マグロ刺身の食べごろを散乱光で評価

Evaluating the Optimal Eating Time of Tuna Sashimi Using Scattered Light

研究テーマ

  • マグロ刺身の食べごろを光で判定
  • 歯ごたえの指標となる筋肉分解プロセスを定量化

背景

  • 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の安全検査や冷凍保存時の品質検査の技術確立の必要性が高まっている。
  • 食用魚は、低温下で一定時間寝かせて熟成することでイノシン酸などのうま味成分が増すことが知られ、これらのうま味成分を計測する方法は多々あるが、鮮魚のおいしさはうま味成分のみでは決まらず、歯ごたえなどの食感も重要な要素となる。
  • 魚肉は主に筋肉で構成されており、活け締め後の時間経過に伴う筋肉の分解が食感に大きく関わっているが、これまでの食感評価では、検査器を対象物に物理的に接触させる必要があった。
  • 本研究では、光を照射して筋繊維やコラーゲンのような構造的に偏りのある物質内で特殊な散乱光を発生させ、これを観測することにより、筋肉やコラーゲンの分解プロセスを非接触で直接計測する手法を開発した。

 

研究成果の内容

計測方法

レーザー光照射により物質内で発生する散乱光(光第二高調波=SHG光)を測定する偏向顕微鏡(以前本研究者らが開発)を用いる。
渡邉朋信先生の研究成果記事の写真1
 

キハダマグロの測定

  • 新鮮な冷凍キハダマグロのブロックを、飲食店と同じ手順で解凍後に、4℃条件下に静置(チルド冷蔵)
  • 静置後、0、12、24、48、72時間で、サンプルを採取し、レーザー光を様々な偏向角度(0~180°、10°きざみ)で照射し、散乱光の画像を測定

 

散乱光画像により筋繊維構造が可視化できる

  • 筋繊維構造の時間変化を、散乱光の合成画像(様々な照射光偏向角における信号を足し合わせた画像)で評価する。
  • 解凍後12時間さらには24時間で散乱光の強度は大きく低下し、散乱源となる筋肉の分解が進行している。
  • ただ、24時間後でも筋繊維の特徴である周期構造(サルコメア構造)が残っている。
  • 24時間以降になると、周期構造に裂け目やぼやけが生じ、72時間後には細かい繊維のみとなる。
※時間経過に伴い散乱光強度が低下し画像が暗くなるため、右三つの24時間以降の​図は画像処理して繊維構造を見やすくしている。

 

散乱光強度の偏向角依存性により筋肉かコラーゲンかが判る

  • 散乱光画像を領域分割して、領域毎の散乱光強度を求め、その偏向角依存性をみる。
  • 解凍後0時間では散乱光強度の偏向角依存性は二山形状に、72時間後にはすり鉢状の形になる。
  • 先行研究で、二山形状は筋繊維に関わるたんぱく質ミシオンの特徴、すり鉢形状はコラーゲンの特徴であることが判っている。
  • 図の説明:上の散乱光画像を、縦方向2分割、横方向4分割し、8つの各領域毎に、散乱光強度と入射偏向角度の関係を示す。領域毎に色を変えて下の図にプロットしている。​

     

    散乱光強度と偏向角の関係をパラメータγで定量化

    • 先の二山形状、すり鉢形状のグラフは共通の数式で近似でき、その形をパラメータγの値のみで表現できる。(詳細は省略)
    • 解凍後各経過時間における散乱光強度と偏向角の関係からパラメータγの値を求め、時間毎のγの値の分布図(※)を示している。
    • 解凍後、12時間までにタンパク質の分解が筋肉全体で始まるが、筋肉の構造はそれほど変化しない。
    • 24時間までに、筋繊維の周期構造が急速に分解するが、その後、48時間までいったん安定期に入る。
    • 48時間以降、筋肉分解が再開し、72時間までにはコラーゲン繊維を主とする組織となる。
    ※ 各時間における散乱光画像40~50サンプルを採取し、それぞれを16領域に分割し、各領域におけるγの値を求めた。

     

    「食べごろ」の判定

    従来の食品検査法による鮮度の評価指標K値は、解凍後48時間までに大きく増加、すなはち、生化学的な反応による鮮度低下が進行する一方で、イノシン酸の産出によるうま味が増加する。

    本研究によると、筋繊維の分解は、12時間以降急速に進むが、24時間後では筋繊維の構造はまだ残ったまま48時間まで安定期に入る。72時間経過するとコラーゲン繊維を主とする組織になる。

    「食べごろ」は人により異なるが、

    • プリプリした弾力のある食感が好みの場合は、筋肉構造の変化が少ない12時間までが食べごろ
    • 24時間から48時間までが、柔らかい歯応えとうま味を安定して感じられる食べごろ
    • 48時間以降は、筋肉分解が大幅に進行し、コラーゲン主体の筋張った食感になる

     
    本研究の優位性

    • 鮮魚の食感に関わる筋肉繊維の構造とその変化を非接触で測定可能であり、食感の定量評価が可能となる。
    • 繊維構造の直接計測のため、魚種などによらない汎用的な評価になりうる。
    • 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の品質評価の基盤技術になりうる。

     
    論文

    Optical evaluation of internal meat quality deterioration in a tuna fillet based on second-harmonic generation anisotropy measurement
    Tomonobu M WATANABE, Yasuhiro MAEDA, Go SHIOI, Kaho MIYAZAKI, Hideaki FUJITA
    Journal of Food Engineering
    <DOI> 10.1016/j.jfoodeng.2024.112422

     

    研究者からのメッセージ

    今回開発された手法は、筋肉繊維のみから選択的に発せられるSHG光を指標としているため、適用する魚種を選びません。また、従来の食感に関わる指標とも異なり、微視的な構造変化に基づいて評価でき、新しい鮮魚の評価法となると期待されます。

     

    共同研究チーム

    理化学研究所生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チーム
    チームリーダー 渡邉朋信(広島大学原爆放射線医科学研究所教授)
    技師 前田康大 塩井剛

    広島大学原爆放射線医科学研究所
    助教 藤田英明
    学部生 宮崎夏帆

     

    研究支援

    • 理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究)により、一部、理化学研究所-広島大学共同研究拠点で実施
    • 基盤となったSHG偏光顕微鏡技術は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「オールオプティカルメカノバイオロジーの創出に向けた技術開発と発生生物学への応用(研究代表者:倉永英里奈)」の研究過程において開発
    • 研究者
      渡邉 朋信(WATANABE TOMONOBU)
      広島大学
      原爆放射線医科学研究所
      教授