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亜リン酸を用いる遺伝子組換え体の実用的封じ込め

研究テーマ

  • 天然には存在しない化合物「亜リン酸」がないと生存できなくなる性質を創り出す技術を開発
  • 遺伝子組換え微生物利用の安全性を大きく高め、新たな可能性を切り拓く有用微生物株の実用化に貢献

研究内容

背景

合成生物学において非常に高度な遺伝子組換え微生物の開発は可能だが、カルタヘナ法の規制下、その微生物を使用することは難しい現状。

    •              ● カタルヘナ法:遺伝子組換え生物等により、生物の多様性へ悪影響が及ぶことを防ぐための規制措置。
  • ➢ 第一種使用等:遺伝子組換え生物等の開放的使用。微生物の使用例なし。
  • ➢ 第二種使用等:遺伝子組換え生物等を拡散防止措置がとられた空間で使用。
  •          - 物理学的封じ込め(組換え体を逃がさない)
  •          - 生物学的封じ込め(組換え体が逃げても環境中では生きられなくする)

 

合成生物学の分野が進む現在において、生物学的封じ込めは非常に重要という認識が高まっているが、従来の方法は封じ込め効果が弱く、最新の方法は材料となる合成アミノ酸が高価なうえに、作製が複雑となっている。

 

 

概要

  • ● 亜リン酸を利用できるバクテリアを土壌細菌から発見し、亜リン酸をリン酸に酸化させる亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)
  •   という遺伝子を発見した。

  • ● 生物の必須栄養素であるリンの代謝系を遺伝的に改変し、天然には存在しない化合物「亜リン酸」がないと生存できなくなる
  •      性質を創り出す技術を開発した。
  •   ➢ 亜リン酸を利用した封じ込め株の作製技術
  •      1.亜リン酸利用能力を付与するため、PtxD遺伝子を導入する。
  •      2.リン酸利用能力を喪失させるため、従来の技術でリン酸輸送体遺伝子を破壊する。
  •      3.独自に発見したリン酸を取り込まず亜リン酸だけを取り込む輸送体(HtxBCDE)を発現させる。

 

  • ● 封じ込め株の実証実験
  •    ➢ 封じ込め株は亜リン酸培地以外では増殖しない。

  •    ➢ 封じ込め株は亜リン酸がないと死滅する。

  • ● 二重の効果により、遺伝子組換え微生物利用の安全性を大きく高め、培養プロセスの経済性向上、開放系利用など新たな
  •   可能性を切り拓く有用微生物株の実用化に貢献できる。

 

 

本研究の優位性

  • ● 環境中には有効な濃度で存在しない亜リン酸だけを取り込む輸送体の発見。
  • ● 低コストの亜リン酸でのみ増殖できる封じ込め株の作製に成功。

 

 

期待される用途

  • 1.組換え微生物を用いたバイオプロセス全般。
  • 2.遺伝子組換えによる新たな有用菌株に対して、本手法適用によりGILSP(優良工業製造規範。特殊な培養条件下以外では増殖
  •   が制限されること、病原性がないこと等、最小限の拡散防止措置を執ることにより使用できる遺伝子組換え微生物)の認定
  •   取得。
  • 3.さらに封じ込め効果を高めることで、将来的には第一種使用等(開放系での利用)に展開できる可能性がある。
  •     ➢ 微細藻類のオープンポンド培養
  •     ➢ プロバイオティクス・医療用途
  •     ➢ 生物を用いた土壌や地下水等の汚染の修復等

 

 

実用化に向けての課題

1.株の作製について

  •   ・現在のところ大腸菌とシアノバクテリアで有効性を実証。
  •   ・亜リン酸輸送体の機能的発現が重要。Htx輸送体は、グラム陰性のバクテリア以外では機能しない可能性がある。
  •    多くの生物に適合性を高める必要がある。
  •   ・遺伝子破壊系が確立している必要がある。簡便な作製原理を検討中。

 

2.株の利用について

  •   ・現時点では、二種省令における第二種使用等の拡散防止措置が必要。
  •   ・安全評価試験をクリアし、安全性の高さが認められれば、確認申請や拡散防止措置の緩和などが適用される可能性がある。
  •     ➢ 装置、廃棄プロセスの簡素化が可能になる。
  •   ・人為起源の亜リン酸(農業資材、工業廃棄物)に留意する必要がある。

 

 

企業への期待

  • ● 実用スケールにおける有効性の実証
  • ● 封じ込め株作製の共同試験

 

 

本技術に関する知的財産権

  • 発明の名称:形質転換体の増殖制御方法
  •  日本 特願2020-026368
  •   出願人    :広島大学
  •   発明者    :廣田隆一、黒田章夫

 

  • 発明の名称:形質転換体および当該形質転換体を用いた還元型リン化合物の有無の検出方法
  •  日本 特願2020-503650
  •  米国 US.201916976267.A
  •  欧州 EP.19761315.A
  •   出願人    :広島大学
  •   発明者    :廣田隆一、本村圭、黒田章夫

 

  • 発明の名称:形質転換体、形質転換体の製造方法、および、当該形質転換体を用いた還元型リン化合物の有無の検出方法
  •  日本 特許第6993660号
  •  米国 US.11130981.B2
  •  ドイツ EP.3508575.B1
  •   出願人    :広島大学
  •   発明者    :廣田隆一、黒田章夫

 

  • 発明の名称:亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をマーカーとした微生物の選択的培養方法
  •  日本 特許第6518955号
  •  米国 US.9499822.B2
  •  ドイツ EP. 2860242.B1
  •   出願人    :広島大学
  •   発明者    :黒田章夫、廣田隆一、石田丈典

 

  • 発明の名称:亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の製造方法およびその利用
  •  日本 特許第5892621号
  •   出願人    :広島大学
  •   発明者    :黒田章夫、廣田隆一

 

論文

A Novel Biocontainment Strategy Makes Bacterial Growth and Survival Dependent on Phosphite. Hirota et al., Scientific Reports, 44748, 2017

Synthetic Phosphorus Metabolic Pathway for Biosafety and Contamination Management of Cyanobacterial Cultivation. Motomura et al., ACS Synthetic Biology, 7(9), 2189-2198, 2018

 

 

研究者からのメッセージ

本技術は、カルタヘナ法によって遺伝子組換え微生物の高度利用が制限されている現状に、風穴を開ける技術として期待されています。現在、安全性の実証なども進めておりますのでご興味があればご連絡下さい。

 

 

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廣田 隆一

RYUICHI HIROTA

広島大学
大学院統合生命科学研究科
教授

2002年に広島大学で学位取得後、2007年より広島大学 大学院先端物質科学研究科で助教、米国イリノイ大学 アーバナ・シャンペーン校で客員研究員を経て、2017年から広島大学大学院先端物質科学研究科 准教授に就任。2019年に広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授、2024年に同研究科 教授に就任。研究対象は微生物のリン代謝機構の解明。