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最新研究結果

【研究成果】植物由来乳酸菌IJH-SONE68株の分泌する細胞外多糖体が自己免疫疾患を予防改善することを動物実験で発見

本研究成果のポイント

「潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis、UC)」は、原因不明の自己免疫疾患の一種であり、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じます。炎症は直腸から広がり、大腸全体に及ぶこともあります。おもな症状は下痢、血便、腹痛などです。治療薬としては、症状の程度に応じて、5-アミノサリチル酸製剤、免疫抑制剤、抗体医薬が処方されます。
このような「炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease、IBD)」には「クローン病」も知られています。おもに若年層に発生する原因不明の腸疾患で、小腸や大腸の粘膜に潰瘍を生ずるのが特徴です。1932年に最初に報告した医師バーリル・B・クローン博士にちなんで名づけられたクローン病は下痢や腹痛が主な症状で、体重の減少と肛門病変を伴うことも多い疾患です。
両疾患はヒトの免疫システムが異常をきたす結果、 自己の免疫細胞が腸の細胞を攻撃することで腸に炎症を引き起こす難治性の病気で、 厚生労働省が難病に指定しており、実際に、完治させる治療法も未だ確立されていません。
広島大学未病予防医学共同研究講座では、IBDの治療薬の開発を目指して、広島大学病院総合内科・総合診療科医師であり、臨床創薬学共同研究講座の責任者である菅野啓司准教授と共同研究を進めています。
具体的には、「潰瘍性大腸炎」を誘発させたモデルマウスに対して、イチジクの葉から取得した植物由来乳酸菌(植物乳酸菌)の一種「Lactobacillus(Lb.)paracasei IJH-SONE68」がつくる細胞外多糖体(exopolysaccharide、EPS)を摂取させることで、モデルマウスの病態と炎症症状を明らかに改善することを発見しました。さらに、予防効果もありました。
また、 EPSの摂取により、炎症症状の改善とともに、炎症性サイトカインMIP-2の発現が有意に抑制され、かつ、IL-10(抗炎症性物質として機能する)サイトカインの発現が有意に上昇しました。ちなみに、IL-10は炎症・自己免疫応答を抑制する作用があることから、上記植物乳酸菌株の分泌するEPSは潰瘍性大腸炎治療への応用だけでなく、他の炎症性疾患の治療薬となる可能性も期待されます。

 

概要

腸粘膜上皮障害を伴う潰瘍性大腸炎のモデルマウスに、IJH-SONE68株由来EPSの水溶液を経口投与し、下痢や血便などの病態を観察するとともに、炎症に関与する各種サイトカイン遺伝子の発現量を調べました。本研究成果として、本EPSが炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease、IBDの病状を改善させるとともに、炎症性サイトカインの発現抑制ならびに抗炎症性サイトカインの発現を上昇させる作用をもつことを見出しました。

本研究成果は10月26日にオンラインジャーナル「Microorganisms:Impact factor = 4.13」に掲載されました。

潰瘍性大腸炎モデルマウスの大腸組織切片写真
A:潰瘍性大腸炎を発症していないマウス、B:潰瘍性大腸炎を発症したマウス(EPS摂取なし)、C:潰瘍性大腸炎を発症したマウス(酸性EPS摂取)
潰瘍性大腸炎の発症により、腸管上皮組織の破壊が観察されますが、EPSの摂取によってそれが改善されている様子が認められます。

 

論文情報

  • ●掲載誌: Microorganisms
  • ●論文タイトル: The exopolysaccharide produced by Lactobacillus paracasei IJH-SONE68 prevents and ameliorates inflammatory responses in DSS–induced ulcerative colitis
  • ●著者名: Masafumi Noda1、Narandalai Danshiitsoodol1、Keishi Kanno2、3、Tomoyuki Uchida3、4 and Masanori Sugiyama1、*
    1 Department of Probiotic Science for Preventive Medicine、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University
    2 Department of General Internal Medicine、 Hiroshima University Hospital
    3 Department of Clinical Pharmaceutical and Therapeutics、 Hiroshima University
    4 Sone Farm Co.、Ltd.
  • ●DOI: https://doi.org/10.3390/microorganisms911224

 

報道発表書類

https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/174635/211119_pr01.pdf

 

論文掲載ページ

https://www.mdpi.com/2076-2607/9/11/2243

 

広島大学研究者総覧(杉山 正則 教授)

https://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.3dfd6343babb8d38520e17560c007669.html