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三原色発光するシリコン量子ドットフィルム

研究テーマ

  • 従来のレアメタルや重金属ではなく、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いた量子ドットで三原色発光を実現

研究内容

量子ドットの特徴

量子ドットとは、大きさが数ナノメートルの発光性の半導体ナノ結晶であり、次のような特徴がある。

  •  1)粒子サイズによりフルカラー発光
  •  2)高効率発光
  •  3)極採色(狭い発光幅で有機ELの3-4倍の色域)
  •  4)溶液プロセスによる低温・大気圧でのデバイス製造

 

背景

  • ● 米国の調査会社(グローバルインフォメーション)によると、量子ドットの市場規模は2026年に86億ドルに到達と試算されている。
  • ● 量子ドットは夢の光材料とよばれ、最近、量子ドットの大画面TVやタブレットが市場に出回り始めているが、現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題がある。
  • ● 本研究グループは、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いた量子ドットの研究を進めており、これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率0.1%と比較すると飛躍的に高い。これまでに、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)なども報告してきた。
  • ● この度、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムの作製、加速劣化試験を行い、更に、発光と劣化の機構を解明した。

 

 

研究の詳細

  • ● 光の三原色で発光するSi量子ドット(SiQD)フィルムを作成し、太陽光照射、熱水への浸漬(80℃、湿度100%)の加速劣化試験で評価した。
  • ● 成果の概要は次の通りである。

 

 

概要1 三原色発光する溶液分散型SiQDを合成

  • – 三原色(赤・青・緑)発光する溶液分散型SiQDを、それぞれ異なる手法で化学合成した。(図1)
  • – それぞれの発光ピークの波長は、赤(660 nm)、緑(530 nm)、青(400 nm)であった。
  • – 発光効率(発光量子収率)は、赤(34%)、緑(20%)、青(12%)であった。
  • – SiQDの表面は異なる官能基で化学修飾され、赤(炭化水素基)、緑(アミノ基)、青(シロキサン基:Si-O-Si結合)である。

 

 

概要2 三原色発光するSiQDフィルムを作成

  • – 得られたSiQD溶液を、それぞれ高分子フィルムに分散し、赤・青・緑発光するSiQDフィルムを得た。
  • – このSiQDフィルムは、フレキシブルで伸縮性を有する。(図2)

 

 

概要3 SiQDフィルムの耐久性評価 【太陽光への暴露試験】

  • – 赤・緑色発光のSiQDフィルムは、太陽光に照射後6hで、発光強度が急減し、安定した発光になった。青色シリコン量子ドットは8日間の太陽光照射に対し、発光強度(発光量子収率)の劣化は少なく、80%の発光強度が保たれた。(図3)
  • – 太陽光照射への耐久性は、量子ドットと高分子フィルム、それぞれの光吸収特性に依存しており、劣化のメカニズムは、化学修飾基の結合切断と考えられる。

 

 

概要4 SiQDフィルムの耐久性評価 【熱水への浸漬試験】

  • – 青色SiQDフィルムを、80℃の熱水に12日間浸漬する加速劣化試験を行った。(図4)
  • – 12日間の発光強度の劣化は15%程度で、驚異的な耐久性を示した。
  • – 青色SiQDの高い耐久性は、表面の強固なシロキサン結合によると考えられる。
  • – 青色SiQDフィルムを80℃の熱水へ浸漬すると、発光量子収率が上昇した。これは、未反応の表面官能基の後続反応によるシロキサン結合の増加によると考えられる。
  • – 熱水耐久性試験において、シリコーンエラストマー系よりフッ素樹脂系ポリマーの母材で、高い耐久性が観測された。

 

 

概要5 発光メカニズム

  • – SiQDの発光と粒子サイズの関係について、本研究の結果と過去の文献データを比較した。(図5)
  • – 図中においてデータは、発光メカニズムの違いにより、上下二つのデータ群に分かれている。
  • – 上部は表面効果(量子ドットの表面に結合した官能基が新しい発光準位を作る)による発光、下部は量子閉じ込め効果(粒子がナノサイズになると同じ物資でも発光色が変わる)による発光である。曲線(赤色)は、量子閉じ込め効果に対応する理論計算(有効質量近似)の結果を示す。
  • – この結果から、本研究で得られた赤色SiQDの発光は量子閉じ込め効果、緑色SiQDと青色SiQDの発光は表面効果によるものと考えられる。

 

 

 

本研究の優位性

  • ●現在の商品または研究で主力の量子ドットは、インジウム系(レアメタル)、カドミウム系、鉛系などの重金属を使用しており、材料入手難や毒性等の課題があるのに対し、本研究では、入手容易で安全な材料であるシリコンを用いている。
  • ●これまでに、発光量子収率が70%超えるSi量子ドット(SiQD)を報告している。この値は、単結晶シリコンの発光量子収率01%と比較すると飛躍的に高い。また、三原色発光するSiQD(2009年)、白色発光するSiQD(2012年)、青色SiQD LED(2015年)、1/380のコストでのSiQDの製造法(2020年)、最大80%を超える発光量子収率を持つ赤色SiQD(2022年1月)、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQD LED(2022年2月)など、一連の研究成果を出している。
  • ●本研究は、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムを実際に作製して、その発光特性を明らかにしたうえで、加速劣化試験を行い、耐久性の評価まで行っている。

 

 

期待される用途

  • ●安全・安心・安価な発光体ならびにフレキシブル発光フィルムとして、マイクロLED、VR、AR、折り曲げディスプレイ、照明、生医学イメージングの他、超高効率太陽電池(量子ドット太陽電池)での利用が期待される。

 

 

実用化に向けての課題

  • ●より広範な波長・色の実現、発光効率の上昇、耐久性の向上
  • ●三原色SiQDのLEDへの搭載

 

 

企業への期待

  • ●実用化に向けた課題解決のための共同研究
  • ●実用化に向けたシステムの概念設計とフィージビリティスタディ

 

 

本技術に関する知的財産権

  • 発明の名称:シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、及びそれらの製造方法
  • 出願番号:特願2020-154517
  • 公開番号:特開2022-048615
  • 出願人 :国立大学法人広島大学
  • 発明者 :齋藤健一

 

 

論文

  • Stability of Silicon Quantum Dots Against Solar Light/Hot Water: RGB Foldable Films and Ligand Engineering
  • Keisuke Fujimoto1, Toma Hayakawa2, Yuping Xu1, Nana Jingu3, and Ken-ichi Saitow*1-4
  • 1.広島大学 大学院理学研究科(化学専攻)
  • 2.広島大学 理学部(化学科)
  • 3.広島大学 大学院先進理工系科学研究科(化学プログラム)
  • 4.広島大学 自然科学研究支援開発センター(研究開発部門 物質科学部)
  • * 責任著者
  • 掲載誌:2022年11月6日発刊のアメリカ化学会のサステナブル化学の学術誌ACS Sustainable Chemistry & Engineering (IF=9.224)で公開。以下は論文のリンク先。
  • (https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.2c03791)

 

 

研究者からのメッセージ

量子ドットは,2023年のノーベル化学賞の受賞テーマです。私のところにも多くのメディアから問い合わせを頂きました。量子ドットの利用は,蛍光体,LEDはもちろんのこと,バイオマーカー,医薬品,太陽電池,光触媒など非常に多岐にわたります。これはノーベル財団の公式プレスリリースでも発表されています。これまでの量子ドットは,レアメタルまた重金属系の量子ドットでしたが,環境問題が益々重要となる現在,また生体適合性の視点からも,シリコン製量子ドットの重要性は大変高くなることでしょう。企業の皆様と共同研究を行い,その成果をもとに実用化へつなげ,世界へ量子ドットとそのデバイスを供給できる日が一日でも早く来ることを,願ってやみません。

 

 

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齋藤 健一

KEN-ICHI SAITOW

広島大学
自然科学研究支援開発センター
教授

総合研究大学院大学で学位取得。 科学技術振興機構さきがけ研究員、日本原子力研究所先端基礎研究センター博士研究員、 大阪大学博士研究員、千葉大学大学院助手、スタンフォード大学客員研究員(文部省在外研究員)を経て、2004年広島大学自然科学研究支援開発センター 助教授ならびに2005年広島大学大学院理学研究科 助教授へ就任。2011年に教授に昇任し、現在、広島大学自然科学研究支援開発センター 教授ならびに広島大学大学院先進理工系科学研究科 教授。物理化学、マテリアルサイエンスの視点より、物質・材料の研究を行っている。