日本のB型・C型肝炎の持続感染者(キャリア)数は大幅に減少し、WHO目標をほぼ達成~全国規模の疫学ビッグデータと数理モデルにより、2020年時点の感染状況と2050年までの将来予測を提示~

本研究成果のポイント

  • 日本では、B型肝炎(HBV)・C型肝炎(HCV)の診断率および治療率が国際的にも高水準であり、WHOが掲げる2030年肝炎排除目標(診断率90%、治療率80%)を概ね達成しており、欧米を含む多くの国で達成が道半ばである中、日本は国際的にも先行している国の一つと考えられます。
  • 日本におけるHBV・HCVの持続感染者(キャリア)数は、2000年の300–366万人から、2020年には110–142万人へと大幅に減少していました。
  • 特に、検査未受検(undiagnosed)のキャリアが大きく減少し、医療機関受療済み(患者およびHCVの治癒)が増加しており、検査・受療体制の進展が反映されていると考えられます。
  • 将来予測では、HBV・HCVともに減少傾向が続き、特にHCVは2050年までに2万人以下となる可能性が示されました。

 
概要

  • 広島大学の大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学の秋田智之講師、田中純子理事副学長らの研究グループは、日本におけるB型肝炎(HBV)およびC型肝炎(HCV)の感染者数を全国規模で推定するとともに、2050年までの将来予測を行いました。
  • その結果、日本ではHBV・HCVの診断率および治療率が国際的にも高水準であり、WHOが掲げる肝炎排除目標を概ね達成していることが明らかになりました。
  • 2020年時点の推定では、HBVキャリアは約92–94万人、HCVキャリアは約18–48万人であり、2000年以降大幅に減少していました。特に検査未受検(undiagnosed)のキャリアはHBVで約5万人、HCVで約3万人と推定され、過去の推定と比較して顕著な減少が認められました。
  • 将来予測では、HBV・HCVともに減少が続くと見込まれ、特にHCVでは治療の進展により、2050年までに2万人以下となる可能性が示されました。
  • 本研究では、全国のレセプトデータ(National Database: NDB)や公的統計、疫学データを統合し、状態遷移モデル(Markovモデル)を用いて解析を行いました。

 
発表論文

  • 掲載誌:Hepatology Research (Q1, IF: 3.4)
  • 論文タイトル:
    Updated Burden and Long-Term Projections of Chronic Hepatitis B and C in Japan: A Nationwide Markov Modeling Study
  • 著者名:
    Junko Tanaka 1, Akemi Kurisu 2, Ko Ko 2, Aya Sugiyama 2, Tomoyuki Akita 2*

 
1. Hiroshima University, Japan
2. Department of Epidemiology, Infectious Disease Control and Prevention, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Japan
 
*Corresponding author, DOI: 10.1111/hepr.70174
 
背景

  • B型・C型肝炎は、肝硬変や肝がんの主な原因であり、世界的に重要な公衆衛生課題です。世界保健機関(WHO)は、2030年までにウイルス性肝炎を公衆衛生上の脅威として排除する目標を掲げていますが、多くの国ではその達成は依然として困難とされています。
  • 日本では、B型肝炎母子感染対策、輸血用血液・血液製剤の安全性向上、さらに抗ウイルス治療の進歩により、長年にわたって肝炎対策が推進されてきました。その結果、診断や治療の体制は世界的に見ても高い水準にあります。
  • しかし、これまでの研究では、最新の全国規模データを用いて感染者数の現状と将来予測を統合的に評価したものは限られており、日本が肝炎排除にどの程度近づいているのかを定量的に示した研究は十分ではありませんでした。

 
研究成果の内容

  • 本研究では、HBVあるいはHCVの持続感染者(キャリア)を以下の6つの状態に分類し、包括的に評価しました。
     ▷検査未受検のキャリア(undiagnosed)
     ▷検査受検済だが未受診のキャリア (diagnosed but not linked to care)
     ▷医療機関受診中の患者 (Patients in care)
     ▷新規感染によるキャリア
     ▷治癒 (HCVウイルス学的著効例)
     ▷死亡
  • その結果、日本では診断率(diagnosis rate)はHBVで約95%、HCVで82–93%、治療率(treatment rate)はHBVで83–84%、HCVで78–100%と推定され、WHOが掲げる肝炎排除目標(診断率90%、治療率80%)を概ね達成していると考えられました。
  • また、検査未受検(undiagnosed)のキャリアが大幅に減少していることが明らかとなり、検査体制および医療へのアクセスの改善が示唆されました。
  • 将来予測では、HBV・HCVともに持続感染者数の減少が続くと見込まれ、特にHCVでは治療の進展により大幅な減少が予測されました。

 
今後の展開

  • 日本は肝炎対策において世界的にも先進的な国の一つであり、本研究はその成果を全国規模で定量的に示したものです。
  • 今後は、肝炎排除の達成に向けて、PWID(注射薬物使用者)やMSM(男性間性交渉者)などのハイリスク集団における感染状況の把握と、対策の強化が引き続き重要となります。
  • また、本研究で用いた解析手法は他国にも応用可能であり、国際的な肝炎対策の評価や政策立案への貢献が期待されます。

 

【参考資料】日本におけるHCV・HBVのCascade of care(2020年時点)

用語解説(※1)B型肝炎ウイルス(HBV):
血液や体液を介して感染するウイルスで、主に母子感染や性的接触などにより感染します。慢性化すると肝硬変や肝がんの原因となります。日本では主に母子感染や幼少期の感染による慢性化が多いとされています。
(※2)C型肝炎ウイルス(HCV):
主に血液を介して感染するウイルスで、過去には輸血や医療行為を通じた感染が問題となりました。慢性化すると肝硬変や肝がんに進展することがありますが、現在は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により高い確率で治癒が可能です。
(※3)NDB(National Database):
日本全国の医療機関で保険診療として行われた診療情報(レセプト)や特定健診のデータを集約したデータベースです。国が管理しており、全国規模で医療の実態を把握するための研究などに活用されています。
(※4)Markovモデル(マルコフモデル):
時間の経過とともに人の状態(健康、病気、治療、死亡など)が一定の確率で変化していく様子をシミュレーションする数理モデルです。将来の患者数や病気の進行を予測するために、疫学研究や医療政策の評価で広く用いられています。
 
報道発表資料(780.36 KB)
国際学術誌:Hepatology Research
研究者ガイドブック(秋田 智之 講師)
 
【お問い合わせ先】大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
講師 秋田 智之
Tel:082-257-5162 FAX:082-257-5164
E-mail:epi*hiroshima-u.ac.jp
 
 (*は半角@に置き換えてください)