環境に優しいうどん粉病の防除薬
研究テーマ
- 光フェントン反応により活性酸素を発生させ、活性酸素の強力な酸化力を利用して、環境に優しい方法で植物を殺菌する。
目標・狙い
- カビ菌により引き起こされるうどん粉病は、ほとんどの植物に発生する可能性があり、予防と対策が必要となる。
- 従来の化学農薬は農作物の病原菌への防除には有効であるが、環境中での残留性、生態系への影響、農薬耐性等が懸念されている。
- そこで、光フェントン反応や光増感反応により、OHラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドなどの活性酸素を発生させ、その高い酸化力を利用して、病害治療や防除に役立てることを目的とする。
概要
- 過酸化水素水に鉄を添加した光フェントン試薬は、数ppmの低濃度でも太陽光のもとで活性酸素のOHラジカルを持続的に生成する能力があることが解っている。活性酸素の強力な酸化力によりうどん粉病を防除する方法を考案した。
- 過酸化水素水(H2O2)が一定の濃度以上でOHラジカルが発生するサイクルが生まれる。

- OHラジカルの他に、ローズベンガルなどの色素や、カテキンなどのポリフェノールといった光増感剤から、一重項酸素(¹O2)やスーパーオキシド(O2-)などの活性酸素を光化学的に発生可能なことが解っており、これらについても同等の効果が期待され、その利用について同様な検討を行っている。
研究事例
実際にイチゴおよびキュウリうどん粉病を対象に、自然太陽光下での光フェントン試薬の最適な処理条件や、効率的施用法等を見出し、うどん粉病の防除に有効であることを検証した。
- イチゴうどん粉病への光フェントン反応の適用

試薬1と2の発病率に関しては統計的に有意な差は認められなかったが、試薬3と対照区との間には有意差が認められたため、OH生成速度が高い試薬では発病率低下が確認された。
- きゅうりうどん粉病への光フェントン反応の適用

シュウ酸鉄錯体を用いた試薬(光フェントン試薬MIX3)は薬害がほとんど確認されず、うどん粉病の予防および治癒・抑制効果も高かった。
本研究の優位性
- OHラジカル、一重項酸素(¹O2)、スーパーオキシド(O2-)などの活性酸素は病原菌防除に従来の化学農薬並みの効果が期待される。
- 光フェントン試薬は溶液反応のため植物表面に過酸化水素水や鉄が付着してしまうが、一定濃度以下であれば安全である。
- ローズベンガルやカテキンなどの試薬は化学農薬に比べ安価であり、気層中で発生するため、発生した活性酸素のみを直接植物表面に暴露でき、より安全である。
- 太陽光や微生物により容易に分解されるので環境中での残留性が低く、安全性が高い。

期待される用途
- イチゴやキュウリうどん粉病などの植物病害防除。
- 光フェントン試薬への光照射により発生する活性酸素を用い、空気中の悪臭物質の分解やウイルスなどの殺菌が可能であり、無臭化や滅菌などの空気清浄化技術への応用。
- 微量のスーパーオキシドは生体のSOD活性を高めるため、スーパーオキシドを付加した酸素ガス吸入装置など医療分野への応用。
企業への期待
- 農薬の研究開発の技術を持つ、企業との共同研究を希望。
- ¹O2 、O2-によるうどん粉病防除技術については試験段階であり、企業との共同研究により実用化が達成可能。
- 空気清浄化技術を開発中の企業、農業や医療分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。
本技術に関する知的財産権
発明の名称:きゅうりうどん粉病の防除薬及び防除方法
特許番号:特許第5963143号
出願番号:特願2012-245366
出願人:国立大学法人広島大学
発明者:佐久川 弘、ナヒド ハサン
論文
Protective and curative effects of foliar-spray Fenton solutions against cucumber (Cucumis sativus, L.) powdery mildew. Sakugawa, H., Hasan, N., Oguntimehin, I., Belal, E., J. Environ. Sci. Health, Part A, 47, 1909–1918 (2012)
研究者からのメッセージ
OHラジカルがカビに有効なのに対して、一重項酸素はウイルスを撃退するのに有効です。そのため新型コロナウイルスの流行を受けて、広島県内の企業と共同で一重項酸素を発生させる空気清浄機の開発を進めています。将来的には農業用に転用して、活性酸素噴霧器としてウイルス性の病害の防除に利用できると期待しています。
研究者
佐久川 弘(SAKUGWAW HIROSHI)
広島大学
大学院統合生命科学研究科
客員教授