薬物性歯肉増殖症とは? 治療と課題
- ● 薬物性歯肉増殖症は、薬剤投与の副作用で歯肉が腫れる疾患で国内推定患者数は200万人以上といわれている。
- (主な原因薬剤:免疫抑制剤・カルシウム拮抗薬・抗てんかん薬)
- ● 症状は、歯肉の疼痛、肥厚歯肉による口腔衛生不良、虫歯、歯周病の悪化、重症例では歯の移動を伴う。
- ● 明確な発症メカニズムは不明であり、現在の治療法は薬剤の変更や投薬中止あるいは歯肉切除術しかない。症状によっては対応できないケースが多く、また要介護者や急性期、慢性期疾患の患者に対する歯肉切除術は困難である。
これまでの研究
- ● マウスの歯に絹糸結紮して、炎症を惹起したうえで、シクロスポリン(CsA)を4週間投与し、歯肉増殖症を発症するマウスモデルを創出
- ● 歯肉を採取し、mRNA発現を評価することも可能
- ● 絹糸の太さ((7-0)→(5-0))に依存して、炎症性サイトカインの発現が上昇することを確認
- (Okanobu A, Matsuda S. et al., J Immunol Methods. 2017)
- ● 核内受容体NR4A1が、臓器を構成する線維芽細胞の増殖・分化に関わるTGF-bシグナルを、負に制御する。このNR4A1の機能の破綻が、TGF-bシグナルの促進に繋がり、コラーゲン産生等が亢進することを解明
- (Palumbo K et al., Nat Med. 2015)
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- ➡ 薬剤投与が核内受容体NR4A1の発現・機能抑制に関与してしている可能性がある。
研究成果
(1)発症メカニズムの検討
- ①薬物性歯肉増殖マウスモデルの歯肉組織中で、NR4A1が減少していることを確認
- ②NR4A1遺伝子ノックアウトマウスに歯周炎を誘導すると、薬剤の投与なしに歯肉増殖症を発症することを確認
- ③歯肉線維芽細胞において、歯肉増殖症を発症させる薬剤(シクロスポリン、ニフェジピン、フェニトイン)の投与により、
- NR4A1の発現が抑制されることを確認
- ④薬物性歯肉増殖症患者(シクロスポリン、カルシウム拮抗薬、フェニトイン内服)の歯肉を採取、NR4A1の発現の抑制を確認
- (Hatano S., Matsuda S. et al., FASEB J. 2021;35:e21693.)
- ➡ NR4A1を上昇させる事で、薬物性歯肉増殖症を治療可能か。
(2)治療薬の検討
- ① NR4A1発現亢進作用のあるBP(ブチリデンフタリド)の効果を検討
- 歯肉線維芽細胞における、BP投与によるNR4A1発現亢進効果
- 歯肉増殖症発症モデルマウスにBPを投与し、マウス歯肉増殖症の改善を確認した。
- ➡ NR4A1発現亢進を指標とした治療薬探索が有効である。
- ②NR4A1発現亢進作用を有する新規化合物の探索
- 歯肉線維芽細胞のNR4A1の発現亢進を指標として化合物スクリーニングを行い、化合物X及びその類縁体を見出した。
- XによるNR4A1の発現亢進効果を確認した。
- 薬物性歯肉増殖症モデルマウスにおける顕著な治癒効果を確認した。
本技術に関する特許出願
- 発明の名称 : 薬物性歯肉増殖症治療剤
- 出願番号 : 特願2023-077438
- 出願日 : 2023年5月9日
- 出願人 : 広島大学
本研究の優位性
- ● 薬物性歯肉増殖症の動物実験、培養実験のモデルを確立している。
- ● 薬物性歯肉増殖症に関わる核内受容体を特定し、薬物の投与がその発現・機能を抑制することにより、歯肉細胞の増殖が促進されるメカニズムを定量的に解明している。
- ● 解明したメカニズムにもとづき、治療薬の候補となる化合物Xとその類縁体を見出している。
企業に期待する事
- 化合物Xの最適化に向けた共同研究と医薬品としての開発を期待する。
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