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貴金属触媒を使用しない常圧のアンモニア合成法を開発

研究テーマ

  • 水素化リチウムを用い、既存の触媒プロセスとは異なる多段階の化学反応で 、アンモニアを合成
  • 常圧の水素、窒素からアンモニアを合成可能
  • 貴金属触媒を利用せず反応を高効率に制御

研究内容

背景

  • ●太陽光や風力等の再生可能エネルギーの変動的かつ偏在的なエネルギーの利用媒体として水素が有効であるが、水素はガス密度が低いため効率的な貯蔵や輸送のためには超高圧縮あるいは極低温による液化が必要となる。
  • ●化成品や肥料の原料として知られるアンモニア(NH3)は、水素原子を多く含み、燃焼してもCO2を排出しないうえに、簡単に液化*するため貯蔵や輸送が容易であり、水素キャリアとして有効である。

(*常温で約8気圧、常圧で約-33℃で液化)

  • ●現在、アンモニア合成には、約 500℃、250 気圧以上の高温高圧プロセスであるハーバー・ボッシュ法が用いられているが、偏在する自然エネルギーの利用を考えた場合、より低温・低圧条件で制御可能な小規模分散型のアンモニア合成技術が求められる。
  • ●このため、遷移元素や希土類元素等の金属触媒を用いた新しいアンモニア合成の研究が進んでいるが、貴金属触媒が必要になる等課題も多い。

研究の詳細:水素化リチウムを用いた新しいアンモニア合成プロセス

水素化リチウム(LiH)を用いたケミカルルーピングによるアンモニア( NH3) 合成プロセスは、①LiH の窒化反応、②NH3 合成及び LiH の再生反応の二段階で構成される。

  • 1.LiHの窒化反応: 4LiH + N2 → 2Li2NH + H2
  • 2.NH3 合成及び LiH の再生反応: 2Li2NH + 4H2 → 2NH3 + 4LiH

このような NH3 合成法は、一般的な触媒プロセス(N2+3H2→2NH3)とは異なる熱力学平衡で NH3 合成を制御できるため、例えば、高温においても高収率な NH3 合成が可能になる。

 

① LiHの窒化反応

(試験その1)

  • ●数mg のLiH の固体サンプルと窒素(N2)ガスを、大気圧下で室温から500℃まで加熱しながら反応させ、サンプルの重量変化から求めた反応率と発生水素のスペクトル強度を測定した。(グラフB)
  • ●加熱開始約80分、400℃から水素の放出を伴いリチウムイミド(Li2NH)を生成している。
  • ●但し、反応率は500 ℃まで加熱した時点で約30%、その後500℃で保持しても約60%程度に留まった。
  • ●反応後の試料の電子顕微鏡写真(緑色)によると、生成物が融解凝集し粗大粒子を形成してように見え、固体のLiH 表面で生成するLi2 NH が凝集し、連続的な反応の進行を妨げていると考えられる。

(試験その2)

  • ●反応過程での生成物の凝集を抑制するため、化学的に安定なLi2OをLiH に混合して反応の安定化を図った。(グラフA)
  • ●LiH+Li2O 混合体は、LiH 単相の場合よりやや早く反応を開始し、反応速度低下なく反応開始後約100 分でほぼ100%の反応率に達した。
  • ●反応後試料の電子顕微鏡写真(赤色)では、生成物の明確な凝集は見られず、期待した反応制御の効果が見える。

 

②NH3 合成及び LiH の再生反応

  • ●①のLiHの窒化反応で得られた生成物を大気圧下の水素(H2)気流中で加熱した。
  • ●LiHのみ(グラフB)及びLiH+Li2O (グラフA)のいずれの生成物からも約260℃からアンモニア(NH3) の生成が観測され、LiH の再生も確認された。
  • ●この反応においても反応①と同様にLi2O混合による効果が見られ、反応率100%までの時間が短くなった。
  • ●以上の結果より、500℃以下の常圧条件下でLiHの窒化、NH3合成/再生反応によるアンモニア合成が可能で、さらに、 安定物質Li2Oの混合により、粒子の凝集による反応への阻害を抑制することが可能であると示された。

 

反応モデル

  • ●LiHのみあるいはLiHに安定化物質Li2Oを混合した場合の、窒化反応後の走査型電子顕微鏡(SEM)画像と反応の推定模式図を下図に示す。
  • ●LiHのみの場合:生成物(Li2NH)が溶けて隣の粒子と繋がり粗大化していることから、模式図の様にLiHとN2の反応はLiHの表面で進行し、生成物のLi2NHが凝集してLiHを覆うことにより反応の進行を阻害していることが推察される。
  • ●LiH+Li2Oの場合:粒子の粗大化がなく、別途行ったEDS元素マッピングによると、Li2NHがLi2Oの周囲に分散して、小さく結晶化しているようにみえる。

 

本研究の優位性

  • ●LiHのみ、あるいはLiHに安定化物質Li2Oを混合した場合の、窒化反応後の走査型電子顕微鏡(SEM)画像と、反応の推定模式図を下図に示す。
  • ●LiHのみの場合:生成物(Li2NH)が溶けて、隣の粒子と繋がり粗大化していることから、模式図の様にLiHとN2の反応は、LiHの表面で進行し、生成物のLi2NHが凝集してLiHを覆うことにより反応の進行を阻害していることが推察される。
  • ●LiH+Li2Oの場合:粒子の粗大化がなく、別途行ったEDS元素マッピングによるとLi2NHがLi2Oの周囲に分散して小さく結晶化しているようにみえる。

 

期待される用途

再生可能エネルギーを貯蔵・輸送するためのアンモニアの合成

 

実用化に向けての課題

  • ●窒化反応及び合成/再生反応のための適正温度を反応熱を用いて自立的に維持し、効率的に反応を持続させるための熱マネージメントを含めた反応制御システムに関する研究に取り組む予定である。
  • ●本研究では、反応制御のための混合物質として酸化リチウム(Li2O)を用いたが、同様な安定物質であればこれに代替可能であるため、実用化に向けて、酸化アルミニウム、酸化シリコン、結晶性グラファイトなど、より安価な物質の利用を検討したい。

 

企業への期待

  • ●実用化に向けた課題解決のための共同研究
  • ●実用化に向けたシステムの概念設計とフィージビリティスタディ

 

本技術に関する知的財産権

  • 発明の名称:アンモニアの合成方法
  • 出願番号:特願2021-137414
  • 公開番号:特開2023-31740
  • 出願人 :国立大学法人広島大学
  • 発明者 :宮岡裕樹、市川貴之、斉間等

 

論文

  • ●論文:Improvement of Kinetics on Ammonia Synthesis under Ambient Pressure by Chemical Looping process of Lithium Hydride
  • ●著者:Kentaro Tagawa, Hiroyuki Gi, Keita Shinzato, Hiroki Miyaoka*, Takayuki Ichikawa
  • ●雑誌:The Journal of Physical Chemistry C, 2022, in press.
  • ※本研究は、科学研究費助成事業基盤研究(B):20H02465 の助成の下,広島大学窒素循環エネルギーキャリア研究拠点における共同研究として実施された。

 

研究者からのメッセージ

  • 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた基盤技術の創出を目指しています。
  • 再生可能エネルギーの有効利用を目的とした,小型分散型,低圧,高効率アンモニア合成技術の確立に挑戦します。

 

 

 

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宮岡 裕樹

HIROKI MIYAOKA

広島大学
自然科学研究支援開発センター
准教授