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研究成果紹介

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    • 環境エネルギー
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    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.12.05
    • 環境エネルギー
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    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    海藻の辛味成分がイネ栽培に被害をもたらす害虫を駆除!

    本研究成果のポイント イネ栽培に深刻な被害をもたらす害虫であるイネシンガレセンチュウ(*1)を駆除する物質を、褐藻の一種であるアミジグサ(*2)から特定しました。今後、環境にやさしい新たな農薬開発等へ繋がることが期待されます。   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の飯田愛実(博士課程後期)、太田伸二名誉教授、根平達夫准教授、大村尚准教授らの研究グループは、瀬戸内CN国際共同研究センターの加藤亜記准教授と共同で、海藻の一種「アミジグサ」が強い辛味を示すことを見出し、それらの化学構造を解明しました。さらに、広島県立総合技術研究所農業技術センターの星野滋博士の協力を得て、この辛味成分が、農業害虫である「イネシンガレセンチュウ」に対して殺線虫活性(線虫に対する殺虫効果)を示すことを明らかにしました。この研究成果は、国際学術雑誌「Phytochemistry」2026年2月号オンライン版に、2025年9月27日に先行掲載されました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けております。 論文情報 論文題目: Diterpenoids from the brown alga Dictyota dichotoma with nematicidal activity against the plant parasitic nematode Aphelenchoides besseyi 著者: 飯田愛実1、根平達夫1、加藤亜記2、星野滋3、大村尚1,*、太田伸二1,* 1. 広島大学大学院統合生命科学研究科 2. 瀬戸内CN国際共同研究センター 3. 広島県立総合技術研究所農業技術センター * 責任著者 掲載雑誌: Phytochemistry (Q1) DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.phytochem.2025.114691 背景 イネシンガレセンチュウ(図1)は、イネ心枯線虫病(*3)を引き起こす農業害虫です。この線虫の感染はイネ種子の収量減少とコメの品質低下を引き起こします。近年、従来の化学合成農薬の使用が大幅に制限されていることから、それらと同等の効果を持つ環境に優しい農薬の研究開発に関心が高まっています。このような背景から、殺線虫剤の供給源として天然物に注目が集まっています。これまで、海藻が有している殺線虫効果に関してはほとんど知られていませんでした。そこで、食用にされていない海藻類の有効利用を目的にして研究を開始しました。 研究成果の内容 未利用海藻類の有効利用の可能性を探る過程で、海藻の一種であるアミジグサ(図2)を齧(かじ)ると強い辛味を感じることがわかりました。アミジグサを有機溶媒で抽出し、その化学成分を分析機器によって解析した結果、新規3種を含む11種の成分の化学構造を明らかにしました。それぞれの化学成分について、イネシンガレセンチュウに対する殺虫活性を評価したところ、分子内に「α,β-不飽和1,4-ジアルデヒド」と呼ばれる構造を持っていることから強い辛味を有する既知物質「4β-ヒドロキシディクチオジアールA」(図3)が、殺線虫効果を示すことが分かりました。 今後の展開 今後、殺線虫活性物質が有する化学構造のうち、どのような構成部位が活性に重要であるかなどのメカニズムを解明し、より有効性の高い物質を開発できれば、新しい農業害虫防除剤の開発につながるものと期待されます。 研究助成 本研究はダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特性対応型)の支援を受けたものです。また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 用語解説 (*1)イネシンガレセンチュウ: 学名Aphelenchoides besseyi アフェレンコイデス科の植物寄生性線虫。世界の水稲作地帯に広く発生し、イネの種子を介して伝播する。 (*2)アミジグサ: 学名Dictyota dichotoma アミジグサ科の小型褐藻で、世界各地の沿岸に生息している。その成分には、ウニなどの海洋植食動物に対する摂食阻害作用の他、抗菌・抗酸化などの薬理活性が既に報告されているが、産業利用は進んでいない。 (*3)イネ心枯線虫病: イネシンガレセンチュウが寄生しておこるイネの病害。感染したイネは、葉先が白く枯れた症状(俗称「ほたるいもち」)を示し、栄養不足に陥り、穂の小型化や籾粒数の減少がみられる。また、玄米の粒重が増加せず、屑米や黒点米が発生することがある。この病害は収量を10%~30%減少させることが報告されている。 参考資料 図1:イネシンガレセンチュウ (体長約0.7 mm) 図2:アミジグサ (高さ約10 cm) 図3:4β-ヒドロキシディクチオジアールA (赤丸枠部分は「α,β-不飽和1,4-ジアルデヒド構造」)     報道発表資料.pdf(253.99 KB) 掲載雑誌:Phytochemistry 研究者ガイドブック(大村 尚 准教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院統合生命科学研究科准教授大村尚 Tel:082-424-6502 E-mail:homura@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.19
    • 医療/ヘルスケア
    肥満や肝炎「MASH」発症の新規メカニズムを明らかに!~治療薬開発に向けた第一歩~

    本研究成果のポイント 代謝機能障害関連脂肪肝炎 (MASH)の発症にPin1という酵素が関与することを明らかにしました。現時点では、ほとんど治療薬のない病気に対し、新たなアプローチでの治療法開発が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科医化学講座の中津祐介准教授、浅野知一郎名誉教授を中心とした研究グループは、プロリン異性化酵素Pin1がMASHの発症に重要であることを明らかにしました。この病気は現時点で有効な治療薬がないのですが、今回の発見により、今後、Pin1を標的としたMASH治療法の開発につながる可能性があります。   論文タイトル: Pin1 mediates metabolic dysfunction-associated steatohepatitis in mice fed high-fat, high-cholesterol diet by regulating both PPARα and acetyl CoA carboxylase. 掲載雑誌:Biochim. Biophys. Acta. Mol. Basis Dis. (2026年2月号に掲載) 著者:1中津祐介、2佐野朋美、1中西魅加子、3松永泰花、1, 4神名麻智、 2兼松隆、1浅野知一郎 1. 広島大学大学院医系科学研究科医化学講座 2. 九州大学大学院歯学研究院口腔機能分子科学分野 3. John W. Deming Department of Medicine, Tulane University School of Medicine, 4. 山陽小野田市立山口東京理科大学工学部機械工学科   背景 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)とは、肥満や糖尿病などの生活習慣病が原因で肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化(傷)が起こる病気です。近年、患者数が増加しており、放っておくと肝癌につながる可能性があるため、早期の治療が重要ですが、現時点では生活習慣の改善や体重の減少などの手段しかなく、決定的な治療薬は存在しません。 決定的な治療薬がない原因の一つとして、MASHがどのようにして発症するのかがまだ十分に分かっておらず、病気のどの部分を薬で狙えばよいのかはっきりしない点が挙げられます。 そのため、MASHの発症に関わる新しい原因(因子)を見つけることが求められていました。   研究成果の内容 本研究では、Pin1という酵素が、上述したMASHの原因である可能性について調べるため、肝臓の大部分を占める肝細胞からPin1を取り除いたマウスを用いて解析を行いました。普通のマウスに高カロリーな餌を長期間与えると、肥満とともにMASHを発症します。一方、Pin1を取り除いたマウスに同じ餌を与えても肥満やMASHになりにくいことがわかりました。 そこで、その原因を調べたところ、Pin1がPPARというたんぱく質の働きを妨げていることがわかりました。PPARは肝臓で脂肪を分解したり、エネルギーの消費を促すホルモン「FGF21」を作るように促す働きがあるのですが、Pin1がPPARの機能を抑制することで、肝臓で脂肪が蓄積しやすくしていることを明らかにしました。さらに、Pin1には肝臓で脂肪を作り出す働きをもつ「アセチルCoAカルボキシラーゼ」という酵素を増やす働きもありました。 つまりPin1は、肝臓で脂肪の分解を妨げると同時に脂肪の合成を促す働きをもつため、肥満やMASHの発症に関与していることがわかりました。   今後の展開 今回の研究は、マウスを用いて肝臓のPin1を欠損させると肥満やMASHが改善することを明らかにしました。今後は、Pin1の選択的阻害剤の開発やPin1の阻害剤が肥満やMASHを改善するかを検討する必要があります。   謝辞 本研究は、科学研究費補助金(研究代表者:中津祐介、浅野知一郎、佐野朋美)、土谷記念医学振興基金(研究代表者:中津祐介)、山口内分泌疾患研究振興財団(研究代表者:中津祐介)、薬理研究会(研究代表者:中津祐介)、朝日生命成人病研究所研究助成(研究代表者:中津祐介)、持田記念医学薬学振興財団(研究代表者:中津祐介)の支援で行われました。 また、広島大学からの論文掲載料の支援を受けています。   参考資料 本研究の概略図     報道発表資料(373.64 KB) 掲載誌:Biochim. Biophys. Acta. Mol. Basis Dis. 研究者ガイドブック(中津祐介准教授)     【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科医化学講座中津祐介 Tel:082-257-5138 E-mail:nakatsu@hiroshima-u.ac.jp

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.19
    • 医療/ヘルスケア
    リンパ管の病気「リンパ管奇形」に対して、漢方薬「越婢加朮湯」が有効であることを確認しました~半数以上の患者さんで患部の腫れを20%以上縮小、世界初 臨床試験で実証~

    本研究成果のポイント 先天性のリンパ管の病気「リンパ管奇形」に対して、漢方薬「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」が有効であることを世界で初めて確認しました。   概要 広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授(研究代表者)らの研究グループは、全国8施設の小児外科・放射線科と共同で行った臨床研究において、漢方薬「越婢加朮湯(TJ-28)」が小児リンパ管奇形(lymphatic malformation: LM)に有効であることを明らかにしました。この成果は、米国医学会の国際誌 JAMA Network Open(2025 年11 月3 日号)に掲載されました。 また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 論文情報 ・論文タイトル:Eppikajutsuto for Treatment of Lymphatic Malformations in Children: A Nonrandomized Clinical Trial ・著者:Keiko Ogawa-Ochiai, MD, PhD(広島大学病院 漢方診療センター)ほか ・掲載誌:JAMA Network Open 2025 年11 月3 日 ・doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.40897 https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/10.1001/jamanetworkopen.2025.40897?guestAccessKey=330f0c68-47b9-46c5-8851-24ecb13f6048&utm_source=for_the_media&utm_medium=referral&utm_campaign=ftm_links&utm_ content=tfl&utm_term=110325 ・試験登録番号:Japan Registry of Clinical Trials(jRCTs041210007) ・研究助成:日本医療研究開発機構(AMED)「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業 (リンパ管奇形に対する越婢加朮湯の効果を評価する治験のプロトコール作成、リンパ管奇形に対する越婢加朮湯の効果を評価する臨床研究) 背景 リンパ管奇形とは、生まれつきリンパ管の病気の一種です。リンパ管という管がうまくつくられなかったことで、体の中の老廃物や余分な水分が袋状に溜まりコブをつくってしまう病気で、このコブが顔や首回りによくできるため、気道を圧迫して呼吸がしづらくなったり、見た目上の問題などを引き起こします。 従来の治療法である硬化療法(コブの中に薬を注射して小さくする方法)や外科手術によるコブ切除は効果がある一方で、治療後の腫れにより気道を閉塞してしまうリスクがあるほか、近年注目される「mTOR 阻害薬シロリムス」という薬は、免疫力が低下し、他の病気に感染してしまうリスクや、口内炎などの副作用が課題となっており、新たな治療法が求められていました。 https://cure-vas.jp/list/lymphatic-malformation/ 難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班ホームページより 研究成果の内容 今回、リンパ管奇形の治療に「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」という漢方薬を活用することを見出しました。越婢加朮湯はむくみや炎症をやわらげる効果がある漢方薬で、古代中国の医学書『金匱要略(きんきようりゃく)』に由来します。日本では1986年に厚生労働省により承認され、保険収載されています。1 日あたり約120円程度と経済的であり、外来で安全に使用できる治療法です。 本研究では、体重25kg 以下の小児19 人に越婢加朮湯を6 か月間投与し、その効果を調べました。MRI により画像検査を行ったところ、52.6%の症例で病気の部分が20%以上縮小し、顔や首回りでは83.3%の小児に効果が見られました。副作用は軽度なものが多く、重い副作用を発症したのは1 人だけでした。また、薬の継続率も高く、約9 割が実際にきちんと飲まれており、多くの子どもが継続して治療を受けら れたことがわかりました。 本研究は、広島大学病院を中心に、金沢大学、慶應義塾大学、大阪大学、日本大学、国立成育医療研究センター、昭和医科大学、聖マリアンナ医科大学、全国8 施設が共同で実施しました。MRI 画像解析は中央判定により行われました。   今後の展開 本研究成果は、難治性疾患に対する漢方薬の科学的有効性を示す初のエビデンスとして、国内外の小児外科・小児科・放射線科・形成外科・皮膚科・漢方医学領域に新たな治療選択肢を提供するものです。今後は、長期予後の検証や、分子標的薬との併用・比較研究を通じて、より個別化された治療モデルの確立を目指します。この結果を基に、世界のリンパ管奇形の子供たちに漢方薬での治療が可能になるように尽力したいと思っています。     報道発表資料(553.19 KB) 掲載誌:JAMA Network Open 研究者ガイドブック(小川恵子教授)   【お問い合わせ先】 広島大学病院 漢方診療センター 教授 小川 恵子(おがわ けいこ) E-mail:okeiko22@hiroshima-u.ac.jp TEL:082-257-1921(内線 6921)

    • 環境エネルギー
    • 資源
    2025.11.27
    • 環境エネルギー
    • 資源
    希少で高価な貴金属を用いず低濃度の二酸化炭素を直接資源化 ~マンガンを使った高耐久光触媒で人造石油原料を効率生成~

    本研究成果のポイント 地球に豊富な元素「マンガン」を使い、希少金属を一切用いずに二酸化炭素を還元する光触媒系を開発 従来、二酸化炭素を人造石油の原料となる一酸化炭素に還元するには、ほぼ100%の高濃度二酸化炭素が必要であったが、この光触媒システムにより、希薄な濃度(1-10%)の二酸化炭素を還元することが可能となった   概要 広島大学大学院先進理工系科学研究科の鴨川径特任助教、石谷治特任教授らの研究グループは、可視光照射により低濃度の二酸化炭素(CO2)を、有用な化学物質である一酸化炭素(CO)へ効率的かつ選択的に直接還元する光触媒システムの開発に成功した。 今回開発された光触媒システムは、地球に豊富に存在するマンガンを含む金属錯体*1触媒と、有機色素*2からなり、希少で高価な金属を一切使わずにCO2を資源化できる。 さらに今回開発された光触媒は、マンガン錯体の優れたCO2捕集能を活用できるので、低濃度(1-10%)のCO2を、濃縮することなく効率的に還元できる。この光触媒反応で選択的に得られるCOは、化学産業において有用な化合物であり、人造石油の原料でもある。本成果は、火力発電所や製鉄所からの排気ガス中のCO2を、エネルギーとコストのかかるCO2濃縮過程を経ずに直接資源化できるCCU技術*3への活用が期待される。   なお、研究成果は、10月17日にアメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けた。   論文情報 タイトル:Efficient and Selective Photocatalytic Conversion of Low-Concentration CO2 to CO Using Mn-Complex Catalysts. 掲載ジャーナル:J. Am. Chem. Soc. 2025, 147 (43), 39284-39297. 著者:K. Kamogawa*, H. Koizumi, O. Ishitani.* *責任著者 DOI:10.1021/jacs.5c10694     背景 太陽光を利用したCO2の光触媒還元資源化は、人類が直面している地球温暖化とエネルギー及び炭素資源不足の問題を一挙に解決する技術として注目されている。 しかし、これまで開発されたCO2還元光触媒の多くは、純粋なCO2を還元することを目指していた。しかし工場や発電所の排ガス中のCO2濃度は数%~20%程度と低く、その中からCO2を分離・回収するには多大なエネルギーと費用を要する。 そのため、排ガス中の希薄なCO2を直接資源化できる光触媒システムの開発が求められている。また、多量のCO2を処理するためには、光触媒を形作る物質は、安価であり、かつ多量に使用可能でなければならない。     研究成果の内容 本研究では、マンガン錯体触媒の配位子に立体的に嵩高いメシチル基を導入することで光触媒耐久性を大幅に向上させることに成功した。また、トリフルオロエタノール(CF3CH20H)と少量のジイソプロピルエチルアミン(DIEA、図1左上)を共存させると、このマンガン錯体触媒が、低濃度のCO2しか含まないガスからもCO2を効率よく捕集し分子内に取り込むことを見出した(図1)。  この反応により捕集されたCO2は、今回開発した光触媒システムにおいて効率よくCOへと選択的に還元できる。 図1. マンガン錯体触媒によるCO2捕集反応:捕集されたCO2(赤字)は、光触媒反応システムで効率よく還元される。   このマンガン錯体触媒と有機色素4DPAIPN*4(図2左)を含む溶液に可視光を照射すると、高い耐久性と効率でCO2がCOへと選択的に変換された。さらにこの光触媒システムは、反応容器中のCO2濃度を10%さらに1%へと低下させても優れた光触媒能を維持した。  図2に、100%, 10%および1%CO2雰囲気下でそれぞれ光触媒反応を行った際のCO生成の経時変化を示す。10%と1%CO2雰囲気下では、100%CO2雰囲気下の約88%と44%の速度でCOが生成し、高い光触媒反応速度が維持されることがわかる。   図2. 有機色素4DPAIPNと様々なCO2濃度下での光触媒反応の結果     今後の展開 本研究によって、地球上に多く存在する元素だけで構成された触媒と有機色素を用いて、排ガス中の低濃度CO2からでも、濃縮過程を経ることなく有用な化学原料を生み出す新しいカーボンリサイクル技術を開発できる可能性が示された。  今後は、さらなる耐久性の向上、実際の排ガス中での性能評価や水の還元剤としての利用など、実用化に向けて必要な機能の構築と評価に取り組んでいく。     従来研究と本研究の対比 ●従来(貴金属触媒) ・使用金属:貴金属(Re、Ru、Ir) ・必要なCO₂濃度:ほとんどの系で高濃度 ・CO₂濃縮工程:ほとんどの系で濃縮が必須 ・反応効率(希薄 CO₂):ほとんどの系で反応速度が大幅に低下 ・工業的スケール性:高コストで困難   ●本研究(Mn 光触媒) ・使用金属: Mn(安価・豊富) ・必要なCO₂濃度:1–10%の低濃度で可 ・CO₂濃縮工程:濃縮不要 ・反応効率(希薄 CO₂):10%:88%、1%:44%(純 CO₂と比較した反応速度) ・工業的スケール性:低コストで拡大可能     謝辞 本研究は、科学技術振興機構知財活用支援事業「スーパーハイウェイ」の支援を受けて行われた。     用語解説 *1金属錯体: 金属イオンが配位子と呼ばれる分子やイオンと結合することでできた化合物 *2有機色素の役割: 可視光を吸収し、還元剤から触媒に電子を渡す役割をする。 *3CCU技術: Carbon Capture and Utilizationの略、低濃度CO2を捕集して資源化する技術の総称 *44DPAIPN: EL素子用の化合物として開発された。可視光をよく吸収し、酸化還元反応にも安定で、光触媒反応に利用できる基本的性質を有している。図2に構造を示す。     報道発表資料(544.14 KB) 掲載ジャーナル:J. Am. Chem. Soc. 研究者ガイドブック(石谷 治 特任教授)   【お問い合わせ先】 広島大学大学院先進理工系科学研究科石谷治 Tel:082-424-7340FAX:082-424-7340 E-mail:iosamu*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.11.26
    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    御神木が語る大気汚染の移り変わり ~年輪のイオウが示す500年の環境変化の記憶~

    本研究成果のポイント イオウ酸化物の排出量は近年減少しているが、開国による日本の工業化(1850年)以前と比べて現代の大気がどの程度清浄化しているかは、未解明のまま残されていた。 本研究では、御神木の年輪に含まれるイオウ安定同位体比(δ34S)注1)を分析し、1500年代から現在にかけて500年にわたる大気中のイオウの起源の変化を探った。 年輪から計測されたイオウ同位体比は、工業化を境に大きく変化し、御神木は倒れる直前まで汚染された大気の値を記録していた。この結果は、現代の大気が工業化以前の清浄な水準にまだ戻っていないこと、あるいは土壌に蓄えられた過去の汚染イオウがいまも環境中に放出されていることを示している。   研究概要 名古屋大学大学院生命農学研究科の塩出 晏弓 博士後期課程学生、谷川 東子 准教授は、同大学院環境学研究科の中塚 武 教授、加藤 義和 研究員、平野 恭弘 教授、アジア大気汚染研究センターの佐瀨 裕之 部長、諸橋 将雪 主任研究員、広島大学の石田 卓也 准教授との共同研究により、中部日本の2本の御神木から500年分の年輪を読み解き、「産業革命前から開国を経て現代に至るまで」の大気汚染の移り変わりをたどりました。  化石燃料の消費に伴うイオウ酸化物の排出量は、2000年代以降、世界的に減少しています。しかし、現代の大気は、化石燃料の大量消費が始まる以前、すなわち産業革命前と比べ、どの程度まで清浄化しているのかは、これまで明らかにされていませんでした。  本研究では、自然災害で倒木した中部日本の2本の御神木を対象に、年輪に含まれるイオウ安定同位体比を分析し、各年代のイオウの起源(化石燃料か自然由来か)を推定しました。 イギリスの産業革命後であっても、日本の本格的な工業化以前までは、同位体比は高い値で安定していました。ところが、工業化の進行に伴って値はイオウ同位体比が低い石炭や石油の影響を受けて急激に低下し、その低い値は木が倒れる直前まで維持されていました。 御神木は、「イオウ排出量が減少した今もなお清浄な大気には戻っていない」、あるいは「かつて放出された化石燃料由来のイオウが土壌に蓄えられ、いまも環境中をめぐっている」ことを伝えています。  この成果は、今後の気候変動対策や大気保全の指標づくりに役立ちます。本研究成果は、2025年11月13日にSpringer Nature雑誌『Biogeochemistry』に掲載されました。     研究背景と内容 (1)研究の背景 化石燃料の消費などにより排出されるイオウ酸化物は、酸性雨の原因物質の一つとして知られ、生態系にさまざまな影響を及ぼしてきました。  近年、その排出量は世界的に減少傾向にありますが、一方で気候変動対策として、成層圏に硫酸エアロゾルを注入して地球を冷却させる「気候工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)」の研究も進展しています。 こうした状況の中で、私たちがどのような大気の時代に生きているのかを知る手がかりとして、イオウ循環の長期的な歴史をさかのぼり、「産業革命以前の清浄な大気」と「今の大気」を比較することが重要だと考えました。  これまで南極やグリーンランドの氷床コアを用いた研究は、地球規模でのイオウ循環の長期変動を明らかにしてきました。氷床コアが遠い極地でしか得られないのに対し、樹木は私たちの身近に存在します。年輪は一年に一つずつ正確に刻まれるため、樹木の中にはその土地の空気や土の変化が細かく記録されています。 つまり樹木は、その生育地域におけるイオウ循環の移り変わりを細かく教えてくれる「自然の記録帳」ということができます。  今回、ペンやインクに相当するのは、イオウの安定同位体比(δ34S)です。イオウはその発生源によって、δ34S値が異なります。 たとえば、自然起源の海塩エアロゾルはおよそ +20.3‰、火山ガスは +5‰ と比較的高い値を示します。一方、日本で多く利用されてきた中東産の石油は −8~0‰ と非常に低い値を持っています。 このため、木の年輪に含まれるδ34S値を調べることで、その時代の大気中イオウの主な発生源を推定することができます。  ただし、土壌がイオウを捉える力が強い場合には、大気の状態と年輪に記録される値との間に時間的な「ずれ」が生じます。「ずれ」の存在は、過去にもたらされた汚染由来のイオウを、樹木が土壌から吸収しているということ、すなわち、過去に人間活動により大量放出されたイオウが今なお環境を循環していることを意味します。   (2)調査方法 本研究では大雨や台風によって倒木した2本の御神木—大湫神明神社(岐阜県瑞浪市)の樹齢約670年の大杉と伊勢神宮(三重県伊勢市)の樹齢500年の神宮杉を試料として用いました(図1)。 どちらも数百年にわたって地域の方々に大切に守り育てられてきた樹木です。これらの樹木の幹試料を5年ごとに分割し、イオウ同位体比を分析することで、樹木が長期的にどのように変動したかを明らかにしました。 図1. 2本の御神木の生育地   (3)研究成果 イオウ同位体比(δ34S)の長期的な変動は、図2の矢印で示した年に統計的に有意な転換点が認められました。本研究から見えてきたこと、そしてこれから明らかにしていくべき点を以下に整理しました。 図2. 樹木年輪のイオウ同位体比(δ34S)の経時変化   ① 日本の工業化前の樹木に含まれるイオウ同位体比は高い値で安定していた。化石燃料の大量消費が始まる前は、数百年にわたってδ34S値が安定していました(図2)。1760年のイギリス産業革命直後は、日本で大規模な火山噴火があったため値が動いていますが、その後再び1760年以前の値に戻り安定しました。  このため、日本においてはイギリスの産業革命による大気汚染の影響は限定的であったと考えられます。 大湫は伊勢よりも内陸に位置しており、高いδ34S値を持つ海塩の影響を受けにくいため、2地点の間には一貫して4.5‰程度の差異が見られました。  これまで樹木の年輪を用いたイオウ同位体比の研究では1830年が最も古い年代であり、大規模なイオウの排出が始まった1760年の産業革命前も含む年輪のイオウ同位体比を明らかにした初めての研究となりました。   ② 樹木年輪のイオウ同位体比が大きく変化するのは、日本国内で化石燃料が消費されるようになってから。 やがて日本でも工業化が進み、化石燃料の大量消費が始まると、年輪のδ34S値は急激に低下しました。 特に、蒸気船や鉄道のような近代的な運輸手段の整備が大きな影響を与えていると考えられます。   ③ 人為起源イオウの影響は、排出量減少後も年輪中に検出される。 1970年に大気汚染防止法が改正されると、脱硫装置の普及などによりイオウ排出量が減少し、人為起源イオウの寄与割合が低下しました。その結果、年輪のδ34S値は上昇傾向を示しました。  しかし、δ34S値は工業化前と比較するとはるかに低く、降水や工業化前の年輪から推定した人為起源のイオウの寄与率については1970年以降も高い水準にとどまっていることが示されました(図3)。   ④ 土壌がイオウを捉えることによる時間の「ずれ」はあったのか? 大気から降ってきたイオウや、植物が落葉などを通じて地表に戻したイオウは、いったん土の中に蓄えられます。大湫と伊勢の土壌は、イオウを強くつかまえるタイプではないと考えられますが、土壌が「時間のずれ」を生じさせて、昔の大気の情報をあとから木に伝えていたのかどうかは、まだはっきりしていません。  工業化前の年輪のδ34S値と現代の年輪のそれとの大きなギャップは、現代の大気は奇麗になってきたとはいえ、その清浄さは工業化以前の大気の状態にははるかに及ばないこと、あるいは、過去の大気汚染によって土壌に蓄えられたイオウが、時間をかけて再び樹木に取り込まれている可能性を示しています。 もし後者であれば、かつて降り注いだイオウは、今もなお森の中で静かに循環を続けているということになります。     成果の意義 本研究は、産業革命以前から現代にかけての、大気中イオウの歴史的な変化の軌跡を、2本の御神木の年輪に刻まれたイオウ安定同位体比(δ34S値)から読み解きました。 その結果、化石燃料の使用が本格化する以前の年輪には、清浄な大気を反映した高いδ34S値が記録されており、現在の年輪が示す非常に低い値は、今の大気はそのレベルまで回復していない、あるいは過去のイオウ大量放出の影響が環境には色濃く残っている状況が映し出されました。 これらの成果は、イオウ排出量が減少した現代においても、過去に排出されたイオウが大気や土壌に残り、その影響を正しく理解することの重要性を示しています。そして樹木は、大気汚染のような環境の変化を、500年もの歳月にわたって記録し続けてきた、長いページをもつ「自然の記録帳」であることが明らかになりました。     謝辞 御神木の学術利用を許可してくださいました大湫神明神社および伊勢神宮の関係者のみなさまに深く御礼申し上げます。  本研究は、科学研究費補助金研究・基盤研究(B)『森林生態系内に蓄積した大気汚染レガシーの極端気象による可動化(22H02401)』、日本技術振興機構『次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2125)』、文部科学省『女性研究者研究活動支援プログラム』の助成を受けて実施しました。     用語説明 注1)イオウ安定同位体比(δ34S): イオウ(S)には、質量の異なるいくつかの種類(同位体)があり、主に軽い³²Sと重い34Sが存在する。 イオウ安定同位体比(δ³⁴S)は、標準物質と比較して34Sと³²Sの比がどの程度異なるかを示す指標で、イオウの起源や循環の違いを読み解く手がかりとなる。   注2)混合モデル: 同じイオウでも、火山から放出されたもの、海から飛んできたもの、化石燃料の燃焼で発生したものでは、δ34S値が異なる。 それぞれの発生源がもつこの特徴的な値は、まるで“イオウの指紋”のようなものである。「混合モデル」とは、この同位体の“指紋”を手がかりに、複数の発生源がどの程度の割合で混ざっているかを推定する手法。 たとえば、年輪や土壌、水などの環境試料に含まれるイオウのδ34S値を測定し、海塩・火山・化石燃料などの典型的な値と比較することで、その試料中のイオウがどの発生源にどの程度の割合で由来するかを数値的に推定することができる。     論文情報 雑誌名:Biogeochemistry 論文タイトル:Air pollution recovery still falls short of pre-industrial conditions – Sulfur stable isotope analysis of tree rings from two giant trees 著者:Ayumi Shiode1, Takeshi Nakatsuka2, Yoshikazu Kato2, Hiroyuki Sase3, Masayuki Morohashi3, Takuya Ishida4, Yasuhiro Hirano2, Toko Tanikawa1 (塩出晏弓1, 中塚武2, 加藤義和2, 佐瀨裕之3, 諸橋将雪3, 石田卓也4, 平野恭弘2, 谷川東子1) 1, 名古屋大学大学院生命農学研究科; 2, 名古屋大学大学院環境学研究科; 3, アジア大気汚染研究センター; 4, 広島大学大学院先進理工系科学研究科 DOI: 10.1007/S10533-025-01277-W URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s10533-025-01277-w     報道発表資料(788.13 KB) 掲載誌:Biogeochemistry 研究者ガイドブック(石田卓也准教授)   【問い合わせ先】 【研究者連絡先】 名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授谷川東子(たにかわとうこ) TEL:052-789-4154 E-mail: toko105*agr.nagoya-u.ac.jp 広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授 石田 卓也(いしだたくや) TEL:082-424-6544 E-mail:tkishida*hiroshima-u.ac.jp アジア大気汚染研究センター生態影響研究部 部長佐瀨裕之(させひろゆき) TEL: 025-263-0560 E-mail:sase*acap.asia 【報道連絡先】 名古屋大学総務部広報課 TEL:052-558-9735 FAX:052-788-6272 E-mail:nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp 広島大学広報室 TEL:082-424-3749 FAX:082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp アジア大気汚染研究センター(代表) TEL:025-263-0550 FAX:025-263-0566 E-mail:eanet*acap.asia (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.12.22
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    遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発 ~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~

    本研究成果のポイント ヒト細胞内で、遺伝子編集を行う際、オフターゲット作用(不要な場所のDNA切断)が起こらずに、目的の遺伝子修復(HDR)が成功した細胞だけを選別する独自スクリーニングシステムを開発しました。 本システムを用いて、標的 DNA を改変する新規のゲノム編集技術Cas9変異体「HSS Cas9」を獲得しました。HSS Cas9は野生型Cas9よりも特定の標的配列において高いHDR効率を示します。 HSS Cas9とHDRが活発になる細胞周期制御技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、不要な変異(インデル)の発生を大幅に抑制し、遺伝子編集の「正確性(HDR/インデル比)」を最大約30倍以上に向上させることに成功しました。 遺伝子編集の精度向上によって、安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科の松本大亮助教(現東京都医学総合研究所主任研究員)、野村渉教授、山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センターの佐藤悠助教、東京都医学総合研究所宮岡佑一郎再生医療プロジェクトリーダーらのグループはヒト細胞においてHDRが成功するとジフテリア毒素への耐性を獲得する仕組みと緑色蛍光の消光によりオフターゲット作用を検出する仕組みを利用した、独自のスクリーニングシステムを構築しました。このシステムを用いてCas9変異体ライブラリを探索した結果、2つの新規アミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ「HSS Cas9」を同定しました。HSS Cas9は、野生型Cas9と比較して、特定の遺伝子標的(EMX1, VEGFAなど)において高いHDR効率を示しました。さらに、HSS Cas9と細胞周期依存的にCas9を活性化させる技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせることで、インデルの発生を強く抑制し、遺伝子編集の正確性(HDR/インデル比)を飛躍的に向上させることに成功しました。本成果は、より安全で高精度な遺伝子治療技術の開発に貢献するものです。 本研究成果は、「Journal of Biomedical Science」(IF=12.1)に令和7年12月3日付でオンライン掲載されました。   <発表論文> 論文タイトル Screening Strategy to Identify Cas9 Variants with Higher HDR Activity Based on Diphtheria Toxin   著者 松本大亮1,2,3,*、久保田小茉利1、佐藤悠4、加藤-乾朋子3、濁川清美1,2、宮岡佑一郎3、野村渉1,2,* 1.広島大学薬学部 2.広島大学大学院医系科学研究科 3.東京都医学総合研究所 4.山口大学大学研究推進機構中高温微生物研究センター * 責任著者   掲載雑誌 Journal of Biomedical Science (IF=12.1)   DOI番号 DOI: 10.1186/s12929-025-01197-9   研究助成 この研究成果は、科研費、JSPS 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)JPJS004 20230011、HIRAKU-Global、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、上原記念生命科学財団、持田記念医学薬学振興財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の支援を受けて研究を行い、得られたものです。   背景 ゲノム編集技術は、遺伝性疾患やがんの治療法として期待されています。ゲノム編集技術では、標的とする遺伝子を切断することが必要となります。これまでにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)やTALEN(例:Platinum TALEN)などが開発されてきており、現在では目的に沿った使い分けが可能な状況となっています。そのなかでもCRISPR-Cas9は標的配列を自在に特異的に標的化できるという点から、主要なゲノム編集ツールとして汎用されています。これらのツールはいずれも標的とする遺伝子配列を切断する機能を持っています。しかし、DNAを切断した後、あらかじめ用意した正しい遺伝子配列(テンプレートDNA)を使って正確に修復する「HDR(相同組換え修復)」の効率が低いことが大きな課題でした。ゲノム編集では、多くの場合に標的配列がエラーを伴いやすい「NHEJ(非相同末端結合)」によって修復されてしまい、意図しない変異(インデル)が生じてしまうためです。精度の高いゲノム編集によってより安全性の高い遺伝子治療が可能となりますが、この実現には、HDR効率を向上させることが不可欠です。しかし、これまでに決定的な解決策は示されていません。   研究成果の内容 研究グループはまず、ヒト細胞内でHDRによる修復に成功した細胞だけが生き残り、緑色蛍光タンパク質の消光によってゲノム編集操作における副作用であるオフターゲット作用を検出する、スクリーニングシステムを開発しました(図1)。このシステムを用いて、Cas9のDNA切断に関わるドメインにランダムな変異を導入したライブラリを探索した結果、これまでに報告のなかった2つのアミノ酸変異(I795V/K918E)を持つ変異体「HSS Cas9(HDR-Screening-Selected Cas9)」を発見しました(図2)。このHSS Cas9は、野生型のCas9と比較して、特定の遺伝子標的において高いHDR効率を示しました。 さらに、研究グループはHSS Cas9と、HDRが活発になる細胞周期(S/G2期)でのみCas9を活性化させる既存の技術(AcrIIA4-Cdt1)を組み合わせました。その結果、望まない変異(インデル)の発生を劇的に抑制しつつ、高いHDR効率を維持することに成功。編集の「正確性(HDR/インデル比)」を、標的遺伝子によっては野生型Cas9と比べて最大約30倍以上に向上させることを実証しました(図3)。   今後の展開 Cas9によるヒト細胞のゲノム編集が報告されてから10年以上が過ぎ、基本特許の有効期間も折り返しの10年間を迎えています。今回開発されたスクリーニングシステムは、ランダムなCas9変異体の中からヒト細胞内での高精度な修復を起こしやすい変異体を選抜することができます。今後、このスクリーニングシステムに改良を加えながら、より大規模なスクリーニングを実施することで、新たなバージョンのHSS Cas9の獲得に展開していきます。これによって、より安全で確実性の高い遺伝子治療法の開発や、精密な遺伝子改変が求められる基礎研究分野での活用が期待されます。   参考資料 図1.スクリーニングシステムの概略図 図2.獲得した変異体の活性確認(#27がHSS Cas9) 図3.HSS Cas9の細胞周期依存的な活性化(WT: 野生型Cas9, HSS: HSS Cas9, A4C: AcrIIA4-Cdt1, PO: ホスフォジエステル結合の一本鎖オリゴの鋳型, PS: ホスフォロチオエート結合(末端3塩基)の一本鎖オリゴの鋳型)   【プレスリリース】遺伝子編集の精度を高める新しい仕組みを開発~安全で確実性の高い遺伝子治療や精密さが求められる基礎研究に貢献~.pdf(398.74 KB) 掲載雑誌:Journal of Biomedical Science 研究者ガイドブック(野村渉教授)   【お問い合わせ先】   <研究に関すること> 東京都医学総合研究所主任研究員松本大亮 Tel:03-5316-3129 E-mail:matsumoto-ds*igakuken.or.jp   広島大学大学院医系科学研究科教授野村渉 Tel:082-257-5308 E-mail:wnomura*hiroshima-u.ac.jp   山口大学大学研究推進機構 中高温微生物研究センター助教 佐藤悠 Tel:083-933-5841 E-mail: yusato*yamaguchi-u.ac.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 Tel:082-424-4518 FAX 082-424-6040 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   公益財団法人 東京都医学総合研究所 事務局研究推進課乙竹・伊藤 Tel:03-5316-3109   山口大学総務企画部総務課広報室 Tel:083-933-5007 E-mail:sh011*yamaguchi-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.12.22
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    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.12.23
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    ビタミン「ビオチン」を細胞へ迅速・効率的に届ける新手法を開発 ~バイオテクノロジー技術の改良や遺伝性代謝異常症治療への応用に期待~

    本研究成果のポイント 皮膚や髪の健康を保ち、体のエネルギーづくりにも関わるビタミンの一種「ビオチン(※1)」を、細胞の中により速く、効率的に届ける方法を開発しました。 細胞膜を素早く通過できる新しいビオチン誘導体を用いることで、細胞内のビオチン量を短時間で増やし、ビオチンを用いるさまざまなバイオテクノロジー技術を改良できることが分かりました。 ビオチンを利用するバイオ技術の改良や、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(※2)の新しい治療法につながる可能性があります。   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子 教授、理化学研究所光量子工学研究センターの中野明彦 客員主管研究員、戸島拓郎 上級研究員らは、ビオチンを細胞に入りやすい形に改良したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME)(※5)を用いることで細胞内への迅速なビオチンの誘導に成功しました。 私達が生きるために必須なビタミンの一種である「ビオチン」は、卵白に含まれる「アビジン(※3)」と呼ばれるタンパク質と強く結合する性質を持つため、現在、さまざまなバイオテクノロジー技術に用いられています。ビオチンはナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT)(※4) と呼ばれるタンパク質の働きで細胞内に取り込まれます。しかし、私達は多くの細胞でSMVTによるビオチン取り込みに時間がかるため、生細胞内へのビオチン投与を必要とするバイオテクノロジー技術が迅速に機能しないことを発見しました。 さらに、BMEは細胞内でビオチンへと急速に加水分解(化学反応によって物質が水の働きで分解され、元の成分に戻る反応)され、細胞内のビオチン濃度を迅速に上昇させることで、バイオテクノロジー技術を改良できることを発見しました。また、最近の研究から、SMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。私達の研究成果は、BMEがビオチンのプロドラッグ(※6)として機能することを示しており、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症の患者さんへのビオチン供給を促進する可能性があり、治療への応用が考えられます。   論文情報 掲載雑誌名: Communications Biology 論文名: Biotin methyl ester enhances cargo release in RUSH system and enables rapid biotinylation with TurboID 著者名: Uehara T1#, Takiguchi A1#, Tojima T2, Nakano A2, 3, Kagawa S1, Nehira T1, Satoh T1, Satoh AK1,*. 所属:1)広島大学大学院 統合生命科学研究科 2)理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム(研究当時、現画像情報処理研究チームの所属) 3)東京科学大学 総合研究院高等研究府 # 共筆頭著者:上原 大政・瀧口 新 * 責任著者:佐藤 明子   DOI: 10.1038/s42003-025-09176-4. 掲載日時: 2025年12月16日   背景 ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することはできないため、ビオチンを食事により取り入れる必要があります。ビオチンの細胞内への取り込みは、細胞膜に存在するナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) が行っています。 ビオチンはアビジンと強い結合を示すことから、ビオチン・アビジン結合性を利用したさまざまなバイオテクノロジー技術が発達しています。さらに、近年、近位依存性ビオチン化酵素(※7)を用いたタンパク質相互作用の網羅的解析(近位依存性ビオチン標識法(※8))が活発に進められています。生きた細胞でこれらの技術を用いる場合には、細胞培養液へのビオチン投与で十分であると考えられてきました。 細胞内における物質輸送(膜交通)の研究分野では、ビオチン投与によりタンパク質輸送を開始できる同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook 法: RUSH) 法(※9)が汎用されています。しかし、私達は、RUSH法において、ビオチン投与後すぐには輸送開始しない細胞が多いことを報告していました (Tago et al., EMBO repo, 2025)( https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/87904)。今回、私達は、この理由がビオチンの細胞内取り込みが迅速ではないからではないかと考え、実験を行いました。   研究成果の内容 本研究では、ビオチンの膜透過性を向上させる目的で、ビオチンのカルボキシ基を保護したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME) を用いてRUSH法においてタンパク質輸送が迅速に開始するかを評価しました。その結果、RUSH法において推奨されている40μMにおいてビオチンが十分な輸送開始を引き起こせないのに対して、BMEでは、その20分の1の濃度である2μMの投与でもタンパク質輸送が迅速に開始することを示しました。また、BMEの細胞内への取り込みはSMVTの阻害剤では阻害されず、BMEが直接細胞膜を透過することが強く示唆されました。 さらに、BMEが近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化の速度も上昇させることを発見しました。ビオチン化酵素はBMEを直接基質として利用できないことから、この結果はBMEが細胞内で急速に加水分解されることを強く示唆しています。また、細胞内の核・細胞質ゾル・小胞体内腔のいずれの領域においても、BME投与が近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化を活性化することを示しました。これらの結果から、BMEがビオチンを用いるバイオテクノロジー技術を大きく改良できると結論しました。 今後の展開 本研究が示した「BMEによる細胞内への迅速なビオチン供給」は、ビオチンを利用するさまざまなバイオテクノロジー技術全般に普及するものと考えられます。 また、ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することができないため、ビオチンを食事により摂取し、細胞内に取り込んでいます。最近の研究から、ビオチンの細胞内への取り込みに必要なSMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。BMEはビオチンのプロドラッグ(体内で活性成分に変化して働く薬)として機能することから、代謝マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症を含むビオチン代謝異常症の患者へビオチン供給を簡単に行うことができる可能性があり、治療への応用が考えられます。 参考資料 図ビオチンメチルエステル (BME)による細胞内への迅速なビオチン供給と応用 BMEはビオチンのカルボキシル基がメチル化された、電荷を持たない小分子であり、容易に細胞膜を通過する。小胞体内腔において、カルボキシルエステラーゼの働きで加水分解されてビオチンとなる。小胞体膜は電荷を持った小分子も容易に通すため、BME投与により細胞質ゾル・核・小胞体のいずれの領域にもビオチンを迅速に供給でき、バイオテクノロジー技術を改良できる。さらにビオチン代謝異常症の治療に役立つ可能性がある。   用語解説 (※1)ビオチン ビタミンB群の一種であり、エネルギー代謝や皮膚・粘膜・髪・爪の健康維持に重要な役割を果たす水溶性ビタミン。体内で糖質、アミノ酸、脂質の代謝を助ける補酵素として働く。   (※2) マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症 SMVTの欠損によって引き起こされる先天性代謝異常症の1つであり、最近同定された疾患。ビオチンがカルボキシラーゼの補酵素であるため、患者はマルチプルカルボキシラーゼ欠損症と呼ばれる病態を含む多様な症状を示す。 (※3)アビジン 卵白に存在する糖タンパク質で、ビタミンであるビオチンと非常に強く結合する性質を持ちます。この強力な結合を利用して、生命科学分野では、様々なバイオテクノロジー技術に利用されています。   (※4) ナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) ビオチン・パントテン酸・リボ酸塩の細胞内への取り込みに機能する細胞膜タンパク質。濃度勾配に従ってナトリウムを細胞内に取り込むときにこれらのビタミンを同時に輸送するシンポーター。   (※5) ビオチンメチルエステル (BME) ビオチンのカルボキシル基がメチル基とエステル結合したビオチン誘導体。電荷を持たない小分子であり、カルボキシルエステラーゼにより分解される。   (※6) プロドラッグ 機能分子(ドラッグ)のカルボキシ基がエステル化された分子。電荷を持たないため迅速に細胞膜を透過する。細胞内に入るとカルボキシルエステラーゼにより加水分解され、活性を持つドラッグとして機能する。   (※7) 近位依存性ビオチン化酵素 大腸菌ビオチンリガーゼ酵素BirA に変異を導入し、中間体のbiotinyl-5’-AMP が酵素から遊離し,近傍のタンパク質のリジン残基にビオチンを付加するように改変した酵素BirA* (BioID) やそれを改良したもの等。活性を高めたTurboID, AirID などがよく利用される。   (※8) 近位依存性ビオチン標識法 以下の一連の操作により、相互作用ネットワークを解析する手法。相互作用ネットワークを知りたいタンパク質に、近位依存性ビオチン化酵素を融合して発現させる。細胞にビオチンを投与することで、興味あるタンパク質近傍に存在するタンパク質を網羅的にビオチン化する。ビオチン化タンパク質をアビジンカラムで精製し質量分析機で解析することで相互作用ネットワークを明らかにできる。   (※9) 同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook法: RUSH法) 膜交通分野で汎用されるタンパク質輸送を同調的に開始させる手法。ビオチン投与によりタンパク質がアビジンから遊離して輸送を開始する。     報道発表資料.pdf(335.32 KB) 掲載雑誌:Communications Biology 研究者ガイドブック(佐藤 明子 教授)   【お問い合わせ先】 〈研究に関すること〉 広島大学大学院統合生命科学研究科佐藤明子教授 TEL:082-424-6507FAX:082-424-0759 E-mail:aksatoh@hiroshima-u.ac.jp   〈広報・報道に関すること〉 広島大学 広報室 TEL:082-424-6762 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 TEL:050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp

    • デジタル/AI
    2018.04.01
    • デジタル/AI
    工作機械とロボットの精度を保証する

    アピールポイント 工作機械の精度を何年にもわたって保証する技術 機械の運動を3次元で測定,制御する独自技術 産業用ロボットの「絶対的」位置決め精度を保証する   研究者のねらい 機械加工の精度が、徐々に変化し、ある時点で許容値を満たさなくなることはないでしょうか。工作機械の精度は、熱変形や経年変化などを原因として変化していきます。そこで、精度を長期間にわたって保証するため、定期的に機械の精度を計測する技術の研究を行っています。 また産業用ロボットについては、我々が開発した新しい誤差補正技術により、ロボットの可動領域全体で精度を保証することを目指しています。これにより、これまでロボットでは難しかった新しいアプリケーションを広げるための研究を、産学連携で進めています。その代表例が、ロボットを用いた切削加工や、タッチプローブやレーザスキャナを用いた計測です。   備考 【特許】特許第6147022号,工作機械の空間精度測定方法および空間精度測定装置 【特許】特許第6803043号,工作機械の幾何誤差測定方法 【特許】特開2020-066083,ロボットの運動精度測定方法及び位置補正方法 【特許】特許第7161753号,ロボットの運動精度測定方法及び位置補正方法 【特許】特願2021-083751,ロボットの制御装置及び制御方法 【特許】特許7641000号,ロボットの制御装置及び制御方法 【学術論文】https://mecdes.hiroshima-u.ac.jp/index_jp.html   研究者 茨木創一(IBARAKI SOICHI) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

    • デジタル/AI
    2010.04.01
    • デジタル/AI
    出力制限があり応答が穏やかな目標値追従制御

    研究者のねらい 人間と協働するロボットへの応用を意図しています。モーターの発生力や速度に制限をかけた上で、正確な動作を実現します。そして、動作中に人間が接触したり、誤った目標位置指令を与えてしまった場合にも、安全に穏やかに作業を続行できます。 ロボットの位置制御だけでなく、他のさまざまな制御(接触力、空気圧、液圧、重力、流量など)にも使える可能性があります。 人間や環境と接触して作業するロボット、人間と協調作業するロボット、遠隔操作ロボットなどへの応用が可能です。   研究内容 不連続な微分方程式(微分包含式)をベースにした新しい観点から、産業界へ即時投入できるさまざまな制御技術や計算技術を考案しています。 本制御技術は、小さな外乱には素早く応答し、大きな外乱にはゆっくり応答します。そのため、正確な制御の実現と、オーバーシュートや振動の抑制が両立できる制御技術を開発しています。   備考 ホームページ:https://home.hiroshima-u.ac.jp/kikuuwe/ YouTubeのチャンネル:https://www.youtube.com/kikuuwe プロクシベースト・スライディングモード制御について https://home.hiroshima-u.ac.jp/kikuuwe/res_psmc/index_j.html 研究者 菊植亮(KIKUUWE RYO) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

    • デジタル/AI
    2021.01.25
    • デジタル/AI
    ロボットの周期運動と⾮周期運動の精密/安全な制御と診断

    周期運動と⾮周期運動を診断・制御するアルゴリズム   周期/⾮周期運動を、より⾼精度、より安全に、制御・診断する 産業⽤ロボットや⾃動機械の多くは⼤量⽣産のため繰り返し作業(周期運動)を実施します。さらにそこには、故障・摩耗・⼈間との接触などに起因する異常(⾮周期運動)も潜んでいます。これら、周期運動と⾮周期運動を対象とした機械システムの⾼精度化・安全化・異常検知を実現する制御・診断アルゴリズムの研究開発を⾏っています。   機械システムの制御・診断   USE CASE 01 ⾃動機械 APPLICATION周期外乱の推定・補償よる精密位置決め 繰り返し作業する⾃動機械の位置決め精度を悪化させる周期外乱(振動)の問題へ、周期外乱を推定・補償する制御アルゴリズムによりこれを解決します。   USE CASE 02 協働ロボット 周期運動の精密制御と⾮周期運動の安全制御 繰り返し作業(周期運動)へ精密な位置制御を、⼈間との突発的な接触(⾮周期運動)へ安全な⼒制御を実現することで、協働ロボットへ精密かつ安全な運動を実現します。   USE CASE 03 診断・検査 ⼤量⽣産された製品の押し込み検査や繰り返し運転する機械から計測される⼒より、正常な周期⼒と異常な⾮周期⼒を分離することで、異常品や 異常運転をリアルタイム検出します。     周期/⾮周期問題を解決する実時間アルゴリズム STRENGTHS 01 周期/⾮周期の⽬線 運動に潜む周期現象と⾮周期現象を捉える問題発⾒と、周期/⾮周期の性質を活⽤したアルゴリズム開発による、ユニークな周期/⾮周期の問題解決を提供します。   STRENGTHS 02 アルゴリズム開発 可能な限り既存の機構や運転環境(ハードウェア)を保存しつつ、機械システムの運動を取り巻く問題はアルゴリズム(ソフトウェア)によって解決します。   STRENGTHS 03 リアルタイム性 リアルタイムな制御・診断が、機械システムを取り巻くその瞬間の問題へ、その瞬間に対応します。   周期/⾮周期分離技術 TECHNOLOGY 01 周期/⾮周期分離フィルタ 運動に潜在する周期運動と⾮周期運動を制御・診断するには、まず、位置・速度・加速度・⼒といった運動に関する信号を周期信号と⾮周期信号へ分離しなければなりません。この分離の要となるのは、村松がこれまでの研究で独⾃に発明した「周期/⾮周期分離フィルタ」です。この分離フィルタを⽤いることにより、あらゆる周期運動と⾮周期運動の制御・診断が実現されます。   機械システムの周期/⾮周期問題を解決します 共同研究仮説01 既存の機械システムを対象とした共同研究 今、利⽤している機械を⾼度化しましょう   共同研究仮説02 新たな機械システムを開発する共同研究 これから、活⽤したい機械システムを開発しましょう 産業⽤機械やロボットのハードウェアから共に開発していきましょう。そして、開発したハードウェアへ制御・診断のアルゴリズムを実装します。   備考(関連論文) H. Muramatsu and S. Katsura, IEEE Transactions on Industrial Informatics, 2018. H. Muramatsu and S. Katsura, IEEJ Journal of Industry Applications, 2019. H. Muramatsu and S. Katsura, Automatica, 2019. H. Muramatsu and S. Katsura, IEEE Transactions on Industrial Electronics, 2020.   研究者 村松久圭(MURAMATSU HISAYOSHI) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 半導体
    • 素材
    2013.04.01
    • 半導体
    • 素材
    大気圧プラズマビームを用いた超高速・高温熱処理技術

    アピールポイント 従来のレーザープロセスと比較して装置コストを大幅に低減 従来プラズマに比べ、高パワー密度かつ大面積処理が可能 半導体基板、ガラス素材、フィルム素材、鉄板などに対する局所的・極表面熱処理   研究者のねらい 従来の大気圧・高エネルギー熱プラズマに対し、ワーク表面でのパワー密度が格段に高く、さらに磁場走査により大面積処理を可能とすることを特徴とした、熱プラズマジェットを用いたミリ秒オーダーの高温熱処理技術を開発しています。 本技術は、レーザーを用いた熱処理と同程度の高パワーを、10分の1以下の装置コストで実現可能であり、レーザーと異なり、被熱処理物が透明であっても熱処理が可能です。 半導体中の不純物活性化や、耐熱性の低い基板の瞬間過熱による極表面熱処理などの半導体デバイス分野への応用に加え、ガラスやフィルム素材、鉄板の局所的、または極表面のみの熱処理技術など、これまで実現できなかった新たな応用も期待できます。   研究内容 約1万度のプラズマジェットを大気圧下で発生させ、これを被熱処理物にミリ秒程度の短時間照射することにより、被処理物の表面(数10µm)のみを選択的に1,000℃以上の高温で熱処理することを可能にしました。 本プロセスの応用例として、ガラス基板上の非晶質Si膜を同技術により熱処理し、多結晶化したSi膜を用いて**薄膜トランジスタ(TFT)**を作製しました。その結果、電界効果移動度61 cm²V⁻¹s⁻¹、しきい値電圧3.4 Vという良好なトランジスタ特性を得ています。   【特許】 特願2019-118679表面処理装置   【論文】 “Large area annealing by magnetic field scanning of atmospheric pressure thermal plasma beam,” Jpn. J. Appl. Phys., 59 (2020) SJJF01-1.   研究者 東清一郎(Higashi Seiichirou) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

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