広島大学大学院先進理工系科学研究科の吉田拡人教授を中心とした研究チームは、「銅触媒※7を用いた末端アルキンの内部選択的ヒドロホウ素化反応※8」の内部選択性発現の鍵は「ホウ素のルイス酸性抑制」と「配位子の立体的嵩高さ」であることを明らかにしました。これに基づき、「適度にルイス酸性を抑制したホウ素部位」と「立体的に嵩高い配位子を持つ銅触媒」を組み合わせることにより、「ヒドロホウ素化反応の完全な内部選択性」と「温和な条件でのSMC反応」を両立することに成功しました。従来、ホウ素導入反応の一般則である逆マルコフニコフ則※9を覆し選択性を逆転させるためは、強力にルイス酸性を抑制したホウ素部位を用いることが不可欠でした。一方で強力にルイス酸性を抑制したホウ素部位をSMC反応に用いることは困難でした。本反応は、ホウ素のルイス酸性に起因する内部選択性とSMC活性のジレンマを解決する画期的な研究といえます。本研究成果は、今後の新しいホウ素導入反応の指針となることはもちろん、多段階を必要とした種々有用分子合成の短工程化にも貢献することが期待されます。
本研究成果は、米国化学会「ACS Catalysis」オンライン版に11月15日に掲載されました。
図 本研究を用いた分岐型アルケンの短工程全合成
※1.鈴木-宮浦クロスカップリング(SMC)反応: パラジウム触媒存在下「炭素–ホウ素結合」と「炭素–ハロゲン結合」を選択的に反応させ「炭素–炭素結合」を形成する反応。
※2.末端アルキン:有機骨格の末端に三重結合を持つ有機化合物。
※3.ルイス酸性:ルイスによる酸の定義であり、電子対を受け取る性質を指す。
※4.配位子:金属に配位し触媒活性などを制御する化合物。
※5.内部選択性:末端アルキンの内部炭素への反応選択性。
※6.イソコンブレタスタチンA4:微小管重合阻害作用を持つ生物活性分子。
※7.触媒:化学反応において、それ自身は変化しないが、反応速度を変化させる物質。
※8.ヒドロホウ素化反応:多重結合に対して「炭素–ホウ素結合」と「炭素–水素結合」を同時に形成する反応。
※9.逆マルコフニコフ則:多重結合へのホウ素導入反応の一般則であり、置換基の少ない炭素(末端アルキンでは末端炭素)にホウ素が付加する。
報道発表資料
https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/175280/211129_pr02.pdf
広島大学研究者総覧(吉田 拡人 教授)
https://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.781ec21ac5ed985c520e17560c007669.html
論文掲載ページ(ACSCatalysis)