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微生物ガス発酵を用いた基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)製造によるカーボンリサイクル

研究テーマ

  • 二酸化炭素、合成ガスを材料に基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を合成する好熱性微生物の開発に成功
  • マテリアルカーボンリサイクルの実用化に期待

研究内容

背景

  • ● 地球環境問題への対応のため、化石燃料に替えてバイオマス資源を利用し、また、発生する二酸化炭素を化学原料や燃料として再利用するカーボンリサイクルの早期実現が、喫緊の課題となっている。
  • ● バイオマス資源から糖質のみを抽出して、発酵法により有用な化学物質を合成する手法はあるが、原料が食料と競合、糖以外の有機物が利用困難、糖化処理の高コストなどの弱点がある。
  • ● バイオマス資源から比較的容易に得られるメタン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素などの合成ガスから、有用な化学物質が合成できれば、カーボンリサイクルの自由度が大幅にアップする。
  • ● ホモ酢酸菌と呼ばれる嫌気性細菌の一群は、合成ガスから酢酸を生成することができる。酢酸以外の有用な化学物質が合成できれば、炭素循環型社会を支える有用技術となる。

 

 

概要

  •  酢酸菌を遺伝子組み換えして基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生産

 

 

  • ● 好熱性ホモ酢酸菌の1種Moorella thermoaceticaの野生株は、糖のみならず、CO2、H2、COを原料・エネルギー源として、酢酸を生成する代謝系を持つ。
  • ● 遺伝子組み換えにより、 thermoaceticaが作る中間体アセチル-CoAを材料として、独自開発の遺伝子組換え技術により耐熱性酵素を導入することで、目的の基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)を生成することに成功した。
  • ● 生産物が低沸点であることを活用し発酵/分離を統合した合成ガス高温発酵プロセスを開発した。

 

 

  •  合成ガスからの基礎化学品(エタノール、アセトン、2-プロパノール)生成
  • ● 作製した菌は合成ガスを基質として、上記基礎化学品を生産する。
  • ● 菌体当たりの生産速度
  •  ・アセトン: 90 mg/g-菌体/時間(CO:H2比 = 1:1)。
  •   すなわち、10g/Lの菌体があれば、約1g/L/hの高速アセトン生産が可能になる。

  •  ・2-プロパノール(アセトン生産経路にアルコール脱水素酵素を追加することで生成):30 mg/g-菌体/時間
  •  ・エタノール(アルコール脱水素酵素およびエネルギー代謝改善酵素を導入することで生成):70mg/g-菌体/時間

 

  • ● 開発した菌は、55℃から65℃で培養可能であり、蒸留発酵により生産物を回収しながら、物質生産を継続でき、分離・精製工程の負荷を低減できる。

 

 

本研究の優位性

  • ● 化石燃料フリー、さらに、他で発生するCO2を利用して、有用化学物質を生産可能
  • ● バイオマス資源から糖化プロセスを経て有用化学物質を生産する発酵プロセスに比較して、原料が食料と競合しない糖に限定されず、有機物なら何でも利用可能である。
  • ● 中温微生物による従来プロセスと比較して、発酵しながら分離(蒸留)するので、分離・精製工程の負荷や排水処理コストを低減可能である。
  • ● バイオマスや廃棄物等から比較的容易に生成可能な合成ガス、火力発電からの二酸化炭素、太陽光や風力発電で生成させた水素等、多様な組み合わせで、フレキシブルに有用化学物質を生産可能である。
  • ● 合成ガスから有用化学物質を生産する既存の化学プロセスと比較して、例えば、メタノール合成プロセスのような高温・高圧の処理やガス組成の厳密な制御を必要としない。

 

 

期待される用途

  • ● 生成物は有機溶媒として使われるほか、日本のプラスチック生産量の約半分を占めるポリエチレン、ポリプロピレン、C2-C4の化学品の合成前駆体として用いられる。
  • ● 本技術を、バイオマスや廃プラ等による安価な合成ガス、火力発電所等からの二酸化炭素、太陽光や風力等からの水素と組み合わせることにより、今後のマテリアルカーボンリサイクルフロー実現のための重要技術となることが期待される。

 

 

実用化に向けての課題

  • ● 菌株育種:合成ガスからの目的産物の生産を確認済みだが、酢酸が副生する点が未解決である。また、CO2/H2を原料とした際に生産性が低下する課題が未解決である。
  • ● プロセス開発:合成ガスおよびCO2/H2を原料とした発酵装置を開発した。しかし、開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとのインターフェース技術は未確立である。
  • ● LCA: 実用化に向けて、高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価も必要となる。

 

 

企業への期待

  • ● 菌株育種:ガス発酵微生物のハイスループット育種技術の共同開発
  • ● プロセス開発:開発アセトン発酵プロセスと、安価な合成ガス原料および製造プロセス、および各種化成品製造プロセスとの親和性検討とインターフェース技術の共同開発、および詳細プロセス設計に関わる共同研究
  • ● LCA: 高精度なプロセス設計に基づく、LCAおよび経済性評価に関わる共同研究

 

 

本技術に関する知的財産権

  • 発明の名称 :アセトンを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたアセトンの製造方法
  •  出願番号 :特願2020- 96417
  •  出願人 :国立大学法人広島大学
  •  発明者 :中島田豊、加藤淳也、加藤節、竹村海正

 

  • 発明の名称 :イソプロパノールを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたイソプロ パノールの製造方法
  •  出願番号 :特願2023-058275
  •  出願人 :国立大学法人広島大学
  •  発明者:中島田 豊, 加藤 淳也, 加藤 節, 竹村 海生, 松尾 赳志

 

  • 発明の名称 :モーレラ属細菌の遺伝子組換え法
  •  特許番号:特許5963538
  •  権利者:国立大学法人広島大学, 国立研究開発法人産業技術総合研究所
  •  発明者:酒井 伸介, 高岡 一栄, 中島田 豊,岩崎 祐樹, 矢野 伸一, 村上 克治, 喜多 晃久

 

 

論文

  • ・ Metabolic engineering of Moorella thermoacetica for thermophilic bioconversion of gaseous substrates to a volatile chemical
  •  国際科学誌「AMB Express」に 2021 年4月 23 日にオンライン掲載

 

  • ・ Isopropanol production via the thermophilic bioconversion of sugars and syngas using metabolically engineered Moorella thermoacetica
  •  国際科学誌「Biotechnology for Biofuels and Bioproducts」に 2024年1月28 日にオンライン掲載

 

 

本研究は以下の研究助成を受けて産業技術総合研究所との共同研究により行われた。

  •     科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業
  •     探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」
  •     領域「「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」
  •  (研究科題名:再生可能エネルギーを活用した有用物質高生産微生物デザイン)

 

 

研究者からのメッセージ

  •  合成ガスや水素など普通の微生物発酵にはなじみのない原料を使う新しい発酵技術です。代謝工学的な微生物育種技術とともに、安全かつ高性能な発酵プロセスの技術開発が必要なチャレンジングな試みです。しかし、本技術が社会実装できれば、微生物発酵は生産物だけではなく菌体そのものもタンパク源となり、物質文明を支える基礎化学品と食糧の併産も可能な夢の技術になりえます。

 

 

 

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中島田 豊

Yutaka Nakashimada

広島大学
大学院先端物質科学研究科
教授

1995年に名古屋大学で学位取得後、広島大学工学部第三類発酵工学科(助手)を経て、2014年から広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授に就任、現在、研究科改組により統合生命科学研究科生物工学プログラム 教授。
研究対象は生物化学工学、発酵工学