目標・狙い
- ● これまでの研究から,学習者がわかりやすいと感じる教材デザインと,教える側がわかりやすいと感じる教材デザインは異なることがわかっている。したがって,学習者の学習パフォーマンスを上げるためには,学習者の立場にたった教材のデザインが求められる。
- ● そこで,学習者と専門家が教材を読む際の眼球運動を測定することで,教材をどのようにデザインすれば,適切な読解方略につながるか,教科内容の理解が向上するかを明らかにする。それにより,学習者にとってわかりやすい教材の開発を目指す。
研究概要
- ● 学習者と教師などの専門家を比べると,既有知識だけではなく,「どこに注意を向けやすいか」が違っている。したがって,学習者は授業中などに,教師が想定している見方をしていないと考えられる。より「教えたいことが伝わる」「学習者にとって自然に理解しやすい」教材や指導のためには,このギャップを正確に把握し,埋める必要がある。
- ● 本研究では,学習者と専門家に教材を見てもらい,その際の眼球運動を測定し,注意の向け方を比較している(Figure 1)。学習者は専門家に比べ,自発的に図表に注意を向けることが少なく,注釈を適切に利用しておらず,教材内のパーツを的確に見比べていない。教師にとっては自然な「読み方」「見比べ方」「注意の向け方」が,学習者にとっては想像以上に難しいことがわかる。
想定される市場・製品・産業分野
- ●教材開発を行っている企業(紙媒体・電子媒体問わず)
- ●オンライン学習コンテンツ配信企業
アピールポイント
- ●教材開発において,実証的な研究が行われることは少ない。眼球運動測定による定量的データにもとづき,各教科の教育と学習科学(心理学)の両方の観点をふまえることで,科学的に有効な教材を開発できる。
- ●色彩心理学に関する研究も行っているため,教材に用いる色彩の有効性についても学術的な観点から評価・考察することができる。
論文
- ●森田 愛子 (2012). 読み速度上昇とビジュアル・スパン拡大の関連 基礎心理学研究, 31, 24-34.
- ●福屋 いずみ・森田 愛子 (2014). 非連続型テキストを含む説明文研究の現在 広島大学心理学研究, 14, 83-90.
- ●福屋 いずみ・山根 嵩史・田中 光・吉川 基・森田 愛子 (2016). 状況確認が口頭説明の理解に及ぼす影響 広島大学心理学研究, 15, 203-213.
- ●福屋 いずみ・森田 愛子・草原 和博・渡邉 巧・大坂 遊 (2018). 地理的な見方・考え方を妨げる要因の検討 日本教育工学会論文誌, 42, 65-72.
- ●森田 愛子・髙橋 麻衣子 (2019). 音声化と内声化が文章の理解や眼球運動に及ぼす影響 教育心理学研究, 67, 12-25.
- ●Morita, A., & Kambara, T. (2021). Color bizarreness effects in object memory: Evidence from a recall test and eye-tracking. Color Research and Application.
研究者からのメッセージ
学習の個別最適化,デジタル教材の普及によって,今後は,学習者の視点や見方をふまえた教材づくりや授業設計が進むと期待しています。心理学者として,眼球運動のようなデータに基づいて,科学的に有効な教材開発をしていきたいと思っていますので,教材開発や視線計測にご興味をお持ちいただけましたら,ぜひご連絡ください。