セルロースは植物や樹木を構成する高分子で、食物繊維としても有名です。このセルロースは、靴底、タイヤ、車体等に用いる複合材料としての実用化も始まっています。その特長は、1)軽さと強さを兼ね備え、2)天然素材で廃棄の心配が少ない、3)安価で入手しやすい、です。これらの特色は、SDGs17の目標にも多く適合しています。
理学研究科の大学院生 高松昌一氏(博士課程前期修了)、自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授らの研究グループは、セルロースの水溶液を用いた配向膜作製法を開発しました。具体的には、1)セルロース水溶液を一方向に一度塗る、2)その上に導電性高分子の溶液を滴下し加熱乾燥する、これだけで高度に導電性高分子が並ぶ配向膜(配向度は最大90%)が得られます。メカニズムはセルロースのテンプレート効果(下地となるメチルセルロースの構造に沿って、導電性高分子が配向)です。
このテンプレート効果を有機EL高分子に適用し、三原色発光(赤青緑)する配向膜を作製しました。三原色の配向膜は高い耐久性を示し、折り曲げ半径3mm弱で500回曲げても、配向度と発光(偏光)は、ほぼ変化しませんでした。別の化学構造を持つセルロースでのテンプレート効果の検証、セルロース溶液の塗布時の圧力・速度・濃度の実験より、配向メカニズムの解明と最適な配向条件を決定しました。また、これまでにない配向膜製造法のため、SOFT法(Simple way of Orienting Films prepared by Templating cellulose)と、命名されました。
SOFT法は、高い再現性(96%)、高い平面性(50nm)、自立膜として使用可、真空フリーな溶液プロセス(※1)など、多くの特色があります。軽い・薄い・強い、そして環境低負荷な、折り曲げ型のスマートデバイス、デジタルヘルスケア機器(皮膚や服に装着する健康管理機器)の開発につながる、重要技術、重要材料としての展開が期待されます。
本研究成果は、2月8日発刊のアメリカ化学会の物質・材料科学の学術誌であるChemistry of Materials (IF=9.811)のオンライン版に掲載されました。
表紙に掲載
(※1)溶液プロセス:LEDや太陽電池の製造には、一般的にクリーンルーム、真空、1000度以上の高温が必要とされる。溶液プロセスは大気圧下での溶液の塗布、低温(常温~200℃程)で行える手法である。安価なデバイス製造法として期待されている。