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シンプル酵素触媒による効率的な有用物質変換

研究テーマ

  • 宿主とする低温菌の代謝系を熱失活させ副産物の生産を阻害
  • 中温菌、植物、動物などの多彩な中温性酵素を利用して高収率で有用物質を生産

研究内容

背景

  • ●従来の微生物細胞による物質生産は、宿主とする微生物を生かしながら行うため、基質・原料が宿主細胞の代謝にも使われ、様々な代謝物質が副産物として生成される。
  • ●原料が副産物の生成にも使用されるため、目的の物質が低収率となる。
  • ●不要な副産物生成抑制のために、細胞代謝を改変して最適化する手法がとられるが、これには多大な時間と手間を要す。

 

 

概要

  • ●10~20℃で生育可能な低温菌を宿主として、中温菌の酵素を発現させ、化学品生成経路を構築する。この細胞を中温(40~50℃)で熱処理し、低温菌の代謝酵素を失活させる。これにより、中温菌由来の酵素のみによる物質生産が可能になる。
  • ●また、熱処理により低温菌細胞が部分的に壊れるため、膜透過性が向上し、原料・基質が細胞内に自由に入ることができ、界面活性剤等の薬品処理が不要になる。

 

本研究の優位性

  • ●既に実用化されているAspergillus属細菌や、大腸菌を用いた微生物変換法に比べて、不要な副産物の生成がなく、収率が高い。
  • ●副産物生成抑制のため、従来必要であった細胞代謝の改変が不要となり、多大な時間と手間を省くことができる。
  • ●基質の膜透過性向上のため、従来必要であった界面活性剤等の薬剤処理が不要となる。
  • ●中温加熱処理のみで高い生産性と収率が得られる「シンプル酵素触媒」であり、有用物質生産のコスト削減が期待される。

 

 

期待される用途

➢応用例1:3-HPA(ヒドロキシプロピオンアルデヒド)の生成

  • ●3-HPAはグリセロールから変換されるアルデヒドであり、アクリル酸の原料として利用される有用化学品である。
  • ●廃グリセロールは有用な資源であるにも関わらず活用されていないため、グリセロールを使用して物質変換の検討を行った。
  • ●細胞を培養・回収・洗浄、熱処理後(45℃・15min)、3-HPAの収率を調査。ほぼ100%の割合で3-HPAに変換できた。

➢応用例2:1,3-PD(プロパンジオール)の生成

  • ●1,3-PDは抗菌性を併せ持つ保湿剤として効果があり、化粧品等に利用されている有用化学品である。
  • ●応用例1の3-HPA生成系後半にDhaTを導入することにより1,3-PDを生成。
  • ●DhaTは還元力を必要とするため、補酵素NADHの添加が必要となるが、FDH(ギ酸デヒドロゲナーゼ)も発現させた細胞を構築することにより、NADH無添加で1,3-PDの生成が可能となり、収率5%で生成した。

 

➢応用例3:アスパラギン酸の生成

  • ●アスパルテームの原料でC4基幹化学品であるアスパラギン酸を、フマル酸から生産した。
  • ●宿主の代謝酵素による競合反応を熱処理で抑制することにより、副産物のリンゴ酸生成が低下し、収率が向上した。

  • ●細胞をアルギン酸ナトリウムで固定化することにより、繰り返し利用が可能になり、95%以上の変換効率を9回維持できた。

 

➢応用例4:イタコン酸の効率的生産

  • ●C5基幹物質のイタコン酸は、コンタクトレンズやニトリル製品などのポリマー素材として有用な化合物である。
  • ●従来のAspergillus terrusによる生成方法は、合成経路が代謝系と競合すること、合成酵素が異なるオルガネラに分かれていることが課題となっていた。
  • ●Shewanella属細菌にアコニターゼ(coli)、cis-アコニット酸脱炭素酵素(Aspergillus terrus)を発現させて培養、回収、洗浄、熱処理後(45℃、15min)、クエン酸を導入、高収率でイタコン酸を生成できた。

  • ●高収率でイタコン酸を生成し(左のグラフ)、(洗浄操作)を与えなければ、触媒を繰り返し利用して、5回の変換が可能(右のグラフ)である。

実用化に向けての課題

  • ●現在、変換酵素を活用した高収率なイタコン酸変換が可能なところまで開発済みである。しかし、触媒の固定化による長期利用は未解決である。
  • ●今後、触媒の安定的利用に関する検討を進めたい。

 

 

企業への期待

  • 酵素機能を最大限発揮可能な本触媒による、物質変換プロセスの実用化を目指す企業との共同研究を希望する。

 

 

本技術に関する知的財産権

発明の名称 :低温菌を用いたイタコン酸の製造方法

出願番号 :特願2018-124796

出願人 :国立大学法人広島大学

発明者 :田島誉久、加藤純一、羅宮臨風

 

 

論文

田島 誉久,緋田 安希子,加藤 純一:低温菌シンプル酵素触媒による効率的な物質変換,Journal of Environmental Biotechnology, 21(1), 9-16, 2021(環境バイオテクノロジー学会誌 21巻1号)doi: 10.50963/jenvbio.21.1_9

 

  1. Mojarrad, T. Tajima, A. Hida, J. Kato: Psychrophile-based simple biocatalysts for effective coproduction of 3-hydroxypropionic acid and 1,3-propanediol, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 85(3), 728-738 (2021) doi: 10.1093/bbb/zbaa081

 

  1. Mojarrad, K. Hirai, K. Fuki, T. Tajima, A. Hida, J. Kato: Efficient production of 1,3-propanediol by psychrophile-based simple biocatalysts in Shewanella livingstonensis Ac10 and Shewanella frigidimarina DSM 12253, Journal of Biotechnology, 323, 293-301 (2020) doi: 10.1016/j.jbiotec.2020.09.007

 

  1. Luo, M. Fujino, S. Nakano, A. Hida, T. Tajima, J. Kato: Accelerating itaconic acid production by increasing membrane permeability of whole-cell biocatalyst based on a psychrophilic bacterium Shewanella livingstonensis Ac10, Journal of Biotechnology, 312, 56-62 (2020) doi:10.1016/j.jbiotec.2020.03.003

 

  1. Tajima, K. Tomita, H. Miyahara, K. Watanabe, T. Aki, Y. Okamura, Y. Matsumura, Y. Nakashimada, J. Kato: Efficient conversion of mannitol derived from brown seaweed to fructose for fermentation with a thraustochytrid, Journal of Bioscience and Bioengineering, 125(2), 180-184 (2018) doi:10.1016/j.jbiosc.2017.09.002

 

  1. Tajima, M. Hamada, Y. Nakashimada, J. Kato: Efficient aspartic acid production by a psychrophile-based simple biocatalyst, Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 42(10) 1319-1324, (2015) doi:10.1007/s10295-015-1669-7

 

  1. Tajima, K. Fuki, N. Kataoka, D. Kudou, Y. Nakashimada, J. Kato: Construction of a simple biocatalyst using psychrophilic bacterial cells and its application for efficient 3-hydroxypropionaldehyde production from glycerol, AMB Express, 3(1), 69 (2013) doi: 10.1186/2191-0855-3-69

 

 

研究者からのメッセージ

本技術は多種多様な酵素の効率的変換を細胞から酵素を抽出せずに容易に実現できるものであり、バイオ変換の生産性向上に有望と考えています。本触媒にご興味がございましたら是非ご連絡ください。

 

 

 

 

 

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田島 誉久

TAKAHISA TAJIMA

広島大学
大学院統合生命科学研究科
准教授

広島大学 博士(工学)で学位取得後、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 研究員、財団法人 地球環境産業技術研究機構 バイオ研究グループ研究員を経て、2009年に広島大学 大学院先端物質科学研究科(現大学院統合生命科学研究科)で 助教、2021年から同研究科 准教授に就任。研究対象は微生物・酵素変換。