Twitter
Twitter

最新研究結果

【研究成果】夫婦の絆はどれだけ強い?フクラガエル糊の謎を解く

今回の研究では、フクラガエルが繁殖行動の際に用いる「糊」の特徴を明らかにし、フクラガエル糊の長年の謎について、その一端を解明しました。
アフリカの乾燥地域に分布するフクラガエル類は、体が風船のように丸くとても可愛らしいので、日本でもペットとして大変人気があります(図1)。また、一般には知られていませんが、フクラガエルはメスが大きくオスは小さく腕も短いため、普通のカエルのように、繁殖行動の際にオスがメスを抱きかかえることができません。代わりにフクラガエルたちは、糊状の粘液を出し、雌雄が接着することでつがいを作る(正確には“抱接”といいます)という奇妙な特徴を持っています(図1)。
このフクラガエルの奇妙な繁殖生態は60年以上前から知られていましたが、糊を人工的に分泌させることができなかったため、フクラガエルの糊の研究は進んでいませんでした。しかし、長浜バイオ大学の倉林 敦 准教授(バイオサイエンス学部)が、皮膚に電気刺激を与えることで、糊粘液を採取することに成功しました(図2)。
今回この技術を用い、長浜バイオ大学(倉林と掛橋竜祐 特任助教)と広島大学・両生類研究センター(古野伸明 准教授・逸見敬太郎 研究員)が、南アフリカのノースウェスト大学と共同して現地調査を行い、長きに渡り謎のままだったフクラガエル糊について、その接着力の強さと、雌雄どちらが糊を出すのかを明らかにしました。なお今回は、アメフクラガエルという種類を研究対象にしています。
まず、引っ張り試験機を使って、アメフクラガエルの糊粘液の接着力(剥離強度)を測定しました。その結果、接着後、時間経過とともに糊の接着力は強まり、およそ1時間から3時間置いた時に最も強くなり、1時間で1cm2あたり約0.8kg重、3時間では約0.7kg重の接着力を発揮しました。これは、洋服などについている面ファスナー(ベルクロ)の接着力と同じぐらいの強さです。その後、接着力は徐々に弱くなり、3日後には接着力がなくなることがわかりました。また、この接着力の変化は、粘液中の水分量に関係しており、自然乾燥で水分が失われると接着力が無くなることも示唆されました。
抱接の際に、フクラガエルのオス・メスどちらが糊を出すのかという点は、40年ほど前から議論が続いていた謎でした。なかでも、オスとメスが違う種類の糊を出し、その両者が混ぜ合わさることでより強い接着力が生じるという仮説が特に有名でした(エポキシ仮説)。今回の研究では、糊の接着力や接着持続時間がオスとメスの間でほとんど違わないことが明らかになりました。さらにオスとメスの糊を混ぜて接着を行った場合でも、その接着力はオス・メスそれぞれの糊と変わらなかったことから、エポキシ仮説は否定されました。さらに現地調査の過程で、フクラガエルのオスが(浮気して)糊を出さない別種のカエルに接着していることを発見し(図3)、オスの糊分泌物だけで抱接が行えることを明らかにしました。
本研究成果は、国際科学雑誌「SALAMANDRA」58巻1号43-51ページ(2月15日)において公開され(Better than mere attraction – adhesive properties of skin secretion in the Common Rain Frog, Breviceps adspersus)、同雑誌の表紙も飾っています。

 

倉林 敦 准教授のコメント

フクラガエルはその愛らしさから、日本のみならず世界的にファンが多いカエルです。多くの人は、この丸々とした癒し系の容姿に注目しますが、私は「糊を出し接着することで抱接する」という、その奇妙な生態に心惹かれて研究を始めました。幸い、南アフリカ・ノースウェスト大学の客員教員に採用いただき、現地の先生方の協力のもと現地調査を行えることになり、これが今回の発見につながりました。なお、今回の論文ではアメフクラガエルだけを対象としていますが、調査の過程で瞬間接着剤顔負けの超強力な糊を出すフクラガエルも発見しています。さらに、フクラガエル糊にはいくつかの用途が考えられますが、まだその接着の分子メカニズムや、糊の化学物質の正体は明らかになっていません。現在、糊物質の正体や、糊に関わる遺伝子についての研究を進めています。