無形性により発症する鎖骨頭蓋異形成症(※1)の患者さんと同じタイプのRunx2(※2)ミスセンス変異(※3)を持つマウスモデルの系統を確立しました。このマウスを用いて、骨や歯の根が分かれる過程にも異常が生じることを明らかにしました。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の小川咲希大学院生、樋口真之輔助教(研究当時)、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(研究当時)、宿南知佐教授の研究グループは、同研究科の星野麻里大学院生(研究当時)、濱田充子助教、内部健太准教授、岡本哲治教授(研究当時)、谷本幸太郎教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学大学院農学研究科の佐久間哲史特定教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小守壽文教授らの研究グループとの共同研究で、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる「鎖骨頭蓋異形成症」の原因を詳しく調べるため、骨形成の鍵となる遺伝子Runx2に、患者さんと同じタイプの変化を導入した新しいモデルマウスを作製しました。 このマウスでは、人の患者さんと同様に、鎖骨の発達不全や頭の骨のつなぎ目が閉じないといった特徴が確認されました。また、歯の形成を詳しく調べたところ、上あごの一番目の永久歯で、歯の根が分かれる過程に異常が生じ、本来はできない「根のような小さな突起」ができることを発見しました。 これらの結果から、Runx2の働きが弱くなることで、骨だけでなく歯の根が分岐する過程にも影響が及ぶことが明らかになりました。本研究で作製したモデルマウスは、鎖骨頭蓋異形成症の病態解明や、将来の治療法開発に役立つと期待されます。   本研究成果は、2025年12月27日付けで、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Functional impact of pathogenic mutations in the Runt homology domain of mouse Runx2 on skeletal and dental phenotypes in cleidocranial dysplasia 著者 小川咲希1, 2、樋口真之輔1、吉本由紀1、星野麻里1, 3、三浦重徳1、濱田充子3、渡邊仁美4、佐久間哲史5、Hu Kadi1、緒方駿1, 2、内部健太6、藤本勝巳1、山本卓7、岡本哲治3、國松亮2、外丸祐介8、谷本幸太郎2、近藤玄4、小守壽文9、Denitsa Docheva10、宿南知佐1   1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学 2. 広島大学・大学院医系科学研究科・歯科矯正学 3. 広島大学・大学院医系科学研究科・口腔腫瘍制御学 4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野 5. 京都大学・大学院農学研究科・ゲノム編集育種講座(産学共同) 6. 広島大学・大学院医系科学研究科・顎顔面解剖学 7. 広島大学・大学院統合生命科学研究科・分子遺伝学 8. 広島大学・自然科学研究支援開発センター 9. 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・分子腫瘍生物学 10. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus & University of Wuerzburg   掲載雑誌 Journal of Bone and Mineral Research DOI番号 10.1093/fjbmr/zjaf201.   背景 鎖骨頭蓋異形成症は、生まれつき骨や歯の発達に異常が起こる疾患です。鎖骨が十分に発達しなかったり、頭の骨のつなぎ目が閉じにくかったり、永久歯への生え替わりが遅れるほかに、余分な歯が多く出来るなどの問題を伴うことも少なくありません。 この疾患の主な原因は、骨が出来る過程や軟骨が成長して成熟していく過程を調節する鍵となる「RUNX2」という分子の働きが不十分になるために起こります。特に、この分子の中でも重要な部分である「Runtホモロジードメイン」(※4)に異常が発生するケースが多く報告されています。しかし、これまで、患者さんで見られる「Runtホモロジードメイン」の異常や変異を忠実に再現した動物モデルが存在せず、どのように骨や歯に異常が生じるのかは、十分にわかっていませんでした。そのため、患者さんで見出されたものと同様の変異を遺伝子に導入した新しい疾患モデルマウスの開発が求められてきました。   研究成果の内容 本研究では、ゲノム編集技術を用いて、Runx2の機能に必須であるRuntホモロジードメインの232番目のアルギニンがグルタミンに置換されたミスセンス変異を有する新規の鎖骨頭蓋異形成症モデルマウスを作製しました(図1)。ヘテロ接合体(※5)では、ヒトの鎖骨頭蓋異形成症に特徴的な鎖骨の低形成および大泉門の開存が観察されました。ホモ接合体(※6)では、1997年にCell誌で初めて報告されたRunx2欠失マウスと同様に、膜性骨化(※7)が観察されず(図2)、ミスセンス変異蛋白質の転写活性化能が消失し、発現量も著しく低下していることが明らかになりました。また、ミスセンス変異と欠失変異(※8)のいずれでも、ヘテロ接合体では、上顎第一大臼歯の歯根が分かれる過程の異常により、本来なら平らになるべき髄床底(※9)に小さな根様の突起が生じることが見出されました(図3)。本研究により、ミスセンス変異によって、骨形成の鍵となる転写因子Runx2の機能が失われ、ハプロ不全(※10)によって、上顎第一大臼歯の歯根分岐過程に異常が起こることが明らかになりました。   今後の展開 これらの成果は、鎖骨頭蓋異形成症で起こる骨や歯の異常を理解する手がかりとなり、歯の再生医療や将来の治療法開発につながることが期待されます。   参考資料 図 1〜3は、Journal of Bone and Mineral Research誌に掲載された図を引用・改変したものです (doi.org/10.1093/jbmr/zjaf201)。   用語解説 (※1)鎖骨頭蓋異形成症 骨や歯の形成に異常を生じる遺伝性の疾患です。鎖骨が短いあるいは欠失している、頭蓋骨の縫合が閉じないあるいは閉じるのが遅い、といった症状が主に見られますが、特に患者さんにとって問題となるのが、乳歯が抜けず永久歯が生えてこないことや余分な歯ができてしまうことです。   (※2)Runx2 骨を形成する骨芽細胞の分化に必須の遺伝子です。ヒトでは第6染色体、マウスでは第17染色体に位置し、いずれも8つのエクソンから構成されています。骨芽細胞の形成に重要な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。   (※3)ミスセンス変異 蛋白質を構成するアミノ酸の1つが、塩基配列の変化により他のアミノ酸に置換されることで異常な蛋白質が生じる変異です。   (※4)Runtホモロジードメイン Runx2とそのファミリー遺伝子の蛋白質に存在する、DNA結合に必須の機能を持つ構造(ドメイン)です。約128アミノ酸で構成されており、異なる生物間でも高度に保存されています。   (※4)ヘテロ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ一対の遺伝子(対立遺伝子)が異なっている状態を示します。どちらか片方の形質が現れる場合や、2つの中間の形質が現れる場合があります。   (※6)ホモ接合体 父親と母親から1つずつ受け継いだ対立遺伝子の両方に野生型とは異なる変異が生じている状態を示します。   (※7)膜性骨化 脊椎動物の骨の形成過程の種類の一つです。膜性骨化は、結合組織の未分化な間葉系細胞から直接骨芽細胞が分化し骨が形成される様式で、はじめに軟骨が形成されてから骨が形成される内軟骨性骨化とは異なります。膜性骨化は、鎖骨や頭蓋骨、下顎骨の一部などで主にみられます。   (※8)欠失変異 遺伝子の塩基配列の中で塩基がいくつか欠失することにより、欠失部位以降のアミノ酸が変化し、本来よりも早い段階で蛋白質の生成が止まってしまう変異です。   (※9)髄床底 大臼歯のような複数の歯根を持つ歯では、歯根間に平坦な構造が形成されます。髄床底は、歯の神経(歯髄)を支えるために重要な部位です。   (※10)ハプロ不全 対立遺伝子のうち片方が機能不全の場合に、正常な遺伝子の量が不足することによって疾患が発症する現象です。   報道発表資料(828.06 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Bone and Mineral Research 研究者ガイドブック(宿南 知佐 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院医系科学研究科医歯薬学専攻生体分子機能学 教授宿南知佐 TEL:082-257-5628FAX:082-257-5629 E-mail:shukunam@hiroshima-u.ac.jp URL:http://tnmd.hiroshima-u.ac.jp/j_html/j_index.html   <報道(広報)に関すること> 広島大学広報室 TEL:082-424-4383Fax:082-424-6040 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2026.05.11
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    “ヤゲン軟骨の秘密”を解明 〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜

    本研究成果のポイント 飛翔する鳥は胸骨に「竜骨突起」を持つ一方、走行性の鳥は平らな胸骨を持つことに着目 軟骨前駆細胞の増殖を促すTGF-β(※1)シグナルが、竜骨突起形成細胞では長く活性化する TGF-βシグナル活性化の“異時性(※2)”が、竜骨突起の有無を決めることを世界で初めて発見 骨格形態の多様化メカニズムの解明に加え、胸郭変形症の発症機序の理解にもつながる成果   概要脊椎動物の骨格は実に多様で、それぞれの動物の行動様式に適応した形をとります。鳥類の胸骨形態の違いはその典型例です。飛翔する鳥(胸峰類)は、胸骨の中央に「竜骨突起」と呼ばれるブレード状の構造を持ち、これが強力な飛翔筋の土台となります。一方、ダチョウやエミュー(※3)など走って移動する鳥(平胸類)は、この突起を持たず平らな胸骨をしています。こうした違いは進化の過程で生まれましたが、その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。 九州大学大学院システム生命科学府の権昇俊大学院生、理学研究院の熱田勇士講師は、農学研究院の江川史朗助教、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖真弥教授、鄒兆南助教、広島大学大学院統合生命科学研究科の本田瑞季助教と共同で、この問題解決に取り組みました。竜骨突起は胚発生期に形成されることから、研究グループはニワトリ胚(胸峰類)とエミュー胚(平胸類)を実験モデルとして、まず胸骨発生過程を比較しました。その結果、両者とも同じように胸骨のもととなる前駆細胞が現れるものの、ニワトリではこの前駆細胞が長く増え続けて竜骨突起をつくるのに対し、エミューでは早い段階で成熟してしまい、突起が形成されないことを明らかにしました。さらに、この違いの鍵となるのが「TGF-βシグナル」という細胞間の情報伝達であることを突き止めました。ニワトリではこのシグナルが長く働き続けることで細胞の増殖が保たれ、竜骨突起の形成につながります。本研究は、発生過程におけるシグナル活性化のタイミングのわずかな違い(異時性)が、飛べる鳥と飛べない鳥という大きな形態差を生み出すことを示したものです。 本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」に2026年4月29日(水)にオンライン掲載されました。   研究者からひとこと「鳥が飛べるかどうかは、目に見える翼や羽だけでなく、体の中の胸骨の形や、骨格の軽量化など、様々な要因が重なって決まります。脊椎動物の飛翔に必須な構造である竜骨突起について、発生シグナルのタイミングという視点からその進化、発生機構の一端を明らかにできて嬉しいです。」(権昇俊)   「本研究では、シグナル活性化のタイミングのわずかな違いが、骨格形態、ひいては行動様式の大きな違いにつながることを示しました。次に焼鳥屋さんで食事をされる際には、この研究内容を思い出しながらヤゲン軟骨を味わっていただければ、研究者冥利に尽きます。」(熱田勇士)   研究の背景と経緯脊椎動物の骨格系は、主要な構成成分(ハイドロキシアパタイトやコラーゲンなど)は体の部位や生物種間で顕著な違いはありませんが、大きさや形状はバラエティに富みます。鳥類内でも骨格形態には種間差があり、特に飛翔可能な鳥類である胸峰類と、進化の過程で飛ぶことをやめた平胸類との間には大きな違いがあります。胸峰類はその分類名が示すように、胸骨の正中線上に鋭く突き出したブレード状の構造を持ちます。この構造は「竜骨突起」と呼ばれます(参考図A)。あまり聞き馴染みがないように思われますが、ニワトリの若鶏の竜骨突起の一部は、実はヤゲン軟骨として食されています。飛ぶ鳥はこの竜骨を持つおかげで、筋肉の付着面積を拡大でき、飛翔に必要となる分厚い胸筋をつくることができます(参考図B)。一方で、走鳥類はこの突出構造を進化の過程で失ったため、私たちのような平坦な胸骨を持ちます(参考図A、B)。そのため平胸類とも呼ばれます。竜骨突起の存在については飛翔に必須の構造として古くから知られていましたが、竜骨突起形成を制御する分子、あるいは種間における突起の有無を決めるメカニズムは謎に包まれていました。   研究の内容と成果胸骨は発生過程において、まず鋳型となる軟骨がつくられ、その後、硬い骨に置き換えられることで形成されます。権大学院生らは、胸峰類のニワトリと平胸類のエミューを実験対象として選定し(参考図A、B)、鳥類胸骨のテンプレートとなる軟骨形成について研究を行いました。意外に思われるかも知れませんが、ニワトリは家畜化され飛ぶのが苦手ですが、未だに飛翔する鳥の体型を保っており、胸峰類のモデルになりえます。一方のエミューは新たな家畜として注目されているオーストラリア原産の鳥類で、平胸類の中でも比較的有精卵を入手しやすいこと、近年ゲノム解析が進んだことなどから研究に利用しました。 研究グループははじめに、胸骨形成過程のどのプロセスで違いが生まれるのかを観察しました。胸骨の元となる前駆細胞は側板中胚葉(※4)の一部から生じることが知られています。観察の結果、前駆細胞は両者とも同じ発生段階にて出現することがわかりました。また、左右の側板中胚葉から生まれた前駆細胞が体の正中線まで移動し、そこで癒合することで一枚の胸骨板がつくられますが、そのプロセスにおいても顕著な違いは認められませんでした。しかしながら、さらに発生段階を進めると、ニワトリ胚では前駆細胞が増殖を続け、竜骨突起を形成していく一方で、エミュー胚では前駆細胞が、早期に増殖が低下した成熟軟骨へと分化するため突起形成が起きないことがわかりました。 次に、本田助教、沖教授および九州大学の大川恭行教授らによって開発された、光照射技術とRNAシーケンス(※5)法を組み合わせた領域特異的な遺伝子発現解析法(PIC-RNA-Seq)を用いて、両種の前駆細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に調べました。すると、前駆細胞では成熟細胞と比べて、TGF-β(形質転換増殖因子β)シグナルの活性化レベルが高いことが明らかになりました。さらに、独自に確立した前駆細胞の培養系や、胚内での前駆細胞の遺伝子操作技術を活用することで、前駆細胞におけるTGF-βの役割を調べたところ、TGF-βが前駆細胞の増殖に必要不可欠な働きを担うことがわかりました。 これらの結果は、ニワトリでは前駆細胞においてTGF-βシグナル活性化が持続することで、増殖が促され突起を形成する一方で、エミューではTGF-βが早期に低下するため、前駆細胞の増殖が低下し突起形成が起きないことを示唆しています(参考図C)。   今後の展開今後は、このTGF-βの活性化の異時性がどのように生まれるかについて、遺伝子発現制御の観点から研究を進めます。いわゆるエピジェネティックな解析を実施し、TGF-βの発現のオン・オフを決めるゲノムDNA配列を同定します。さらに、ニワトリ、エミューに加え、高い飛翔能力と相対的に大きな竜骨突起を持つハチドリのゲノム情報も利用し、そのDNA配列が進化の過程でどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目指します。 研究成果の概要 TGF-βシグナルの異時的な活性化が鳥類胸骨の形態多様性を生み出すことを解明 (A)ニワトリ胸骨上には竜骨突起がある一方で、エミューには突出構造がない。 (B)竜骨突起は分厚い胸筋が付着する足場となる。 (C)成果の要約図:エミューではTGF-βシグナルの活性化が早期に減弱するが、ニワトリでは活性化が維持され前駆細胞の増殖が続く。   用語解説(※1) TGF-β・・・細胞の増殖や分化を調節するシグナル分子の一つ。 (※2) 異時性・・・ヘテロクロニー。発生過程における現象の起こるタイミングの違いを指す。 (※3) エミュー・・・オーストラリアに生息する飛べない大型の鳥。 (※4) 側板中胚葉・・・胚の外側に位置する中胚葉の一部。体壁や内臓のもとになる組織。 (※5) RNAシーケンス・・・どの遺伝子が使われているか(発現するか)を網羅的に調べる方法。   謝辞本研究は、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS、JP23ama12107 and JP25ama121017)、創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)(JSPS、JP25K09649)、住友財団基礎科学助成、武田科学振興財団ライフサイエンス研究助成の支援を受け行われたものです。また、研究を進めるにあたりご協力いただいた農学研究院研究教育支援センター、トランスクリプトミクス研究会、日本蛇族学術研究所、そして、エミュー有精卵を供給してくださったきやまファームに感謝申し上げます。筆頭著者の権大学院生は、K-SPRING採択者(JST、JPMJSP2136)および学振特別研究員(JSPS、JP24KJ7193)として研究を遂行しました。   論文情報掲載誌:Nature Communications タイトル:Heterochronic activation of TGF-β signaling drives the diversity of the avian sterna 著者名:Seung June Kwon, Zhaonan Zou, Mizuki Honda, Shiro Egawa, Shinya Oki, Yuji Atsuta DOI:10.1038/s41467-026-72602-6   【九州大学】“ヤゲン軟骨の秘密”を解明〜飛ぶ鳥と走る鳥で異なる胸骨の形はどう生まれるのか〜.pdf(632.61 KB) 論文掲載ページ (Nature Communicationsに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田瑞季 助教)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室 講師熱田勇士(アツタユウジ) TEL:092-802-6556FAX:092-802-4270 Mail:atsuta.yuji.360*m.kyushu-u.ac.jp   <報道に関すること> 九州大学広報課 TEL:092-802-2130FAX:092-802-2139 Mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp   熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3269FAX:096-342-3110 Mail:sos-kohojimu.k@umamoto-u.ac.jp   広島大学 広報室 TEL:082-424-3701FAX:082-424-6040 Mail:koho*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2026.03.13
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    希少疾患「RelA異常症」のタイプを見分ける新しい法則の発見 〜重症度の見極めや治療選択の手がかりとなる可能性〜

    本研究成果のポイント 免疫や炎症の調整に異常が生じる希少疾患「RelA(レルエー)異常症」において、遺伝子の変異が起きる場所をもとに、症状の特徴を見分ける新しい指標を初めて確立しました。   概要今回、岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授)、早川博子(同大学院生)、津村弥来(同研究員)らの研究グループは、RelA異常症で多く認められる、切断型タンパクを生じるRELA遺伝子(注1)の変異に着目して解析を行いました。その結果、RelA-HI(半量不全変異)(注2)とRelA-DN(優性阻害変異)(注3)の分子病態を分ける機能的な境界領域を同定しました。 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究支援(原発性免疫不全症の診断率向上に向けたCD45陽性細胞を用いたマルチオミックス解析の開発、網羅的ゲノム解析のデータ二次利用に基づく原発性免疫不全症の広域診断体制構築に直結するエビデンス創出研究)、医学系研究支援プログラム(広島・神戸・熊本 医療革新・研究共同推進イニシアティブ(HK²-MIRAI))、文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)のサポートを受けて実施いたしました。 本研究成果は、2026年3月13日(金)に「Journal of Allergy and Clinical Immunology(Q1)」で公開されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。   発表論文論文タイトルDiscovering patterns in the pathological significance of non-missense deleterious variants in RELA 著者Hiroko Hayakawa、Miyuki Tsumura、Takanori Utsumi、Hiroshi Nihira、Wei-Te Lei、Ryo Ogino、Giorgia Bucciol、Tomohiro Nakano、Kiyoko Amo、Kunihiko Moriya、Seiichi Hayakawa、Yoko Mizoguchi、Shuhei Karakawa、You-Ning Lin、Han-Po Shih、Chia-Chi Lo、Sunita Janssens-Willen、Sien Van Loo、Djalila Mekahli、Dusan Bogunovic、Stephanie Boisson-Dupuis、Kazushi Izawa、Cheng-Lung Ku、Takahiro Yasumi Takaki Asano、Isabelle Meyts、and Satoshi Okada* *Corresponding Author(責任著者) 掲載雑誌Journal of Allergy and Clinical Immunology DOI番号10.1016/j.jaci.2026.01.020   背景RelA異常症は、体の免疫や炎症の調整がうまくいかなくなる病気です。世界でも報告数が少ない希少疾患で、これまでに17家系45人が確認されています。 私たちの体では、感染や炎症が起こると、NF-κBシグナル経路(注4)という細胞内の情報伝達の仕組みが働き、免疫や炎症の調整が行われます(図1)。RelAは、このNF-κBシグナル経路で重要な役割を担うタンパク質の一つです。 RelA異常症は、RelAをつくるRELA遺伝子に変異が起きることで、RelAが正常につくられなくなり、免疫や炎症の調整がうまくいかなくなる病気です。RELA遺伝子の変異はこれまでに13種類見つかっています。 RelA異常症には、RelA-HI(半量不全変異)とRelA-DN(優性阻害変異)の2つのタイプがあります。RelA-HIは、異常なRelAが正常なRelAと結合することができないタイプで、慢性的な粘膜の潰瘍や自己免疫疾患が主な症状です。一方、RelA-DNは、異常なRelAが正常なRelAと結合して、正常なRelAの働きを阻害するタイプで、これらの症状に加えて、周期的な発熱、強い皮膚炎や腸炎など、より強い炎症症状を示すため、RelA-HIよりも重篤と考えられています。 また、これまでの研究から、RELA遺伝子に変異が起きると、多くの場合、短く切断されたRelA(切断型タンパク)を生じることが分かっています。   <図1>NF-κBシグナル経路と、RelA異常症における半量不全変異および優性阻害変異が引き起こす病態   研究成果の内容今回、新たに見つかったRelA異常症の患者5家系8人を対象にRELA遺伝子の解析を行いました。その結果と、これまでの報告をあわせて検討したところ、切断型タンパクでは、「切断された位置」によって、RelA-HIとRelA-DNの2つのタイプに分かれる分岐点があるのではないかと推測しました(図2)。そこで、切断型タンパクを人工的にたくさん作り出し、詳細に解析しました。その結果、RELA遺伝子の前半(N末端側)で切れるとRelA-HIに、後半(C末端側)で切れるとRelA-DNとなることが分かりました。さらに、これら2つのタイプを分ける境目は「アミノ酸P290」付近にあることが分かりました(図3)。 <図2>RelA-HIとRelA-DNの分子病態を分ける機能的分岐点の可能性 <図3>RelA-HIとRelA-DNを分ける機能的分岐点の同定   今後の展開本研究により、切断型のRelAタンパクを作るRELA遺伝子変異では、「切断された位置」を手がかりに病気のタイプを見分けることができる可能性が示されました。これにより、今後新しく見つかるRELA遺伝子変異の患者さんでも、より早く診断し、その人に合った治療を選びやすくなることが期待されます。   用語解説注1. RELA遺伝子:炎症や細胞増殖を制御する NF-κB シグナル経路の重要な因子である、RelA タンパクをコードする遺伝子です。 注2. 半量不全変異:遺伝子の一部が欠損または機能しないことで、作られるタンパクが十分に機能せず、正常に働くタンパクの量が不足することで病気を生じる状態を指します。 注3. 優性阻害変異:遺伝子変異によって生じた変異タンパクが、正常タンパクの機能を妨げることで病気を生じる状態を指します。 注4. NF-κBシグナル経路:免疫や炎症反応、細胞の増殖や生存を調節するために働く、細胞内の情報伝達の仕組みです。生体防御に不可欠である一方、その異常は自己免疫疾患や炎症性疾患などの発症に関与することが知られています。   報道発表資料(659.07 KB) 掲載誌:Journal of Allergy and Clinical Immunology 研究者ガイドブック(岡田 賢教授)   【お問い合わせ先】 (研究に関すること) 広島大学大学院医系科学研究科小児科学教授 岡田賢 Tel:082-257-5212FAX:082-257-5214 E-mail:sokada@hiroshima-u.ac.jp   (広報に関すること) 広島大学広報室 〒739-8511 東広島市鏡山1-3-2 TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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    2026.05.12
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    ヘルペスウイルスの病態の違いを生む仕組みを発見 抗ウイルス因子APOBEC3から逃れる力が病態の違いを左右する

    An official English press release has not yet been issued by the university.

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    2026.02.26
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    ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開

    ウニ胚や幼生の神経細胞は、細胞数が少なく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することが容易ではありません。今回、バフンウニについて、発生段階ごとの単一細胞RNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、誰もが手軽に1細胞レベルでの遺伝子発現を調べられる形で公開しました。   単一細胞RNAシーケンス(single-cell RNA-seq; scRNA-seq)は、個々の細胞がどの遺伝子を発現しているかを網羅的に解析できる強力な手法です。生物の発生過程では、同じ胚の中でも細胞が多様な運命へ分岐していきますが、scRNA-seqを用いると、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)だけでは捉えきれない「細胞ごとの違い」を明らかにすることができます。しかしながら、ウニ胚や幼生の神経細胞のように細胞数が少ない細胞集団は、解析データの中で埋もれやすく、神経分化の流れや分子制御を詳細に追跡することは困難です。 本研究では、バフンウニHemicentrotus pulcherrimusの胚発生(受精後24〜96時間)にわたるscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)を構築し、発生段階に沿った細胞状態の変化を単一細胞レベルで体系的に整理しました。さらに、隣接する細胞の相互作用を薬理学的に阻害して、神経分化を増強させることで、通常条件では検出が難しい神経系の細胞集団や関連遺伝子群をより明瞭に捉えることに成功しました。得られたデータは、日本産ウニのゲノムデータベース(HpBase)にて公開し、計算解析に不慣れな研究者でも直感的に遺伝子発現を探索できる研究基盤として整備しました。   研究代表者 筑波大学生命環境系 谷口 俊介准教授 千葉大学大学院医学研究院 露崎 弘毅特任講師 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター 山本 卓教授 国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室 池尾 一穂准教授   研究の背景 ウニは古くから発生生物学注1)の代表的な実験材料として用いられ、受精・卵割・原腸形成・細胞運命決定といった基本原理の解明に大きく貢献してきました。透明で操作しやすい胚を大量に得られる点に加え、外部からの処理や観察を組み合わせた実験設計に適しているという特徴があります。しかしながら、マウスやショウジョウバエなどの典型的なモデル生物と比較すると、系統維持や遺伝学的手法の蓄積には制約があり、近年急速に発展してきたゲノム解析注2)やトランスクリプトーム解析注3)などの大規模なデータ基盤は十分に整備されていません。 特に神経系の発生は、複数の細胞系列が精密に分化、配置される過程であり、限られた数の神経細胞やそのターゲットとなる細胞が時間とともに変化していくため、網羅的に捉えることが難しい研究対象です。実際にウニ胚や幼生においては、神経細胞は全細胞の中で相対的に少数であるため、単一細胞RNAシーケンス解析(scRNA-seq)注4)を行っても神経クラスターが小さくなり、神経分化を駆動する転写因子やシグナル経路を同定する際の感度が課題となっていました。そこで本研究では、発生段階を通したscRNA-seqアトラス(細胞分布データ集)の構築に加え、解析で見えにくい細胞集団を見えやすくするために、神経分化に強く関与するDelta–Notch経路注5)を実験的に抑制して神経細胞系列を増やし、ウニ神経発生の分子基盤をより高解像度で捉えることを目指しました。   研究内容と成果 本研究ではまず、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)の受精後24、36、48、72、96時間という発生の主要段階から単一細胞データを取得し、発生が進むにつれて細胞集団がどのように分岐し、多様化していくのかを可視化できるscRNA-seqアトラス注6)を構築しました。これにより、ウニ胚発生における細胞状態の連続的変化を単一細胞解像度で追跡できるだけでなく、細胞種・細胞系列ごとに特徴的な遺伝子発現プロファイルを参照できる「地図」として機能する基盤が整いました。 次に、胚に対して、Delta–Notch経路(細胞間の相互作用)を阻害する薬剤処理を行い、神経分化が増強される条件を作り出しました。その結果、神経系に相当する細胞集団が相対的に増加し、通常条件では小さくなりがちな神経関連クラスターや、その中で発現する神経分化関連遺伝子がより明確に検出できるようになりました。これは、scRNA-seqの弱点である「少数細胞集団の見えにくさ」を実験操作で補い、神経発生の分子制御の理解を促す有効なアプローチであることを示しています。 このようにして得られた単一細胞データは、研究活動に幅広く活用できるよう、日本産ウニのゲノムデータベースHpBaseにて公開し、フリーソフトKana注7)を用いて解析できるプロトコルを示しました(参考図)。これにより、特定の遺伝子の発現がどの細胞集団で、どの発生段階に現れるのかを直感的に探索でき、計算解析に不慣れな研究者でも実験計画や仮説検証に利用しやすくなります。また、scRNA-seqアトラスを参照として用いることで、細胞集団全体を平均した解析(バルクRNA-seq)の結果から細胞タイプ組成の変化を推定する枠組みも提示し、従来のバルク解析とscRNA-seqを橋渡しする実用的な解析フローを確立しました。   今後の展開 本研究成果は、ウニ神経発生の理解を深めるだけでなく、非モデル生物におけるscRNA-seqの活用を促進し、発生・進化・比較生物学を横断した研究展開に資する基盤になると期待されます。   参考図 図本研究で構築したウニ胚と幼生の単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)アトラス ウニ胚と幼生の発生ステージ(Stages of embryo/larvae、上段)に沿って、受精後24、36、48、72、96時間における細胞集団のscRNA-seq解析結果をアトラス(Single-cell scRNA-seq atlas)として整理した。各時点の細胞は、対照(Control、紫)と薬剤処理(Reagent、緑)で色分けして示した。薬剤は受精後16時間に添加し、その後の細胞状態の変化を単一細胞レベルで比較できる。特定領域を拡大すれば、処理条件ごとに目立つ細胞集団の変化を直感的に把握できる。得られたscRNA-seqアトラスはデータベースHpBase上で公開し、ブラウザ上で遺伝子発現の探索が可能。   用語解説 注1) 発生生物学 たった一つの細胞である受精卵から体が形作られるまでの分子メカニズムを解明する学問。細胞内外のシグナル分子の働きと、DNAに結合して遺伝子発現を調節する転写因子の機能解析などを通じて、時間的空間的にその生物個体に何が起きているのかを明らかにする。 注2) ゲノム解析 生物がもつ全DNA配列(ゲノム)を読み取り、遺伝子の種類、配置、変異を調べる解析。これにより生物の形質や進化、疾患、適応の基盤を理解する。 注3) トランスクリプトーム解析 細胞や組織で実際に転写されている全RNA(主にmRNA)を網羅的に測定する解析。どの遺伝子がどれくらい使われているかを示し、発生段階、細胞種、条件差による発現変化を捉える。 注4) 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq) 多細胞生物の体を構成する細胞に発現しているmRNAを細胞ごと網羅的に解析する手法。 注5) Delta-Notch経路 隣接する細胞が相互作用することで互いに異なる運命をもたらすメカニズムで、多くの動物の神経細胞分化の過程で見られる。DeltaとNotchはいずれも細胞膜上の膜タンパク質で、隣接する一方の細胞のDeltaがもう一方の細胞のNotchと結合することで、この細胞でのDeltaの発現を抑制し、役割の異なる細胞を分化させる。 注6) アトラス 細胞・組織・遺伝子発現などを網羅的にまとめたデータ集。単一細胞RNA-seqアトラスは、発生段階や臓器ごとに、存在する細胞タイプや遺伝子発現の分布を細胞単位で示す参照地図。 注7) Kana scRNA-seqの結果をブラウザ上で直感的に閲覧・探索できるフリーソフト。遺伝子の発現パターン、クラスター(細胞集団)、細胞タイプの違いを可視化できる。   研究資金 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C, JPMJPR1945;2019-2022年度)、科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業が助成するA-STEP(JPMJTR204E; 2019-2024年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤研究(B)(23K23933; 2022-2025年度)、(C)(23K11312;2023-2027年度)、(若手)(19K20406: 2019-2022 年度)による助成によって実施されました。   掲載論文 【題名】 Single-cell transcriptomic resources for tracing neurogenesis and cell fate specification in sea urchin embryos (ウニ胚における神経形成と細胞運命決定を解析するための単一細胞RNA-seqリソース) 【著者名】 *Koki Tsuyuzaki, Junko Yaguchi, Takashi Yamamoto, Kazuho Ikeo, *Shunsuke Yaguchi (*責任著者) 【掲載誌】 Development 【掲載日】 2026年2月26日 【DOI】 10.1242/dev.205025   【プレスリリース】ウニ胚と幼生の発生過程を単一細胞レベルで追跡できるデータベースを公開.pdf(1.1 MB) 掲載誌:Development 研究者ガイドブック(山本卓教授)   【問い合わせ先】 【研究に関すること】 谷口俊介(やぐちしゅんすけ) 筑波大学生命環境系/下田臨海実験センター准教授 TEL: 0558-22-1317 URL: https://sites.google.com/site/yaguchisea/home X@urchin_lab   【取材・報道に関すること】 筑波大学 広報局 TEL: 029-853-2040 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp   千葉大学 広報室 TEL: 043-290-2018 E-mail: koho-press@chiba-u.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-4518 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   国立遺伝学研究所 TEL: 055-981-5873 E-mail: prkoho@nig.ac.jp

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    2026.05.14
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    PAI-1阻害薬「TM5614」の抗老化効果をヒトで確認 -XPRIZE Healthspanセミファイナル臨床試験結果-

    【発表のポイント】 XPRIZE Healthspan (注1)のセミファイナル臨床試験において、PAI-1阻害薬「TM5614」(注2)を高齢者へ4ヶ月投与した結果、生物学的年齢(注3)が平均2〜3歳若返るなど、ヒトの遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク・細胞レベルで抗老化効果を確認しました。 免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、凝固・線溶、抗酸化など、広範な改善が確認され、比較的健常な高齢者にも安全に投与可能であることが示されました。 TM5614は「老化細胞を除去し、種々の加齢に伴う症状を改善できる新たな内服薬(Senolytic drug)候補」として健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆され、XPRIZE Healthspanファイナル試験への申請に向けた重要な臨床データが取得できました。   【概要】これまでTM5614は多くのがん患者には投与されてきましたが、比較的健康な高齢者を対象とした臨床試験は初めてです。 東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは、国際的な長寿コンペティション「XPRIZE Healthspan」のセミファイナル臨床試験(特定臨床研究)を実施しました。本試験では、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有する50歳以上75歳以下の被験者20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。その結果、生物学的年齢が平均して2〜3歳若返り、免疫や再生の機能が回復し、老化を促す物質が減少するなど、全身の抗老化を示唆する知見が確認されました。さらに、老化関連microRNA(注4)の減少、抗炎症や代謝改善に関わるタンパク質の変動、免疫細胞および造血幹細胞の機能回復、酸化ストレスマーカーの改善など、遺伝子、遺伝子修飾(エピゲノム)、タンパク、細胞レベルにわたる広範な改善が認められました。また、重大な副作用は確認されず、比較的健康な高齢者に対しても安全に投与可能であることが示されました。 本成果は、老化そのものに介入する内服薬の臨床応用の可能性を示すものであり、健康寿命の延伸に向けた新たな治療戦略として期待されます。今後は、2026年8月のファイナリスト選定を経て、日本、米国、サウジアラビア、台湾との国際共同による大規模臨床試験の実施を目指します。   【詳細な説明】研究の背景XPRIZE Healthspanの公募要項によれば、セミファイナリスト(TOP40)は、最終的な4年間のファイナル臨床試験の実現可能性を支持するための短期間(4週〜8週)、小規模(5~20人)の臨床試験をセミファイナル臨床試験として実施しなければいけません。そこで、東北大学、広島大学、東海大学、株式会社レナサイエンスらは共同で、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有し、症状が安定している50歳以上75歳以下の20例を対象に、TM5614を4ヶ月間投与する非盲検試験をセミファイナル臨床試験として実施しました(臨床試験責任医師は張替秀郎東北大学理事・副学長)。 投与期間が短期間のため、各種臓器の抗老化作用を評価することは難しいことから、老化、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、各種臓器の老化に関わる遺伝子、エピゲノム(遺伝子修飾)、タンパク、細胞などのバイオマーカー(注5)の変動を解析しました。 実施医療機関は東北大学、さらに検査などの協力機関として広島大学、東海大学が参加しました。TM5614を4ヶ月間投与した前後の検査が実施できた19名の患者(平均年齢60.4±5.6歳、男性13名、女性6名)を有効性評価の対象とし、TM5614投与を受けた20名の患者を安全性評価の対象としました。 その結果、安全性に関しては、TM5614との因果関係が否定できない有害事象は1例で認められましたが(軽度肝機能異常)、その他の重篤な副作用は出血イベントを含めて確認されませんでした。 また有効性に関して、投与期間は4ヶ月と比較的短い期間でしたが、全身の抗老化を示唆する下記の知見が確認されました。   (1) エピゲノムあるいは遺伝子レベルでの改善 1) 生物学的年齢 (Epigenetic clock)の若齢化 遺伝子 (DNA)のメチル化修飾(エピゲノム)を解析することにより、生物学的年齢を推定することが可能です。白血球を用いたDNAメチル化解析に基づき、Horvath法及びPC-Horvath法(注6)を用いて生物学的年齢を推定した結果、対象者の実年齢(平均60.4歳)に対し推定した生物学的年齢はそれぞれ61.7歳および58.0歳と、実年齢に近い値を示しました。4ヶ月間の投与後における解析では、Horvath法で58.3歳(p< 0.001, 19人中15人で減少)、PC-Horvath法で56.1歳(p< 0.001, 19人中18人で減少)へと有意な若齢化が認められました(それぞれ3.4歳および1.9歳の生物学的年齢の若齢化を確認しました)(図1)。   2)老化関連microRNA(Senescence-associated (SA)-miRNA)の減少 microRNA(miRNA)は、遺伝子発現を調節する長さ約20塩基のRNAです。血清中の老化関連senescence-associated(SA)-miRNAを解析したところ、SA-miRNA(miR-22-3p、miR-18a-5p、miR-28-5p、miR-17-3p、miR-195-5p、miR-205-5p)はいずれも有意に低下し、老化を誘導する遺伝子発現制御が軽減したことが示唆されました(図2)。   (2)タンパクレベルの改善 アプタマー(核酸抗体)を用いたソマスキャンアッセイ(注7)により7596個の血漿タンパク質を解析しました。有意に増加したタンパクが 356個(4.7%)、有意に低下したタンパクが199個(2.6%)でした。19人中多くの被験者が同様に変化し、有意な変動が認められたタンパク質が複数見出されました。抗加齢作用と関連する複数のタンパク質の変化が認められ(図3)、抗炎症作用やマクロファージ機能の改善、骨および筋肉組織形成の改善、認知機能および神経生理機能の改善、抗血栓作用、脂質代謝改善、小胞体(ER)ストレス改善など、老化防止に関わる可能性が示唆されました。   (3)細胞レベルでの改善 1)免疫系の活性化 末梢血中の免疫細胞を表面マーカーで分画したところ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)(注8)数の減少(p

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    2026.03.06
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    DNAの「シトシン」が酸化されると変異が起こることを発見 ―がんの原因の解明につながる新たな手がかり―

    本研究成果のポイント DNAの塩基の一つ「シトシン」が酸化されると、変異を引き起こすことを新たに発見しました。これは、がんの原因の解明につながる手がかりとなります。   概要 広島大学大学院医系科学研究科(薬学部)の鈴木哲矢 助教、廣田杏 大学院生(当時)、紙谷浩之 教授のグループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 岩井成憲 教授(当時)と共同で、遺伝子の本体であるDNAの4種類の塩基の一つであるシトシンが酸化されると、損傷部位に変異を引き起こすこと、損傷部位から離れた部位にも変異を引き起こす可能性があることを見出しました。   背景 多くの生物の遺伝子の本体はDNAです。遺伝情報が変わることを変異と呼び、変異が少しずつ蓄積していくことで、がんが発生するリスクがあがることが知られています(※1)。変異の多くはDNAが傷つくこと(化学的修飾)により引き起こされます。 DNAは4文字(4種類の塩基)を持ちます。これまでの研究で、塩基の一つであるグアニンが酸化されると8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)などの酸化損傷塩基が生じることがわかっています(※2)。以前に本研究グループは、この損傷塩基が生じた部分に変異を引き起こすだけではなく、離れた部位にも変異を引き起こすことを見出していました。   研究成果の内容 今回、本研究グループは、別の塩基であるシトシンに着目しました。シトシンが酸化されると、主な損傷として5-hydroxycytosineが生じます(※3)。5-hydroxycytosineを含むDNAをヒト細胞に導入した結果、5-hydroxycytosineがあった部位がチミン(塩基の一つ)などに変わっていることを見出しました。また、グアニンの酸化体ほどではないものの、5-hydroxycytosineがあった部位から離れた部位にも変異が起こっていました。 一方、損傷部位から離れた部位での変異に着目して、紫外線によって生じる損傷であるチミン-チミン6-4光産物の影響を調べましたが、離れた部位での変異は観察されませんでした。 今回の結果は、グアニンの酸化体だけではなく、シトシンの酸化体も変異を引き起こし、がんの原因の一つになっている可能性を示しています。   今後の展開 今後は、他の損傷塩基の変異の生成機構を解明していきます。本研究の成果は、がん化の機構を理解し、それを抑制する方法の開発につながると期待されます。   参考資料 論文題目:Mutagenicity of 5-hydroxycytosine in human cells 著者名:Tetsuya Suzuki , Ann Hirota , Shigenori Iwai , Hiroyuki Kamiya*(*責任著者) 掲載誌:Mutagenesis 2月2日付でオンライン掲載されました。以下は論文のリンク先です。 https://doi.org/10.1093/mutage/geag004 用語解説 (※1)変異とがん:遺伝情報を担っているDNAはアデニン・チミン・グアニン・シトシンの4文字(塩基)からなり、この並びが遺伝情報です。がんに関連する遺伝子(がん遺伝子やがん抑制遺伝子)の遺伝情報の変化(変異)が複数回生じることで、がんが生じます。   (※2)グアニンの酸化体:種々のグアニンの酸化体が生成しますが、8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-hydroxyguanine)は代表的なものであり、重要なDNAの損傷の一つと考えられています。   (※3)5-hydroxycytosine:下の図の左に描いた構造を持ち、六員環(六角形の部分)から出ているHO– がhydroxyと呼ばれる部分です。   報道発表資料(229.33 KB) 掲載ジャーナル:Mutagenesis 研究者ガイドブック(紙谷 浩之 教授)   ■研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院医系科学研究科 教授紙谷 浩之 TEl:082-257-5300FAX:082-257-5334 E-mail:hirokam@hiroshima-u.ac.jp   ■報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4383 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp

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    2026.05.19
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    データから疾患進行の個人差を読み解く 〜進行の「速さ」と「進み方」の違いを捉える新手法を開発〜

    【本研究のポイント】 疾患進行の個人差を、「どのように進むか」という進行経路と、「どのくらいの速さで進むか」という進行速度に分けて捉える新しい機械学習手法DiSPAHを開発 四肢発症型ALS患者の縦断データを解析した結果、進行経路が異なる複数のサブグループが存在し、さらに各サブグループの中でも進行速度にばらつきがあることを発見 進行速度に関連する遺伝的特徴や疾患の背景にある分子レベルの仕組みの一端を解明 DiSPAHから得られる情報はALS関連機能低下リスクの評価に役立ち、初期の臨床情報や遺伝情報から将来の進行を見通す手がかりとなる可能性を示唆   【研究概要】名古屋大学大学院医学系研究科データ駆動生物学の矢田 祐一郎 准教授、本田 直樹 教授(兼任:広島大学大学院統合生命科学研究科特任教授)の研究グループは、疾患進行の個人差を「どのように進むか」という進行経路と、「どのくらいの速さで進むか」という進行速度に分けて捉える新しい機械学習手法DiSPAHを開発しました。神経変性疾患をはじめとする慢性疾患の多くは、患者ごとに症状の現れ方や進行の速さが大きく異なるため、予後予測や治療計画、臨床試験の設計が難しいことが課題となってきました。しかし、既存の解析手法では、「どのような症状から優先的に現れるのか」という「進行経路」と、「症状の変化がどのくらいの速さで進むのか」という「進行速度」を明確に区別して捉えることが難しく、それぞれの個人差の要因を十分に明らかにできませんでした。   本研究では、進行に個人差が大きいことが知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象とし、四肢発症型ALS患者264人におけるALS機能評価尺度の縦断データをDiSPAHで解析しました。その結果、ALSの進行は一様ではなく、複数の特徴的な進行経路を示すサブグループが存在すること、加えて同じサブグループの中でも進行速度にばらつきがあることが明らかになりました。さらに、より大規模なALS患者を対象とした研究から得られた2,565人のデータを用いた解析でも、同様の進行パターンが再現されました。 また、進行速度に関連する遺伝的特徴や分子基盤の一端が示されるとともに、DiSPAHから得られる情報がALS関連機能の低下リスクの評価に役立つ可能性も示されました。今後、検証を重ねることで、DiSPAHが疾患進行の理解を深め、将来的には患者ごとの予後予測や個別化医療への応用につながることが期待されます。 本研究成果は、2026年5月12日付で、国際学術雑誌『npj Digital Medicine』にオンライン掲載されました。   1. 背景神経変性疾患をはじめとする慢性疾患では、同じ病気であっても、ある患者では急速に進行する一方、別の患者では比較的ゆっくり進行するなど、経過に大きな個人差があります。加えて、どのような症状から現れ、どのような順序で進行していくのかも患者によって異なります。こうした個人差の大きさは、予後予測や治療計画の立案、さらには臨床試験の設計を難しくする要因となってきました。 近年では、同じ患者を長期間追跡して得られた臨床縦断データを機械学習モデルで解析し、観測される症状や検査結果の変化の背後にある、直接は観測できない疾患進行状態を仮定し、その状態の推移を推定する技術の開発が進められています。しかし、既存の手法では、「どのような症状から優先的に現れるのか」という「進行経路」と、「症状の変化がどのくらいの速さで進むのか」という「進行速度」とを明確に区別して捉えることが難しく、それぞれの個人差の要因を十分に明らかにできませんでした。 図1:疾患進行の「進行速度」と「進行経路」の個人差を切り分ける機械学習モデル 2. 研究成果本研究グループは、患者ごとの「進行経路」と「進行速度」を切り分けて同時に推定するため、連続時間隠れマルコフモデル*1)に基づく機械学習手法DiSPAHを開発しました。DiSPAHは、臨床縦断データを解析することで、症状変化の背後にある目に見えない疾患進行状態を同定し、あわせて患者ごとに、状態遷移のパターンとして表される進行経路と、遷移の進みやすさを表す進行速度を明らかにします(図1)。 研究グループは、「進行経路」だけでなく「進行速度」にも大きな個人差があることが知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象に、ALS機能評価尺度であるALSFRS-R*2)の臨床縦断データに本手法を適用しました。まず、米国のAnswer ALSコホートのうち条件を満たした264人の四肢発症型ALS患者の縦断データを解析し、DiSPAHによって患者ごとの進行速度と進行経路を推定しました。その結果、ALSの進行は一様ではなく、6つの特徴的な進行経路を示すサブグループが存在し、加えて各サブグループの中でも進行速度に一定のばらつきがあることが明らかになりました(図2)。さらに、Answer ALSコホートで同定された疾患進行状態をもとに、より大規模なPRO-ACTコホートの2,565人のデータを同じ手法で解析したところ、Answer ALSコホートで認められた進行パターンと似た傾向が再現されました。 図2:DiSPAHにより同定された進行経路のサブグループと進行速度 推定された進行速度と遺伝的な特徴の関連を調べると、C9orf72の遺伝子変異をもつ患者では進行速度が速い傾向が示されました。加えて、患者のiPS細胞に由来する運動ニューロン*3)の網羅的な遺伝子発現データ・タンパク質発現データとの関連を解析すると、タンパク質翻訳恒常性の破綻や酸化ストレスが進行速度に関わっている可能性が示唆されました。 臨床的な意義としては、臨床縦断データの追跡期間全体からDiSPAHが推定した進行速度や進行経路は、生存やALS関連機能の低下リスクと関連していました。さらに、進行速度や進行経路は追跡開始時点の臨床情報と遺伝情報からある程度予測可能であり、ALS関連機能低下リスク定量の性能を評価した結果、従来の指標だけでは捉えにくい情報をDiSPAHが補える可能性が示されました。   3. 今後の展開本研究で開発したDiSPAHは、疾患進行の個人差を「進行経路」と「進行速度」に分けて捉えることで、従来の手法では捉えにくかった疾患進行の違いをより細やかに理解することを可能にする新しい枠組みです。今後、より多様なALSの病型や、他の神経変性疾患を含むさまざまな慢性疾患への応用、より多くの医療機関や患者集団を用いた検証を進めることで、手法としての信頼性や汎用性の向上が期待されます。将来的には、初診時に近い段階で得られる情報からその後の疾患進行を見通せるようになれば、患者一人ひとりに応じた説明や治療計画の立案、さらには治験参加者の選定などへの応用も期待されます。また、進行の仕方に関連する遺伝的背景や分子基盤の理解が深まることで、新たな病態理解や治療標的の探索につながる可能性もあります。 ムーンショット目標2「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」では、疾患の発症や進行を早期に捉え、予測・予防につなげるための研究開発が進められています。DiSPAHは、臨床データから疾患進行の個人差を捉え、将来的な疾患進行リスクの評価にもつなげることができる手法です。データに基づく疾患予測技術の発展に貢献し、将来的な超早期予測・予防の実現に向けた基盤として、ムーンショット目標2の達成に寄与することが期待されます。   4. 支援・謝辞本研究は、以下の研究プロジェクトの支援のもとで行われたものです。 JST ムーンショット型研究開発事業 目標2「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」 JPMJMS2024 JSPS 科学研究費助成事業 JP23K16994 AMED 脳神経科学統合プログラム(個別重点研究課題)JP24wm0625416 and JP25wm0625322 JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「複雑生体現象の予測と制御に向けた離散・連続の統合幾何解析の構築と応用」 JPMJCR25Q2 また、本研究では米国AnswerALSコホートおよびPRO-ACTコホートのデータを使用しました。   【用語説明】 *1)連続時間隠れマルコフモデル:時間の経過に伴う確率的な状態の変化を表す数理モデルの1つ。「隠れ」とは、状態が直接は観察できないことを意味し、本研究では疾患の進行状態に相当する。「連続時間」は、観察の間隔が一定でないデータも扱えることを意味し、受診時期が不規則な臨床データの解析に適している。 *2)ALSFRS-R:ALS Functional Rating Scale-Revised の略で、ALSの機能障害の程度を評価するために広く用いられている指標。会話・嚥下、手の動き、歩行、呼吸などに関する12項目から構成され、患者の日常生活機能を総合的に評価する。 *3)運動ニューロン:脳や脊髄から筋肉へ信号を送り、体を動かす働きを担う神経細胞。ALSでは、この細胞が障害されることで筋力低下が生じる。   【論文情報】雑誌名:npj Digital Medicine 論文タイトル:Decomposing heterogeneity in disease progression speeds and pathways 著者:Yuichiro Yada1,2 and Honda Naoki1,3,4 1. Nagoya University Graduate School of Medicine 2. Institute for Advanced Research, Nagoya University 3. Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University 4. Center for One Medicine Innovative Translational Research (COMIT), Nagoya University   DOI: 10.1038/s41746-026-02665-8   報道発表資料(2.73 MB) 論文掲載ページ (Decomposing heterogeneity in disease progression speeds and pathwaysに移動します) 広島大学研究者ガイドブック (本田直樹 特任教授)   【お問い合わせ先】 【研究者連絡先】 名古屋大学大学院医学系研究科データ駆動生物学 准教授矢田祐一郎(やだゆういちろう) TEL:052-744-1980 E-mail:yada.yuichiro.k4*f.mail.nagoya-u.ac.jp   【報道連絡先】 名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係 TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785 E-mail:iga-sous*t.mail.nagoya-u.ac.jp   広島大学広報グループ TEL:082-424-4383 FAX:082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   科学技術振興機構 広報課 TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432 E-mail:jstkoho*jst.go.jp   【JST事業連絡先】 科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業部 松尾 浩司(まつおこうじ) TEL:03-5214-8419 FAX:03-5214-8427 E-mail:moonshot-info*jst.go.jp   東海国立大学機構は、岐阜大学と名古屋大学を運営する国立大学法人です。 国際的な競争力向上と地域創生への貢献を両輪とした発展を目指します。 東海国立大学機構HPhttps://www.thers.ac.jp/   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.09.24
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    ドナー肝臓由来ナチュラルキラー(NK)細胞を用いた肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法

    アピールポイント 通常は採取不可能な肝内在性NK細胞を用いた抗癌免疫細胞療法を開発した 肝内在性NK細胞は抗腫瘍分子TRAILを発現し、肝細胞癌に対する抗腫瘍活性が高い 本治療は有害事象が少なく、進行肝細胞癌の肝移植後再発を抑制する効果が期待できる   研究者のねらい 肝細胞癌は、2023年統計で5番目に多い癌である。肝硬変に合併する肝細胞癌に対する唯一の根治治療は肝臓移植であるが、再発率が10-20%であるにもかかわらず有効な術後補助療養や治療法がないのが現状である。肝臓内には、他の部位とは異なる特殊なリンパ球が存在している。特に、肝内在性ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍の増殖や感染症の拡大を防ぐ重要な役割をして担っており、TRAILと呼ばれる抗腫瘍分子を発現して、肝細胞癌を効率よく殺傷する。我々は、ヒトの肝臓内から採取した後サイトカイン刺激することによって強力な抗腫瘍活性を有する肝内在性NK細胞を用いた、肝臓移植後の肝細胞癌再発に対する補助免疫療法を開発した。   研究内容 TRAIL活性低下による肝腫瘍増殖、TRAIL陽性肝内在性NK細胞投与により腫瘍が縮小 B6マウスの門脈から肝臓を灌流したリンパ球中のNK細胞上に表出する抗腫瘍分子(TRAIL; TNF-related apoptosis inducing ligand)をフローサイトメトリーで解析した。70%肝切除後、3日目にはTRAIL発現が著明に低下した。   B6マウスの門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した1週間後の肝臓内腫瘍増殖を解析した。無処置マウスに対して、70%肝切除マウスは有意に、肝臓内腫瘍増殖が増加した(n=4)。​   70%肝切除マウスに対して、門脈内から肝癌腫瘍株(Hepa 1-6)を5×105個注入した後に、活性化肝内在性NK細胞を5×105個尾静脈から投与すると、肝臓内腫瘍の増殖は抑制された。​(Ohira M, Ohdan H, Transplantation 2006)   ヒト肝灌流液由来肝内在性NK細胞の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性​ NK細胞の割合は、肝臓内で46.4%、末梢血で21.9%。サイトカイン刺激でNK細胞上TRAILは肝臓内で65.8%、末梢血で29.6%であった。(n=7)​ サイトカイン刺激後の肝内在性NK細胞の抗腫瘍活性は、有意に高い。​ 中分化型・低分化型肝癌はDeath receptor(DR4, DR5)は強発現、Decoy receptor(DcR1, DcR2)は発現なし。TRAIL感受性のある癌腫と言える。​   ドナー肝由来NK細胞療法の臨床試験結果​ 肝移植時のドナーグラフト肝臓灌流液からリンパ球を抽出して、サイトカインで3-5日間刺激培養を行う。投与1日前に、抗CD3抗体を添加してT細胞除去を行い、肝臓移植後のレシピエントに経静脈的投与を行う治療法。​   肝移植後3日目と7日の末梢血単核球の肝細胞癌に対する抗腫瘍活性。NK療法群で有意に増加している(n=7; NK, n=5; non-NK group)   NK療法を行ったレシピエントの末梢血NK細胞のキメラ率推移。ドナー由来のNK細胞は最長1ヶ月確認可能。   広島大学で24例の生体肝移植に対して第1相試験を実施。投与に関連する重篤な有害事象はなく安全性は確認された。肝細胞癌に対する生体肝移植後の無再発生存率は、背景をプロペンシティマッチで揃えた11例ずつで比較した場合、NK療法群が有意に良好であった。​   今後の研究開発計画 治験第2相以降の臨床試験の計画実施、承認申請(日本、海外)、培養効率改善に向けた製造法の​ スクリーニング・最適化、保存・輸送条件の最適化(事業化可能な条件設定)、細胞製品の製造・流通・販売、他の癌腫への応用​   関連情報 代表的な特許:肝臓内NK細胞活性を増強する培養方法の開発(特願2025-130828)​ 代表的な論文:Ohira M, Ohdan H, et al. Cancer Immunol Immunother 2022​ 企業に望む事:臨床試験や承認申請に必要な製造・保存輸送技術の最適化を担い、細胞製品の事業化を推進してほしい。​ 研究者 大段秀樹(Ohdan Hideki) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    ヒトの腫瘍微小環境と治療への反応を再現する新規マウス大腸がんモデルの確立とその応用​

    アピールポイント マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つプロモーター配列(CDX2P-9.5kb)を発見しました。​ CDX2Pを応用してヒトの右側結腸癌と左側結腸癌を再現する大腸癌マウスモデルを確立しました。​ ヒトの大腸癌分子サブタイプ(CMS)を再現した高度浸潤癌と粘液癌マウスモデルを作成しました。​ 薬剤のスクリーニングに有用な治療抵抗性高度浸潤型大腸癌マウスモデルを作成しました。   研究者のねらい 大腸癌は罹患数,死亡者数が多く対策が急務で、特に治療抵抗性大腸癌に対する新規治療薬の開発は重要な課題である。大腸癌は、4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)、それを改良したIMF分類のiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とし最も予後不良なサブタイプで有効な治療薬が未だ無い。​   私共は独自の大腸上皮細胞特異的コンディショナル複合的遺伝子改変マウスの技術を使って、CMSサブタイプを再現するマウスモデルを確立してきた。このうち治療抵抗性で予後不良なiCMS3サブタイプを再現する高度浸潤型のApc+Ptenマウスモデルを使って、大腸癌に対する新規化合物や抗体薬のスクリーニングや治療効果を評価する共同研究を提示する。 研究内容​ 私共は、大腸癌関連遺伝子として腸上皮の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による遠位大腸に腫瘍が好発する大腸浸潤癌マウスモデル(CPC-Apcマウス、左側結腸癌モデル)を確立した。 ​   このモデルをさらに改良してMSI発現誘導型のCreマウスCDX2P-G22Creマウスを作成してApc欠損させたところ、近位大腸に腫瘍が発生する大腸癌浸潤癌モデル(G22Cre-Apc)を作成することができた(図1)。​   いずれも12ヶ月経過観察をして、浸潤癌の発生率が17%で生存期間中央値が160日であるため、浸潤癌の治療効果を検証するには不十分と思われた。​   私共は、Apcに変異を持つCPC-APCマウスに別のドライバー遺伝子(Kras, Braf, Tgfbr2, Ptenなど)組み合わせた遺伝子変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作成し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤癌(CMS3)や粘液癌(CMS4)などの分子サブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できた(図2)。   Apc+Ptenマウスは予後不良(図3,4)の高度浸潤癌が発生するが、PI3K-PTENシグナルの標的分子に対する阻害剤が著効する(図5)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性の大腸癌や高度浸潤型の大腸癌に対して、抗腫瘍効果を持つ新規化合物や抗体薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われる。 想定される用途・応用先 私共が開発したヒト高度浸潤型大腸癌のプロファイルを持つマウスモデルを用いることで、治療抵抗性大腸癌に高頻度で認められるPI3K-PTENシグナルを標的とした新規化合物や抗体薬のスクリーニングならびに大腸癌の浸潤やがんの微小環境に作用する薬剤の治療効果を評価するために有用なマウスモデルである。評価方法についてもマウス用の大腸内視鏡を使う評価方法から、腫瘍から確立したオルガノイドを使った細胞培養実験での評価も可能である。​   関連情報 代表的な論文:​ Hinoi T, Fearon ER et al. Cancer Res. 2007 Oct 15;67(20):9721-30.​ Akyol A, Hinoi T, Fearon ER et al. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):231-3​ Kochi M, Hinoi T e al. Cancer Sci. 2020 Oct;111(10):3540-3549​ Itakura H, Hinoi T, Yamamoto H et al. iScience. 2023 Mar 23;26(4):106478​ 企業に望む事:私共の作成したマウスモデルを使って大腸癌の治療開発や薬剤スクリーニングについての共同研究や競争的資金の獲得   研究者 檜井孝夫 広島大学 病院(医) 教授   2025年BioJapan出展

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    2025.09.24
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    難治性がんを克服するがん抗原提示細胞化mRNA療法の開発​

    アピールポイント 難治固形がんを対象とした腫瘍内投与型mRNA-LNP治療薬 ​ がん細胞を抗原提示細胞様にリプロラミングし、腫瘍内部でT細胞性免疫監視を誘導​ ①高い有効性 ②煩雑な操作不要 ③ユニバーサル ④効果持続性 ⑤低い副作用 ⑥免疫療法併用で効果   研究者のねらい 1,有効な治療が存在せず5年生存率が20%以下の難治がんに対し、新たな治療法を開発する。​   2 ・がん細胞は免疫細胞によって認識され、攻撃される。​ ・ただし、免疫細胞を活性化できるのは、免疫細胞によって認識される目印をもったがん細胞だけである。​ ・この性質を「がんの免疫原性」と呼ぶ。​   3,「がんの免疫原性」低下は予後不良因子 ・体内にがんができても免疫が機能していれば、がん細胞が排除され「がん」を発症しない。しかし、「がんの免疫原性」が低下すると、T細胞の働きが弱まりがんを発症してしまう。​   ・免疫細胞であるT細胞が腫瘍内部に活発に浸潤している高免疫原性がんと比較して、T細胞浸潤がほとんどみられない低免疫原性がんは、様々ながん種において特に予後が悪い。​   ・がんの免疫原性を上昇させれば,難治がんであっても治療できる可能性が高まる。​ 研究内容 1,既存の免疫療法の課題 ・これらはいずれもT細胞や樹状細胞などの免疫細胞を活性化するものであり、がん細胞に対して直接作用するわけではない。​   ・低免疫原性の難治がんでは、免疫細胞が認識する目印が消失しており、そのためがん細胞が隠れて見えない状態となっている。これでは、免疫細胞をいくら活性化しても高い治療効果を発揮できない。​   2,抗原提示細胞化mRNAの導入による抗原提示細胞化​ ①この問題を解決する手段として、腫瘍内部にLNP化したmRNAを導入する。​   ②mRNAが導入されたがん細胞は、mRNAの効果によってがん細胞が免疫細胞のように変化し、免疫反応を引き起こせるようになる。​   ③その結果、がんを認識するT細胞が選択的に活性化して増殖し、腫瘍内部からがんを攻撃できるようになる。​   ④さらに、がんのバリアも解除されるため、既存の免疫療法を併用することで、さらに高い治療効果が期待できる。​   3,免疫監視誘導mRNA-LNPの構造と外観 ヒトに感染するEBウイルスの研究から、特定のEBウイルス遺伝子が免疫細胞を強力に活性化してがんを抑制することを見出し、学術雑誌に発表 (1-4)。   4,免疫監視誘導mRNA-LNPの腫瘍縮小効果​ ・これまでに2タイプのmRNA-LNP(1. EBウイルス遺伝子型 (HMR-001); 2. ヒト転写遺伝子型 (HMR-002))を開発し、がん細胞を免疫細胞へとリプログラミングすることに成功。​   ・ mRNA-LNPを腫瘍に投与することで、劇的な腫瘍縮小効果を確認した。​   ・さらに、人にとって異物であるウイルス由来の遺伝子を用いる代わりに、人の遺伝子である2種類の転写因子を用いることでも同様の効果が得られることを発見。以上、論文投稿中のためデータ非公開。​   ・これらの技術はいずれも基礎特許出願済み。   5,先行技術と比較した優位性​ ・がん細胞を抗原提示細胞に変化させる新規作用機序で、世界初の技術​   ・従来の免疫療法が奏功しない腫瘍にも効果​   【優位性】​ ①寛解が望めるがん治療効果​ ②前培養など煩雑な操作が不要​ ③オーダーメイドではないため診断を受けたがん患者に迅速に使用可能​ ④免疫記憶を誘導するため長期的効果が期待​ ⑤腫瘍に限定したデリバリーであり、副作用がでにくい   想定される用途・応用先 【対象とするがん】​ ・難治性固形がん:特にステージ3-4胃がん、スキルス胃がん ・対象とするがん種を今後拡大予定​   【投与方法】 ・腫瘍内投与(内視鏡手術や腹腔鏡下手術が可能ながん種) ・チェックポイント阻害剤など既存治療との併用を想定​   関連情報 【関連特許】 発明の名称 : ウイルス由来遺伝子発現による抗腫瘍免疫誘導方法​   【その他】 ・AMED次世代がん事業・PSI GAPファンド事業​ ・事業化推進機関:広島ベンチャーキャピタル、パートナーズファンド​ ・2025-2026年度計画:ヒトがん検体を用いたin vitro, in vivo POC取得、​ mRNA持続期間延長の検証、有効性向上させる併用薬剤の検討など​ ・治験薬製造:広島大学PSI GMP教育研究センター​   【関連特許】 Yamane et al. 投稿中​ Jin, Y. et al. Front. Immunol., 2025​ Tamura et al. Front. Immunol., 2024​ Li, X. et al. Sci. Immunol., 2024​ Wirtz, T. et al. PNAS, 2016​ Zhang, B. et al., Cell, 2012​   【企業への要望】 ・当研究室との共同研究開発に興味のある企業様を募集しております。​   研究者 保田朋波流(YASUDA TOMOHARU) 広島大学 大学院医系科学研究科(医) 教授   2025年BioJapan出展

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