研究の背景
現代社会に生きる人類は経済的には豊かになり、多くの「モノ」に囲まれて生活しているものの、かならずしも以前に比べて「幸福感」が増したとはいえません。労働人口世代のうつ病による自殺者・休職者・ひきこもり者の急増は深刻な問題であり、今回のコロナ禍による慢性ストレスは前代未聞の事態で、うつ病の超早期予測・予防法の確立は喫緊の世界的社会課題となっています。
また、産業界でのモノづくりの技術は経済性や効率に軸足を置いて進展してきましたが、現代人が進んで利用するモノ・サービスを開発するためには、それを活用する人の満足感や精神的価値の向上など内面の変化へ着目する必要があります。
研究内容
広島大学では、このような社会課題に対処するために感情の生じる仕組みの科学的解明が必要と考えており、世界でもオンリーワンのネガティブからポジティブまでの感性の脳科学研究拠点として、岡本泰昌教授をセンター長とする「脳・こころ・感性科学研究センター」(以下「BMKセンター」※)を2018年10月に設立しました。(http://bmk.hiroshima-u.ac.jp/)
脳科学を中心に、医学、工学、情報科学、人文社会科学、脳機能計測・制御学など分野融合的な手法で、人間の本質である「脳・こころ・感性」を探究し、感性科学の学問体系を確立するとともに、新たな大学院教育により専門家の育成を行います。
BMKセンターは以下の公的研究費の補助を受けています。
- ・文部科学省・革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)
「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」http://coikansei.hiroshima-u.ac.jp/
- ➣ BMKセンター及び広島大学工学研究科、広島大学教育学研究科、産総研、生理研サテライト拠点、光創起サテライト拠点などで運営している感性COIプロジェクトについて、研究成果である「統合解析パッケージ」について、ツールの一部が先行公開されています。https://kansei-dx.jp/
- ・ 日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム
「うつ病研究拠点」https://www.amed.go.jp/program/list/15/01/002.html
社会実装のイメージ・企業との連携
ネガティブ感性
ネガティブ感性分野では、山脇 成人(広島大学 特任教授 国際アフェクトーム(感情)研究センター長 )を中心にヘルスケア分野での社会実装を目指して研究を行っています。
① うつ予防(ストレス対策)
② いじめ防止・ゲームやギャンブルへの依存症対策
③ 災害時の避難行動対策・心のケア
ポジティブ感性
ポジティブ感性分野では、製品・サービス分野における感性価値の産業応用を目指します。笹岡 貴史(広島大学 BMKセンター准教授 感性COIリサーチリーダー)を中心とした研究者グループが、企業との共同研究により、①新しい製品・サービスの開発や、②生産性の向上、③教育への応用等を推進しており、そのために以下のようなアプリケーション・サービスを開発しています。
社会実装
本研究は、メンタルヘルス、ビジネス・教育等様々な分野に脳科学に基づく客観的評価を導入するもので、生み出される新事業は既成の枠組みを超えたものになる可能性があります。本研究では、実業界で企業経営の実績のある吉田秀俊客員教授(COI プロジェクトリーダー)が企業との一元的な窓口となり、研究成果の事業化/社会実装を推進しており、画期的な製品・サービスを生み出すための体制が整っています。
上述の内容に関心のある方は、以下の窓口にお問い合わせください。
広島県出身。大分医科大学医学部を卒業後、広島大学医学部付属病院、国立呉病院などを経て、2018年より現職。専門は気分障害、脳画像研究、認知行動療法。学外では日本うつ病学会理事、日本生物学的精神医学会理事などを務める。
広島県出身。広島大学医学部を卒業後、広島大学医学部附属病院、厚生技官国立呉病院、米国ワシントン大学医学部精神医学研究室などを経て、1990年より広島大学医学部教授に就任。2012年には広島大学副理事となり、2016年にはウィーン大学医学部教授を併任した。2017年より名誉教授となるとともに、広島大学社会産学連携室特任教授に就任した。2020年より、現職。
専門は精神医学、気分障害、脳科学。
学外では日本脳科学関連学会連合代表、日本神経精神薬理学会理事長、国際神経精神薬理学会 (CINP)理事長、国際老年精神神経薬理学会(ICGP)理事長などを歴任。
愛媛県出身。京都大学大学院情報学研究科で博士号を取得後、金沢工業大学人間情報システム研究所特別研究員、京都大学大学院情報学研究科・助教、広島大学医歯薬保健学研究院・特任助教などを経て、現職。
専門は認知心理学、認知神経科学。
文部科学省/JST事業革新的イノベーション創出(COI)プログラム(拠点名:精神的価値が成長する感性イノベーション拠点)リサーチリーダーを務める。
東京都出身。上智大学を卒業後、日本ビクター株式会社(現、株式会社JVCケンウッド)入社。同社代表取締役社長、オプトレックス株式会社取締役副社長執行役員兼営業本部長、エルナー株式会社 代表取締役社長執行役員、VAIO株式会社 代表取締役および執行役員社長などを経て、2019年から現職。電機業界で海外マーケティングや経営に長く携わる。