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研究成果紹介

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    2026.02.19
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    観賞用メダカがどこから来て多様な体の色や形を育んできたのか、 世界初の大規模ゲノムDNA解析によって明らかに ―関西・瀬戸内由来であることやヒトの不随意運動症との関連を発見―

    概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の大森義裕教授および富原壮真助教、大学院生の藤居若菜さん、世羅美冬さん、基礎生物学研究所の成瀬清特任教授、ウィーン大学の今鉄男上級研究員、大学院生今琴さん、長浜バイオ大学の竹花佑介教授、大学院生湯瑞さん、伏木宗一郎さん、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授、野口英樹特任教授と共同で、世界で初めて観賞メダカ品種の大規模なゲノムDNA解析*を行いました。今回、これらの観賞メダカ品種が関西・瀬戸内地域の野生メダカに由来する可能性が明らかになりました。 さらに、さまざまな体色や体型の変化に関連するゲノムワイド関連解析*(GWAS)を実施し、変異の原因と考えられる遺伝子領域を特定しました。これらの中には、ヒレの長さを制御する遺伝子、眼球の突出を制御する遺伝子、そして銀色や黒色の体色を制御する遺伝子などが含まれます。その結果、メダカ品種に見られる26種類の体色や体型の変化を引き起こす遺伝子変異の候補が見つかり、体色や体型が多様に変化する仕組みを明らかにする研究へとつながることが期待されます。 特に、黒色のオロチ品種の変化はadcy5遺伝子*の変異によることが分かり、これはヒトの遺伝性運動疾患と同じ原因遺伝子でした。ゲノム編集技術によりadcy5遺伝子を破壊したメダカでは、体色がオロチ品種のように黒色に変化しました。この成果は、ヒトの遺伝性不随意運動症*の発症メカニズムの理解にも貢献しました。これらの結果は英国科学雑誌「Molecular Biology and Evolution(Q1)」に2026年1月31日にオンライン掲載されました。   (論文情報) タイトル:Genomic consequences of domestication and the diversification of body coloration and morphology in ornamental medaka strains 著 者:Tetsuo Kon, Rui Tang, Koto Kon-Nanjo, Soma Tomihara, Soichiro Fushiki, Wakana Fujii, Mifuyu Sera, Yusuke Takehana, Hideki Noguchi, Atsushi Toyoda, Kiyoshi Naruse, & Yoshihiro Omori Molecular Biology and Evolutionin press https://doi.org/10.1093/molbev/msag021   背景 観賞魚としてメダカの飼育が始まったのは江戸時代であり、ヒメダカやシロメダカなどの品種が確立され、日本人に親しまれてきました。近年では、さまざまな体色や体型をもつメダカが愛好家たちの手によって発見され、それらを交配することで数百種類に及ぶ品種が作り出され、市販されています。 体色の変異としては、銀色や真っ黒の品種、さらにはニシキゴイのような赤白の体色を持つ品種も見られます。また、体型の変異としては、ヒレの長さが異なるものや、眼球が突出しているもの、体が丸く短いものなど、キンギョや熱帯魚に似た多様な体型をもつ品種も見られます。これらの品種の全ゲノムDNA解析*を行うことにより、多様な観賞メダカの変化がどのような遺伝子変異によって引き起こされているのかを理解でき、魚の体色や体型の多様性を生み出す仕組みを解明できると考えられます。 さらに、魚類と同じ脊椎動物であるヒトの体がどのように形成されるのか、また病気がどのように発症するのかといった仕組みを明らかにする手がかりになる可能性も期待されます。   研究成果の内容 私たちは、世界で初めて観賞用メダカ品種の大規模な全ゲノムDNA解析を行いました。86品種181匹のメダカ個体の全ゲノム配列を解析し(図1)、まず、これらのメダカ品種が全国の野生メダカのうち、どの地域のものと遺伝的に近いのかを調べました。これまでに報告されてきたデータと私たちが解析した観賞メダカ品種のデータを比較したところ、大阪、広島、高松といった瀬戸内海に面した地域の野生メダカと遺伝的に近い関係にあることが分かりました(図2)。このことから、江戸時代に関西・瀬戸海地域で発見されたヒメダカなどの野生メダカを品種改良した系統が、全国で観賞メダカとして飼育され、現在の多様な品種ができあがったと考えられます。 このように、野生種が人に飼われるペットや家畜として適応していくことを「家畜化(domestication)」と呼びます。野生メダカから観賞メダカ品種が生まれる過程で「家畜化」に貢献したと考えられるいくつかの遺伝子領域も明らかになりました。体色の変化に関連するtyr遺伝子や脳の機能に関連するgabrr2b遺伝子などとの関連が示されました。 次に、メダカの体色や体型の特長を調べたところ、34種類の特長(例:ヒレが大きい、目が飛び出している等)があることがわかりました。このうち29種類の特長について、ゲノム情報との関係をコンピューターで解析しました(GWAS解析*)。この結果、26種類の特長に対して原因となる遺伝子が存在する可能性の高い染色体の位置が見つかり、3,328個の候補となる遺伝子を見出しました。例えば、ヒレが長くなるメダカ品種であるスワローやヒレナガの原因遺伝子が「染色体15番」に存在することがわかりました。また、目が飛び出したメダカ品種であるデメの変異が「bmp5」遺伝子に存在する可能性や、多色の鱗で美しいオーロラ品種に「kitlga」遺伝子の変異を発見しました。これらの情報は今後のメダカなどの魚類やヒトを含む脊椎動物の体をつくる仕組みの解明にヒントとなる貴重な情報となります。 今回の研究で最も大きな発見は、体色が真っ黒のメダカであるオロチ品種の原因となる変異を見つけたことです(図3)。解析の結果、オロチ品種では「adcy5」という遺伝子に異常があり、その変異が原因で色が黒くなることがわかりました。奇妙なことに、これまでの研究では「adcy5」遺伝子*の欠損は体色が薄くなることが知られており、私たちの研究成果とは逆の結果でした。このことをさらに詳しく調べてみると、タンパク質の構造の研究で「adcy5」のC1bドメインと呼ばれる部分が欠けると、「adcy5」の働きが逆に増強されるという報告があり、オロチ品種で「adcy5」の欠けている部分はまさにC1bドメインの一部だったのです。このことからオロチ品種で発見された「adcy5」遺伝子の変異により働きが増強され、体色が黒く変化したという仕組みが考えられます。実際に、ゲノム編集を行いメダカの「adcy5」からC1bドメインを欠損させてみたところ、そのメダカは体色が黒くなりました。 また、人間では「adcy5」の変異が不随意運動症*を引き起こすことが知られています。不随意運動症とは、自分の意志とは無関係に勝手に体が動いてしまう症状です。軽症なものでは顔や口が勝手にピクピクと動いたり、重度のものでは手足が勝手に動く舞踏症と呼ばれるものも含みます。今回の研究で「adcy5」のC1bドメインが欠けるとその働きが増強されることがわかりましたが、動物レベルでこのことを証明したのは私たちが初めてです。このように、メダカの遺伝子変異から、ヒトの遺伝性不随意運動症*の発症メカニズムの理解に貢献しました(図4)。   今後の展開 今回見つかった候補遺伝子から、さらに絞り込むことで、今回変異まで見出せなかったメダカ品種の特長を示す遺伝子の変異を見出すことに繋がると思われます。これらの遺伝子変異を見出すことで、魚類や人間も含む脊椎動物に共通した体の形や色を決める遺伝子の仕組みがわかってくると思われます。もちろん、新しく恰好のよいメダカ品種を作り出すことにも貢献するでしょう。一方で、不随意運動症をはじめとしたヒト遺伝性疾患の治療や予防にもつながる可能性があります。   用語解説 ゲノムDNA解析:ゲノムとはすべての遺伝子を指し、ヒトやメダカを含む脊椎動物では2万数千個程度の遺伝子が存在する。これらが数千万から数十億塩基対のDNAにコードされている。近代に次世代DNAシーケンサーと呼ばれる解析機が発明され、ゲノム研究が容易となった。   ゲノムワイド関連解析(GWAS):人間の遺伝に関連する遺伝子変異を調べる目的で開発された手法。数百人から数万人規模の患者と健常者から採血などを行い、ゲノムDNAを採取し、次世代DNAシーケンサーなどでゲノム配列を大量に解析する。コンピューターを使ってゲノム上にあるSNPと呼ばれる個性的な部分と病気か否かの情報を合わせることでその関連を見つける方法。この方法により、病気の原因遺伝子の染色体上の位置や原因となる遺伝子変異が発見できる。近年は、人間だけでなく動植物の研究にも広く用いられている。   adcy5(アデニル酸シクラーゼ5型):ATPからサイクリックAMPを生成する酵素でレセプターやGタンパク質を介したシグナル伝達を制御するタンパク質のひとつ。人間ではadcy5の変異は不随意運動症と関連することが報告されている。   不随意運動症:自分の意志とは無関係に体の一部が勝手に動いてしまう症状。顔の一部や、口や舌、手足や体軸などが意思によらず動く。複数の原因遺伝子が知られ、有名なハンチントン舞踏病もこの一種である。   図1:全ゲノム配列解析を行った86品種の観賞メダカの一部の写真(本論文より引用)   図2:観賞メダカは関西・瀬戸内地方に住む野生メダカが由来と考えられる(本論文より引用)   図3:野生型メダカと比較したオロチ品種の写真(最上段)。GWAS解析の結果、染色体21番のadcy5遺伝子の近くにピークが見られる(中段)。ゲノム編集によってメダカのadcy5遺伝子のエキソン8を欠損させると体色が黒化した(下段)(本論文より引用)   図4:adcy5のC1bドメインが機能する仕組みと、ヒト不随意運動症やメダカの体色黒化の関係。C1bドメインを欠損した黒色メダカのオロチ品種では、adcy5が2量体になりにくくシグナルが活性化することが予想される。   報道発表資料(935.5 KB) 掲載ジャーナル:Molecular Biology and Evolution 研究者ガイドブック( 大森 義裕 教授)   (研究に関するお問い合わせ先) 広島大学大学院統合生命科学研究科教授大森義裕 E-mail:omori4@hiroshima-u.ac.jp   (報道に関するお問い合わせ先) 広島大学広報室 TEL:082-424-4383 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 環境エネルギー
    2021.02.15
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 環境エネルギー
    塗布型有機薄膜太陽電池の材料開発

    目標・狙い 塗布型有機薄膜太陽電池は、半導体ポリマーをプラスチック基板に塗って薄膜化することで作製できるため、①製造コスト・輸送コストが低い、➁軽量建造物にも設置が可能、③垂直面・曲面にも張ることが可能である、といった特徴がある。その特徴を生かし、IoTセンサー、モバイル・ウェアラブル電源や窓、ビニールハウス向け電源など、現在普及している無機太陽電池では実現が難しい分野への応用を切り開く次世代太陽電池として注目されている。 しかし、その実用化にはエネルギー変換効率の向上が最重要課題であり、そのためには新しい半導体ポリマーの開発が不可欠である。 本研究では、塗布型有機薄膜太陽電池の効率化に向けた新しい半導体ポリマーの開発を目指す。   想定される市場・製品・産業分野 エネルギー分野 IoTセンサー 自動車 モバイル・ウェアラブル電源 ビニールハウス 建材   概要 ポリマーの結晶状態と分子配向を制御することで電荷輸送性を向上させた。 現在16~17%程度の発電効率を実現。2024年には20%実現を目指す。   本研究の優位性 高効率かつ高耐久性の有機薄膜太陽電池を実現 ➢85℃で1000時間加熱しても性能劣化無し。   特許 特願2017-159899など   論文 Adv. Energy Mater.,2020, 10, 1903278 ACS Appl. Mater. Interfaces, 2018, 10, 32420. J. Am. Chem. Soc.2016, 138, 10265. Nat. Commun.2015, 6, 10085. Nat. Photon.2015, 9, 403.など   研究者からのメッセージ 有機薄膜太陽電池や有機半導体にご興味があれば、ぜひご連絡ください。   研究者 尾坂格(OSAKA ITARU) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 環境エネルギー
    2021.02.21
    • 気候変動/エネルギー/GX
    • 環境エネルギー
    環境に優しい新規無機系構造色コーティング材

      目標・狙い 我々の暮らしを豊かにする様々なモノには多彩な着色がなされている。一般的にその着色に使われている塗料は有機色素を中心とした染料、あるいは無機顔料が用いられている。 しかし、有機染料は、熱や光エネルギーなどによって分解してしまうため、時間がたつと色褪せが起こり長期使用には耐えられない。また、無機顔料は、有機染料に比べて優れた耐候性を有している一方で、環境や人体に対し有害な元素を含むものが多いため毒性への懸念が高まっており、万能ではない。 また、今後、従来型の染料や顔料に含まれる物質への規制がますます強化されると考えられ、安全かつ退色しない色材の開発が急務となっている。 このような背景から、安全・サスティナブルな材料とプロセスで創る新規無機系色材の開発を目指す。   想定される市場・製品・産業分野 塗装が必要な製品を扱う企業   概要 アプローチ①アンモニアを用いない金属酸窒化物合成とその色材制御 金属産窒化物顔料は、毒性が懸念される重金属ではなく、チタンやタンタルなどの金属を用いることができるため、安心・安全な材料の一つとして注目されている。 しかし、その合成には毒性が非常に高いアンモニアガスを使うことが一般的であり、合成のスケールアップは容易ではなく、工業化の障壁となっている。 本アプローチでは、この従来のアンモニアガスを用いる手法に代わる安全な方法として、窒素源に尿素を用いる合成法を開発。尿素は毒性の懸念が低く、安価であることに加え、固体であるため、取り扱いが容易であり、汎用の電気炉での酸窒化物合成が可能となる。また、尿素の量を変えて酸窒化物中の酸素/窒素比を変化させることなどで、色度を調整することが可能である。 本研究の優位性 アンモニアの代わりに安全・安価な尿素を使用することで、汎用の電気炉での酸窒化物合成が可能 用いる尿素の量で酸窒化物の色調の制御が可能   アプローチ②電気泳動堆積法による構造色コーティング 構造発色性材料は染料や顔料とは全く異なるメカニズムで呈色するため、構造が壊れない限り、色褪せせず、汎用の安価かつ安全性の高い物質を用いて発色させることができる。 用いる材料は、主にガラスの主成分であるSiO2の球状粒子と炭素や四酸化三鉄などの黒色物質。粒子の集積構造で構造色が発現し、用いる粒子のサイズを変えることで容易に様々な色を生み出すことができる。 一方で、構造発色性材料のコーティング膜を形成する際、1)大面積や曲線の表面に均一なコーティングが困難であること、また2)耐久性が低い(すぐコーティングが落ちる)、といった問題があった。 これらの問題に対し、 1)自動車の塗装などに使われる電気泳動堆積法(図2)を用いる。この手法を用いることで、迅速に様々な基材にコーティング膜を形成することができる。また、フォークのような複雑な形状の表面にも均一にかつ簡単にコーティングすることができる(図3)。 2)電着法に工夫をし、粒子を泳動させて基材表面に堆積させるだけでなく、同時に接着剤の役割を果たす物質を電気化学的に析出させ、これで粒子同士や粒子と基材表面を接着させる方法を用いることで(図4)、その耐久性は飛躍的に改善。フォークにコーティングしたものを消しゴムに突き刺す試験でも、従来のものは膜が剥離し金属表面が露出してしまうのに対し、今回のものは剥離せず色を保つことができる。(図5)また、pHなどの電着条件を適切に調整することで、粒子の並び方を規則的な状態のものと、乱れた状態のものに作り分けることができます。つまり、オパールのように見る角度で色が変化するタイプのものと、見る角度で色が変わらないマットな印象のものに作り分けることができる(図6)。 本研究の優位性 粒子のサイズを変えるだけで様々な色を生み出せ、また、電着条件を適切に調整することで、構造色の角度依存性のありなしの作り分けが可能であるため、多様なカラーリングが実現できる。 複雑な形状の表面にも均一にかつ簡単にコーティングすることができる 耐久性の高い構造発色性材料のコーティングが可能である   論文 Inorg. Chem., DOI: 10.1021/acs.inorgchem.0c03758 (2021). ACS Appl. Mater. Interfaces, 12, 40768 (2020). Eur. J. Inorg. Chem., 2019, 1257 (2019). RSC Adv., 18, 10776 (2018). Inorg. Chem., 57, 13953 (2018). NPG Asia Mater., 9, e355 (2017). ほか   外部資金の獲得状況 科学研究費助成事業 基盤研究(B) (2020-2022). 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) (2019-2020) 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽) (2018-2021) ほか   研究者からのメッセージ 構造発色性材料、複合アニオン化合物、有機-無機ハイブリッド材料などにご興味があれば、ぜひご連絡ください。   研究者 片桐清文(KATAGIRI KIYOFUMI) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授

    • 情報通信
    2024.04.23
    • 情報通信
    世界初のミックスドシグナルベースバンド復調回路による 20Gb/s QPSK無線伝送技術を開発

    研究成果のポイント ミックスドシグナル技術を用いて超高速情報伝送の実現と電力効率の改善へ 無線通信に用いられるベースバンド復調回路(注1)は通常、高速・高分解能ADC(注2)と大規模DSP(注3)で構成されています。従来の構成を用いて数+Gb/sを超える高速な通信を行う場合、ADCとDSPへの要求性能が高くなり電力効率が悪化します。 今回、ミックスドシグナル(注4)技術を用いて高速・低分解能ADCと小規模DSPからなる世界初のベースバンド復調回路を、ザインエレクトロニクス株式会社、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))、国立大学法人広島大学が共同で開発しました。これにより数+Gb/sを超える超高速通信を実現しながらも、電力効率が改善することで大幅な電力削減が見込まれます。   ベースバンド復調回路を搭載した受信用半導体で20Gb/s QPSK通信が可能に ベースバンド復調回路を搭載した受信用半導体とロジック回路を搭載したFPGA(注5)を開発し20Gb/s QPSK(注6) 変調された電気信号の受信を実現しました。FPGAに実装した機能は実用化の際にはベースバンド受信用半導体に統合します。   概要 ザインエレクトロニクス、NICT、広島大学は共同で、総務省研究開発プロジェクトの一環で、世界初のミックスドシグナル広帯域ベースバンド回路による毎秒20ギガビットの超高速情報伝送を実現しました。ザインエレクトロニクスは設計・測定全般を、広島大学大学院先進理工系科学研究科の藤島実教授らは設計・測定についての議論を、NICTは測定についての議論や測定補助をそれぞれ担当しました。 この半導体回路は、キャリア(注7)周波数をシンボル(注8)・キャリア周波数の整数倍にすることで回路を簡素化することができます。キャリア、タイミング(注9)とデータ復元機能を統合する独自の回路構成 (ミックスドシグナルコスタス・ループ) を用いることで超高速情報伝送を実現しました。高速・低解像度ADCは8相タイムインターリーブ(回路全体で出力を8倍速化)毎秒40ギガサンプルの3bit ADCを実装し、これにFPGAを用いてデータを復元することで実現しました。 本研究成果は、2024 IEEE Custom Integrated Circuits Conference (CICC、2024年4月21日~4月24日、米国コロラド州デンバー)で発表を行いました[1]。 図1. 新開発した世界初のミックスドシグナルベースバンド復調回路を搭載した受信用半導体   今後の展開 今回の研究成果により、ミックスドシグナル型アーキテクチャを通じて、より高性能でありながらも、エネルギー効率にも優れた回路実装への道を拓くものとなりました。   用語説明 (注1)ベースバンド復調回路: 変調されて無線送信されたベースバンド信号(デジタル信号)を、受信機側で元のベースバンド信号に復調する回路 (注2)ADC: アナログ・デジタル変換回路 (注3)DSP: デジタルシグナルプロセッサ (注4)ミックスドシグナル: アナログ信号とデジタル信号の両方を取り扱う回路 (注5)FPGA: Field Programmable Gate Array (注6)QPSK: Quaternary Phase Shift Keying (四位相偏移変調) であり、一度の変調で4値 (2ビット)を表現できる変調方式。 (注7)キャリア: 信号を送受信するために使用される電波 (注8)シンボル:情報を電波に載せる時の変調信号の単位 (注9)タイミング: データ生成に必要な時間情報のこと   総務省研究開発プロジェクトの背景 総務省では、新たな電波利用ニーズの拡大に対応するため、周波数のひっ迫状況を緩和し、電波の有効利用を目的とした電波資源拡大のための研究開発を行い、超大容量無線通信を実現可能とし、新たな周波数帯の利用を促進することにより電波資源の拡大に資することを目標としております。   本成果の一部は総務省電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)によるものです。 課題名:テラヘルツ波による超大容量無線LAN伝送技術の研究開発 課題イトランシーバ技術の研究開発   参考文献 [1] Shunichi Kubo1, Yuji Gendai1, Satoshi Miura1, Shinsuke Hara2,3, Satoru Tanoi2, Akifumi Kasamatsu2, Takeshi Yoshida3, Satoshi Tanaka3, Shuhei Amakawa3, Minoru Fujishima3, “A 20Gb/s QPSK Receiver with Mixed-Signal Carrier, Timing, and Data Recovery Using 3-bit ADCs ,” 2024 IEEE Custom Integrated Circuits Conference. 1THine Electronics, Inc., 2National Institute of Information and Communications Technology, 3Hiroshima University   報道発表資料(269.86 KB) 国際会議:2024 IEEE CICC 研究者ガイドブック(藤島 実 教授)   【報道関係者 お問い合わせ先】 ザインエレクトロニクス株式会社取締役総務部長山本武男 電話:03-5217-6660 E-mail:investors*thine.co.jp   国立研究開発法人情報通信研究機構 <研究に関すること> 未来ICT研究所小金井フロンティア研究センター研究センター長笠松章史 E-mail:kasa*nict.go.jp   <広報に関すること> 広報部 報道室 E-mail:publicity*nict.go.jp   国立大学法人広島大学 <研究に関すること> 大学院先進理工系科学研究科教授藤島実 電話:082-424-6269 E-mail:fuji*hiroshima-u.ac.jp <広報に関すること> 広報室電話:082-424-3749 E-Mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (注: *は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2026.02.10
    • 医療/ヘルスケア
    うつ病患者の脳内ネットワークにおける「独自性」の低下を発見 ~個人の脳の「指紋」を指標とした新たな客観的診断法の開発に期待~

    千葉大学子どものこころの発達教育研究センターのSiti Nurul Zhahara特任研究員、平野好幸教授、清水栄司教授、および広島大学大学院医系科学研究科の岡田剛教授らの共同研究グループは、うつ病患者を対象とした安静時機能的MRI注1)から、個人の独自性を示す脳の領域間の機能的なつながりのパターンである「機能的コネクトーム(Functional connectome; FC)独自性注2)参考資料1)」を解析しました。その結果、健常者と比較して有意に低下していることを明らかにしました。 「脳の指紋」とも呼ばれるこのFC独自性の低下は、特に前頭頭頂ネットワーク注3)や感覚運動ネットワーク注4)において顕著であり、うつ病の症状が重いほど、脳の独自性が失われているという相関関係も示されました。本研究は、診断の難しいうつ病に対して、客観的かつ再現性の高い神経画像マーカー注5)を提供し、将来的な診断や個別化医療の進展に寄与することが期待されます。 本研究成果は、学術誌Journal of Affective Disordersに2026年1月4日(現地時間)にオンライン公開されました。   研究の背景 うつ病は世界で約2億4,600万人が罹患する深刻な疾患ですが、これまでの脳画像研究では、解析手法の違いにより結果の一貫性が乏しく、信頼できる生物学的指標(バイオマーカー注6))の確立が大きな課題となっていました。 近年、脳の領域間のつながりのパターンが指紋のように個人ごとにユニークで安定しているという「脳の指紋(Brain Fingerprinting)参考資料2)」という概念が注目されています(図1)。この独自性は脳の成熟や精神的健康状態を反映すると考えられており、本研究グループはこの指標を用いて、うつ病患者における臨床的な妥当性を世界で初めて検証しました。   研究の成果 研究グループは、19歳から37歳のうつ病患者35名と健常対照群(HC)42名の多施設で撮像した安静時機能的MRIデータを解析しました。その結果、うつ病患者は、健常群と比較して全脳レベルでの脳活動の独自性(FC独自性)が有意に低いことが示されました(図2)。また特に、高度な認知制御を司る前頭頭頂ネットワークや、身体感覚を処理する感覚運動ネットワークにおいて、FC独自性の精度(脳の指紋を使用したときの本人の判別精度:脳指紋の精度)の低下が顕著でした。症状の重症度との相関に関してはFC独自性が低いほど、PHQ-9注7)やBDI-II注8)によるうつ病の重症度スコアが高くなる(症状が重い)という強い負の相関が確認されました。脳は発達過程において「シナプスの剪定(せんてい)」や調整(チューニング)を経て、効率的で専門化された独自のネットワークを形成します。研究グループは、うつ病患者で見られた独自性の低下について、こうした脳の微細な構造調整プロセスの不具合が、ネットワークの「自分らしさ」の確立を阻害している可能性を指摘しています。本手法は異なる施設で取得されたデータにおいても一貫した結果を示し、客観的な診断や臨床評価に利用可能な再現性の高いマーカーであることが証明されました。   今後の展望 本研究により、脳の指紋の独自性の低下、すなわち脳の機能的な「自分らしさ」の欠如が、うつ病の病理を反映する重要な鍵であることが示唆されました。この成果は、個々の患者に最適な治療を選択するための「層別化」や、将来的な精神的脆弱性の予測(レジリエンスの評価)に役立つ可能性があります。今後は、この指標を用いて治療による改善を予測する研究や、患者一人ひとりに最適化された治療戦略を構築するための強力なツールとしての臨床応用が期待されます。   用語解説 注1)安静時機能的MRI:機能的磁気共鳴画像(functional Magnetic Resonance Imaging)を用いて、安静時の脳血流の変化を測定することにより脳の活動を観測することが可能。何か特定の作業をしているときの脳の動きを調べるfMRIに比べ、安静時fMRIはリラックスした状態での脳の活動を評価する。 注2)機能的コネクトーム(FC)独自性:脳の異なる領域間のつながりのパターンが、どれだけ他の人と異なり、同一個人内で一貫しているかを示す数値。「脳の指紋」の一つ。 注3)前頭頭頂ネットワーク:前頭皮質と頭頂葉をつなぐ安静時脳機能ネットワークで、注意の制御や意思決定など、高度な認知機能を担う脳のネットワーク。 注4)感覚運動ネットワーク:運動野や体性感覚野を含む安静時脳機能ネットワークで、身体感覚の処理や運動の制御を担う脳のネットワーク 注5)神経画像マーカー:疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる脳神経由来の画像データのこと。 注6)生物学的指標(バイオマーカー):疾患や症状、治療の効果を評価するための指標となる生体由来のデータ。神経画像マーカーもこれに含まれる。 注7)PHQ-9:Patient Health Questionnaire-9。うつ病の症状の重症度を評価するために世界的に広く用いられている標準的な自己記入式の質問票。 注8)BDI-II:ベック抑うつ質問票。過去2週間の状態についての21項目の質問によって抑うつ症状の重症度を短時間で評価することができる質問票。 要です。   研究プロジェクトについて 本研究は以下の助成金による支援を受けて行われました。 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」(課題名:縦断的MRIデータに基づく成人期気分障害と関連疾患の神経回路の解明(分担課題名:成人期のうつ病、不安症、強迫症の脳画像等の総合的解析研究))、および、「脳神経科学統合プログラム」(課題名:抑うつ症状と認知機能障害が生じる皮質−皮質下脳ダイナミクスのヒト多次元縦断データを用いた解明と霊長類モデルでの検証) 独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(A)25H01085、挑戦的研究(萌芽)24K21493、基盤研究(B)23K22361、25K00879)基盤研究(C)19K03309、JP21K03084、25K06842   報道発表資料(979.17 KB) 掲載ジャーナル:Journal of Affective Disorders 研究者ガイドブック(岡田 剛 教授)   〈お問い合わせ〉 広島大学 広報室 電話:082-424-4383メール:koho@hiroshima-u.ac.jp

    • 食料/農林水産業
    2026.02.10
    • 食料/農林水産業
    家畜の暑熱ストレス耐性と腸内環境 -環境保全型畜産管理に貢献する好熱菌の機能性評価-

    概要 理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームディレクター、宮本浩邦客員主管研究員、環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームディレクター、黒谷篤之特別研究員(研究当時)、光量子工学研究センター光量子制御技術開発チームの守屋繁春専任研究員、和田智之チームディレクター、九州大学大学院農学研究院の山野晴樹大学院生、髙橋秀之准教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の稲生雄大助教、北里大学医療衛生学部血液学研究室の佐藤隆司講師らの共同研究グループは、累積60万羽を超える採卵鶏の大規模調査の結果、高温環境下での鶏の死亡率を下げる飼育管理手法として好熱菌[1]群を活用した高温発酵飼料を溶液にして投与することが効果的であり、腸内環境の変化が暑熱ストレス耐性に関与し得ることを確認しました。 本研究の成果は、質の高い高温発酵飼料の活用が、高温条件下における家畜の生命維持につながることを示すとともに、その作用機序として腸内細菌叢(さいきんそう)の制御が重要である可能性を示唆しています。 地球温暖化がますます加速する中で、生命を脅かす暑熱ストレスが看過できなくなっています。「人」と「動物」と「環境」を包括的に捉えて守る「One Health(ワンヘルス)[2]」という概念の重要性が国際的に強調される中で、さまざまな分野で環境配慮型の新たな持続可能技術の開発が求められています。本研究では、高温発酵技術を活用することで、暑熱ストレス環境で飼育した鶏の死亡率が下がることを見いだすとともに、実際に糞便(ふんべん)を対象とした計算科学的なアプローチによって、高温発酵飼料が腸内細菌叢の構成比率と短鎖脂肪酸[3]の組成比率のバランスを改善している可能性を明らかにしました。 本研究は、Springer Natureの科学雑誌『Animal Microbiome』オンライン版(2月3日付)に掲載されました。   本研究の概要 背景 地球温暖化は、人間の健康と経済活動に深刻な損害を与えており、畜産業でも、熱波による家畜の死亡率の増加によって多大な経済的損失が発生しています。特に、鳥類は羽毛の覆いと汗腺の欠如により、暑熱環境における生理的な負荷(暑熱ストレス)の影響を受けやすいことが知られています。 暑熱ストレスは、免疫機能を低下させることによって感染症の流行にもつながる可能性もあるため、抗菌薬の過剰使用を助長する要因の一つにもなっています。抗菌薬の過剰使用は薬剤耐性菌の増加をもたらすことから、世界保健機関(WHO)は、家畜の成長促進のための抗生物質の使用廃止を含む、薬剤耐性(AMR)に対する行動計画を提示しています。このような背景から、暑熱ストレスが動物に及ぼす影響とその対策に関する研究は不可欠であり、行動学的および生理学的影響を含めて多面的に評価する必要があります。   近年、好熱性のバシラス科(Bacillaceae)を含む好熱菌群を用いた閉鎖系のバイオリアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)を活用することで、未利用海産資源から植物の肥料や動物の飼料として有効な発酵物を持続的にリサイクル生産できることが報告されています注1)。これらの好熱菌の機能性は、理研内外のさまざまな共同研究の連携によって徐々に明らかになりつつあります。肥料として使用した場合は、空気中の窒素を固定して生産性に貢献しつつ、温室効果ガスである一酸化二窒素の発生を抑制する傾向があります。この肥料を使用した土壌微生物叢では病原性真菌やセンチュウなどによる被害が出にくい傾向も確認されました注2)。畜水産用の飼料の一部として少量添加することによって、母豚の死産率の減少や養殖魚の生産性の向上のみならず、その養殖場の近海での海草繁茂(ブルーカーボン(海洋炭素)への貢献)をもたらす可能性があることも明らかになりました注3)。さらに、好熱菌の一つであるカルディバシラス・ヒサシイ(Caldibacillus hisashii)(製品評価技術基盤機構国際寄託番号BP-863)は、家畜(ウシ)の腸内におけるメタン産生菌を減らす傾向があることが示されています注4)。腸内細菌叢の制御が、家畜由来の温室効果ガスの排出に貢献することは重要な知見と捉えられています注5)。   本研究では、このような環境改善機能を幅広く有する、好熱菌によって発酵させた高温発酵飼料の希釈溶液を飲水に極少量添加(飲水1cm3当たり100個の菌体数相当)することによって、暑熱環境下で飼育された鶏に対する死亡率の低減効果を評価するとともに、その効果を腸内細菌叢によって評価することを目的としました。   注1)宮本浩邦、宮本久、田代幸寛、酒井謙二、児玉浩明 日本生物工学会・生物工学技術賞受賞論文「好熱性微生物を活用した未利用バイオマス資源からの高機能性発酵製品の製造と学術的解明」生物工学会誌、第96巻、第2号 p.56-63(2018) https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9602/9602_gijutsu.pdf   注2)2023年4月12日プレスリリース「持続可能な農業のための堆肥-土壌-植物相互作用モデル」 https://www.riken.jp/press/2023/20230412_1/   注3)2023年1月12日プレスリリース「ブルーカーボンのための海草底泥の共生環境を予測」 https://www.riken.jp/press/2023/20230112_3/   注4)2022年3月25日プレスリリース「好熱菌を黒毛和種仔牛に投与!」 https://www.riken.jp/press/2022/20220325_4/   注5)2023年4月28日プレスリリース「抗菌薬に依存しない仔牛の飼養管理」 https://www.riken.jp/press/2023/20230428_1/   研究手法と成果 本研究では、120日齢の採卵鶏の四つのグループ(群)が準備されました(計約22万羽)。一つは秋期から飼育された非暑熱ストレス群(非暑熱区)で、夏期直前から飼育された三つの暑熱ストレス群(暑熱区1、暑熱区2、暑熱+好熱菌区)が試験対象となりました。そして、暑熱+好熱菌区には、飼育開始時より継続して、高温発酵飼料の100倍希釈溶液を飲水添加して1カ月間飼育管理しました。その結果、暑熱区1および2では、最高気温30度以上で、死亡率(特に壊死性腸炎が原因)が統計的に有意に増加しましたが、暑熱+好熱菌区では増加しにくい傾向が確認されました(統計学的有意差の指標p(数値が低いほど有意水準が高い)

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    2026.01.21
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    強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト -半世紀使われてきたドニアック相図を超えて-

    概要 理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループの山岡人志客員研究員、富山県立大学工学部教養教育センターの谷田博司准教授、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のアイケ・シュヴィア助教(研究当時)、シブ・クマール助教(研究当時)、有田将司技術専門職員、島田賢也教授(同大学放射光科学研究所所長)、関西学院大学の山本義哉大学院生(研究当時)、水木純一郎教授、高知大学の田島史郎大学院生(研究当時)、小野寺健太大学院生(研究当時)、西岡孝教授らの国際共同研究グループは、奇妙な異方性(磁気秩序が磁化の起こりやすい方向に起きない)を備えた反強磁性秩序[1]を示す近藤半導体[2]Ce(Ru1-xRhx)2Al10において、伝導電子とセリウム(Ce)が持つ4f電子[3]との結合(c-f混成[4])の異方性を考慮した新しい相図[5]を提案しました。 本研究成果は、高温超伝導体、次世代メモリ、高効率エネルギー変換デバイス、次世代コンピュータなどへの応用が期待される強相関電子系化合物[6]の物性発現の理解と新物質開拓に貢献すると期待されます。 今回、国際共同研究グループは、近藤半導体であるCeRu2Al10とそのルテニウム(Ru)の一部をロジウム(Rh)で置換した物質について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインおよび理研放射光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」[7]の放射光を用いた実験を駆使し、電子構造を調べ、少量のRh置換により引き起こされた電子構造の質的な変化、すなわちリフシッツ転移[8]が生じることを見いだしました。また、公表から約半世紀が経過した今でもなお強相関電子系の基底状態を記述する最も基本的な概念である相図(ドニアック相図(Doniach phase diagram)[9])を発展させ、方位依存性を持った「羅針盤」としての新しい相図を提案しました。 本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(2025年12月24日付)に掲載されました。   新たに提案した異方的c-f混成を扱う高次元の相図   背景 物質の中には無数の電子が存在します。それらは相互に影響し合い、超伝導や磁気/電荷秩序といった相転移[10]を示します。物の性質を扱う物性物理において、相転移の研究は花形の一つです。元素の組合せや原子のナノ配列構造(結晶構造)の特徴を反映した種々の相転移が知られていますが、こうした基礎研究は、現代社会を支える基盤技術(例えば磁気メモリなど)につながっています。 近藤半導体CeM2Al10(M:遷移金属のRu、オスミウム(Os)、鉄(Fe)など、Al:アルミニウム)は直方晶[11]の化合物です(図1(a))。近藤半導体では、磁気秩序が生じることは通常期待されませんが、CeRu2Al10とCeOs2Al10では常識に反し、約30ケルビン(K:絶対温度の単位)で反強磁性(AFM:antiferromagnetic)秩序が生じます。この転移温度は、大抵のCe化合物と比べて数倍高いものです。また、反強磁性秩序でのCeの磁気モーメントの向き(磁気異方性)も異常で、通常の磁性体では期待されない方向を向いてしまいます。このように奇妙な反強磁性秩序のカギとして、特に伝導電子とCe 4f電子との結合(c-f混成)の異方性が指摘されてきました。しかし、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで山岡客員研究員らは、角度分解光電子分光(ARPES)[12]実験(図1(b))を行い、CeRu2Al10では確かにc-f混成が異方的であることを明らかにしました注1)。この結果は、CeRu2Al10で生じる奇妙な反強磁性秩序が遍歴性[13]を有すことを浮き彫りにし、当時提唱されていた理論モデルを支持する内容でした注2)。 図1 CeRu2Al10の結晶構造、ARPES実験のセットアップ (a)CeRu2Al10の結晶構造。結晶系は直方晶(黄色四角枠)。Ru-Al10から成るクラスタ(灰色)がac2次元面を成し、b方向に積層している。クラスタの中心にRu(白っぽい灰色)が、クラスタの隙間にCe(黒色)がいる。小さい球はAlを表す。 (b)ARPES実験の例。光速に近い速度で運動する電子が向きを変えるときに放出する放射光を単結晶試料に入射させて、光電効果で飛び出した光電子を検出器で捉える。図中左下に示すように、物質中では電子の占める軌道によって結合エネルギーが異なる。単結晶の方位を変えながら光電子のエネルギーと運動量を調べることで、3次元的な電子構造の情報を得ることができる。本研究では図中の角度θを±10度程度の範囲でデータを積分し、c-f混成の異方性に関する情報を得た。なお実験では、Ceの4d-4fの共鳴条件に相当するエネルギーである122電子ボルト(eV)の放射光を入射させて行った。   注1) H. Yamaoka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 124704 (2024). 注2) S. Hoshino and Y. Kuramoto, Phys. Rev. Lett. 111, 026401 (2013).   研究手法と成果 今回、国際共同研究グループは、CeRu2Al10のRuサイトを周期表でRuの一つ右隣にある元素Rhに一部置き換えたCe(Ru1-xRhx)2Al10について、ARPES実験を行いました。Ce(Ru1-xRhx)2Al10の最大の特徴は、CeRu2Al10の異常な磁気異方性を解消し、磁気モーメントが期待される通りの向きを向くようになることです。この劇的な変化は、わずか5%程度のRh置換で起こります。このとき同時に転移温度も若干下がりますが、依然として同程度に高い温度を維持します。ここでも、c-f混成の強度と異方性がカギとなることが指摘されてきましたが、肝心の電子構造は未解明のままでした。 そこで国際共同研究グループは、CeRu2Al10およびCe(Ru1-xRhx)2Al10について、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)のビームラインBL-1でARPES実験を行い、c-f混成に異方性があることを見いだしました。さらに、理研放射光科学研究センターSPring-8のビームラインBL12XUとBL12B2において実施した分光実験とX線回折実験の結果を合わせて、電子構造の変化、いわゆるリフシッツ転移がRh置換によって起きていることを明らかにしました。 図2(a)と(b)は、ARPES実験のデータを各結晶軸について積分して得たスペクトルです。これによりc-f混成の強度の異方性を調べることができます。図を見ると、フェルミエネルギー[14]近傍のスペクトル強度が明らかに違います。また、強度の強い方向がRh置換で変化しています。これは、Rh置換によってc-f混成の強い方向が切り替わったことを、実験的に明瞭かつ端的に示す結果です。 図2 CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10の実験結果 ARPES測定のデータを、結晶のa、b、c軸方向に積分した図。「f1」と示した信号が強い場合にc-f混成が強い。CeRu2Al10ではc方向のc-f混成が強いが(a)、Ce(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではb軸方向に強いことが明瞭に分かる(b)。これは、リフシッツ転移がRh置換で生じたことを示している。こうしてわずかなRh置換により、c-f混成の強い方向が切り替わることを実験的に初めて明らかにした。 図3(a)は、強相関電子系化合物の特徴を説明するために約50年来用いられてきたドニアック相図の概念を、模式的に示したものです。c-f混成が弱い領域では電子は局在的(特定の原子などに強く束縛されている状態)で、局在的反強磁性秩序が生じます。一方c-f混成が強い領域では遍歴的(電子が特定の場所にとどまらず自由に動く状態)で、非磁性の重い電子状態[15]が実現します。両者の中間ではさまざまな異常が発現します。これは、電子の粒子性と波動性[16]の問題に直結します。図中の円はフェルミ面[14]の大きさを表し、円の大きい方がc-f混成の強い状態を示します。 図3(b)は、ドニアック相図の概念を拡張した理論モデルです注2)。局在的反強磁性秩序と重い電子状態の間に、遍歴的反強磁性秩序の領域が割り込み、局在的反強磁性秩序の領域とはリフシッツ転移で隔てられています。これにより、CeRu2Al10の示す反強磁性秩序の遍歴性や、Rh置換で生じるリフシッツ転移を理解できます。 図3 ドニアック描像におけるc-f混成強度と物質の性質の移り変わり (a)ドニアック相図の概念。c-f混成が弱い領域は局在的な反強磁性、強い領域は非磁性の重い電子状態。両者は量子臨界点で隔てられる。量子臨界点とは相転移が起こり物質の状態が大きく変わる場所。(b)拡張されたドニアック相図。中間に遍歴的な反強磁性の領域が割り込む。局在的な反強磁性の領域とは、リフシッツ転移で隔てられている。図中の円により、c-f混成が等方的であることを象徴的に示す。   CeRu2Al10のc-f混成が異方的であるにもかかわらず、ドニアック相図ではc-f混成が等方的に扱われているため(図3)、CeRu2Al10の性質をうまく捉えることができませんでした。そこで国際共同研究グループは、c-f混成の異方性を考慮したより高次元の新しい相図を作成しました(図4)。 図4 新たに提案した異方的c-f混成を扱うドニアック描像の模式図   c-f混成が強くなるにつれ、局在的な反強磁性からリフシッツ転移を経て遍歴的な反強磁性に相転移し、量子臨界点を経て非磁性の重い電子状態へ移行する点は、図3(b)で示した概念と共通する。しかし、c-f混成の異方性を含めることで、従来のc-f混成を等方的に扱う相図よりも、的確に物質の特徴を示すことができる。CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10ではc-f混成は異方的で、それぞれc方向、b方向にc-f混成が強いことが楕円で表現されている。45度に傾いた破線はc-f混成が等方的な状況で、従来のドニアック描像はこの線上に対応する。CeRu2Al10ではb方向とc方向での顕著なc-f混成の異方性のため、2次元に拡張した相図で示したが、一般により高次元に拡張することが可能である。   CeRu2Al10とCe(Ru0.9Rh0.1)2Al10では、いずれもc-f混成の強さが異方的で、かつ、その強い方向は、それぞれc軸方向、b軸方向と異なりました。そこで、横軸と縦軸にそれぞれc軸方向とb軸方向のc-f混成の強さを取ることで、c-f混成が異方的な場合でも、その状況をうまく扱うことができるよう、旧来の概念を高次元に拡張した新たな相図を提案しました(図4)。従来のドニアック相図の概念は、c-f混成の強さの観点では1次元的です。新しい相図上では45°斜めの破線の軸上に対応します。 CeRu2Al10はc軸方向のc-f混成が強いため、相図の右側の領域、すなわちc軸方向のc-f混成が強い領域に位置付けられます。このとき、c軸方向にc-f混成の強いことが、c軸方向(横方向)に長い楕円で象徴的に示されています。同様に、Ce(Rh0.9Rh0.1)2Al10では、b軸方向のc-f混成が強いので、相図の左上に、b軸方向(縦方向)に長い楕円で示されています。両者は青い破線で示すようにリフシッツ転移で隔てられていて、今回の実験のようにRhで置換することで、遍歴的反強磁性状態から局在的反強磁性状態へと移行します。その際、c-f混成の強い方向がc軸方向からb軸方向へと大胆に入れ替わる様子が、黄色い矢印で示されています。 c-f混成の強さが弱い場合(図4左下)、あるいは強い場合(図4右上)には、c-f混成の異方性が実質的に消失し、等方的と見なすことができます。その様子は、図3(a)と図3(b)でも示した円により、象徴的に示されています。いわば、CeRu2Al10およびその関連物質は、c-f混成の強い/弱い領域の狭間にあり、種々の異常な性質の起源は、まさにその狭間の世界が生み出したc-f混成の異方性に端を発すると考えることができるようになります。このように提案した新しい相図は、c-f混成の示す異方性を針に据えた、まさに「羅針盤」として機能します。   今後の期待 本研究で得られた知見は、強相関電子系化合物の特徴を記述する最も基本的かつ象徴的な概念を、実験結果に基づき質的に拡張したものです。強相関電子系化合物が示す多様な性質の理解を深化させ、現象の統一的な理解、新たな物質開拓と理論研究の指針を与えます。元をたどれば電子の粒子性・波動性といった量子力学の基本原理に深く関わる概念であることから、本知見のインパクトは物性物理にとどまらず、広く波及し、基礎・応用を含む幅広い分野で活用されることが期待されます。   論文情報 <タイトル> Itinerant to localized heavy electron magnetism in Ce(Ru1-xRhx)2Al10: a direction-dependent phase diagram beyond the Doniach phase diagram   <著者名> Hitoshi Yamaoka, Hiroshi Tanida, Eike F. Schwier, Yoshiya Yamamoto, Shiv Kumar, Masashi Arita, Kenya Shimada, Fumisato Tajima, Renta Onodera, Takashi Nishioka, Hirofumi Ishii, Nozomu Hiraoka, and Jun’ichiro Mizuki   <雑誌> Physical Review Letters   <DOI> 10.1103/hdcf-dycj   補足説明 [1] 反強磁性秩序 隣り合う電子のスピンが互いに反対向きに整列し、全体では磁化の出ない状態(スピンは、量子力学的性質で上向きか下向きの状態しか取れない。スピンの向きがそろうと磁石になる)。   [2] 近藤半導体 強い電子相関により低温でエネルギーギャップを生じ、半導体的振る舞いを示す物質群。ギャップの大きい場合は近藤絶縁体と呼ばれる。「近藤」という名称は、この性質の起源と密接に関係する「金属の電気抵抗極小現象」の謎を世界で初めて解明した日本人物理学者、近藤淳(こんどうじゅん)博士の名前に由来する。物理学の世界で、日本人の個人名が冠された物理現象として有名なものの一つ。   [3] 4f電子 電子の取り得る軌道のうち、軌道角運動量がL=3の状態の軌道を占める電子。セリウム(Ce)などの希土類元素では、空間的に非常に原子核に近い軌道にある4f電子が不対電子となり、磁性を担う。   [4] c-f混成 伝導電子(conduction electron)とf電子(f-electron)とが混ざり合う効果や、混ざり合った状態、あるいは単に伝導電子とf電子との相互作用などを指す。磁気秩序、近藤効果、重い電子状態などのさまざまな現象は、これに端を発する。   [5] 相図 温度、圧力、組成などの関数として物質がどのような相・状態にいるのかを示す状態図。   [6] 強相関電子系化合物 電子間の相互作用が強い物質のこと。この性質が顕著に現れたものに、高温超伝導体、重い電子状態などがあり、物性研究の大きな一分野を成す。   [7] 大型放射光施設「SPring-8」 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。   [8] リフシッツ転移 結晶構造が変わらず、電子構造が変化する特殊な転移。熱力学的な相転移([10]参照)とは趣を異にする。   [9] ドニアック相図(Doniach phase diagram) 磁性や重い電子状態を示す化合物において、c-f混成の強さを横軸に、温度を縦軸に取った相図で、c-f混成は等方的に扱われる。1977年にS.ドニアック博士が提案して以来、約50年にわたり用いられてきた。一般に、c-f混成を強くすると、磁性が消え、量子臨界点を超えて非磁性の重い電子状態に移行する。量子臨界点付近では、非自明な超伝導などの風変りな現象が数多く報告されている。   [10] 相転移 磁場や温度、圧力などの外場(外的要因)によって、別の状態へ移行すること。エネルギーの変化の仕方により、1次相転移と2次相転移がある。水の状態変化は1次相転移、反強磁性秩序などは2次相転移に分類される。   [11] 直方晶 七つの結晶系の一つ。直方体で、縦、横、高さの各辺の長さが異なる。それぞれの軸方向は、a軸、b軸、c軸方向としている。   [12] 角度分解光電子分光(ARPES) 単結晶に光を照射し、光電効果で生じた電子の強度とエネルギーを、結晶との方位を変えながら調べる手法。これにより、固体中の電子が持つエネルギーと運動量ベクトルの関係、すなわちバンド構造を直接知ることができる。ARPESはAngle-Resolved Photoemission Spectroscopyの略。   [13] 遍歴性 外殻電子は、その占有軌道の波動関数の空間分布から、所属していた原子近傍に局在するか、結晶中を遍歴する伝導電子と成るかで、大きく二つに分類される。Ceの4f電子は典型的に局在的であるが、わずかに遍歴性も備える。   [14] フェルミエネルギー、フェルミ面 電子を、波数空間上でエネルギーの低い状態から順に詰めたときに、占有する状態と占有しない状態とを分ける境界面(フェルミ面)およびそのエネルギー(フェルミエネルギー)。電子は、統計性の違いからフェルミ粒子に分類される。   [15] 重い電子状態 電子の見かけの質量(有効質量)が100~1,000倍にも増強したように振る舞う異常な金属状態。Ceやイッテルビウム(Yb)、ウラン(U)化合物などで見られる。   [16] 粒子性と波動性 電子のような量子力学的な粒子は、粒子としての性質とともに、波としての性質を持つ。物質の示す性質に深く関わり、量子力学の基本原理の一つである不確定性原理に端を発する。   研究支援 本研究は、広島大学放射光科学研究所のビームラインBL-1、BL-7、BL9A(課題番号:13-A-2、13-B-38、14-A-3、14-A-5、15-A-2、16AG-002、17AG-007、19BG002、21AG003)、SPring-8にある台湾ビームラインBL12XU、BL12B2(課題番号:2013A4251、2013A4255(NSRRC課題番号:2012-3-011))を用いて行われました。   【理化学研究所】強相関電子系物質の相図におけるパラダイムシフト_HP.pdf(650.3 KB) 掲載ジャーナル:Physical Review Letters 研究者ガイドブック(島田 賢也 教授)   発表者・機関窓口 <発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせください。 理化学研究所放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループ 客員研究員 山岡人志(ヤマオカ・ヒトシ)   富山県立大学工学部教養教育センター 准教授 谷田博司(タニダ・ヒロシ)   広島大学放射光科学研究所 助教(研究当時) アイケ・シュヴィア(Eike F. Schwier) 助教(研究当時) シブ・クマール(Shiv Kumar) 技術専門職員 有田将司(アリタ・マサシ) 教授 島田賢也(シマダ・ケンヤ) (同大学放射光科学研究所所長)   関西学院大学 大学院生(研究当時) 山本義哉(ヤマモト・ヨシヤ) 教授 水木純一郎(ミズキ・ジュンイチロウ)   高知大学 大学院生(研究当時) 田島史郎(タジマ・フミサト) 大学院生(研究当時) 小野寺健太(オノデラ・ケンタ) 教授 西岡孝(ニシオカ・タカシ)   <機関窓口> 理化学研究所広報部報道担当 Tel: 050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp   富山県立大学事務局教務課情報研究係 Tel: 0766-56-7500 Email: johokenkyu@pu-toyama.ac.jp   広島大学財務・総務室広報部広報グループ Tel: 082-424-4518 Email: koho@office.hiroshima-u.ac.jp   学校法人関西学院広報部企画広報課 Tel: 0798−54−6873 Email: kg-koho@kwansei.ac.jp   高知大学広報・校友課 Tel: 088-844-8643 Email: kh13@kochi-u.ac.jp

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    2023.10.23
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    夜勤時の覚醒水準の維持と疲労感の低減を可能とする仮眠のとり方 ~90分間と30分間の分割仮眠と120分間の単相性仮眠の効果~

    研究成果のポイント 夜勤中にとる仮眠は眠気を軽減し、パフォーマンスの維持にも有効であることが明らかになっています。眠りには、急速眼球運動を伴うレム睡眠と伴わないノンレム睡眠の2種類があり、ノンレム睡眠の睡眠段階3は徐波睡眠(深睡眠)と呼ばれ、脳の休息と回復、成長に関与し、入眠後90分程度で最初のレム睡眠が出現し、情報制御に関する点検と更新が行われていると考えられています。その為、入眠に要する時間も加味して疲労の回復には120分間の仮眠が推奨されていますが夜勤中にとる仮眠取得時間は限られています。今回、16時間夜勤(16:00-09:00)を想定し、120分間の仮眠を1回にまとめてとる単相性仮眠と120分間を90分間と30分間に分けてとる分割仮眠と比較した結果、仮眠を分割することで早朝の眠気を抑え、特に疲労感の低減効果に優れていることを明らかにしました。 この研究成果は、長時間夜勤に従事する看護師や、夜間に危険を伴う作業に従事する労働者など、長時間集中力の維持を可能とし、労働者の健康にも有効な仮眠のとり方の確立に繋がることが期待されます。   概要 広島大学大学院医系科学研究科基礎看護開発学 折山早苗教授は、これまでに看護師の労働環境、特に夜勤時の仮眠について研究し効果を検証してきました。今回、これまでに収集した実験データを再分析し、16時間夜勤を伴う2交代制勤務の看護師の一般的な夜勤の時間帯を想定し120分間の仮眠(22:00-00:00)をまとめてとる単相性仮眠条件1)、90分間(22:30-00:00)と30分間(02:30-03:00)に分けた分割仮眠条件2)、仮眠をとらない仮眠条件3)の3条件を睡眠状態、心拍変動、眠気や疲労感、クレペリン検査による計算数を比較検討しました。   結果、仮眠時の平均の睡眠時間は、120分間仮眠が93.1分間、90分間仮眠が68.4分間、30分間仮眠が20.1分間で、睡眠効率*1の平均はいずれも90%以上、睡眠潜時*2の平均は10分以下でした。仮眠間で統計的な違いを認めませんでした。仮眠時の睡眠状態と仮眠直後の体温、眠気、疲労感、計算数の相関関係から、総睡眠時間が長いと120分仮眠は疲労感が増加し、30分仮眠は眠気が増加することが明らかになりました。また、90分仮眠は睡眠潜時が短いと、体温が上昇し、眠気や疲労感も増加することが示されました。 仮眠をとらない条件は早朝に眠気や疲労感が増加しましたが、仮眠を2回に分けてとった分割仮眠条件が、仮眠を1回にまとめてとった単相性仮眠条件よりも早朝の眠気を抑え、疲労感の低減効果に優れていることを確認しました。本研究成果は、夜間睡眠が限られる長時間の夜勤状況下においては、1回の仮眠をとるよりも2回に分けて仮眠をとる方が、眠気や疲労感の低減に繋がることが示されました。また、仮眠をとる時刻や時間で覚醒時の体温や眠気や疲労感に影響することが明らかになりました。  本研究成果は、夜勤に従事する労働者の疲労感の改善、覚醒水準維持のための有効な仮眠のとり方を開発する基礎資料として役立てられることが期待されます。 本研究成果は、2023年6月18日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。   論文情報 掲載誌:Scientific Reports 論文タイトル:Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study 著者名:Sanae Oriyama 広島大学大学院医系科学研究科基礎看護開発学 DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-023-37061-9   背景 夜勤時にとる仮眠には、記憶力や学習能力の向上、覚醒水準の維持や疲労の改善に効果があります。さらに仮眠は、ヒューマンエラーのリスクを低減することで安全性を高める可能性もあります。 看護師は、患者サービスを24時間提供する職務の性質上、交代制勤務が不可欠です。看護師の交代制勤務で最も長時間の夜勤は16時間とされ、看護師の疲労や眠気の増加による医療安全に対するリスクの増大が危惧されています。こうした状況の中、夜勤時にとる仮眠の効果が注目され、16時間夜勤に従事する看護師の多くは仮眠をとっていますが、眠気や疲労、作業能力を維持するため有効な仮眠のとり方は十分に明らかになっていません。   これまでの仮眠研究は、昼間にとる15分間の仮眠など短時間仮眠の有効性が明らかにされていますが、夜間の仮眠については、120分間以上の仮眠が推奨されています。しかしながら、看護師の勤務は、交代で休憩に入るため、仮眠の取得時刻や時間は一様ではありません。そのため、120分間の仮眠の取得時刻によっては、長時間の夜勤終了時まで効果を持続することは難しい場合もあります。そこで、今回、120分間の仮眠をまとめてとる場合と90分間と30分間に分割して仮眠をとる場合を比較し、仮眠による眠気や疲労感の変化を明らかにしました。   研究成果の内容 本研究は、これまでに実施した実験結果を再分析しました。睡眠に影響する因子として、年齢や女性ホルモンが影響し、夜勤従事者は夜勤慣れが生じると言われています。中高年齢期の睡眠は加齢とともに質が悪くなり、女性では性周期も影響し黄体期に比較的倦怠感が強く、眠気も増加傾向となります。また、看護師の多くが女性であることを考慮し、対象者は、夜勤経験のない大学4年次の女子学生とし、黄体期を避けてデータを収集しました。単相性仮眠条件(仮眠時刻:22:00-00:00)1)を14人、分割仮眠条件(仮眠時刻:22:30-00:00、02:30-03:00)2)12人、仮眠なし条件3)を15人の計41人を対象として仮眠の効果を検証しました。夜勤時間帯を16:00-09:00とし、実験開始から終了まで心拍変動より自律神経活動を確認するためアクティブトレーサー(GMS Inc., Tokyo, Japan)を装着しました。1時間毎に口腔温を測定し、眠気や疲労感の自覚的評価としてVisual analog scaleを使用しました。また、クレペリン検査による1桁の計算を10分間実施しました。毎時間、測定時間を20分間、自由時間20分間、安静時間を20分間としました。なお、前日から実験後までアクチグラフ(Ambulatory Monitoring Inc., Ardsley, NY, USA)を非利き手に装着し、睡眠状況も確認しました。   結果、仮眠時の平均の睡眠時間は、120分仮眠が93.1分間、90分間仮眠が68.4分間、30分間仮眠が20.1分間で、睡眠効率はそれぞれ90.5%、96.2%、99.1%、睡眠潜時は8.6分間、9.3分間、5.8分間で、睡眠効率、睡眠潜時は仮眠間で統計的に違いを認めませんでした。睡眠状態と仮眠直後の体温、眠気、疲労感、計算数の相関関係の結果から、総睡眠時間が長ければ120分仮眠は覚醒時に疲労感が増加し、30分仮眠は眠気が増加することが明らかになりました。また、90分仮眠は睡眠潜時が短いと、覚醒時に体温が上昇し、眠気や疲労感も増加することが示されました(表)。この結果から、22:00に120分間の仮眠をとる場合は120分間よりやや短い時間とする方が覚醒時の疲労感を抑える可能性が示されました。また、22:30に90分間の仮眠をとる場合には、昼間に短時間の仮眠をとり睡眠欲求を低減することが必要かもしれません。さらに、02:30に30分間の仮眠をとる場合も30分間より短時間にすることで、覚醒時の眠気を抑えることができるかもしれません。   仮眠をとらない条件は早朝の04:00-09:00に眠気や疲労感が増加し、計算数も低下しました。計算数については、仮眠をとった条件と仮眠をとらなかった条件で同様に低下しました(図A)が、疲労感は、仮眠を2回に分けてとった分割仮眠条件が、仮眠をまとめてとった単相性仮眠条件よりも04:00-09:00の期間、有意な疲労感の低減効果を認めました(図B)。また、眠気についても、仮眠直後に一時的に増加しましたが、分割仮眠条件は06:00までは眠気が少なく覚醒水準の維持効果を確認しました(図C)。   今後の展開 本研究では、120分間仮眠を90分間と30分間に分割しその効果を確認しましたが、今後は仮眠直後の一時的な眠気や疲労感の増加を防ぐ方法を組み合わせたり、仮眠環境の整備をしたりすることで夜勤時の疲労や眠気を理由に離職する看護師の離職防止にもつなげることが期待されます。 さらに将来的には、看護師だけでなく夜行バスのドライバーや交代制勤務に従事する工場で働く労働者などを対象として、夜勤中に覚醒水準の維持が必要とされる時間帯に合わせた仮眠のとり方を開発することで、労働者の心身の負担軽減と安全安心な職場環境の醸成にも期待されます。   参考資料   用語説明 *1睡眠効率:入眠から起床までの時間帯に占める全睡眠時間の割合(%) *2睡眠潜時:静止期時間帯の始まりから入眠までの時間(分)   報道発表資料(722.01 KB) 掲載誌:Scientific Reports 研究者ガイドブック(折山 早苗 教授)   【お問い合わせ先】 大学院医系科学研究科基礎看護開発学折山早苗 Tel:082-257-5355 E-mail:oriyama*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

    • 食料/農林水産業
    • 健康/スポーツ
    2025.05.26
    • 食料/農林水産業
    • 健康/スポーツ
    〜デーツの健康効果に新たな知見〜 線虫を用いた実験で、寿命延長の可能性を確認

    広島工業大学 環境学部 食健康科学科の角川幸治教授、広島大学大学院 統合生命科学研究科水沼正樹教授および荒川賢治教授、お多福醸造株式会社による共同研究により、ドライフルーツの一種である「デーツ」に、線虫の最大寿命に大きな影響を与えることなく、平均寿命(Mean Lifespan:MLS)のみを延ばす効果があることが明らかになりました。 本研究成果は、公益社団法人日本生物工学会が発行する英文誌『Journal of Bioscience and Bioengineering』において、2025年5月10日にオンライン公開されました。 (DOI:10.1016/j.jbiosc.2025.04.006)   研究の背景と目的 近年、健康寿命の延伸が社会的課題となる中で、食品の持つ抗老化作用に注目が集まっています。本研究では、日常的に摂取されることの多いドライフルーツの寿命延長効果に着目し、線虫(Caenorhabditis elegans)を用いた検証を行いました。   研究概要 市販のドライフルーツ5種類(デーツ、パイナップル、イチジク、マンゴー、プルーン)を線虫に摂取させ、寿命測定を行った結果、すべてのドライフルーツにおいて平均寿命(MLS)が有意に延長されました(図1)。特にデーツにおいては、最大寿命にはほとんど変化がないにもかかわらず、平均寿命が著しく延びる(延長率:37.1%)という特異な結果が得られました。 次に、最大寿命と平均寿命を標準化してZ値を算出し、ΔZ比(平均寿命と最大寿命の差)として各種ドライフルーツと比較したところ、デーツは他の果実と比べて平均寿命の延長効果が際立っていることが明らかになりました(図2)。 この特異な効果が特定の品種によるものかを検証するため、市販されている8種類のデーツを用いて同様の実験を行ったところ、いずれの品種でも平均寿命の延長が認められ、デーツ全般に共通した現象であることが確認されました(図3)。   成分分析と今後の展望 成分分析の結果、これまで寿命延長作用が報告されている既知の成分は、調査対象となったデーツには含まれていない、または影響していないことが判明しました。すなわち、デーツにはこれまで知られていなかった、新たな「平均寿命延長成分」が含まれている可能性が示されました。 今後はこの成分の特定を進め、抗老化に資する健康食品の開発に向けて研究を継続してまいります。   線虫(せんちゅう)とは 線虫:Caenorhabditis elegans(図4、以下 C. elegans)は、体長約1 mmの非寄生性線虫であり、大腸菌を餌として寒天培地または液体培地上で容易に飼育することができます。C. elegansの最大の特徴は、神経や筋肉を含む約1,000個の全細胞について、その細胞の発生の過程(系譜)がこれまでの研究により明らかにされている点です。線虫は、約3日で成虫となり、数日間にわたって産卵を行った後、加齢により徐々に活動が低下し、約3週間で寿命を迎えます。 1998年には、多細胞生物として世界で初めて全ゲノムが解読されました。C. elegansは、哺乳類を用いた動物実験に比べて設備や飼育のコストが低く、取り扱いが簡便であるという利点があるほか、動物愛護の観点から規制対象外とされていることから、研究用途に非常に適しています。 特筆すべきは、哺乳類を含む高等動物と共通する老化関連のシグナル伝達経路を数多く有している点です。これにより、C. elegansは抗老化研究のモデル生物として、現在も世界中の研究機関で広く活用されています。   デーツとは デーツ(図5)はナツメヤシ属の果実で、アラブ文化圏では主食の1つとして親しまれています。日本では嗜好品として市販されており、古くから「神が与えた果実」や「生命の樹」として崇められてきました。旧約聖書にも登場するなど、歴史的にも重要な果実です。 これまでに多くの栄養成分・機能性成分が明らかにされてきましたが、デーツ摂取による生体への具体的な影響についての研究は限られており、本研究はその新たな知見を提供するものとなります。 図1. ドライフルーツを摂食させた線虫の寿命測定結果 図2. ドライフルーツを摂食させた線虫のΔZ比 図3. さまざまなデーツを摂食させた線虫のΔZ比 図4. 線虫 (Caenorhabditis elegans) 図5. デーツ   論文情報 掲載誌: Journal of Bioscience and Bioengineering タイトル: Date, a major dried fruit, extends the lifespan of Caenorhabditis elegans DOI: https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2025.04.006   【研究成果】〜デーツの健康効果に新たな知見〜線虫を用いた実験で、寿命延長の可能性を確認_0.pdf(1.07 MB) 科学雑誌:Journal of Bioscience and Bioengineering 研究者ガイドブック(水沼 正樹 教授) 研究者ガイドブック(荒川 賢治 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 広島工業大学 環境学部 食健康科学科 教授角川 幸治 Tel:082-921-6472 E-mail:k.kakugawa.db@it-hiroshima.ac.jp   広島大学大学院 統合生命科学研究科 教授水沼 正樹 Tel:082-424-7765 E-mail:mmizu49120@hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院 統合生命科学研究科 教授荒川 賢治 Tel:082-424-7767 E-mail:karakawa@hiroshima-u.ac.jp     <報道(広報)に関すること> 広島工業大学 広報部石田 知世 Tel:082-921-3128 E-mail:kouhou@tsuru-gakuen.ac.jp   広島大学 広報部 Tel:082-424-6762 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 経営/組織運営/デザイン
    2020.02.27
    • 経営/組織運営/デザイン
    幸福感が労働生産性を高めることを解明

    本研究成果のポイント 従業員の勤務中の幸福感が従業員の労働生産性を高めることを解明しました。 就業環境の改善が組織の利益にもつながる可能性が示されたことにより、「働き方改革」の効果的な推進が期待されます。   概要 広島大学大学院社会科学研究科 角谷快彦(かどや よしひこ)教授らの研究グループは、ラオス人民民主共和国の単純作業を行う工場での実験により、従業員の勤務中の幸福感が従業員の労働生産性を高めることを明らかにしました。   発表論文: Emotional Status and Productivity: Evidence from the Special Economic Zone in Laos 著者: 角谷 快彦、カン ムスタファ、ワタナポンヴァニッチ ソンティップ、ビンナガン パンチャポン 掲載雑誌: Sustainability DOI番号 https://doi.org/10.3390/su12041544 (登録申請中) https://www.mdpi.com/2071-1050/12/4/1544 (現在左記にて閲覧可)   背景 現在、日本の「働き方改革」等、各国で従業員のための職場環境(労働環境)の改善が社会の大きなテーマになっています。そのなかで、労働環境のどのような改善が企業にとってメリットとなるかわかっておらず、改善がなかなか進まない要因とも言われています。なかでも従業員の就業時の感情(幸福、怒り、リラックス、悲しみ)が労働生産性にどのように結びついているかはほとんどわかっていませんでした。   研究成果の内容 今回、研究グループは従業員の感情の推移を記録しながら、彼らの労働生産性の変化を分析しました。具体的には、TDK株式会社の生体計「SilmeeW20」(図1)を用いて労働者の心拍のゆらぎを計測し、その数値から日本電気株式会社が開発した「NEC感情分析ソリューション」を用いて幸福・怒り・リラックス・悲しみの感情ステータスを算出しました(図2)。そしてその間の労働者の労働生産性を測り、労働者の感情が労働生産性にどのように結びついているかを変量効果モデルを用いて分析しました。労働者は労働生産性の計測を可能にするため、ラオスのサワンナケート経済特区で日本向けのプラスチック玩具の色付けをする工場のライン作業員から無作為で15人を抽出し、各自が何個の人形に色付けができたかを労働のアウトプットとして用いました。実験は3日間行い、労働者の年齢、性別、学歴、職歴、通勤時間等をコントロールして分析を行いましたが、結果として労働者の幸福感が労働生産性を高めていることがわかりました。その他の感情は生産性に有意な影響はありませんでした。   このことから、雇用主は従業員が幸福と感じる職場環境(労働環境)を提供することが従業員の労働生産性の向上、ひいては組織の利益につながることが示唆され、職場マネジメントの研究に勤務中の従業員の感情というフィールドを拓くことができました。   今後の展開 今回の結果はあくまで単純作業を行う労働者を対象とした結果であり、すべての職種に同様に当てはまるとは限りません。また、被験者が意図せず、かなり女性に偏ってしまった(15人中14人)ため、結果が女性の特性に影響された可能性も残ります。今後は、男性の被験者を増やし、また感情、特にストレスが高いとされる別の職種で同じような実験を行うことで、結果の適用性をさらに検証することが求められます。   参考資料 図1. 実験で用いた生体計。腕時計のように装着して使用する。   実験で用いた生体計 図2. 被験者の感情ステータスの時系列。緑色は幸福、赤は怒り、黄色はリラックスの感情を示す。下の青い棒は被験者の時系列の会話の量を示す。横軸が時系列で縦軸がその時間帯での感情および会話量を示す。なお、灰色の箇所は中立の感情もしくは体動による機器の接触不良等で計測できなかった時間帯を示す。   用語説明 Silmee W20:TDK株式会社のウェアラブル式生体センサ https://product.tdk.com/info/ja/products/biosensor/biosensor/silmee_w20/index.html NEC感情分析ソリューション:日本電気株式会社の感情分析 https://jpn.nec.com/embedded/products/emotion/index.html   報道発表資料(184.77 KB) 論文掲載ページ (MDPIページに移動します) 広島大学研究者総覧 (角谷 快彦 教授) 広島大学大学院社会科学研究科社会経済システム専攻ホームページ   【お問い合わせ先】 広島大学大学院社会科学研究科 教授 角谷 快彦 TEL: 082-424-7274 E-mail: ykadoya*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    2022.07.12
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    医療系学生のための「感染症教育VR」教材を制作!~広島大学における実証授業でVR教材の効果を検証~

    本研究成果のポイント 「感染症対策」を共通テーマとして、部門横断型の医療教育VRを制作しました。 本VRによる学習を行った学生は、従来の講義形式の学習を行った学生に比べ、より正しく感染対策を実践できていることを検証しました。 本学では感染症に強い人材を早期段階から育成していきます。   概要 広島大学病院(広島県広島市、感染症科教授:大毛宏喜 他)は株式会社ジョリーグッド(東京都中央区、代表取締役:上路健介、以下 ジョリーグッド)に撮影と編集を委託し、新型コロナウイルスを含む「感染症対策」を共通テーマとして、「医学」「看護」「歯学」「薬学」「リハビリ」の5部門横断型の医療教育VRを制作しました。360°カメラによって撮影された現場の映像を元に、CGによりウイルス・細菌の飛沫や付着を表現しています。医療スタッフの目線のみならず患者視点でも、感染症のリスクをリアルに体験できる教育コンテンツを目指して各部門職員が脚本、出演、演出および監修をしました。   また、広島大学において、医学生を対象に今回開発した医療教育VRを用いた実証授業と医学部共用試験OSCE(オスキー)形式の実技試験を組み合わせた実証実験を行ない、VRによる学習を行った学生は、従来の講義形式の学習を行った学生に比べ、より正しく感染対策を実践できていることを検証しました。   今後、広島大学では、疑似体験によって高い教育効果が得られるVR教材を積極的に活用して医学生の実技レベルを飛躍的に向上させ、臨床実習にて自信を持って患者診療が行える学生医「スチューデント・ドクター」を輩出するなど、感染症に強い人材を早期段階から育成していきます。   本研究成果は、2022年7月12日付けで「American Journal of Infection Control」誌のオンライン版に掲載されました。   論文情報 掲載誌: American Journal of Infection Control 論文タイトル: Virtual reality as a Learning Tool for Improving Infection Control Procedures ​​​著者: Keitaro Omori*, Norifumi Shigemoto, Hiroki Kitagawa, Toshihito Nomura, Yuki Kaiki, Kentaro Miyaji, Tomoyuki Akita, Tomoki Kobayashi, Minoru Hattori, Naoko Hasunuma, Junko Tanaka, Hiroki Ohge*責任著者 DOI: 10.1016/j.ajic.2022.05.023 (7月12日に本学霞キャンパスで記者説明会を開催。左から広島大学の繁本准教授・蓮沼教授・大森診療講師、ジョリーグッドの細木部長)   報道発表資料(661.27 KB) 広島大学研究者ガイドブック ( 大毛 宏喜 教授) 論文掲載ページ (American Journal of Infection Control)に移動します   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 広島大学病院 感染症科 教授 大毛宏喜 Tel:082-257-1613 E-mail:ohge*hiroshima-u.ac.jp   <製品・技術等に関すること> 株式会社ジョリーグッド広報担当 Tel:050-5477-7697 E-mail: press*jollygood.co.jp   <報道に関すること> 広島大学広報室 Tel:082-424-3701 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   株式会社ジョリーグッド広報担当 Tel:050-5477-7697 E-mail: press*jollygood.co.jp   (注: *は半角@に置き換えてください)

    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    2025.03.26
    • デジタル/AI
    • 医療/ヘルスケア
    • 教育/人材育成
    大規模言語モデル(LLM)を活用した医学倫理教育の可能性 ―倫理的な行動の手本や相談役としての機能を検討―

    (Credit: Kanon Tanaka) 本研究成果のポイント 医学教育では、人的・財的資源の制約から、倫理教育が十分とは言えません。本研究では、この問題への対策として、医学倫理教育においてAIモデルの一種であるLLM(Large Language Models、大規模言語モデル)*1が有用な学習ツールとなる可能性を提示しました。 医学倫理を学ぶうえで、医療に必要なルールや原則に関する知識の獲得だけでなく、患者や医療現場ごとに生じる複雑な倫理的ジレンマに対応するための態度や徳を身につけることが重要です。本論文では、知識の獲得と、態度や徳を身につける教育の双方を取り入れたハイブリッドアプローチの必要性を指摘しました。 LLMに対して、医療倫理に特化した追加学習(ファインチューニング*2)を行うことで、医学倫理教育においてLLMを倫理的な手本や相談役として活用する可能性を提示しました。利用者とLLMとの反復的な対話を通じて利用者の意識やLLMの情報の偏り(バイアス)を減らし、より公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することができると考えられます。   概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附講座教授兼務、京都大学 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者、シンガポール国立大学客員教授)は、広島大学大学院人間社会科学研究科の岡本慎平 助教、板野誠 博士課程大学院生とともにLLMを活用した医学倫理教育の可能性を検討しました。 本研究成果は、2025年2月5日に学術誌「BMC Medical Education」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:AI-based medical ethics education: examining the potential of large language models as a tool for virtue cultivation 著者:Shimpei Okamoto1, Masanori Kataoka1,2, Makoto Itano1, Tsutomu Sawai1,2,3,4* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科 2. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 3. 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi) 4. Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore, Singapore. *: 責任著者 雑誌:BMC Medical Education URL:https://bmcmededuc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12909-025-06801-y DOI:https://doi.org/10.1186/s12909-025-06801-y   背景 現在の医学教育カリキュラムでは倫理教育が十分とは言い難く、医学生や研修医が臨床現場で倫理的に複雑な状況に直面した際、対応に苦慮することが報告されています。 このような問題への理想的な対処法として、専門的な教育を受けた倫理指導者の雇用や、医学教育カリキュラムの改善が求められます。しかし、人的・財的資源の制約から、こうした対処は困難であり、医学倫理教育の充実が進まない状況が続いています。 こうした背景を踏まえ、次善の策としてLLMを教育ツールとして活用することが考えられます。医療分野に特化した学習を行ったLLMに対し、対応に苦慮するケースの情報を入力することで、手本となりうる対応策や、患者ケアにおいて考慮すべき情報を得ることができます。 LLMを倫理的な手本や相談役として活用することで、人的・財的資源を抑えながら、道徳的知識や患者ケアに必要な姿勢の獲得を促す可能性があります。   研究成果の内容 本研究では、医学倫理教育のアプローチについて検討し(①)、LLMが倫理的な手本(②)や相談役(③)として有用な学習ツールとなる可能性を示しました。 また、医学教育におけるLLMの実用性を検討するために取り組むべき課題を整理しました(④)。   ① ハイブリッドアプローチの重要性 医学倫理教育においては、2つの教育アプローチが存在します。 原則主義的アプローチは、医療倫理の4原則*3のように、医療に必要なルールや原則に関する知識を獲得するという、認知的目標の達成を目的としています。 一方で、非原則主義的アプローチは、個別の患者が抱える状況を認識・判断し、倫理的価値に基づいて行動するための態度と徳を育み、身に着ける態度的目標の達成を目的としています。 医療の現場において、適切な倫理的意思決定を行うためには、2つのアプローチを組み合わせたハイブリッドアプローチを取り入れ、医療に必要なルールや原則に対する十分な知識と、患者ケアに不可欠な徳や態度を獲得する必要があります。   ② 倫理的な手本としてのLLM 私たちは、倫理的な手本となるような人物の行動を真似することによって、徳や態度を身に着けることができます。 同様に、歴史上の人物や架空のキャラクターなど、目の前に実在しない存在を手本として倫理的な原則を理解し、その行動を真似することで、徳や態度を身に着けることもあります。実際に、教育の現場では文学や映画などの作品を通して、複雑な倫理的ジレンマを理解したり、共感や道徳的態度を身に着けたりする試みがなされています。 目の前に存在しない人物や架空のキャラクターを真似することで徳や態度を身に着けることができるのであれば、私たちはLLMの示した回答やシナリオを通して倫理的行動の手本を認識し、それらを真似することで徳や態度を身に着けることが出来るかもしれません。   ③ 相談役としてのLLM LLMの回答は、あくまでも助言として活用されるべきであり、絶対に正しいものであるかのように扱うべきではありません。 LLMの提示した回答の結論だけでなく、その回答が導き出された過程や参照している情報源を検討し、どの部分が手本として参照するに値するか、値しないかを判断する必要があります。 また、ファインチューニングを行っていないLLMは、原則主義的な回答を行う傾向にあることが指摘されています。徳倫理やフェミニスト倫理など、他の考え方が示された場合に、初めてそうした考え方を反映した回答を出力することが確認されています。 原則主義的な考え方のみに基づいて教育を行うと、LLMの利用者が患者一人一人の状況に対応できない、不適切な考え方や行動を身に着けてしまう可能性があります。 そのため、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、より適切な回答を出力できるようファインチューニングを行って、LLMの情報を更新していく必要があります。   ④ 検証すべき課題 1. 原則主義的な回答を行う傾向があるのなら、どのように態度的目標を達成するのか? LLMによる原則主義的な回答の傾向は、ハイブリッドアプローチに組み込むことで、解消することが出来ます。利用者は、非原則主義的な観点からLLMの回答を批判的に検討することで、相手に対する共感や適切な態度について考えることができます。 特定のシナリオにおいて、人間の気づかない感情の動きをLLMが認識するという研究結果も示されていることから、LLMが活用できる場面を見極めながら教育の現場に組み込むことで、教師の負担を部分的に削減したり、新たな気付きを与えたりする可能性があります。   2. LLMの回答を、患者ケアの参考にする人はいるのか? LLMが共感や配慮といった複雑な感情を理解できないのではないかという理由から、LLMの回答をアドバイスとして取り入れたり、LLMが提供した手本となる行動の例を真似したりするに値しないのではないかという懐疑的な意見もあります。 しかし、「推論」に対する判断を行う課題においては、作成者が人間であっても、LLMであっても、アドバイスとして採用する際に影響は生じないという研究結果が示されています。 認知的要素である推論と、態度的要素である徳や態度では結果が異なる可能性もあるため、今後、実証的な実験によって、相談役としてのLLMの実用性を検討する必要があります。   3. 徳や感情を持っていないLLMが、倫理的な手本になりうるか? 文学作品や映画作品の多くは、作者と直接対話を行うことができない環境で鑑賞されています。物語の作者のことを知らずとも、物語のキャラクターを手本として徳を育み、身に着けることができるのであれば、LLMが感情の機微に欠けており、倫理的な態度や徳を有していないとしても、出力されたシナリオや回答を手本とすることができる可能性はあります。 倫理的手本としてのLLMの実用性は、作成者の情報や手本とする存在の実在など、様々な条件を考慮したうえで、教育的実験を通じて実証的に検証される必要があります。   4. 更新の作業が必要なら、医学教育の役に立たないのではないか? 人間と人間のコミュニケーションにおいても、世代間で価値観に相違が生じるなど、バイアスが表面化することがあります。たとえば、ワークライフバランスの取れた生活を求めるといった価値観は、世代間で異なった受け取られ方をするかもしれません。 このように、徳や価値観が時代や文化によって変化することを教師も認識しなければなりません。 LLMと人間の教師による教育を組み合わせることによって、学生と教師の対話、徳や価値観に対する批判的反省、相互学習の機会の場を促進することができるかもしれません。 LLMと利用者のバイアスを認識し、取り除くという更新の作業は、人的なリソースを必要としますが、最終的にはより公正でしっかりした医療倫理の枠組みを構築することに繋がる可能性があります。   今後の展開 LLMを医学倫理教育で活用するためには、実用性を測定するための実証的な検証が必要です。 人間の教育者が割く時間の増加を抑えつつ、より高品質な教育を実現するため、LLMと教育者の協力関係の構築について、検討を進めることが望まれます。 より実用的な回答を出力するために、専門家や教育機関によるフィードバックを得ながら、LLMのファインチューニングを進めていくことが求められます。   謝辞 本研究は、以下の支援により実施しました。   日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 若手研究 「経験的生命倫理学における方法論の構築とその応用」21K12908 (研究代表者:澤井努) 上廣倫理財団論文投稿助成[UEHIRO2023-0116]   参考資料 Ethical Exemplar in Medicine https://chatgpt.com/g/g-EjSMhG7W1-ethical-exemplar-in-medicine   用語解説 *1:LLM(Large Language Models、大規模言語モデル) ChatGPTに代表される生成AIモデルの1つで、膨大な文章データを元に学習を行い、人間の会話や文章から単語の出現確率をモデル化する技術。単語の並びから言語のルールや文脈を学習し、人間が自然だと思う文章を生成したり、文章表現を分析したり、文章の翻訳や要約をしたりすることに用いられる。   *2:ファインチューニング LLMに対する追加学習の1つ。事前学習を行ったLLMに対して、特定の課題や分野に特化した新たなデータを学習させるプロセス。 特定の分野のニーズに合わせてLLMをトレーニングできるため、より精度が高く、有用な情報を提供できるよう、カスタマイズすることができる。   *3:医療倫理の4原則 アメリカの倫理学者であるトム・ビーチャムとジェイムズ・チルドレスが提唱した4原則。自律性の尊重、無危害、善行、正義の4つからなる。 自律性の尊重:患者自身の決定や意思を大切にして、患者の行動を制限したり、干渉したりしないこと。 無危害:患者に危害を及ぼさないことや、今ある危害や危険を取り除き、予防すること。 善行:患者のために、患者の考える最善の善行を行うこと。 正義:患者を平等かつ公平に扱うこと。   報道発表資料(560.34 KB) 学術誌: BMC Medical Education 広島大学研究者ガイドブック (片岡 雅知 寄附講座准教授) 広島大学研究者ガイドブック (澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

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