広島大学大学院統合生命科学研究科附属臨海実験所の田川訓史所長、有本飛鳥助教、佐々木あかね研究員、沖縄科学技術大学院大学の佐藤矩行教授のグループ、ハワイ大学のトム・ハンフリーズ教授のグループが共同で、半索動物ギボシムシの頭部再生において、脊椎動物哺乳類で発見されたリプログラミング因子 (Oct4, Sox2, Nanog, Klf4) のホモログ(※4)と考えられる因子(Pou3, SoxB1, Msxlx, Klf1/2/4)が、再生芽(※5)を含む細胞分裂が盛んな領域で発現している事を明らかにしました。また、ギボシムシのPou3がマウス内在性のOct4と同等の機能をもつことが、マウス培養細胞株への導入で明らかになりました。
再生能が限定されている脊椎動物の中で、比較的再生能が高いイモリやゼブラフィッシュなどの再生では、リプログラミング因子の発現による万能細胞の生産は行われず、欠損した部位の再構築に複数種類の細胞の協働が必要です。
一方、再生能が極めて高いことで有名なプラナリアなどでは、一生を通して新生細胞と呼ばれる全能性幹細胞(※6)が存在し、この細胞が再生芽を形成し、全ての細胞タイプへ分化することで再生が進みます。
本研究では、ギボシムシが全能性幹細胞を常に維持している可能性は低く、損傷を受けると損傷部位付近の背側表皮に活発に増殖する細胞が現れ、それらの細胞がリプログラミング因子を発現しながら、再生過程が進んでいく様子が明らかになりました。従って、ギボシムシの再生では、再生芽の形成にリプログラミング因子が関与していることが示唆されました。
本研究成果は、グリニッジ標準時間の2月15日午前5時(日本時間令2月15日午後2時)「Frontiers in Ecology and Evolution」オンライン版に掲載されました。
図1.ギボシムシの再生過程を表した図を示します。Aはギボシムシの正常個体。Bは切断直後。Cは切断後1日。傷が閉じ始めます。Dは切断後3日で、傷が閉じ、矢印の所に小さな再生芽が形成されているのが見えます。Eは切断後5日で、再生芽が急速に増殖しています。Fは切断後7日で、再生芽が吻(矢印)と襟(矢尻)部分に形を変えています。Gは切断後11日で、吻や襟が切断前と同等の大きさに再生しているのが分かります。再生された部分は、元の体の色と比べて、色素がうすく透明に見えます。(出典:原著論文の図1より)
(※1)iPS細胞
iPS細胞とは、induced Pluripotent Stem Cellsの略で、山中教授らによって開発された人工性多能性幹細胞のことです。体細胞に数種類の因子を導入し培養することで、さまざまな細胞に分化する能力と無限に増殖できる能力をもつ細胞、人工性多能性幹細胞がつくりだせます。
(※2)ギボシムシ
ギボシムシは、全て海棲で背骨がない動物(無脊椎動物)であり、半索動物門に分類されます。半索動物門は、ヒトなどの脊索動物門やウニなどの棘皮動物門と共に、同じ分類群、新口動物群に分類されますが、ギボシムシはその中でも再生能が非常に高いです。新口動物(後口動物ともいう)とは、左右相称動物のうち、発生において、原口が将来肛門やその周辺になる動物群の総称です。動物門が30数門あるうち、半索動物門、脊索動物門、棘皮動物門の3門のみがこの分類群に含まれます。これと対照に、残りのほとんどの左右相称動物は、原口が将来口またはその周辺になる動物群で、旧口動物(前口動物ともいう)と呼ばれます。
(※3)リプログラミング因子
分化した細胞を、初期の段階、つまり未分化な状態へと導く因子のことです。山中教授らがiPS細胞の開発時に発見したOct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4つの転写因子(山中因子)が有名です。我々は、リプログラミングの開始に重要なOct4に重点をおいて研究を行いました。
(※4)ホモログ
共通祖先に由来する類似性の高い塩基配列のことです。
(※5)再生芽
動物の再生において、初期段階で見られる未分化な細胞の集合体で多分化能をもち、膨らみや突起として観察されます。
(※6)全能性幹細胞
全ての細胞タイプに分化可能な幹細胞のことです。