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研究成果紹介

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    2026.02.05
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    瀬戸内海のイカナゴが突然減った謎に迫る ―環境変動で捕食される危険性が高まったことが原因―

    本研究成果のポイント 瀬戸内海東部におけるイカナゴの漁獲量が2017年に急減した背景には、水温上昇、餌不足、捕食者の増加が重なって作用していたことを明らかにしました。 イカナゴを捕食する可能性のある魚食性の魚類14種は、2016年以降に個体数の多い状態が続いていました。 春から初夏に十分な餌をとれないと夏眠の開始が遅れ、捕食される危険性が高まることが示唆されました。   概要 広島大学大学院統合生命科学研究科の冨山毅教授、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所の米田道夫主任研究員らの研究グループは、瀬戸内海東部において春季の主要な漁獲対象種であるイカナゴの漁獲量が2017年に急減し、その後も低水準が続いている要因を調査しました。その結果、水温の上昇と餌不足といった環境変動が重なったことで、2016年にイカナゴが捕食される危険性が急激に高まり、これが2017年の漁獲量の急減につながった主要因であることを明らかにしました。 本研究成果は、2026年1月2日に学術雑誌Marine Environmental Researchに掲載されました。また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けました。   〈論文発表〉 論文タイトル:Local environmental changes boost predation risk in forage fish: application to the sand lance in the eastern Seto Inland Sea   著者:谷口碧1、米田道夫2、西川哲也3、中村政裕2、森岡泰三2、冨山毅1* 1 広島大学大学院統合生命科学研究科; 2 国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所; 3兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター   *Corresponding author(責任著者) 掲載雑誌:Marine Environmental Research 215: 107827 DOI: 10.1016/j.marenvres.2025.107827   背景 イカナゴはイカナゴ科に属する小型魚で、瀬戸内海の東部、特に大阪府、兵庫県、香川県において重要な水産資源であり、3~4月にかけて漁獲される稚魚は「くぎ煮」の材料として広く親しまれてきました。瀬戸内海東部におけるイカナゴの漁獲量は、減少傾向にありながらも、2016年までは年間1万トン以上を維持してきました。しかし、2017年にイカナゴの漁獲量は前年の約1割まで急激に落ち込み、その後も回復せず、現在まで3千トン未満の低水準が続いています(図1)。これまで、この減少の背景として、「海がきれいになりすぎたこと(栄養塩濃度の低下)により、イカナゴの餌となる動物プランクトンが減少し、その結果、イカナゴの産卵量が低下した可能性」が指摘されてきました。しかし、餌環境の悪化や産卵量の減少は、通常は時間をかけて徐々に進行する現象であるため、イカナゴの漁獲量が2017年に突発的に大きく減少した理由は明確にはなっていませんでした。   研究成果の内容 本研究では、 (1) イカナゴを捕食する魚類の増減に着目した長期データ解析、 (2) 水温上昇と餌不足がイカナゴの行動に及ぼす影響を調べる飼育実験、 を行いました。   (1) イカナゴは冬に生まれ、春~初夏にかけて活発に餌を食べて栄養を蓄えた後、夏に砂に潜って冬まで眠る「夏眠」という習性を持っています。このため、夏眠に入る前までに十分な栄養を蓄えられるかどうかが、生き残りにとって重要です。そこで、1~7月における魚食性魚類14種(サワラ、ブリ、ハモ、スズキ、ヒラメなど)の漁獲情報を解析し、捕食者の分布状況の変化を調べました。その結果、2015年以前と2016年以降で状況は大きく異なり、2016年から捕食者が急激に増加していたことが明らかになりました(図2)。   (2) 餌が十分な条件と餌が不足した条件でそれぞれイカナゴを飼育し、行動の違いを比較しました。その結果、餌が不足したイカナゴでは夏眠の開始が遅れることがわかりました。この影響は、水温の上昇による影響よりも大きく、餌不足の状態では、夏眠までに栄養を蓄えるためにイカナゴは長時間活動し続ける必要があることが示されました。これは、捕食者と遭遇する機会、すなわち「捕食される危険性」が高まることを意味します。 以上から、瀬戸内海東部のイカナゴには、餌不足と水温上昇、さらに捕食者の増加が重なって作用していたことが明らかとなりました。特に、2016年に捕食者が急激に増えたことにより、その年に夏眠に入るイカナゴが大きく減少し、その結果、冬の産卵量が激減したと考えられます。このことが、2017年に稚魚が急激に減少した主な要因として説明されました。   今後の展開 イカナゴの資源量や漁獲量は全国的に減少しています。その要因は海域ごとに異なる可能性もあるため、それぞれに調べる必要があります。これまでの資源変動の研究では、水温や餌環境など、生き物の成長や繁殖に直接関与する要因(ボトムアップ効果)が主に注目されてきました。一方で、本研究では捕食者の増減が資源変動に関与する可能性(トップダウン効果)が示され、このアプローチによる新たな科学的な検証が可能となりました。トップダウン効果は野外で直接検証することが難しいものの、長期的な漁獲データ解析と飼育実験を組み合わせた統合的なアプローチによって、科学的な検証が可能となることを示した点に、本研究の意義があります。今後は、本研究の枠組みを他海域や他の魚種に適用し、急激な環境変化のもとで起こる資源変動の仕組みを解明していくことが重要です。   参考資料 図1 瀬戸内海におけるイカナゴの漁獲量 図2 魚食性魚類の分布密度(赤色が高く、青色が低いことを示す)   【プレスリリース】瀬戸内海のイカナゴが突然減った謎に迫る―環境変動で捕食される危険性が高まったことが原因―.pdf(351.29 KB) 掲載ジャーナル:Marine Environmental Research 研究者ガイドブック(冨山 毅 教授)   <研究に関すること> 広島大学大学院統合生命科学研究科教授冨山毅 Tel:082-424-7941 E-mail:tomiyama@hiroshima-u.ac.jp   国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所主任研究員米田道夫 Tel:0193-63-8121 E-mail:yoneda_michio55@fra.go.jp   <報道に関すること> 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp   国立研究開発法人水産研究・教育機構経営企画部広報課 E-mail:Fra-pr@fra.go.jp

    • 環境エネルギー
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    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2025.11.04
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    日本周辺の魚類体重変動の主原因は餌をめぐる競争 ―75%は餌をめぐる競争、50%は環境悪化―

    本研究成果のポイント 日本周辺の魚類16系群の体重減少の75%は餌をめぐる競争が原因と特定された。 魚類の体重変化に対し、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を定量的に評価した。 魚種内および魚種間の競争が明示され、複数魚種管理の科学的知見となることが期待される。   餌をめぐる競争で魚類の体重変化   概要 東京大学大学院農学生命科学研究科の林珍大学院生(研究当時)と同大学大気海洋研究所の伊藤進一教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の冨山毅教授らの共同研究グループは、日本周辺の魚類16系群(注1)の体重変化の原因を調べ、75%の系群の体重変動は餌をめぐる競争が主原因であることを明らかにしました。 本研究では長期の体重変動に状態空間モデル(注2)を応用することで、餌をめぐる競争、環境要因による影響、漁獲圧の影響を初めて定量的に評価しました。先行研究では、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じており、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少に伴い魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因であると推定しましたが、本研究では各要因を定量的に評価した点で新規性があり、この研究成果は今後複数魚種管理(注3)の科学的知見として役立つことが期待されます。   発表内容 これまでに同研究グループは、2010年代に日本周辺の多くの魚種・系群で共通して体重減少が生じていることを先行研究で示していました(関連情報①)。その中で、地球温暖化に伴う餌料プランクトンの生産減少によって魚種内および魚種間での餌をめぐる競争が激しくなったことが原因だと推定しましたが、各魚種あるいは系群の体重変化(図1)の原因を特定するには至っていませんでした。この度、本研究チームは、各年に孵化した魚類が、餌をめぐる競争、環境要因、漁獲圧の影響を受けながら年齢を増すモデルを構築し、状態空間モデルを当てはめることで、実際に起きた体重変動を説明するために必要な要因の特定を行いました(図2)。その結果、餌をめぐる競争は75%の系群で重要であり、ついで環境が50%の系群で作用し、漁獲圧の影響は25%にとどまることが示されました。 図1:各系群の体重変化 元データは水産庁および水産研究・教育機構が公表している資源評価報告書に記載されている年齢別体重(https://abchan.fra.go.jp/hyouka/)。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。 図2:各系群の状態空間モデルの解析結果     左列は最小年齢の解析結果、右列はそれ以降の年齢の解析結果。それぞれの色は体重変動の要因を示し、点線の0の値から離れてかつ高いピークを示すものほど影響が明確であることを示す(灰色:過去の履歴の影響、水色:魚種内及び魚種間競争、赤:漁獲圧、橙:交互作用、緑:環境要因)。Bは種内競争、SumBはマイワシ・マサバ・カタクチイワシからの種間競争、OYは親潮面積、VTDは表層と下層の水温差の影響を示す。Nullはどの影響でも説明できなかったことを示す。右側の%はモデルの説明率を示す。系群については(注1)参照。Lin et al. (2025)より(CC-BY)。     水産庁や水産研究・教育機構などの努力によって長期に蓄積された年齢別体重データを網羅的に調べた研究の成果として、定量的に体重変動の要因が示されました。この結果は、各魚種あるいは系群ごとの管理だけでは加味されない魚種間の餌をめぐる競争の重要性を示すものであり、今後複数魚種管理が必要であることを示しています。本研究は、今後の複数魚種管理の基礎的な知見となることが期待されます。     関連情報 「プレスリリース①日本周辺の魚類の小型化 ―温暖化により顕著になった餌をめぐる競合―」(2024/02/28)     発表者・研究者等情報 東京大学 大気海洋研究所 伊藤進一教授 大学院農学生命科学研究科   林珍博士課程(研究当時) 現:東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)ポストドクトラル研究員   水産研究・教育機構水産資源研究所 藤原邦浩主幹研究員   広島大学 大学院統合生命科学研究科 冨山毅教授     論文情報 雑誌名:Progress in Oceanography 題名:A state-space approach reveals that competition drives variation in fish body weight, with influences from environmental conditions and fishing pressure 著者名:Zhen Lin *, Shin-ichi Ito, Alan Baudron, Christine Stawitz, Takeshi Tomiyama, Kunihiro Fujiwara, Paul D. Spencer, John Morrongiello DOI: 10.1016/j.pocean.2025.103582 URL: https://doi.org/10.1016/j.pocean.2025.103582     注意事項 日本時間11月01日午前02時06分(協定世界時間:10月31日午後5時06分)以前の公表は禁じられています。     研究助成 本研究は、科研費「基盤研究A(課題番号:JP21H04735)」、「学術変革領域B(課題番号:JP22H05030)」、「学術変革領域研究A公募研究(課題番号: JP25H02072)」の支援により実施されました。     用語解説 (注1)系群 資源の変動単位。遺伝的に他の生物集団と区別できる集団、あるいは遺伝的に区別できなくとも、産卵期、産卵場、分布、回遊、成長、成熟、生残など、独自の生物学的特徴を有する場合が多い。本研究で用いた16系群は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マアジ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、マサバ対馬暖流系群、ゴマサバ太平洋系群、ゴマサバ東シナ海系群、ウルメイワシ対馬暖流系群、サワラ瀬戸内海系群、カタクチイワシ太平洋系群、カタクチイワシ対馬暖流系群、マダラ本州太平洋北部系群、ブリ、スケトウダラ太平洋系群、イカナゴ瀬戸内海東部系群、キチジ太平洋北部系群。   (注2)状態空間モデル 状態を表す変数(今回の場合は真の体重)がある要因(今回の場合は餌をめぐる競争を指標する各系群の資源量あるいはマイワシなど大きく変動し他魚種にまで影響する資源量、環境要因としての栄養塩豊富な親潮域の面積あるいは表層と下層の水温差による成層強度、漁獲圧)によって変化し、その変数の観測値(今回の場合は体重の観測値)が誤差を持って観測されると仮定し、各要因の影響を調べるモデル。   (注3)複数魚種管理 単一魚種・系群ではなく、複数の魚種・系群を対象として管理する方法。   報道発表資料_20251101報道解禁.pdf(681.83 KB) 掲載雑誌:Progress in Oceanography 研究者ガイドブック(冨山 毅 教授)   【お問い合わせ先】 東京大学大気海洋研究所 教授伊藤進一(いとうしんいち) Tel:04-7136-6240 E-mail:goito@aori.u-tokyo.ac.jp   広島大学大学院統合生命科学研究科 教授冨山毅(とみやまたけし) Tel:082-424-7941 E-mail:tomiyama@hiroshima-u.ac.jp   東京大学大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター広報戦略室 E-mail:kouhou@aori.u-tokyo.ac.jp   東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)アウトリーチ担当 Tel:022-795-5620 E-mail: aimec-comm@grp.tohoku.ac.jp   広島大学広報室 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

    • 食料/農林水産業
    • 融合領域
    2025.01.23
    • 食料/農林水産業
    • 融合領域
    マグロ刺身の食べごろを散乱光で評価

    背景 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の安全検査や冷凍保存時の品質検査の技術確立の必要性が高まっている。 食用魚は、低温下で一定時間寝かせて熟成することでイノシン酸などのうま味成分が増すことが知られ、これらのうま味成分を計測する方法は多々あるが、鮮魚のおいしさはうま味成分のみでは決まらず、歯ごたえなどの食感も重要な要素となる。 魚肉は主に筋肉で構成されており、活け締め後の時間経過に伴う筋肉の分解が食感に大きく関わっているが、これまでの食感評価では、検査器を対象物に物理的に接触させる必要があった。 本研究では、光を照射して筋繊維やコラーゲンのような構造的に偏りのある物質内で特殊な散乱光を発生させ、これを観測することにより、筋肉やコラーゲンの分解プロセスを非接触で直接計測する手法を開発した。   研究成果の内容 計測方法 レーザー光照射により物質内で発生する散乱光(光第二高調波=SHG光)を測定する偏向顕微鏡(以前本研究者らが開発)を用いる。   キハダマグロの測定 新鮮な冷凍キハダマグロのブロックを、飲食店と同じ手順で解凍後に、4℃条件下に静置(チルド冷蔵) 静置後、0、12、24、48、72時間で、サンプルを採取し、レーザー光を様々な偏向角度(0~180°、10°きざみ)で照射し、散乱光の画像を測定   散乱光画像により筋繊維構造が可視化できる 筋繊維構造の時間変化を、散乱光の合成画像(様々な照射光偏向角における信号を足し合わせた画像)で評価する。 解凍後12時間さらには24時間で散乱光の強度は大きく低下し、散乱源となる筋肉の分解が進行している。 ただ、24時間後でも筋繊維の特徴である周期構造(サルコメア構造)が残っている。 24時間以降になると、周期構造に裂け目やぼやけが生じ、72時間後には細かい繊維のみとなる。 ※時間経過に伴い散乱光強度が低下し画像が暗くなるため、右三つの24時間以降の​図は画像処理して繊維構造を見やすくしている。   散乱光強度の偏向角依存性により筋肉かコラーゲンかが判る 散乱光画像を領域分割して、領域毎の散乱光強度を求め、その偏向角依存性をみる。 解凍後0時間では散乱光強度の偏向角依存性は二山形状に、72時間後にはすり鉢状の形になる。 先行研究で、二山形状は筋繊維に関わるたんぱく質ミシオンの特徴、すり鉢形状はコラーゲンの特徴であることが判っている。 図の説明:上の散乱光画像を、縦方向2分割、横方向4分割し、8つの各領域毎に、散乱光強度と入射偏向角度の関係を示す。領域毎に色を変えて下の図にプロットしている。​   散乱光強度と偏向角の関係をパラメータγで定量化 先の二山形状、すり鉢形状のグラフは共通の数式で近似でき、その形をパラメータγの値のみで表現できる。(詳細は省略) 解凍後各経過時間における散乱光強度と偏向角の関係からパラメータγの値を求め、時間毎のγの値の分布図(※)を示している。 解凍後、12時間までにタンパク質の分解が筋肉全体で始まるが、筋肉の構造はそれほど変化しない。 24時間までに、筋繊維の周期構造が急速に分解するが、その後、48時間までいったん安定期に入る。 48時間以降、筋肉分解が再開し、72時間までにはコラーゲン繊維を主とする組織となる。 ※ 各時間における散乱光画像40~50サンプルを採取し、それぞれを16領域に分割し、各領域におけるγの値を求めた。   「食べごろ」の判定 従来の食品検査法による鮮度の評価指標K値は、解凍後48時間までに大きく増加、すなはち、生化学的な反応による鮮度低下が進行する一方で、イノシン酸の産出によるうま味が増加する。 本研究によると、筋繊維の分解は、12時間以降急速に進むが、24時間後では筋繊維の構造はまだ残ったまま48時間まで安定期に入る。72時間経過するとコラーゲン繊維を主とする組織になる。 「食べごろ」は人により異なるが、 プリプリした弾力のある食感が好みの場合は、筋肉構造の変化が少ない12時間までが食べごろ 24時間から48時間までが、柔らかい歯応えとうま味を安定して感じられる食べごろ 48時間以降は、筋肉分解が大幅に進行し、コラーゲン主体の筋張った食感になる   本研究の優位性 鮮魚の食感に関わる筋肉繊維の構造とその変化を非接触で測定可能であり、食感の定量評価が可能となる。 繊維構造の直接計測のため、魚種などによらない汎用的な評価になりうる。 世界に広がる寿司や刺身など魚の生食文化の発展に向けて、鮮魚の品質評価の基盤技術になりうる。   論文 Optical evaluation of internal meat quality deterioration in a tuna fillet based on second-harmonic generation anisotropy measurement Tomonobu M WATANABE, Yasuhiro MAEDA, Go SHIOI, Kaho MIYAZAKI, Hideaki FUJITA Journal of Food Engineering <DOI>10.1016/j.jfoodeng.2024.112422   研究者からのメッセージ 今回開発された手法は、筋肉繊維のみから選択的に発せられるSHG光を指標としているため、適用する魚種を選びません。また、従来の食感に関わる指標とも異なり、微視的な構造変化に基づいて評価でき、新しい鮮魚の評価法となると期待されます。   共同研究チーム 理化学研究所生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チーム チームリーダー渡邉朋信(広島大学原爆放射線医科学研究所教授) 技師前田康大塩井剛 広島大学原爆放射線医科学研究所 助教藤田英明 学部生宮崎夏帆   研究支援 理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究)により、一部、理化学研究所-広島大学共同研究拠点で実施 基盤となったSHG偏光顕微鏡技術は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「オールオプティカルメカノバイオロジーの創出に向けた技術開発と発生生物学への応用(研究代表者:倉永英里奈)」の研究過程において開発 研究者 渡邉朋信(WATANABE TOMONOBU) 広島大学 原爆放射線医科学研究所 教授

    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    2022.01.20
    • 食料/農林水産業
    • バイオエコノミー
    難溶性リン可溶化細菌の植物種子・根圏定着能の改良

    研究の背景 肥料の三要素の一つであるリン肥料資源は、全量輸入に依存する戦略資源のため、肥料価格の高騰を招く。 リン肥料は、土壌中でリン酸カルシウムのような難溶性リン等になる。多くの植物はリン酸カルシウムを上手に利用できず、リン利用効率は低くなるため、難溶性リンの利用性を高めることが出来れば、リン減肥栽培やリン肥料資源の節約に繋がる。 リン酸カルシウムを可溶化する難溶性リン可溶化細菌や、病害を防除する拮抗細菌といった植物の生育に有益な細菌「植物生育促進細菌」が有効だが、植物種子・根圏に定着せず、有効に機能しない。(共生関係を築かない。) 細菌が定着しなければ、その効果は発揮されない。 概要 植物生育促進細菌の実用化のため、植物の種子・根圏での細菌の定着能の向上かつ一定の細菌数を維持すべく、細菌の※バイオフィルム形成に着目した。   ※バイオフィルム 細菌が生産・放出する粘性多糖類に細菌自身が取り込まれた膜状構造物。 例)台所のヌメリ、川底の石など   難溶性リン可溶化細菌の遺伝的改良 1.難溶性リン(リン酸カルシウム)可溶化細菌を単離して検定し、リン酸カルシウム可溶化能が高い細菌X株を特定。 2.細菌X株を遺伝的に改良して、バイオフィルム形成能が高くなった細菌株を選抜。 3.選抜された株によるバイオフィルム形成能を評価した結果、MT-5株のバイオフィルム形成量が最も多かった。   バイオフィルム形成能が高くなった改良型細菌株(MT-5)とイネ種子を24時間共培養して、その後激しく洗浄し、付着細菌数の変化を2度に渡り調査した。 その結果、MT-5株ではイネ種子での定着能が向上した。   本研究の優位性 植物生育促進細菌など有効な細菌を、その細菌の植物との共生能に関わらず、様々な植物種に定着させることができるようになり、持続的な生育促進効果が期待できる。 種子コーティング技術との組み合わせにより、さらなる効果アップが期待される。     想定される用途 土壌に蓄積された難溶性リンの可溶化を促進することが期待されるため、減肥栽培に利用。(肥料コスト削減) 低リン土壌における作物栽培。 植物種子・根圏での定着能の改良技術は、他の非共生型の植物生育促進細菌(拮抗細菌、植物ホルモン産生細菌など)にも応用可能。     実用化に向けての課題 難溶性リン可溶化細菌の植物の種子・根圏での定着能の向上については開発済みだが、定着能のさらなる改良は継続して実施する。 どのような植物種や土壌で最も効果的なのか、使用条件の最適化が必要となる。 種子表面に難溶性リン可溶化細菌をコーティングして普及させたいので、最適なコーティング方法の検討をする。     企業への期待 以下の技術を保有あるいは開発・改良を行う企業との共同研究を希望。 優れた種子コーティング技術 減肥に有効な資材の開発 非共生型の植物生育促進細菌(拮抗細菌など)の植物種子・根圏定着能の改良     本技術に関する知的財産権 発明の名称   :新規微生物及びその作成方法 出願番号  :特願2018-505856(特許第6952349号) 出願人:広島大学 発明者:上田晃弘     論文 植物生育促進細菌の実用化に向けた試み 上田晃弘、大戸貴裕、近藤もも、大村尚 土と微生物 73: 5-9. (2019)   Identification of the genes controlling biofilm formation in the plantcommensal Pseudomonas protegens Pf-5 Ueda A, Ogasawara S, Horiuchi K Archives of Microbiology 202: 2453-2459 (2020)     研究者からのメッセージ 持続的な農作物生産には肥料資源をかしこく使う必要があります。 微生物の力を使って、土壌中に蓄積された未利用の肥料資源を有効に活用するための研究を行っています。     研究者 上田晃弘(UEDA AKIHIRO) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授

    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    2022.01.05
    • 食料/農林水産業
    • 自然共生/ネイチャーポジティブ
    環境に優しいうどん粉病の防除薬

    目標・狙い カビ菌により引き起こされるうどん粉病は、ほとんどの植物に発生する可能性があり、予防と対策が必要となる。 従来の化学農薬は農作物の病原菌への防除には有効であるが、環境中での残留性、生態系への影響、農薬耐性等が懸念されている。 そこで、光フェントン反応や光増感反応により、OHラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドなどの活性酸素を発生させ、その高い酸化力を利用して、病害治療や防除に役立てることを目的とする。     概要 過酸化水素水に鉄を添加した光フェントン試薬は、数ppmの低濃度でも太陽光のもとで活性酸素のOHラジカルを持続的に生成する能力があることが解っている。活性酸素の強力な酸化力によりうどん粉病を防除する方法を考案した。 過酸化水素水(H2O2)が一定の濃度以上でOHラジカルが発生するサイクルが生まれる。   OHラジカルの他に、ローズベンガルなどの色素や、カテキンなどのポリフェノールといった光増感剤から、一重項酸素(¹O2)やスーパーオキシド(O2-)などの活性酸素を光化学的に発生可能なことが解っており、これらについても同等の効果が期待され、その利用について同様な検討を行っている。     研究事例 実際にイチゴおよびキュウリうどん粉病を対象に、自然太陽光下での光フェントン試薬の最適な処理条件や、効率的施用法等を見出し、うどん粉病の防除に有効であることを検証した。   イチゴうどん粉病への光フェントン反応の適用 試薬1と2の発病率に関しては統計的に有意な差は認められなかったが、試薬3と対照区との間には有意差が認められたため、OH生成速度が高い試薬では発病率低下が確認された。     きゅうりうどん粉病への光フェントン反応の適用   シュウ酸鉄錯体を用いた試薬(光フェントン試薬MIX3)は薬害がほとんど確認されず、うどん粉病の予防および治癒・抑制効果も高かった。     本研究の優位性 OHラジカル、一重項酸素(¹O2)、スーパーオキシド(O2-)などの活性酸素は病原菌防除に従来の化学農薬並みの効果が期待される。 光フェントン試薬は溶液反応のため植物表面に過酸化水素水や鉄が付着してしまうが、一定濃度以下であれば安全である。 ローズベンガルやカテキンなどの試薬は化学農薬に比べ安価であり、気層中で発生するため、発生した活性酸素のみを直接植物表面に暴露でき、より安全である。 太陽光や微生物により容易に分解されるので環境中での残留性が低く、安全性が高い。     期待される用途 イチゴやキュウリうどん粉病などの植物病害防除。 光フェントン試薬への光照射により発生する活性酸素を用い、空気中の悪臭物質の分解やウイルスなどの殺菌が可能であり、無臭化や滅菌などの空気清浄化技術への応用。 微量のスーパーオキシドは生体のSOD活性を高めるため、スーパーオキシドを付加した酸素ガス吸入装置など医療分野への応用。     企業への期待 農薬の研究開発の技術を持つ、企業との共同研究を希望。 ¹O2 、O2-によるうどん粉病防除技術については試験段階であり、企業との共同研究により実用化が達成可能。 空気清浄化技術を開発中の企業、農業や医療分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。     本技術に関する知的財産権 発明の名称:きゅうりうどん粉病の防除薬及び防除方法 特許番号:特許第5963143号 出願番号:特願2012-245366 出願人:国立大学法人広島大学 発明者:佐久川  弘、ナヒド  ハサン     論文 Protective and curative effects of foliar-spray Fenton solutions against cucumber (Cucumis sativus, L.) powdery mildew. Sakugawa, H., Hasan, N., Oguntimehin, I., Belal, E., J. Environ. Sci. Health, Part A, 47, 1909–1918 (2012)     研究者からのメッセージ OHラジカルがカビに有効なのに対して、一重項酸素はウイルスを撃退するのに有効です。そのため新型コロナウイルスの流行を受けて、広島県内の企業と共同で一重項酸素を発生させる空気清浄機の開発を進めています。将来的には農業用に転用して、活性酸素噴霧器としてウイルス性の病害の防除に利用できると期待しています。   研究者 佐久川弘(SAKUGWAWHIROSHI) 広島大学 大学院統合生命科学研究科 客員教授

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