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絶対零度近くの温度を効率よく実現する新規磁気冷凍材料

研究テーマ

  • 磁気熱量効果が大きく、高熱伝導かつ安定で実用性が高い
  • 磁気冷凍は量子コンピューターや極微量元素分析等への応用に期待できる

研究内容

磁気冷凍の原理

  • ①磁気冷凍材料に磁場を印加すると、原子の持つ磁石(磁気モーメント)が整列して、材料の温度が Ti  に上昇する。
  • ② 放熱先(Ti より少し低い温度)に放熱する。
  • ③ 磁場を除去(消磁)すると、磁気モーメントの向きがバラバラになり、材料の温度が Tʄ  まで降下する。
  • ④ 冷却対象( Tʄ  より少し高い温度)から吸熱(対象物を冷却)が生じる。

 

磁気冷凍の特長

  • ・ 磁気冷凍材料への磁場のオン/オフだけで冷却が可能なためシステムが簡単であり、原理的に冷却効率が高い。
  • ・ 従来の気体冷凍サイクルでは到達困難な極低温までの冷却が可能となる。
  • ・ オゾン層破壊や温室効果のある冷媒が不要であり、また、極低温域では高価で入手困難なヘリウム同位体などの冷媒が不要となる。

 

期待される用途

  •  ● 絶対零度近傍(~ 0.1K)レベル:量子コンピューター、極微量元素分析、ダークマター検出やX線天文学に有用

 

磁気冷凍材料への要求性能

  •  ● 絶対零度近傍での高い磁気冷凍性能(磁気熱量効果)
  •  ● 外界との吸・放熱を迅速に行うために高い熱伝導性
  •  ● 使用環境における材料の耐久性

 

研究の概要

(1)イッテルビウム系金属間化合物 YbCu4Ni に注目した

  •  イッテルビウム系金属間化合物YbCu4Niの特徴
  •  ・ 化学的に安定であるため、扱いやすい。
  •  ・ 熱伝導率が高いため、効率的に冷却能力を伝達可能である。
  •  ・ 合金中のYb原子の割合が高く、単位体積当たりのエントロピー量が多いため、少量での磁気冷凍が可能である。
  •  ・ エントロピーの温度依存性 S (T ) より、磁場 8 Tで、1.8 Kから0.13 Kまでの冷却が期待できる。

(2)YbCu4Niの冷凍性能の基礎試験

  •  1)目的
  •    磁気冷凍材料YbCu4Niの最低到達温度の検証を目的とする。

 

  •  2)装置構成(図参照)
  •    ・ 試料(e)17gを輻射熱シールド(h)内に断熱保持させる。
  •    ・ 全体を予備冷却用の市販冷凍機に搭載する。(冷凍機には磁場印加用の電磁石と排気装置付)
  •    ・ 試料に温度センサーを接着し、温度を計測する。

  •  3)試験手順
  •    1)試料を市販の冷凍機により1.8Kまで予備冷却する。
  •    2)磁場を印加(10T以下)、1.8 Kを保持する。
  •    3)試料雰囲気を真空排気(10-4 Torr 以下)する。
  •    4)0.6T/minの速度で消磁する。
  •    5)試料の温度変化を計測する。

 

  •  4)試験結果
  •    ● 初期印加磁場5T、8T、10Tの条件で、それぞれ最低到達温度0.22K、0.17K、0.16Kが得られた。
  •    ● エントロピーの温度依存性から予測した最低到達温度0.18K(5T)、0.13K(8T)ともほぼ一致した。

(3)YbCu4Ni の大型合金の作製

  •  1)目的
  •    YbCu4Niの実用化のため、大型試料を作製し、冷却能力を向上させる。

 

  •  2)作成方法および結果
  •    1)高周波加熱炉において、YbとCu4Ni合金を、アルゴンガス雰囲気中で溶解する。
  •    2)700℃で7日間アニール後、水中で急冷する。
  •    3)69gの YbCu4Ni の大型インゴットを得ることができた。

 

(4)YbCu4Niの大型試料を用いた断熱消磁冷却試験

  •  1)装置構成変更の内容(基礎試験装置を一部改造)
  •    ・ 試料の断熱支持部分を、グラファイト棒から熱伝導率の低いストローに変更した。
  •    ・ 試料を17gから53gに大型化した。

 

  •  2)試験手順:初期磁場 8 T、初期温度 1.8 K、消磁速度 0.6 T/minの条件で冷凍実験を行う。
  •    1)磁場8 Tを印加する。
  •    2)試料を市販の冷凍機により、1.8Kまで予備冷却する。
  •    3)試料雰囲気を真空排気する。
  •    4)0.6 T/minの速度で消磁する。
  •    5)試料の温度変化を計測して、基礎試験結果等と比較する。
  •  3)試験結果
  •    ● 大型試料を用いることにより、断熱性を向上させ、0.3 K以下の極低温状態を3時間以上保持できることを実証できた。
  •      A:基礎試験と同じ装置
  •      B:基礎試験装置の断熱支持部分をグラファイト棒からストローに変更した装置
  •      C:ストローおよび大型試料を使用した装置

 

本研究の優位性

以下の特長をもつ新規磁気冷凍材料YbCu4Niを見出し、実際に材料を試作し、磁気冷凍能力を実証した。

  •  ● 絶対零度近傍までの磁気冷凍(断熱消磁冷却)が可能である。
  •  ● 熱伝導率が高く、迅速な吸放熱が可能なため実用性が高い。
  •  ● 化学・物理的に安定である。
  •  ● 磁気冷凍に有効なイッテルビウム原子の割合が高い結晶構造のため、単位体積当たりのエントロピーの総量が大きく、少量でも冷却可能である。
  •  ● 高価あるいは希少な元素を使用していない。

 

 

想定される用途

  •  ● 量子コンピューター
  •  ● 極微量元素分析
  •  ● ダークマター検出およびX線天文学
  •  ● 量子物性物理学

 

 

論文

  •  Journal of Applied Physics, 131 013903 (2022),“Magnetic refrigeration down to 0.2K by heavy fermion metal YbCu4Ni”Yasuyuki Shimura, Kanta Watanabe, Takanori Taniguchi, Kotaro Osato, Rikako Yamamoto, Yuka Kusanose, Kazunori Umeo,  Masaki Fujita, Takahiro Onimaru, Toshiro Takabatake

 

 

研究者からのメッセージ

磁気冷凍材料の組成の調整による性能向上や、新たな磁気冷凍材料の探索および、社会実装を目指した大型化や形状の工夫、冷却システムの開発を、材料製造や冷凍機製作を行う企業と共に共同研究を進めたい。

 

 

 

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志村 恭通

YASUYUKI SHIMURA

広島大学
大学院先進理工系科学研究科
准教授

東京大学で学位を取得。米国国立高磁場研究所ICAM 研究員、 東京大学日本学術振興会特別研究員を経て、2017年より広島大学大学院先端物質科学研究科 助教ならびに2020年広島大学大学院先進理工系科学研究科 助教へ就任。2023年4月より准教授へ昇任した。希土類化合物の結晶育成と極低温物性測定をテーマに研究を行っている。