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    2013.04.01
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    金属間化合物強化複合材料及びその製造方法

    アピールポイント 複合材料のプロセスの簡略化可 高性能及び低コスト可 形状自由度可   研究者のねらい アルミニウム合金を母材とする強化複合材料において、アルミニウム合金中に金属間化合物が均一に分散させ、強度および耐摩耗性に優れる強化複合材料を、形状の自由度を確保しつつ低コストで製造する技術を提供することにある。   研究内容 従来から、種々の要求に適合する材料を実現するべく、単体の材料では持ち合わせなかった特性を有する、異質な材料を組み合わせた複合材料の開発が様々な分野で行われている。例えば、金属材料の分野においては、アルミニウムの特徴である軽さを維持したまま、その強度や耐摩耗性を向上させるべく、様々な方法により、アルミニウム材料にセラミックス粒子を分散複合化させたセラミックス粒子分散複合アルミニウムを製造する研究例が多い。本研究は、これらとは異なる製造方法として、金属多孔体を溶融金属で   備考 特許権:特許第5988667号「金属間化合物強化複合材料及びその製造方法」   研究室URL:https://home.hiroshima-u.ac.jp/~zaishitu/Researchgate   ResearchGate:https://www.researchgate.net/profile/Yong_Choi19   Email:ybchoi@hiroshima-u.ac.jp   研究者 崔 能範|チェ ヨンボン(CHOI YONG BUM) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2025.10.08
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    地球史上最大の火山活動が海洋プレートを作り変えたことが判明 ――プレート形成過程の包括的理解に道拓く

    岡山理科大学の志藤あずさ講師、東京科学大学の石川晃准教授、広島大学の芳川雅子特任教授らの研究グループは、地震波の解析から、世界最大の海台であるオントンジャワ海台のプレートが、海台を作った時の大規模火山活動で大きく作り変えられたことを明らかにしました。この研究成果は、「Geophysical Research Letters」に掲載されました。   本研究成果のポイント オントンジャワ海台のプレートは層状構造に貫入岩脈群が重なる複合構造をしている オントンジャワ海台のプレートの低速度異常は、熱組成プルーム由来のマグマがプレートを化学的に変化させたことを示唆 海洋プレートが大規模火山活動によって著しい物理化学的改変を経験したことを示す本研究結果は、プレート形成過程の包括的理解につながる 図1. 本研究でわかったオントンジャワ海台のプレートの模式図   背景 オントンジャワ海台は太平洋にある世界最大の海台で、1億1千万年〜1億2千万年前の海底火山活動によってできました。地球史上最大といわれる火山活動は、当時の地球環境を激変させ生物の大量絶滅を引き起こしたと考えられています。この大規模な火山活動の原因は、マントル深部からの上昇流である熱組成プルーム(注1)であることが最近の研究により示されましたが、深部から上昇してくるマグマが、既存の海洋プレートへ与える影響は不明でした。   研究内容と成果 本研究では、オントンジャワ海台周辺の海底地震計や海洋島に設置された地震計によって観測されたPo波So波という高周波の地震波を解析に使用しました。Po波So波は、海洋プレートを伝わる波で、その伝わり方は海洋プレートの内部構造に敏感です。通常Po波So波は、海洋プレート内部にある層状構造によってP波S波が多重散乱することで励起され、海洋プレートの中を数千 kmも伝わります。ところが、オントンジャワ海台周辺で観測されたPo波So波は、So波だけが伝わりにくいという際立った特徴を持っていました。この特徴を再現するようなプレートの内部構造を、地震波形モデリングによって推定した結果、オントンジャワ海台のプレートは層状構造(横縞)に貫入岩脈群(縦縞)が重なった複合構造をしていることがわかりました(図1)。   さらに、オントンジャワ海台のプレートを伝わるPo波So波の速度は通常の海洋プレートよりも顕著に遅いことがわかりました。本研究ではこれらの観測事実を説明するために、オントンジャワ海台のプレート内部を、熱組成プルームからのマグマが貫入岩脈群を形成しながら上昇し、さらにマグマがプレートを化学的に変化(=最肥沃化)(注2)させたというモデルを提案しました。本研究によって示された海洋プレートの物理化学的な改変のモデルは、プレート形成過程の包括的理解につながることが期待されます。本研究成果は「Geophysical Research Letters」に2025年9月30日に掲載されました。 図2.オントンジャワ海台の位置  研究助成 本研究はJSPS科研費(23K03555, 15H03720)の助成を受けました。   論文情報 掲載誌:Geophysical Research Letters タイトル:Dike Swarms in the Oceanic Lithosphere Beneath the Ontong Java Plateau DOI: 10.1029/2025GL115219 著者:Azusa Shito*, Daisuke Suetsugu, Akira Ishikawa, Masako Yoshikawa, Takehi Isse, Hajime Shiobara, Hiroko Sugioka, Aki Ito, Yasushi Ishihara, Satoru Tanaka, Masayuki Obayashi, Takashi Tonegawa, Junko Yoshimitsu   語句説明 (注1)熱組成プルーム:マントル深部からの上昇流(プルーム)のうち、プルームを構成する物質が通常のマントルと化学組成が異なり古い海洋地殻由来物質などを含んでいるもの。 (注2)再肥沃化:マントルを構成するかんらん岩は、部分溶融により発生したメルトが抜けることによりメルト成分に枯渇したかんらん岩に変化する。これとは逆にメルト成分が再充填されるプロセスを再肥沃化と言う。   報道発表資料(744.1 KB) 掲載雑誌:Geophysical Research Letters 研究者ガイドブック(芳川 雅子 特任教授)   【お問い合わせ先】 <研究内容に関する問い合わせ先> 岡山理科大学生物地球学部 講師志藤 あずさ Email: azusas*ous.ac.jp   東京科学大学理学院地球惑星科学系 准教授石川 晃 Email: ishikawa.a.9b1d*m.isct.ac.jp   広島大学大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム 特任教授芳川 雅子 Email: masako*hiroshima-u.ac.jp   <報道に関する問い合わせ先> 岡山理科大学企画部企画広報課 TEL:086-256-8508 Email: kikaku-koho*ous.ac.jp   東京科学大学 総務企画部広報課 TEL:03-5734-2975 Email: media*adm.isct.ac.jp   広島大学 広報室 TEL: 082-424-3749 Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.03.18
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    高圧流体が引き起こすプレート境界断層の破壊 ―スロー地震発生メカニズム解明への新たな手がかり―

    研究のポイント スロー地震が発生するプレート境界の高温高圧環境を室内で再現し、高流体圧条件下で岩石中に「fault-fracture mesh構造」と呼ばれる多数の破壊面からなるネットワークが形成されることを発見。 プレート境界断層を構成していた蛇紋岩中に、実験で確認されたものと同じfault-fracture mesh構造が存在すること、さらに鉱物の析出により破壊による隙間が埋められていたことを確認。 蛇紋岩の破壊と鉱物析出の繰り返しがスロー地震の周期的な発生を説明することを世界で初めて地質学的に裏付け、スロー地震の発生メカニズム解明に向けた重要な手がかりを示した。   概要 沈み込み帯で発生する「スロー地震(注1)」は、通常の地震と異なり、数日から数ヶ月という長い時間をかけて断層が滑る現象です。こうしたスロー地震の発生には、従来の地震とは異なるメカニズムが関与していると考えられていますが、その詳細については明らかになっていませんでした。 静岡大学理学部の平内健一准教授、同大学大学院総合科学技術研究科の永田有里奈さん(研究当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の岡崎啓史准教授(研究当時:海洋研究開発機構・研究員)らの研究グループは、西南日本の沈み込み帯で頻繁に観測されているスロー地震の一種「Episodic Tremor and Slip (ETS)」に注目し、その仕組みを明らかにするため、室内実験および野外調査による研究を実施しました。   研究グループは、ETSの発生が深さ約30 kmのプレート境界断層付近に存在する蛇紋岩(注2)と、そこに供給される高圧状態の流体と密接な関係があることに着目しました。実験では、圧力容器内にこの環境を再現し、蛇紋岩が高い流体圧を受けると、多数の破壊面がネットワーク状に広がる「fault-fracture mesh構造(注3)」を形成することを明らかにしました。また、四国の三波川帯に露出する蛇紋岩体の地質調査からも、実験と同じくfault-fracture mesh構造が繰り返し形成されていたことを確認しました。さらに、流体から新たに蛇紋石が析出し、破壊によりできた隙間を埋めていました。この現象は、「断層バルブ挙動(注4)」と呼ばれるもので、スロー地震の周期性を説明する重要な地質学的証拠となります。   本研究の成果は、ETSが蛇紋岩の断層バルブ挙動によって周期的に発生するという仮説を初めて実験的かつ地質学的に裏付けました。この成果により、スロー地震の発生メカニズム解明が進展し、将来的にスロー地震の予測向上や地震防災対策への活用が期待されます。   本研究成果は、Springer Nature社の発行する英国科学雑誌「Communications Earth & Environment」に2025年3月5日に掲載されました。 国立大学法人静岡大学ウェブサイトhttps://www.shizuoka.ac.jp/ ○広報・基金課〒422-8529静岡県静岡市駿河区大谷836TEL:054-238-5179FAX:054-238-4450   背景 図1.西南日本沈み込み帯の模式断面図.スロー地震の一種であるEpisodic Tremor & Slip (ETS)の発生前後でプレート境界断層付近の流体圧変化が起こる.LFE:低周波地震.SSE:スロースリップイベント. 沈み込み帯のプレート境界断層では、テクトニック微動、低周波地震、スロースリップイベントなど、異なる時間スケールでゆっくり発生するスロー地震が観測されています。西南日本の沈み込み帯では、Episodic Tremor and Slip (ETS)と呼ばれる、数ヶ月から数年の周期で微動とスロースリップイベントが同時に発生する現象が知られており、通常の地震が起きる領域のさらに深い場所で発生しています。この領域では、沈み込んだ海洋プレートから放出される大量の水(流体)がプレート境界断層に供給されることで、「高流体圧」という特異な環境が形成されていると考えられています(図1上段)。 近年の地球物理観測研究では、ETSが起きるときに断層が破壊されることで、流体圧が一時的に減少するという現象が捉えられました(図1下段)。地球物理学者は、この流体圧の変化を「断層バルブモデル」を用いて説明しています。このモデルでは、断層が破壊されて生じた隙間(亀裂)に新たな鉱物が析出することで、再び流体圧が上昇し、それが次の破壊(地震)を引き起こすという周期的なメカニズムを想定しています。 ETSが起きる領域は「蛇紋岩」と呼ばれる岩石で構成されていると考えられています。蛇紋岩はマントルを構成する「かんらん岩」が水と反応してできる岩石で、力学的に弱い性質をもっています。そのため、蛇紋岩とETSには何らかの関連性があると考えられてきましたが、高流体圧下で実際に蛇紋岩がどのように振る舞うのか、その具体的なメカニズムは明らかではありませんでした。そこで本研究では、ETS発生域の環境(圧力1 GPa、温度500 °C、深さ約30 kmに相当)を再現した実験を行い、蛇紋岩の破壊と鉱物析出を繰り返す現象が本当にETSの発生サイクルと関連しているのかどうかを検証しました。   成果 図2.蛇紋岩中に発達するfault-fracture mesh構造.(A)実験後の試料の電子顕微鏡写真.(B)四国三波川帯・富郷蛇紋岩体の露頭写真.(C)fault-fracture mesh構造形成時の応力場を表した図.σ1:最大主応力軸.σ3:最大主応力軸. 本実験では、グリッグス型固体圧式装置を使用し、蛇紋岩試料に水を加えて実際のプレート境界深部の環境を再現しました。また、加える水の量を系統的に変化させることで、流体圧を制御することに成功しました。その結果、流体圧が増加するにつれて、蛇紋岩の破壊様式が変化することを明らかにしました。特に、非常に高い流体圧条件では、岩石全体にわたって網目状の亀裂(fault-fracture mesh構造)が形成されました(図2A)。 また、四国の三波川帯に分布する白亜紀の地質体には、深部スロー地震発生域に相当する環境下で形成された「過去のプレート境界断層」が露出しています。この地域の蛇紋岩を対象とした地質調査からも、fault-fracture mesh構造が地質学的な時間スケールで繰り返し形成されていたことがわかりました(図2B)。さらに、亀裂には新たに蛇紋石が析出して隙間を埋めていました。このことは、断層が破壊と鉱物析出を繰り返してきたという証拠であり、「断層バルブ挙動」の地質学的な痕跡であると考えられます。 これらの研究成果は、ETSの周期的発生を説明する断層モデルと非常によく一致しています。つまり、亀裂が蛇紋石の析出によって閉じるまでの時間が次の破壊(スロー地震)が起きるまでの準備期間であること、亀裂が閉じるにつれて再び流体圧が高まり、次の破壊を引き起こすことが示唆されます(図3)。 図3.Episodic Tremor & Slip (ETS)の発生機構を表した模式図.(A)温かい沈み込み帯の断面図(上段)とプレート境界に沿った有効法線応力(σneff)変化(下段).(B)蛇紋岩からなるプレート境界断層帯に発達するfault-fracture mesh構造を表した図.図A中の黒四角の範囲に対応する.(C)ETSの発生サイクルに対応した剪断応力(τ)、透水率(K)、流体圧(Pf)の時間変化.(D)ETSの発生サイクルを通じて起こる蛇紋岩の破壊・鉱物析出プロセスを表した図.σ1:最大主応力軸.σ3:最大主応力軸.   今後の展開 本研究は、蛇紋岩が断層バルブの役割を果たすこと、深部スロー地震が繰り返し起こることを、実験と野外調査により初めて具体的に示唆したものと言えます。今後は、蛇紋石の析出速度についてより詳細な実験を行い、実際のETSの周期(数ヶ月から数年)を説明できるかを明確にする必要があります。また、この破壊現象がスロー地震特有の低周波成分が卓越する地震波を発生させるのかについても、実験的に検証していきます。これらの研究が進展することで、スロー地震がなぜ、どのようにして発生するのかというメカニズムの本質的な理解が深まり、地震防災や予測の精度向上にも貢献することが期待されます。   論文情報 掲載誌名:Communications Earth & Environment 論文題目:Fault–fracture mesh development produces tectonic tremor in fluid-overpressured serpentinized mantle wedge 著者:Ken-ichi Hirauchi, Yurina Nagata, & Keishi Okazaki DOI:10.1038/s43247-025-02159-7   謝辞 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業である「基盤研究(B), 22H01320」、「学術変革領域研究(A) (公募研究), 22H05301」、「基盤研究(S), 22H04932」、「基盤研究(B), 18H01318」、「新学術領域研究(研究領域提案型), 19H04630」「基盤研究(A), 21H04528」、「挑戦的研究(開拓), 22K18283」の支援により実施されました。   用語解説 注1.スロー地震:低周波微動、低周波地震、スロースリップイベントなどに代表される、通常の地震に比べてゆっくりとした断層滑りの総称。   注2.蛇紋岩:上部マントルを構成するかんらん岩などの超苦鉄質岩が加水作用を受けて形成される岩石。主に蛇紋石から構成される。   注3.fault-fracture mesh構造:引張(モードI型)破壊と引張・剪断(モードI-II型)破壊が多数発生することで形成される網目状の亀裂構造。流体圧が岩石の静岩圧を超える高流体圧環境下で形成されると考えられている。   注4.断層バルブ挙動:流体が断層に沿って移動していく際、鉱物の析出などにより断層面上の隙間が閉じて(断層がシールされて)局所的に流体圧が上昇し、断層の実効的な強度が低下することで発生する滑り。   報道発表資料(1.32 MB) 掲載誌:Communications Earth & Environment 研究者ガイドブック(岡崎 啓史 准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 静岡大学理学部地球科学科 准教授・平内 健一 (ひらうち けんいち) TEL : 054-238-4735 E-mail : hirauchi.kenichi*shizuoka.ac.jp   広島大学大学院先進理工系科学研究科 海洋研究開発機構高知コア研究所招聘主任研究員 准教授・岡崎 啓史 (おかざき けいし) TEL : 082-424-7462 E-mail : keishiokazaki*hiroshima-u.ac.jp   <報道に関すること> 静岡大学 広報・基金課 TEL : 054-238-5179 E-mail : koho_all*adb.shizuoka.ac.jp   広島大学 広報室 TEL : 082-424-3749 E-mail : koho*office.hiroshima-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    2025.08.22
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    津波の高さと被害の大きさは一致していなかった 令和6年能登半島地震に伴う津波の詳細な分布、高さと被害との関係を解明

    本研究成果のポイント 空中写真の判読と現地調査を組み合わせ、令和6年能登半島地震に伴う津波の詳細な浸水範囲と津波の高さ、被害との関係を明らかにしました。 津波の浸水範囲の面積は3.7 km2でした。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じ、半島北岸では部分的にしか認められませんでした。このような特徴は、既存の津波浸水想定の結果と調和的なものでした。 津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8 m以上の地点で津波による漂着物を確認しました。20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。 津波による被害の分布は津波の高さとは異なり、半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によるものであることがわかりました。   概要 福岡教育大学の岩佐佳哉講師、広島大学の中田高名誉教授、熊原康博教授、中部大学の杉田暁准教授、千葉大学の濱侃助教、金沢大学の青木賢人准教授らの研究グループは、空中写真の判読と現地調査を組み合わせることで、令和6年能登半島地震に伴って発生した津波の詳細な分布と高さを明らかにしました。その結果、令和6年能登半島地震に伴う津波の被害は半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によることが明らかとなりました。 本研究成果は、2025年7月2日に国際的学術誌『Earth, Planets and Space』に掲載されました。   背景 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)では、海底の活断層が活動したことにより津波が発生し、北海道から長崎県までの日本海側で津波が到達しました。震源の近くに位置する能登半島では津波による大きな被害が発生しましたが、地殻変動による海岸の隆起により津波観測点が欠測となり、津波の高さがわかっていませんでした。   成果 国土地理院に提供いただいた高解像度空中写真の判読と現地調査を組み合わせて、津波の詳細な浸水範囲と津波の高さを調べました。その結果、浸水範囲の面積が3.7 km2であることが明らかになりました。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じていた一方で、半島の北岸では部分的にしか認められませんでした(図1)。また、半島の西岸では志賀町から輪島市黒島にかけて連続的に津波による浸水が生じており、東岸では珠洲市から能登町白丸にかけての地域に津波の浸水が集中していました。特に、珠洲市鵜飼や能登町白丸では海岸から400–500 m内陸まで津波が到達し、家屋が流失する被害が生じました(図2)。このような特徴は、2012年に石川県が震源を特定して行った津波浸水想定の結果と調和的なものでした。本研究では論文とともに浸水範囲のGISデータを公表しました。GISソフトや国土地理院の地理院地図を用いることで、津波による浸水範囲を詳細に閲覧することができます。   津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8 m以上の地点で津波による漂着物を確認しました(図3)。能登半島東岸では、珠洲市高屋や寺家、能登町白丸で標高5 mを超える地点に津波が到達していましたが、それ以外の地点では総じて標高4 mを超える地点にまでは津波が到達していませんでした。これは、震源断層の変位量や震源断層との位置関係によるものであると考えられます。また、20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。   津波による被害は主に能登半島の東岸で大きなものであり、西岸で高いという津波の高さの特徴とは異なっています。津波が高かった半島の西岸では、海岸から一段高い海成段丘の上に集落が立地していることに加え、地震時の地殻変動による隆起が生じたことで、津波が到達しなかったと考えられます。一方で、半島の東岸では集落が海に直接面した低地に立地していたことに加え、防波堤や防潮堤などの海岸構造物がほとんど存在しなかったことも被害を大きなものにした一因であると考えられます。   今後の展望 日本海沿岸地域では、海底活断層が陸域近傍に存在するため、地震発生から津波の到達までの時間が非常に短いことが従来から指摘されてきました。一方で、日本海沿岸地域における大規模な津波は、1993年に発生した日本海中部地震以来発生していませんでした。本研究の成果は、日本海沿岸地域における津波被害の特性を理解し、その軽減を図るうえで重要な知見を提示するものであると考えます。   本研究では、令和6年能登半島地震による津波浸水の範囲が、震源を特定した既存の津波浸水想定の結果と調和的なものであることを示しました。これにより、津波浸水に関するハザードマップの有用性が認知され、全国の沿岸地域にお住まいの方々の防災意識のさらなる涵養に寄与することを期待します。 図1. 津波浸水範囲と調査地点   図2. 珠洲市鵜飼と能登町白丸における津波被害の写真   図3. 津波の高さの分布   論文情報 タイトル:Distribution of tsunami inundation area and tsunami height associated with the 2024 Noto Peninsula earthquake, central Japan 著者:Yoshiya Iwasa*, Takashi Nakata, Yasuhiro Kumahara, Satoru Sugita, Akira Hama and Tatsuto Aoki(*は責任著者) 著者所属:岩佐佳哉(福岡教育大学教育学部)、中田高(広島大学名誉教授)熊原康博(広島大学大学院人間社会科学研究科)、杉田暁(中部大学中部高等学術研究所 国際GISセンター)、濱侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、青木賢人(金沢大学人間社会研究域) 掲載誌:Earth, Planets and Space DOI:https://doi.org/10.1186/s40623-025-02202-z   謝辞 本研究では国土地理院から高解像度の空中写真を提供していただきました。また、本研究の遂行にはJSPS科研費(JP23K18735,JP24K07718)および中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究(IDEAS202406)を使用しました。   報道発表資料(2.3 MB) 掲載誌:Earth, Planets and Space 研究者ガイドブック(熊原 康博 教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 福岡教育大学教育学部 講師岩佐佳哉 TEL: 0940-35-1299Email: iwasa-y*fukuoka-edu.ac.jp   広島大学 名誉教授(元大学院人間社会科学研究科教授)中田高 Email: tnakata*hiroshima-u.ac.jp   広島大学大学院人間社会科学研究科 教授熊原康博 Email: kumakuma*hiroshima-u.ac.jp   中部大学中部高等学術研究所 国際GISセンター 准教授杉田暁 Email: satoru.sugita*fsc.chubu.ac.jp   千葉大学大学院園芸学研究院 助教濱侃 Email: a.hama*chiba-u.jp   金沢大学人間社会研究域 准教授青木賢人 Email: kentaoki*staff.kanazawa-u.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

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    • 医療/ヘルスケア
    2004.04.01
    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    生物発光を用いた迅速かつ高感度バイオアッセイ法を確立

    アピールポイント ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能 成功例として、リムルス反応と高輝度ルシフェラーゼの組み合わせでエンドトキシンを計測した(生物発光ET) 生物発光ETの特徴は迅速性(0.001 EU/mLを10分で測定)、透析液のエンドトキシン検査で保険適応 研究者のねらい ルシフェリン派生体を使うことで、種々のバイオアッセイを高感度で実施可能になる。成功例として、リムルス試薬の発光基質と高輝度ルシフェラーゼを組み合わせたエンドトキシン検出法は、従来の濁度や発色による検査に比べ、シグナルノイズ比が高く、高感度である。東亜DKKと共同で、本反応の自動化に成功し、安定した検査が可能。   研究内容 例えば、ルシフェリンに付加するペプチドを変えれば、プロテアーゼの高感度検査になる。また、ルシフェリンに糖鎖を付加すれば、糖鎖分解酵素の検査ができる(例えば、シアル酸を付加すれば、タミフルのターゲットであるインフルエンザのノイラミニダーゼが高感度に検出できる。タミフル耐性かどうかの検査も迅速にできる特許を有する)。   備考 特許第5403516号 特許第5813723号   研究者 黒田 章夫(Kuroda Akio) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

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    2021.04.01
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    熱界面シート及びその製造方法

    アピールポイント 軽量かつ高熱伝導率を有する熱界面材料 低コスト及び容易に製造可 シートの大量生産可   研究者のねらい 熱界面材は、デバイス等の発熱体とヒートシンク等の放熱体との間の微小空隙を埋めるように充填され、発熱体から発生した熱を放熱体へ効果的に伝える役割を担う。本研究は、高熱伝導率、低コストかつ容易に製造することが可能であり、加工の際に端部から切粉が発生せず、軽量かつ高い熱伝導率を有する熱界面シートを提供する。   研究内容 本研究で開発された熱界面シートは、熱可塑性脂と、カーボンナノファイバーを含有する熱界面シートである。製造過程は、混合→塗布工程→乾燥工程→剥離工程であり、シートの厚さは20 μmから100 μmであるが、シートの厚さは自由に変えることが可能である。シートの硬度(Hs, 82–85)、熱伝導率(厚さ方向、14.3 W/mK)の特性を持っている。 また、熱界面シートは適当な大きさに切り出す際に、端面から切粉が発生することが問題であるが、本シート材はその問題を解決され、作業性の効率も上がる。   備考 出願番号:特願2020-138886   研究室URL:https://home.hiroshima-u.ac.jp/~zaishitu/Researchgate   ResearchGate:https://www.researchgate.net/profile/Yong_Choi19   Email:ybchoi@hiroshima-u.ac.jp   研究者 崔 能範|チェ ヨンボン(CHOI YONG BUM) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2021.04.01
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    プリフォームを要しない炭素繊維強化複合材料の製造プロセスの開発及び特性評価

    アピールポイント 多機能性を有する材料開発 複合材料のプロセスの簡略化可 複合材料の形状自由度の向上可   研究者のねらい 炭素繊維強化金属基複合材料によれば、炭素繊維は、表面に無解メッキ層を有するため、母材金属との濡れ性が良く、従来の高圧鋳造法ほどの高い圧力を必要としない。そのため、製造コストを低減させることが可能となる。母材金属からなる層の間に、炭素繊維の隙間に母材金属が浸透した複合層を有することで、予備成形体を用いることなく製造可能である。複合層における炭素繊維の体積率は7~30 vol.%であり、従来よりも高い体積率で、欠陥のない良好な炭素繊維強化金属基複合材料が得られる。   研究内容 背景: 今まで実現できなかったプリフォームの成形プロセスが必要としない、高体積率(30 vol.%)を有する炭素繊維強化金属基複合材料の製造プロセスの開発することである。   方法: 常温でアルミインゴットの間に炭素繊維を導入し、1073 Kまで温度を上昇した後、一定の圧力(0.8 MPa以下)を加え、加圧鋳造法を行う。図1は作製方法の模式図を示す。   成果: 図2は0.8 MPa下、無毛解を施した炭素繊維を用い作製した複合材料の外観写真である。体積率は7.1   備考 出願番号:特願2019-115782   研究室URL:https://home.hiroshima-u.ac.jp/~zaishitu/Researchgate   ResearchGate:https://www.researchgate.net/profile/Yong_Choi19   Email:ybchoi@hiroshima-u.ac.jp   研究者 崔 能範|チェ ヨンボン(CHOI YONG BUM) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

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    2013.04.01
    • 素材
    チタン基複合材料の新たな製造方法

    アピールポイント 高性能性を有する材料開発 複合材料のプロセスの簡略化可 低コスト化可   研究者のねらい チタンと炭素の固相反応を利用したチタン基複合材料の簡易な製造方法を提供することを目的とする。   研究内容 本発明は、チタンマトリックス中に粒子状の炭化チタンが分散したチタン基複合材料の製造方法であって、樹脂に黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、又は黒鉛粉末及びカーボンナノファイバーの混合物を分散させてシート状に形成したグラファイトシートと、酸化膜を除去した板状チタンを準備する工程と、圧力方向に離間する前記板状チタンの間に前記グラファイトシートを挟んで積層した積層試料を作製する工程と、チタンの融点をMp(K)とした場合に、前記積層試料を、973K以上Mp以下の温度条件下   備考 特願2019-130578   研究室URL:https://home.hiroshima-u.ac.jp/~zaishitu/Researchgate   ResearchGate:https://www.researchgate.net/profile/Yong_Choi19   Email:ybchoi@hiroshima-u.ac.jp   研究者 崔 能範|チェ ヨンボン(CHOI YONG BUM) 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授

    • 環境エネルギー
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.23
    • 環境エネルギー
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    ビタミン「ビオチン」を細胞へ迅速・効率的に届ける新手法を開発 ~バイオテクノロジー技術の改良や遺伝性代謝異常症治療への応用に期待~

    本研究成果のポイント 皮膚や髪の健康を保ち、体のエネルギーづくりにも関わるビタミンの一種「ビオチン(※1)」を、細胞の中により速く、効率的に届ける方法を開発しました。 細胞膜を素早く通過できる新しいビオチン誘導体を用いることで、細胞内のビオチン量を短時間で増やし、ビオチンを用いるさまざまなバイオテクノロジー技術を改良できることが分かりました。 ビオチンを利用するバイオ技術の改良や、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(※2)の新しい治療法につながる可能性があります。   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子 教授、理化学研究所光量子工学研究センターの中野明彦 客員主管研究員、戸島拓郎 上級研究員らは、ビオチンを細胞に入りやすい形に改良したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME)(※5)を用いることで細胞内への迅速なビオチンの誘導に成功しました。 私達が生きるために必須なビタミンの一種である「ビオチン」は、卵白に含まれる「アビジン(※3)」と呼ばれるタンパク質と強く結合する性質を持つため、現在、さまざまなバイオテクノロジー技術に用いられています。ビオチンはナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT)(※4) と呼ばれるタンパク質の働きで細胞内に取り込まれます。しかし、私達は多くの細胞でSMVTによるビオチン取り込みに時間がかるため、生細胞内へのビオチン投与を必要とするバイオテクノロジー技術が迅速に機能しないことを発見しました。 さらに、BMEは細胞内でビオチンへと急速に加水分解(化学反応によって物質が水の働きで分解され、元の成分に戻る反応)され、細胞内のビオチン濃度を迅速に上昇させることで、バイオテクノロジー技術を改良できることを発見しました。また、最近の研究から、SMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。私達の研究成果は、BMEがビオチンのプロドラッグ(※6)として機能することを示しており、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症の患者さんへのビオチン供給を促進する可能性があり、治療への応用が考えられます。   論文情報 掲載雑誌名: Communications Biology 論文名: Biotin methyl ester enhances cargo release in RUSH system and enables rapid biotinylation with TurboID 著者名: Uehara T1#, Takiguchi A1#, Tojima T2, Nakano A2, 3, Kagawa S1, Nehira T1, Satoh T1, Satoh AK1,*. 所属:1)広島大学大学院 統合生命科学研究科 2)理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム(研究当時、現画像情報処理研究チームの所属) 3)東京科学大学 総合研究院高等研究府 # 共筆頭著者:上原 大政・瀧口 新 * 責任著者:佐藤 明子   DOI: 10.1038/s42003-025-09176-4. 掲載日時: 2025年12月16日   背景 ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することはできないため、ビオチンを食事により取り入れる必要があります。ビオチンの細胞内への取り込みは、細胞膜に存在するナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) が行っています。 ビオチンはアビジンと強い結合を示すことから、ビオチン・アビジン結合性を利用したさまざまなバイオテクノロジー技術が発達しています。さらに、近年、近位依存性ビオチン化酵素(※7)を用いたタンパク質相互作用の網羅的解析(近位依存性ビオチン標識法(※8))が活発に進められています。生きた細胞でこれらの技術を用いる場合には、細胞培養液へのビオチン投与で十分であると考えられてきました。 細胞内における物質輸送(膜交通)の研究分野では、ビオチン投与によりタンパク質輸送を開始できる同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook 法: RUSH) 法(※9)が汎用されています。しかし、私達は、RUSH法において、ビオチン投与後すぐには輸送開始しない細胞が多いことを報告していました (Tago et al., EMBO repo, 2025)( https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/87904)。今回、私達は、この理由がビオチンの細胞内取り込みが迅速ではないからではないかと考え、実験を行いました。   研究成果の内容 本研究では、ビオチンの膜透過性を向上させる目的で、ビオチンのカルボキシ基を保護したビオチン誘導体 (ビオチンメチルエステル: BME) を用いてRUSH法においてタンパク質輸送が迅速に開始するかを評価しました。その結果、RUSH法において推奨されている40μMにおいてビオチンが十分な輸送開始を引き起こせないのに対して、BMEでは、その20分の1の濃度である2μMの投与でもタンパク質輸送が迅速に開始することを示しました。また、BMEの細胞内への取り込みはSMVTの阻害剤では阻害されず、BMEが直接細胞膜を透過することが強く示唆されました。 さらに、BMEが近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化の速度も上昇させることを発見しました。ビオチン化酵素はBMEを直接基質として利用できないことから、この結果はBMEが細胞内で急速に加水分解されることを強く示唆しています。また、細胞内の核・細胞質ゾル・小胞体内腔のいずれの領域においても、BME投与が近位依存性ビオチン化酵素によるビオチン化を活性化することを示しました。これらの結果から、BMEがビオチンを用いるバイオテクノロジー技術を大きく改良できると結論しました。 今後の展開 本研究が示した「BMEによる細胞内への迅速なビオチン供給」は、ビオチンを利用するさまざまなバイオテクノロジー技術全般に普及するものと考えられます。 また、ビオチンは私達が生きるために必須なビタミンの一種です。私達は自身でビオチンを合成することができないため、ビオチンを食事により摂取し、細胞内に取り込んでいます。最近の研究から、ビオチンの細胞内への取り込みに必要なSMVTの欠損が、マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症(multivitamin-responsive inherited metabolic disorder)を引き起こすことが分かってきました。BMEはビオチンのプロドラッグ(体内で活性成分に変化して働く薬)として機能することから、代謝マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症を含むビオチン代謝異常症の患者へビオチン供給を簡単に行うことができる可能性があり、治療への応用が考えられます。 参考資料 図ビオチンメチルエステル (BME)による細胞内への迅速なビオチン供給と応用 BMEはビオチンのカルボキシル基がメチル化された、電荷を持たない小分子であり、容易に細胞膜を通過する。小胞体内腔において、カルボキシルエステラーゼの働きで加水分解されてビオチンとなる。小胞体膜は電荷を持った小分子も容易に通すため、BME投与により細胞質ゾル・核・小胞体のいずれの領域にもビオチンを迅速に供給でき、バイオテクノロジー技術を改良できる。さらにビオチン代謝異常症の治療に役立つ可能性がある。   用語解説 (※1)ビオチン ビタミンB群の一種であり、エネルギー代謝や皮膚・粘膜・髪・爪の健康維持に重要な役割を果たす水溶性ビタミン。体内で糖質、アミノ酸、脂質の代謝を助ける補酵素として働く。   (※2) マルチビタミン反応性遺伝性代謝異常症 SMVTの欠損によって引き起こされる先天性代謝異常症の1つであり、最近同定された疾患。ビオチンがカルボキシラーゼの補酵素であるため、患者はマルチプルカルボキシラーゼ欠損症と呼ばれる病態を含む多様な症状を示す。 (※3)アビジン 卵白に存在する糖タンパク質で、ビタミンであるビオチンと非常に強く結合する性質を持ちます。この強力な結合を利用して、生命科学分野では、様々なバイオテクノロジー技術に利用されています。   (※4) ナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター (SMVT) ビオチン・パントテン酸・リボ酸塩の細胞内への取り込みに機能する細胞膜タンパク質。濃度勾配に従ってナトリウムを細胞内に取り込むときにこれらのビタミンを同時に輸送するシンポーター。   (※5) ビオチンメチルエステル (BME) ビオチンのカルボキシル基がメチル基とエステル結合したビオチン誘導体。電荷を持たない小分子であり、カルボキシルエステラーゼにより分解される。   (※6) プロドラッグ 機能分子(ドラッグ)のカルボキシ基がエステル化された分子。電荷を持たないため迅速に細胞膜を透過する。細胞内に入るとカルボキシルエステラーゼにより加水分解され、活性を持つドラッグとして機能する。   (※7) 近位依存性ビオチン化酵素 大腸菌ビオチンリガーゼ酵素BirA に変異を導入し、中間体のbiotinyl-5’-AMP が酵素から遊離し,近傍のタンパク質のリジン残基にビオチンを付加するように改変した酵素BirA* (BioID) やそれを改良したもの等。活性を高めたTurboID, AirID などがよく利用される。   (※8) 近位依存性ビオチン標識法 以下の一連の操作により、相互作用ネットワークを解析する手法。相互作用ネットワークを知りたいタンパク質に、近位依存性ビオチン化酵素を融合して発現させる。細胞にビオチンを投与することで、興味あるタンパク質近傍に存在するタンパク質を網羅的にビオチン化する。ビオチン化タンパク質をアビジンカラムで精製し質量分析機で解析することで相互作用ネットワークを明らかにできる。   (※9) 同調的輸送開始実験法 (Retention Using Selective Hook法: RUSH法) 膜交通分野で汎用されるタンパク質輸送を同調的に開始させる手法。ビオチン投与によりタンパク質がアビジンから遊離して輸送を開始する。     報道発表資料.pdf(335.32 KB) 掲載雑誌:Communications Biology 研究者ガイドブック(佐藤 明子 教授)   【お問い合わせ先】 〈研究に関すること〉 広島大学大学院統合生命科学研究科佐藤明子教授 TEL:082-424-6507FAX:082-424-0759 E-mail:aksatoh@hiroshima-u.ac.jp   〈広報・報道に関すること〉 広島大学 広報室 TEL:082-424-6762 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   理化学研究所広報部報道担当 TEL:050-3495-0247 Email: ex-press@ml.riken.jp

    • バイオエコノミー
    • 医療/ヘルスケア
    2025.12.22
    • バイオエコノミー
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    富山および横浜における大気中粗大粒子・微小粒子の 化学組成と細菌群集への影響を解明

    本研究成果のポイント 富山(郊外)と横浜(都市)で、大気中の粗大粒子および微小粒子を比較しました。 両地点とも、生態系への潜在的リスクが「重大なレベル」であることが分かり、特にアンチモン(Sb)が大きな要因でした。 横浜のPM2.5では、より複雑な「微生物と化学成分の関係」が観察されました。 各地域で、土地利用の違いに応じた「微生物群集を左右する主要な化学成分」を特定しました。   概要 富山大学大学院理工学研究科(博士後期課程)の劉娟氏と学術研究部理学系田中大祐教授らの研究グループは、広島大学IDEC国際連携機構の藤吉奏特任准教授(兼富山県立大学准教授)と丸山史人教授、立命館大学の遠里由佳子教授らと共同で、日本の富山と横浜における大気粒子の化学成分の違いと、それが細菌群集に与える影響を明らかにしました。この研究は「土地利用の違いが、大気中の微生物群集の組成をどのように左右するか」を示しています。 本研究成果は、「Journal of Hazardous Materials」に2025年12月1日(月)(日本時間)に掲載されました。   研究の背景 大気中の粒子(PM)は、大気の質や生態系、人体の健康に影響を与える重要な存在です。これらには、無機イオンや炭素成分、重金属、さらには微生物や花粉などが含まれます。 粒径によって「粗大粒子(2.5〜10 μm)」と「微小粒子(2.5 μm以下)」に分けられます。粗大粒子は土壌や海塩、花粉など自然由来が多く、微小粒子は交通や工業活動に由来し、肺の奥まで到達しやすい特徴があります。 粒径の違いは、発生源や化学組成だけでなく、付着する微生物群集の特徴にも大きな影響を与えます。これまでの研究では特定の地域や成分に焦点を当てることが多く、地域差・粒径差・化学的要因を総合的に評価した例は限られていました。 富山市と横浜市は、地理や気候、都市化の度合いが大きく異なるため、大気粒子と微生物群集の関係を調べる上で有用な比較対象です。   研究の内容・成果 本研究では、富山(郊外)と横浜(都市)の2地点において、粗大粒子(SPM-PM2.5※1))と微小粒子(PM2.5※1))を同時に採取し、その化学成分と細菌群集を包括的に解析しました。分析の結果、横浜における粒子状物質の質量濃度は富山と比較して全体的に高く、粗大粒子および微小粒子の濃度はそれぞれ横浜で5.6 μg/m³と11.8 μg/m³、富山で3.8 μg/m³と9.4 μg/m³でした(図1a)。いずれも日本の現行大気環境基準値を下回っていましたが、主要成分として水溶性無機イオン(WSII)と炭素成分(CS)が確認され、両者の合計は総質量の約65.6〜72.4%に達しました(図1b、 1c)。 さらに、Hakansonの手法に基づく重金属の潜在的生態リスク評価を行ったところ、両地点の総合潜在生態リスク指数(RI)※2)はいずれも「深刻なリスク」レベルに分類されました(図2)。特にアンチモン(Sb)が最大のリスク寄与元素であり、富山と横浜でそれぞれ701.1と832.7という高い値を示しました。この結果は、粒子濃度が規制値内であっても、粒子状物質に含まれる有毒金属が生態系に長期的な負荷を与える可能性を示唆しています。 微生物群集の解析では、両地点の粒子中細菌群集が明瞭な地域特性を示しました。富山ではMethylobacterium(18.9%)やSphingomonas(7.8%)など植生関連の細菌属が優占し、郊外環境における植生や土壌の寄与が大きいことが示されました。一方、横浜ではCorynebacterium(9.5%)やStreptococcus(6.4%)などヒトや都市環境由来の細菌属が多く検出され、都市での活動の影響を強く反映していました(図3)。 さらに、細菌と化学成分の関連性を調べるために共起ネットワーク解析を行ったところ、横浜のPM2.5における細菌-化学成分ネットワークのモジュラリティ※3)は富山の約2.8倍であり、群集構造がより複雑であることが分かりました(図4)。横浜ではヒ素(As)、鉛(Pb)など燃焼・工業起源元素や元素状炭素(EC)が主要な影響因子である一方、富山では鉄(Fe)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)など海塩・地殻起源元素の寄与が大きいことが冗長性分析(RDA)によって確認されました(図5)。 これらの結果から、土地利用形態や汚染源特性といった環境背景が、大気粒子の化学組成とそれに付着する細菌群集の特徴を大きく規定していることが明らかになりました。本研究は、都市と郊外における大気環境の違いを理解し、生態リスクや健康影響の評価に新たな科学的根拠を提供するものです。   今後の展開 本研究チームは、大気中の微生物がもたらす健康リスクの全容解明に向けて研究のさらなる発展を目指しています。そのために観測地域や期間を拡大し、日本各地で大気粒子とバイオエアロゾルの継続的なモニタリング網を構築します。さらに、健康影響の詳細な評価を目的に、対象を細菌に加えて真菌にも拡張し、より包括的な微生物群集動態の解明に取り組みます。将来的には、大気環境の早期警戒や健康リスクを事前に予測・警告できる科学基盤を確立し、より安全で持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。 図1. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5とPM2.5の比較:(a)質量濃度(p < 0.05*),(b)化学成分の質量比(%),(c)化学成分濃度の変動(μg/m3)。WSII:水溶性無機イオン(Water-Soluble Inorganic Ions),CS:炭素成分(Carbonaceous Species),SCE:海塩・地殻起源元素(Sea Salt and Crustal Source Elements),CSE:燃焼・工業起源元素(Combustion and Industrial Source Elements)。 図2. 富山および横浜におけるSPM-PM2.5およびPM2.5中の重金属の潜在的生態リスクの比較(p < 0.05*)。 図3. 富山および横浜で採取したSPM-PM2.5およびPM2.5中において、相対存在量が1%を超えて優占する細菌属の相対存在量。 図4. 化学成分と微生物とのネットワーク解析。(a)富山SPM-PM2.5,(b)富山PM2.5,(c)横浜SPM-PM2.5,(d)横浜PM2.5。ノード(点)の大きさは,各細菌属または化学成分ノードが持つエッジ(線)の数である次数を示し,エッジの太さはネットワークにおける結合の重みを示す。ノード同士はエッジで結ばれており,各エッジはSpearmanの順位相関係数に基づく有意な相関(r > 0.8, p < 0.05)を表す。 図5. 化学成分と微生物との冗長性解析。(a)富山,(b)横浜。   用語解説 ※1)PM2.5 / SPM-PM2.5 PM2.5は粒径2.5 μm以下の微小粒子で,肺の奥深くまで到達しやすいことから健康影響が懸念されている。SPM-PM2.5は「浮遊粒子状物質(SPM, Suspended Particulate Matter)からPM2.5を差し引いた分画」を指し,粒径2.5〜10 μmの粗大粒子に相当する。   ※2)潜在生態リスク指数(RI) 粒子中に含まれる複数の重金属について,毒性の強さと環境中の背景濃度を考慮して算出される指標。値が大きいほど生態系への潜在的なリスクが高いと判断され,「軽度」「中程度」「深刻」などの区分で評価される。   ※3)モジュラリティ モジュラリティ(modularity)とは,ネットワークがどれだけ明確な複数のモジュール(群)に分かれているかを示す指標で,値が高いほど構造が複雑で集団のまとまりが強いことを意味する。   論文情報 論文名: Suburban-urban differences in coarse and fine atmospheric particulate matter with key chemical compositions influencing bacterial communities in Toyama and Yokohama, Japan   著者: Juan Liu, So Fujiyoshi, Fumito Maruyama, Yukako Tohsato, Shinichi Koyama, Xavier Rodó, Takamune Shimada, Makoto Seki, Akihiro Sakatoku, Shogo Nakamura, Daisuke Tanaka 劉 娟,藤吉 奏,丸山 史人,遠里 由佳子,小山 慎一,Xavier Rodó,嶋田 崇志, 関 誠,酒徳 昭宏,中村 省吾,田中 大祐   掲載誌: Journal of Hazardous Materials   DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2025.140678   報道発表資料(1.47 MB) 掲載雑誌:Journal of Hazardous Materials 研究者ガイドブック(藤吉奏 特任准教授)   【お問い合わせ先】 <研究に関すること> 富山大学学術研究部理学系教授田中 大祐 TEL:076-445-6673 Email:tanakada*sci.u-toyama.ac.jp   <報道に関すること> 国立大学法人富山大学 総務部総務課 広報・基金室 TEL:076-445-6028 Email:kouhou*u-toyama.ac.jp   広島大学 財務・総務室総務・広報部広報グループ TEL:082-424-3749 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp   立命館大学 広報課 TEL:075-813-8300 Email:r-koho*st.ritsumei.ac.jp   (*は半角@に置き換えてください)

    • 医療/ヘルスケア
    2025.11.04
    • 医療/ヘルスケア
    ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に関する意識調査を実施 7割以上が包括同意に慎重

      本研究成果のポイント 回答者の73%が包括同意に慎重 日本人の20代から60代の男女326人を対象にオンライン調査を実施した結果、脳オルガノイド(多能性幹細胞*1を培養して作製される立体的な脳組織)が作成される可能性がある場合、「包括同意」(提供細胞の幅広い研究利用への同意を取る方法)を採用する研究機関に対し、36%(121人)が「提供しない」、37%(116人)が「場合による」と回答。 十分な説明・用途の決定権・研究者の信頼性が重要 「提供しない」「場合による」の選択理由として、回答者の多くが、研究内容や研究目的への説明、研究用途の決定権、研究者や研究機関の信頼性を要求。現状の日本では研究プロジェクト毎に個別に研究内容を説明したうえでの同意取得が推奨される。 適切なサイエンスコミュニケーション*2の重要性を指摘 調査結果から、ヒト脳オルガノイド*3研究に関する平易で明瞭な説明に加え、基礎研究と医療応用との関連を示すサイエンスコミュニケーションが求められることを指摘。     概要 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座の片岡雅知 寄附講座准教授、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附座教授兼務、シンガポール国立大学客員教授)は、東京科学大学工学院の小池真由助教とともに、ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供に対する日本人の意識を調査するため、オンラインでアンケート調査を実施しました。日本人326件の回答のうち、提供細胞を幅広い医学・科学研究に利用することを可能にする包括同意に対して否定的・慎重な態度を示すものが73%を占めることが明らかになりました。 本研究成果は、2025年8月22日に学術誌「Frontiers in Genetics」でオンライン公開されました。   論文情報 題目:Japanese Attitudes Toward Cell Donation in Human Brain Organoid Research: Many Oppose Broad Consent 著者:Masanori Kataoka1, Mayu Koike2, Tsutomu Sawai1,3,4,* 1. 広島大学大学院人間社会科学研究科上廣応用倫理学講座 2. 東京科学大学工学院 3. 広島大学大学院人間社会科学研究科 4. Centre for Biomedical Ethics, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore.*: 責任著者 雑誌:Frontiers in Genetics URL: https://www.frontiersin.org/journals/genetics/articles/10.3389/fgene.2025.1606923 DOI:10.3389/fgene.2025.1606923     背景 ヒトの脳の発生過程の解明や、脳に関連する疾患の解明、創薬・治療法の開発を目的として、 ヒト脳オルガノイド研究が急速に進展しています。ヒト脳オルガノイドとはヒトの多能性幹細胞を培養して作製される3次元的な脳組織であり、その作製のためには細胞の提供が不可欠です。 細胞提供の場面では、日々の研究を円滑に進めるため、多くの研究機関が「包括同意」方式を採用しています。そのため、この方式で得られた細胞が、ヒト脳オルガノイドの作製に用いられる可能性があります。 ヒト脳オルガノイド研究の領域は、ヒト脳オルガノイドを体外で作製するだけにとどまらず、動物への移植、機械への接続など多岐にわたります。こうした研究用途に対して、道徳的な抵抗をおぼえる人々が一定数いることがこれまでの研究から知られており、包括同意に基づいて提供された細胞からヒト脳オルガノイドを作製することは、細胞提供者の道徳感に反してしまう可能性が指摘されてきました。 ヒト脳オルガノイド研究において、細胞提供者の望まないかたちで細胞が利用される可能性があるのであれば、より望ましい細胞提供の手法や同意取得のモデルを確立することが早急に取り組むべき課題です。このような背景から、本研究では日本人を対象とした社会調査を実施し、適切な同意のあり方を検討しました。     —研究成果の内容—   研究手法 2022年12月8日に、日本人を対象に「脳オルガノイドに関する意識調査」というオンライン調査を実施し、20代から60代の男女326人(女性126人・男性200人)から有効回答を得ました。 回答者には、ヒト脳オルガノイド研究の概要を説明した上で、ヒト脳オルガノイドについて事前に知っていたかどうかを尋ねました。 自分の細胞をヒト脳オルガノイド研究に対して提供する意思があるか、また、どのような研究目的であれば提供する意思があるかを尋ねました。 包括同意の概要を説明した上で、提供した細胞がヒト脳オルガノイドの作製に利用される可能性がある場合に、包括同意を採用する研究機関に細胞を提供する意思があるかを尋ねました。加えて、自由記述で回答の理由を記載する機会を設けました。     結果 ・参加者の91%はヒト脳オルガノイドに関する事前知識なし。 ・ヒト脳オルガノイド研究への細胞提供意思を示した参加者は76%。 ・医療応用が目的の場合は60-70%程度の参加者が提供意思を示すのに対し、基礎研究が目的の場合は42%まで低下。 ・包括同意を採用する研究機関への細胞提供意思を示した参加者は52%。 表1:包括同意採用機関に細胞提供の「意思なし」「場合による」を選択した理由(自由記述) 考察 細胞がヒト脳オルガノイド研究に用いられると明確に説明されている場合、多くの参加者が細胞を提供する意思を表明しました。ただし、基礎研究に対しては医療目的の研究よりも提供意思を示した参加者が少ないという傾向が見られました。このようなギャップを埋めるためには、医療応用の基盤として基礎研究が不可欠であることを伝えるサイエンスコミュニケーションが推奨されます。 ヒト脳オルガノイドが作製される可能性を踏まえると、包括同意を採用する研究機関への細胞提供については、「意思なし」・「場合による」と回答した参加者が73%を占めました。このように慎重な態度をとる人が多くいることを踏まえると、包括同意を取得した細胞からヒト脳オルガノイドを作製することが、細胞提供者の意思に反することになってしまう可能性があります。 慎重な態度の理由として、研究内容に関する説明を求める声や、研究目的を限定したいという声が挙げられました。これらを尊重する方法として、プロジェクト毎に研究内容を個別に説明したうえで同意を取得するという方法が推奨されます。 包括同意を維持する場合も、本調査の参加者の間でのヒト脳オルガノイドの認知度が10%程度であったことを踏まえると、ヒト脳オルガノイド研究に関する平易で明瞭な説明や、提供細胞がヒト脳オルガノイド作製に使用される可能性を事前に明示することが推奨されます。     今後の展開 今回の調査には、参加者の偏りや、対象群の設定など、いくつかの限界があります。責任あるヒト脳オルガノイド研究をさらに支援するため、質的な調査も含め、より多様な人々の意見を明らかにする調査が重要になります。 本調査は、研究者・研究機関への不信が細胞提供に対して慎重となる理由の一部であることを示しました。本研究のような社会調査の成果が、研究への理解や信頼の構築を支援するサイエンスコミュニケーション戦略に活用されることが期待されます。 細胞提供は個人の同意に基づいて実施されるため、個人の道徳観を尊重することが非常に重要です。そのため、国や地域、集団の文化や慣行に配慮した同意の仕組みを構築する必要があります。今回のような調査を多様な国・地域・集団で実施し、同意の仕組みに反映していくことが求められます。     謝辞 本調査にご協力いただいた参加者のみなさまに感謝いたします。 また、本研究は以下の支援により実施しました。     本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 基盤研究(B) 「現代社会におけるヒト発生研究の倫理基盤の構築」[24K00039] (代表者:澤井努) 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事 学術変革領域研究(B) 「ヒト培養技術を用いた「個人複製」の倫理学」[24H00813] (代表者:澤井努) 日本医療研究開発機構(AMED) 脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト) 「ヒト脳オルガノイド研究に伴う倫理的・法的・社会的課題に関する研究」[JP23wm0425021/JP24wm0425021] (代表者:澤井努) 日本学術振興会 (JSPS)・文部科学省科学研究費基金若手研究(21K12908) 科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX) [JPMJRS22J4] 公益財団法人上廣倫理財団 [UEHIRO2023-0122].   用語解説 *1:多能性幹細胞 自己増殖能(無限に増殖する能力)と多分化能(体を構成する全ての細胞に分化できる能力)を持つ 細胞。ES細胞(精子と卵子の受精後5〜7 日が経過した胚盤胞から内部細胞塊を取り出して人工 的に作られる)やiPS細胞(皮膚や血液の細胞に複数の遺伝子を導入して人工的に作られる)がある。   *2:ヒト脳オルガノイド ヒトの多能性幹細胞を培養して作製される立体的な脳組織。   *3:「サイエンスコミュニケーション」 科学者や専門家が科学の知識を人々(非専門家)にわかりやすく伝えたり、科学技術をめぐる課題を人々に伝えたりすることで、専門家と非専門家による双方向の対話を生み出す活動のこと。   報道発表資料.pdf(498.51 KB) 掲載雑誌:Frontiers in Genetics 研究者ガイドブック(澤井 努 特定教授)   【お問い合わせ先】 大学院人間社会科学研究科 人間総合科学プログラム 上廣応用倫理学講座 担当:兼内伸之介(特任学術研究員) Tel:082-424-6594FAX:082-424-6990 E-mail:shinnkan@hiroshima-u.ac.jp

    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.11.04
    • 環境エネルギー
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    日本周辺の魚類体重変動の主原因は餌をめぐる競争 ―75%は餌をめぐる競争、50%は環境悪化―

    本研究成果のポイント 日本周辺の魚類16系群の体重減少の75%は餌をめぐる競争が原因と特定された。 魚類の体重変化に対し、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を定量的に評価した。 魚種内および魚種間の競争が明示され、複数魚種管理の科学的知見となることが期待される。   餌をめぐる競争で魚類の体重変化   概要 東京大学大学院農学生命科学研究科の林珍大学院生(研究当時)と同大学大気海洋研究所の伊藤進一教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の冨山毅教授らの共同研究グループは、日本周辺の魚類16系群(注1)の体重変化の原因を調べ、75%の系群の体重変動は餌をめぐる競争が主原因であることを明らかにしました。 本研究では長期の体重変動に状態空間モデル(注2)を応用することで、餌をめぐる競争、環境要因による影響、漁獲圧の影響を初めて定量的に評価しました。先行研究では、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じており、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少に伴い魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因であると推定しましたが、本研究では各要因を定量的に評価した点で新規性があり、この研究成果は今後複数魚種管理(注3)の科学的知見として役立つことが期待されます。   発表内容 これまでに同研究グループは、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じていることを先行研究で示していました(関連情報①)。その中で、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少によって魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因だと推定しましたが、各魚種あるいは系群の体重変化(図1)の原因を特定するには至っていませんでした。この度、本研究チームは、各年に孵化した魚類が、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を受けながら年齢を増すモデルを構築し、状態空間モデルを当てはめることで、実際に起きた体重変動を説明するために必要な要因の特定を行いました(図2)。その結果、餌をめぐる競争は75%の系群で重要であり、ついで環境が50%の系群で作用し、漁獲圧の影響は25%にとどまることが示されました。 図1:各系群の体重変化 元データは水産庁および水産研究・教育機構が公表している資源評価報告書に記載されている年齢別体重(https://abchan.fra.go.jp/hyouka/)。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。 図2:各系群の状態空間モデルの解析結果     左列は最小年齢の解析結果、右列はそれ以降の年齢の解析結果。それぞれの色は体重変動の要因を示し、点線の0の値から離れてかつ高いピークを示すものほど影響が明確であることを示す(灰色:過去の履歴の影響、水色:魚種内及び魚種間競争、赤:漁獲圧、橙:交互作用、緑:環境要因)。Bは種内競争、SumBはマイワシ・マサバ・カタクチイワシからの種間競争、OYは親潮面積、VTDは表層と下層の水温差の影響を示す。Nullはどの影響でも説明できなかったことを示す。右側の%はモデルの説明率を示す。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。     水産庁や水産研究・教育機構などの努力によって長期に蓄積された年齢別体重データを網羅的に調べた研究の成果として、定量的に体重変動の要因が示されました。この結果は、各魚種あるいは系群ごとの管理だけでは加味されない魚種間の餌をめぐる競争の重要性を示すものであり、今後複数魚種管理が必要であることを示しています。本研究は、今後の複数魚種管理の基礎的な知見となることが期待されます。     関連情報 「プレスリリース①日本周辺の魚類の小型化 ―温暖化により顕著になった餌をめぐる競合―」(2024/02/28)     発表者・研究者等情報 東京大学 大気海洋研究所 伊藤進一教授 大学院農学生命科学研究科   林珍博士課程(研究当時) 現:東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)ポストドクトラル研究員   水産研究・教育機構水産資源研究所 藤原邦浩主幹研究員   広島大学 大学院統合生命科学研究科 冨山毅教授     論文情報 雑誌名:Progress in Oceanography 題名:A state-space approach reveals that competition drives variation in fish body weight, with influences from environmental conditions and fishing pressure 著者名:Zhen Lin *, Shin-ichi Ito, Alan Baudron, Christine Stawitz, Takeshi Tomiyama, Kunihiro Fujiwara, Paul D. Spencer, John Morrongiello DOI: 10.1016/j.pocean.2025.103582 URL: https://doi.org/10.1016/j.pocean.2025.103582     注意事項 日本時間11月01日午前02時06分(協定世界時間:10月31日午後5時06分)以前の公表は禁じられています。     研究助成 本研究は、科研費「基盤研究A(課題番号:JP21H04735)」、「学術変革領域B(課題番号:JP22H05030)」、「学術変革領域研究A公募研究(課題番号: JP25H02072)」の支援により実施されました。     用語解説 (注1)系群 資源の変動単位。遺伝的に他の生物集団と区別できる集団、あるいは遺伝的に区別できなくとも、産卵期、産卵場、分布、回遊、成長、成熟、生残など、独自の生物学的特徴を有する場合が多い。本研究で用いた16系群は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マアジ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、マサバ対馬暖流系群、ゴマサバ太平洋系群、ゴマサバ東シナ海系群、ウルメイワシ対馬暖流系群、サワラ瀬戸内海系群、カタクチイワシ太平洋系群、カタクチイワシ対馬暖流系群、マダラ本州太平洋北部系群、ブリ、スケトウダラ太平洋系群、イカナゴ瀬戸内海東部系群、キチジ太平洋北部系群。   (注2)状態空間モデル 状態を表す変数(今回の場合は真の体重)がある要因(今回の場合は餌をめぐる競争を指標する各系群の資源量あるいはマイワシなど大きく変動し他魚種にまで影響する資源量、環境要因としての栄養塩豊富な親潮域の面積あるいは表層と下層の水温差による成層強度、漁獲圧)によって変化し、その変数の観測値(今回の場合は体重の観測値)が誤差を持って観測されると仮定し、各要因の影響を調べるモデル。   (注3)複数魚種管理 単一魚種・系群ではなく、複数の魚種・系群を対象として管理する方法。   報道発表資料_20251101報道解禁.pdf(681.83 KB) 掲載雑誌:Progress in Oceanography 研究者ガイドブック(冨山 毅 教授)   【お問い合わせ先】 東京大学大気海洋研究所 教授伊藤進一(いとうしんいち) Tel:04-7136-6240 E-mail:goito@aori.u-tokyo.ac.jp   広島大学大学院統合生命科学研究科 教授冨山毅(とみやまたけし) Tel:082-424-7941 E-mail:tomiyama@hiroshima-u.ac.jp   東京大学大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター広報戦略室 E-mail:kouhou@aori.u-tokyo.ac.jp   東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)アウトリーチ担当 Tel:022-795-5620 E-mail: aimec-comm@grp.tohoku.ac.jp   広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

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