本研究の優位性
- ● 野良猫の糞尿被害を、忌避剤と公衆トイレを併用して軽減可能であることを立証
- ● 猫の糞尿被害を通して、ヒトと動物の共生についての課題点を顕在化
研究内容
背景
- 猫の糞尿には人獣共通感染症の寄生虫やバクテリア、ウイルスを含んでいる可能性があり、糞尿被害による自治体への苦情は多いが、糞尿汚染に関する研究報告は少ない。環境省は野良猫用トイレの設置を推奨しているが、その効果は検証されていない。そこで、約200頭の野良猫が生息している『猫の街』尾道市において、糞尿被害に悩まされている寺院に開発中の忌避剤*と猫用公衆トイレを設置して、糞を対象に猫用トイレの効果を検証した。
*忌避剤は本研究終了後に一般発売された。
研究の概要
- ● 植物プランターを利用したトイレに雨よけの屋根を付けたものを6台作成して、市販の猫砂を敷き詰め、境内及び墓地の異なる地点に6箇所設置した。同時に、トイレへの排泄を確認するための赤外線センサーカメラを4台、事前調査で判明していた5カ所の排泄地点へ忌避剤を設置した。
- ● 週に一度、カメラのバッテリー及びデータ回収の際にトイレと境内を清掃し、糞を採集して重量を計測した。
- ● 寺院に居ついている17頭の野良猫のうち、個体識別ができた3頭(猫A、B、C)について、トイレ設置前後の糞重量を比較した結果、忌避剤活用によるトイレの設置は、糞の減少に効果的であった。
- ● 野良猫はトイレトレーニングを行っていないが、トイレを設置した週から3頭ともトイレを利用していた。トイレでの排泄回数は14週間で、Aが81.3%、Bが88.6%、Cが100%と頻繁に出没する猫ほど使用頻度が高かった。また、対象区として設定した2つの公園と1つの神社の合計8地点では、糞重量は減少しなかった。
- ● 猫のトイレの利用を増やすためには、生息する頭数+1台のトイレの設置が必要であり、トイレの大きさや清掃頻度、敷材等をさらに検証する余地がある。
- ● 猫用公衆トイレを設置すると野良猫の糞尿被害の減少に効果的だが、設置後も清掃や点検といった人の手が必要となる。猫の行動圏は観光客や地域住民による餌付けに影響を受けるので、給餌だけでなくトイレ管理や糞尿の清掃を行うことで地域トラブルの減少へ繋がる。
期待される効果
- ● 野良猫の糞尿被害発生地域における猫用公衆トイレの設置促進
- ● 猫用公衆トイレ設置による地域トラブルの減少
企業・自治体への期待
- ● 猫用公衆トイレに最適な素材(猫砂・屋根・容器等)の開発に興味のある企業との共同研究
- ● 野良猫に関わる課題解決にむけて調査・検証を行いたい企業または自治体との連携
- ● 地域猫活動の推進や課題解決に取り組んでいる自治体との連携
論文
- ● Seo,A. & Tanida, H.,The effect of communal litter box provision on the defecation behavior of free-roaming cats in old-town Onomichi, Japan,Applied Animal Behaviour Science 224 (2020) 104938.
- ● 妹尾あいら・谷田 創. 酢酸およびイソ吉草酸を含有した高分子吸液体にシトラールを添加したネコ用忌避剤の効果,
- ペストロジー 32(1) (2017) 1-6.
- ● 妹尾あいら・谷田 創. 自由徘徊ネコに対する酢酸およびイソ吉草酸を含有した高分子吸液体の忌避効果の検証,
- ヒトと動物の関係学会誌 44 (2016) 42-48.
研究者からのメッセージ
- 野良猫とヒトの福祉向上と共生社会を目指し、広島県内のさまざまな地域でフィールドワークに取り組んでいます。
- 地域住民の声を直接聞き、自治体等とも協力することで、成果を地域に還元できる研究を行っています。
上記に関心のある方は、「お問い合わせフォーム」よりお問い合わせください。