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    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.04
    • 医療/ヘルスケア
    ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に関する意識調査を実施 7割以上が包括同意に慎重

      本研究成果のポイント 回答者の73%が包括同意に慎重 日本人の20代から60代の男女326人を対象にオンライン調査を実施した結果、脳オルガノイド(多能性幹細胞*1を培養して作製される立体的な脳組織)が作成される可能性がある場合、「包括同意」(提供細胞の幅広い研究利用への同意を取る方法)を採用する研究機関に対し、36%(121人)が「提供しない」、37%(116人)が「場合による」と回答。 十分な説明・用途の決定権・研究者の信頼性が重要 「提供しない」「場合による」の選択理由として、回答者の多くが、研究内容や研究目的への説明、研究用途の決定権、研究者や研究機関の信頼性を要求。現状の日本では研究プロジェクト毎に個別に研究内容を説明したうえでの同意取得が推奨される。 適切なサイエンスコミュニケーション*2の重要性を指摘 調査結果から、ヒト脳オルガノイド*3研究に関する平易で明瞭な説明に加え、基礎研究と医療応用との関連を示すサイエンスコミュニケーションが求められることを指摘。     概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附座教授兼務、シンガポール国立大学客員教授)は、東京科学大学工学院の小池真由助教とともに、ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に対する日本人の意識を調査するため、オンラインでアンケート調査を実施しました。日本人326件の回答のうち、提供細胞を幅広い医学・科学研究に利用することを可能にする包括同意に対して否定的・慎重な態度を示すものが73%を占めることが明らかになりました。 本研究成果は、2025年8月22日に学術誌「Frontiers in Genetics」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:Japanese Attitudes Toward Cell Donation in Human Brain Organoid Research: Many Oppose Broad Consent 著者:Masanori Kataoka1, Mayu Koike2, Tsutomu Sawai1,3,4,* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 2. 東京科学大学工学院 3. 広島大学大学院人間社会科学研究科 4. Centre for Biomedical Ethics, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore.*: 責任著者 雑誌:Frontiers in Genetics URL: https://www.frontiersin.org/journals/genetics/articles/10.3389/fgene.2025.1606923 DOI:10.3389/fgene.2025.1606923     背景 ヒトの脳の発生過程の解明や、脳に関連する疾患の解明、創薬・治療法の開発を目的として、 ヒト脳オルガノイド研究が急速に進展しています。ヒト脳オルガノイドとはヒトの多能性幹細胞を培養して作製される3次元的な脳組織であり、その作製のためには細胞の提供が不可欠です。 細胞提供の場面では、日々の研究を円滑に進めるため、多くの研究機関が「包括同意」方式を採用しています。そのため、この方式で得られた細胞が、ヒト脳オルガノイドの作製に用いられる可能性があります。 ヒト脳オルガノイド研究の領域は、ヒト脳オルガノイドを体外で作製するだけにとどまらず、動物への移植、機械への接続など多岐にわたります。こうした研究用途に対して、道徳的な抵抗をおぼえる人々が一定数いることがこれまでの研究から知られており、包括同意に基づいて提供された細胞からヒト脳オルガノイドを作製することは、細胞提供者の道徳感に反してしまう可能性が指摘されてきました。 ヒト脳オルガノイド研究において、細胞提供者の望まないかたちで細胞が利用される可能性があるのであれば、より望ましい細胞提供の手法や同意取得のモデルを確立することが早急に取り組むべき課題です。このような背景から、本研究では日本人を対象とした社会調査を実施し、適切な同意のあり方を検討しました。     —研究成果の内容—   研究手法 2022年12月8日に、日本人を対象に「脳オルガノイドに関する意識調査」というオンライン調査を実施し、20代から60代の男女326人(女性126人・男性200人)から有効回答を得ました。 回答者には、ヒト脳オルガノイド研究の概要を説明した上で、ヒト脳オルガノイドについて事前に知っていたかどうかを尋ねました。 自分の細胞をヒト脳オルガノイド研究に対して提供する意思があるか、また、どのような研究目的であれば提供する意思があるかを尋ねました。 包括同意の概要を説明した上で、提供した細胞がヒト脳オルガノイドの作製に利用される可能性がある場合に、包括同意を採用する研究機関に細胞を提供する意思があるかを尋ねました。加えて、自由記述で回答の理由を記載する機会を設けました。     結果 ・参加者の91%はヒト脳オルガノイドに関する事前知識なし。 ・ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供意思を示した参加者は76%。 ・医療応用が目的の場合は60-70%程度の参加者が提供意思を示すのに対し、基礎研究が目的の場合は42%まで低下。 ・包括同意を採用する研究機関への細胞提供意思を示した参加者は52%。 表1:包括同意採用機関に細胞提供の「意思なし」「場合による」を選択した理由(自由記述) 考察 細胞がヒト脳オルガノイド研究に用いられると明確に説明されている場合、多くの参加者が細胞を提供する意思を表明しました。ただし、基礎研究に対しては医療目的の研究よりも提供意思を示した参加者が少ないという傾向が見られました。このようなギャップを埋めるためには、医療応用の基盤として基礎研究が不可欠であることを伝えるサイエンスコミュニケーションが推奨されます。 ヒト脳オルガノイドが作製される可能性を踏まえると、包括同意を採用する研究機関への細胞提供については、「意思なし」・「場合による」と回答した参加者が73%を占めました。このように慎重な態度をとる人が多くいることを踏まえると、包括同意を取得した細胞からヒト脳オルガノイドを作製することが、細胞提供者の意思に反することになってしまう可能性があります。 慎重な態度の理由として、研究内容に関する説明を求める声や、研究目的を限定したいという声が挙げられました。これらを尊重する方法として、プロジェクト毎に研究内容を個別に説明したうえで同意を取得するという方法が推奨されます。 包括同意を維持する場合も、本調査の参加者の間でのヒト脳オルガノイドの認知度が10%程度であったことを踏まえると、ヒト脳オルガノイド研究に関する平易で明瞭な説明や、提供細胞がヒト脳オルガノイド作製に使用される可能性を事前に明示することが推奨されます。     今後の展開 今回の調査には、参加者の偏りや、対象群の設定など、いくつかの限界があります。責任あるヒト脳オルガノイド研究をさらに支援するため、質的な調査も含め、より多様な人々の意見を明らかにする調査が重要になります。 本調査は、研究者・研究機関への不信が細胞提供に対して慎重となる理由の一部であることを示しました。本研究のような社会調査の成果が、研究への理解や信頼の構築を支援するサイエンスコミュニケーション戦略に活用されることが期待されます。 細胞提供は個人の同意に基づいて実施されるため、個人の道徳観を尊重することが非常に重要です。そのため、国や地域、集団の文化や慣行に配慮した同意の仕組みを構築する必要があります。今回のような調査を多様な国・地域・集団で実施し、同意の仕組みに反映していくことが求められます。     謝辞 本調査にご協力いただいた参加者のみなさまに感謝いたします。 また、本研究は以下の支援により実施しました。     本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 基盤研究(B) 「現代社会におけるヒト発生研究の倫理基盤の構築」[24K00039] (代表者:澤井努) 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 学術変革領域研究(B) 「ヒト培養技術を用いた「個人複製」の倫理学」[24H00813] (代表者:澤井努) 日本医療研究開発機構(AMED) 脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト) 「ヒト脳オルガノイド研究に伴う倫理的・法的・社会的課題に関する研究」[JP23wm0425021/JP24wm0425021] (代表者:澤井努) 日本学術振興会 (JSPS)・文部科学省科学研究費基金若手研究(21K12908) 科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX) [JPMJRS22J4] 公益財団法人上廣倫理財団 [UEHIRO2023-0122].   用語解説 *1:多能性幹細胞 自己増殖能(無限に増殖する能力)と多分化能(体を構成する全ての細胞に分化できる能力)を持つ 細胞。ES細胞(精子と卵子の受精後5〜7 日が経過した胚盤胞から内部細胞塊を取り出して人工 的に作られる)やiPS細胞(皮膚や血液の細胞に複数の遺伝子を導入して人工的に作られる)がある。   *2:ヒト脳オルガノイド ヒトの多能性幹細胞を培養して作製される立体的な脳組織。   *3:「サイエンスコミュニケーション」 科学者や専門家が科学の知識を人々(非専門家)にわかりやすく伝えたり、科学技術をめぐる課題を人々に伝えたりすることで、専門家と非専門家による双方向の対話を生み出す活動のこと。   報道発表資料.pdf(498.51 KB) 掲載雑誌:Frontiers in Genetics 研究者ガイドブック(澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan@hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.11.04
    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    日本周辺の魚類体重変動の主原因は餌をめぐる競争 ―75%は餌をめぐる競争、50%は環境悪化―

    本研究成果のポイント 日本周辺の魚類16系群の体重減少の75%は餌をめぐる競争が原因と特定された。 魚類の体重変化に対し、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を定量的に評価した。 魚種内および魚種間の競争が明示され、複数魚種管理の科学的知見となることが期待される。   餌をめぐる競争で魚類の体重変化   概要 東京大学大学院農学生命科学研究科の林珍大学院生(研究当時)と同大学大気海洋研究所の伊藤進一教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の冨山毅教授らの共同研究グループは、日本周辺の魚類16系群(注1)の体重変化の原因を調べ、75%の系群の体重変動は餌をめぐる競争が主原因であることを明らかにしました。 本研究では長期の体重変動に状態空間モデル(注2)を応用することで、餌をめぐる競争、環境要因による影響、漁獲圧の影響を初めて定量的に評価しました。先行研究では、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じており、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少に伴い魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因であると推定しましたが、本研究では各要因を定量的に評価した点で新規性があり、この研究成果は今後複数魚種管理(注3)の科学的知見として役立つことが期待されます。   発表内容 これまでに同研究グループは、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じていることを先行研究で示していました(関連情報①)。その中で、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少によって魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因だと推定しましたが、各魚種あるいは系群の体重変化(図1)の原因を特定するには至っていませんでした。この度、本研究チームは、各年に孵化した魚類が、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を受けながら年齢を増すモデルを構築し、状態空間モデルを当てはめることで、実際に起きた体重変動を説明するために必要な要因の特定を行いました(図2)。その結果、餌をめぐる競争は75%の系群で重要であり、ついで環境が50%の系群で作用し、漁獲圧の影響は25%にとどまることが示されました。 図1:各系群の体重変化 元データは水産庁および水産研究・教育機構が公表している資源評価報告書に記載されている年齢別体重(https://abchan.fra.go.jp/hyouka/)。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。 図2:各系群の状態空間モデルの解析結果     左列は最小年齢の解析結果、右列はそれ以降の年齢の解析結果。それぞれの色は体重変動の要因を示し、点線の0の値から離れてかつ高いピークを示すものほど影響が明確であることを示す(灰色:過去の履歴の影響、水色:魚種内及び魚種間競争、赤:漁獲圧、橙:交互作用、緑:環境要因)。Bは種内競争、SumBはマイワシ・マサバ・カタクチイワシからの種間競争、OYは親潮面積、VTDは表層と下層の水温差の影響を示す。Nullはどの影響でも説明できなかったことを示す。右側の%はモデルの説明率を示す。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。     水産庁や水産研究・教育機構などの努力によって長期に蓄積された年齢別体重データを網羅的に調べた研究の成果として、定量的に体重変動の要因が示されました。この結果は、各魚種あるいは系群ごとの管理だけでは加味されない魚種間の餌をめぐる競争の重要性を示すものであり、今後複数魚種管理が必要であることを示しています。本研究は、今後の複数魚種管理の基礎的な知見となることが期待されます。     関連情報 「プレスリリース①日本周辺の魚類の小型化 ―温暖化により顕著になった餌をめぐる競合―」(2024/02/28)     発表者・研究者等情報 東京大学 大気海洋研究所 伊藤進一教授 大学院農学生命科学研究科   林珍博士課程(研究当時) 現:東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)ポストドクトラル研究員   水産研究・教育機構水産資源研究所 藤原邦浩主幹研究員   広島大学 大学院統合生命科学研究科 冨山毅教授     論文情報 雑誌名:Progress in Oceanography 題名:A state-space approach reveals that competition drives variation in fish body weight, with influences from environmental conditions and fishing pressure 著者名:Zhen Lin *, Shin-ichi Ito, Alan Baudron, Christine Stawitz, Takeshi Tomiyama, Kunihiro Fujiwara, Paul D. Spencer, John Morrongiello DOI: 10.1016/j.pocean.2025.103582 URL: https://doi.org/10.1016/j.pocean.2025.103582     注意事項 日本時間11月01日午前02時06分(協定世界時間:10月31日午後5時06分)以前の公表は禁じられています。     研究助成 本研究は、科研費「基盤研究A(課題番号:JP21H04735)」、「学術変革領域B(課題番号:JP22H05030)」、「学術変革領域研究A公募研究(課題番号: JP25H02072)」の支援により実施されました。     用語解説 (注1)系群 資源の変動単位。遺伝的に他の生物集団と区別できる集団、あるいは遺伝的に区別できなくとも、産卵期、産卵場、分布、回遊、成長、成熟、生残など、独自の生物学的特徴を有する場合が多い。本研究で用いた16系群は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マアジ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、マサバ対馬暖流系群、ゴマサバ太平洋系群、ゴマサバ東シナ海系群、ウルメイワシ対馬暖流系群、サワラ瀬戸内海系群、カタクチイワシ太平洋系群、カタクチイワシ対馬暖流系群、マダラ本州太平洋北部系群、ブリ、スケトウダラ太平洋系群、イカナゴ瀬戸内海東部系群、キチジ太平洋北部系群。   (注2)状態空間モデル 状態を表す変数(今回の場合は真の体重)がある要因(今回の場合は餌をめぐる競争を指標する各系群の資源量あるいはマイワシなど大きく変動し他魚種にまで影響する資源量、環境要因としての栄養塩豊富な親潮域の面積あるいは表層と下層の水温差による成層強度、漁獲圧)によって変化し、その変数の観測値(今回の場合は体重の観測値)が誤差を持って観測されると仮定し、各要因の影響を調べるモデル。   (注3)複数魚種管理 単一魚種・系群ではなく、複数の魚種・系群を対象として管理する方法。   報道発表資料_20251101報道解禁.pdf(681.83 KB) 掲載雑誌:Progress in Oceanography 研究者ガイドブック(冨山 毅 教授)   【お問い合わせ先】 東京大学大気海洋研究所 教授伊藤進一(いとうしんいち) Tel:04-7136-6240 E-mail:goito@aori.u-tokyo.ac.jp   広島大学大学院統合生命科学研究科 教授冨山毅(とみやまたけし) Tel:082-424-7941 E-mail:tomiyama@hiroshima-u.ac.jp   東京大学大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター広報戦略室 E-mail:kouhou@aori.u-tokyo.ac.jp   東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)アウトリーチ担当 Tel:022-795-5620 E-mail: aimec-comm@grp.tohoku.ac.jp   広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 食料/農林水産業
    • 融合領域
    2025.01.23
    • 食料/農林水産業
    • 融合領域
    マグロ刺身の食べごろを散乱光で評価

    背景 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の安全検査や冷凍保存時の品質検査の技術確立の必要性が高まっている。 食用魚は、低温下で一定時間寝かせて熟成することでイノシン酸などのうま味成分が増すことが知られ、これらのうま味成分を計測する方法は多々あるが、鮮魚のおいしさはうま味成分のみでは決まらず、歯ごたえなどの食感も重要な要素となる。 魚肉は主に筋肉で構成されており、活け締め後の時間経過に伴う筋肉の分解が食感に大きく関わっているが、これまでの食感評価では、検査器を対象物に物理的に接触させる必要があった。 本研究では、光を照射して筋繊維やコラーゲンのような構造的に偏りのある物質内で特殊な散乱光を発生させ、これを観測することにより、筋肉やコラーゲンの分解プロセスを非接触で直接計測する手法を開発した。   研究成果の内容 計測方法 レーザー光照射により物質内で発生する散乱光(光第二高調波=SHG光)を測定する偏向顕微鏡(以前本研究者らが開発)を用いる。   キハダマグロの測定 新鮮な冷凍キハダマグロのブロックを、飲食店と同じ手順で解凍後に、4℃条件下に静置(チルド冷蔵) 静置後、0、12、24、48、72時間で、サンプルを採取し、レーザー光を様々な偏向角度(0~180°、10°きざみ)で照射し、散乱光の画像を測定   散乱光画像により筋繊維構造が可視化できる 筋繊維構造の時間変化を、散乱光の合成画像(様々な照射光偏向角における信号を足し合わせた画像)で評価する。 解凍後12時間さらには24時間で散乱光の強度は大きく低下し、散乱源となる筋肉の分解が進行している。 ただ、24時間後でも筋繊維の特徴である周期構造(サルコメア構造)が残っている。 24時間以降になると、周期構造に裂け目やぼやけが生じ、72時間後には細かい繊維のみとなる。 ※時間経過に伴い散乱光強度が低下し画像が暗くなるため、右三つの24時間以降の​図は画像処理して繊維構造を見やすくしている。   散乱光強度の偏向角依存性により筋肉かコラーゲンかが判る 散乱光画像を領域分割して、領域毎の散乱光強度を求め、その偏向角依存性をみる。 解凍後0時間では散乱光強度の偏向角依存性は二山形状に、72時間後にはすり鉢状の形になる。 先行研究で、二山形状は筋繊維に関わるたんぱく質ミシオンの特徴、すり鉢形状はコラーゲンの特徴であることが判っている。 図の説明:上の散乱光画像を、縦方向2分割、横方向4分割し、8つの各領域毎に、散乱光強度と入射偏向角度の関係を示す。領域毎に色を変えて下の図にプロットしている。​   散乱光強度と偏向角の関係をパラメータγで定量化 先の二山形状、すり鉢形状のグラフは共通の数式で近似でき、その形をパラメータγの値のみで表現できる。(詳細は省略) 解凍後各経過時間における散乱光強度と偏向角の関係からパラメータγの値を求め、時間毎のγの値の分布図(※)を示している。 解凍後、12時間までにタンパク質の分解が筋肉全体で始まるが、筋肉の構造はそれほど変化しない。 24時間までに、筋繊維の周期構造が急速に分解するが、その後、48時間までいったん安定期に入る。 48時間以降、筋肉分解が再開し、72時間までにはコラーゲン繊維を主とする組織となる。 ※ 各時間における散乱光画像40~50サンプルを採取し、それぞれを16領域に分割し、各領域におけるγの値を求めた。   「食べごろ」の判定 従来の食品検査法による鮮度の評価指標K値は、解凍後48時間までに大きく増加、すなはち、生化学的な反応による鮮度低下が進行する一方で、イノシン酸の産出によるうま味が増加する。 本研究によると、筋繊維の分解は、12時間以降急速に進むが、24時間後では筋繊維の構造はまだ残ったまま48時間まで安定期に入る。72時間経過するとコラーゲン繊維を主とする組織になる。 「食べごろ」は人により異なるが、 プリプリした弾力のある食感が好みの場合は、筋肉構造の変化が少ない12時間までが食べごろ 24時間から48時間までが、柔らかい歯応えとうま味を安定して感じられる食べごろ 48時間以降は、筋肉分解が大幅に進行し、コラーゲン主体の筋張った食感になる   本研究の優位性 鮮魚の食感に関わる筋肉繊維の構造とその変化を非接触で測定可能であり、食感の定量評価が可能となる。 繊維構造の直接計測のため、魚種などによらない汎用的な評価になりうる。 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の品質評価の基盤技術になりうる。   論文 Optical evaluation of internal meat quality deterioration in a tuna fillet based on second-harmonic generation anisotropy measurement Tomonobu M WATANABE, Yasuhiro MAEDA, Go SHIOI, Kaho MIYAZAKI, Hideaki FUJITA Journal of Food Engineering <DOI>10.1016/j.jfoodeng.2024.112422   研究者からのメッセージ 今回開発された手法は、筋肉繊維のみから選択的に発せられるSHG光を指標としているため、適用する魚種を選びません。また、従来の食感に関わる指標とも異なり、微視的な構造変化に基づいて評価でき、新しい鮮魚の評価法となると期待されます。   共同研究チーム 理化学研究所生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チーム チームリーダー渡邉朋信(広島大学原爆放射線医科学研究所教授) 技師前田康大塩井剛 広島大学原爆放射線医科学研究所 助教藤田英明 学部生宮崎夏帆   研究支援 理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究)により、一部、理化学研究所-広島大学共同研究拠点で実施 基盤となったSHG偏光顕微鏡技術は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「オールオプティカルメカノバイオロジーの創出に向けた技術開発と発生生物学への応用(研究代表者:倉永英里奈)」の研究過程において開発 研究者 渡邉朋信(WATANABE TOMONOBU) 広島大学 原爆放射線医科学研究所 教授

    • 素材
    2025.07.01
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    前駆体構造を保持したまま構造の次元性を逐次的に増加させる新しい酸化物合成法の開発に成功!

    本研究成果のポイント 前駆体(1)(出発点)の構造を保ったまま、「分子→棒→シート」という段階的な酸化物の合成(2)が可能に 従来のα-MoO3(3)と異なり、反応性の高い(100)面(4)が主な面となるα-MoO3 世界で初めてミクロ孔(5)を持つα-MoO3の合成に成功 大きな比表面積(6)や配位不飽和点(7)を利用した高い酸触媒(8)特性   概要 広島大学大学院先進理工系科学研究科の湊拓生助教と定金正洋教授を中心とする研究グループは、前駆体構造を保持したまま0次元の分子を繋げて1次元棒状構造を作り、棒を並べて2次元シート状酸化物を作る、という新しい酸化物逐次合成法の開発に成功しました(図1)。本研究成果を応用することによって準安定な酸化物を設計することが可能となるため、細孔構造や露出面などを精密に制御した材料開発を行うことが期待されます。本論文はAngewandte Chemie International Edition誌のHot Paperに選ばれ、Wiley-VCH社のHot Topic: Crystal Engineeringでも紹介されました。   図1:前駆体構造を保持したまま酸化物の次元性を増加させる合成手法の模式図。灰色の球は、0次元の分子やクラスターの前駆体構造を示す。   背景 0次元の金属塩やクラスターを用いて、水熱反応や固相反応により2次元や3次元構造を持つ酸化物を合成する場合、前駆体の分解/再構築反応が起きるため、前駆体の構造を保持したまま生成物の次元性を制御することはこれまで極めて困難でした。Mo酸化物の構造は多様な次元性を持つことが知られており、α-MoO3は2次元シート状構造を有しています。α-MoO3の合成においても前駆体構造は保持できないため、一般的に熱力学的に安定な(010)面が主な面となる構造が生成します。また、従来のα-MoO3は低比表面積でミクロ孔はもたず、触媒として重量当たりの活性が低いことが問題でした。   研究成果の内容 本研究では0次元と見做せる[Mo2O5(H2O)6]2+に着目し、分子の端に有機小分子をキャップさせて縮合(9)させることにより分子構造を保持したまま1次元鎖状構造[Mo2O6(C3H7NO)]nを合成することに成功しました(図2)。さらに1次元鎖状化合物を空気中で焼成(10)することで有機小分子が脱離し、鎖状構造を保持したまま縮合反応を行うことが可能となりました。結果的に得られた2次元シート状酸化物α-MoO3は従来のα-MoO3とは異なり、反応性の高い(100)面が多く露出している構造であることを見出しました(図2)。本研究で合成したα-MoO3はミクロ孔や大きな比表面積を有し、酸触媒として高い活性を示すことも明らかにしました。 図2:本研究における前駆体構造を保持した逐次的なα-MoO3合成。   今後の展開 合成前駆体の構造設計により酸化物の次元性や構造、露出面を制御可能という新しい合成戦略を様々な酸化物合成に応用することにより、高性能・高機能な触媒材料や電極材料の創製が可能になると期待されます。また、膨大な研究例があるシンプルな構造の酸化物(本研究ではα-MoO3)においても、構造の次元性に着目して合成戦略を見直すことにより、新しい物性・機能が見出されることを実証することができました。したがって、酸化物合成の基礎研究としても重要な視点を提供できると考えられます。 論文情報 論文題目:A Structure-Preserving, Dimensionality-Increasing Strategy for the Stepwise Synthesis of Microporous α-MoO3 with a Broad (100) Surface 著者名:Takuo Minato,1* Misato Miyamoto,1 Satoshi Ishikawa,2 Norihito Hiyoshi,3 Makoto Maeda,4 Kenji Komaguchi,1 Masahiro Sadakane1 1.    広島大学大学院先進理工系科学研究科 2.    神奈川大学工学部(現在の所属は東京科学大学総合研究院フロンティア材料研究所) 3.    産業技術総合研究所化学プロセス研究部門 4.    広島大学自然科学研究支援開発センター * 責任著者 掲載誌:Angewandte Chemie International Edition DOI:10.1002/anie.202506758 ※    論文は2025年6月18日に公開されました。オープンアクセスとなっているため、どなたでも無料でご覧になれます。 ※    本研究は科学技術振興機構さきがけ(JPMJPR23Q9)、日本学術振興会科研費(JP21K20559, JP22K14693)、学術変革領域研究(A)「超セラミックス」、文部科学省卓越研究員事業(JPMXS0320200400)、豊田理研スカラー制度の助成を受けて行われました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。 ※    特許出願済み。   用語解説 (1)前駆体(ぜんくたい) 材料をつくる元になる物質。化学反応を通じて、最終的な生成物を得る「出発点」となる原料のこと。 (2)酸化物の次元性 酸化物は金属–酸素の結合が連なることにより形成されている。この結合の連なりは多くの場合3次元的に広がっているが、組成に応じて2次元的なシート状構造が積層した酸化物や1次元的な棒状構造が束となった酸化物、さらに0次元的な点と見做せる小さな分子状酸化物など様々な次元性を持った構造の存在が知られている。 (3)α-MoO3 モリブデンと酸素からなる酸化物の一種。αは結晶のタイプを示す。電極材料や触媒材料として注目されている。 (4)(100)面・(010)面 ミラー指数という結晶の表面の向きを示す指数。α-MoO3の場合、どの面が広く露出しているかで触媒反応のしやすさ(反応性)が変わる。 ・(100)面:今回の研究で多く露出している反応性の高い面 ・(010)面:安定で一般的に観測される反応性の低い面 (5)ミクロ孔(みくろこう) 直径が2ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)以下の、非常に小さな穴。今回の研究では2次元のシート一枚分の厚さ(0.7ナノメートル)のスリット状の細孔が観測された。 (6)比表面積(ひひょうめんせき) 材料の重さあたりの表面積。市販されているα-MoO3は(010)面が主な露出面で比表面積は極めて小さい。 (7)配位不飽和点(はいいふほうわてん) 材料の中で、まだ他の分子と結びつく余地がある原子の場所。分子を活性化させ化学反応を進行しやすくすることができる。今回の研究では、α-MoO3の(100)面に多く存在している。 (8)酸触媒(さんしょくばい) 化学反応を助ける物質(触媒)のうち、酸性の性質を使って働くもの。 (9)縮合(しゅくごう) 分子同士がつながってより大きな構造になる反応。   添付情報 報道発表資料:【広島大学】前駆体構造を保持したまま構造の次元性を逐次的に増加させる新しい酸化物合成法の開発に成功!_0.pdf 掲載誌:Angewandte Chemie International Edition 研究者ガイドブック(湊 拓生 助教)   【お問い合わせ先】 広島大学 大学院先進理工系科学研究科助教湊 拓生(みなと たくお) Tel:082-424-7605 E-mail:tminato*hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください。)

    • デジタル/AI
    2017.10.01
    • デジタル/AI
    極端な変形下でも計算を続行できる 変形シミュレーション技術

    研究者のねらい 人間と協働するロボットへの応用を意図していました。 モーターの発生力や速度に制限をかけた上で正確な動作を実現します。 そして、 動作中に人間が接触したり、 誤った目標位置指令を与えてしまったりした場合にも、安全に穏やかに作業を続行できます。 ロボットの位置制御だけでなく、他の様々な制御 (接触力、空気圧、 液圧、電圧、電流など) にも使える可能性があります。 人間や環境と接触して作業するロボット, 人間と協調作業するロボット, 遠隔操作ロボットなどへの応用が可能です。   研究内容 物理現象のリアルタイム/インタラクティブ (実時間/相互作用的) シミュレーションに使える様々な計算技術の開発を行っています。 たとえば、既存ソフトウェアでのシミュレーションで、「計算が遅い」 「計算が発散してしまう」 「計算が止まってしまう」などへの対応が可能です。   備考 ホームページ(https://home.hiroshima-u.ac.jp/kikuuwe/ ) Youtubeのチャンネル( https://www.youtube.com/kikuuwe) 動画1( https://youtu.be/SFFCbUdioEQ) 動画2 ( https://youtu.be/S4bJS8SGZXU) 動画3 (https://youtu.be/R5iJgJ7VApc)   研究者 菊植亮(KIKUUWE RYO) 大学院先進理工系科学研究科 広島大学 教授

    • 環境エネルギー
    • 循環経済
    • 素材
    • 融合領域
    2025.01.07
    • 環境エネルギー
    • 循環経済
    • 素材
    • 融合領域
    リサイクルができる画期的な新規汎用ゴム材料

    背景 エチレン-プロピレンゴムは、対候性、オゾン性、熱、光、および化学薬品に対する優れた耐性をもつ最も一般的なゴム材料である。 ゴム材料は、自動車や建材のチューブ、シール、ガスケットなど、様々な工業製品に利用されており、発生する膨大な廃ゴムのリサイクルが喫緊の課題となっている。 加硫プロセスにより製造された従来のゴムは、再生プロセスにおいて深刻な物性の劣化が生じるため、リサイクル不可である。 本研究は、リサイクル可能な新たなゴム材料を開発し、マテリアルリサイクルによる閉ループプロセスの実現を目指す。     リサイクルを可能にする取組み ゴムに弾性を付与するためには、原料の高分子(ポリマー)を相互に架橋させる必要がある。現在、このために硫黄を加える加硫プロセスを用いているが、この「加硫」がリサイクルを阻害している。 従来の加硫に代わり、可逆的に架橋および切断ができる共有結合による架橋プロセスを実現する。 ボロンを用いる架橋が一般的だが、ゴム材料用のポリマーにボロンを結合させることは非常に困難である。 本研究は、独自の触媒を用いて、高分子材料を合成する段階で、ボロンを組み込むことに成功した。     新しいプロセス ①エチレン、プロピレン、ボロン酸コモノマー(保護マスク付き)を新開発触媒を用いて、配置共重合しボロン含有ポリマーを合成 ②酸性条件下での加水分解によりマスク除去 ③ボロン酸の熱脱水縮合によりポリマーを架橋させて、ボロン架橋エチレン–プロピレンゴムを生成 (以下リサイクルプロセス) ④アルコール分解により脱架橋 ⑤脱架橋ポリマー中のボロン酸エステルを酸性メタノールを用いてボロン酸に変換してボロン含有ポリマーを再生   ボロン架橋エチレン-プロピレンゴムの特性 (1)引っ張り強さ・応力–歪特性 ボロン架橋ゴムの引っ張り強度は、従来の硫黄加硫ゴムより高く、エチレン含有量が増えるとより高い。 ボロン含有量を増やすと破断時の伸び歪を大きくできる。 (2)繰り返し引っ張りによる特性変化 2回目以降の応力-歪曲線は、ほぼ重なり合い、優れた弾性特性を示す。   (3)複数回のリサイクル後の特性変化 リサイクルに伴う引っ張り強度と破断伸びの劣化はない。   (4)雰囲気耐性・長期間安定性 ホウ素架橋は沸騰水、アルコール、酸に対して耐性があり、長期間安定性もある。 本研究の優位性 ゴムの製造プロセスにおいて、非可逆的な硫黄を用いる加硫処理に代えて、ボロンを介してポリマーを架橋させることにより、架橋-架橋解除の可逆処理を可能にする新たなプロセスを提案した。 ポリマーへのボロン組み込みは困難なため、独自の触媒を用いることにより、ポリマーの合成段階で重合とボロン組み込みを同時に行う新たな方法を見出した。 新たなプロセスのもとに、エチレン-プロピレンゴムを試作し、その機械的特性が従来の硫黄加硫品より優れ、環境安定性も高く、また、リサイクル性にも優れていることを実証した。     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :共重合体、共重合体の製造方法及び回収方法 特願 :2022-169053 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :田中亮、塩野毅、中山祐正     論文 Commodity Rubber Material with Reversible Cross-linking Ability:Application of Boroxine Cross-links to Ethylene-Propylene Rubber Yusuke Bando, Shin-ichi Kihara, Hiroya Fujii, Yuushou Nakayama, Takeshi Shiono, and Ryo Tanaka* https://doi.org/10.1021/acs.macromol.4c01312 Macromolecules 2024, 57, 7565−7574     研究者からのメッセージ 一般的なゴム材料は構造が整然としていない化合物ですが、我々の作ったものは架橋点が非常に美しく並び、網目が均一に分布しているため、より強いゴム材料になり得る可能性を秘めています。 実用化に向けたさらなる特性改善や課題解決を企業との共同研究で推進したいと考えております。       研究者 田中亮(TANAKA RYO) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 量子
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    2024.07.23
    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
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    未利用の低温排熱から発電できる新規有機熱電変換材料

    背景 資源枯渇あるいは地球温暖化への対応のため、化石燃料に代わる太陽光、風力、水力、地熱などの自然エネルギー利用のニーズが高まる一方で、世界で消費されるエネルギーの内、約3分の2が未利用のまま排熱として捨てられており、この排熱の利用拡大が合わせて重要な課題となっている。 この排熱は80%以上が200℃以下の中低温排熱であり、温水供給など熱としての利用促進は図れているものの、利用先が限定的である。一部でも電力に変換できれば、利用価値は飛躍的に増す。 高温の熱源が得やすい化石燃料利用の場では、大容量化にも対応しやすい従来の熱サイクルのシステムが有効であったが、中低温排熱は周囲環境との温度差が小さいため電力への変換効率が低く、コスト的にも成立しない。 熱を電気に直接変換する熱電変換技術は、比較的小さな温度差、且つ小容量の熱源にも対応しやすくシステムがシンプルである等、メリットが大きい。 従来の熱電変換材料は、特殊で量産化にも不向きであったため、放射性同位元素の熱を利用する宇宙探査分野や人間の体温を利用する時計など、特殊な用途に限られていたが、現在の資源や地球環境の制約のなかで、その利用拡大のニーズは非常に高まっている。     熱電変換の原理 1.熱電変換材料の両端を高温(HOT)と低温(COLD)にさらすと、両端の温度差 (ΔT) に比例して電位差 (ΔV) が生じる。この比例定数をゼーベック係数 (S) と呼ぶ。Sの値が大きいほど大きな電位差を生じることができる。 2.電位差が生じると材料の中に電流 (I)が流れ、電力を生む。材料の電気伝導率 (σ) が大きいほど、多くの電流が流れ、大きな電力を得ることができる。 3.温度差があると材料の中に熱流 (J) を生じる。同じ電力を生み出すための熱量は少ない方が効率が良いので、材料の熱伝導率(κ)は小さい方がよい。     従来の熱電変換材料 これまでの材料は大半が金属化合物のため、希少金属やTeなど毒性のある元素を含む金属など、一般的な利用に不向きなものが多い。 作動温度が500K以上のものが多く、低温で使用可能な材料が限定的である。     有機化合物を用いた熱電変換デバイスの特長 一般的な元素からなる有機化合物であり原材料が安価 多様な反応設計により低毒性の材料創出が可能 豊富な埋蔵資源をもつ元素を利用可能 デバイスに軽量・柔軟性を付与可能 溶液プロセスにより安価な製造コスト実現が可能     期待される用途 工場や自動車から排出される200℃以下の中低温排熱を利用する発電 オフィスや家庭の電子機器の発熱を利用する発電 特殊環境に置かれる自立型機器における電力供給 など     新規有機熱電変換材料への要求性能 小さな温度差で大きな電位差の生成 大きな電力を得るための高い電気伝導性 少ない熱量で発電するための低い熱伝導性 使用環境における材料の耐久性・安全性 低い製造コスト     研究成果の内容 1)カーボンナノチューブ/導電性高分子複合体 新規熱電変換材料の候補として単層カーボンナノチューブ (SWCNT) があり、ゼーベック係数が比較的高く、電気伝導率も非常に高いが、熱伝導率が非常に高いため、単体での熱電変換性能は大きくない。 SWCNTを導電性高分子と複合化すると、熱伝導率 κ が0.5~0.7Wm-1K-1程度と高分子材料並みに極端に低下することがわかっている。 そこで、SWCNTと熱電変換材料として有望視されている導電性高分子(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸), PEDOT:PSS)の複合体を作り、電気特性を検討した。 図示のとおり、複合体において、SWCNTの割合を増やしていくと、電気伝導率 (σ)、ゼーベック係数 (S)、電力因子 (PF) の値は増加するが、70~80%程度の割合でピークとなり、それ以上では逆に低下することがわかった。 この複合割合において、複合体の電気伝導率 (σ) の値がSWCNT単体より高くなるのは、顕微鏡写真中にモデル化して示すように、 PEDOT:PSSがSWCNTの繊維の結節点に付着することにより接触点の電気抵抗が低下したことが考えられる。     2)有機化合物の自在な構造制御により新規高分子材料を創出 カーボンナノチューブと導電性高分子の複合体が優れた熱電変換特性を示すことがわかったので、次に、導電性高分子材料そのものの高性能化について検討した。 PEDOTは導電性に優れているものの、溶剤への溶解性が乏しく、また、分子量が低く製膜性に乏しいという欠点がある。 一方、ポリ(3-ヘキシルチオフェン) (P3HT) は溶解性・製膜性には優れているが、PEDOTに比べると導電性が低い。 これらの欠点を克服するため、PEDOTとP3HTの構成要素(モノマーユニット)を異なる割合で含む共重合体 (PE2HT, PE1HT) などの新規導電性高分子の開発に成功した。     3)ドーピング処理により新規高分子材料に電荷を注入 新規高分子膜に電荷を注入して、導電性を付与するための、電気化学的ドーピング処理システムを考案した。 対象高分子膜、電解質溶液、三つの電極(作用、参照、対)、電位を付加する二つのポテンショスタット、電流を測定するクーロメータからなる。 電極電位 (E1) を変化させることにより電荷の注入を制御する。そのとき、クーロメータにより注入電荷密度を定量する。 同時に対象高分子膜に電位差 (E2) を付加して、電流を測定することにより、高分子材料の電気伝導率をその場測定することができる。     4)電極電位によってドープ率および電気伝導率を制御 新たに合成したPEDOTとP3HTの構成要素(モノマーユニット)を異なる割合で含む共重合体について電気特性を測定した。 ドーピングの電極電位を高くするとドープ率(電荷を注入された分子の割合)が増加し、対応して電気伝導度も大きくなる。 モノマーユニットの割合や電極電位によってドープ率や電気伝導率を制御することが可能になる。   5)添加物とドープ率によって熱電変換特性を制御 P3HTやPEDOT: PSSの熱電変換特性についてもドープ率との相関を解析することに成功した。 ドープ率を増加させると電気伝導率は大きくなるが、逆に、ゼーベック係数は低下する。 PEDOT:PSSにおいてはエチレングリコール (EG) あるいはジメチルスルホキシド (DMSO) を添加すると、電気伝導率は大きくなるが、ゼーベック係数は低くなる。 熱電変換材料から得られる電気出力の指数となる電力因子 (PF) は、ドープ率増加とともに大きくなり、ドープ率10%近傍でピークとなる。 無次元性能指数 (ZT) も同様の傾向を示す。 電力因子や無次元性能指数の値は、電気伝導度 (σ) とゼーベック係数 (S) の値の相反関係に依存するため、最も高い性能を得るために、ドープ率の制御が非常に重要になることがわかった。     本研究の優位性 導電性高分子とカーボンナノチューブの複合体が示す特異な熱電変換特性を見出し、有機化合物を用いた熱電変換デバイスの高い可能性を示した。 多様な反応設計による自在な構造制御により、高性能な熱電換特性を示す有機高分子材料の候補を提案した。 合成した有機高分子材料に導電性を付与するドーピング処理において、熱電変換の特性をその場でモニターしながら処理が可能な新システムを提案した。 ドーピングの際の電極電位とドープ率により熱電変換特性が大きく変わることを示し、これらを制御することにより高い熱電変換特性を得ることができることを示した。     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :熱電変換材料の製造方法及び熱電変換材料 特許 :特許第7061361号 特許権者 :国立大学法人広島大学 発明者 :今榮一郎、播磨裕     論文 Imae, Ichiro; Ogino, Ryo; Tsuboi, Yoshiaki; Goto, Tatsunari; Komaguchi, Kenji; Harima, Yutaka, “Synthesis of EDOT-containing polythiophenes and their properties in relation to the composition ratio of EDOT”, RSC Advances (2015) 5(103), 84694-84702. Imae, Ichiro; Akazawa, Ryosuke; Harima, Yutaka, “Seebeck coefficients of regioregular poly(3-hexylthiophene) correlated with doping levels”, Physical Chemistry and Chemical Physics (2018) 20(2), 738-741. Imae, Ichiro; Koumoto, Takashi; Harima, Yutaka, “Thermoelectric properties of polythiophenes partially substituted by ethylenedioxy groups”, Polymer (2018) 144, 43-50. Imae, Ichiro; Shi, Mengyan; Ooyama, Yousuke; Harima, Yutaka, “Seebeck coefficients of poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrene sulfonate) correlated with oxidation levels”, Journal of Physical Chemistry C (2019) 123(7), 4002-4006. Imae, Ichiro; Akazawa, Ryosuke; Ooyama, Yousuke; Harima, Yutaka, “Investigation of organic thermoelectric materials using potential-step chronocoulometry: Effect of polymerization methods on thermoelectric properties of poly(3‐hexylthiophene)”, ournal of Polymer Science(2020) 58(21), 3004-3008. Imae, Ichiro; Yamane, Haruka; Imato, Keiichi; Ooyama, Yousuke, “Thermoelectric properties of PEDOT:PSS/SWCNT composite films with controlled carrier density”, Composites Communications (2021) 27, 100897 (6pp.). Imae, Ichiro; Uehara, Hirokii; Imato, Keiichi; Ooyama, Yousuke, “Thermoelectric properties of conductive freestanding films prepared from PEDOT:PSS aqueous dispersion and ionic liquids”, ACS Applied Materials and Interfaces (2022) 14(51), 57064-57069.     研究者からのメッセージ 研究者の有する「多様な反応設計による自在な高分子の構造制御技術」と「独自のドーピングシステム」を活用して、新規有機熱電変換材料のさらなる性能向上を目指す。このための基礎研究と実用化のための検討を企業との共同研究で進めたい。     研究者 今榮一郎(Imae Ichiro) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2024.06.17
    • 環境エネルギー
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    絶対零度近くの温度を効率よく実現する新規磁気冷凍材料

    磁気冷凍の原理 ①磁気冷凍材料に磁場を印加すると、原子の持つ磁石(磁気モーメント)が整列して、材料の温度が Ti  に上昇する。 ② 放熱先(Ti より少し低い温度)に放熱する。 ③ 磁場を除去(消磁)すると、磁気モーメントの向きがバラバラになり、材料の温度が Tʄ  まで降下する。 ④ 冷却対象( Tʄ  より少し高い温度)から吸熱(対象物を冷却)が生じる。   磁気冷凍の特長 磁気冷凍材料への磁場のオン/オフだけで冷却が可能なためシステムが簡単であり、原理的に冷却効率が高い。 従来の気体冷凍サイクルでは到達困難な極低温までの冷却が可能となる。 オゾン層破壊や温室効果のある冷媒が不要であり、また、極低温域では高価で入手困難なヘリウム同位体などの冷媒が不要となる。   期待される用途 絶対零度近傍(~ 0.1K)レベル:量子コンピューター、極微量元素分析、ダークマター検出やX線天文学に有用   磁気冷凍材料への要求性能 絶対零度近傍での高い磁気冷凍性能(磁気熱量効果) 外界との吸・放熱を迅速に行うために高い熱伝導性 使用環境における材料の耐久性   研究の概要 (1)イッテルビウム系金属間化合物 YbCu4Ni に注目した イッテルビウム系金属間化合物YbCu4Niの特徴 化学的に安定であるため、扱いやすい。 熱伝導率が高いため、効率的に冷却能力を伝達可能である。 合金中のYb原子の割合が高く、単位体積当たりのエントロピー量が多いため、少量での磁気冷凍が可能である。 エントロピーの温度依存性 S (T ) より、磁場 8 Tで、1.8 Kから0.13 Kまでの冷却が期待できる。 (2)YbCu4Niの冷凍性能の基礎試験 1)目的 磁気冷凍材料YbCu4Niの最低到達温度の検証を目的とする。   2)装置構成(図参照) 試料(e)17gを輻射熱シールド(h)内に断熱保持させる。 全体を予備冷却用の市販冷凍機に搭載する。(冷凍機には磁場印加用の電磁石と排気装置付) 試料に温度センサーを接着し、温度を計測する。   3)試験手順 1)試料を市販の冷凍機により1.8Kまで予備冷却する。 2)磁場を印加(10T以下)、1.8 Kを保持する。 3)試料雰囲気を真空排気(10-4 Torr 以下)する。 4)0.6T/minの速度で消磁する。 5)試料の温度変化を計測する。   4)試験結果 初期印加磁場5T、8T、10Tの条件で、それぞれ最低到達温度0.22K、0.17K、0.16Kが得られた。 エントロピーの温度依存性から予測した最低到達温度0.18K(5T)、0.13K(8T)ともほぼ一致した。   (3)YbCu4Ni の大型合金の作製 1)目的 YbCu4Niの実用化のため、大型試料を作製し、冷却能力を向上させる。   2)作成方法および結果 1)高周波加熱炉において、YbとCu4Ni合金を、アルゴンガス雰囲気中で溶解する。 2)700℃で7日間アニール後、水中で急冷する。 3)69gの YbCu4Ni の大型インゴットを得ることができた。   (4)YbCu4Niの大型試料を用いた断熱消磁冷却試験 1)装置構成変更の内容(基礎試験装置を一部改造) 試料の断熱支持部分を、グラファイト棒から熱伝導率の低いストローに変更した。 試料を17gから53gに大型化した。   2)試験手順:初期磁場 8 T、初期温度 1.8 K、消磁速度 0.6 T/minの条件で冷凍実験を行う。 1)磁場8 Tを印加する。 2)試料を市販の冷凍機により、1.8Kまで予備冷却する。 3)試料雰囲気を真空排気する。 4)0.6 T/minの速度で消磁する。 5)試料の温度変化を計測して、基礎試験結果等と比較する。 3)試験結果 大型試料を用いることにより、断熱性を向上させ、0.3 K以下の極低温状態を3時間以上保持できることを実証できた。 A:基礎試験と同じ装置 B:基礎試験装置の断熱支持部分をグラファイト棒からストローに変更した装置 C:ストローおよび大型試料を使用した装置   本研究の優位性 以下の特長をもつ新規磁気冷凍材料YbCu4Niを見出し、実際に材料を試作し、磁気冷凍能力を実証した。 絶対零度近傍までの磁気冷凍(断熱消磁冷却)が可能である。 熱伝導率が高く、迅速な吸放熱が可能なため実用性が高い。 化学・物理的に安定である。 磁気冷凍に有効なイッテルビウム原子の割合が高い結晶構造のため、単位体積当たりのエントロピーの総量が大きく、少量でも冷却可能である。 高価あるいは希少な元素を使用していない。     想定される用途 量子コンピューター 極微量元素分析 ダークマター検出およびX線天文学 量子物性物理学     論文 Journal of Applied Physics, 131 013903 (2022),“Magnetic refrigeration down to 0.2K by heavy fermion metal YbCu4Ni”Yasuyuki Shimura, Kanta Watanabe, Takanori Taniguchi, Kotaro Osato, Rikako Yamamoto, Yuka Kusanose, Kazunori Umeo,  Masaki Fujita, Takahiro Onimaru, Toshiro Takabatae     研究者からのメッセージ 磁気冷凍材料の組成の調整による性能向上や、新たな磁気冷凍材料の探索および、社会実装を目指した大型化や形状の工夫、冷却システムの開発を、材料製造や冷凍機製作を行う企業と共に共同研究を進めたい。   研究者 志村恭通(SHIMURA YASUYUKI) 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 環境エネルギー
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • バイオエコノミー
    • 融合領域
    2024.05.08
    • 環境エネルギー
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    • 融合領域
    微生物ガス発酵を用いた基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)製造によるカーボンリサイクル

    背景 地球環境問題への対応のため、化石燃料に替えてバイオマス資源を利用し、また、発生する二酸化炭素を化学原料や燃料として再利用するカーボンリサイクルの早期実現が、喫緊の課題となっている。 バイオマス資源から糖質のみを抽出して、発酵法により有用な化学物質を合成する手法はあるが、原料が食料と競合、糖以外の有機物が利用困難、糖化処理の高コストなどの弱点がある。 バイオマス資源から比較的容易に得られるメタン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素などの合成ガスから、有用な化学物質が合成できれば、カーボンリサイクルの自由度が大幅にアップする。 ホモ酢酸菌と呼ばれる嫌気性細菌の一群は、合成ガスから酢酸を生成することができる。酢酸以外の有用な化学物質が合成できれば、炭素循環型社会を支える有用技術となる。     概要 酢酸菌を遺伝子組み換えして基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生産     好熱性ホモ酢酸菌の1種Moorella thermoaceticaの野生株は、糖のみならず、CO2、H2、COを原料・エネルギー源として、酢酸を生成する代謝系を持つ。 遺伝子組み換えにより、 thermoaceticaが作る中間体アセチル-CoAを材料として、独自開発の遺伝子組換え技術により耐熱性酵素を導入することで、目的の基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生成することに成功した。 生産物が低沸点であることを活用し発酵/分離を統合した合成ガス高温発酵プロセスを開発した。     合成ガスからの基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)生成 作製した菌は合成ガスを基質として、上記基礎化学品を生産する。 菌体当たりの生産速度 アセトン: 90 mg/g-菌体/時間(CO:H2比 = 1:1)。 すなわち、10g/Lの菌体があれば、約1g/L/hの高速アセトン生産が可能になる。 2-プロパノール(アセトン生産経路にアルコール脱水素酵素を追加することで生成):30 mg/g-菌体/時間 エタノール(アルコール脱水素酵素およびエネルギー代謝改善酵素を導入することで生成):70mg/g-菌体/時間   開発した菌は、55℃から65℃で培養可能であり、蒸留発酵により生産物を回収しながら、物質生産を継続でき、分離・精製工程の負荷を低減できる。     本研究の優位性 化石燃料フリー、さらに、他で発生するCO2を利用して、有用化学物質を生産可能 バイオマス資源から糖化プロセスを経て有用化学物質を生産する発酵プロセスに比較して、原料が食料と競合しない糖に限定されず、有機物なら何でも利用可能である。 中温微生物による従来プロセスと比較して、発酵しながら分離(蒸留)するので、分離・精製工程の負荷や排水処理コストを低減可能である。 バイオマスや廃棄物等から比較的容易に生成可能な合成ガス、火力発電からの二酸化炭素、太陽光や風力発電で生成させた水素等、多様な組み合わせで、フレキシブルに有用化学物質を生産可能である。 合成ガスから有用化学物質を生産する既存の化学プロセスと比較して、例えば、メタノール合成プロセスのような高温・高圧の処理やガス組成の厳密な制御を必要としない。     期待される用途 生成物は有機溶媒として使われるほか、日本のプラスチック生産量の約半分を占めるポリエチレン、ポリプロピレン、C2-C4の化学品の合成前駆体として用いられる。 本技術を、バイオマスや廃プラ等による安価な合成ガス、火力発電所等からの二酸化炭素、太陽光や風力等からの水素と組み合わせることにより、今後のマテリアルカーボンリサイクルフロー実現のための重要技術となることが期待される。     実用化に向けての課題 菌株育種:合成ガスからの目的産物の生産を確認済みだが、酢酸が副生する点が未解決である。また、CO2/H2を原料とした際に生産性が低下する課題が未解決である。 プロセス開発:合成ガスおよびCO2/H2を原料とした発酵装置を開発した。しかし、開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとのインターフェース技術は未確立である。 LCA: 実用化に向けて、高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価も必要となる。     企業への期待 菌株育種:ガス発酵微生物のハイスループット育種技術の共同開発 プロセス開発:開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとの親和性検討とインターフェース技術の共同開発、および詳細プロセス設計に関わる共同研究 LCA: 高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価に関わる共同研究     本技術に関する知的財産権 発明の名称 :アセトンを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたアセトンの製造方法 出願番号 :特願2020- 96417 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者 :中島田豊、加藤淳也、加藤節、竹村海正   発明の名称 :イソプロパノールを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたイソプロ パノールの製造方法 出願番号 :特願2023-058275 出願人 :国立大学法人広島大学 発明者:中島田 豊, 加藤 淳也, 加藤 節, 竹村 海生, 松尾 赳志   発明の名称 :モーレラ属細菌の遺伝子組換え法 特許番号:特許5963538 権利者:国立大学法人広島大学, 国立研究開発法人産業技術総合研究所 発明者:酒井 伸介, 高岡 一栄, 中島田 豊,岩崎 祐樹, 矢野 伸一, 村上 克治, 喜多 晃久     論文 Metabolic engineering of Moorella thermoacetica for thermophilic bioconversion of gaseous substrates to a volatile chemical 国際科学誌「AMB Express」に 2021年23月 23 日にオンライン掲載   Isopropanol production via the thermophilic bioconversion of sugars and syngas using metabolically engineered Moorella thermoacetica 国際科学誌「Biotechnology for Biofuels and Bioproducts」に 2024年1月28 日にオンライン掲載     本研究は以下の研究助成を受けて産業技術総合研究所との共同研究により行われた。 科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」 領域「「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」 (研究科題名:再生可能エネルギーを活用した有用物質高生産微生物デザイン)     研究者からのメッセージ 合成ガスや水素など普通の微生物発酵にはなじみのない原料を使う新しい発酵技術です。代謝工学的な微生物育種技術とともに、安全かつ高性能な発酵プロセスの技術開発が必要なチャレンジングな試みです。しかし、本技術が社会実装できれば、微生物発酵は生産物だけではなく菌体そのものもタンパク源となり、物質文明を支える基礎化学品と食糧の併産も可能な夢の技術になりえます。   研究者 中島田豊(Nakashimada Yutaka) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

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    2023.12.13
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    三原色発光するシリコン量子ドットフィルム

    量子ドットの特徴 量子ドットとは、大きさが数ナノメートルの発光性の半導体ナノ結晶であり、次のような特徴がある。 1)粒子サイズによりフルカラー発光 2)高効率発光 3)極採色(狭い発光幅で有機ELの3-4倍の色域) 4)溶液プロセスによる低温・大気圧でのデバイス製造   背景 米国の調査会社(グローバルインフォメーション)によると、量子ドットの市場規模は2026年に86億ドルに到達と試算されている。 量子ドットは夢の光材料とよばれ、最近、量子ドットの大画面TVやタブレットが市場に出回り始めているが、現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題がある。 本研究グループは、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いた量子ドットの研究を進めており、これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率0.1%と比較すると飛躍的に高い。これまでに、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)なども報告してきた。 この度、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムの作製、加速劣化試験を行い、更に、発光と劣化の機構を解明した。     研究の詳細 光の三原色で発光するSi量子ドット(SiQD)フィルムを作成し、太陽光照射、熱水への浸漬(80℃、湿度100%)の加速劣化試験で評価した。 成果の概要は次の通りである。     概要1三原色発光する溶液分散型SiQDを合成 三原色(赤・青・緑)発光する溶液分散型SiQDを、それぞれ異なる手法で化学合成した。(図1) それぞれの発光ピークの波長は、赤(660 nm)、緑(530 nm)、青(400 nm)であった。 発光効率(発光量子収率)は、赤(34%)、緑(20%)、青(12%)であった。 SiQDの表面は異なる官能基で化学修飾され、赤(炭化水素基)、緑(アミノ基)、青(シロキサン基:Si-O-Si結合)である。     概要2三原色発光するSiQDフィルムを作成 得られたSiQD溶液を、それぞれ高分子フィルムに分散し、赤・青・緑発光するSiQDフィルムを得た。 このSiQDフィルムは、フレキシブルで伸縮性を有する。(図2)     概要3SiQDフィルムの耐久性評価【太陽光への暴露試験】 赤・緑色発光のSiQDフィルムは、太陽光に照射後6hで、発光強度が急減し、安定した発光になった。青色シリコン量子ドットは8日間の太陽光照射に対し、発光強度(発光量子収率)の劣化は少なく、80%の発光強度が保たれた。(図3) 太陽光照射への耐久性は、量子ドットと高分子フィルム、それぞれの光吸収特性に依存しており、劣化のメカニズムは、化学修飾基の結合切断と考えられる。     概要4SiQDフィルムの耐久性評価【熱水への浸漬試験】 青色SiQDフィルムを、80℃の熱水に12日間浸漬する加速劣化試験を行った。(図4) 12日間の発光強度の劣化は15%程度で、驚異的な耐久性を示した。 青色SiQDの高い耐久性は、表面の強固なシロキサン結合によると考えられる。 青色SiQDフィルムを80℃の熱水へ浸漬すると、発光量子収率が上昇した。これは、未反応の表面官能基の後続反応によるシロキサン結合の増加によると考えられる。 熱水耐久性試験において、シリコーンエラストマー系よりフッ素樹脂系ポリマーの母材で、高い耐久性が観測された。     概要5発光メカニズム SiQDの発光と粒子サイズの関係について、本研究の結果と過去の文献データを比較した。(図5) 図中においてデータは、発光メカニズムの違いにより、上下二つのデータ群に分かれている。 上部は表面効果(量子ドットの表面に結合した官能基が新しい発光準位を作る)による発光、下部は量子閉じ込め効果(粒子がナノサイズになると同じ物資でも発光色が変わる)による発光である。曲線(赤色)は、量子閉じ込め効果に対応する理論計算(有効質量近似)の結果を示す。 この結果から、本研究で得られた赤色SiQDの発光は量子閉じ込め効果、緑色SiQDと青色SiQDの発光は表面効果によるものと考えられる。       本研究の優位性 現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題があるのに対し、本研究では、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いている。 これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率01%と比較すると飛躍的に高い。また、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)など、一連の研究成果を出している。 本研究は、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムを実際に作製して、その発光特性を明らかにしたうえで、加速劣化試験を行い、耐久性の評価まで行っている。     期待される用途 安全・安心・安価な発光体ならびにフレキシブル発光フィルムとして、マイクロLED、VR、AR、折り曲げディスプレイ、照明、生医学イメージングの他、超高効率太陽電池(量子ドット太陽電池)での利用が期待される。     実用化に向けての課題 より広範な波長・色の実現、発光効率の上昇、耐久性の向上 三原色SiQDのLEDへの搭載     企業への期待 実用化に向けた課題解決のための共同研究 実用化に向けたシステムの概念設計とフィージビリティスタディ     本技術に関する知的財産権 発明の名称:シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、及びそれらの製造方法 出願番号:特願2020-154517 公開番号:特開2022-048615 出願人:国立大学法人広島大学 発明者:齋藤健一     論文 Stability of Silicon Quantum Dots Against Solar Light/Hot Water: RGB Foldable Films and Ligand Engineering Keisuke Fujimoto1, Toma Hayakawa2, Yuping Xu1, Nana Jingu3, and Ken-ichi Saitow*1-4 1.広島大学 大学院理学研究科(化学専攻) 2.広島大学 理学部(化学科) 3.広島大学 大学院先進理工系科学研究科(化学プログラム) 4.広島大学 自然科学研究支援開発センター(研究開発部門物質科学部) * 責任著者   掲載誌:2022年11月6日発刊のアメリカ化学会のサステナブル化学の学術誌ACS Sustainable Chemistry & Engineering (IF=9.224)で公開。以下は論文のリンク先。(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.2c03791)     研究者からのメッセージ 量子ドットは,2023年のノーベル化学賞の受賞テーマです。私のところにも多くのメディアから問い合わせを頂きました。量子ドットの利用は,蛍光体,LEDはもちろんのこと,バイオマーカー,医薬品,太陽電池,光触媒など非常に多岐にわたります。これはノーベル財団の公式プレスリリースでも発表されています。これまでの量子ドットは,レアメタルまた重金属系の量子ドットでしたが,環境問題が益々重要となる現在,また生体適合性の視点からも,シリコン製量子ドットの重要性は大変高くなることでしょう。企業の皆様と共同研究を行い,その成果をもとに実用化へつなげ,世界へ量子ドットとそのデバイスを供給できる日が一日でも早く来ることを,願ってやみません。     研究者 齊藤一彦(SAITO KAZUHIKO) 広島大学 大学院人間社会科学研究科 教授

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    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 素材
    2023.05.12
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    貴金属触媒を使用しない常圧のアンモニア合成法を開発

    背景 太陽光や風力等の再生可能エネルギーの変動的かつ偏在的なエネルギーの利用媒体として水素が有効であるが、水素はガス密度が低いため効率的な貯蔵や輸送のためには超高圧縮あるいは極低温による液化が必要となる。 化成品や肥料の原料として知られるアンモニア(NH3)は、水素原子を多く含み、燃焼してもCO2を排出しないうえに、簡単に液化*するため貯蔵や輸送が容易であり、水素キャリアとして有効である。(*常温で約8気圧、常圧で約-33℃で液化) 現在、アンモニア合成には、約 500℃、250 気圧以上の高温高圧プロセスであるハーバー・ボッシュ法が用いられているが、偏在する自然エネルギーの利用を考えた場合、より低温・低圧条件で制御可能な小規模分散型のアンモニア合成技術が求められる。 このため、遷移元素や希土類元素等の金属触媒を用いた新しいアンモニア合成の研究が進んでいるが、貴金属触媒が必要になる等課題も多い。 再生可能エネルギー変換技術としての小規模分散型NH3合成プロセス 研究の詳細:水素化リチウムを用いた新しいアンモニア合成プロセス 水素化リチウム(LiH)を用いたケミカルルーピングによるアンモニア( NH3) 合成プロセスは、①LiH の窒化反応、②NH3 合成及び LiH の再生反応の二段階で構成される。 1.LiHの窒化反応: 4LiH + N2 → 2Li2NH + H2 2.NH3 合成及び LiH の再生反応: 2Li2NH + 4H2 → 2NH3 + 4LiH このような NH3 合成法は、一般的な触媒プロセス(N2+3H2→2NH3)とは異なる熱力学平衡で NH3 合成を制御できるため、例えば、高温においても高収率な NH3 合成が可能になる。   ① LiHの窒化反応 (試験その1) 数mg のLiH の固体サンプルと窒素(N2)ガスを、大気圧下で室温から500℃まで加熱しながら反応させ、サンプルの重量変化から求めた反応率と発生水素のスペクトル強度を測定した。(グラフB) 加熱開始約80分、400℃から水素の放出を伴いリチウムイミド(Li2NH)を生成している。 但し、反応率は500 ℃まで加熱した時点で約30%、その後500℃で保持しても約60%程度に留まった。 反応後の試料の電子顕微鏡写真(緑色)によると、生成物が融解凝集し粗大粒子を形成してように見え、固体のLiH 表面で生成するLi2 NH が凝集し、連続的な反応の進行を妨げていると考えられる。   (試験その2) 反応過程での生成物の凝集を抑制するため、化学的に安定なLi2OをLiH に混合して反応の安定化を図った。(グラフA) LiH+Li2O 混合体は、LiH 単相の場合よりやや早く反応を開始し、反応速度低下なく反応開始後約100 分でほぼ100%の反応率に達した。 反応後試料の電子顕微鏡写真(赤色)では、生成物の明確な凝集は見られず、期待した反応制御の効果が見える。   ②NH3 合成及び LiH の再生反応 ①のLiHの窒化反応で得られた生成物を大気圧下の水素(H2)気流中で加熱した。 LiHのみ(グラフB)及びLiH+Li2O (グラフA)のいずれの生成物からも約260℃からアンモニア(NH3) の生成が観測され、LiH の再生も確認された。 この反応においても反応①と同様にLi2O混合による効果が見られ、反応率100%までの時間が短くなった。   以上の結果より、500℃以下の常圧条件下でLiHの窒化、NH3合成/再生反応によるアンモニア合成が可能で、さらに、 安定物質Li2Oの混合により、粒子の凝集による反応への阻害を抑制することが可能であると示された。   反応モデル LiHのみあるいはLiHに安定化物質Li2Oを混合した場合の、窒化反応後の走査型電子顕微鏡(SEM)画像と反応の推定模式図を下図に示す。 LiHのみの場合:生成物(Li2NH)が溶けて隣の粒子と繋がり粗大化していることから、模式図の様にLiHとN2の反応はLiHの表面で進行し、生成物のLi2NHが凝集してLiHを覆うことにより反応の進行を阻害していることが推察される。 LiH+Li2Oの場合:粒子の粗大化がなく、別途行ったEDS元素マッピングによると、Li2NHがLi2Oの周囲に分散して、小さく結晶化しているようにみえる。   本研究の優位性 LiHのみ、あるいはLiHに安定化物質Li2Oを混合した場合の、窒化反応後の走査型電子顕微鏡(SEM)画像と、反応の推定模式図を下図に示す。 LiHのみの場合:生成物(Li2NH)が溶けて、隣の粒子と繋がり粗大化していることから、模式図の様にLiHとN2の反応は、LiHの表面で進行し、生成物のLi2NHが凝集してLiHを覆うことにより反応の進行を阻害していることが推察される。 LiH+Li2Oの場合:粒子の粗大化がなく、別途行ったEDS元素マッピングによるとLi2NHがLi2Oの周囲に分散して小さく結晶化しているようにみえる。   期待される用途 再生可能エネルギーを貯蔵・輸送するためのアンモニアの合成   実用化に向けての課題 窒化反応及び合成/再生反応のための適正温度を反応熱を用いて自立的に維持し、効率的に反応を持続させるための熱マネージメントを含めた反応制御システムに関する研究に取り組む予定である。 本研究では、反応制御のための混合物質として酸化リチウム(Li2O)を用いたが、同様な安定物質であればこれに代替可能であるため、実用化に向けて、酸化アルミニウム、酸化シリコン、結晶性グラファイトなど、より安価な物質の利用を検討したい。   企業への期待 実用化に向けた課題解決のための共同研究 実用化に向けたシステムの概念設計とフィージビリティスタディ   本技術に関する知的財産権 発明の名称:アンモニアの合成方法 出願番号:特願2021-137414 公開番号:特開2023-31740 出願人:国立大学法人広島大学 発明者:宮岡裕樹、市川貴之、斉間等   論文 論文:Improvement of Kinetics on Ammonia Synthesis under Ambient Pressure by Chemical Looping process of Lithium Hydride 著者:Kentaro Tagawa, Hiroyuki Gi, Keita Shinzato, Hiroki Miyaoka*, Takayuki Ichikawa 雑誌:The Journal of Physical Chemistry C, 2022, in press. ※本研究は、科学研究費助成事業基盤研究(B):20H02465 の助成の下,広島大学窒素循環エネルギーキャリア研究拠点における共同研究として実施された。   研究者からのメッセージ 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた基盤技術の創出を目指しています。 再生可能エネルギーの有効利用を目的とした,小型分散型,低圧,高効率アンモニア合成技術の確立に挑戦します。     研究者 宮岡裕樹(MIYAOKA HIROKI) 広島大学 自然科学研究支援開発センター 教授

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • インフラ
    2023.04.04
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    野良猫用公衆トイレの設置効果の検証

    本研究の優位性 野良猫の糞尿被害を、忌避剤と公衆トイレを併用して軽減可能であることを立証 猫の糞尿被害を通して、ヒトと動物の共生についての課題点を顕在化     研究内容 背景 猫の糞尿には人獣共通感染症の寄生虫やバクテリア、ウイルスを含んでいる可能性があり、糞尿被害による自治体への苦情は多いが、糞尿汚染に関する研究報告は少ない。環境省は野良猫用トイレの設置を推奨しているが、その効果は検証されていない。そこで、約200頭の野良猫が生息している『猫の街』尾道市において、糞尿被害に悩まされている寺院に開発中の忌避剤*と猫用公衆トイレを設置して、糞を対象に猫用トイレの効果を検証した。 *忌避剤は本研究終了後に一般発売された。     研究の概要 植物プランターを利用したトイレに雨よけの屋根を付けたものを6台作成して、市販の猫砂を敷き詰め、境内及び墓地の異なる地点に6箇所設置した。同時に、トイレへの排泄を確認するための赤外線センサーカメラを4台、事前調査で判明していた5カ所の排泄地点へ忌避剤を設置した。 週に一度、カメラのバッテリー及びデータ回収の際にトイレと境内を清掃し、糞を採集して重量を計測した。   寺院に居ついている17頭の野良猫のうち、個体識別ができた3頭(猫A、B、C)について、トイレ設置前後の糞重量を比較した結果、忌避剤活用によるトイレの設置は、糞の減少に効果的であった。 野良猫はトイレトレーニングを行っていないが、トイレを設置した週から3頭ともトイレを利用していた。トイレでの排泄回数は14週間で、Aが81.3%、Bが88.6%、Cが100%と頻繁に出没する猫ほど使用頻度が高かった。また、対象区として設定した2つの公園と1つの神社の合計8地点では、糞重量は減少しなかった。   猫のトイレの利用を増やすためには、生息する頭数+1台のトイレの設置が必要であり、トイレの大きさや清掃頻度、敷材等をさらに検証する余地がある。   猫用公衆トイレを設置すると野良猫の糞尿被害の減少に効果的だが、設置後も清掃や点検といった人の手が必要となる。猫の行動圏は観光客や地域住民による餌付けに影響を受けるので、給餌だけでなくトイレ管理や糞尿の清掃を行うことで地域トラブルの減少へ繋がる。     期待される効果 野良猫の糞尿被害発生地域における猫用公衆トイレの設置促進 猫用公衆トイレ設置による地域トラブルの減少     企業・自治体への期待 猫用公衆トイレに最適な素材(猫砂・屋根・容器等)の開発に興味のある企業との共同研究 野良猫に関わる課題解決にむけて調査・検証を行いたい企業または自治体との連携 地域猫活動の推進や課題解決に取り組んでいる自治体との連携     論文 Seo,A. & Tanida, H.,The effect of communal litter box provision on the defecation behavior of free-roaming cats in old-town Onomichi, Japan,Applied Animal Behaviour Science 224 (2020) 104938. 妹尾あいら・谷田創. 酢酸およびイソ吉草酸を含有した高分子吸液体にシトラールを添加したネコ用忌避剤の効果,ペストロジー 32(1) (2017) 1-6. 妹尾あいら・谷田創. 自由徘徊ネコに対する酢酸およびイソ吉草酸を含有した高分子吸液体の忌避効果の検証, ヒトと動物の関係学会誌 44 (2016) 42-48.     研究者からのメッセージ 野良猫とヒトの福祉向上と共生社会を目指し、広島県内のさまざまな地域でフィールドワークに取り組んでいます。 地域住民の声を直接聞き、自治体等とも協力することで、成果を地域に還元できる研究を行っています。   研究者 妹尾あいら(SEO AIRA) 広島大学 酪農エコシステム技術開発センター 助教

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