SAPPHIRES国際共同実験※1(本論文では、広島大学大学院先進理工系科学研究科の本間謙輔准教授と桐田勇利大学院生が共同筆頭著者)は、現代宇宙物理学における最大級の謎である暗黒物質の源となり得るアクシオン※2等の未知素粒子を、2波長の光波から成る強力なレーザーを真空中で混ぜ合わせ、未知素粒子を介した散乱を誘導することにより、直接的にそれらを生成・崩壊させる探索実験を始動し、その探索結果を公表しました。今回の探索では、未知粒子の介在は確認されませんでした。この結果に基づき、未知粒子の質量と結合に対して棄却領域を求めました。本探索は潜在的な背景事象を理解、定量化するための予備的探索に相当し、今後のレーザーパルスの高強度化により感度が飛躍的に向上することが期待されます。
本研究の成果は、欧州の科学雑誌「Journal of High Energy Physics」に12月16日に掲載されました。
※1 Search for Axion-like Particles via optical Parametric effects with High-Intensity laseRs in Empty Spaceの略称。チタン-サファイア結晶は、広く高強度レーザーの増幅媒体であるため実験の心臓部となります。本実験は、複数の高強度レーザー施設を渡り歩く国際共同探索であるが故に、SAPPHIRESの名を冠しています。
※2 南部・ゴールドストーンらは自発的対称性の破れに伴う零質量のボゾン(NGB)の存在を予見しました。NGBは様々な要因により、実世界では厳密に零質量とはならず有限質量の擬NGBになります。強い相互作用(QCD)の荷電共役・パリティー(CP)変換の保存性を満たすために要請されるアクシオン粒子は、Peccei-Quinn(PQ)対称性の自発的破れに伴う擬NGBです。アクシオンは、QCD特有の真空相転移における擬NGB化に伴い実質量を得ます。しかし、その質量が実際どこに来るのかは、実測するまでは分かりません。アクシオンは、上記、素粒子標準模型内のQCDの根本性質を説明する上で、素粒子論的に強く望まれる粒子ですが、結果的に、暗黒物質をも自然に説明できる強固な理論的背景をもつ未発見粒子です。