本研究成果のポイント
- ●計算機シミュレーションから、二環性ポリケチド化合物ランカサイジンの6員環ラクトンは抗腫瘍活性に重要でないことが予測されました。
- ●ピロロキノリンキノン要求性酵素Orf23を用いたケモエンザイマティック合成(※1)により、単環性ポリケチド化合物ランカサイクリノンを取得し、本物質が抗腫瘍活性作用を保持していることを明らかにしました。
- ●計算機シミュレーションとケモエンザイマティック合成を融合することで、新たな抗腫瘍活性物質を設計出来る可能性を示しており、究極の抗がん剤創成への発展が期待できます。
概要
広島大学大学院統合生命科学研究科・広島大学健康長寿研究拠点の荒川賢治准教授の研究グループは、エジプト・ヘリオポリス大学のAhmed T. Ayoub博士、カナダ・アルバータ大学のGordon Chan博士、富山大学和漢医薬学総合研究所の森田洋行博士の研究グループとの共同研究により、放線菌が生産する二環性ポリケチド化合物ランカサイジンの抗腫瘍活性作用向上を目指し、計算機シミュレーションに基づいて構造改変を行いました。化学合成と放線菌由来ピロロキノリンキノン要求性酵素Orf23を用いたケモエンザイマティック合成を駆使し、単環性ポリケチド化合物ランカサイクリノンを取得し、HeLa細胞などを用いた抗腫瘍活性試験を行ったところ、単環性化合物でも抗腫瘍活性作用を呈することを見いだしました。抗菌活性については単環性になると完全に失われることから、抗腫瘍活性と抗菌活性の分子様式が異なることも見いだしました。
本研究成果は、12月5日にElsevier社の科学誌「Bioorganic & Medicinal Chemistry」に掲載されました。
図1 ケモエンザイマティック合成による単環性ポリケチド化合物ランカサイクリノンの取得と結合エネルギー・分子動力学計算・抗腫瘍活性の解析
発表内容
【今後の展開】
単環性化合物ランカサイクリノールおよびランカサイクリノンは、母核化合物ランカサイジンと比較すると単純な構造となっており、本化合物をリード化合物とした誘導体合成への可能性を提供でき、さらなる計算機シミュレーションを組み合わせることで「究極の抗がん剤創成」への発展が期待できます。本研究は、日本学術振興会「二国間交流事業・エジプトとの共同研究」による国際共同研究成果となります。
用語解説
(※1)ケモエンザイマティック合成
化学合成と酵素反応を組み合わせた効率的な合成方法
論文情報
- 掲載誌: Bioorganic & Medicinal Chemistry
- 論文タイトル: Chemoenzymatic synthesis, computational investigation, and antitumor activity of monocyclic lankacidin derivatives
- 著者名: Rukman Muslimin1,#, 西浦菜摘1,2,#, 手島愛子1,2, Kiep Minh Do3, 児玉猛3, 森田洋行3, Cody Wayne Lewis4,5, Gordon Chan4,5, Ahmed Taha Ayoub6, 荒川賢治1,2,*
1. 広島大学大学院統合生命科学研究科
2. 広島大学健康長寿研究拠点
3. 富山大学和漢医薬学総合研究所
4. カナダ・アルバータ大学Cross Cancer Institute
5. カナダ・アルバータ大学 北アルバータがん研究所
6.エジプト・ヘリオポリス大学薬学部
# 共同筆頭著者
*Corresponding author(責任著者)
- DOI: https://doi.org/10.1016/j.bmc.2021.116551